Home > Reviews > Album Reviews > LIBRO- なおらい
90年代後半から日本のヒップホップ・シーンで活動を開始し、一時的にラッパーとして活動休止の期間があったものの、2014年以降は毎年コンスタントにアルバムを発表していた LIBRO。今回のアルバム『なおらい』は前作『SOUND SPIRIT』から約3年ぶりのリリースとなったわけだが、3年というブランクが空いたのはコロナによるパンデミックが強く影響していたのは言うまでもない。コロナ禍の中で制作されたという本作は、つまり世の中が閉塞感に包まれている中で生まれたわけだが、このアルバムから感じるのは閉塞感の後に来る解放感であり明るい未来だ。例えば1曲目の “ハーベストタイム” は「収穫期」を意味しているわけだが、コロナによる苦難の時期を超えたいまの状況ともリンクし、2021年秋といういまのタイミングだからこそ、より多くの人の心に強く刺さる作品になっている。
今回は全曲のプロデュースを LIBRO 自身が手がけており、さらにDJミックスのようにそれぞれの曲がスムースに繋がるような形で構成されている。メローな曲調であったりアッパーなド直球のブーンバップであったり、曲ごとに様々なスタイルを織り交ぜつつ、アルバムとして全体的な統一感は2014年以降にリリースされた彼のアルバムの中でも抜きん出ている。統一感という意味ではラップおよびメッセージの部分も同様で、様々なテーマの中に地に足のついた日常を感じさせる視線が貫かれており、価値観の変化や多様性を歌った「プレイリスト」のような曲であっても、決して押し付けがましくなくスッと耳に入ってくる。それはもちろん、LIBROのラッパー/ヴォーカリストとしての高い魅力が、彼のメッセージをよりダイレクトに伝えるという効果もあるだろう。さらに言えば、たまに出てくるオートチューンの使い方も見事で、彼自身が自分の声の使い方をいかに理解しているかがよく分かる。
声という意味では、本作ではゲスト・アーティストの起用も絶妙だ。“シナプス” ではMCバトルのシーンで活躍する句潤と MU-TON が参加しているのだが、彼らは通常のバトルMCとは少し異なり、まるでセッションのようなバトルを展開することで知られる。“シナプス” は本作中最もハイテンションな一曲だが、三者三様なフロウのマイクリレーから一体感あるフックへの流れへの緩急の付け方も素晴らしく、実にタイトな仕上がり。もうひとつのゲスト参加曲 “ヤッホー” では客演キング=鎮座DOPENESS が参戦し、牧歌的とも言えるメロディアスなトラックに実に伸び伸びとした自由なフロウが展開されており、思わず笑みが溢れてくる。2曲とも全くタイプは異なるが、声の組み合わせはいずれも見事としか言いようがない。
ラスト曲の “ハーベストタイム Remix” まで無駄な曲はひとつもなく、前述したように全て曲が繋がっているため、気がつけばあっという間にアルバムが終わり、そしてまた頭から繰り返す。聞いていて本当に心が晴々とするし、これほど心の底から気持ちの良い作品はそうそう出会うことはないだろう。2014年の再始動以降の LIBRO をずっと追ってきたファンはもちろんのこと、彼の 1st アルバム『胎動』にリアルタイムにやられた世代の人たちにもぜひ聞いてもらいたいアルバムです。
大前至