「S」と一致するもの

hikaru yamada and mcje - ele-king

 ジャンルの壁を溶解する奇才・山田光が率いるジャズ集団、ヒカル・ヤマダ&mcje(旧名ヒカル・ヤマダ&メタル・キャスティグ・アンサンブル )のライヴ盤『live』が〈Local Visions〉からリリースされた。
 これは「10人のジャズ・ミュージシャンがヘッドフォンから流れるビートに対してインプロヴィゼーションを同時に行う特殊アンサンブルで、実験的な手法それ自体が目的ではなく、和声を薄くし、奏者同士の反応を減らし、大人数アンサンブルにありがちな祝祭感を封じるのが狙いだ。基本的に譜面もアレンジも存在せず、合奏の悦びはありません」とのこと。
 また、「本作は2023年10月に神保町試聴室で行われたライヴ音源を元に構成されている。ジャズ・インプロの現場で山田と共演してきたメンバーに加え、太田裕美や吉川晃司のツアーメンバーとして活躍したエリック笠原(近年発掘された松原みきのテレビ収録動画でもサックスで参加)やR&Bコレクティブw.a.u所属の關街が参加。2曲のヴォーカル曲の他、ギル・エヴァンス・オーケストラのライヴ盤を全員で聴きながら演奏したトラックなどを含む12曲を収録」とうことです。

Richard Dawson - ele-king

 大きな話をするのはもう疲れた。他国の大統領選に対する見解の違いからひとと口論するのも、地方政治の混乱に愕然とするのも、終わらない戦争に絶望するのも……。ネットを開けばセレブリティが誰かに対する訴訟を起こしたとか、大物の誰かが失脚したとか、べつに知りたくないことばかりが目に飛びこんでくる。だから僕はニュース記事を閉じて、リチャード・ドーソンの『End of the Middle』を聴くことにする。歌詞を調べて自分なりに訳しながら、その行間を感じ取ろうと努めながら、そして耳を澄ませる。ここには小さな話ばかりが詰まっているからだ。

 僕がこのニューカッスルのウィアードなフォーク歌手が好きな理由はたくさんあるが、ひとつには、彼が歌っている内容が抜群におもしろいことがある。世間的には取るに足らないとされる小市民の日常の悲喜こもごも。それらが鋭い洞察や卓越したユーモアとともに語られ、どこかが決定的に奇妙な節回しで歌われるとき、この世界に生きている「ふつうの」人間たちが生き生きと動き出すのだ。
 いや、ある意味ではドーソンは大作志向のミュージシャンとも捉えられる。ここ最近の3作――想像上の中世を再現した『Peasant』(2017)、すべてにおいて閉塞的な現代を風刺した『2020』(2019)、ディストピックな未来を予見した『The Ruby Cord』(2022)は、1000年単位でイングランドの(空想の)歴史を物語ったゆるやかな三部作と言えるからだ。音楽的にもまた、壮大なストリングスやコーラスを導入したり、実験と逸脱を織りこんだバンド・アンサンブルを強調してみたりと、意図的にスケールを大きくしている箇所も少なくなかった。それは市井の人びとの生活がちっぽけなものでないことを示していたように僕には思えたし、何よりも音自体のエキセントリックさで笑わせてくれる音楽は貴重だ。他とは違うやり方で、ドーソンは自身の歌にドラマを盛大に仕込んでいたのだと思う。
 それが『End of the Middle』では、ドーソンのおかしな歌と独特のチューニングのギターを基本とするフォーク・スタイルに音楽的なスケールを狭めている。コンセプトも英国のある典型的な中流家庭の三世代の物語を断片的に描くことで、そこで繰り返される悲しみという、三部作に比べればシンプルなものになっている。アルバムに先んじてリリースされたシングル “Polytunnel” はドーソンがギターをつま弾きながらガーデニングの喜びを軽快に歌う簡素な一曲で、はじめて聴いたときは、意外に素朴なアルバムが届くのかもしれないと思ったものだ。
 だが、音楽的にもコンセプト的にもコンパクトになった分、そこここに仕掛けられたスリルが際立っているようにも感じられる。そして今回も物語が圧倒的におもしろい。たとえば控えめながら陰鬱さを香らせる反復で始まる “Bullies” の話はこんな感じだ……歌の主人公は子ども時代にいじめられていた。同級生には無視され、金を取られ、殴られていた。けれど昼休みに図書室に通って、先生に目をかけてもらったこともあって国語では優秀な成績を取れた。やがて彼が大人になり、クライアントとZoom会議をしてるときに学校から電話がかかってくる。息子が同級生に暴力を振るっていたのだ。彼は息子とどのように向き合うべきか思い悩むが、一週間後ようやく「お前には優しい心があるとわかってるよ」と声をかける。……些細な話かもしれない。けれど、フェイ・マッカルマンのフリーキーなクラリネットがドーソンのファルセットに呼応すれば、歌の主人公の痛切な想いが滲んでくるようだ。かつて彼をいじめた同級生たちを、そんな風に許すことができたのなら……。これはひょっとしたら、一般人がお互いの過去の蛮行を暴き合う現代に向けた寓話なのかもしれないと思えてくる。
 それに、ドーソンの歌からは現代イングランドのリアリティも見えてくる。『2020』の “Civil Servant” では役所に来た市民に福祉をカットすると伝えるのが嫌すぎて仕事をサボる公務員の視点から緊縮財政を描いていたが、『End of the Middle』では “Gondola” に登場する老婆になりかわって仄めかしている。彼女は自分が良い教育を受けなかったことを悔やみながら、ひとりでワインを飲んで酔っ払ってリアリティ・ショーを見ているのだが、それは老後がさらに不安定になった英国の庶民の姿であり……日本に住むわたしたちも共感できるものだろう。そもそも『End of the Middle』というタイトル自体、中流が没落してしまった格差社会、完全に分断してしまった政治状況を示唆しているようにも感じられる。それを必ずしも自己投影的にではなく、観察的な群像劇として物語るところにドーソンの機知がある。努力してケンブリッジ大学を卒業した研究アナリストが子ども時代から出会ってきた幽霊に悩まされる “The question”、父親が日産に解雇されて飲んだくれになる “Removals van”、どの曲にも味わい深いエピソードと切実な感情がこめられている。音楽的にはもっとも重苦しくカオティックな展開になる “Knot” は、全体的に曖昧だがおそらく鬱についての曲で、ドーソンは「わたしの魂は病んでいる」とこぼしてみせる。

 それでも、ドーソンの歌にはたしかに人間の魂が宿っていると直感させられる。ロバート・ワイアットと小津安二郎をプロッグ・フォークのもとで混ぜ合わせたこのアルバムでも、庶民たちは懸命に、ただ懸命に生きているのだ。「ふつうの人びと」を誠実に描く音楽が「オルタナティヴ」で「エキセントリック」で「ウィアード」なものとして成立するのは皮肉かもしれないが、自分のことを昔ながらのメロディ・メーカーだというドーソンの歌にはいつだって人懐っこさがある。
 急にシンセが鳴ってソフト・ロック風になる “More than Real” は本作の完璧なクロージングだ――そこでドーソンがパートナーのサリー・ピルキントンとのデュエットで語るのは、忌み嫌っていた父親に自分が似ていることに気づいて愕然とする男の心情だ。世代を超えて繰り返される醜い愚行。そのとき僕は、このアルバムがけっして小さな話ばかりを描いていなかったことを思い知る。愚かな行為を繰り返し続ける人類の悲しみを、家族の物語に喩えていたのである。そして男は、生まれてきたばかりの娘を見て変わることを決意する――「わたしはどうやったら癒すことを始められるだろう/永遠に隠された傷を」。痛みと優しさが混ざり合う。それはドーソンがささやかに埋めこんだ未来への希望だ。この世界から消え失せそうになっている朴訥な人間性の探求を、この歌い手は諦めない。

interview with Squid - ele-king

 私自身は2010年代後半から隆盛を極めていったサウス・ロンドン周辺のインディ・シーンを筆頭としたUKバーニングに心底興奮し、その音楽の熱をリアルタイムで伝えようと活動したインディ・ロックDJだ。2018年にフォンテインズD.C.の “Hurricane Laughter” を初めてDJでかけたときに当時は認知度が低い中でも生まれたフロアの熱々とした反応は、これから凄いことが起きそうな予感を確信に変えてくれたが、そんな私にとっても、2021年は景色が大きく変わった特別な年だったように思う。頭角を現すアーティストの積極的な折衷性によりサウンド・ヴァリエーションが格段に増え、ポスト・パンクだけのシーンだと捉えることは完全にナンセンスとなり、この界隈の音楽にアクセスする人も多方面から増えたと実感したタイミングだ。そして、この年の希望の象徴として、並べて語られていたのがブラック・カントリー、ニュー・ロードブラック・ミディ、そしてスクイッドだ。この3組はもちろんそれぞれに特徴は違えど、ジャズやクラシック、民族音楽なども含めた積極的な折衷性という共通項を持ち、この年のチャート・アクションでも結果を残した。しかし、ブラック・カントリー、ニュー・ロードは2022年にフロントマンが脱退し、ブラック・ミディは2024年に解散した。それはひとつの転機のようにも感じられたが、しかしスクイッドは留まることのない創作意欲で、自由で実験的なアプローチを保ちながら、新たな音楽の地平を切り拓く。彼らは自身を「イギリスの音楽シーンの一部ではない」と語り、2021年のメンバーのままで進化を続けている。

 そんなスクイッドが3rdアルバム『Cowards』を2025年2月にリリースした。1曲目の “Crispy Skin” を聴けば、眠りから目を開いた瞬間の、眩い太陽を猛烈に覚えるような「アカルイ」音の風景に出会う。これまでの2作品では、火薬庫を積んだ緻密な演奏がもたらす緊張感や迫力に圧倒されるような印象が強かったが、キーボードのアーサーが「前作よりもずっとカラフルで鮮やかなレコード」と説明するように、おとぎ話の世界にリスナーを迷い込ませるような物語性や幻想さをまとった印象が強いサウンドになったように感じる。それは、作品全編を通してストリングスが前面に出たことやローザ・ブルック、トニー・ニョク、クラリッサ・コネリーによるコーラスが加わったことも大きく影響していると思うが、ときに煌びやかでときに壮大でときにエキゾチックな彼らの新しい音がリスナーを心地よくその世界に迎え入れているようだ。一方で、この作品で歌われているテーマは「悪」だという。

 「悪」とは、ときに境界が曖昧な言葉ともなる。今日の世界で起きている「正義」を大義名分とした暴力は言うまでもなく、身近なもの、自分自身についてはどうだろうか? 狂気に満ちた世界で、自分自身はどのように生きていけるのか。「アカルイ」音の中で繰り広げられる「悪」への考察。「何が人間を悪人たらしめるのか」という視点があったとギターのルイは言う。音楽版『ミッドサマー』とも言いたくなるほど、青空に包まれるような聴き心地の中で、人肉を日常的に食べる人間、友好的な殺人犯観光客、現代社会に紛れ込んだクロマニヨン人、14階の高層階から飛び降りるアンディ・ウォーホルのフォロワーなどに出会うだろう。ぜひ、短編小説を読み解くように、社会や自分自身の状況について当てはめるように聴くのをオススメしたい。

人間は、しばしば大きな悪の権化に囲まれているように理解されがちだけど、僕たちが面白いと感じたのは小さな悪という考え方なんだ。

今作『Cowards』の作品テーマが「悪」ということで、全体的に人間の根源的な邪悪性であったり、悪なる心に抗えない虚しさや自分自身への憤りみたいなものが描かれた一貫性のある作品だと感じました。こうしたテーマでアルバムを制作しようとしたきっかけは何だったのでしょうか?

ルイス・ボアレス(Louis Borlase、以下LB):このアルバムでは、悪がスペクトラムであるというアイディアについて考えることに興味があったんだ。僕たちはいままで、場所に特化したようなレコードを作ってきたから。でも今回は、(悪がスペクトラムであるというアイディアを)興味深い視点だと感じた。人間、そして、何が人間を悪人たらしめるのか、そして悪人になるためにどのような決断を下さなければならないのかというアイディアが、面白い視点だと感じたんだ。悪をスペクトラムとして捉える考え方は興味深い。なぜなら、いまこの瞬間を生きるのに、日々の生活の中である程度の悪を経験することなしに生きることは不可能だからだ。人間は、しばしば大きな悪の権化に囲まれているように理解されがちだけど、僕たちが面白いと感じたのは小さな悪という考え方なんだ。そのほとんどは、オリー(・ジャッジ/ヴォーカル、ドラムス)や僕たちが読んだ本やフィクションを通して探求している。この種のストーリー・ラインを読むと、悩まされたり、しばしば緊張したり、不気味だったりするんだ。僕たちをうろたえさせるような何か、尻込みさせるような何か……人生で起こっていることは、僕たちが自分自身でそれを背負うか背負わないかのような形で、ただ何とかしてこれらに対処するということ。ある意味では、そのような悪に対して僕たちがつねに考えていたようなやり方で、対応していくということなんだ。 

アーサー・レッドベター(Arthur Leadbetter、以下AL):それは重要なことだ。でも、このレコードを書きはじめるときに、何か意図して書きはじめたわけではないということも言っておきたい。内容やテーマや形式は、書いていく過程で明らかになっていくものだからね。

いまアーサーが答えてくれたのと関連のある質問になりますが、そうしたテーマに反して、サウンドは全体的にポップさや優美さを感じました。サウンドについて、方向性として決めていたものは何かあったのでしょうか? 「悪」というテーマが先にあったのか? サウンドが先にあって、リリックを作っていく中でテーマが「悪」となったのか。

AL:何から最初に手をつけるかはをはっきりさせるのは、おそらく難しいことだと思う。僕たちは、特に議論をすることなく、わりと本能的に、ごく自然に、一緒に音楽を生み出していると言っていいと思う。顔を合わせて、アイディアを出し合って、音楽を創り上げるという作曲のプロセスを通して、誰が歌詞を担当したとしても、音楽と並行して歌詞を書くことで、そのふたつ(歌詞と音楽)が互いに影響し合うんだ。どちらが先ということはない。もちろん、ときにはどちらかが転換することもあるけど、それは自然なプロセスであり、定義づけることはできないんだ。

LB:(大いに同意する)そうだね。『Cowards』では、アルバム全体を通して歌詞のテーマをより深く理解することに僕たちはとても重きを置いていたように思う。たぶん無意識のうちに、音楽が歌詞の暗さや気難しさ、歌詞の意味するすべての要素にマッチしていないように感じていたんだと思う。その代わりに、前作よりもずっとカラフルで鮮やかなレコードを作るという、逆の方向に進んでいることに気づいたんだ。

“Crispy Skin” はカニバリズムについて歌った曲ということで、暴力に対する感覚の麻痺を示したような楽曲だと解釈しています。現在世界で起きている様々な暴力や戦争にも結び付いてきそうですが、この楽曲のテーマとなったアイディアはどこから生まれたのでしょうか?

LB:“Crispy Skin” は『Tender Is The Flesh』という小説〔編注:アルゼンチンの作家アグスティナ・バズテリカの代表作、2017年〕がもとになっているんだけど、その小説では、他の人間を食べて生きていくというカニバリズムが当たり前の、ディストピアの世界が描かれているんだ。この曲の歌詞の要素は、架空のインスピレーションのようなものだと思う。この曲は、無関心というアイディアと、悪に対してそれを非難したり反応したりしないことがいかに簡単なことかというアイディアを見ているようなものなんだ。自分の周りの悪行について、無関心でいることの方がずっと簡単だ、ということなんだけど、より広義な問題は、どうすればその地点に到達できるのか、人生の中で何が起きなければならないのか、その前にどのような意思決定プロセスを経なければならないのかということだ。僕たちは暴力に対して無感覚になっている。この曲は本に基づいてはいるんだけど、このテーマが歌詞のインスピレーションという点で、このアルバムのキーになっているんだ。

8曲目の “Showtime!” について、途中瞑想的なムードがはじまったと思えば、ファミコンのようなゲーム・サウンドだったり、今作でキーになっているストリングスの音だったり、変わった音も含めていろんな音が入り混じり、転調して激しくフィナーレに向かっていく感じがこれぞスクイッドと言いたくなるような真骨頂さ、スクイッド的サウンドを凝縮させたような特に面白い楽曲だと思いました。この楽曲について、制作でのエピソードがあれば教えてください。

AL:曲の前半もしくは3分の1はすぐにでき上がった。この曲はマーゲイト(イギリス南東部の海辺の町)で書いたんだけど、それ以前に僕らが書いた他の曲とはまったくフィーリングが違っていた。僕たちは、この曲の急激な変化を実験しはじめたんだ。それは本当にスタジオでしか作れないものになった。どこで音楽がストップするのか。 テンポをコントロールするのはひとりだ 。僕たちは、プロデューサーがコントロールできるテンポ・クロックを使って、すべてライヴでやったんだけど、曲が進むにつれて、他の人を巻き込んでテンポをコントロールする必要があったんだ。そう、曲がシフトしていくとき、かなりはっきりしたバンドのグルーヴと曲が、突然、完全にバラバラになってしまうんだ。それまで演奏していた楽器、ティンパニがバラバラになり、テンポは完全に遅くなって、曲はまったく新しいものに進化する。これは僕たちが好んで使う手法で、多様な音楽的影響に対する僕たちの幅広い共通の魅力を反映していると思う。

僕らは、自分たちがシーンの一部だとはまったく思っていない。

ポジ(Pozi)のローザ・ブルックが「additional voices」としてクレジットされていることに驚きました。他にも、トニー・ジョク(Tony Njoku)やクラリッサ・コネリーらがコーラス参加していますが、彼らの参加にはどういった経緯があったでしょうか?

LB:トニーとローザと出会ったのは、僕が “Cro-Magnon Man” の歌詞を書いていたときだったと思う。ヴァース・コーラスを取り入れた歌詞のアプローチを模索してみたかったんだ。 というのも、僕らのスタイルは、どこか物語的で、直線的だったから、いつもやっていることとは違うことをやってみたかった。 僕や他のバンド・メンバーが歌う代わりに、他の人間のコーラスを取り上げるというアイディアはとてもエキサイティングだと感じた。バッキング・ヴォーカリストたちを取り入れてそこを誇張させ、彼らにリードを取らせるんだ。トニーとローザはふたりとも僕たちの親友で、彼らが一緒に歌うとき、ふたりの声が異なる声質でもって全く違うヴォーカルの音色へと導き、ヘッドヴォイスで歌うファルセットのヴァージョンを探求することができるんだ。そして、この白人らしいアンドロジナス(androgynous)な声の語りというアイディアは、この曲にとてもふさわしいと感じた。ふたりのことを知っている僕たちにとっては、明らかだけど、レコードを聴いただけでは、誰が中心になって歌っているのか想像がつかない。そう、クリアに歌っているのは誰かを見分けるのは本当に難しいんだ。彼らが参加してくれたのは素晴らしかったし、この種のヴォーカル・マイクロ・アンサンブルのアイディアは、レコード全体でかなり多く使われているんだ。でもクラリッサの場合は、かなり違っていた。というのも、アントン(・ピアソン/ギター)がアルバム最後の曲 “Well Met” の前半の歌詞を書いていたんだけど、誰の声を使うべきなのか、正確にはわからなかった。何人かの人に相談して、アルバムに参加させるのにふさわしい声の持ち主を友人たちから推薦してもらっていたんだ。でも、誰かがクラリッサを推薦してくれて、やっと決まったんだ。僕たちはすでにクラリッサのアルバムの大ファンで、これはパーフェクトだった。クラリッサのヴォーカルは僕たち男性であるバンド・メンバーの誰の声よりもずっと低いから、ヴォーカルと性別を想定したある種のフリー・スライディング・スケールのようなものかな。でも、その上にトニーとローザの声が重なっているから、クラリッサのヴォーカルが強調されていて、本当に素晴らしかった。

音源制作と比べるとライヴでは制約もあって、少し違うサウンドにもなってくるかと思います。私自身は過去2回の来日ライヴはどちらも鑑賞していて、非常に楽しませてもらいましたが、ライヴ演奏ではどういった意識をもっていますか?

AL:僕らのライヴ・パフォーマンスへのアプローチは、まず曲を覚えて、実際に演奏できるようにする。“Showtime!” について説明したような感じなんだけど、スタジオで使うテクニックには、ライヴではできないものがたくさんあるんだ。それはまず、曲との関係を再構築しようとすることなんだ。何年も前に作ったものをもう一度研究するんだ。今回の場合は曲を書いてからすでに2年が過ぎようとしている。つまり、古い友人、あるいは知っていたけれども疎遠になってしまった友人との友情を再構築するようなものだね。最初は、やらなきゃいけないことを目の前にしてかなり緊張するけど、曲が再びそこにあるとわかると、すべてがごく自然に感じられるし、実はあっという間なんだ。

通訳:たしかに、スクイッドのライヴでは、ステージであまりにも多くのことが起きていて、レコードを聴くのとはまた違った体験ができるのが醍醐味だと思います。まさにテクニックそのものですよね。

昨年のラ・ルート・デュ・ロック(La Route du Rock、フランスのフェス)ではヴァイアグラ・ボーイズ(Viagra Boys)の “Sports” をカヴァーしていてびっくりしました。過去2回の来日公演ではカヴァー演奏はなかったと記憶していますが、そういったカヴァー演奏もたまにおこなっているのでしょうか?

LB:ヴァイアグラ・ボーイズはあのフェスティヴァルに出るはずだったんだけど、皆体調を崩してしまっていたんだ。前日に電話がかかってきて、フランスのラ・ルート・デュ・ロック・フェスティヴァルでヴァイアグラ・ボーイズの代役をやらないかって言われた。僕らはちょうど小規模ツアーからイギリスに帰国するところで、これはやるべきだと思った。僕らの最初のツアーは、ヴァイアグラ・ボーイズのツアーでのサポート・アクトだったからね。それに、ラ・ルート・デュ・ロックは素晴らしいフェスティヴァルだと知っていたし、僕らにとってはいいことでしかなかったから、即答でやるって言ったんだ。でもヴァイアグラ・ボーイズに会えなくてがっかりしている人も多いから、彼らの最も有名な曲をカヴァーしよう、そうすればちょっと面白いんじゃないかと思ったんだ。それで、うまくいくようなやり方を一生懸命考えたんだけど、実際にやってみたら、すごく面白くて、ちょっと馬鹿げた感じもよかった。

スクイッドが様々なジャンルでの音楽的アイディアを高いレヴェルで実験的に次々と接続している様に、個人的にはレディオヘッドっぽさを感じるのですが、そうした比較は本人たちにとって妥当なものでしょうか?

LB:レディオヘッドとの関係はすべて大きなインスピレーションだと思う。バンド内でもレディオヘッドのアルバムに憧れを抱いている人もいれば、レディオヘッドの音楽性を高く評価している人もいる。 皆何らかの形で通ってきているし、その音楽性には感謝している。でも、それは大きなことではないんだ。もっと本質的なことだと思う。インストゥルメンタルを深く追求する手段みたいなものを、僕たちはしばしば共有しているといえるかな。

AL:(レディオヘッドから)影響を受けないのは難しいし、僕らのような音楽を書く上で、ある意味レディオヘッドと比較されないのも難しいと思う。僕はバンドとしてレディオヘッドを聴いたことはないけれど、『Amnesiac』──これがいちばん有名なアルバムではないよね?(とルイに確認する)──を聴いてみたりはしたよ。以前、レディオヘッドは驚異的なバンドで、芸術的なロック、実験的なロックの側面を持ちながら、少し親しみやすいものにしていると人びとが言うのを聞いたことがある。だから、その範囲内で何かをやることになれば、間違いなく彼らのやったことの借りを返すことになると思う。合ってるかな?

LB:うん、的を射ていると思う。レディオヘッドの影響を受けないのは難しい。90年代に登場した彼らは、素晴らしく新しいバンドだったと思う。実験的な試みをはじめただけでなく、トム・ヨークのゴージャスな歌声は、特に彼が物語を語り、あのような曲を書いているときは、恋に落ちないわけがない。でも、どちらかというと、その探求し続けようとする姿勢が、最大のインスピレーションなのかもしれない。彼らが『OK Computer』で達成した現状を受け入れることなく、制作を続行し、『Kid A』を作りあげたことは、とても大胆なことだと思う。それに、そこには影響を受けたものすべてが展示してあるんだ。それはバンドとして重要なことだと思う。

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あるバンドが突然成功したと聞いたとき、僕はいつも最初に思うのは、ああ、彼らは大丈夫かな、ということ。

ブラック・ミディが解散し、イギリスの音楽シーンにおける変わり目みたいなもの──人それぞれ感じ方はあると思うのですが、私個人としては、アンダーグラウンドからではなくウェット・レッグやザ・ラスト・ディナー・パーティのようなよくも悪くも資本からのプッシュを全面に受けたアーティストの台頭、ポスト・パンク的なサウンドの飽和感、バー・イタリアのようなドリーミーで退廃的なサウンドの流行など──も多少感じる昨今ですが、スクイッド自身としては現在のイギリスの音楽シーンをどのように見て、今後どのようにありたいと考えていますか?

AL:一般的に言うと、ザ・ラスト・ディナー・パーティやイングリッシュ・ティーチャーのようなバンドが台頭してきて、彼らのようなバンドがうまくいっているのを見るのは素晴らしいことだと思う。でも、僕たちは、メンバーが様々な影響を受けているバンドだから、イギリスの音楽シーンという考え方は、ある意味、僕たちの活動とは全く別のもののように思えるんだ。

LB:僕らは、自分たちがシーンの一部だとはまったく思っていない。

AL:僕たちは、バンドというグループのように見られるという基本的な意味でのシーンには属していない。僕たちはまた、音楽の広い展望や物事がどのように変化していくかをあまり気にしていないんだ。もちろんUKの音楽、UKのバンド・ミュージックのようなものは、明らかに意識してきたから、それに気づいていないわけではないし、興味がないわけでもない。そうではなくて、僕が言いたいのは、バンドとして、クリエイティヴなコラボレーションとして、それは僕たちの議論には出てこないということなんだ。ある意味その戸口に立ってそこに留まることはとても重要で、それは僕たちの創作活動にとってとても貴重なことだと思う。ライティング・ルームには、自分たちの持っているものをすべて持ち込んで、リハーサルに臨む。でも、クリエイティヴなコラボレーションとしては、それはまったく議論に入らないんだ。

LB:僕もそう思う。だからユーチューブで誰かが、話題のバンドやレーベルのプロジェクトとして、その彼らの音楽を理解することなく紹介しているヴィデオを見るたびに、彼らのことが心配になるんだ。 というのも、多くのバンドを見ていて、1曲がヒットしたアーティストが大成功を収め、熱心なファンを獲得したと思ったら、次の瞬間には名前すら出てこないこともある。彼らは燃え尽き症候群のような問題を抱えていて、異常なレヴェルの不安やセルフイメージの問題、自信のなさを抱えている。つねにそのようなリスクにさらされているんだ。たしかに僕らも何らかの問題を抱えているけど、でも、レーベルの面では、大丈夫。だって自分たちのやりたいことができない環境でバンドが育つことはできないんだから。でも、一発屋になることを推奨され、それで毎晩のように観客を動員しているバンドにとっては、いいことではない。レコード業界全体が、過重労働や強制的な労働を強いることによって、精神衛生上の問題を抱えることになることを、人びとが認識することが重要だと思う。

AL:うん、とてもいい意見だ。あるバンドが突然成功したと聞いたとき、僕はいつも最初に思うのは、ああ、彼らは大丈夫かな、ということだから。

先行曲 “Crispy Skin” のミュージック・ヴィデオは伊藤高志の実験短編映画『ZONE』(1995)をフィーチャーすることとなりました。このコラボレーションにはどういった経緯があったでしょうか?

LB:なぜあの作品をミュージック・ヴィデオに使ったのかを理解するには、アルバムが完成し、ミキシングとプロデュースが終わった後まで遡る。僕たちはこのアルバムが何なのか、どういう意味を持つのか、お互いに話し合って考えたことがなかった。僕たち5人の間で何度も出てきたのは、収録曲はほとんど短編小説のようなもので、悪と臆病というテーマの世界を探っているが、彼らは皆、まったく異なる場所や人々を探求している、という理解だった。だから、すでに存在するスプライト(Sprite、小鬼、ゴブリン)的な意味のヴィデオを、僕らの曲のひとつに再利用するのは楽しいアイディアだと思ったんだ。そしてあのヴィデオには、“Crispy Skin” の歌詞の世界観やテンションにマッチするような、ヴィジュアルにおける偶然の一致がたくさんあるんだ。幸運なことに、僕たちはライセンスを取得し、編集することを許可された。このフィルムは、じつはオリジナルではもっと長いんだ。曲や歌詞を書くことで、すでに存在するものから意味をつむぎ出しているようで、いい反映だと感じたんだ。いままでやったことのなかったことだけど、既存のアートワークをヴィデオという形でライセンスして、1曲目に使うのがいいと感じたんだ。

通訳:まだ生まれてもいないあなたたちが、1995年の作品をどうやって見つけたのでしょう?

LB:いや、生まれてたって(笑)。それは、アルバムのヴィジュアル・ワールドを実現するために、僕たちがどのような段階を踏んでいるかということに尽きるね。チーム全体からどれほどの助けを得られることが多いか。素晴らしいマネージャーもいるし、レーベルもいつも助けてくれるし、周りのみんなが映像の世界を実現するのを助けてくれる。“Crispy Skin” のヴィデオに起用するいくつかの候補はあったんだ。 ただ、同じ世界に属しているようには感じられなかったし、音楽を共鳴させるものでもなかった。しかし最終的に、この特別なフィルムは、本当にただぴったりだと感じたんだ。

カニバリズム自体は恐ろしい価値観でこのリリックも恐ろしい状況が描かれていますが、そういった状況に置かれたときに、誰しもがそれに順応してしまう危うさを感じますか?

AL:それはないと思う。特定の状況下で一般的に人びとがカニバリズムに走る傾向があるかどうかという質問には答えられないけど。もし、人びとが自分でそう思い込むのであれば、それはまったく問題ないと思うけど、そう思う人の方が少ないんじゃないかな。ただこの曲はカニバリズムを実際に経験したというよりも、本が主な参考文献になっているんだ。

LB:うん、この曲はカニバリズムというよりも、もっと無気力についての曲なんだと思う。僕たちが生きている社会での人間関係を通して、僕たちはどの時点で無気力になってしまうのだろう? 自分が知らない人の悪行を目にしたとき、あるいは、自分の人生を難しくしている友人や職場の人がいたりしたとき、誰にでも、そこで困難に直面したり、自分の置かれた状況に制度化されてしまうような転機のようなものがあって、人生には真正面から取り組むべきことが必ずあると思う。そしてそれはときどき、自分を内側から蝕んでいる。でも多くの場合、それらにアプローチしないほうがずっと簡単なんだ。オリーがこの曲で考えているのは、僕たちを臆病にするのは何なのか、ということだと思う。いちばん簡単なことをやらないことなのか? いちばん難しいことに取り組まないことなのか? 僕たちは皆、ときに少し無気力になる傾向があるような気がする。それが問題なんだ。

通訳:このアルバムには自問自答する要素がたくさんあると思います。ここではあえて答えを出さずに、自分で考えるのですよね。

LB:うん、そうなんだ。

『O Monolith』がリリースされた日に『Cowards』のレコーディングを終えたから、いかなるレヴューやプレスの人たちが何を言おうと、自分たちが作りたいもの以外に何も関係なかったし、自分たちが次に何をするのかとすることとは切り離すことができた。

2ndアルバムの『O Monolith』は1stアルバム『Bright Green Field』のリリースから2週間後の2021年のツアー中にスタートしたと前作のプレスリリースで見ました。今作も2022年の11月から2023年4月までの6ヶ月間、『O Monolith』がリリースされる前に制作がはじまったということで、その創作意欲に驚きました。創作意欲を絶えず掻き立てるものはなんなのでしょうか?

AL:アルバムを作るには長い時間がかかる。ときにクリエイティヴになることにも。つまりタイムラインなんだ。このアルバムにかんしては早く完成させることが効果的だった。だから、できるだけ早く作曲を終えて、できるだけ早くレコーディングをしたんだ。というのも、『O Monolith』がリリースされたらツアーに出るだろうし、ツアーに出たら曲を作るのはとても難しいから。純粋に時間管理の問題なんだ。『O Monolith』がリリースされるまであと数ヶ月ある。曲を書こう。クリエイティヴになろう、そして仕上げよう。より時間をかければもっといい仕事ができるんだ。

LB:それに、『O Monolith』の評価に左右されないで進めることができたのは、本当にいい感じだった。というのも、『O Monolith』がリリースされた日に『Cowards』のレコーディングを終えたから。だから、このアルバムについて語る人たちや、いかなるレヴューやプレスの人たちが何を言おうと、自分たちが作りたいもの以外に何も関係なかったし、自分たちが次に何をするのかとすることとは切り離すことができた。ある意味、守ることができたのは本当にいいことだと思った。

AL:まさにその通り。

通訳:やはりレヴューや評価は気になるもので、次の作品にも影響するものなのですか? どちらかというと、これが自分の音楽だ! レヴューなんか気にしない! というアティチュードなのかと……。

LB:それは議論の余地がある。どのように受け止められ、そこからどう進むかについては、人それぞれ異なる問題を抱えていると思う。でも、最終的にこのプロジェクトでよかったと思うのは、僕たち全員が、過去のプロジェクトから、もっと作りたい、もっと探求したいと思う要素を持っていたことだと思う。 そして、やらなければならないとわかっていたこともあったし、本当に変えたいと感じていたこともあった。『Cowards』の曲作りでは、本当にシンプルで凝縮された素晴らしい曲作りを感じられるようなアイディアをいくつか作ろうというところからはじめたんだ。そしてそれは、今回の作品の大きな足がかりになったんだ。

Oneohtrix Point Never - ele-king

 ザ・ウィークエンドが初めて主演を務める映画『Hurry Up Tomorrow』が全米で5月16日に公開される。そのサウンドトラックを(ウィークエンドとともに)手がけているのがワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティンなのだけれど、このタイミングでOPNの公式ショップがリニューアルされている(https://opn.terrible.group/)。なかでも人気のシャツ2種──最新作『Again』モティーフの1枚と、ヴェイパーウェイヴ時代の「Ecco」をあしらった1枚──は日本のbeatink.comでも発売されるとのこと。詳細は下記より。

ONEOHTRIX POINT NEVER

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの公式ショップがリニューアル
新たなアーティストグッズの販売がスタート
人気のサッカーシャツ2種はbeatink.comでも予約開始
17曲に参加したザ・ウィークエンドの最新アルバムは10ヶ国以上で1位を記録!

現代の音楽シーンにおいて最も重要なプロデューサーの一人として活躍を見せるワンオートリックス・ポイント・ネヴァーのオンライン・ショップがリニューアル・オープンし、新たなアーティストグッズの販売がスタートした。2024年のAgain USツアーおよびNYCポップアップのみで発売され、即完売したサッカーシャツは、Againデザインの長袖と新デザインのEccoヴァージョンも登場。デザインを手がけたのは前回と同じくFull Kit。サッカーシャツにはEMCミニピンバッチが対1封入される。beatink.comでも本日より予約開始 (3月下旬より順次発送予定)。


Again Soccer Tee
¥17,800円+tax
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14722


Ecco Soccer Tee
¥17,800円+tax
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14723

公式オンライン・ショップ
https://opn.terrible.group/

最近では、グラミー賞でのパフォーマンスも話題を集めたザ・ウィークエンドの最新アルバム『Hurry Up Tomorrow』にプロデューサー、コンポーザー、パフォーマーとして計17曲に参加。同アルバムはアメリカ、イギリス、カナダを含め、10ヶ国以上で1位となるなど大ヒットを記録している。またザ・ウィークエンドが初主演を務める映画『Hurry Up Tomorrow(原題)』の公開も話題となっており、ジェナ・オルテガ、バリー・コーガンら豪華俳優陣が集う本作のスコアを、ザ・ウィークエンド (エイベル・テスファイ) とワンオートリックス・ポイント・ネヴァー (ダニエル・ロパティン) が担当することも明らかとなっている。

Hurry Up Tomorrow (2025) Official Trailer

https://www.youtube.com/watch?v=e2PsmMlSP5s

sugar plant - ele-king

 90年代日本のアンダーグラウンド・シーンにおける最重要バンドのひとつ、シュガー・プラントがデビュー30周年を祝ってのライヴをおこなう。対バンは、大阪のLABCRY。サイケデリックかつドリーミーなひと晩になることは請け合いです。

KiliKiliVilla presents sugar plant x LABCRY

新代田FEVER
4月12日
出演:sugar plant、LABCRY
open 17:30 start 18:00
前売 4,000円 当日 4,500円
チケットは19日よりe+にて発売
https://eplus.jp/sf/detail/4275820001-P0030001

sugar plant
1993年に結成、インディー・バンドとして活動を開始。95年に1stアルバム『hiding place』を日米同時リリースし、以後すべての音源は海外でもリリースされている。同年には初のアメリカ・ツアーを行い、翌1996年にはアメリカでレコーディングした曲を含むミニ・アルバム『cage of the sun』をリリースし、同年アメリカでレコーディングと二度目のツアーを行う。そこでレコーディングされた『After After Hours』ではクラブ・カルチャーからの影響を反映した斬新なサウンドでインディー・ファンだけでなくポスト・ロックや音響派など幅広いシーンから支持され、アメリカのカレッジ・チャートで大きな評判となる。次作『trance mellow』ではよりディープなスタイルを追求しクラブ・シーンでも評判となり、この頃から野外レイヴやクラブ・イベントでのライブが増える。1998年リリースの『happy』は前作の『trance mellow』との2枚組でアメリカ発売となり、3度目のUSツアーを行う。2000年エンジニアにDry & Heavy、Little Tempoの内田直之をむかえたアルバム『dryfruit』をリリース。2002年には松本大洋原作の映画『ピンポン』のサントラに「rise」が収録され話題となる。以後、マイペースにライブ活動を継続し2018年ついに18年ぶりのアルバム『headlights』が発売された。


LABCRY
1995年大阪は難波ベアーズにて三沢洋紀を中心に結成。最初はソロ・ユニットとしてのスタートだったが、98年のセカンドアルバムより今のメンバーが集まり、現在の6人編成になる。2005年までに5枚のオリジナルアルバムを発表して活動休止するも、2022年に5枚のアルバムが一挙アナログレコードで再発。それをきっかけに2023年大阪難波ベアーズと東京O-NESTで再結成ライヴを行い、そのまま活動再開となった。現在メンバーは横浜、東京、大阪、京都、岡山、三重と日本各地に住んでいる。ただいま22年ぶりの6枚目のオリジナルアルバムを制作中。

LABCRY are
Hiroki Misawa : Vocal, Guitar
NANA : Guitar, Chorus
Kosuke Shimizu : Bass
GONDHARA (a.k.a Gonzo Murakami) : FREQ-ALPHA-GAMMA-WAVES Kensaku Miyaji : Keyboards
Akihiko Saito : Drums, Chorus

Legendary Japanese jump blues band - ele-king

 ジャンプ・ブルースというのは、ロックンロールの元になったブルースの発展型だ。チャック・ベリーはジャンプ・ブルースの王様ルイ・ジョーダンを影響源として公言し、ビル・ヘイリーにいたっては“ロック・アラウンド・ザ・クロック”を作曲するためにジャンプ・ブルースを時間をかけて研究した(そして、たいして時間をかけずにそれをやってしまったのがエルヴィスである)。
 ブルースに、スウィング・ジャズからの影響を取り入れたジャンプ・ブルースを演奏するバンドが、ここ日本にもいた。福嶋岩雄&ザ・ミッドナイターズである。
 この度、福嶋岩雄&ザ・ミッドナイターズの貴重なライヴ録音が発掘された。ときは1976年3月28日。演奏場所は東京の三ノ輪に存在した伝説的ライヴ・ハウス、モンド。60年代末からじわじわと盛り上がり、最高潮に達していた日本におけるブルース・ブームの真っ只中。ワイノニー・ハリスやギター・スリム、スマイリー・ルイスらのナンバーを熱く、洒脱にカヴァー。当時の空気がビリビリと伝わってくる、価値ある発掘ライヴ録音だ。なお、ベースはその後、JAGATARAに加入するナベこと渡辺正巳。
 本日19日より配信開始です。

福嶋岩雄&ザ・ミッドナイターズ:福嶋岩雄(Vocal)、白庄司孝(Alto Sax)、江口達哉(Tenor Sax)、墨谷喜栄(Guitar)、墨谷実則(Piano)、渡辺正巳(Bass)、奥沢福治(Drums)

《リリース情報》
アーティスト:福嶋岩雄&ザ・ミッドナイターズ
タイトル:福嶋岩雄&ザ・ミッドナイターズ
フォーマット:デジタル配信
配信開始日:2025年2月19日
https://p-vine.lnk.to/1bt8uJ

収録曲
1. Texas Hop
2. You Better Hold Me
3. All She Wants To Do Is Rock
4. R.M. Blues
5. A Letter To My Girl Friend
6. Well, I Done Got Over It
7. I Need Your Love So Bad
8. Too Many Drivers
9. It’s So Peaceful
10. Corrine, Corrina
11. Good Rockin’ Tonight
12. Nothing But The Blues
13. Reconsider Baby

録音:1976年3月28日 東京・三ノ輪モンドにて
Mastered by George Mori

Kotoko Tanaka - ele-king

 夜が似合う音楽にほとんど間違いはない。さらに言えば、夜間歩行(ナイト・ウォーキング)の友となる音楽に悪いものはない。昔……どのくらい昔かといえば、よくひとりで深夜の街中を徘徊していた頃、好きだった曲の歌詞のひとつに、ルー・リードの“コニー・アイランド・ベイビー”がある。「友人と思っていた人が君のもとを去って『あんたはまともになれやしない」と陰で言う。そして君は自分がしてきたことすべてについて思い迷う。誰と、何をしてきたのか、いろんな場面で、やってきたいろんなことを。でも忘れないで欲しい。都会はおかしな場所だってことを。そこはサーカスか下水道みたいなものなんだ」
 夜間歩行しながら、街は「サーカスか下水道みたいなものなんだ」と思うと気持ちが上がった15の春、部屋に戻って窓を開けると夜風と街の喧騒が聞こえたものだった。そういう場所で自分は育った。そしてまた次の日も外に出て歩く。ストリートに出没する。「歩くことで、私は都市の絶え間なく続くエネルギー回路と緊密につながっていると感じると同時に、それらから微妙に切り離されていると感じるのだ」。Kotoko Tanakaのアルバム『The Silhouette of Us』の最後の曲は“From the bed to the city ”という。

 『The Silhouette of Us』が配信されたのは昨年の6月なので、10か月遅れのレヴューとなるが、昨年末にはこのアナログ盤がリリースされたので、許して欲しい。ただでさえトレンドの速度が加速した現代、このくらいの時差も必要だろう。
 それはさておき、先に引用した言葉は、UKのマシュー・ボーモントという博識の作家の『The Walker』(2022)という“歩くこと”を考察した文学エッセイの序文にある一文で、その「つながっていると感じると同時に、微妙に切り離されていると感じる」という感覚に共感し、それは本作にも通じるものがあるとぼくは思ったのである。甘美(サーカス)で、苦い(下水道)迷路。没入し、突き放される。夜の街をいくら愛そうと、それは絶対に自分のものにはならない。しかし、そう、だからいいのだ。何故なら、それは誰のモノでもないということなのだから。

 残念ながら、ぼくは彼女についてほとんど知らない。2015年にCDR『KOTOKO 100 COPIES』を発表し、2019年には7インチで「The hole as a pond, the eyes from morning (池としての穴、朝より来たる目)」をリリース。ライヴハウスを中心に演奏しつつ、昨年このデビュー・アルバムが静かに、とくになんのプロモーションもなくリリースされたのだった。シンガーソングライターに括られているが、彼女の楽曲においてはジャンルの境界線は不明瞭だ。ロック、ブルース、フォーク、ジャズが分裂し、音響工作的に融合するこの作品には、ジョン・ケイルとニコ抜きのヴェルヴェッツ風のところがあり、90年代アメリカのローファイでミニマルな生演奏の面白さがあり、歌声にはリッキー・リー・ジョーンズめいた気怠さがある。いずれにせよ、こうした喜ばしき時代錯誤の音楽を求めているリスナーは確実にいる、ぼくがそうであるように。
 ギター、ベース、ドラム、シンセ、曲で聞こえる楽器のほとんどが彼女自身による演奏だが、目玉の1曲である“Now we know it doesn’t exist (in Nebraska)”にはリキ・ヒダカと白根賢一が参加し、ヒダカのギターが眠気を誘うような彼女の歌にノイズを添えている。ヒダカのギターと白根のドラムは夜の幻覚に共振する“Turkish Lamp”(唯一日本語で歌われている曲)においても炸裂しているが、アルバム全体を通してやかましさはまったくない。
 彼女の素晴らしいメロディが結晶している“Smoky spring”はもっとも美しい曲だ。ベースからはじまるこの曲は、もっとも静的でありながら夜の街をわくわくしながら歩いているような気持ちにさせる。よくわからないが、高揚するのだ。まさに音楽のマジック。アナログ盤は、紙の質感も印刷もじつに凝っていて、印刷物を売っている人間からみて贅沢な作りになっている。

 夜歩く……は横溝正史の有名な小説名だが、じつを言えば「夜歩く」ことは長く禁止されていた。13世紀後半のイングランドでは夜間外出禁止令を強化する手段として、ナイトウォーカー(夜間歩行人)のすべてがその目的を警察に問われるという通称「夜回り法」を制定している。「ナイトウォーカー」という言葉は20世紀のアメリカの一部の地域では法令の文言にも使われたそうで、その意味するところは浮浪者や街娼だった。ナイトウォークは逸脱行為だったということを鑑みれば、“ウォーク・オン・ザ・ワイルドサイド”という言葉にもより重みが増してくるものだが、まあ、そこまでダイナミックな歩行でなくていいでしょう。小さな散歩でいい。『The Silhouette of Us』を聴きながらナイト・ウォーキングしよう。寒いけどね。たまにつまずいたりもするが、決してぼくは携帯の画面を見ながら歩行したりはしない。ただ酔っているか、自分の脚力の低下の問題である。

Chihei Hatakeyama - ele-king

 ユーラシア大陸からアメリカ大陸、オーストラリア大陸まで、多くのファンを持つ日本のアンビエント・マスター、畠山地平の新作『Lucid Dreams』がロンドンの〈First Terrace Records〉からリリースされました。マルチ楽器奏者のNailah Hunter、日本のシンガソングライターsatomi magaeらが参加したこのアルバムは、地平のミニマリズムへの追求がまさにドリーミーに結実した内容になっています。地平はこの作品について以下のように発言しています。
「ここ2年ほど、季節の変わり目などに不眠症に悩まされており、そういうときは眠りたいということしか考えられません。しかし、その状態で浅い眠りを繰り返すと、夢を見ているのか見ていないのかわからない、夢を見ていると自覚している『明晰夢』という状態になることがあります。このアルバムは、その浅い眠りの状態にインスピレーションを受けたという側面があります」
「そういう思いで、このアルバムのテーマは、夢の中での時間感覚、現実の時間の流れとは違って突然変わる状況、驚きや懐かしさ、そういった夢の状態を描いたアルバムを作りたかったのです」
 たしかに聴いているとまどろんでくるのです。うとうとしましょう。

Chihei Hatakeyama
Lucid Dreams

First Terrace Records.

Tracklist
A1. Overflowing
A2. Dance Of The Ghosts (feat. Cucina Povera)
A3. Three Dice
A4. End Of Summer
A5. Frozen Flowers
A6. Luftschiff
B1. Wind From Mountains (feat. Nailah Hunter)
B2. Tide
B3. End Of Summer II
B4. Rabbit Stairs
B5. Lucid Dreams

はじめての老い - ele-king

還暦を過ぎて見えてきた景色は驚愕の連続。
今日も元気に老いていこう。新感覚・老いをめぐるエッセイ集!

文章の大天才が動き出した! 老いをこんなふうに語ることができるなんて。 ――タナカカツキ

還暦を過ぎて見えてきた景色は発見の連続だった。老眼や集中力の減少といった予測できていた事象から、ブランコが怖くなる・手がカサカサになる・自分の中に内包しているマチズモに気づく・頻尿の話など、思いもよらなかったこと。そして「死」に対する感覚の変化にいたるまで。ゲーム・エンタメ界からアート界まで人気の編集者・伊藤ガビン(61歳)が、自身の体と心に直面する「老い」によるあらゆる変化をつぶさに発見し綴った渾身作!! 人生100年時代、未知なる「老い」への予習として、性差を問わず、同年代からこれから老い道に踏み入れようとしている現役世代におくる、令和版「老い」の入門書。これを読めば老いへの予習は完璧だ!

目次

はじめに

【老いに入りかけた時に感じていること】
老いの初心者として 初めての老眼/見えてきた! 私がキレる老人になるまでの道/こんにちは老害です-老害の側から考える老害-/らくらくホンを買う日を想像する/人間ドックの見え方が変わった話/ただ老いている

【アップデートできる できない?】
服装がずっと同じ問題/等速じいさん/太るのか痩せるのか/四季にように髪の毛を

【じじいのしぐさ、これだったのか】
シーシー問題/ブランコが怖いということ/おじいさんのような動き

【意外と早くきた(逆にまだきてない)】
身長が縮んだ話/ついに眉毛が伸び始めた!/握力の低下にショックを受けた話/未入荷の老い/シモジモの話/見つめたくない滑舌

【センパイから学ぶ】
センパイの話/手が信じられないほどカサカサになるという話/老猫との対話/メモを片手に綾小路きみまろ公演

【老いと時間】
「返納」について考える/老化が開く知覚との扉/[朗報]時間が経つのは年々それほど早くならないのではないか、という話/記憶のサブスク/死んでも驚かれないサイド/「逃げ切る」という考え方

おわりに

[著者プロフィール]
伊藤ガビン
編集者/京都精華大学メディア表現学部教授
1963年神奈川県生まれ。学生時代に(株)アスキーの発行するパソコン誌LOGiNにライター/編集者として参加する。1993年にボストーク社を仲間たちと起業。編集的手法を使い、書籍、雑誌のほか、映像、webサイト、広告キャンペーンのディレクション、展覧会のプロデュース、ゲーム制作などを行う。またデザインチームNNNNYをいすたえこなどと組織し、デザインや映像ディレクションなどを行う。主な仕事に「あたらしいたましい」MV(□□□)のディレクション、Redbull Music Academy 2014のPRキャンペーンのクリエイティブディレクションなどがある。また個人としては、2019年あいちトリエンナーレや、2021年東京ビエンナーレなどにインスタレーション作品を発表するなど、現代美術家としても活動。編著書に、『魔窟ちゃん訪問』(アスペクト)、『パラッパラッパー公式ガイドブック』(ソニー・マガジンズ)など。現在は京都に在住し、京都精華大学の「メディア表現学部」で新しい表現について、研究・指導している。近年のテーマに自身の「老い」があり、国立長寿医療研究センター『あたまとからだを元気にするMCIハンドブック』の編集ディレクション、日本科学未来館の常設展示「老いパーク」に関わるなど活動範囲を広げている。

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
amazon
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HMV
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丸善/ジュンク堂書店/戸田書店、ほか
有隣堂
くまざわ書店
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大垣書店
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lots of hands - ele-king

 レーベルのカラーというのはやはりどこかフットボールのクラブに似たところがあるのかもしれない。移籍があり獲得がありリリースした作品によって歴史とイメージか形作られていく。そんなことをスラッカーなUSオルタナ・ロックを響かせるパックスの1stアルバム『Take the Cake』をレヴューに書いたが、あれから4年弱が経ってもアメリカのレーベル〈Fire Talk〉は自身の価値を証明し続けている。去年、24年の〈Fire Talk〉はフィラデルフィアのマスロック・バンド・パームのメンバーがはじめた破壊的なエレクトロニクス・サウンドに柔らかさのある有機音を重ねたようなカシー・クルトと契約し、〈Stereogum〉のベスト・ニュー・アーティストのリストにも名を連ねたシューゲーズバンド・シャワー・カーテンのアルバムをリリースした。さらにその前年にはロンドンのスローコア・バンド・デスクラッシュの2ndアルバムやマンチェスターのエクスペリメンタルなバンド・マンディ・インディアナをリリースしている。大きな場所で響くような音楽ではないが、誰かの心に確かなトゲを刺すオルタナティヴな音楽を送り出す。メインストリームではなくかといってアンダーグラウンドでもないその中間にある空白地帯、〈Fire Talk〉は少しだけ違ったものを求める人たちの心の隙間を埋めるようなレーベルだ。

 そんな〈Fire Talk〉が 一番新しく契約したのがこのリーズを拠点に活動する 二人組ロッツ・オブ・ハンズだ。最初に〈Fire Talk〉と契約しアルバムをリリースするというニュースを聞いたときには意外に感じだがアルバムを聞いた後ではぴったりではないかと思えてくる。16歳の頃にニューカッスルの学校で知り合ったというビリー・ウッドハウスとエリオット・ドライデンからなるデュオは21歳になったいま、失われていく幼い頃の記憶の断片を集め、現実世界に繋ぎ止めたかのようなアルバムを作り上げた。「君の髪をとかそう/悪夢の中で/僕らは田舎の空気を吸っている」“barnyard” でそう唄われるように、大都市ではない場所の、どこのシーンにも属さないベッドルームの空白地帯にある音楽が心の隙間に入り込む。コラージュを駆使し、オーガニックなフォーク・サウンドと電子的な処理をほどこしたサウンドとを組み合わせたそれはアレックス・Gを思わせる柔らかで優しい音楽として目の前に現れる。牧歌的というにはモダンなサウンド過ぎて、アンダーグラウンドの尖った音楽というには優しすぎる、だからきっとカテゴライズされずに手のひらからこぼれ落ちていってしまう。しかしそれこそがインディ・ミュージックを求める人の心を惹きつけるのだ。

 このアルバムを通して表現されるのは思い出のフィルターに包まれた悲しみや喪失感、そしてそれらを経験し成長していくという感覚だ。エリオット・スミスの香りが漂う “game of zeroes” や “rosie” のような曲でドローンやエフェクトを組み合わせて彼らはそこに隔たる時間と距離とを演出する。シンプルな美しさを持ったアコースティック・ギターと柔らかなヴォーカル・メロディの上に縫い合わせるようにコンピューターで処理された音を重ね空間をゆがめる。まっすぐに染み込むフォークという基本の形から距離を作り出すことで現実感を失わせ、曲の流れを少しだけ異質なものにしていく。それはあたかも時間や空間の概念を無視して結びつく頭の中の記憶や夢の世界の出来事のようで、扉を開けた先の思い出とダイレクトに繋がっているかのような感覚を与えてくれる(現実世界のルールに縛られないそれは当たり前に起こる不思議な出来事だ)。
 あるいは喪失感を表現した “the rain” のサウンド・コラージュのように、処理のできない感情の雨粒が頭の中に染み込んでくるような効果を狙った曲もある。「雨は止まない」「死はただ冷たいだけだから/君は壁に寄りかかって/その音を聞く」霧のように体に触れる不明瞭なヴォーカルと共にちいさな痛みでゆがめられた空間は普遍性を持ち、聞き手の頭の中の思い出と結びついていく。

 時間に対して距離を置くようなロッツ・オブ・ハンズの小さな実験はこのアルバムの中で結実している。それが今までのリモートの形で作ったアルバムでなく、はじめてふたりで同じ空間を共有して作られたもので起こるというのも面白いが、いずれにしても大きな場所ではなくベッドル−ムで作られた小さな音楽が、遠く離れた他の誰かのベッドルームの中に響いていくのだ。曖昧な感覚を曖昧なまま捉えようとする、ロッツ・オブ・ハンズがここで作り上げようとしてのはそんな音楽だ。死や、時間、記憶や感情といったはっきりしないが確かなものの感覚がここにはある。それが大げさではなく、成長する過程において起こった個人的なものとしてさりげなく提示されているのがまた素晴らしい。

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