ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 別冊ele-king 音楽が世界を変える──プロテスト・ミュージック・スペシャル
  2. Cornelius ──コーネリアスがさらなる新曲“Twisting & Glistening”を公開
  3. Beatrice M. - Sinking | ベアトリス・M
  4. R.I.P. Miru Shinoda 追悼:篠田ミル
  5. Visible Cloaks - Paradessence | ヴィジブル・クロークス
  6. MariMari ——佐藤伸治がプロデュースした女性シンガーの作品がストリーミング配信
  7. 未来マニア──エレクトロニック・ミュージック・ガイド
  8. YHWH Nailgun - Magazine | ヤハウェ・ネイルガン
  9. Cornelius ——コーネリアス、ニュー・アルバム『REFRACTIONS』の詳細を発表
  10. Ryo Isobe ——磯部涼の新著は『脱法』
  11. Columns Boards of Canada ボーズ・オブ・カナダの帰還  | ──その軌跡、その影響、そして13年ぶりの新作『Inferno』をめぐって
  12. Tadekui ──北海道出身の期待のバンド、タデクイのファースト・アルバムが全国流通開始&LPもリリース
  13. UKインディ・ロック入門──ポスト・パンク、ギター・ポップ、スカとダブ編
  14. Columns #16:ワールドカップ2026 ──時代は変わった(日本代表のことではない)
  15. interview with Mouse on Mars 僕たちはダブを、ジャンルではなく社会的なものとして捉えたい | ——リー・ペリーとの共作を発表したマウス・オン・マーズ、インタヴュー
  16. Jeff Mills × Jun Togawa ──ジェフ・ミルズと戸川純によるコラボ曲がリリース
  17. AMBIENT KYOTO - TOKYO ——坂本龍一と高谷史郎による「async - immersion」がついに東京で開催
  18. FUTURE FREQUENCIES FESTIVAL 2026 ──新たなフェスティヴァルが始動、ジョイ・オービソンやザ・セイバーズ・オブ・パラダイス、ノウワーらが出演
  19. Columns Introduction to P-VINE CLASSICS 50
  20. interview with Loraine James ロレイン・ジェイムズの“ポップ”な冒険 | ——来日直前インタヴュー

Home >  Reviews >  Album Reviews > Aldous Harding- Designer

Aldous Harding

Rock

Aldous Harding

Designer

4AD / ビート

Tower HMV Amazon iTunes

木津毅   Jun 27,2019 UP

 相変わらず女性監督作品のピックアップや受賞が少ないことが嘆かれているカンヌ映画祭だが、『ピアノ・レッスン』で女性監督として初のパルム・ドールを受賞した(1993年)のがニュージーランド出身のジェーン・カンピオンだったのはなぜだったのだろうということをときどき考える。それまでも欧米には才能のある女性監督がたくさんいたはずだが、男性監督たちの権威が確立しているフランス映画界で女性が評価されるためには、なにかエキゾチックな要素が必要だったのかもしれないと邪推してしまう。『ピアノ・レッスン』はなるほど、荒涼としたニュージーランドを舞台として、「声を失った女性」がマオリ族と暮らす男に狂おしく愛を求める物語であった。それは古典的なラヴ・ストーリーでありながら、欧米からは見えてこない風景だ。
 カンピオンのことを思い出したのは、現在インディにおいて熱い注目を集めるオルダス・ハーディングがニュージーランド出身だと聞いた僕のたんなるこじつけだが(カンピオンはオーストラリアで育ったというし)、ただ、彼女の表現がいま評価されているのは、英米を中心とするインディ・シーンの空気をさりげなく外しているからではないだろうか。ミニマルでメランコリックな彼女のアシッド・フォークにニュージーランドの土着性が入っているわけではないのだが、少なくとも英米インディのトレンドとはあまり関係ないところで凛とした表情をしている。

 『デザイナー』はインディ・メディアを中心に静かながらもたしかに評価された『パーティ』に続く3作めで、引き続きPJハーヴェイとの仕事で知られるジョン・パリッシュをプロデューサーに迎え、ウェールズでレコーディングされた。これまでゴシック・フォークと呼ばれがちだったその音は、けっして派手にはなってはいないが、パーカッションやストリングスのアレンジがやや増すことでより立体的なものとなっている。メロディをトラディショナルな響きの弦が追いかける“Fixture Picture”で幕を開け、コンガの軽やかな打音が聞こえる“Designer”では軽快に、フルートの音色がドリーミーなコーラスと戯れる“Zoo Eyes”では穏やかにフォークの時間が流れていく。この奥ゆかしさ。あくまでアコースティックの響きを生かして柔らかな耳触りを演出するのはいかにもジョン・パリッシュの仕事という感じで、たしかにPJハーヴェイの21世紀の傑作群を彷彿とさせる部分もある。たとえばミツキやシャロン・ヴァン・エッテンといった近年話題を集める女性シンガーソングライターのようにポップ路線に進むのでもなく、ましてやセイント・ヴィンセントのようにエキセントリックを標榜するのでもない。フェミニズム全盛の現在において、何かを主張しようというわけでもない。慎ましいが、さりげない豊かな時間をシンプルな音で追求しようとしている。牧歌的でありつつかすかにダークで、自然の風景を想起させるようで空想的でもある。混ざり合う不安と喜び、その愛の歌。
 とりわけ本作でのハーディングの魅力が炸裂するのが“The Barrel”で、控えめなパーカッションがゆるやかなグルーヴを醸すなか、ピアノやサックス、アコースティック・ギター、それに男女のなんだかファニーなコーラスが愛らしく通り過ぎていく。ハーディングの憂いと茶目っ気が溶け合ったような歌声。彼女自身が奇妙な衣装でぎこちない踊りをするミュージック・ヴィデオがまた面白くて、どこかシュールなユーモアが漂っているのがこれまでの作品との最大の違いなのだなと気づかされる。

 オルダス・ハーディングのフォーク・ソングには何かデリケートな形での「辺境」が息づいているように思わされる。時代や土地性に過剰に振り回されないがゆえの、秘境めいた佇まいを有しているのである。“Heaven Is Empty”における小さな音のアシッド・フォークのさりげない凄み、その生々しさは、トレンドが現れては去っていく音楽産業の産物ではない。来日も決定しているのでぜひその姿を目にしたいと僕は考えているが、それは彼女が「最旬の女性シンガー」だからではなく、彼女の歌にはいまもフォークの純粋な領域が残されていると感じるからだ。

木津毅