Home > Interviews > interview with Jon Hopkins - 瞑想、宇宙、ビッグ・バン
この透明感はどこから来るのだろう。初めて『Small Craft On A Milk Sea』を聴いたとき、その音のあまりのクリアさに驚いた。ノイジーな展開をみせる曲でさえそうなのである。洗練、あるいはある種の雅と言ってもいい。それはたぶん、イーノひとりの力によるものではなかったのだろう。共作者としてクレジットされたレオ・エイブラハムズ、そして彼の古くからの友人であるジョン・ホプキンス。彼らの貢献は想像以上に大きかったのではないか――このたびリリースされたホプキンスの新作『Singularity』を聴いて、改めてそう思った。
じっさい、海の向こうでの彼の評価はとても高い。たとえば昨年『ピッチフォーク』で企画された特集「The 50 Best IDM Albums of All Time」では、2013年の前作『Immunity』が37位に取り上げられている。その記事のなかで選ばれた2010年代以降のアルバムが2枚のみだったことを考えると、これは快挙と言っていい(ちなみにもう1枚はジェイリンのファースト)。同作はマーキュリー・プライズにもノミネイトされており、やはりそのどこまでも豊饒なる音響とテクスチャーが高く買われているのだろう。
Jon Hopkins Singularity Domino / ホステス |
そのホプキンスにとって今回の新作はじつに5年ぶりのアルバムとなる。その間に彼が出会ったのはヨガと、そして瞑想だった。新作のサウンド・デザインにもその体験は大きな影響を与えており、アルバム後半のアンビエント寄りの曲群からはもちろんのこと、本人曰く「攻撃と美しさ」をミックスしたかったという“Emerald Rush”や、あるいは“Neon Pattern Drum”や“Everything Connected”といった機能的でトランシーな曲からも、ますます磨きのかかった透明さと精密さを聴き取ることができる。
もしいまあなたが素朴に「美しいもの」に触れたいと思っているのなら、何よりもまずこのアルバムを手に取ることを強くお薦めしたい。(小林拓音)
揺るがない世界観と自分の素直な気持ちを表現することが音楽の大きな役割。音楽に限らず、アート全般の役割だと思うね。
■いろんな国からの取材を受けていると思いますが、プロモーションはたいへんですか?
ジョン・ホプキンス(Jon Hopkins、以下JH):アルバムがリリースされてから1週間が経つけど、いまのところ、すごくエキサイティングだよ。イギリスではトップ10に入ったけど、ああいう音楽がトップ10に入ることなんてほとんどないしね。先週最初のショウをやったんだけど、心配だったヴィジュアルもうまくいって、すべてがいい感じだった。いまからはインタヴューよりもライヴ・ショウが多くなる。あとはラジオだね。移動も多くなるし、忙しくなるよ。
■前作『Immunity』が2013年ですから5年ぶりになりますよね。この間、ライヴや映画の仕事で忙しくしながら、今回の新作の準備も着々と進めていたと思います。あなたにとってこの5年間はどんな意味のある5年間でしたか?
JH:5年のうち、2、3年はツアーで忙しく、ツアーが長かったから、そのあとはちょっとオフをとった。その間はロンドンのバービカン・プロダクションの学校で教えて、そのあと2015年の終わりに今回のアルバムの制作をはじめたんだ。仕上がったのは2017年の10月。そして、いまやっとそれをリリースできてまたツアーがはじまるところ。
通訳:制作自体には2年間かかったんですね?
JH:そう。といっても、2年間まるまる制作していたわけではなくて、じっさいに制作に費やしたのは1年半くらい。制作しては休み、制作しては休み、といった感じだったね。
■この5年間で、あなたのまわりの人びとや環境、あるいはUKや世界の状況など、世の中は変わったと思いますか? もし変わったとするなら、どのようなところに変化を感じますか?
JH:複雑で、どう言葉で表現したらいいかわからない。でも、その変化はすべて音に出ていると思う。サウンドのレイヤーや複雑さに自然とそれが反映しているんだよ。とくに制作をしていた2年間は波のように変化が起こっていたと思う。でも変化が起こるなか、音楽を作る上でたいせつなのは、ピュアな感情をそのまま表すことだと思うんだ。揺るがない世界観と自分の素直な気持ちを表現することが音楽の大きな役割。音楽に限らず、アート全般の役割だと思うね。それが人びとをハッピーにすると思うし、いい意味で影響するんじゃないかな。不安や恐れを振り払ってくれる。不安を抱えていても、音楽は自分のそばにいる味方、みたいな感じ(笑)。
通訳:あなたにとっていちばん大きな変化はなんでしたか?
JH:僕はカリフォルニアに住んでいたから、それ自体が人生の大きな変化だったね。住む場所が変わって、もっとヒッピーになったと思う(笑)。ヨガや瞑想をはじめたりさ(笑)。それは音楽にも深く影響していると思う。
通訳:いまもヨガは続いていますか(笑)?
JH:続いているよ。呼吸が重視されたヨガで、痩せはしないけど、精神的にすごくいいんだ。だから、身体のためには他のエクササイズもしてる。不眠症だったからはじめたんだ。おかげで治ったよ。人生でいちばん大切なのは、自分の脳内をコントロールできることだと思うね。それは学ばないと習得できないことだと思う。
人生でいちばん大切なのは、自分の脳内をコントロールできることだと思うね。それは学ばないと習得できないことだと思う。
■作曲はどんなところからはじまるのですか? あなたの音楽には瞑想的な側面もあるし、アンビエントの要素もありますが、作曲は理論的にはじめるのか、それとも感覚的にはじめるのでしょうか?
JH:ほとんどは即興だね。音を即興で演奏してみて、そこから広がっていく。だから、感覚的だね。たとえば“Recovery”はピアノを弾いているうちにあのアルペジオが生まれた。あれはそのアルペジオをもとに東京にいたときも曲を書いたんだ。そこでも何も考えず、何が起こるかわからないまま音を出してみた。あの曲は、そのアルペジオをもとに曲が自分でできていった感じだね。曲によってはじまり方は違うけど、スタジオに入ると、スタジオの外で考えることはあまりない。スタジオのなかで即興で演奏して、そこから曲を作っていく流れがほとんどだよ。
■先ほど少し出てきましたが、今回のアルバムの制作期間中に瞑想を経験されたそうですね。なぜ瞑想を必要としたのか、そして、じっさいに経験したことが音楽にどのようにフィードバックされたのか話していただけますか?
JH:瞑想は、はじめて3年くらいになる。瞑想をはじめてから、サウンドがもっとオープンになったんだ。そして、もっとポジティヴになったと思う。だから、このアルバムでは、前回以上に喜びが表現されていると思うよ。
通訳:瞑想はどれくらいやっているんですか?
JH:1日に2回、20分ずつ。時間がないときは1日1回。
通訳:けっこうしっかりやってますね!
JH:瞑想は、僕にとってやらないといけないからやっていることではないんだよね。やりたいからやっていることなんだ。すごく気分が良くなるから瞑想をする。課題ではないんだよね。
■前作もそうでしたが、今回もアルバムの曲順は重要ですよね? アルバムは物語であり、そしてそこにはあなたの考えが潜んでいるようですが、それを教えていただけますか? それは人生についての考えですか?
JH:もちろん、曲順はいつだって重要。曲を作っている時点で順番を考えているほど、作品の流れは僕にとってたいせつなんだ。抽象的だから、その物語や考えを言葉で説明するのは難しい。込められているものは、すべて言葉では表現できない。だから、リスナーがそれぞれにストーリーを感じ取ってほしいんだ。
■“Everything Connected”のような曲もその成果のひとつでしょうか? 曲名にも深い意味があるように思いますし、曲調もトランシーですよね。
JH:その曲は、セレブレイションを音にした作品なんだ。生きていることの祝福。人生は素晴らしいものだということに気づく美しい瞬間を表現したかった。このトラックを作るのは、すごく楽しかったよ。音ができていくままに自由に作業を進めていったんだ。この曲もそうだし、今回のアルバム全体が新しく、アグレッシヴで、奇妙で、長くて……話せばきりがないけど、新しいことをたくさん試みているんだ。アルバム全体が革新的だし、長い物語、旅のような仕上がりになっていると思う。
質問:野田努+小林拓音(2018年5月30日)
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