「MAN ON MAN」と一致するもの

Hotel Lux - ele-king

「かつてイギリスで最も意識が高いバンドの座を争ったバンド」、レーベルの紹介文にそうあるように在りし日のホテル・ラックスはサウス・ロンドンのインディ・シーンで最も硬派なバンドとして知られていた。シェイムやHMLTD としのぎを削った17/18年のホテル・ラックスはザ・フォールに影響を受けたポスト・パンク・バンドで、暗く陰鬱でスリリングな音楽を奏でていた。デビュー7インチの “The Last Hangman” ではイギリスの死刑執行人アルバート・ピアポイントをテーマにし、Bサイドの “Pulp” ではそのタイトルが示すとおりにブコウスキーの朗読をサンプリングするなどホテル・ラックスは文学的な匂いのする硬さを武器にサウス・ロンドンのインディ・シーンの黎明期に大きく注目されていたバンドだったのだ。

 だがそれから5年余りの時間が流れたこの 1st アルバムはどうだろう? その間にパンデミックが起こり音楽シーンの季節が変わり、脱退したオリジナルのギタリストに代わりレッグスのマックス・オリヴァーが加入し、さらにオルガン奏者としてディロン・ホームが加わり、ホテル・ラックスはその硬さから離れ新たなスタイルを獲得した。ビル・ライダー・ジョーンズがプロデュースしたこのアルバムのサウンドはパンクやパブ・ロック、ポスト・パンクが混ぜ合わされてカラフルな色彩を放ち、声を合わせて唄いたくなるようなフック(それはフットボールの流儀でもある)までをも持ち合わせている。ともすれば頭でっかちと捉えられかねなかった歌詞は、ピート・ドハーティ・スタイルのやさぐれたロマンとユーモアが入り交じった物語風/戯曲風のものに変わり、その中で彼らはザ・フォールやブコウスキーの名前を出し明るいサウンドに乗せてかつての自分たちをユーモアたっぷりに皮肉るのだ。

 ベースのカム・シムズはサウス・ロンドンのインディ・シーンで活躍していた若き日々を「自分たちがどう思われるのか気にしすぎていた」と自責の念を浮かべて振り返る。ポーツマスからロンドンに移ってからというもの観客が自分たちに何を期待しているのかをつねに考えていた。ロックダウンを経て、バンドはロンドンを一時的に離れウィラルというリヴァプール近郊の街へと録音に行き、そうしてホテル・ラックスは変化した。
 あるいはそれはスムーズに行くことのなかったバンドの失意と後悔がそうさせたのかもしれない。「俺とタメの奴らが代表チームで活躍している」と唄う “National Team” はフットボールの歌であって、ナショナリズムを連想させて、そしてもしかしたら同じシーンで活躍したバンドたちが一足先に大きくなっていく姿を見送る喪失感を描いたものなのかもしれない。いくつかの要素が重なりあいそれが心に残る余韻を生んでいく。このアルバムはそんなふうにして次のステージに入った若者の人生の変化を語っていく。

 そうしてそのホテル・ラックスの真価はアルバム後半に発揮される。レコードをひっくり返してB面に入ったならばそこから先は流れるようにして最後まで一息で進む。これまでのホテル・ラックスの曲とは明らかに趣の異なったアコースティック・ギターが鳴り響くフォーク・ソング “Morning After Mourning”、それを呼び水にするようにして組み合わされる “An Ideal for Living”、ピアノとからみルイス・ダフィンは純粋に心をさらけ出すようにして歌う。
「大人になることの代償だ/無駄に過ごした1年/災いを歌にした/何が正しいか 何が間違っているのか教えてくれ」 
 ここでは皮肉は抜きだ。だからそのコントラストが心に響く。再びテレキャスターを構えポスト・パンクの熱を取り戻したかのように牙を向く “Points of View” を挟み、ギターのサム・コバーンがヴォーカルをとる夕暮れの虚無のような “Eazy Being Lazy” を通過し、そうして “Solidarity Song” にたどり着く。
「もし他の曲を書けたならララバイがよかった/災いを克服した歌を」。ホテル・ラックスは “An Ideal for Living” の中でそう歌っているが、たどり着いた先の最終曲 “Solidarity Song” はなんとも素晴らしいバラッドだ。心を揺さぶるようなオルガンとギターのストローク、そして声を合わせることを誘うコーラス。ブレヒトの連帯の歌を下敷きにして、その視線は市井の中に向かっていく。争いのはびこる世界に広がる分断、世界は酷いありさまだけど、でも最低ってわけでもない。手と手が合わさるクラップの音がまるで祝砲のように鳴り響く、この最終曲は失意の末の大団円みたいに心を揺らす。

 長い時間がかかったが、だからこそ生まれたスタイルがある。いまのホテル・ラックスの自信に満ちた姿はチームを移り再び輝きはじめたフットボーラーたちの姿にも重なって、それがなんとも胸を打つ。次なる未来へと、デビュー・アルバムというにはあまりに悲喜こもごもな、時を重ねた若者たちの唄がここに詰まっているのだ。

yahyel - ele-king

 次世代を担うバンドとして彼らが浮上してきたのが2010年代半ば。その後2018年にセカンド・アルバム『Human』で大いに飛躍を遂げた東京の4人組、ヤイエルが5年ぶりに帰ってきた。
 この間、ほんとうにいろんなことが起こった。敏感なアンテナを有する彼らもまた、それぞれに思うところがあったにちがいない。はたしてそれは、どのように音楽へと昇華されたのだろうか。
 まずは3月8日、『Loves & Cults』と題されたひさびさのアルバムがリリースされる。その後3月下旬から4月頭にかけ、名古屋、梅田、渋谷の3年を巡回。ヤイエルの新たな船出に注目したい。

先日アナウンスされたyahyel5年振り最新作「Loves & Cults」のアートワークとトラックリストが公開された。そして、同時発表を行った名古屋、大阪、東京を巡るリリース・ツアーの前売り一般チケットも本日から発売開始する。

“Loves & Cults” は、加熱した時代、愛と狂信の望まない類似性をテーマにしたアルバムとなっている。人間の不確かさを巡る、誠実さへの問いかけはyahyelの脈々と通底するテーマ。しかし同時に、今作がこの5年間の間に、人間が新たに生み出した怪物に向き合っているという意味で、”群れ”の中の人間の視座が新たに加味されている。それは結果的に、かつてのような個々を重んじるプレイヤーの集まりとしてではなく、摩擦の先にある、バンド(≒小社会)”yahyel”しか鳴らせない音像として結実することとなった。”Loves & Cults”は、まさに長い時間をかけて固まっていった大陸のような作品であり、その歪で予定調和のない造形の中に込められた対話への願いが、異質なリアリティとして浮き上がる”怪作”となっている。愛と狂信の境界はどこか。2023年のyahyelに注目だ。

■作品概要
Artist : yahyel
Title : Loves & Cults
Label : LOVE/CULT
Date : 2023.3.8[ Wed ]
Cat # : LC004 ※Digital Only

Tracklist
01. Cult
02. Karma
03. Highway
04. ID
05. Mine
06. Sheep
07. Slow
08. Eve
09. Four
10. Love
11. kyokou

■作品紹介
東京を中心に活動するyahyelが5年の歳月をかけた最新作”Loves & Cults”をリリースする。
2015年に忽然と現れたyahyelは、10年代のポストダブステップ的な感性、出自など関係ないような独特のボーカルライン、猟奇的なライブパフォーマンス、予想外の映像作品など当時の真新しいアイディアを詰め込んだ特異な存在だった。”日本の音楽≒J-Pop”という呪いにかかった東京の街へのアンチテーゼは、”破竹の勢い”とも形容されるほどだった。

そして、世界的なパンデミックを目前にした2019年、yahyelは突然の沈黙に入る。

本人が”糸口の見えない世界の混沌に滅入っていた”と認めるように、 社会と音楽の一進一退の歩みは、彼らにそれだけのインパクトを残したものだった。再定義、線引き、分裂、その中での希望と失望。社会=共同体が、それぞれの正義を掲げて両極化に突き進んだ赤い熱の時代。双方の主張はフェイクニュースと断じられ、仮想敵はカルトじみた存在に仕立てられ、身内はラブの名の下に扇動される。
人の、あらゆる事象への執着が愛から来るものなのか狂信からくるものかは、あくまで不完全な自我が生み出す主観的な感覚でしかなく、社会という相対性の中では非常に脆いものである。音楽という営みなど、カウンターの霞に追いやられ、もれなくyahyelもその問題に向き合っていく。
バンドを小さな共同体として見た場合、我々は一つの社会として何を結論づけるのか。なぜ、我々はここで音を鳴らすのか。“Loves & Cults”は愛と狂信の表裏一体さを意識せずにはいられない、それでも人と人が対話をするという理想を捨てきれない、人間の”群れ”の中に傍観者として立ち尽くすことの憂鬱をテーマにした作品となっている。

おどろおどろしい合唱とサイバーな儀式のような狂騒が印象的なオープニング曲 ”Cult”では、痛烈にカルトじみた世相を皮肉りながらも、その混沌とした音像は迷いの中に立ち尽くしている。アルバムのストーリーはすでにシングルカットされている”Highway”、”ID”などを通過しながら、形而上学的な問いの中で、骨太で90年代のアートロックのような文脈で深まっていく。完全なロックチューンとなった”Four”は、まさにこの時期のyahyelの進化を如実に表しており、”4人でバンドとして音楽をする”ということに対するアンサーになっているともとれるだろう。個人主義から共同体へという流れはまさに20年代らしいが、その結論が一筋縄ではいかないのがyahyelらしく、バンドのリアリティを内包しているとも言えるのかもしれない。そして、アルバムのストーリーは一つの臨界点、アンセム”Love”へと導かれる。アルバムタイトルにある通り、”Cult”への皮肉から始まった物語は、”Love”は何なのかという問いを残して終わるのだ。

yahyelの作品は、3作目となった今でも一貫したテーマを周回している。それは人間の不確かさを巡る、誠実さへの問いかけである。今作がこの5年間の間に、人間が新たに生み出した怪物に向き合っているという意味で、時代に対するyahyelの解答ということにもなるだろう。それは結果的に、かつてのような個々を重んじるプレイヤーの集まりとしてではなく、摩擦の先にある、バンド(≒共同体)”yahyel”しか鳴らせない音像として結実している。”Loves & Cults”は、まさに長い時間をかけて固まっていった大陸のような作品であり、その歪で予定調和のない造形の中に込められた願いが、異質なリアリティとして浮き上がる”怪作”となっている。

■ツアー情報
yahyel "Loves & Cults" Album release tour

2023年3月22日(水)
名古屋 CLUB QUATTRO
18:45 開場/ 19:30 開演
ぴあ : https://w.pia.jp/t/yahyel/
ローソン : 42590
イープラス : https://onl.tw/uf6EcBc

2023年3月23日(木)
梅田 CLUB QUATTRO
18:45 開場/ 19:30 開演
ぴあ : https://w.pia.jp/t/yahyel/
ローソン : 56616
イープラス : https://onl.tw/uf6EcBc

2023年4月5日(水)
渋谷 WWWX
18:30 開場/ 19:30 開演
ぴあ : https://w.pia.jp/t/yahyel/
ローソン : 75386
イープラス : https://onl.tw/uf6EcBc

■yahyel profile :
2015年東京で結成。池貝峻、篠田ミル、大井一彌、山田健人の4人編成。エレクトロニックをベースとしたサウンド、ボーカルを担当する池貝の美しいハイトーンボイス、映像作家としても活躍する山田の映像演出を含むアグレッシブなライブパフォーマンスで注目を集める。2016年、ロンドンの老舗ROUGH TRADEを含む全5箇所での欧州ツアー、フジロックフェスティバル〈Rookie A Go Go〉ステージへの出演を経て、11月にデビュー・アルバム『Flesh and Blood』を発表。翌2017年には、フジロックフェスティバル〈Red Murquee〉ステージに出演、さらにWarpaint、Mount Kimbie、alt-Jら海外アーティストの来日ツアーをサポートし、2018年3月に、さらに進化した彼らが自身のアイデンティティを突き詰め、よりクリアで強固なものとして具現化することに挑んだセカンドアルバム『Human』をリリース。その直後のSXSW出演を経て、フランスのフェス、韓国・中国に渡るアジアツアー、SUMMER SONICなどに出演。同9月にはシングル「TAO」をリリース。楽曲、ミュージックビデオの両方を通じて、yahyelの芸術表現が完全に別次元に突入したことを証明した。同じく11月には水曜日のカンパネラとのコラボ楽曲「生きろ」をリリース。2019年には再びSXSWに出演、米NPR、英CRASH Magazineなど数多くの海外メディアに紹介される。パンデミックの最中に開催された2020年のワンマンライブを最後に、突然の沈黙期に入ったyahyelは、扇情と混沌のユーフォリアから起き上がろうとする2023 年の世界に呼応するように、新たなフェーズへの密かな胎動を繰り返している。

Black Country, New Road - ele-king

 昨年のフジでは全曲新曲というチャレンジングな姿勢を見せつけたロンドンの若き6人組、ブラック・カントリー・ニュー・ロード。この4月頭には単独来日ツアーも決定している同バンドから、嬉しいお知らせの到着だ。
 昨年12月、彼らはロンドンのブッシュ・ホールなるヴェニューにて、なかなか趣向を凝らしたパフォーマンスを3回にわたっておこなっているのだが(回ごとに「学芸会」だったり「おばけ」だったり「牧歌的田園」だったり、ヴィジュアル・コンセプトが異なる)、その模様が昨日、YouTubeで公開されている。

 そしてここで披露された新曲9曲がなんと、『Live at Bush Hall』として音源化、日本限定でCD化されることになった。
 この『Live at Bush Hall』はバンドにとってアイザック・ウッドが脱退してから最初のリリースであり、新体制となって以降に書かれた曲で構成されている。文字どおり、新たな出発というわけだ。来日ツアーにそなえ、ぜひとも聴きこんでおきたい。
 なお、昨年来日時のインタヴューはこちらから。

Black Country, New Road

ブラック・カントリー・ニュー・ロード

完売となった話題のロンドン公演を映像作品として発表!
あわせて9曲の新曲を収録した最新作『Live at Bush Hall』が
日本限定でCD化決定! 3/24発売!

数量限定のTシャツセット、タワーレコード限定の
トートバッグ・セットも発売!

待望の初単独ジャパンツアーはチケット発売中!
フジロックの感動が再び!

昨年リリースされた2nd『Ants From Up there』が、全英3位を記録し、数多くのメディアが年間ベストチャートでトップ10にリストアップするなど大絶賛を浴びたブラック・カントリー・ニュー・ロード(以下BC,NR)。初来日となった昨年のフジロックでは「セットリストを全て新曲で構築」という大胆な姿勢で臨み、圧倒的演奏力と感情を揺さぶる歌声で、観客の涙腺は崩壊! SNSでトレンド入りも果たすなど大きな反響を生み、今年4月には初の単独来日ツアーも決定している彼らが、完売となった話題のロンドン公演のフル・ライブ映像作品を公開! 今回の映像と音源はロンドンのブッシュ・ホールで行われた3公演のドキュメントである。また、映像化された9曲の新曲を収録した最新作『Live at Bush Hall』が日本限定でCD化され、3月24日に発売することが発表された。数量限定のTシャツセットや、タワーレコード限定のトートバッグ・セットも発売される。

Black Country, New Road - 'Live at Bush Hall'
https://youtu.be/VbHV8oObR54
ブッシュ・ホールで行われたライブは、バンドにとって新たな始まりとなるものだった。2022年の初め、BC,NRは全英3位のアルバム『Ants From Up There』(マーキュリー賞候補のデビュー作『For the first time』に続く、12ヶ月ぶり2度目の全英トップ5アルバム)をリリース、ファンや評論家から称賛され、数々の満点レビューを獲得、r/indieheads、Rate Your Musicでのファン投票での1位、Pitchfork読者投票の3位、日本ではrockin’onやele-kingなど世界中の年間ベストで高評価を記録した。

前作『Ants From Up There』がリリースされる数日前にフロントマンのアイザック・ウッドはバンドから離れることとなり、BC,NRは残ったメンバーのルイス・エヴァンス(サックス/ヴォーカル)、メイ・カーショウ(キーボード/ヴォーカル)、ジョージア・エラリー(ヴァイオリン/ヴォーカル)、ルーク・マーク(ギター/ヴォーカル)、タイラー・ハイド(ベース/ヴォーカル)、チャーリー・ウェイン(ドラム/ヴォーカル)の6人から成る新体制となり、ライブ用に全く新しい楽曲を書くこととなった。 彼らは短期間で作り上げた楽曲を、Primavera、Green Man、Fuji Rockなどの世界各地の大型フェスで披露し、新たなパフォーマンスは英Rolling Stone誌や、The Guardian紙、NY Times紙など様々なメディアから賞賛を受け、昨年のAIM Independent Music Awardsの "Best Live Performer" にノミネートされるなど、注目を集めた。

今回公開された3日間にわたるロンドンのブッシュ・ホールでのライブ・パフォーマンス映像の監督はグレッグ・バーンズが担当し、音源はPJハーヴェイのコラボレーターでもあるジョン・パリッシュがミックスを行った。メンバーのルイス・エヴァンスは、次のように語る。

これは瞬間をとらえたものなんだ
この8ヶ月間、ツアーで演奏してきた曲の小さなタイム・カプセルのようなもの
- Lewis Evans

12月に行われたこのロンドン公演では、公式にリリースされた楽曲ではないにもかかわらず、観客がバンド共に歌い上げ、バンドとファンとの絆の強さを証明した。
BC,NRにとって、典型的なやり方でライブを映像化し、ありきたりな方法で公開するというアイデアは、魅力的ではなかった。

過去に見た、あるいはやったライブ・セッションの映像化のやり方には懸念があったんだ。
複数の公演での演奏が視覚的にまとめられていて、そのため実際の演奏からは離れたものとなってしまい、人工的でライブとは思えないような印象を与えてしまう。そこで僕たちは、3つの夜がそれぞれ異なるビジュアルに見えるようにするアイデアを思いついた。僕たちは、正直に、3回演奏したことをみんなにわかるようにしたかった。ノンストップで演奏しているわけではないんだとね。
- Luke Mark

学校劇、牧歌的なシーン、幽霊の出るピザ屋など、アマチュアの演劇にインスパイアされた独自のテーマと美学が各夜に設定されていた。学校のプロム・パーティーの終わりのようなシーンもあった。

僕たちは架空の劇というアイデアを思いついたんだ。
架空のあらすじを書き、登場人物に扮し、それぞれの劇のプログラムやセットを作った。
本当にエキサイティングで、楽しかったよ。
- Lewis Evans

また、今回のライブでは友人やファンにも協力してもらったという。ペンキ塗りやセット作り、カメラを渡されたり、電話で撮影を指示されたりして、物作りを手伝った人もいた。そして、これらのすべての人のスタイル、物語、視点を織り交ぜた独特のビジュアルが生み出された。

映像を作るなら、人間味のあるものにしようと思ったんだ。
この作品を作っている時に、多くのファンが曲を広めてくれて、僕らが曲を出さなくても、みんなが曲を聴くことができるようになったんだ。
この映画を作るにあたって、僕らの活動を支えてくれている人たちを巻き込むのはいいことだと思ったんだ。
- Luke Mark

日本限定でCD化される待望の最新作『Live at Bush Hall』は3月24日にリリース! 数量限定のTシャツセット、タワーレコード限定のトートバッグ・セットも発売される。

また、BEATINK.COMではブッシュ・ホールで行われたライブ・レポートを公開中!
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13199

今年2022年、ブラック・カントリー・ニュー・ロードは、2月にセカンド・アルバム『Ants From Up there』をリリースした。その発売の4日前に、主要メンバーがバンド離脱という危機的状況に一度は陥ったものの、確固たる想いを胸に6人で再始動し、更なる進化を証明してみせた。初来日となった今年のフジロックでは「セットリストを全て新曲で構築」という大胆な姿勢で臨み、圧倒的演奏力と感情を揺さぶる歌声で、観客の涙腺は崩壊! YouTubeでも配信されたそのパフォーマンスは全国の音楽ファンを魅了し、SNSでトレンド入りも果たすなど大きな反響を生んだ。そんな彼らの初単独ジャパンツアーが決定!!ポストロックな曲調にホーン、ストリングスを重ね、どこか上品な一面を持ちながらも大迫力で、時には狂暴なプレイを見せてくれる彼らのライブは、今や世界中でソールドアウトを重ねている。ロックシーンの最前線を駆ける彼ら “BC,NR” にとって記念すべき初の単独来日公演。そのライブは、きっとオーディエンス一人一人の記憶に強烈に刻まれることになるだろう。

また、今回のジャパン・ツアーでは数量限定のチケット+Tシャツセットの発売も決定! チケット+Tシャツセットでしか手に入らないファン必携の限定デザインTシャツ!

名古屋公演
2023年4月4日(火)
名古屋 CLUB QUATTRO
INFO:名古屋クラブクアトロ 052-264-8211 [ http://www.club-quattro.com/ ]

大阪公演
2023年4月5日(水)
梅田 CLUB QUATTRO
INFO: SMASH WEST 06-6535-5569 [ https://www.smash-jpn.com ]

東京公演
2023年4月6日(木)
渋谷 O-EAST
INFO:BEATINK [ www.beatink.com ] E-mail: info@beatink.com

[全公演共通]
OPEN 18:00 / START 19:00
前売チケット: ¥6,800 (税込)
別途1ドリンク代 / オールスタンディング
※未就学児童入場不可
前売りチケット+Tシャツセット: ¥11,300 (税込/送料込)

チケット情報

一般発売:12/17 (土)〜
イープラス
ローソンチケット
チケットぴあ
BEATINK

企画・制作: BEATINK
INFO: www.beatink.com / info@beatink.com

label: Ninja Tune / Beat Records
artist: Black Country, New Road
title: Live at Bush Hall
release: 2023.03.24

商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13274

Tower Records:
https://tower.jp/artist/discography/2795695?sort=RANK&kid=psg01

時を超えるウェルドン・アーヴィンの魂 - ele-king

 90年代以降のジャズ・シーンにおいて、ある意味マイルス以上の影響力をもつスピリット・マン。その真実を、なぜみんなは語ろうとしないのか。そんな葛藤に悶えながらも2002年、ウェルドン・アーヴィン(キーボード他)は冥土へと旅立ってしまった。それも自死による最期は、おいそれと受け入れられる現実ではない。
 いっぽうで、彼はそもそも死んでいないという精神的な共通認識を世界中のシンパはもっている。彼のなかでもわたしたちのなかでも時間の流れは自死したあの日で止まったのだろうが、それとはべつの時間を前進させる彼の魂は、いまでも多くのひとたちに感動を与えつづけている。
 冒頭にもどれば、それでもわたしたちは彼について議論と呼べるような議論などしてこなかった。おそらくそれは、なにひとつ語っていないに等しい。
 たとえばアーヴィンの名声を決定づける曲 “To Be Young, Gifted And Black”(1969年)は、長年ニーナ・シモンとアレサ・フランクリンが独占してきたようなものだった。ジャズ、ソウル界を代表する黒人女性に取りあげられたことは、それはそれで立派だが、作者が楽曲に込めた念いや意味についてまで、だれもが納得できるほど多くを語られてきたわけではない。
 そもそもニーナが語っていなかった。彼女の自伝『I Put a Spell on You』の第6章に曲名がそのまま冠されているにもかかわらず、アーヴィンの名前はひと言も触れられない。代わりに彼女が初めてうたったとされるプロテスト・ソング “Mississippi Goddam” を中心に紙幅が費やされる。メドガー・エヴァース(公民権運動家)がミシシッピの自宅前で銃殺(1963年)されたことへの抗議として書かれた曲が、この章つまりアーヴィンの曲名のもとに触れられることにいささか戸惑いをおぼえずにはいられない。
 それでもニーナに悪意があるはずもなく、彼女にとってのトップ・プライオリティに、レイシストへの抗議の場の必要性があったのだと考えたい。エヴァースを筆頭に同胞たちの命がつぎつぎと奪われるなか、上げた拳を下ろす理由などなかったのだろう。ただし彼女がその怒りの熱を音楽に転化するまでには、それなりのハードルがあった。
 誤解をしているひともいるかもしれないが、ニーナはある特定の思想を歌に持ち込むことに抵抗していた時期がある。クラシックをルーツにもつ彼女にとって、それはごく自然なこと。プロテスト・ソングへの安易な傾倒は好ましくないという自覚すらあった。その封印を解いたのが “Mississippi Goddam” であり、以降運動への積極的な姿勢をみせながら “To Be Young, Gifted And Black” を発表する。
 もっとも、その機会ですら悲しみの連鎖がもたらしたというのだから皮肉というほかない。それは親愛なる劇作家ロレイン・ハンズベリーの死であった(1965年)。“To Be Young, Gifted And Black” は彼女が生前に書いた戯曲でもあり、オフブロードウェイにて初めて上演された黒人による作品ともなった。時の作家ジェイムズ・ボールドウィンをして、「黒人があれほど劇場の席を埋めた光景はみたことがない」といわしめる。つまり彼女の死は、痛ましさと引き換えにあらたな生命をもたらすものだった。
 ニーナはハンズベリーへの哀惜の念を込め、作詞の依頼をアーヴィンにこう伝えている。「世界中の若き黒人に希望の歌を書いてほしい」。
 アーヴィンはそのあと、ニーナの声が神からの啓示であったかのような体験をしていた。ある日のこと、ガールフレンドを迎えに車を走らせ信号待ちをしていたとき、あふれるほどの言葉が目前に降りてきたという。彼の手は助手席にあったナプキンとマッチ箱をつかむと、すぐさまそこに書きなぐる。まもなくそれはオタマジャクシを連れ立ち、世界中の若者を鼓舞する歌になった。
 いっぽうで、ニーナを中心に語られてきた “To Be Young, Gifted And Black” には、(自伝でもスルーされたように)アーヴィンの視点が欠けていることも否めない。ニーナの言にもあるように、ここでうたわれる「Black」が兄弟姉妹たちに向けられていることは疑いようがないが、同時にアーヴィン自身でもあることは、彼の作品に触れたことがあるならば見透かせないはずがない。生地ハンプトンからNYへ上京したのが22のとき。いくつかの楽団を転々としながらニーナに認められたアーヴィンの人生は、歌詞にもあるように「Your's Is The Quest That's Just Begun(あなたの旅は始まったばかり)」そのものだった。
 べつの歌詞にはこうある。「I Am Haunted By My Youth(わたしは自分の青春に悩む)」「Your Soul's Intact(あなたの汚れなき魂)」。以上の主語をアーヴィンにしたところで違和感はない。彼との初対面にてニーナが抱いた印象がまさにそれだったらしい。おおきな瞳を揺らした青年からは、イノセンスであるゆえのこころの隙間が感じられたという。
 言い得て妙だが、アーヴィンの魅力にそのような「少年性」があるのはまちがいない。彼の純真な一面は、まるでボールドウィンの小説に描かれる黒人少年の愛情に飢えた孤独と相似の関係に映る。マチスモ社会のジャズにあってそれは何の役にも立たないものだが、物語性をもとめる聴き手にしてみれば詩的に輝いてみえただろう。平たくいうならコミュニケーション能力。ロマーン・ヤーコブソンがいうところの交話的機能が働き、多くの共鳴者が生まれた。
 またこれらは、「レアグルーヴとはなにか?」という設問への回答をすみやかに引き出す。レアグルーヴとは80年代初頭のロンドンにて勃興したDJカルチャーだが、その本質にはリスナー主導型のあらたなプラットホームがあったことを見逃してはならない。演奏力の良否よりも、どんな世界観であるかがそこでは優先され、さらにその周囲、隣接文化へと興味対象をひろげながら、“聞こえてくる過去” あらため “過去に聴く未来” を能動的に共有する場として開拓された。
 よって、巧拙に集約されてきたミュージシャンの評価と、作品を支える全体性の評価が一致しないことはままある。マイルスよりもアーヴィン、コルトレーンよりもファラオ(・サンダース)、ジョビンよりもジョイスといったヒエラルキーの逆転がレアグルーヴにおいて生じるのはそのためである。
 マイルスもコルトレーンも偉大であることは論をまたない。彼らの奥義は同業者へ正しく伝授されることを望む。ただし、わたしたちが明日のパンを食べるための手引きになるかはわからない。極論だがそういうことになる。
 作品を通して対話ができる、できた気にさせる親和性こそアーヴィンの魅力であり、生涯をとおして交話的機能を欠かさなかった。生前におこなった筆者のインタヴューでもこんな発言をしている。
「すぐれたアーティストもそうでない者も、いろんな音楽を習得したとたん、つぎのフェーズに入るとそれらの要素を捨ててしまうんだ。わたしはどこまでも積み重ねていった」
 あらたな挑戦をつづけながら、それまでのファンも置いてけぼりにはしない。自主制作の2枚め『Time Capsule』(1973年)が最高だというひともいれば、〈RCA〉レーベルからの第2弾『Spirit Man』(1975年)こそ定番だというひともいる。アーヴィンは彼らの声を聞き、さらに〈RCA〉なら3枚め『Sinbad』(1976年)じゃないかという意見にも耳を傾ける。その柔和な姿勢は「ポップ」のワンワードに置き換えられるが、商業主義にまでシッポを振っていたわけではない。事実、業界を席巻していたディスコ・ブームは彼の信条をおおいに悩ませた。
 またそれらも一因にあるが、アーヴィンのキャリアのうち、前半はその『Sinbad』にていちどは終止符が打たれている。メジャーとの契約が切れた理由は説明するまでもないが、その一部に権利譲渡をめぐって意見の対立があったとも報じられている。そしてそのことが遠因となり、彼は国内の全メジャーとの交渉が断たれるという仕打ちにあう。以来、10年強にもおよぶ(作品上の)空白が語るものとはそれであり、沈黙を破る契機となった『Weldon & The Kats』(1989年)以降も状況の改善はみられなかった。
 それでもマイルス以上の残光を歴史に焼きつけた事実を歪めることはできない。1994年にMASTER WEL名義でラップ・シーンに挑んだのも、すべては交話的機能を手放さなかったからだろう。彼はいまでもそれを手放さずに、だれかと会話をつづけている。

※本日2月15日、ウェルドン・アーヴィンの限定10インチ「Time Capsule ep」発売です。
 https://p-vine.jp/music/p10-6465#.Y-w46HbP2M8
 オリジナルTシャツとのセットは↓こちら。
 https://vga.p-vine.jp/exclusive/vga-1033/

C.E presents - ele-king

 これまで多くのイベントを仕掛け、東京の夜に彩りを加えてきたファッション・ブランド〈C.E〉。長きにわたるパンデミックの日々を経て、およそ3年半ぶりパーティが開催されることになった。ラインナップは日本からPowder、ドイツよりPLO Man、そしておなじみのウィル・バンクヘッド。ひさびさのC.Eナイトもまた、春に向け新たな夜の光となるに違いない。3月4日は表参道VENTに集合です。

[3月2日追記]
 追加情報です。当日、会場にてTシャツとPLO Manのカセットテープが販売されるとのこと。ぜひなくなる前に。

C.E presents
Powder
PLO Man
Will Bankhead

約3年半ぶりとなるC.Eのパーティが3月4日土曜日にVENTで開催。

洋服ブランドC.E(シーイー)が、2023年3月4日土曜日、表参道に位置するVENTを会場にパーティを開催します。

Skate Thing(スケートシング)がデザイナー、Toby Feltwell(トビー・フェルトウェル)がディレクターを務めるC.Eは、2011年のブランド発足以来、不定期ながら国内外のミュージシャンやDJを招聘しパーティを開催してきました。

本パーティでは、日本からPowder、ドイツよりPLO Man、そしてイギリスからWill Bankheadをゲストに迎えます。

当日、会場ではTシャツとPLO Manのカセットテープを販売します。 ←NEW!!

C.E presents

Powder
PLO Man
Will Bankhead

開催日時:2023年3月4日土曜日11:00 PM
会場:VENT vent-tokyo.net
料金:Door 3,000 Yen / Advance 2,000 Yen
t.livepocket.jp/e/vent_bar_20230304

Over 20's Only. Photo I.D. Required.
20歳未満の方のご入場はお断り致します。年齢確認のため顔写真付きの公的身分証明書をご持参願います。

■Powder
曲がり角の向こうが目に映らないからといって、そこに何も無いわけではない。道中にパッと現れた景色のように、Powderは「突然」その場に居合わせた様に見えるが、少し先の曲がり角にいただけのような存在だ。未だに、わざわざ曲がりくねった道中を選んでいるのか、チラっと見えてはいなくなってしまい、なかなか全部を掴める事は少ないのだが、手がかりもなく行方をくらますわけでもなく、意地悪な道で興味を持つものをふるいにかけたりするわけでもなく、存在と印象を残して、一定の距離を保持しながら少し離れた所を走っている。

2015年ストックホルム “Born Free Records” から楽曲 “Spray” を含むEPのファーストリリースや、ESP Institure “Highly EP” でのデビュー以降、日本をベースにしつつも、積極的に自己更新されない情報の少なさも手伝い、全ての動きを掴みきれていないリスナーの憶測とは平行線に、かと思えば時に期待に答えながら、落ち着きが無いようで一貫した(彼女の楽曲のように)、ジャンルマップに左右されない存在感を保ち、楽曲リリースを重ねる。

PowderのトラックやDJプレイを説明するために、“ミニマルな、浮遊感のある、ファニーな…” と、トラックの印象を表すキーワードを探してしまうと、目新しい言葉が特に思い浮かばないが、連想が尽きる事もない。突き詰めていくと、レフトフィールドなトラックである以外の何物でもないことに気づかされるが、それと同時に奇妙さが突き抜ける事なく、普遍的なダンストラックとしてのバランスを保った、オーセンティックなレフトフィールドさ、とでも形容できる脱構築的な世界感を持っている。時代を即座に感じさせるような記号を含むわけでは無く、散りばめられた仕掛けの組み合わせが綿密ながらシンプルに整理され、新しさ、という事よりも、既聴感の無さ、を追求している様にも思える。

Powderのブッキングは非常にドメスティックで、予測できない。
ハイプロフィールなフェスティバルから、小さな町の特別なギグまですべてのブッキングを自身でこなすが、どこであっても「ダンスフロア」をコントロールするような場に居合わせる一貫性を保っている。…といっても、器用なフロアマスターという印象とも異なり、フロアの集合知とでも呼べる古き良きグルーブを放棄しない、実はストレートなDJでもある。
快楽的なトラックとしての機能をストイックに追求した上で、長い夜の後でのみ訪れるシンプルな感情を喚起する。メッセージや刺激はその空気感の中にのみ漂い、感覚的なものとして各々に必要なだけのパワーを与える。

規模の大小に問わず、Powderの行動を決定づけているのは、
自然さだったり、私的な視点のようだが、拡大を続けるパーソナルなアウトプットが違和感無くフィットするためのギグ以上の受け皿として、自身のレーベル “Thinner Groove”も2019年より始動した。“友人のグルーブを紹介する”このレーベルでは、自身が一番大切にしている小さな、しかし全幅の信頼を置く知られざるコミュニティが少しずつ明かされていく。

TGの最近のリリースとして、5AMによる “Pre Zz” がリリースされた。5AMは長年の友人である5ive, AndryとMoko(=5AM)によるバンドでありグループエフォート、PowderはMokoとして参加し、プロデューサーとしての新しい側面を覗かせている。
text by Franc Rare
http://powd.jp

■PLO Man
PLO manはCC NotやGlobex、INTe*raのメンバーであり、インディペンデント パブリッシング プロジェクトであるACTING PRESS(アクティングプレス)主宰。2015年からACTING PRESSはグローバル化したアンダーグラウンドな音楽の世界において、レコードやテープ、イベントなどを丹念に矛盾なくプロデュースしています。
AP22. we have the technology.
https://youtu.be/KW_8E-3Kvew.

■Will Bankhead
イングランドの音楽レーベル、The Trilogy Tapes(ザ トリロジー テープス)主宰。Mo Waxでメイン ヴィジュアル ディレクターを務めたのち、洋服レーベルであるPARK WALKやANSWERを経て、The Trilogy Tapesを立ち上げる。Honest Jon's Recordsをはじめとする音楽レーベル、Palace Skateboardsなどの洋服ブランドのグラフィックデザインを手がける。
http://www.thetrilogytapes.com

Ulla - ele-king

 フィラデルフィアを活動拠点とするウラ(ウラ・ストラウス)は、ここ数年のアンビエント・ミュージック・シーンを振り返るとき、欠かすことのできない重要なアーティストである。
 ウラはセンセーショナルな「新進気鋭のアーティスト」として華々しく登場したわけではない。10年代末期にマイナー・レーベルからひっそりと作品をリリースし、そのサウンドの魅力によって、いつのまにか多くのリスナーを獲得していったのだ。そして今や2020年代を担うアーティストの一人にまでなった。本当にすごいことだと思う。
 2022年にリリースされた新作『Foam』では、これまでのアンビエント/ドローンを基調としたサウンドから脱して、ループとグリッチ・ノイズをミックスするエレクトロニカへと変化した。その音はアコースティックとグリッチ・ノイズが交錯する00年代エレクトロニカ・リヴァイヴァルのようでもあり、心を沈静するようなミニマル・ミュージックのようでもある。もしくは聴き込むほどに愛着が深まるアクセサリーのような音楽でもある。エレクトロニカ、アンビエント/ドローンの交錯の果てに行き着いた桃源郷のようなサウンドスケープとが展開しているのだ。そしてリリースは(満を持して?)〈3XL〉である。

 ここで、『Foam』へと至るウラの道筋を示すために、ウラのこれまでのリリース歴を簡単に振り返っていきたいと思う。
 ウラの最初期の音源はシカゴのオンライン・レーベル〈Terry Planet〉配信リリースしたNo Pomoとのユニットwiggle room『 Pyramid』といえる。2015年だ。ウラ・ストラウス名義ではシカゴの〈Lillerne Tape Club〉から、2017年にリリースした『Floor』、〈Sequel〉から『Append』が初期の音源である。硬質なアンビエンスが魅惑的だが、この頃はまだ「知る人ぞ知る」のような謎に満ちた存在だった。
 そしてHuerco S.主宰のレーベル〈West Mineral〉からPontiac Streatorとのコラボレーション『11 Items 』と『Chat』を2018年と2019年にリリースした。このトリッキーにして静謐、ミニマルにしてどこかポップな多くの音源によって、多くのアンビエント・リスナーの耳に届くことになった。
 2019年になるとニューヨークの〈Quiet Time Tapes〉からウラ・ストラウス名義で『Big Room』をリリース。このアルバムにはまるで霧のように霞んだアトモスフィアが満ちていた。私はこのアルバムに満ちている掴みどころがない空気のようなサウンドにとても惹かれたことを覚えている。抽象的なのに不思議な存在感に満ちている音とでもいうべきか。
 翌2020年、ベルリンの〈3XL〉を親レーベルとする〈Experiences Ltd.〉からウラ名義で『Tumbling Towards A Wall』をリリースした。この作品が決定的だった。ミニマル・ダブとアンビエントを交錯させるサウンドを実現しており、このアルバムによってウラは、アンビエント・マニアだけではなく、エレクトロニック・ミュージック・ファンのリスナーを獲得していったのだ。まさに転機となるアルバムといえよう。
 2020年は、ロシア出身のエクスペリメンタルアーティストのPerilaとのコラボレーション作品『silence box 1』、『29720』、『blue heater』の3作をポルトガルのレーベル〈silence〉から発表するなど旺盛な活動を展開する。
 2021年、〈Motion Ward〉から『Limitless Frame』をリリースした。なかでも『Limitless Frame』がこれまでのウラの作品の総括したようなアルバムである。霧のアンビエントに、どこかジャズのような音楽のフラグメンツが散りばめられ、聴くほどに深い沈静効果が得られるような傑作に仕上がっていたのだ。2022年は「20分1曲」というEPシリーズを継続的に送り出す〈Longform Editions〉から『Hope Sonata』を発表したことも忘れてはならない。

 同じく2022年リリースであった『Foam』は、『Limitless Frame』を受け継ぎつつも、新しいタイプのアンビエント・エレクトロニカ・アルバムを展開していた。10年代以降のアンビエント/ドローン・シーン出身であったウラが、驚くべきことに00年代エレクトロニカの蘇生へと向かったような音楽性を展開していたのだ。新境地といってもいい。
 だがそれは『Limitless Frame』にあったジャズ的な音楽性の解体といった面から地続きでもあるように思う。つまり「音楽の解体」がそのまま「サンプリングとグリッチ」の表現として再浮上してきたわけだ。
 本作『Foam』ではドリーミーなループを基調とした楽曲を展開している。声やピアノなどの音のフラグメンツがちりばめられたミニマルなサウンドスケープがとにかく心地よい。
 先に書いたようにクラシカルな音が軽やかなノイズによってグリッチしていくさまは、00年代初頭のエレクトロニカを思わせもする。個人的には2001年にリリースされたフランスのジュリアン・ロケによるジェル(gel:)のファースト・アルバム『-1』(Artefact)や、2002年にリリースされた彼の変名ドリンヌ・ミュライユ(Dorine_Muraille)『Mani』(FatCat Records)も思い出した。これは00年代リヴァイヴァルなのだろうか。いや、そうではない。ウラは独特なアトモスフィアを放つアンビエントを作り続けながらも、常に新しいサウンドを模索しているのだ。『Foam』におけるゼロ年代的なエレクトロニカへの変化はノスタルジアはない。つまりは変化だ。彼女はアンビエント音楽の新しい形式を模索している。

 ウラを本作を「キーホルダーのような」作品と自ら語っている。いわばアクセサリーのように生活のなかに存在する音楽/音響という意味か。このアルバムは室内楽的な電子音楽だが、生活のなかに空気のように自然に浸透する音楽でもある。日々の暮らしの中で家具のようにでなく、アクセサリーのような音楽として存在すること。このコンセプトはとても新鮮だ。
 まるで未来のエリック・サティのようなミニマル・ミュージックなのである。『Foam』は、新しい時代のエレクトロニカなのである。

Rainbow Disco Club 2023 - ele-king

 GW中の、4月29日〜5月1日の3日間に渡って静岡県東伊豆クロスカントリーコースにて開催される〈レインボー・ディスコ・クラブ2023〉、今年もまた出演者が豪華過ぎます。まずはジェフ・ミルズ、もう説明不要でしょう。彼のことですから、野外でやるからには選曲もまた考えてくることでしょうし、うん。ほか、エレキング的に注目したいのは、Special RequestとChaos In The CBD。前者は、近年のジャングルにおいてもっともカッコいいプロデューサー、後者は、近年のハウスにジャジーなヴァイブを加味した人気のプロジェクトです。それからもうひとり、現在ロンドンを拠点に活動しているChangsieにも注目でしょう。
 ほかにもDJ NOBやBen UFOのような安定した人気を誇るDJもいるし、RDCの精神的支柱の瀧見憲司もおります。早割とかバスツアーとかいろいろあるので、詳しくはオフィシャルサイトをチェックしましょう。とにかく、これは楽しみですね。

開 催 概 要

名 称:
Rainbow Disco Club 2023

日 時:
2023年4月29日(土)9:00開場/12:00開演~5月1日(月)19:00終演

会 場:
東伊豆クロスカントリーコース特設ステージ(静岡県)

出 演:
DJ / LIVE (A to Z):
Alex Kassian
Antal & Hunee
Ben UFO
Changsie
Chaos In The CBD
Daphni
DJ Nobu x Eris Drew
Jeff Mills
Kamma & Masalo
Kenji Takimi
Kikiorix
Lars Bartkuhn (live)
Little Dead Girl
Monkey Timers
Moxie
Occa
Palms Trax
San Proper
Sisi
Special Request
Yoshinori Hayashi (live)
Yu Su

VISUAL:
Realrockdesign
Colo Müller
Kozee
VJ Manami

LASER & LIGHTING:
Yamachang

オフィシャルサイト:
http://www.rainbowdiscoclub.com

Joesef - ele-king

ぼくは18歳だった
叫びながら、すべてを感じようとしていた
(“Joe”)

 僕はもう、18歳のときに自分が何を感じていたかなんて忘れてしまった。けれどもスコットランド出身のシンガーであるジョーセフはよく覚えていて、そのときの悲しみと悦びを心地良いソウル・ポップに乗せて歌ってみせる。「きみが呼ぶのが聞こえる/ジョー、ジョー、ジョー/行かないでくれ」……なんでも元彼とシャワーを浴びながらセックスをしていた記憶から、ひとりでシャワーを浴びているときですら彼の声を思い出してしまう……という歌らしいが、ティーンエイジャーの風景としては大人びているし、キャッチーなラヴ・ソングとしては妙な生々しさもある。ミュージック・ヴィデオでは男の子同士の恋愛模様がリリカルに描かれ、その瑞々しさと切なさを強調している。そして僕は思う……クィアのリアルな性愛を歌うポップスが、こんなにもオープンでナチュラルな時代になったんだと。

 ジョーセフはあらかじめ官能的で魅惑的な声を持ったシンガーで、ファースト・シングル “Limbo”(2019年)の時点で歌の表現力、その完成度の高さが注目されていた存在だ。オーセンティックなソウルに軸を置きつつ、適度にモダンなR&Bやジャズ、インディ・ポップを混ぜるスタイルはトレンディでもあった。けれど僕がとくに気になったのは、彼がバイセクシュアルであることをカミングアウトしていて、「そのことを完全に心地良く感じている」と語っていたことだ。似たようなことを話していたのはサーペントウィズフィートで、自分にとってクィアであることは当たり前のことであり、取り立てて強調するほどのことでもない、と。ポップ・ミュージックは長らくゲイやレズビアン、バイセクシュアルやトランスジェンダーの表現者がクィアであることの痛みを様々な形で解放する場になってきたが、この10年ほどの社会の変容を経て、ずいぶん軽やかなものが増えてきている。いやもちろん、アルカイヴ・トゥモアのように異形性を強調し先鋭化するアーティスト陣も根強くいるが(実験的なエレクトロニック・ミュージックに多い。ハイパーポップが一種のクィア表現と分析されているのも遠くない現象だと思う)、たとえば慎ましやかなジャズ・ソウルで高く評価されたアーロ・パークス(バイセクシュアルであることをカミングアウトしている)がごくパーソナルな心象を柔らかく提示することで多くの若者の共感を得たことを思えば、僕が18歳のとき──20年ほど前──と彼らがいま見ている風景はまったく違うのだろう。それはもちろん、性的マイノリティが置かれる政治状況が変化したことも背景にあるが、その上流にある文化の力によるところが大きい。とくにソウルやR&B周辺のポップ・ミュージシャンたち……フランク・オーシャンジ・インターネットシドスティーヴ・レイシーブラッド・オレンジなどなど……による功績はたしかで、つまり彼らがパーソナルな官能を普遍性を伴うものとして解き放ったことの恩恵を受けて、いま伸び伸びと歌っているのがジョーセフというわけだ。典型的な「男らしさ」からかけ離れたその艶やかな歌声はアノーニアントニー・アンド・ザ・ジョンソンズとして登場したときのことを彷彿させる瞬間もあるが、ジョーセフのデビュー作『Permanent Damage』には『I Am A Bird Now』に漂っていた悲愴感は存在しない。
 ジョーセフの初のEPが「Play Me Something Nice(何か素敵な曲を再生して)」というタイトルだったことにもよく表れているが、失恋の痛みを歌にして集めたという『Permanent Damage(永遠の傷痕)』もまた、とことんスウィートでリラックスしたソウル・チューンが詰まった一枚だ。恋愛における傷痕もまた喜びの証であることが示されている。シンセやパーカッションがエレガントに出入りしてゆるやかなファンクネスを生み出す “It's Been a Little Heavy Lately”、アコースティックな響きを大切にしながらとろけるような時間を演出する “Just Come Home with Me Tonight” と、聴き手を穏やかな気持ちにさせることに衒いがない。ギターの音が80年代のU2をちょっと思い出させるような “East End Coast” のきらびやかさには面食らうところもあるし、初作なんだからもっと冒険してもよかったのではとも思うが、抑制された演奏の緩急と歌唱のコントロールだけでエモーションの深さを見事に表現する “Blue Car” を聴くと、ジョーセフは奇抜なやり方で気を引きたいタイプではないことがわかる。ここでは弱さや傷つきやすさが本人によって自然に受容されていて、そのことが音楽的な気持ち良さに結実しているのである。
 やはり爽快な70年代風ソウル・チューン “All Good” でジョーセフは「すべて順調だよ、簡単なことなど何もないけどね/約束するよ」と歌い、アルバムは幕を閉じる。それはロマンスの終わりを迎えた自分に言い聞かせていることでもあるのだろうが、僕にはクィアの若者たちに向けた言葉であるように聞こえる。いま彼らが自身のセクシュアリティを心地よく受け入れ、その感覚がまっすぐに表現されたポップなラヴ・ソングを楽しめるのは、心温まることだと感じるのだ。ジョーセフの歌声を聴いていると、18歳のときひそかに抱いていた恋心だってダイレクトに取り戻せそうな気がしてくる。

Rob Mazurek - ele-king

 シカゴ・ジャズ・シーンにおけるキーマン、かつてガスター・デル・ソルやトータスの作品に参加しポスト・ロックの文脈でもその名が知られる作曲家/トランペット奏者のロブ・マズレク(現在はテキサスのマーファ在住の模様)が、ニュー・アルバムを送り出す。古くからの仲間と言えるジェフ・パーカーを筆頭に、クレイグ・テイボーンやデイモン・ロックスといったメンバーが終結。ブラジル在住時の経験がインスピレーションになっているそうだ。昨年亡くなったジャズ・トランぺット奏者、ジェイミー・ブランチに捧げられた作品とのこと。発売は4月5日、チェックしておきましょう。

Rob Mazurek - Exploding Star Orchestra
『Lightning Dreamers』

2023.04.05(水)CD Release

シカゴ・アンダーグラウンド、アイソトープ217°、サンパウロ・アンダーグラウンドで知られる作曲家/トランペット奏者のロブ・マズレクによる、エクスプローディング・スター・オーケストラ名義の最新作。ジェフ・パーカーを筆頭に豪華メンバーが集結してグルーヴ感溢れる演奏を聴かせる中、故ジェイミー・ブランチも参加し、彼女に捧げたアルバムとして完成された。ボーナストラックを追加し、日本限定盤ハイレゾMQA対応仕様のCDでリリース!!

ジェフ・パーカーとの共作 “Future Shaman” でスタートするロブ・マズレクの新作は、流れるようなグルーヴ、宇宙空間を漂うようなメロディラインと音響によって彩られている。それは、彼が3年間住んでいたブラジル、マナウスで、リオ・ネグロ(黒川)とリオ・ソリモンエス(白川)の合流地点にインスパイアされた感覚の表明でもある。アマゾンの支流を船で日々移動することは、過去、現在、未来の精神を呼び起こしたのだという。画家でもあるマズレクの視覚と聴覚へのアプローチも、エクスプローディング・スター・オーケストラというプロジェクトの目的も、水の流れ、時の流れから彼が掴んだ一種の再生の表現だ。故ジェイミー・ブランチも参加し、彼女に捧げられているアルバムに相応しいテーマである。(原 雅明 ringsプロデューサー)

ミュージシャン:
All music composed by Rob Mazurek (OLHO, ASCAP).
Words by Damon Locks.
Recorded at Sonic Ranch, Tornillo, TX, September 23rd & 24th, 2021.

Rob Mazurek (director, composer, trumpets, voice, launeddas, electronic treatments)
Jeff Parker (guitar)
Craig Taborn (wurlitzer, moog matriarch)
Angelica Sanchez (wurlitzer, piano, moog sub 37)
Damon Locks (voice, electronics, samplers, text)
Gerald Cleaver (drums)
Mauricio Takara (electronic percussion, percussion)
Nicole Mitchell (flute, voice)

Engineered by Dave Vettraino.
Additional Recording by Jeff Parker, Mauricio Takara, Nicole Mitchell,
and Rob Mazurek.
Produced and Mixed by Dave Vettraino & Rob Mazurek.
Mastered by David Allen

Album art by Rob Mazurek Radical Chimeric #1 #2 (mesh, screen, mylar, canvas, video projection) 2022.
Insert Photo by Britt Mazurek.
Design by Craig Hansen.
Thank You Britt Mazurek.
This album is dedicated to jaimie branch.


[リリース情報]
Artist:Rob Mazurek - Exploding Star Orchestra(ロブマズレク・エクスプローデイング・スター・オーケストラ)
Title:Lightning Dreamers(ライトニング・ドリーマーズ)
価格:2,600円+税
レーベル:rings / International Anthem
品番:RINC99
ライナーノーツ解説:細田成嗣
フォーマット:CD(MQA仕様)

*MQA-CDとは?
通常のプレーヤーで再生できるCDでありながら、MQAフォーマット対応機器で再生することにより、元となっているマスター・クオリティの音源により近い音をお楽しみいただけるCDです。

[トラックリスト]
01. Future Shaman
02. Dream Sleeper
03. Shape Shifter
04. Black River
05. White River
+Japan Bonus Track 収録

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008618139
https://www.ringstokyo.com/items/Rob-Mazurek---Exploding-Star-Orchestra

 ‟ガールズ・バンド ” という概念は、元来不条理なものだ。
 勿論、ガールズ・グループに対してボーイズ・バンドという言葉も存在する。これは最近では、おおむね作りこまれたポップな商品であることを意味する。この業界のある側面は、しばしば搾取的であり、このようなアーティストたちはあきらかにメンバーの性的な魅力を利用して売り出されていることも、すべての加担者が基本的に理解していることだ。しかし、ロックの分野では “ガールズ・バンド ” という言葉は通常、外部から押し付けられたものであり、女性の芸術形式を男性の規定値から分離し、女性たちの作品が何を伝えようとしているかに関わらず、性別というレンズを通した型にはめてしまうのだ。私が東京で時々一緒に仕事をしている、女性がリードする素晴らしいポスト・パンク・バンド、P-iPLEは、Twitterのプロフィールに素っ気ない調子で「私たちはガールズ・バンドではない」と記している。
 もうひとつ、明らかにガールズ・バンドではない男性ばかりから成るアイルランドのノイズ・パンクスであるガール・バンドは、最近バンド名をギラ・バンドに改名した。10年前に元のバンド名を採用したのは、まさにその不条理さにこそあり、多くの人にとっては今でもどちらかというと無害な皮肉ぐらいに捉えられるのは、名前に込められたジョークがあきらかにバンド自身のことを指しているからだ。それでも彼らには絶え間ない反発が寄せられ、何年も前に馬鹿々々しいジョークとしてつけたバンド名を使い続ける利点よりも、最終的にはこの言葉が人を不快にする、あるいはノン・インクルーシヴ(非包括的)であると受け取られるリスクの方が高いと判断したようだ。

 社会の生々しい部分を指摘する人たちへの無責任な対応は、何も新しいことではなく、激しい対立や整合性のない指摘は、リスナーに音響的な不快感を与えようとする音楽と密接に結びついている。スティーヴ・アルビニが1980年代にビッグ・ブラックやレイプマン時代に放った過激な挑発の数々は、ガール・バンドという間抜けなバンド名のユーモアと比較するのは必ずしも有効とは言えないが、アルビニが当時について語ったことから、このような問題やそれを指摘する人への対応の背景にある暗示などの興味深い洞察を得ることができる。
 それは、大雑把でリベラルであるアーティスティックなバブルのなかで生活をしていると、自分が属する社会集団の規範が、必ずしも外の世界と共有されていないことを忘れがちになることに起因する。アルビニは「自分自身、そして多くの仲間たちは思い違いをしていた。人びとの平等とインクルーシヴネス(包括性)の獲得への戦いはすでに勝利で終わり、やがては社会においてもそれが発現し、私たちが対立や衝撃、嘲りや皮肉で何かを害することはないと思っていた」と総括している。

 4人組の男が “ガールズ・バンド ” というような馬鹿げた発想で遊ぶのは、性差別に打ち勝った勝利のダンスをしているように見えるかもしれない。だが、音楽の世界で活動する女性たちがあらゆる障害に直面し続けることを考えると、このジョークはもはや同じようには通用しないし、ミュージック・シーンでハラスメントや差別を経験した女性たちは、それらの問題を顔面に突き付けられたように感じるかもしれないのだ。
 バンド名の変更は、ほんの数文字を変える小さなもので、バンド自身は軽視していたもの確かだ(彼らは私がここで問題提起しているよりもずっと小さなこととして扱った)。だが私にとって興味深いのは、彼らの芸術がオーディエンスにますます敬意を持って受け入れられている様であり、それこそがギラ・バンドのニュー・アルバム『Most Normal』の素晴らしさの鍵となるかもしれないということだ。

 ノイズ・ロックは元来、不条理な音楽だ。
 それは、聴く者に居心地の悪さを与えようとする音楽だ。メロディやハーモニー、そして従来の心地よさや満足感をもたらす全てのツールを意図的に除去するかわりに、ディストーション、騒音や断片的なリズムを武器としている。それはまた、ある種の子供じみた音楽でもあり、物を壊してかき混ぜ、そこに出現するカオスや混乱、悪臭などに喜びを見出す。
 だがそれは同時に遊び心があり、好奇心をそそる音楽でもある。思いがけない音のテクスチュアに、厳格なロックの伝統の外側にあるものを感じ、再発見する喜びに没頭できるのだ。この分野で活動するバンドが3枚目のアルバムを作る際、冒険心を失わずに成長するにはどうすればいいのだろうか?
 ひとつの方法は、鳴り響く金属的な不協和音や、吹き出す紙やすりのようなディストーション、そして対立するリズムの一つひとつがどのように着地するのかに注意を払うことだ。どの混乱した音が痺れるようなものに変化するのか、どこで喜びと痛みの間に走る緊張感を保つのか、そしていつそのバランスを、酔ったようなよろめきで一方向に傾かせるのかに敏感になることだ。

 『Most Normal』は、1トンの爆発物のような着地を見せるが、バンドの過去2作のアルバムと比較して、その分野に対しての高まり続けるインテリジェンスや自覚に導かれている。オープニング・トラックの ‟The Gum“ の金切り声のようなディストーションを強調するように反復するディスコ・パルスは、バンドがエレメントのバランスを取ることに確信を深めているのが分かり、2曲目の ‟Eight Fivers” を際立たせる轟音の爆発は、拳を突き上げるような高ぶりからEDMのビート・ドロップに着地する。アルバムを通して、ギラ・バンドはサウンドをこれまでにないほどの挑戦的な極限へと押しやり、ほとんどメロディを落ち着かせることはないながらも、それぞれのエレメントの、オーディエンスへの作用を敏感に感じ取り、恍惚とした残酷さでリスナーの感覚を操っている。
 微かな旋律の気配が漏れ出る最後から2曲目の ‟Pratfall” では、Lowの前2作のアルバムの特徴であった素早く走るようなディストーションに引き裂かれ、ふるいにかけられる。他でも同様に、アルバムがタイトでまばらなビートと吐くようなノイズの発作の間を飛び火する様は、リスナーを、その忍耐力の限界までプッシュすることを存分に意識した内部のリズムによって作られている。

 ギラ・バンドが改名についての説明をする際に、あまり深く考えずに決めたことで、「この選択を正当化したり、説明したりすることは不可能だとわかった」と言及している。この、説明できないということこそが、彼らが名前を変えたことが正しかった理由であり、『Most Normal』の音楽が、不快感を享受しながらより鮮明な音楽的な理由でもって、それを証明している。それは未だに馬鹿げた、生意気なパンク的な面白さだが、薄っぺらに着想されたものでも気まぐれなものでもない。いまやすべての要素が、なぜそこにあるのかを正確に把握しているようだ。


Gilla Band – Most Normal
Rough Trade /ビート

 

Gilla Band, girl bands, and musical discomfortby Ian F. Martin

The idea of a “girl band” is essentially an absurd one.

Of course the term boy band exists too, as the alliterative counterpart to the girl group: nowadays meaning a more or less manufactured pop product. Exploitative as this side of the industry often is, it’s basically understood by all participants that these acts are being sold explicitly on the gendered appeal of the members. In the rock arena, though, the term “girl band” is typically imposed from the outside, segregating women’s art from the implicitly male default, framing their work through the lens of their gender regardless of what they intend to communicate. One band I sometimes work with in Tokyo, the wonderful female-led post-punk band P-iPLE, put it bluntly on their Twitter bio: “We are not girls band.”

Another band who are definitely not a girl band are all-male Irish noise-punks Girl Band, who recently renamed themselves Gilla Band. The absurdity of the term was at the heart of their adoption of it as their band name ten years ago, and to a lot of people it probably still seems like a more or less harmless bit of irony, where the joke is clearly on the band themselves. Still, they received a steady stream of pushback over it and eventually seem to have decided that the potential for it to be read as mocking or non-inclusive outweighed the benefits of sticking with a name they clearly came up with as a silly joke years ago.

This sort of playing fast and loose with signifiers that poke at raw spots in society is nothing new, with harsh juxtapositions and mismatched signifiers going hand in hand with music that seeks to sonically provoke discomfort in the listener. The extremeness of the provocations Steve Albini unleashed via Big Black and Rapeman in the 1980s mean they’re not necessarily a very useful comparison with the goofy humour of a band name like Girl Band, but Albini’s subsequent discussion of that time does offer some interesting insights into the thinking behind and implications of playing with these issues and signifiers.

Partly, it comes down to how life in a broadly liberal artistic bubble makes it easy to forget that the norms of your social group aren’t always shared by the world outside. Albini summarises, “For myself and many of my peers, we miscalculated. We thought the major battles over equality and inclusiveness had been won, and society would eventually express that, so we were not harming anything with contrarianism, shock, sarcasm or irony.”

So four guys playing with a patently absurd idea like the notion of a “girl band” might feel like a victory dance over defeated sexism. However, once you consider that women in music continue to face all manner of obstacles, the joke doesn’t work in the same way, and to women who have faced harassment or discrimination in the music scene, it could feel like having those troubles thrown in their face.

It’s true that the name switch was a small change, of just a couple of letters, and one the band themselves downplayed (they made it far less of a deal than I’m making of it here). What interests me, though, is that it shows a growing respect fot how their art lands with its audience, and this maybe offers a key to what’s so fantastic about the new Gilla Band album “Most Normal”.

Noise-rock is essentially absurd music.

It’s music that wants to make you uncomfortable, It deliberately strips songs of their melody, harmony and all the conventional tools to trigger comfort and satisfaction, instead reaching for distortion, discord and fractured rhythms as its weapons. It can be a childish sort of music too, that breaks things and stirs the shit just to delight in the chaos, mess and bad smells that emerge.

But it’s also playful and curious music. It delights in the unexpected, in the texture of sound, it’s steeped in a sense of rediscovery outside the rigours of rock tradition. For a band in this general arena making their third album, how do you mature without losing that sense of adventure?

One key way is to pay attention to how every piece of clanging dissonance, blown-out sandpaper distortion and rhythmical confrontation lands — to be conscious of which fucked-up sounds resolve into something electrifying, when to hold the tension between pleasure and pain and when to let the balance lurch drunkenly one way or the other.

“Most Normal” lands like a tonne of explosives, but it’s guided with a growing intelligence or awareness of its terrain compared to the band’s previous two albums. The repetitive disco pulse that underscores the screeching distortion of opening track “The Gum” offers an immediate sense of the band’s growing assurance in how they balance their elements, while the bursts of thundering noise that punctuate second track “Eight Fivers” land with the fist-pumping heart-surge of an EDM beat drop. Throughout the album, Gilla Band push sounds to ever more challenging extremes, hardly ever reaching for the comfort of melody, but somehow applying each element with a keen sense of how it’s working on the audience, puppeteering the listener’s senses with ecstatic cruelty.

Where the hint of a tune does filter through, on penultimate track “Pratfall”, it’s ripped apart and filtered through the sort of skittering distortion that characterised Low’s last couple of albums. Elsewhere, the way the album ricochets between tight, sparse beats and convulsions of vomiting noise happens according to an internal rhythm that’s aware of the limits of the listener’s patience just enough to push them.

When explaining their change of name, Gilla Band noted that they had chosen it without much thought and increasingly “found it impossible to justify or explain this choice.” This inability to explain is the most important reason why they were right to change it, and the music on “Most Normal” in its own way proves the point, revelling in discomfort but with an increasingly clear musical reason. It’s still silly, snotty punk fun, but it’s not flimsily conceived or whimsical: every element now seems to know exactly why it’s there.

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