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PACKS

Alternative Rock

PACKS

Take the Cake

Fire Talk

Casanova.S   Sep 02,2021 UP

 それはある意味でフットボールのクラブと同じようなものなのかもしれない。移籍があって、獲得があって、別れと出会いを経ての浮き沈みがある、音楽レーベルに関して僕はそんな風に思っているところがある。〈Captured Tracks〉なんかはメジャーリーグ・ベースボールにひっかけて所属のアーティストをロースターと表現しているけれど、自分としてはフットボールのスカッドの方が近いんじゃないかと思う(ドラフト制よりももっと自由移籍の側面が強いような感じだ)。気になるバンドがいくつかできて追いかけていくうちに「あれ、またここから出てるのか」と気がついてそうやってお気に入りのレーベルができ上がっていく。違いがあるのはひとつのレーベルに忠誠を誓ったりせずにその時々でどこのレーベルが良いとか勢いがあるとか気軽に言えるところだ。だからレーベルはその分シビアにその場その場で判断される(ひょっとしたらそれはとても健全な状況なのかもしれない。良ければ褒めて悪ければ離れる)。

 そしてしばしばみんな同じタイミングで、同時に気がつくのだ、このレーベルはちょっと凄いんじゃないかって。ディーパー、デフド(Dehd)、ピュアX、Mamalarky、Bnny、ウォンボ、最近の〈Fire Talk〉の勢いは凄い。〈Fire Talk〉はブルックリンのレーベルで創設は2009年、Discogs でカタログを見ると当初はテニスの7インチを出していたりしたらしいけど、いまがいちばん勢いがあるんじゃないかってくらいに最近その名前をよく見かける。レーベルの勢いはリリースするバンドによって可視化され、だからこそみんな同時に気づく、これもそうだしあれもそう、集められた “スカッド” にはいまのレーベルの哲学が詰め込まれているのだ。

 自分にとって〈Fire Talk〉の決定打になったのはトロント出身のバンド、パックスで、いままで出していたディーパーやデフドとはちょっと毛色が違う、90年代を感じさせるペイヴメントみたいなギターにグランジの風味を混ぜてスネイル・メイルや初期のサッカー・マミーみたいなオルタナティヴなインディSSWをやっている感じなのが新鮮だった。でもスネイル・メイルやサッカー・マミーと比べると圧倒的に醒めていて、ギアをローに入れたまま感情を発露させずに言葉少なく淡々と描くようなスタイルだ。ローファイのまま過剰な装飾を施すことなく日記の切れ端を物語として提示する、こういうセンスはちょっとロンドンのバンド、ソーリーと近いような感じで、この感覚がとても良い。

 デビュー・アルバム『Take the Cake』の収録時間は24分弱で、このあたりにも過剰さを排除したバンドのセンスが現れていると思う(伝わらなかったら伝わらないでいい、言葉を尽くし他者を説得しようとしたりしない、そんな醒めた目線がそこにはある)。パックスは元々ヴォーカルのマデリン・リンクスのソロとしてスタートし、そこからバンドになったようだがこのアルバムのなかにもSSW的な感性とバンドのダイナミズムが混在しているようで面白い。“Two Hands” や “New TV”、“Hangman” のような曲はギターの弾き語りから肉付けしていったような感じがするし(この曲たちが続けて配置されているのも偶然ではないような気がする)、“Hold My Hand” はまさにグランジ風味のペイヴメントでありバンドのダイナミズムを感じることができるが、同時にモニターの光に照らされた暗い部屋に寝転びながらスマホを眺め、悪態をついているマデリン・リンクスの姿が思い浮かんでくる。自分がパックスに魅力を感じるのはこの混在している奇妙な要素のバランスなのだ。個人的な日記のようでそうではなく、客観的な視点があって、他者の存在をそこに感じて、バンド・サウンドのなかに個人と社会があるような感じで、それが不思議に調和する。一言で言えばしっくりくるという感じで、センスが良いという言葉で簡単に片付けたくなるようなものだけど、そこに多くの意味をこめたくなる。

 ともすれば情報過多になってしまうような時代にあって、それに反発しこれさえあればいいとひとつのやり方に固執するのではなくて、いま、何ができ、必要なのかと選択肢を広げ選び取る、そして同時にこれはやらないということを判断する、それこそがきっと現代におけるセンスで、それが日常的に様々な場面でジャッジを迫られるような時代において強く求められているものなのだろう。選択と判断こそが時代のキーで、だからこそパックスの音楽は魅力的に響くのだ。溢れる情報のなかで、時代の空気を感じ取り、それを過剰に出すことを選ばずに、リヴァイヴァルが起きはじめている90年代のサウンドのなかに落とし込む。“インディ的な” とまたしても簡単に言葉にしてしまいたくなるけれど、みなが感じるインディらしさとはきっと歴史の積み重ねによってその空気が作り出されてきたもので、はっきりとは見えないけれど確かにそこに存在するものでもある。バンドはそれを表現しレーベルがそれを選び取る、空気は不変ではなくつねに入れ替わり、過去を思い起こさせる新しさが未来を作る(それは伝説的な誰かみたいな選手を求めるクラブとファンみたいなものだ)。

 〈Fire Talk〉のようなレーベルとパックスみたいなバンド、僕はその選択を気にして追いかける。1st アルバムをリリースした後、2021年8月にパックスはその3ヶ月前に発売されたアイスエイジのアルバム『Seek Shelter』の “Drink Rain” をカヴァーし配信でリリースした。信じられないくらいのスピード感、サブスクリプションの時代になって、届けるための手段が増えて、新たな意味がそこに付け加わっていく(カヴァー曲はいまや共感や自らのスタンスを表明するひとつの手段になっている。同時代性を強調しアティチュードを共有する、過去ではなく現在の、それは繋がることができる世界に向けて出された線なのだ)。いま、なんでそれをするのか、その選択が心を躍らせる。パックスにはそんな時代のセンスが詰まっている。だからこそきっとこんなにもドキドキするに違いない。

Casanova.S