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Home >  Interviews > interview with Jon Hopkins - 21世紀の今日サイケデリックであること

interview with Jon Hopkins

interview with Jon Hopkins

21世紀の今日サイケデリックであること

——ジョン・ホプキンス、インタヴュー

野田 努    通訳:田中真紀子 Photo : Steve Gullick   Nov 12,2021 UP

 60年代のカウンター・カルチャーの夢のいくつかは、今日では先進国においてそこそこ普通になっている。たとえば大麻の合法化(日本は除く)、同性婚(日本は除く)、そして瞑想(日本も含む)——で、この話はジョン・ホプキンスに繋がる。その昔ブライアン・イーノとともにコールドプレイをプロデュースしたこともあるホプキンスは、最初は「クラシック・ピアニスト上がりのポップ・エレクトロニカ/ポップ・アンビエントの騎手」として注目され、〈ドミノ〉レーベルを拠点としつつ、インディとテクノとアンビエントが合流する領域において幅広いリスナーに支持された。ことに母国のイギリスでは、ホプキンスは(アンダーグラウンドではなく)ポップ・フィールドで活躍するビッグネームのひとりである。
 ホプキンスの特徴はクラシック音楽を経由したロマン主義的な作風にある。彼の作品は総じて叙情的で、いたって情熱的で、物語性を有している。まあ、手短にいえば劇的なのだ(つまりヴァーティカル=垂直的ではない)。それはエレクトロニカ/アンビエント/ダウンテンポに焦点を当てた2008年の出世作『Insides』にも、ダンサブルな展開を見せた2014 年の人気作『Immunity』にも言えることで、高い評価を得た2018年の『Singularity』もまた起伏に富んだホプキンスらしい作風ではあったが、彼はこの内省的なアルバムにおいて毎日欠かさずやっている瞑想からのインスピレーションを具現化した。超自我的なトランシーなヘッド・ミュージックがその作品では意識的に追求されているわけで、今回の新しいアルバムはそれをさらに突っ込んだもの、それは精神の治癒としての音楽で、「サイケデリック・セラピー」という直裁的な言葉を表題としている。
 サイケデリックという文化も60年代の産物で、LSDなるドラッグを触媒にしたカウンター・カルチャーの一部だった。それこそジョン・レノンが「いま見えている世界は誤解」と歌ったように、違った世界を見ることは世界観を相対化することにつながる。そこでホプキンスだが、彼はどうやら今回はドラッグの力を借りずに違った世界を体験し、そしてそれをリスナーとシェアしたいと思っている。とはいえ、ホプキンスの「サイケデリック」はカウンター(抵抗文化)ではない。多くの現代人とりわけ企業人に求められているもののひとつだったりする、しかもわりと切実に。(ポポル・ヴーがカフェ・ミュージックになる日も近いだろう)
 アルバム『ミュージック・フォー・サイケデリック・セラピー』の制作プロセスはじつに興味深い。それは彼が2018年にエクアドルのアマゾン流域の地下60メートルに広がる巨大な洞窟で数日間過ごしたという体験に端を発している。以下、インタヴューのなかでホプキンスはその体験とコンセプトについて詳説している。

ぼくは幸運にもサイケデリックの世界へ導かれ、それを体験することによって音楽にも良い影響がでたんだ。だからサイケデリックな体験を通してセラピー的なサウンドトラックを作りたいと思ったしね。

今日はお時間を作っていただきありがとうございます。とても美しく、そして体験的でリスナーに違う世界を見せようとしている音楽だと思いました。

JH:そんな風に言ってもらえて光栄だよ。そういう意図でこのアルバムを作ったから。

あなたの新作を聴きながらまず思ったのは、21世紀の今日において、サイケデリック・カルチャーはどのように有効なのかということです。というのは、60年代にせよ90年代にせよ、ドラッグ体験は人生を見つめ直す契機、かなりインパクトのある契機として広がりました。自分の生き方は間違えていた、人生はこんなものじゃない、みたいな。しかしながら、資本主義に人生が規定されまくっている現代では、生き方の選択がかつてのように多くはありません。こんな時代において、それでもサイケデリックにこだわるあなたに興味を覚えて、今回は取材のお願いをさせてもらいました。

JH:わかった。

そもそもクラシックを学んでいて、初期の頃は綺麗めなエレクトロニカやダウンテンポなどを作っていたあなたが、どこでどうしてサイケデリック・カルチャーに惹かれていったのか興味があります。前作『Singularity』においては瞑想が重要だったと話してくれましたが、何がきっかけで、そしてどのようにしてカルロス・カスタネダやテレンス・マッケナ(※90年代初頭に注目されたDMTなどの幻覚作用の研究者。新作のコンセプトにおけるキーパーソン)の世界へと進入していったのでしょうか? 

JH:ぼくは幸運にもサイケデリックの世界へ導かれ、それを体験することによって音楽にも良い影響がでたんだ。だからサイケデリックな体験を通してセラピー的なサウンドトラックを作りたいと思ったしね。君が述べたように、いまのサイケデリック文化は60〜90年代とは違っていて、現代では科学主導でサイケデリック体験をセラピー、そして薬として健康へアプローチする動きが出てきている。その体験は人びとを開放するけど予測もしがたく、これらの体験による治療の最適な方法はまだ定かではなくて、もしネガティヴな方向へ行ったら危険だからね。
 君が言うように、資本主義のなかで人びとは仕事によってメンタルヘルスが侵されている。人びとの単調な毎日によるメンタルヘルス問題は深刻で、メンタルヘルスはまだ開拓が進んでいない分野だと思う。ただ毎日薬を与えれば良くなるものでもないしもっと複雑なものだよ。化学物質による脳への作用だけでなく、いまサイケデリック体験による純真さ、喜びなど人びとが自分の心と再び繋がれるアプローチが必要とされている。こういった流れのなかでぼくは音楽を作る役割があると思うし、ぼくの音楽を聴いて他のアーティストが影響を受けてさまざまな音楽を作ってくれたらいいと思うよ。脆弱な立場の人びとにはさまざまなタイプの音楽が必要だからね。

そしてあなたはアマゾンの巨大な洞窟群にたどり着いた。そのときの模様は今作のブックレットに記されていますが、とても興味深かったです。あなたは洞窟のなかで、細いロープを頼りに60メートル下の地下世界に降りていった。本当に危険な冒険だったと思うのですが、そこであなたはいままで経験したことのない静かな世界に出て、日光の届かないその場所で、風変わりで美しい動物たちに囲まれながら4日間過ごしたそうですね。そこで得られた音世界がこのアルバムの出発点になったということですが、まずはその4日間についてもう少し詳しく教えてください。そこはいったいどんなところで、どんな動物たちがいたのでしょうか?

JH:2018年に洞窟へ誘われて数日間滞在した。そう、この経験がアルバムの出発点となったんだ。誘われた際に、「面白そうだな」と思ってすぐに行くことを決めた。最初はどんなところか深くは考えなかった。いろいろと体験するのが好きなので、どんな場所か行ってみて実際に驚いてリフレッシュできるような体験がしてみたかった。細いロープをつたって60メートル下の暗闇に向かって降りていくのはとても恐怖を感じたし、そこは行く前に想像していなくてよかったよ(笑)。下に降りると、まず細い道を進まなければならず、その後メインエリアとしてキャンプできる広くてとても美しいところに到達した。そこは人類に荒らされた形跡もなくてとても静かな場所だった。土は柔らかくテントも立てられて非常に快適にキャンプができたんだ。本当に魅惑的で素晴らしい場所だったのでたくさんの音楽へのインスピレーションを得ることができたね。

あなた以外にも神経科学者をはじめ数人いたようですが、衣食住など、どのように生活していたのでしょうか?

JH:ぼくらは合計12人のチームだった。まず安全な旅へと導いてくれる洞窟を知り尽くした頼りになるガイドたちがいた。誰も経験したことのない旅だったので彼らの存在はとても心強かった。それから写真家、神経学者、アーティストが2名、他のミュージシャン、そしてぼくとさまざまなバックグラウンドでチームは編成されていた。
 実際そこで3泊4日過ごしたんだけど、キャンプサイトから15分ほど歩くと、1カ所だけ、地上の森に穴が空いているところがあって、昼になるとそこから日光が差し込むんだ。それ以外は完全な暗闇のなかだったんで、キャンドルや懐中電灯の灯りで過ごした。一筋の光が差し込むその場所はとても神秘的で美しくかったな。毎日のようにそこに通った。そんな非日常の世界を積極的に受け入れて探索したんだ。
 毎日ハイキングやクライミングもしたけど、キャンプでただ座って瞑想したり、ゆっくり過ごしたりもした。写真家は写真を撮らなければいけないので動きまわっていたけれど、ぼくは洞窟の音を録音する作業以外にはとくにやらなければならないこともなかったし、それも1時間くらいで終わる作業だったので、他の時間はアクティヴに出かけるのとリラックスすることが半々くらいだったね。ぼくはスピーカーを持ち込んで洞窟の自然形状に音を反響させたものを録音したんだ。
 食事はガイドの人たちがドライフード、缶詰、インスタントラーメン、パスタなどを持参して提供してくれた。洞窟暮らしは楽しかったし、洞窟の奥へはハイキングやクライミングをしに行ったりして、キャンプに戻って食べた食事はとても美味しかったし、なんとか快適に過ごしたよ。

そこでは何か幻覚を促すようなことはされたのですか

JH:いや、まったく。ぼくは普段もそういった行為はとくにしないしね。現地の先住民族は洞窟で儀式としてアヤワスカを使う習慣があるんだけど、ぼくたちはトライしなかった、というか、したいという欲望もなかったよ。ぼくは完全にシラフな状態で洞窟での出来事を感じたかったし、じっさいにとても貴重な体験になった。

それは、あなたのこれまでの人生もっとも強烈なエクスペリエンスだったと言っていいのでしょうか?

JH:うん、その通りだね。過去に冬山に登るなど冒険したことはあるけど、地下へ行くのは初めてだったから。 

序文・質問:野田努(2021年11月12日)

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