ナイトメアズ・オン・ワックスを名乗るジョージ・エヴリンと言えば〈Warp〉の古参のなかの古参、在籍年数で言えばAFXやオウテカよりも長い。そんなエヴリンと対面で取材したのは、ぼくはたったの一回だけ。1997年、まだシェフィールドにあった〈Warp〉のオフィス内でのことだった。ここでおさらいしておくと、彼の名義にある「ナイトメア」の意味を「悪夢」などとネガティヴに訳してはいけない。これは「悪夢」という言葉が反転して「ワイルドな夢」という格好良さを意味している。マイケル・ジャクソンの「バッド」が「悪い」んじゃなく「超格好いい」ということを意味するのと同じだ。「ワックス」とはレコードのことで、つまり彼の名義は「レコードのうえのワイルドな夢たち」なのである。
1997年に「レコードのうえのワイルドな夢たち」に会うということは、かの有名な『スモーカーズ・デライト』(*至福のチルアウト感覚によって、トリップホップを再定義したアルバム)をリリースしてまだ2年しか経っていないときに会うということだ。ぼくのなかにエヴリンに対する先入観がなかったと言えば嘘になる。ところがじっさい現地で会った本人は、アシッド・ハウスと出会ったリーズのBボーイというよりは、シックな服装をした、いたって真面目な普通の青年という印象だった。そのときの取材の最後に彼が真顔で言った言葉はいまも忘れられない。「ギリギリの生活だけど、飯が食えて、良い音楽と良いウィードがあれば俺は満足なんだ」
ジョージ・エヴリンにとっての「良い音楽」とは、オーセンティックなソウルであり、80年代のヒップホップであり、70年代のダブやレゲエ、そして官能的なジャズ……なんかである。とりわけクインシー・ジョーンズの『ボディー・ハート』(1974)のような作品や70年代のカーティス・メイフィールドの滑らかなソウル/ファンクは、オールド・スクールのヒップホップとともにNOWの出発点において大きなインスピレーションとなっている。
いずれにしてもNOWの作品は、エヴリン独特のレイドバックしたダウンテンポというパレットの上をさまざまな「良い音楽」がミックスされることで生まれている。彼は現在のところコンスタントに8枚のアルバムをリリースしているが、それらはすべてチルアウターたちの期待に応えるものであり、快適さを約束するものという点ではすべてが同じと言えるのだが、しかし作品ごとそれぞれしっかりと色を持っているという点ではすべてが違ってもいるのである。
先日リリースされたばかりの9枚目のアルバム『Shout Out! To Freedom...』もある意味いつもと変わらぬNOW音楽ではあるが、しかしいつもとは違った熱が込められている。その「違った熱」について、以下にエヴリンがイビサの自宅からじつに熱心に語ってくれている。アルバム制作中に受けた手術について、今回のテーマとなった自由について、音楽を作ることの意味、シャバカ・ハッチングスへの敬意、そしてブラック・ライヴズ・マターについてなど、彼のシリアスな思考がよく出ているし、こんなにたくさん話しているインタヴューは他にないと思うので、エディットは最小限にして、なるべくそのまま掲載することにした。リラックスしながら、部屋のスピーカーから新作を流しつつ読んでいただけたら幸いだ。忘れかけていた微笑みが戻ってくるかもしれない……。
俺は、パンデミック以来、実に多くの物事から自分を解放したからね――つまりパンデミックを機に、リセットしてみたんだ。自らをリセットし、自分自身の内面と再びチューニングを合わせ、そうやって本当に、じっくり人生を見つめ直し、再評価してみた。自分の人生や人間関係等々をね。
■本日はお時間いただき、どうもありがとうございます。
GE:どういたしまして。
■この取材はele-kingという、インディ・ミュージック/エレクトロニック・ミュージック系のウェブサイト向けのものになります。
GE:うん、雑誌は憶えてるよ!
■(笑)はい、紙版もありますが、現在はウェブが主体になっています。
GE:なるほど、そうだよね。
■パンデミック以降、あなたのイビサでの生活はどのように変わりましたか?
GE:そうだな、俺の生活は……思うに、自分はスロー・ダウンし、対して時間のスピードは速まった、それだったんじゃないかな? (笑)いやだから、自分の日常はいま、非常にリラックスしたものになっているってこと。常にツアーで移動、ほぼ数日おきに次の地に飛ぶフライトをつかまえる……なんてこともないし、家に留まり、家族との時間をエンジョイし、そして音楽作りも楽しんでいる。そうだね、いま、とても、とてもハッピーで満足している。
■スペイン本土はたいへんでしたがイビサは島ですから、それほど影響は受けなかったのでしょうか?
GE:あー、うん……。いや、正直、COVIDそのもの以上に、パンデミック関連の規制の方が危険だったっていうか(苦笑)? たとえば、我々もロックダウンさせられたし、家からの外出も禁止、海で泳ぐことさえ禁じられて――それって、俺からすれば理屈に合っていなくてさ(苦笑)。だって、海で泳ぐのは身体の免疫機能に良い効果があるからね。
■はい。
GE:政府側は人びとに自宅謹慎を求めたけど、日光を浴びるのは身体にとって良いことだし。それに、街路での喫煙も、飲酒も禁止。管楽器を演奏する場合を除いて、常時マスク着用が義務づけられていた。
■かなりガチだったんですね。
GE:(苦笑)ああ、やや過剰だった。でもさ、ほら――俺たちはまだ元気にやっているし、いまやこうしてあの頃についてジョークを飛ばせるんだから、そこはラッキーだってことじゃないかな。だけど、COVIDというストーリーはまだ終わっちゃいないと思うし、うん、まだしばらくかかるだろうな。俺たちは果たしてこの冬を乗り切れるか、そこを見極めていこうよ、ね? 冬で状況がどうなるかを見守っていこう。
■ですよね。さて、資料によると今作を作る前に、あなたの健康上で大きな問題があったそうです。長年の活動(ギグや移動など)によってずいぶん身体にダメージがあり、ご自身の健康を案じたということですが、具体的にはどのようなことがあったのかを話せる範囲でいいので教えてください。
GE:ああ。っていうか、それは今年の話。今年のはじめに起きた出来事だよ。
■そうなんですね。
GE:というのも、んー、そうだな、アルバムを書きはじめたのは……2018年末にはソングライティングに取り組んでいたし、そのまま2019年も継続し、で、2020年3月にパンデミック状況が本格化し出した、と。あれは今年のはじめ、2021年1月だったけど、頭の後ろに痛みを感じていたから健康診断に行ったんだ。検診の結果健康上の問題が発覚し、手術を受けることになった。頭に腫瘍があって、それを摘出する手術をね。
■なんと! それはたいへんでしたね……
GE:良性の腫瘍だったし、もう大丈夫なんだけどね。ただ、あの当時は(良性かどうか)わからなかったし、生検の結果が出るまでしばし待たなくてはならなかった。それでも、その間もアルバムには取り組んでいた。だから、あの体験のおかげで非常に……非常に興味深いリアリティがもたらされたっていう。言うまでもなく自分の寿命を、これでおしまいなのか? と自問していたし、果たしてこれが自分の最後のアルバムになってしまうのか、あの段階ではそれもわからなかった……。そういう、あれこれに直面したわけ。
けれども、そうした思いのすべてから数多くの感謝の念が生まれ、生きていることのありがたみを感じる助けになった、というか――まあ、俺はいずれにせよ、感謝の思いはかなり強い人間なんだけど――この一件は自分にとってでかいストーリーだった、みたいな。で、それはある意味このアルバムが表現しようとしていること、そことも一致するんだよ、フリーダムの別の側面、というか。だから、いまおれは自由についていろいろと語っているけれども、これは自由のまた別の要素というか……果たして自分はこのストーリー(=健康問題等々)から逃れられる(free of)のか、それともこの作品が最後のストーリーになるのか? と。というわけで、うん、あれは非常に、非常にディープでエモーショナルな時期だったね。
■腫瘍が良性だったのは本当に何よりですが、そこには長年の活動もあったと思いますか? 先ほどもおっしゃっていたようにあなたは多くのギグをこなしてきたわけで、不規則なツアー生活のなかで健康管理をちゃんとしていなかった、という面も若干影響した?
GE:いやいや、あれは……何もツアー生活ばかりが要因だった、とは自分は言わないなぁ。もちろんツアー中の生活様式は、エモーション面・精神面・肉体面でヘルシーなものとは言えない。そこは認めて、いったん脇に置こう。ただ、俺自身は不健康な生活を送っていなかったしね。食生活もかなりちゃんと考えてるし、エクササイズもやってるからさ。でも、そうは言いつつ、その3つの要素のバランスをとるためには、たまに、その一部をある程度犠牲にしなくちゃならない場面だってあるわけだよね?
■たしかに。
GE:だから、あの出来事が自分のミュージシャンとしてのライフスタイルのせいだった、とは言わないよ。でも、ある意味感じたな……正直、肩と首とに、苦痛・不快感は長いこと、何年も感じてきたんだ。ただ、その要因が腫瘍だったなんてちっとも知らなかった。実際、こんな風に(と、DJが肩をあげてヘッドフォンの一方を耳に押しつけ、首を傾げてモニターするポーズをとる)プレイしながら何時間も立ちっぱなしだったり――
■(笑)ええ。
GE:(笑)フライトを目指して移動続きで、睡眠も食事も行き当たりばったりになったり。だから自分の背中の痛みだのなんだのは、そんなツアー生活のつけが回ってきたのかな? くらいに思っていた。ところが、これ(腫瘍)が見つかったわけで……あれは頭部/首の後ろ、しかも筋肉のなかにできていてね。そのせいで、自分の立ち方から何から、すべてに影響が出たんだ。
■全身に関わりますよね、それは。
GE:そう。で、さっきも話したように、6ヶ月くらい前まで……いや、もっと前かな? それまで、要因がそれだったとは知らなかったわけで。ともかく、クレイジーな話だった。で、おれとしては……長年の活動のせいにするつもりはないし、とにかくこの体験も自分のストーリーの一部として見ている、そんな感じなんだ。それに、あれで、自分は古いエネルギーを、何かしら古くて重たいエネルギーを取り去っているんだ、そんな風にも捉えていた。というのも俺は、パンデミック以来、実に多くの物事から自分を解放したからね――つまりパンデミックを機に、リセットしてみたんだ。自らをリセットし、自分自身の内面と再びチューニングを合わせ、そうやって本当に、じっくり人生を見つめ直し、再評価してみた。自分の人生や人間関係等々をね。で、それをやることは、ロックダウン期の時間を過ごすのに実に役に立った。ほんと、あの頃は、費やせるのは時間だけだったから。でも、あの経験のおかげでとても多くの結果を、そして感謝の念を手に入れたよ。
俺は自分のレコードや音楽を「変化しつつあるコンシャスネス」と関連づけている、それは間違いない。肌の色は関係なしに、すべての人びとを集め一緒にするものとしてね。
■なるほど。すでに作品作りには着手していて、その途中で腫瘍が発覚した、と。ある意味ショッキングな、人生の転換期を迎えたなかでの録音になった今作は、どのような過程で生まれたのでしょうか?
GE:うん、制作中にあの一件は起きたけど、それでも俺は音楽作りをストップしなかったんだ(笑)! うん、とにかく、中断はしなかった。だから、それがこの一連の出来事の、本当に、本当にシュールな側面だったっていうのかなぁ……要するに、健康上の深刻な問題があるからって、じっと安静して心配ばかりしているつもりはないぞ、みたいな。わかる? それは自分じゃないし、仮に事態が最悪なものになったとしても、だったら自分はいま残された時間をできるだけ活用したい、と。そこで、よりディープな地点に連れて行かれたっていうのかな、要するに「もしもこれが自分の作る最後のアルバムになるとしたら、どんな作品にしたいんだ?」と自問したわけ。
■なるほど。
GE:だろ? 実際、その思いのおかげで、より深く掘り下げていくことにもなった。何も考えていないときですら、色んな思いがランダムに頭に浮かんだしね。家族のみんなは大丈夫かなとか、ありとあらゆる考えが勝手にわき上がってきて、我ながら「ワオ、一体どこから出て来たんだ?!」みたいな。音楽に関してもそれは同様だったし、非常に……とは言いつつ、俺はまだこのアルバムのストーリーを見つけようとしていたし、もちろん常に音楽を作っているとはいえ、アルバムが1枚にまとまっていく過程というのは、音楽群が形を成し、徐々に一貫性を持ちはじめ、そこで俺にも「アルバム」が聞こるようになってくる、と。そうなったところで「このアルバムは何についての作品なんだろう?」と自問しはじめるし、そうやって音楽そのものが正体を現しはじめるんだ。
というわけで、パンデミックのはじめ頃、アルバムの30〜40パーセントができていた。で、そこから数人のアーティストの声をかけていき、「君たちサイドの内部で何が起きているか、それについて書いてくれないか」と頼んだんだ。と言っても、(パンデミック被害状況等の)統計上の数字の話ではないよ、もちろん! そうして彼らから俺に返されてきたものは、実に深遠で、本当に興味深いものだった。で、2020年も終わりに向かいつつあった頃、俺も感じはじめていたんだ、「フム、これらの歌はどれも、色んな形の『自由』を求める叫び、様々に異なる呼び声のように聞こえるな」って。それで俺自身、自分に問いかけはじめたんだ、「自由とは何か?」と。ほかのアーティストとの話し合い、あるいは自分の抱いた疑問からですら、誰もがひとりひとり異なる「自由」の定義を持っている、という点に気づいたからね。誰にとっても、各人の自由の定義は違うんだ、と。そこで俺も、おお、これはすごく面白いなと思った。
そうして、続いて――俺自身の、「マイ・ストーリー」が起こったわけだよ、そう思った後に(苦笑)。で、俺もなんてこった! って感じだったし、じゃあ、自分は何から自由になりたいだろう? と考えた。要するに、この(自由に関する)アルバムを作っているところで、自分個人のストーリーも生じた。自由についてのアルバムを作っている最中に、自分も実際に何かから解放されたい/逃れたいと思って生きていた、みたいな。しかもその間、外の世界も同じような状況だったわけだよね? 人びとは外出したがっていたし、他者との結びつきを求めていて、でも家族親類にすらなかなか会えない状況だった。政府の動き方もかなり妙な具合だったし、うん、思ったんだよ、「みんな自由を求めてる、じゃあ、フリーダムってなんなんだ?」と。その思いはホント、このアルバムを作っていた間じゅう、ずっとこだましていたっていうのかな。遂に気がついた、「そうか、誰にだって、そこから自由になりたい何かがあるんだ」とわかったっていうか。たとえ、人びとは「自由になりたい」と口に出して言うことはなくてもね。だから、もしかしたらこれはそれについて話し合い、他の人間にも「そう思っているのは君だけじゃない」と知らせる機会なんじゃないか、と思った。誰しも何かしら、そこから逃れたいと思っているものがあるんだ。誰だって、絶対にある。それは子供時代のトラウマかもしれないし、仕事かもしれない。人間関係から解放されたいとか、なんらかの恐怖症から自由になりたい等々、いくらでもあるだろう。誰もがそれぞれの思いを抱いているし、君ひとりじゃない、俺たちみんなの抱えているスピリットについてなんだ、と。だろう? というわけで俺は……このアルバムの収録曲を通じてだけではなく、本作に関する取材やその周辺で起きる対話を通じて、この疑問から我々はなんらかの癒しを生み出すことができるんじゃないか? そう思ってる――誰に対してもね。いやほんと、このアルバムはあらゆる人に捧げたものなんだよ。
■様々な要素のある作品ですが、たとえば“Imagineering”をはじめとして全体にとても温かなヒューマンさ、受け入れてくれる感じのするアルバムなのは、だからなんですね。
GE:うん、“もたらす”ってことなんだ……もうひとつ俺が大事だと思うのは――様々な問題についての歌を書くのはかなり楽なことなんだ。ただ、俺はそれはやりたくない、っていうのかな? いや、それらの問題に光を当てることはちゃんとやるけれども、それだけではなく、同時に希望ももたらせるだろうか、みたいな? というのも、肝心なのは問題それ自体じゃないから。大事なのはそれらの問題の解決、それなんだ。わかるよね?
■なるほどね、はい。
GE:で、解決は、俺たちはみんな互いに繫がり合っている、そう感じたときにやってくるものであって。というわけで、俺からすれば人びとに「ああしろこうしろ」と命じるのではなく、みんなと何かシェアする形でその点をどうやって表現すればいいだろう? ということだったんだ。その問いかけは、少なくとも人びとがその点を意識する、そういう思考を彼らのなかにインスパイアするかもしれないし。
[[SplitPage]]自由についてのアルバムを作っている最中に、自分も実際に何かから解放されたい/逃れたいと思って生きていた、みたいな。しかもその間、外の世界も同じような状況だったわけだよね? 人びとは外出したがっていたし、他者との結びつきを求めていて、でも家族親類にすらなかなか会えない状況だった。政府の動き方もかなり妙な具合だったし、うん、思ったんだよ、「みんな自由を求めてる、じゃあ、フリーダムってなんなんだ?」と
■これだけ長い間活動し、アルバムを出し続けるというのは決して簡単なことではないと思います。かれこれ30年近くですよね?
GE:ああ、32年じゃないかな?
■アイデアの面でもそうですが、パッションの面でも若いときの気持ちを持続するのは困難です。今作『Shout Out! To Freedom…』はどのようなパッションをもって制作されたのでしょう? どんな風にパッションを維持しているのですか?
GE:そうだな……思うに、俺は常にかなり、好奇心の強い知りたがりな人間だからだと思う。だからいつだって疑問を発しているし、しかもそれらの疑問は大抵、自分自身を中心にしたものだっていう。要するに「この、俺が音楽と結んでいる関係ってなんだんだ?」みたいなことだとか、とにかく「これはなんなんだ?」としょっちゅう疑問が浮かぶし、そうなったらその答えを見つけようとする。あるいは、過去を振り返って「フム、昔の自分はいったいどうやって音楽を作ったんだ?」と思うことすらある。っていうのも、いまの自分はああいう音楽の作り方をやらないし、考え方も変わったから、ああいう音楽の作り方はもうやれっこないな、と。だから、自分の作品を聴き返してテクニカル面での細かい内訳は思い出せないし、それこそもう、自分の音楽を自分で暗号解読するのに近い。ただ、たとえそうであっても、その曲にある魔法の瞬間は認識できる。そのマジックの瞬間を、俺のなかに存在する子供は聴き取ることができる。で、その部分なんだよ、俺がなんとか近づこうとして取り組んできたところっていうのは。
というのも、自分のなかにあるその部分は、とにかくプレイ(遊ぶ)しようとし、楽しみたがっている。でも、子供ではなく年齢を重ねた部分は、物事を見極めようとして、本当に観察型で分析派なものになるんだ。で、自分のその面があまりにシリアスになることもあるのに気がついたし、そうなると音楽作りから楽しさが奪われてしまうんだよ。で、過去にそうやってシリアスになり過ぎて音楽からFUNが失われた、そういう状況に自分が陥ったことは間違いなくあった。だからだろうね、これ(キャリア)に関しては、旅路を行くようなものだ、と捉えられるのは。たまにそうなることもあるさ、と。
でも、俺がその旅路のなかで学んできたことは「自分が邪魔になることなしに、自然に音楽に発生させることはできるだろうか?」であって。その点は、いまの自分にはとても、とても大切だ。音楽が自然に生じる状況の妨げにならないようにすることで、俺は自分のやっていることと自分との関係についてもっと意識するようになりはじめたし、そこにエキサイトさせられる。そんなわけで、いまの自分は――もちろん、「こうだろう」という概念はあるんだよ。ただ、自分が何かを探し求め、音楽を作っているとき、俺はそこでいまだに質問を発しているんだ、「君(音楽)は俺に何を語りかけようとしているんだい?」みたいに。(語気を強め命令口調で)「これは絶対にこうあるべきだ!」、「サウンドはこうじゃないとダメだ!」云々なノリではなくてね。
いや、俺だって確実に、そういう人間ではあったんだよ。ただし、いまの自分はそうではない。いまの自分はゲームに興じているという感じだし、そこにあるアドヴェンチャー、そして可能性は無限大、みたいに思う。で、完璧である必要はないんだよね。俺はこれまで、物事を完璧にしようとして長い時間を費やしてきた。けれども、完璧過ぎるものにしようとするあまり、逆に音楽作りの楽しさが奪われてもしまう。だから、とにかく作ってみて、できたそのままに任せよう、また後になってそれに立ち返ってみればいいさ、と。きっと「ああ、こういうことだったのか」と自分にも理解できるだろう――自分の長い旅路のなかの、どこかの時点で納得がいくはずだ、と。
そんなわけで、10年前に作った音楽で、自分でもどういうことかいまだにわからない、というものはあるんだよ。ただ、いまの俺はそのプロセスを信じている――歌というのはおのずとある地点に達するものであって、そこでそれらの歌は一群の集まりになり、アルバムという大きな絵の一部を成していくようになる、そういうプロセスを信頼している。だからいまの俺は、音楽を作る際のプレッシャーをまったく感じないんだ。かつ、いわゆる「シーン」だとか(苦笑)、そういうものにまったく興味がない。ああいうもろもろは、若い頃の自分が関わっていたことだったからね!
いまの俺はとにかく、自分をもっと知るために、そして自分と音楽との関係を理解するために音楽に取り組んでいるし、それが俺を駆り立て続けている。俺にもわかったんだ、自分は、この「チャンネル」なんだ、って――なんであれ、そのときどきの自分が「これは!」と思ったもの、魅力を感じたサウンド、それを発信するためのチャンネル。で、俺はどこかからそれを受信している、と。俺にとってのそうであることの美しさというのは、いまだに「ワオ!」と驚かされるところにあるし、だからこそもっと音楽を作りたくもなるっていう(笑)。
それに俺は、とくにインスピレーションを探すってことがないんだ。スーパーマーケットを歩いていてもインスパイアされるし(笑)、そこらを歩いていて何か閃くとか、音楽と一切関係のないことをやっていてもインスピレーションが浮かぶ。つまり、ゴリゴリに「音楽、音楽、音楽!」と、そればかり考えなくてもいいってこと。俺は「自分の実人生があり、そして自分の音楽家としての人生がある」という風に分けて捉えてはいない。ノー、ノー、そうじゃないんだ、それらすべてが俺の人生なんだ!みたいな(笑)。そのおかげで、自分はより解放され、かつもっとインスパイアされるようになったと思う。
■『Shout Out! To Freedom…』というタイトルにした理由についてお話ください。この言葉はどういう風に出てきたのでしょう? 先ほども話に出てきたように、いろいろな人びとの「フリーダム観」を提示したい、ということですか?
GE:ああ、だからこの作品は、各種の「あなたたちにとっての自由」に捧げたもの、みたいなアルバムであって。そうはいっても、この1枚で自由に関するあらゆるテーマを取り上げてはいないかもしれないけど――
■それはやっぱり、不可能でしょう。
GE:(笑)ああ、無理だよね。それでも、今回の作品は自由にも色んなものがあるって点を認識する機会であり、自由について対話を交わすきっかけ、でもあるんだ。というのも、我々は得てして……だから、俺ですらこのレコードを作ったことで、自由に対するアウェネスが以前よりもさらに大きくなったし。で、誰であれ、今作を聴く人にも、それと同じことが起きてくれたらいいなと思ってる。自分たちの自由を意識すること、そこは大事だと思う。どうしてかと言えば、我々の一部には満喫できている自由も、ほかの人びとには許されない、ってことはあるからね。でも、あらゆる人びと、誰もが同等の自由を享受するに値する。ただ、その状態に達するには、そこに対する人間の集団的なアウェアネスが存在しなくちゃ無理だろう、と俺は思っている。俺たちはついつい、自分たちひとりひとりのちっぽけな世界に縛られてしまうわけで――
■たしかに。
GE:それよりも、俺たちがみんな、自分たちは集合的なファミリーなんだって意識に目覚めること、そこなんだ。国旗だの、国境だの、国家だの、そういう点にこだわるのはやめにして、自分たちをひとつの惑星の上で一緒に生きている存在、そういうものとして見ようじゃないか、と。俺たちには物事を変えていくチャンスがあるし、物事は物の見方、捉え方次第で変化するものだしね。だからなんだ、この「自由」っていう題材はものすごく大きなテーマだな、と思うのは。そこには実に多くの可能性が含まれている。
■アルバムのタイトルもですが、“Creator SOS”や“3D Warrior”、“Up To Us”といった曲名にも何か強い気持ちや熱い思いを感じます。平たく言えば、メッセージの籠もった作品ではないかと思うのですが、いかがでしょうか?
GE:うん。だからまあ、さっきから話しているように、俺はこれらの曲で、様々な自由という主題にハイライトをつけているわけ。色んな人びと、ハイレ・シュプリームとの共作曲等々で彼らの意見に光を当てているし、そうやって俺たちは質問を発しているんだ。そこなんだよね、あれらの点に対するアウェアネスを持ち込むこと、そうしたアウェアネスをより広い対話の場に持ち来たらそう、と。たとえば“3D Warrior”のタイトル、あれは、「我々は3Dリアリティのなかで生きている」、そこからきたものなんだ。で、そのリアリティのなかで生きるのは実はかなりタフでもある。3Dな現実のなかで生きている人間は、誰もがみんな戦士(Warrior)なんだ。
■私も戦士でしょうか?
GE:もちろん、君も。みんながそうなんだ。だからあの曲はいわば、すべての3Dの戦士たちに捧げる頌歌、みたいな。俺たちはみんな、3Dリアリティの窮屈な縛りのなかで生きているから――現時点では。少なくとも、現時点ではそう。永遠にそうではなくて、いずれ変わるだろうけどね、フフフッ!
[[SplitPage]]この作品のために作った音楽は、パンデミック中ですら作業していたから、かなりの量になってね。それらの音源をすべて携帯に入れ、ビーチまで出かけてジョイントに火をつけ、聴いてみたんだ。で、思ったよ、「……これは2枚のアルバムだなって」って。
■今作にはシャバカ・ハッチングスという強烈な個性を持ったジャズ・アーティストも参加しています。アルバムのなかに何を求めてシャバカ・ハッチングスを起用したのですか? あなたは彼のどんなところに惹かれたのでしょう?
GE:俺がシャバカの音楽と初めて出会ったのは、たぶん2017年だったんじゃないかな? で、あのときの俺は(目を丸くして)「……こりゃなんだ? いったいなんなんだ?!」みたいな反応で(笑)。文字通り彼の音楽、彼のやっているプロジェクトのすべて――とにかくそれらを全部知りたい! と思った。ほら、たまにいるだろ、「この人のことは何もかも知りたい!」とどうしようもなく思わされる、そういうミュージシャンが。俺はとにかく、彼についてもっと知りたいと思ったし、彼の音楽を聴けば聴くほどさらに知りたくなっていったわけ!
これは誓っていい、本当に心からそう信じているんだけど、俺たちは今まさに、「生ける伝説」を体験しているところだ、そう思う。ああいうミュージシャンが世のなかに登場することはまずめったにないし、しかも彼はまだ生きていて、しかも作品を発表し続けている最中なわけで、だからまあ、シャバカはすごいと思っているし、あるとき友人のスティーヴから「お前と彼がコラボレーションした図を想像してごらんよ、最高じゃないか?」と言われて、俺もそりゃアメイジングな思いつきだと思った。
で、“3D Warrior”ってトラックの興味深い点は……あのトラックを、俺はまずウォルフガング・ハフナー、ドイツ人ジャズ・ドラマーである彼と一緒にはじめてね。これまで何度もコラボしてきた、仲のいい友人だ。で、俺はまずこの、ループのアイディアを彼に送り……いや、そうじゃなくて、まず俺たちはレコーディング・セッションをやったんだ。そのセッションの最後のあたりで、俺にあのループのアイディアが浮かんで、そこに付け足した。そしたらウォルフガングが「あ、そのループに合わせて演奏させてくれ、何かやらせてくれ」と言い出して、そうだなあ、それこそ10分くらい? あのループに合わせてひたすらプレイしていったっていう。俺も「うわっ、こりゃすごい!」と思ったけど、俺の手元にあったのはそれだけだったんだ。ところが、それから4ヶ月くらい経って、あれは……たしか2018年だったはずだな。うん、4ヶ月後に、俺は自分の地元のリーズで、長年の付き合いのキーボード・プレイヤー、そして若いベース奏者のアレックス・ビーンズとスタジオ入りして、そこで彼がベース・ラインとメロディを思いついた。ちょっとしたループ、ドラム、ベース・ラインができたわけ。
それで俺は2019年10月にハイレ・シュプリームとフックアップして数日セッションをおこなって、その終わりあたりに彼が「そういえば、こんなビートがあるんだけど」と一種のトライバルなビート調な要素を持ち込んできて。彼はルーツがエチオピア系の人だし、そこで俺のイマジネーションもいろいろと広がって、ふたりで3Dリアリティについて話しているうちにあの、戦士についての歌詞を思いついた。そうやってヴォーカルができた、と。
だから曲としての構造はなくて、いくつかの要素だけがそろっていたわけ。そしてシャバカとやったらどうか?という話が出てきて、「彼にやってもらいたいチューンはこれだ」と思った。となるとある程度の構造をクリエイトする必要があったし、自分でそれをやってね、あの作業はDJツアー先の、ホテルの一室でのことだったと思う(笑)。そうやってこしらえた音源をシャバカに送り、彼も「うん、すごく気に入った! たぶん何かやれると思う」と言ってくれて。そして11月にハイレ・シュプリームが俺のスタジオに再びやって来て、今度はそこで一緒に“Wonder”を書いた。シャバカにはどっちにせよ1月にスタジオに入ってもらう予定になっていたし、彼にその音源を送り「この歌、どう思う? 何かやれる?」と訊いてみた。彼の方も「これはいいね、自分にも何かやれると思う」という返事で、そこで俺は彼に「オーケイ。2曲ともやりたい?」と訊ねて、彼も「よし、試しにやってみよう」と返してくれて。で、あれは2020年1月15日、俺の50歳の誕生日のことだったけど、あの日俺はモルディヴにいてね。で、インボックスにあの2曲、シャバカが管楽器を演奏してくれた“Wonder”と“3D Warrior”の音源が届いて――あれはもう、これまで自分がもらったもののなかでも最高の誕生日プレゼントのひとつだった、みたいな(満面の笑顔)。
■(笑)。
GE:で、さっき話した“3D Warrior”の原型であるループ&ドラムの10分半のヴァージョン、あれはいずれ、ヴァイナル盤として発表すると思う。あれについて思い出すのは、ここ(イビサの)スタジオであの音源に取り組んで……いやだから、10分半っていうのは、ひとつの楽曲をノンストップで演奏するにはかなり長い尺なわけだよね。俺たちもすっかり音楽に没入して我を忘れたし、午前4時くらいまでセッションを続けて、終わった頃には「あれ、自分はどこにいるんだ?」みたいな。ただ、あのトラック全体について驚異的な点のひとつは、あれが4つの異なる筋書きを経てレコーディングされたものだ、というところでね。だから、まずウォルフガング・ハフナー、そして地元リーズのミュージシャン、続いてハイレとのセッション、最後にシャバカがリモートでひとりで演奏を添えてくれた。それらをすべて組み合わせたわけだし、俺自身「こんなことが、どうやったら可能だったんだろう?」とすら思うよ、ほんと(笑)。ってのも、(バラバラに作っていったにも関わらず)参加した全員が同じ空間に一緒にいるフィーリングのある曲だからね。すごいな、と自分でも思うし、仮に、俺があらかじめこうなるように計画立ててやっていたとしたら――もっとも、それはやらずに流れに任せていったんだけど――きっと、自分にこの結果を生むことはできなかったんじゃないかな。
これこそさっき話した「音楽が発生するのに任せて邪魔しない」の完璧な例だろうね、とにかくやってみよう、自然に任せよう、と。シャバカがこのアルバムに持ち込んでくれたものはとにかく……彼に参加してもらえて心から光栄だ――もちろん、今回参加してくれたミュージシャン全員に対しても本当にそう思っているけれども――彼は途方もないミュージシャンだし、まだコメット・イズ・カミングやサンズ・オブ・ケメット、シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ等を聴いたことのない人は、どうか、ぜひあれらのアルバムの世界に飛び込んでみて欲しい。素晴らしい音楽が鳴っているから。
■シャバカは政治的な演奏家でもありますよね? 今作にBLM(ブラック・ライヴズ・マター)からの影響はありますか?
GE:んー、いいや。というのも、俺はあのムーヴメント以前から、あれらの問題を考え、BLMと信じてきたから。あの物語でひとつ言えるのは、ああして様々な運動が起こり、少し経ったところで、俺も「もしかしたらこれは、歴史のなかの、何かが変わる瞬間なのかもしれない」と思うようになった。もしかしたらこれこそ、クソのような状況が終わりを告げて良い方向に向かっていく、その転換点かもしれない、たぶんその瞬間なんだろう、と。ただし、俺はまだ「たぶん」だと思うけどね。うん、俺はまだ「たぶんそうなんじゃないかな」と言うね。どうしてかと言えば、そこに至る道のりはまだ、本当に長いから。でも、俺は自分のレコードや音楽を「変化しつつあるコンシャスネス」と関連づけている、それは間違いない。肌の色は関係なしに、すべての人びとを集め一緒にするものとしてね。我々には人間の肌の色、見た目といった側面を乗り越えていく必要がある。それらを越えたところまで行って、本当に、お互いをブラザー&シスターとして眺めていかなくちゃ。誰だってみんな同じ空気を吸っているんだし、(苦笑)ほかの人よりも臭うクソをする奴もいるとはいえ、俺たちもみんな、クソはするんだからさ。アッハッハッハッハッ!
■(笑)いきなり下卑た話になりましたね。
GE:ハッハッハッ。せっかくポエティックに答えはじめたってのに、回答の最後がヒドかったなぁ、アッハッハッハッ!
■(笑)。また、Saultのアルバムからのインスピレーションもあるのではないでしょうか? 彼らが昨年出したアルバム『Untitled』と、どこかとても似たヴァイブレーションを感じたのですが。
GE:ああ、もちろん、Saultのことは知ってるよ。でも……んー、どうだろう? 俺たちのバックグラウンドがとても似たものであるのは知っているけどね。彼らはこの2年間でアルバムを3枚くらい出してるんじゃないっけ? いや、それとも最新作で4枚目なのかな? ともあれ、うーん(と笑顔まじりで考え込みつつ)、どうかなぁ〜、彼らの作品と俺の今作とに似たところはあるだろうか?……自分の口からはなんとも言えないね、とても答えにくい。その判断はリスナーのみんなにお任せするよ。というのも、俺は自分の音楽をそういう風に聴かないっていうか、これだけレコードとの間に距離がないと、客観的になれないんだ。でもまあ、Saultは大好きだし、それに俺はあらゆる音楽のファンであって。だからまあ、自分自身の音楽をほかの音楽と同じように聴くのはむずかしいんだ、自分に近過ぎるから。ただ、今回の作品はコラボレーションそしてそこにあるストーリーも含め、独自のユニークなものだと、俺はそう思ってる。
いまの俺は、こうして『Shout Out! To Freedom…』を作り終えて世に出して、本当に満足しているしハッピーなんだ。かつ、さて次は何をやろうか、とものすごくエキサイトしてもいる。で、これは自分のキャリアのなかで初のことなんだ(苦笑)、アルバムが出たばかりの段階で、すでに次のアルバムに取り組んでいるって状態は。
■シャバカもそうですが、今回のアルバムにはジャズのフィーリングが注入されていますし、“3D Warrior”ではアフロなパーカッションがリズムを刻んでいます。ジャズやアフロという音楽は、主にヒップホップやソウル、ファンク、レゲエをミックスしてきたあなたにとって新たな挑戦だったのでしょうか?
GE:過去に出したレコードでも、ジャズ/アフロと軽く戯れたことはあったと思うけどね。たとえば『Smokers Delight』や『Feelin’ Good』といったアルバムを考えてもそうだし、それに前作『Shape the Future』ですら、間違いなくビッグ・バンド・ジャズのスタイルにトライしていたよね。けれども、今回のレコードはいままででもっともディープな作品だ、自分はそう感じている。うん、より深く入っていったね。さっきも話したように、大事なのは音楽を探究していく点にあるし、より深い領域に思い切って挑むことにある。たとえそのタイプの音楽をよく聴いて知ってはいても、実際にそれを作るのはまったく別の話であって。だから、俺は自分の限界を押し広げていけたらいいなと思っているし、プロダクション等々の面でもっと拡張したい。で、今回彼らのようなミュージシャン、そして素晴らしいアーティストたちと一緒に仕事できたことは、確実にその助けになってくれたと思う。
■“GTP Call”における声、あれはグリーンティー・ペンだと思いますが、彼女は何を言っているのでしょう?
GE:(笑)あれは……俺たちが連絡を取り合ったのはパンデミック中のことでね、だからお互いにファン同士ではあるものの、実際に会ったことがなかった。というわけで電話をかけたけど取り損ねる、というすれちがいが何度かあって。携帯メールを送ったり、留守電メッセージを残したり……要するに、ちゃんと通話したことがなかったんだよ(笑)! もちろん、いまはもう彼女と話したことはあるけど、あの当時はお互いにミスりっぱなしで、実際に話したことがなかったっていう。で、たしかアリア(※GTPの本名)にヴォーカル・パートの一部をやり直ししてもらう必要があって、彼女はそれをやってくれた。その後で彼女がヴォイス・メッセージを送ってきてね、「その後どうなった? レコードの進展具合は? あのレコード、私もすごく気に入ってるんだけど」云々、問い合わせてきた。で、残されたそのメッセージを聞いて、俺は「これ、いただき。使わせてもらおう!」と思ったんだ(笑)。
■(笑)なるほど。
GE:ハッハッハッハッハッ! あれは本当に、(インタールードとして「書かれた」ものではない)本物のメッセージ、とにかくとても正直な言葉だし、それだけではなく……聴き手をこのレコードにより近づけるものじゃないか、そう思ったんだ。要するに、リスナーもこのレコードの生まれたプロセスの一部になるような、そんな感覚を抱かせるんじゃないか、と。だってあれは、彼女があの曲の進行状況を確認しているって内容だからね(笑)。っていうか、あのメッセージをアルバムに入れたことすら、実は彼女はまだ知らないんだよなぁ、クハッハッハッハッ……
■(笑)。そのグリーンティー・ペンやオシュン、ハイレ・シュプリームら客演は素晴らしいですが、あなたは彼らをどのようにして知るんですか? 世界のあちこちにちらばっている人びとですが、たとえばフェスでばったり行き会って知り合った、とか?
GE:いろいろだね。たとえばハイレ・シュプリームは、俺の友人の妻が、彼の歌のSpotify リンクを送ってきてくれて。あれは2019年8月のことだった。“Danjahrous”って曲を聴いたんだけど、途端に「こいつのことは探らなくちゃ」と思わされた(笑)。アメイジングなアーティストだと思ったんだよ、シャーデーやマーヴィン・ゲイのトーン、それにカーティス(・メイフィールド)も少し聴いて取れたからさ。自分が何を好きかは俺にはちゃんとわかっているし、「なんてこった、彼の声からそれらの要素を自分が引き出せたらどんなに素晴らしいだろう!」と思った。というわけで連絡先を突き止め、電話で話すことになって、そうしたら向こうも俺のファンだってことが判明してね。彼はブルックリン在住だと教えてくれて、こっちは「あ、っていうか俺、あと2週間後にブルックリンに行くんだけど」みたいな(笑)。そうしてブルックリンで彼と会い、一晩一緒につるんで、ご機嫌な一夜だった。で、俺は次の月、2019年10月に彼をイビサに呼んで5日間滞在してもらい、そこで8曲くらい共作したんだ。
グリーンティー・ペンの場合は、彼女の“Ghost Town”っていう、イアーバッズ(Earbuds)がプロデュースしたあのトラックを聴いて、俺と友人との間で「彼女はすごい、一緒に何かやれたらクールだろうな」みたいなやり取りをしていたんだ。そうこうするうちにロックダウンが起きた、と。やっと彼女の連絡先を入手したわけだけど、さっきも話した電話のすれちがいが起きて、彼女から「うん、とにかくビート他の入ったフォルダか何かを送ってみて」って言われて、それで素材の入ったフォルダを送った。で、最初のラフなアイディアが戻ってきたんだけど、俺は「いや、君にはもっとマジにディープな歌を書いて欲しいんだ」と頼んでね。そもそも君と共演したかったのは、素晴らしい声の持ち主であるのはもちろんだけど、俺は君の歌詞の書き方が好きだしそこに惹かれているからだし、あの調子でやって欲しい、君はかなり深いテーマについて書いてるよね? と。というわけで彼女もやがて、あの“Wikid Satellites”を書いてこちらに返してくれたんだ。彼女も俺のファンでね、そこはコラボを進めるのに役立った(笑)。オシュンについて言えば、彼女たちとコラボしたいとずっと思ってきたんだ。かれこれ4年くらい追いかけていたよ。
■そうなんですね!
GE:うん、なんとかフックアップしようとがんばっていたけど、なかなか軌道/タイミングが合わなくてね。やっとのことで彼女たちと話ができたのは2020年5月のことで、あの頃ちょうどジョージ・フロイド事件後の一連のデモ等が起きていて、それについて彼女たちと電話で話し合い、「(ロックダウン中のアメリカの)内側で起こっていることについて書いてくれないか」と言ったんだ。彼女たちはあの実に素晴らしい歌(“Breathe In”)を書いてくれたし、それからピップ・ミレット(“Isolated”)の場合は、彼女のマネージャーをちょっと知っていてね。マネージャーと「このプロジェクト向けにプロデューサーを探しているんだ」云々の話をしていて、そのうちに「彼女にうってつけの曲がある」と提案して、彼女に電話していろいろと話し合って。で、彼女はあの、ほかから切り離され、ひとりぼっちでいることについての非常に深い歌を作ってくれた。マーラTK(“Trillion”)、彼のことは知っていたし、俺はあのとき実際、ニュージーランドにいたんだ。あれはたしか2018年の終わり頃で、彼と一緒にウェリントンで共作&レコーディングをやった。だから知り合い方もいろいろなわけだけど……とくにいまのような時期は、色んなアーティストとコラボするのは興味深いと思う。というのも、俺はずっと信じてきたんだ――誰かとコネクトして何か一緒にやりたいと思い、それが(パチン、パチンと指をスナップさせながら)とんとん拍子で楽に進めば、それはきっと起きるべくして起きたコラボだったんだろう、と。
過去数年で気づいたのは、コラボレーションが本当に美しい成果を生んでいるってことでね。我々は一種の「ゾーン」のなかにいる感じがするっていうか、俺たちはコネクトし、曲を書き、人びとと恊働することについて一種グローバルな考え方をしている。もう、自分の生きるコミュニティや近隣エリアの人びと、知り合いだけに限らないっていう。だって、俺は世界中の音楽を聴いているんだしね。うん、そこもあるんだろうな。先に出た「長きにわたり音楽作りへの関心をどう維持するのか?」という質問だけど、その答えには新たなアーティストを見つけ出すこと、彼らとコネクトし音楽的な冒険に一緒に乗り出すこと、そこもあると思う。
■今回は、アルバムの曲数が15曲と多く、これは『Smokers Delight』以来の多さなのですが、しかしあのアルバムはほとんどがインストで、今作はほとんどが歌(ないしはラップ)があります。そう考えると、『Shout Out! To Freedom…』はここ20年のなかではもっとも特別な力が注がれているのかもしれませんね。あなた自身はどう思われますか? クリエイティヴ面での一種のターニング・ポイント的な作品でしょうか?
GE:ああ、確実にそうだと思う。というのも、今回の旅路で得たのは――この作品のために作った音楽は、パンデミック中ですら作業していたから、かなりの量になってね。それらの音源をすべて携帯に入れ、ビーチまで出かけてジョイントに火をつけ、聴いてみたんだ。で、思ったよ、「……これは2枚のアルバムだなって」って。
■(笑)。
GE:(笑)俺としても驚いたし、オーライ、さて、どうしよう……と考えた。どの音源を2枚のどっちに入れるか、曲の居場所を見極めなくてはならなかったし、それ自体がひとつのちょっとした謎解きのようなものだった。でも、いまやこうして1枚まとまったわけだし、いままさにもう1枚に取り組んでいるところなんだ。それが『Shout Out! To Freedom…』パート2的なものになるのか、その正体は自分にもまだわからないけれども、とにかく取り組み続けているし、だからなんだ、俺がこの「バブル」というか、「フロー」と呼んでくてれもいいけど、そこから出ずにいるのは。とにかくこのクリエイティヴな状態にノって動き続けているところなんだ、何かが起こっているからね。それは流れ続けている。だから、間違いなく俺は以前以上にインスパイアされているけれども、いまは――アルバムを作るときというのは、最終段階に入ると、俺には手放すのが実にむずかしかったりするんだよ。いったん世に送り出してしまったらそれまで、だからね。ところがいまの俺は、こうして『Shout Out! To Freedom…』を作り終えて世に出して、本当に満足しているしハッピーなんだ。かつ、さて次は何をやろうか、とものすごくエキサイトしてもいる。で、これは自分のキャリアのなかで初のことなんだ(苦笑)、アルバムが出たばかりの段階で、すでに次のアルバムに取り組んでいるって状態は。こんなことは、いままで一度もなかった。で、俺としても「ワオ、こりゃすごいぞ、グレイト!」って感じだし(笑)、うん、いま、たしかにインスパイアされているところだね。
■次作を楽しみにしています! 質問は以上です。素晴らしいアルバムですし、ファンも気に入るのは間違いないと思います。本日はお時間を割いていただき、本当にありがとうございました。
GE:応援、ありがとう。本当に、君たちには感謝しているよ。すごく、すごくありがたく思ってる。
■了解です。どうぞ、お体にはお気をつけて。
GE:ああ、気をつけるよ。近いうちに、いつかまた日本に行ける日が来たらいいなと俺も思っているからさ!(と合掌する)
■もちろんです、日本のファンも楽しみにしています。ありがとうございました!
GE:サンキュー&ビッグ・ラヴ! バーイ!





















