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Hotel Lux

Indie Rock

Hotel Lux

Hands Across the Creek

The state51 Conspiracy

Casanova.S Feb 28,2023 UP

「かつてイギリスで最も意識が高いバンドの座を争ったバンド」、レーベルの紹介文にそうあるように在りし日のホテル・ラックスはサウス・ロンドンのインディ・シーンで最も硬派なバンドとして知られていた。シェイムやHMLTD としのぎを削った17/18年のホテル・ラックスはザ・フォールに影響を受けたポスト・パンク・バンドで、暗く陰鬱でスリリングな音楽を奏でていた。デビュー7インチの “The Last Hangman” ではイギリスの死刑執行人アルバート・ピアポイントをテーマにし、Bサイドの “Pulp” ではそのタイトルが示すとおりにブコウスキーの朗読をサンプリングするなどホテル・ラックスは文学的な匂いのする硬さを武器にサウス・ロンドンのインディ・シーンの黎明期に大きく注目されていたバンドだったのだ。

 だがそれから5年余りの時間が流れたこの 1st アルバムはどうだろう? その間にパンデミックが起こり音楽シーンの季節が変わり、脱退したオリジナルのギタリストに代わりレッグスのマックス・オリヴァーが加入し、さらにオルガン奏者としてディロン・ホームが加わり、ホテル・ラックスはその硬さから離れ新たなスタイルを獲得した。ビル・ライダー・ジョーンズがプロデュースしたこのアルバムのサウンドはパンクやパブ・ロック、ポスト・パンクが混ぜ合わされてカラフルな色彩を放ち、声を合わせて唄いたくなるようなフック(それはフットボールの流儀でもある)までをも持ち合わせている。ともすれば頭でっかちと捉えられかねなかった歌詞は、ピート・ドハーティ・スタイルのやさぐれたロマンとユーモアが入り交じった物語風/戯曲風のものに変わり、その中で彼らはザ・フォールやブコウスキーの名前を出し明るいサウンドに乗せてかつての自分たちをユーモアたっぷりに皮肉るのだ。

 ベースのカム・シムズはサウス・ロンドンのインディ・シーンで活躍していた若き日々を「自分たちがどう思われるのか気にしすぎていた」と自責の念を浮かべて振り返る。ポーツマスからロンドンに移ってからというもの観客が自分たちに何を期待しているのかをつねに考えていた。ロックダウンを経て、バンドはロンドンを一時的に離れウィラルというリヴァプール近郊の街へと録音に行き、そうしてホテル・ラックスは変化した。
 あるいはそれはスムーズに行くことのなかったバンドの失意と後悔がそうさせたのかもしれない。「俺とタメの奴らが代表チームで活躍している」と唄う “National Team” はフットボールの歌であって、ナショナリズムを連想させて、そしてもしかしたら同じシーンで活躍したバンドたちが一足先に大きくなっていく姿を見送る喪失感を描いたものなのかもしれない。いくつかの要素が重なりあいそれが心に残る余韻を生んでいく。このアルバムはそんなふうにして次のステージに入った若者の人生の変化を語っていく。

 そうしてそのホテル・ラックスの真価はアルバム後半に発揮される。レコードをひっくり返してB面に入ったならばそこから先は流れるようにして最後まで一息で進む。これまでのホテル・ラックスの曲とは明らかに趣の異なったアコースティック・ギターが鳴り響くフォーク・ソング “Morning After Mourning”、それを呼び水にするようにして組み合わされる “An Ideal for Living”、ピアノとからみルイス・ダフィンは純粋に心をさらけ出すようにして歌う。
「大人になることの代償だ/無駄に過ごした1年/災いを歌にした/何が正しいか 何が間違っているのか教えてくれ」 
 ここでは皮肉は抜きだ。だからそのコントラストが心に響く。再びテレキャスターを構えポスト・パンクの熱を取り戻したかのように牙を向く “Points of View” を挟み、ギターのサム・コバーンがヴォーカルをとる夕暮れの虚無のような “Eazy Being Lazy” を通過し、そうして “Solidarity Song” にたどり着く。
「もし他の曲を書けたならララバイがよかった/災いを克服した歌を」。ホテル・ラックスは “An Ideal for Living” の中でそう歌っているが、たどり着いた先の最終曲 “Solidarity Song” はなんとも素晴らしいバラッドだ。心を揺さぶるようなオルガンとギターのストローク、そして声を合わせることを誘うコーラス。ブレヒトの連帯の歌を下敷きにして、その視線は市井の中に向かっていく。争いのはびこる世界に広がる分断、世界は酷いありさまだけど、でも最低ってわけでもない。手と手が合わさるクラップの音がまるで祝砲のように鳴り響く、この最終曲は失意の末の大団円みたいに心を揺らす。

 長い時間がかかったが、だからこそ生まれたスタイルがある。いまのホテル・ラックスの自信に満ちた姿はチームを移り再び輝きはじめたフットボーラーたちの姿にも重なって、それがなんとも胸を打つ。次なる未来へと、デビュー・アルバムというにはあまりに悲喜こもごもな、時を重ねた若者たちの唄がここに詰まっているのだ。

Casanova.S