「!K7」と一致するもの

KGE & HIMUKI - ele-king

 今年2015年、キングギドラの1stアルバム『空からの力』の20周年記念盤が出て、合わせてアニバーサリー・ライヴが開催された。Zeebraはみずからのレーベル〈Grand Master〉の動きと連動していまもシーンを率いているし、K DUB SHINEは名実ともに文化人というか、すっかりタレントだ(120%いい意味で)。
 ここで書きたいのはキングギドラについてではなく、20年前に出た『空からの力』の歌詞カードの最後に記されたスペシャルサンクスのクレジットのことで、当時、高校生だった筆者は、リアルタイムで『空からの力』の歌詞カードのZeebraのスペシャルサンクス欄にある日本のヒップホップ・アーティストの名を、ひとつひとつ「これも聴いた」「これも知ってる」とチェックし、そこに挙がったアーティストをほぼ全員を網羅して楽しんでいた。
 そのときの衝撃の延長線上で、現在もヒップホップのアーティストを取材するライターをやっているわけだが、高校生ラップ選手権や全国で開催される数多のフリースタイル・バトル出演者の名前を聞いても、顔触れを一瞥しても、正直もはや誰が誰だかわからない。全部を網羅しているなどとは口が裂けてもいえないし、そもそも網羅したいという願望がない。ただ、この豊穣な状況はまったく喜ばしいことだと傍観者として見ているだけだ。
 だが、もちろん傍観者としてライターに任じているわけではない。
 本題に入ろう。
 すべてを追いきれない以上、自分である程度取捨選択して聴く以外ないわけだが、その基準はひとつだ。単純に良作を求めてるのではなく、凄いアルバム、凄い曲に触れたい。その作品に触れた瞬間、あるいは凄いものが生まれていると確信めいた予感が脳内を突き抜けたときだけ、傍観者でなくなることができる。いわば自分を傍観者でなくしてくれる音源だけを純粋に探していると言えるだろう。傍観者でなくなるとは、突き詰めれば結局スピーカーであったりヘッドホンと自分だけになるということで、そうなったときはじめて、筆者は書きたいとかインタヴューをしたいと思うのだ。そこに曇りはない。
 9月9日リリースされるKGE&HIMUKI の『LOVE & BLUES』は凄いアルバムだ。
 今作でKGE&HIMUKI のタッグ作品は3作目で(1stアルバム『LOCAL FAMILY』、2ndアルバム『2ND IMPACT』)、これまでもシーンでふたりの評価は一貫して高かった。それでも、この豊穣なシーンの中で、このふたりはやはり知る人ぞ知る存在ということになる。
 トピックの多彩さ、フロウ巧者で知られるラッパーKGE、USでも名高いKOOL G RAPやGuilty Simpsonなど(これはほんの一例だ)の海外勢とのコラボを果たし、安定したプロデュースワークを誇るHIMUKIのふたりのタッグで、下手なものができるわけがない。彼らを知っていれば、この専門誌のレビュー的な評価も、自然に頷けるものに違いない。だが、それがイコール凄いかどうかは、また別の話だ。
 これまでも良作を生み出しているふたりがここにきて、本当に凄いアルバムを作った。ワンループ、サンプリング、ドープ、タイト、王道のヒップホップ、太い、黒い、黄色い。評論家や音楽ライターなら、こういった言葉を駆使して、本作の魅力を解説するだろう。そして、そこに書かれたことは、きっとその通りなのだ。だが、このアルバムの聴きどころ(魅力といってもいい)は、そういったキーワードを並べただけでは足りない。
 この作品が一朝一夕では生まれないスキルの結晶というのは一面真実だが、何より素晴らしいのはソウルがスキルや手管を超えていることだろう。クサい言い方だが『LOVE & BLUES』というタイトルを本当に表現するのであれば、ソウルがみなぎっていなければならないのは必要不可欠だった。だが、それを狙ってやるのは簡単ではない。
 ライムと向き合いながら、感情がライムではなく違う言葉を選んだとしたら、KGEは遠慮なくライムではなく感情の言葉を選びとっている。これは同時に、本作のKGEのキレキレのライムには、すべて感情がほとばしっていることを意味している。
 収録曲中でKGEは「流行りにのっかるのは下手くそ」とラップするが、昔からKGEはビートに乗っかるのが超ウマいラッパーだった。意味と無意味のヘアピンカーブのギリギリのラインを縫うように繰り出すフロウは、LOVEとBLUESを唯一無二の形で結晶させている。そして、そのフロウを引き出したのはHIMUKIのビートに他ならない。いや、ほとんどHIMUKIのビートだけが、このラップを引き出し得たというのが正確だろう。
 本作品のただ1人の客演であるGAGLEのHUNGER(この人選が既にタイトで意味深だ)が、このアルバムのプレスに「全てをつぎ込んだKGEくんの気持ちを一回通して聞いただけでは受け止め切れないほどエネルギーと愛に溢れたアルバム」と言葉を寄せているのを読み、なるほどと腑に落ちるものがあった。

笑いと破壊、これでいいのだ!! - ele-king

 バカにしか見えない真実がある──天才ギャグ漫画家の赤塚不二夫はそんな言葉を言い残しています。しかし赤塚不二夫の「バカ」とは、「バカだなぁ、でへへへ」などという、そんなクサいものではありません。もっとキョーレツで、破壊と解放があります。戦後日本のサブカルチャーが爛熟した60年代から70年代にかけて、それは広く、そして深く突き刺さっています。たとえば天才バカボンには、アナーキーなすごさがあります。アナーキー・イン・ザ・バカボンです。腹がよじれるほど笑いながら、赤塚作品からは庶民の底知れぬパワーを感じ取るができます。笑いながら物事を変えていくことは、果たして可能なのでしょうか。

 来るべき9月14日は、赤塚不二夫生誕80周年。その日に、ele-king booksは赤塚不二夫の本を2冊同時リリースします。
 まず一冊は『赤塚不二夫 実験マンガ集』。赤塚不二夫がメジャーな少年誌を舞台でヒット作を連載していた国民的な作家なのは周知の通りですが、同時に彼はアヴァンギャルであり、実験精神旺盛な作家でもありました。たとえば『天才バカボン』がどれほど表現の限界に挑んだ作品だったのか、あらためて思い知って欲しいと思います。

 もう1冊は、『破壊するのだ!!──赤塚不二夫の「バカ」に学ぶ』。こちらでは生前赤塚不二夫とお付き合いのあった方々(赤塚がもっともアナーキーだった70年代、当時のサブカルチャーと呼びうるシーンに関わっていた方々)に取材、そのすごさをあらためて語ってもらいました。70年代の日本のサブカルチャーの狂乱を振り返りつつ、赤塚不二夫がこだわった「バカ」について考えた本です。
 70年代『宝島』編集長、後の「笑っていいとも」のスーパーヴァイザーとして知られる髙平哲郎、いまも活躍中の音楽家・三上寛、フリー・ジャズの巨匠・坂田明、先日亡くなられた詩人にしてジャズ評論家/偉大なるパロディストの奧成達、映画監督にして革命運動家の足立正生、偉大なるジャズマンの山下洋輔……そして、解説には赤塚りえ子+三田格。
 
 ぼくたちはどこから来たのか……いま日本は本当にとんでもないことになっていますが、日本のサブカルチャーにおいて誇れるものがここにあります。この機会に、手にとっていただけたら幸いなのだ!!

『赤塚不二夫 実験マンガ集』


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定価:1800円
ページ数:384
並製/B6

マンガを左手で描く狂気とは?
近くのものが遠くに見えるマンガとは? 
フキダシに絵を描いて絵の場所に文字を描くマンガとは? 

メジャーな少年マンガ誌を舞台に、マンガ表現のいきつくところまで行き着いた赤塚不二夫のもっともラジカルな作品群を収録。
解説あらためインタビュー取材には、石野卓球が登場。
いわく「赤塚作品とは、アシッド・ハウスなのだ!!」


『破壊するのだ!!──赤塚不二夫の「バカ」に学ぶ』


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著者:高平哲郎/三上寛/坂田明/奥成達/足立正生/山下洋輔ほ
定価:1850円
ページ数:224
並製/四六判

いま語る70年代日本サブカルチャーの狂乱、
そして赤塚不二夫のすごさ。

ペーソスはいらないのだ!!──高平哲郎
書を捨て町を裸で街を歩くのだ!!──三上寛
深遠なバカなのだ!!──坂田明
クーダラナイから良いのだ!!──奧成達
やりたいことをやるのだ!!──足立正生
破壊するのだ!!──山下洋輔
いまこそ赤塚不二夫が必要なのだ!!──赤塚りえ子×三田格

刊行:ele-king books/9月14日(赤塚先生の生誕日)刊行なのだ!!


Oneohtrix Point Never - ele-king

 2014年度のele-kingのベスト・アルバムがOPNの『R Plus Seven』だったんですが、いまや、OPNは明日のエレクトロニック・ミュージックを占う存在、いや、ソフィア・コポラやアント ニー・ヘガーティにまで目をつけられるほどの、なんとも大きな存在になってしまいました。思わず、かつてのイーノ、かつてのエイフェックス・ツインに重ねたくなるような……。そして彼自身もエレクトロニック・ミュージックの歴史をよく知っています。つまり本気で、(感覚だけではなく)エレクトロニック・ミュージックがいまどこに向かっているのかを考えている人物でもあります。
 OPNは、ミュジーク・コンクレート(録音物を加工する音楽)のパイアオニア、ピエール・シェフェールの21世紀版とも言えるでしょう。彼の音楽は現代=スーパーフラッター・ワールドに生きるものではありますが、その作品は冷酷だったり、攻撃的だったり、あるいは穏やかだったり、起伏に富んでいます。新作はそういう意味では、前作にくらべて躍動的で、OPNらしい挑戦的な作品です。
 ま、それはお楽しみってことで、OPNが来日します!


Andras Fox - ele-king

 オーストラリアはメルボルンを拠点に活動するアンドリュー・ウィルソン(Andrew Wilson)によるソロ・プロジェクト、アンドラス・フォックス(Andras Fox)の日本独自の編集盤CD。もともとさまざまなレーベルからリリースされていたアナログ盤シングルを集約したディスク1と、アート・ウィルソン(A.r.t Wilson)名義で発表されたニューエイジ・リヴァイヴァルの名作『オーヴァーワールド(Overworld)』をそのまま収録したディスク2という2枚組のボリュームで、彼の音楽性の全体像が網羅できてしまう、なかなか素晴らしい企画です。

 ビューティフル・スイマーズ(Beautiful Swimmers)~フューチャー・タイムズ(Future Times)周辺のバレアリックなアーリー・ハウス・サウンドや、PPUにも通じる80’s シンセ・ブギー~フュージョンが展開されるディスク1は、ヴィンテージなアナログ・シンセの醸し出す穏やかな雰囲気に、相方のオスカー(Oscar)によるソウルフルなヴォーカル曲もあり、メロディアスで聴きやすいダンス・トラックが中心。USインディの名門〈メキシカン・サマー(Mexican Summer)〉からリリースされたEP『ヴァイブレート・オン・サイレント(Vibrate On Silent)』のアートワークをぜひチェックしてもらいたいのですが、その海辺の風景をブルーにプリントした哀愁アートワークの世界観そのまま、かなりAORな用途というか、都会的でちょっとアンニュイな気分に浸らせてくれるBGMの趣きです。

 ディスク2の『オーヴァーワールド(Overworld)』は、アナログ盤のリリース当初から愛聴していたのですが、同作の名義アート・ウィルソンとアンドラス・フォックス(Andras Fox)が同一人物であることに気がついたのは、じつは随分たってからのことでした(こちらも参照)。オブスキュアなアンビエント・ジャズ、マージ(Merge)の音源を発掘したレーベル〈グローイング・ビン(Growing Bin)〉から発表されたこともあり、てっきり80年代の超マイナー・アンビエントのリイシューだと思いこんでしまい、「あら、なんて時代にジャストな音!」と興奮……。よもや現行アーティストとはね。しかしそんな勘違いも頷いてもらえるであろう、ノスタルジックな風情を極めた心地よいニューエイジ・サウンドに、ツボを心得たインスタントB級フィーリング。あのレア盤の醸す独自の雰囲気までしっかりトーレスしております。どうやら彼自身が相当に熱心なレコード・ディガーでもあるようで、つまりすべて巧妙に狙いすました仕掛けとすると、なんだか途端にちょっと憎たらしいかもしれません。それほどによく出来ています。

 さて、僕にとってアンドラス・フォックスの楽しみ方は、幼少期の原風景にあったバブル期アーバン・リゾートの熱帯魚的イメージと、その地点から夢見た未来像の再提示。忘れさられたロスト・フューチャーの記憶を呼び覚ます媒介。そういう意味では完全にヴェイパーウェーヴ同様のエスケーピズムです。試しにリニューアルした品川のEPSONの水族館あたりで聴いてみると、推しのインタラクティブ展示のアーリー90'sセンス(いやー、文明って本当に退行するのね)と相俟ってなかなか乙なマッチングが得られます。さらにオススメの聴き方は、ちょっと奮発してシンガポールあたりまで行ってみる。マリーナ・ベイ・サンズなんて、まさにアーバン・フューチャーそのまんまの超絶ロケーションですからね、最高に気持ちよくハマりますし、もう斜陽の国には帰りたくないなって思っちゃう。なんてことをね、井の頭線の終電で考えております。

Eaux Claires - ele-king

「何見るの?」
「もちろんボン・イヴェールだよ!」
「俺、大学で同級生だったぜ」

 ウィスコンシンは……というか、オークレアは思っていた以上に田舎だった。学校の校庭と言われても信じてしまいそうなサイズの地元の空港に降り立ち、少し車を走らせるだけでそのことはすぐにわかった。同じ大きさの家がひたすら並ぶ住宅街、マクドナルドのドライブスルーに大型スーパー、落ち着いた雰囲気の大学、ただ碁盤状に走る道路……アメリカ映画で観たサバービアそのものだ。この風景から生まれた音楽を聴きに来たんだと、流れる景色を見ながら僕はぼんやりと考える(免許がないので、運転は同行の友人に任せきりだ)。レンタカー屋の受付の兄ちゃんが「ロック・フェスティヴァルに来たの? 何見るの?」と訊いてくるので「もちろんボン・イヴェールだよ!」と答えると、「俺、大学で同級生だったぜ」という。ロ、ローカル! ……そうだ。ボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンがザ・ナショナルのアーロン・デスナーとキュレーターを務め、自分の地元であるウィスコンシン州のオークレアで開催するフェスティヴァル〈Eaux Claires〉に参加するために、僕は大阪から東京に行き、そこからシカゴへと飛び、そこからさらに小さい飛行機に乗ってこの田舎町までやって来たのだ。

 ジャスティン・ヴァーノンはこの何の変哲もないアメリカは中西部の小さな町で育った、ごく普通の、素朴なナイス・ガイである――ヴォルケーノ・クワイアとして来日したとき、がんばって覚えたひらがなでファンにサインをする程度には好青年で、穴の開いたスニーカーでノシノシとそのへんを歩く程度には鷹揚な。だから彼は自分は特別なのだと、選ばれた人間だと強調することはなかった。彼がかつてフォーク・ソングにこめた自身の孤独とその震えが生み出す詩情は、固有名詞のないものとして、ただ「よき冬」と名づけられてひっそりと世に流れ出したのだった。その透徹としたアンビエント・フォークに打たれて以来、しだいにアメリカの田舎に息づく何かを感じてみたいと思うようになったが、そうこうしているうちにボン・イヴェールが本国でどんどんビッグになって来日がますます困難になり、僕はバンドのライヴを観ることを諦めかけていた……バンドとしての活動も休止し、ジャスティンはプロデュース・ワークに精を出すようになっていた。が、今年に入って彼が地元でフェスティヴァルを作るのだと聞いて胸がざわついた(最初にこのニュースを知ったのはジャスティンのお父さんのツイートだった!)。しかもラインアップのフックはボン・イヴェールザ・ナショナルスフィアン・スティーヴンススプーン。(テキサス出身のスプーンは別として)中西部が生んだインディ・ロック・スターを軸としていることは明白だった。心は決まった。

手作り感のある飾り付け、
広場にステージがドン、ドンとふたつ、
背後には雄大なチッパワ川。

 車はどんどん森に入っていく。会場への道順を示す素っ気ない看板に従って走らせると、森のなかのキャンプ場に到着した。ほぼ完全にオート・キャンプ、アメリカの各地から何十時間も車を走らせてやってきたという参加者が続々と集まって来る……ほとんどのアメリカ人にとっても、ここはけっこうな田舎なのだ。キャンピング・カーの連中も多く、みんなビールや食料や遊び道具やらを詰め込んでいる。そんな筋金入りのキャンパー族を見て、あー、アメリカのフェスに来たんだなーと思っているうちに、キャンプ・サイトでのミニ・ライヴがはじまる。その日は前夜祭的な位置づけで、キャンプ・サイトだけがオープンしていたのだ。ジャスティンの学生時代からの音楽仲間、フィル・クックがきわめて内陸部の香りのするオーセンティックなアメリカン・ロックで雨上がりのキャンプ場を大いに盛り上げ、僕はミネソタから来たというやたら人懐こい兄ちゃんに謎のアルコール・ドリンクを分けてもらい、テントで爆睡するのだった。

 そして翌日。2日とも見事な快晴となったフェスティヴァルは最初から最後まで作り手の気持ちのこもった、温かいイヴェントだった。自然のなかであるフェスという意味では、日本だと〈フジロック〉なんかとイメージとしては近いとは思うけれど、もっと小規模だしDIYだし、なんというかもっといなたい。手作り感のある飾り付けがエントランスに施され、広場にステージがドン、ドンとふたつ立っていて、背後には雄大なチッパワ川。収益のためにVIPチケットもあるのだけれど、その特典がビールを含むドリンク飲み放題というのは笑った。いい音楽と美味いビールにもっと酔っぱらいたいやつらのためのフェスなのだ。案の定というか何と言うか、飲み放題のビールは1日めで予定量がなくなり、2日めスタッフの兄ちゃんが「いま急いでストックを運んでるところだから!」と叫んで、みんなイエーと答え、そして到着後さらに飲んでいた。

 2万人強とオーディエンスも少なくはないが、スペースがかなりあるのでフリスビーで遊びまくっているグループもチラホラいる。しかもみんな開放感もあってかフレンドリーだ(ヒゲ男子はかわいいし)。アジア人が珍しいのか不憫なのか、ピザをくれたり(なんで?)、お菓子をくれたり、ビールをくれたり、バンバン話しかけてくる。「きみたち日本人? メルト・バナナは観るの?」
 そう、メルト・バナナも出演していた(大人気だった)。フォークやインディ・ロック色が強いとはいえじつはラインアップの幅も広く、スプーンのロックとブラインド・ボーイズ・オブ・アラバマのゴスペルとジョン・ミューラーのドローンとサム・アミドンのフォークがカブっていたりする。ただ、基本的にはジャスティンとアーロン・デスナーの知人・友人として招かれているミュージシャンが多く、メルト・バナナもジャスティンが10代のときにライヴを観ていたく感銘を受けたというある種の感傷的な理由で呼ばれている。キュレーションにも作り手の想いがよくよく反映されているし、オーディエンスもそのことをよくわかっているのだ。

野外フェスティヴァルのステージが、アメリカの田舎のダイナーでのライヴ風景と重なっていく。
……本当に音楽が中心にあるフェスティヴァルだった。

 素晴らしい演奏がたくさんあった。ザ・ナショナルの双子のデスナー兄弟は元ムームの双子姉妹と小さなステージに現れ、サム・アミドンはオーディエンスを引き連れてステージの下でフォークロアをみんなで歌い、スプーンはソリッドなロック・サウンドを簡潔になかば暴力的に叩きつけ、ヴァージニアの超ファンキーなブラス・バンドであるNO BS!ブラス・バンドはさまざまなステージに飛び入りしていた。カントリー系のシンガーソングライターであるスターギル・シンプソンが「じゃあブルーグラスをやるよ」と言って演奏を始めた瞬間、僕は電撃を食らったような気持ちになった。そうだ、日本ではほとんど知られていないこうしたカントリー・シンガーの存在がアメリカの内側で音楽を支え、そしてそれらはどこかで確実にボン・イヴェールやスフィアン・スティーヴンスとも繋がっているのだ。野外フェスティヴァルのステージが、アメリカの田舎のダイナーでのライヴ風景と重なっていく。アメリカという土地の音楽の層の厚さ、その広大さには唖然とするばかりだ。
いっぽうでコリン・ステットソンのようなエクスペリメンタルの極を描く瞬間もあり、ピースフルななかにひそかなスリルも併せもっているところもニクい。オーディエンスも真面目な音楽好きが多いのか、演奏中に大声でダラダラくっちゃべったりしていない……本当に音楽が中心にあるフェスティヴァルだった。

このフェスの顔となった中西部出身のシンガーとバンドたちはみな、その地名を含んだ曲を演奏し歌った。それはでき過ぎた偶然だったのだろうか?

 このフェスの顔となった中西部出身のシンガーとバンドたちはみな、その地名を含んだ曲を演奏し歌った。それはでき過ぎた偶然だったのだろうか? だけど僕にはただ、そのことが甘美な体験に思えたのだ。

ミツバチの群れが俺をオハイオに運んでいく
俺は結婚しなかった だけどオハイオは俺のことを覚えていない
ザ・ナショナル “ブラッドバズ・オハイオ”


 ザ・ナショナルはいまのアメリカを代表するロック・バンドとして、あるいは中西部生まれのしがない市民の心情の代弁者として、堂々たるトリをやってのけた。とにかく大人気で、みんな歌う歌う。グレイトフル・デッドのカヴァーを挟みつつ、ゲストにスフィアンとジャスティンを呼んでオーディエンスを狂喜させる。この貫禄は、セクシーなバリトン・ヴォイスを持つマット・バーニンガーが書く歌詞とも大いに関係しているのだろう。ザ・ナショナルが歌っているのはいつも、名もなき市井の人びとの悲しみや孤独、それに疲労感だ。だがそれがそこに集まったオーディエンスの合唱となるとき、それはたしかな高揚となる。

僕はたくさんの過ちを犯した
心のなかで 心のなかで
スフィアン・スティーヴンス  “シカゴ”

 スフィアンは……それほど大きくないヴォリュームで演奏された彼の歌は、なんて悲しいのだろうと思った。前半、新譜からの切ないフォーク・ソングが多く選曲されたこともある。だけど、踊りながら歌う『ジ・エイジ・オブ・アッズ』の“ヴェスヴィアス”も、『イリノイ』収録の“カモン! フィール・ザ・イリノイズ!”のめくるめく変拍子も、ブラス・バンドを招いての華やかな“シカゴ”も、その根っこはとてもとてもサッドだ――「スフィアン、内なるパニック」――誰も理解できない、恐らく本人さえも扱えない内面の混乱がそこにはあり、彼はそれをファンタジックな「語り」にするばかり。それが楽しければ楽しいほど、チャーミングであればあるほど、キリキリとした痛みが尾を引いていく。アメリカそのものを祝うはずの独立記念日モチーフとした“フォース・オブ・ジュライ”では狂おしく「僕たちはみんな死ぬんだ」と繰り返し、張り詰めた空気がそこに立ち現われていた。周りを見ると、誰もがただただ立ちつくしている。僕にはアメリカ人がこれを聴いてどう感じるのか想像しきれないけれど、豊かで勇ましいアメリカとは違った、物悲しく貧しく、だけどささやかなファンタジーと物語が宿るスフィアンのアメリカが愛おしくてならなかった。

だから僕はその指を頼りにする
きみが再び証明してくれるから
ボン・イヴェール  “ブラケット、ウィスコンシン”

 ジャスティン・ヴァーノンはそして、相変わらず飾らないナイス・ガイで……相変わらず度を越した理想主義者だった。彼はこの2日間半で、この町の音楽的な土壌の豊かさを証明し、そのことを祝福した――少しばかり感極まり、「言うべきことはたくさんあるけれど……グッド・ジョブ! きみたちは正しい選択をしたよ!」と冗談めかして笑ってみせた。そこに集まった2万人全員が彼のことを愛していたし、それに何か、彼のことを誇りに思っているようだった。それはきっと、ごく普通の青年が彼の誠実さでこの音楽的な共同体を生み出したことへの敬意だ。ザ・ステーヴス、Yミュージック、コリン・ステットソン、それにジャスティンいわく「このフェスティヴァルのMVP」であるNO BS! ブラス・バンドら、フェスティヴァルの出演者が次々に現れて彼と彼のバンドとともに大団円を作り上げていく。ボン・イヴェールの音楽はスフィアンとはそれぞれ美しく対照的に、傷や孤独を抱えながらそれでも地に足をつけて前に進もうとする、タフなものだった――「僕が失ったかもしれないものは、僕を引き止めたりはしない」。それは合唱となり、わたしたちの宣言としてオークレアの夜空に吸い込まれていく。アンコールでは新曲を2曲披露してバンドの先を仄めかし、ジャスティンは5年前に日本で見たのと同じようにノシノシと長身を揺らしつつ去って行った。

 間髪入れずにNO BS! がステージの下に降りてきて、マイクを通さずブリブリとファンキーなナンバーを演奏する。みんな踊っているし、笑っている。「あと一曲だけやるよ!」……わはは、なぜかアーハの“テイク・オン・ミー”だ。Take on me, I’ll be gone……僕のはじめての海外フェス体験は、その楽しい合唱で終わっていった。そうだね、I’ll be gone.
 5年前、大阪でジャスティンに厚かましくも「ウィスコンシンでいつかあなたのステージが観たい」と言ったら、彼はとびきりの笑顔で「ぜひ来てよ!」と言った。それはもう叶ってしまったけれど……僕はきっとまた、この愛おしい田舎町にやってくるだろう。

(Special thanks to Yusuke Fukuda!)

Vashti Bunyan Japan Tour 2015 - ele-king

 フォーク・リヴァイヴァルというのがあったんですね。数年前のことだけど。アニマル・コレクティヴやデヴェンドラ・バンハートが人気だった時代、温故知新的に脚光を浴びたひとりに、たった1枚のアルバムを残して消えた、伝説の女性SSWのヴァシュティ・バニアンがおりました。彼女は実に30年ぶりにカムバックを果たすと、その新作は新しい世代のあいだでも評判となって、そして素晴らしい初来日公演も果たしています。

 9月、5年ぶりに彼女が来日します。どうか見逃さないで下さい。ひょっとしたら、最後になるかもしれません。彼女についてはこちらの記事も参照しましょう。また、今回のサポート・ギタリストであり、フォーク・シンガーでもあるガレス・ディクソンが1日限りのライヴを披露します。こちらにも注目してください。

9月22日(火・祝)京都教育文化センター
9月24日(木) & 9月25日(金)東京・キリスト品川教会

■詳細:https://www.inpartmaint.com/site/13670/

【Gareth Dickson Live in Tokyo 2015】
Vashti Bunyan来日ツアーのサポート・ギタリストとして帯同するガレス・ディクソンの1日限りのソロ公演が決定!

9/26(土)世田谷美術館

■詳細:https://www.inpartmaint.com/site/14159/


赤塚不二夫生誕80周年企画 - ele-king

 秋と言えば学園祭の季節、 一足早く、バカ田大学の学祭情報なのだ!!
 ライヴ出演は電気グルーヴとスチャダラパー(ちなみに、アニも出演した舞台『レッツラゴン』はそうとう面白かったのだ!!)、バカ田大学特別講師として三上寛と宇川直宏のトークもあるのだ!! ちなみに大学祭がおこなわれる9月14日は、赤塚不二夫先生のお誕生日なのだ!!

 そして、この日を皮切りに、赤塚不二夫先生の生誕80周年がはじまるのだ!!
 実は、ele-kingからは、9月14日に『赤塚不二夫 実験マンガ集』と『破壊するのだ!!──赤塚不二夫の「バカ」に学ぶ』を2冊同時発売。会場内でも売らせていただく予定なのだ!!
 笑いのない人生なんて……賛成の反対なのだ!!
 9月14日はみんなバカになるのだ!!

公演概要

■公演日時 2015年9月14日(月) 開場:18:00/開演:19:00
■会場 渋谷CLUB QUATTRO
■料金 スタンディング/6,500(税込) 生誕80年記念ステッカーつき
※ご入場時、別途ドリンク代が必要です(500円)
※3歳以上要チケット
※記念ステッカーは公演当日、ご入場時のお渡しとなります。
★本日8/1よりオフィシャル先行予約開始(8/7 12:00まで):https://w.pia.jp/t/akatsukafujio/
オフィシャルHP:https://tadpole-lab.com/fujio80/
お問い合わせ ディスクガレージ 050-5533-0888 (平日12:00-19:00)

赤塚イズムとは・・・
昨今、様々な未曾有の出来事が多い中、経済の閉塞感もあり、日本国民が委縮しているのではないかと考えました。ギャグ漫画の帝王「赤塚不二夫」が描いてきたマンガそして幅広い人脈と活動そのものがイズムであると言えます。これを機に気づきを与え、日本が活気満ち溢れる国になることを願い推進したいと考えています。


Damon & Naomi - ele-king

 もう秋か。なんつって、9月早々に面白いギグがあるので紹介しましょう。元ギャラクシー500のふたりによるデーモン&ナオミ(悲しいドリーム・ポップの大ベテラン)の来日公演が、間近に迫っている。
 今回のライヴは、
 1. ナオミ監督によるサイレント映画を上映しながらライヴ。
 2. 三上寛とキム・ドゥスという日韓の両鬼才との共演。
 という、かなーりスペシャルな2公演です。

 会場も原宿VACANTと青山の月見ル君想フという、とても親密な空間。推薦です!

Damon & Naomi performing "Fortune" in Tokyo
デーモン&ナオミ『Fortune』上映 + 単独コンサート

2015年9月10日(木)原宿 VACANT
開場 19:30/開演 20:00
前売予約 3,500円/当日 4,000円(ドリンク代別)
出演:デーモン&ナオミ
前売予約 (インターネット) : https://www.vacant.vc/contact/reserve.php?id=236
お問い合わせ:原宿 VACANT 03-6459-2962

International Sad Hits
featuring Damon & Naomi, Kim Doo Soo, Mikami Kan
2015年9月11日(金) 青山 月見ル君想フ
開場 18:30 開演 19:30
前売予約 ¥3,500 当日¥4,000(ドリンク代別)
出演:デーモン&ナオミ, キム・ドゥス, 三上寛
前売予約 (電話/インターネット) : https://www.moonromantic.com/?p=26487
お問い合わせ:月見ル君想フ 03-5474-8115


M.E.S.H. - ele-king

 おそらくは今年前半のもっとも鮮烈な一夜になったであろう〈パン〉のショウ・ケースにおけるメッシュのライヴを、「こんな音楽聴いたことがない」と評する声は多い。あの夜はレーベル主宰者のビル・コーリガスや、テクノ・フィールドDJたちからも絶大の支持を得ているリー・ギャンブルらに加え、世界的なリズム&ベースを作り出す東京のエナたちがステージに立っていた。これだけのメンツが揃ったに関わらず、メッシュをその日のベスト・アクトに挙げたひとびとがいるということはやはりそれなりの理由がるわけで、EP「セシィアンズ」を経由して、ついに発表されたファーストである『ピティウス・ゲート』の魅力にもそれは繋がるのかもしれない。

 ノイズに端を発し、ダンス・ミュージックにも領域を広げ、そのどちらにも固着することなく、ふたつの関連性においてサウンドを模索するような形で〈パン〉は発展してきた。ヴァレリオ・トリコーリからアフリカン・サイエンシズ、そしてオブジェクトに続いた去年のレーベル・カタログを見てみても、その姿勢は崩れるどころかむしろ強化されていると言える。
 メッシュの今作がこの流れのなかでも異色な点は、〈パン〉の要素をアルバム一枚のなかで融解させて彼なりのシーンへの解釈を提示しているということだ。一曲めの表題曲からしてもそうだが、等間隔で落下する強烈な低音とシンセのレイヤー・サウンドで2分を突き抜けるようなやり方は、ダンス・ミュージックからしてみれば強引すぎるかもしれないが、ときに音の多様性を奪いかねないそのルールへの批評精神がこの曲以降も鋭く光っている。続く“オプティメイト”や“ソリウム”においては、彼のホームであるベルリンのクルーであるジャヌスのパーティで流れるベース・ミュージックの断片が聴こえてくるものの、極端に減らされたパーカッションと不規則に並ぶメロディが生み出すリズム・パターンは、既存のジャンルの定位置には収まることにない存在感を放つ。

 リズム面における音数の少なさや、空間の広がりを特徴とする最近のトレンドとして、ウェイトレス(無重力)・グライムがある。メッシュはアルバムでウェイトレスをやるだろうと僕は思っていた。5月に出た「セシィアンズ」の日本盤には、リミキサー陣にその流れのパイオニア、ロゴスの姿が。さらには〈トライアングル〉といったノイズ/ゴシックなレーベルからもウェイトレスのルーキーであるラビットのリリースがあった(同レーベルからはSDライカや、ジャヌスでのメッシュのクルーであるロテックといったグライム・マナーを踏襲したプロデューサーの作品が続いている)。これほどまでに大きなトレンドに近い場所にいるわけだから、その音に共通する要素があるメッシュはきっとアルバムでウェイトレスをやるだろうと、安易だけれども考えていたわけだ。

 そして予想は見事に外れた。今作において典型的なグライムのスタイルはほとんど現れず、むしろ彼はグライミーさと、そこで生まれた無重力さを別の方向へと拡張しているように見える。それがおもしろい形で現れているのが“エピセット”だ。グライムにおいて銃声のサンプリングはスネアなど代わりにアクセントとして使われることが多いが、ここではその音(正確にはサンプルかどうかはわからない)が連射されリズムを牽引している。そして他にリズムをリードするようなパーカッションはほとんどなく、曲間に現れる無音のセクションは連射との対比により深いところに聴き手を吸い込む。ある種のポスト・グライムとでも呼ぶことができそうな音像を示唆する曲だ。

 この音楽が流れたときフロアでひとが踊るのか、と問われればそれはわからない。けれども、ステージ上のフロアを見つめながら口が半分空いたひとの姿は容易に想像できてしまう。このアルバムに収められた最初から最後まで一貫性がほとんど見られないビートや音像の混沌具合に、どのように反応したらよいか戸惑うリスナーも多いはずだ。ポスト・インターネット世代と括られることもあるメッシュだが、ネットとリアリティの境目がシームレスに繋がっているというその世代の特徴が反映されているというよりは、いたずらに「現実」の音をサンプリングするのではなく、現実には存在しえない音と徹底的に向き合いそのカオティックな側面を解放したものが本作のように思える。そして同様に現実もネット(非現実空間)もカオスである。両者の繋がりというよりはその類似性の方がこのアルバムにとっては重要なのかもしれない。タイトルの意味する「哀れみの門」が開いているとするなら、こちらによく似た向こう側がアルバムから垣間見えているのだろうか。

interview with Cornelius - ele-king


Cornelius
Constellations Of Music

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 ことオリジナル・アルバムに関しては寡作で知られるコーネリアスだが、オリジナルに匹敵する彼ならではの創意と工夫と閃きの賜物であるリミックス作品を集めたコンピレーション・シリーズ『CM』は、これまで4作リリースされてリスナーの渇きを癒す一方、こうした他流試合は来るべき新作への実験の場としても有効に機能してきた。

 そして、リミックスはもとよりプロデュースやコラボレーション作品、未発表の新曲、カヴァー曲など近年のワークス13曲をカラフルに散りばめた最新コンピレーションが、本作『Constellations Of Music』である。タイトルを直訳すれば「音楽の星座」。

 英和辞典を引くと、“constellation”には、①《天文》星座;(天空における)星座の位置 ②そうそうたる人々の一団、きらびやかな群れ;(…の)一群((of …)) ③《占星》星位、星運 ④《心理学》布置、という意味がある。

 「布置」とは聴き慣れない言葉だが、ユング心理学の概念のひとつで「共時性」(synchoronicity)を指す。複数の物、人、事柄などの配置が織り成す相関関係という意味にも使われる。個人の心の中の状況と、外側で偶然に起こる出来事──まったく無関係に思える物事が、あるとき不意に、まるで星座のようにひとつのまとまりを持って結びつき、トータルな意味合いとして理解できるようになる。そうした連鎖や気づきを「コンステレーション」と呼ぶのだ。

 古来より世界中の人々は、地域性や民族性を反映しつつ、どこか共通する要素を持った神話や伝説を育んできた。近現代の天文学で定められている88星座の中に、なぜか「さる座」は見当たらないが、その欠落をもはや見過ごすわけにはいかないと思ったのだろう、小山田圭吾は、偶然のように集った10個のきら星――グラミー受賞者と候補二組(鳥と蜂、猿本人)、野牛娘ひとり、ペンギン、魚、幽霊などを含む――に必然的な繋がりを見出し、限りなくイマジネイティヴに「音楽の星座」を描いてみせてくれた。

 個々の星ぼしの歴史に想いを馳せれば、彼らを産んだ親たちや祖父母の代まで遡ることが可能だ。20世紀という複製文化の黄金時代に花開いた、信じられないほどに豊かなポピュラー・ミュージック(大衆音楽)の甘やかな調べ。それらを創り、歌い、奏でたソングライターや歌手や演奏家たちは、次々に星となって天に召されてゆく。時を超え、世紀を跨いで遺された録音物から、彼らの魂が「偶然」再生される。それに霊感を受けた次の世代へと、文化の円環は引き継がれていく。星の彼方へ、遙かな未来に向けて――。

 Ah Dareka Tooi Basyode / Ah Onaji Youna omoi / Tooku Umiwo Koete Haruka (Cornelius“Omstart”)

 星座から遠く離れていって景色が変わらなくなるなら、ねぇ本当は何か本当があるはず……と歌った吟遊詩人(犬)もいたっけ、ね。

■Cornelius / コーネリアス
フリッパーズ・ギター解散後、1993年から開始された小山田圭吾によるソロ・プロジェクト。ソロ・デビュー22年を迎え、国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなどますます幅広く活動する。2008年にリリースされた「Sensurround & B-Side」がグラミー賞のベスト・サラウンド・サウンド・アルバムにノミネート。「UNIQLO」「CHANEL」などのCMや「デザインあ」(NHKEテレ)といったTV番組ほか、映像とのコラボレーションも多い。https://www.cornelius-sound.com/

僕ぐらいの世代だと『ピロウズ&プレイヤーズ』とかさ、ああいうのが根底にあって。

北沢夏音(以下、北沢):この前インタヴューしたときは、このコンピが出ることをぜんぜん知らなかったから、びっくりした。取材のオファーをもらって、こんなにすぐ…!? みたいな。

小山田圭吾(以下、小山田):ねっ、僕も。20年会ってなかったのに、1ヶ月に1回くらい会ってる(笑)。

北沢:こういう感じでこれからやれたらうれしいね(笑)。今回のアルバムは、『CM4』から3年ぶりのリミックス&ワークス集と捉えていいの?

小山田:いちおう『CM』はリミックスって限定してたんだけど、今回はリミックスも、そうじゃないものも入っていて。まぁでも、「Constellation of Music」って「CM」って略せるし、ちょっと近いところではある。

北沢:コラボレーション的なトラックもわりと目立つというか。

小山田:そうですね。あとは僕が何もやってなくて、ただお願いしただけって曲も入っていたりして。ちょっとコンピレーション・アルバム的な感じにしたいなと思って。

北沢:〈トラットリア〉の頃は他にあんまりないような年鑑っぽいコンピをよく作っていたような記憶がある。

小山田:まぁレーベルだったからね。レーベル・ガイド的なコンピレーションみたいなのは、ことあるごとに作っていたんだけど。僕ぐらいの世代だと『ピロウズ&プレイヤーズ』(「99ペンス以上は支払うな」というメッセージと共に1982年のクリスマスに〈チェリー・レッド〉からリリースされ、翌83年にかけて19週連続で全英インディ・チャート第1位を独走したコンピレーション・アルバムの名作。当時〈チェリー・レッド〉のA&Rであり、後年〈トラットリア〉の命名者となるマイク・オールウェイが企画し、ザ・モノクローム・セット、フェルト、アイレス・イン・ギャザ、エヴリシング・バット・ザ・ガールらが参加。84年には日本盤のみで続篇『ピロウズ&プレイヤーズ2』がリリースされた)とかさ、ああいうのが根底にあって。なんかそれ的なね。あの頃はそういうポストパンクのインディ・レーベルなんかが出てきてさ、ガイド的なコンピレーションってたくさんあったじゃん? ああいうものを自分のレーベルでも作ってみたかったんだよね。

北沢:今回のはレーベル・ガイドじゃないんだけど、やっぱり「小山田くんと仲間たち」というような雰囲気があって、そういうものとしても聴けるって感じがするね。国際色豊かなメンツで。

小山田:仲間たちといっても、会ったことのないひとたちもいたりするんだけどね(笑)。

北沢:本当に(笑)? ゴティエとか会ってない?

小山田:ゴティエは会ったよ。

北沢:このなかで会ってないひとってだれ? コーラルレイヴンとか?

小山田:コーラルレイヴンは一度会った。ザ・バード・アンド・ザ・ビーは会ったことない。あ、でも会ったことないのはそれだけだ。

北沢:じゃあけっこう会ってるね。

小山田:うん。でも、一回会ったとかそんな感じ(笑)。そんなに親しいわけじゃ……親しいひとももちろんいるけどね。

(ミッドタウンのBGMは)季節がテーマになっていて、年間で6つくらいに分かれていて。冬、春、初夏、夏、秋、クリスマス、そして冬っていう(笑)。

北沢:資料を見たら、これは小山田くんが担当した東京ミッドタウン・ガレリアのBGMセレクションの企画からはじまって書いてあるけど?

小山田:そうだね。ミッドタウンのBGMを2年くらいずっとやっていたんだけど、それで最後に企画のアルバムを出すって話がきて、そこからこのアルバムに繋がっていったんだけど。このなかに入っている曲もいくつかは選曲したりしていて。

北沢:たとえば?

小山田:1曲めの大野由美子さんのやつとかもそうだし、salyu × salyuの “ハモンド・ソング”とか、ザ・バード・アンド・ザ・ビーもそう。あと、“ナイト・ピープル”とかペンギン・カフェとか。基本的に自分の曲はあんまり選んでいなかったんだけど、こういうコラボレーションものだったりすると、わりと掛けやすいかなと思って。

北沢:じゃあ、実際にミッドタウンでは掛かってたってこと?

小山田:そうそう。それは季節がテーマになっていて、年間で6つくらいに分かれていて。冬、春、初夏、夏、秋、クリスマス、そして冬っていう(笑)。

北沢:なるほどね。クリスマスは特別なの?

小山田:やっぱりクリスマスがいちばん大変だね(笑)。だいたい90分とか選曲するんだけど、90分、2年分、全部クリスマス・ソングってけっこう大変だった(笑)。

北沢:合計3時間(笑)。

小山田:でも、クリスマス・ソングって意外にあるなって思った(笑)。

北沢:小山田くんはクリスマス・ソングって作ってたっけ?

小山田:いや、そこまで具体的なのはないね。

北沢:いつか作ろう、みたいな気持ちはある?

小山田:うーん。自分からはそんなにかな。キリスト教徒なわけでもないし。でも、クリスマスの街の雰囲気は嫌いじゃないけどね。クリスマス・ソングは好き。

北沢:いちばん好きなクリスマス・ソングって何? アズテック・カメラのカヴァー(”Hot Club of Christ”)やってたよね。

小山田:あったね。あれ好きだよ。あのコンピレーションがすごく好き。〈クレプスキュール〉の(所縁のアーティストのクリスマス・ソングを集めた)コンピレーションで、何種類も出てるんだよね。

北沢:『GHOSTS OF CHRISTMAS PAST』、新装盤が出るたび内容も曲順も少しずつ入れ替わってて。あれはジャケもいいよね。
小山田:毎年クリスマスくらいになると思い出して聴いてるよ。

北沢:そういうの、なんかいいなって思うから、小山田くんもいつかさりげなく作ってほしいな。

(*本作におけるコーネリアスの新曲“Tokyo Twilight”のタイトルは、『GHOSTS OF CHRISTMAS PAST 』にアズテック・カメラと並んで収録されているブリュッセルのポストパンク・バンド、ザ・ネームズの曲名の引用ではないか、と後日レコードを引っ張り出して気づいた。エキゾチック・サウンドの名曲“スリープ・ウォーク”で知られるサント&ジョニーにも同名異曲があるが、そちらは小津安二郎監督の映画『東京暮色』の英題から採ったのかもしれない)


■大野由美子 / Escalator Step

北沢:さて、僕は『CM』のシリーズが好きで、毎回楽しみにしてるんだけど、今作用に小山田くんがリクエストして録り下ろされたという1曲めの大野由美子さんの“エスカレーター・ステップ”を聴いて、これぞまさしくラウンジなエスカレーター・ミュージックで、しかもペリー&キングスレーみたいな感じがした。

小山田:うん。まさにそんな感じで。BGMセレクションで、ああいうエレベーター・ミュージックっていうか、60年代とか50年代のショッピング・センターとかでなんとなく流れていそうな曲っていうのをたくさん選曲してた。それで何曲かに1曲はそういうものが欲しいなと思ってたんだけど、自分のレパートリーになくて。それにライセンスするのもけっこう大変。けど大野さんだったらこういうものが作れるだろうとわかっていて(笑)。大野さんはソロでけっこうそういうものを作っていたりしているんだよね。あっ、ソロっていうか……

ああいうエレベーター・ミュージックっていうか、60年代とか50年代のショッピング・センターとかでなんとなく流れていそうな曲っていうのをたくさん選曲してた。

北沢:バッファロー・ドーター?

小山田:バッファロー・ドーターじゃなくて、珍しいキノコ舞踏団のサントラを大野さんが作っていて。

北沢:モーグを使ってるの?

小山田:そうそう。で、モーグっていったらもう大野さんだなと思って。「こんな感じの曲を作って」って言ったらパーフェクトに作ってくれました(笑)。

北沢:エスカレーターとか、そういう具体的な場所の名前を伝えたの? 

小山田:具体的なキーワードは言ってないけど、そういうショッピング・センターとかで掛かってるような軽い感じのもの、とかってディレクションはしたかな。

北沢:エレクトリカル・パレードみたいな、アトラクション的な感じもある。ああいう音がかかると、すぐにそういう世界に入り込めちゃうから。

小山田:あと、コンピレーション的な内容にしたかったので、なんか冒頭にそういう曲があるといいなと。

北沢:大野さんは“まだうごく”のミュージック・ヴィデオにも参加してるよね。

小山田:うん。最近、僕がやってるプロジェクトにはほとんど参加してもらってる。『攻殻機動隊』プロジェクトでも、“まだうごく”もやってくれているし、“外は戦場だよ”も“じぶんがいない”も全部演奏してくれていて。salyu × salyuでもバンドのメンバーとしてずっとお世話になっていて。しかもお姉さん役として、女子の面倒を見てくれるから(笑)。

北沢:それを小山田くんがやらなくてすむんだ(笑)。

小山田:そうそう(笑)。本当に頼りになる。

北沢:この1曲めからスーッと心地よくアルバムの世界観に入れるっていうかね。

小山田:そんなに多く言わなくても意図を汲んでくれて。「いい感じによろしく」くらいしか言っていないし(笑)。


■坂本慎太郎 feat. Fuko Nakamura / 幽霊の気分で(Cornelius Mix)

北沢:次は坂本慎太郎くんの“幽霊の気分で”のコーネリアス・リミックス。これは7インチ・ヴァイナル・オンリーだったのかな?

小山田:最初は「サウンド&レコーディング・マガジン」の企画だったんだよね。リミックスが付録のCDに入ってた。で、そのあとに坂本くんのレーベルから7インチが出て。CD盤になったことはなかったんだけどね。

北沢:坂本くんのファースト・ソロアルバムに入ってるオリジナルは、いちおう基本的には坂本くんが歌って、(ナカムラ)フーコさんはコーラスだったんだけど、こっちは完全にデュエットになってるね。

小山田:どちらかというとフーコさんのほうを前に出した感じかな。

北沢:これ、バック・トラックにモーグが入ってる?

小山田:モーグは入ってないんじゃないかな。

北沢:なんか1曲めから自然に繋がるような、そういう感じがしたんだよね。

小山田:モーグじゃないけどシンセ・ベースは入っていたかもしれないね。

北沢:坂本くんの原曲ってけっこうエキゾなムードがあるじゃない? それも生かされているような気がして。

小山田:ギロが入ってるのが印象的だよね。

ギロが入ってるのが印象的だよね。

北沢:そのせいだ(笑)。

小山田:だからギロは残したんだけど。普通のポップ・ミュージックにギロが入るのって、あんまりないと思うけど、そこはやっぱりセンスがいいなって思った。

北沢:アンオフィシャルなヴィデオ──舞台は外国で、メキシコ人みたいな感じの男女が出ていたりするんだけど──がネットに上がってて、それが妙に曲に合ってて、いいんだよね。観てない?

小山田:なんか坂本くんがiPadで作ったやつは観たけどね。

北沢:どんなやつ?

小山田:あれって“幽霊の気分で”じゃなかったっけ? 最初に作ったやつ。なんか犬とか出てきて。アニメのやつ。

北沢:アニメのやつは“幽霊”じゃなくて“君はそう決めた”じゃないかな。“幽霊”の謎のヴィデオは、完全にロケで、たぶんメキシコだろう、じゃなきゃ南米だろうって感じの場所で。なかなかよかったよ。

小山田:ギロに引っ張られてそうだね。

北沢:テンポ的にもね(笑)。そういうムード音楽みたいな気配も増幅されてて、すごくいいね。このリミックスは、狙いとしては、ギロからインスパイアされたの?

小山田:ギロって言うよりも、印象をちょっと変えたいなと思って。ナカムラ・フーコさんの声がすごく素朴な感じでいいなと思って、彼女をもうちょっとフィーチャリングしたかったというのと、あとは「幽霊」ってことばにけっこう引っ張られたかな。僕のなかでの幽霊のイメージは、フレクサトーンって楽器なんだよね。おろし金みたいなものに玉がふたつ付いていてベンドができるんだけど、音がだんだん上がっていくみたいな……お化け屋敷とか昔のおばけの効果音に使われているラテンの楽器。それをけっこう使ったんだよね。

北沢:ラテンなんだ。なるほど、だからエキゾな感じがあるんだね。

小山田:なんかユーモアがあるというか、そういうイメージで作った。あとは、坂本くんに『攻殻』とかsalyu × salyuとかお願いすることが多かったんで、逆に恩返しができてよかったなぁと。


■The Bird And The Bee and Cornelius / Heart Throbs And Apple Seeds

北沢:冒頭の2曲でもうかなり引き込まれちゃう。で、3曲めがザ・バード・アンド・ザ・ビー。これはセカンド・アルバムの『レイ・ガンズ・アー・ノット・ジャスト・ザ・フューチャー』にそのまま入ってるよね。

小山田:これはボーナス・トラック的なやつじゃないかな。

北沢:そうだ、日本盤のボーナス・トラックだったね。これは彼らから依頼が来たの? それとも日本のレコード会社から?

小山田:これはもともと車のCMというのが最初にあって、女性向けの軽自動車みたいな車のCMだったんだけどザ・バード・アンド・ザ・ビーを使って何かやるって企画で、日本のアーティストとコラボしたいというので、彼らが僕の名前を出してくれて、やってみようかという感じで。

北沢:それまでに彼らのことは知ってた?

小山田:うん。知ってた。ファーストのFMでヒットした“アゲイン&アゲイン”とか。ローウェル・ジョージの娘のヴォーカルのイナラ・ジョージは、僕の『Sensuous』をアメリカで出してるレーベル(Everloving)からソロのレコードを出していて。それでそのレーベルのひとからレコードをもらっていたんだけど、けっこう気に入って聴いちゃった。ソロはもうちょっと暗いフォークみたいな感じなんだよね。あんなにポップではない。

北沢:そうなんだね。聴いたことないな(※あとでイナラのアルバム『All Rise』を聴いたが素晴らしかった)。ザ・バード・アンド・ザ・ビーは僕も好きで、これは小山田くんも絶対好きだろうなって思ってた。

小山田:カーディガンズとかみたいなFM乗りのいい曲だね。

北沢:あと、テイ・トウワさんがジョアン・ジルベルトの娘(べべウ・ジルベルト)をフィーチャーしていたのを思い出した。

小山田:あれすごく好き。

salyu × salyuをやっていた頃と近いプロダクションだね。

北沢:“プライヴェート・アイズ”(ダリル・ホール&ジョン・オーツ)のカヴァーつながりで連想して。ちょっと甘いんだけど、絶妙なさじ加減だよね。これもハーモニー・ポップって感じかな。

小山田:そうだね。salyu × salyuをやっていた頃と近いプロダクションだね

北沢:でも隠し味的に電子音が入っていて、そういうものがやっぱり繋ぎとしても生かされている気がする。

小山田:これはわりと共作みたいなかたちで、こっちでほとんどまとめたんだけどね。グレッグ(・カースティン)っていうもうひとりのひともちょっと楽器を弾いてくれたりとか、アレンジをちょっとやってくれたりして。完全に僕が作ったって感じではなくて、彼女も歌詞を書いて。ただ、データのやり取りだけでやっていたので、一度も会ってはいなくて。

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■salyu × salyu / Hammond Song


Cornelius
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北沢:それで、次に当然のようにsalyu × salyuが入ってくるわけだね。“ハモンド・ソング”はツアーでだけ販売していたんだよね?

小山田:会場でだけ売っているCDに入っていたんだけど、salyu × salyuのライヴでずっとやっていたんだよね。で、一枚しかアルバムが出てないんで、ライヴ1本をやるには曲が少ないからカヴァーも何か考えようと思って、それでこの曲を選んだんだけど。もともとはロバート・フリップがプロデュースしていた、ローチェスっていう三姉妹がやってた曲で。原曲はその3人のコーラスで、大好きなんだよね。それがピッタリだと思ったし、難しいコーラスでも彼女たちならできると思ってね。

北沢:すごくメロディがきれいだよね。これは本当に最近のコーネリアス印っていうか、アコギとシンセ・ベースをけっこう多用しているよね?

もともとはロバート・フリップがプロデュースしていた、ローチェスっていう三姉妹がやってた曲で。原曲はその3人のコーラスで、大好きなんだよね。

小山田:うーん、どうだろうね。アコギもシンベもよく使うけどね。このトラックに関しては僕はほとんど何もやっていなくて、ギターはsalyu × salyuでコーラスをやってる(ヤマグチ・)ヒロコちゃんで、シンベは大野さんで、コーラス・アレンジは全部Salyuがやってくれた。僕は最後に「ちーん」って鐘の音を鳴らしたんだけど、それだけやってる(笑)。

北沢:全体を見ていただけみたいな?

小山田:そうですね。

北沢:ときどき声はいじってる?

小山田:いや、いじってないです。ほぼ一発録りに近いです。ライヴでやってたし、Salyuたちは本当に上手なので。

北沢:これは前半のハイライト・ソングになってるなあって思った。

小山田:本当にいい曲だから。


■Cornelius / Holiday Hymn

北沢:で、次がコーネリアスの新曲“ホリデイ・ヒム”。

小山田:これは新曲というか、もともとは無印良品のCMというか──店内とかウェブで掛けたりする用に作った曲で、それをアルバムのために展開を加えたりして1曲にして。もともとはループが延々と繋がっているみたいな。

北沢:口笛は最初から?

小山田:うん。

本当に昼間のイメージ。

北沢:アコギのカッティングと口笛の多重録音とスティール・パンが入ってて、小山田くんらしいユーモアのセンスが感じられるすごくナイスなトラックだなと思った。聴いていてリラックスするよね。

小山田:ネガティヴな要素が何にもないんだよね(笑)。本当に昼間のイメージ。あと、無印良品的なナチュラルな印象というか、そんな感じで作った曲で。

北沢:曲名はヴィック・ゴダードから。大好きな曲なんでニヤっとしちゃう。


■Korallreven / Try Anything Once(with Cornelius)

北沢:次がコーラルレイヴンの“トライ・エニシング・ワンス”。これはJET SETに新譜を物色しに行ったときに、「あれ、小山田くんが参加してる」って発見して驚いた。彼らのアルバムにも入ってるよね。

小山田:うん。入ってるね。

北沢:12インチも出ているみたいで、それは持っていないんだけど。これはどういうところからきた話なの?

小山田:突然連絡があって、「日本にいるんだけど会いたい」って言われたんだよね。僕はコーラルレイヴンってぜんぜん知らなくて、「なんだろうな」って思ってた。たまたま空いていたのでここ(事務所)に来たよ。

北沢:あっ、ライヴじゃなくてここに来たんだ(笑)。

あんまり、っていうかほとんどないんだけど、(自分が)歌だけで参加するっていう(笑)。

小山田:なんかぜんぜん仕事とか関係なくて、日本に普通の旅行で来たんだって(笑)。友だちが日本に行くからついてきて、そのついでに僕のとこに来たんだって。まだ若い子で20代だった。ふたり組で片っぽの子(マーカス・ジョーンズ)が来たんだけど、「いま新譜を作っていて、なんかコラボレーションをしたい」って言ってて、Youtubeで音を送ってもらったらわりとよかったから、会ってみようかなと。そしたらコーネリアスに“ドロップ”って曲があるんだけど、あの曲がすごく好きみたいで。プロダクションでコーラスがだんだんと重なって和音になっていくみたいな、変わったことをやっているんだけど、ああいう感じの声とアレンジが欲しいって、すごく具体的に言われて。それで彼がトラックを送ってきて、それで僕が歌を入れて返してっていうコラボレーションで。あんまり、っていうかほとんどないんだけど、歌だけで参加するっていう(笑)。だから僕はオケはほとんど何もしてない。

北沢:イントロのハモりがモロにコーネリアス調っていうかね。だからこれをやりたかったのかな、みたいな。あとブリッジのコーラスか。これは声をちょっといじってるよね。

小山田:そうだね。オートチューンとかでいじったりしてるし。

北沢:でもなんか懐かしい感じ。80sのエレポップみたい。チャイナ・クライシスとか、ギャングウェイとかさ。

小山田:フラ・リッポ・リッピとか。

北沢:そう! その感じだよね。ネオアコ感のあるエレポップ。

小山田:そういう感じで僕はすごく好きなんだよね。いまあんまりないような感じだから。

北沢:そうだねえ。これはイギリスの子たち?

小山田:スウェーデンの子たちなんだって。エレポップっぽかったからそういう話をしたんだけど、けっこう若い子だったからぜんぜん知らねぇって感じで(笑)。

北沢:フラ・リッポ・リッピもギャングウェイも知らないの?

小山田:知らない。ディペッシュ・モードすら知らなかった(笑)。ティアーズ・フォー・フィアーズとかも知らない。

北沢:えー! そんな若いの?

小山田:若い。24、5なんじゃないかな。

北沢:えー。ティアーズ・フォー・フィアーズも知らないんだ、信じられないな。

新人だろうがベテランだろうがあんまり関係ないけどね。おもしろそうだったらやるって感じで。

小山田:最近のナウいやつのほうが好きみたいだよ(笑)。なんかヨーロッパのああいう感じはあるよね。イギリスでもない、北欧系みたいな。

北沢:そうか。ほんとにフラ・リッポ・リッピとかチャイナ・クライシスを思い出した。やっぱりふたり組か、っていうね。

小山田:男のふたり組でね。

北沢:この曲は今回のアルバムの中ですごくいい息抜きになってる。

小山田:84、5、6年の感じかな。

北沢:こういうのが好きでいっぱい聴いてたな。

小山田:こういう感じもう忘れ去られてるよね。

北沢:ここら辺は、いま、もうちょっと顧みられてもいいのにね。でも向こうからぜひという要望だったんだね。声だけのコラボっていうのはあまりないにせよ、そうやって向こうからやりたいってオファーがあって実現する例って、けっこう多いの?

小山田:うん。まぁ、ちょいちょい。逆にこっちからいくことはあんまりないかも。

北沢:海外のアーティストと国内のアーティストを比較するとさ、もちろん顔を合わせられるっていうのは国内のいい点だと思うけど、最近の音楽の作り方としては、データのやり取りだけっていうのも多いじゃない? そういう意味では、日本人だろうが海外のひとだろうがあんまり変わらない感じ?

小山田:そうだね。そういう意味ではあんまり変わらないかも。

北沢:逆にいっしょにやってみたいひとっていない? 

小山田:うーん……。あんまりいないかな(笑)。

北沢:こういうのって具体的に話がないと出てこないよね。こういう未知の新人とやるのも、きっとおもしろいよね。

小山田:新人だろうがベテランだろうがあんまり関係ないけどね。おもしろそうだったらやるって感じで。


■Cornelius / Night People

北沢:次は全編通して小山田くんが歌っている“ナイト・ピープル”。これはリトル・クリーチャーズの20周年記念トリビュートなの?

小山田:そうだね。トリビュート的なやつで。さっきのコーラルレイヴンは歌っているというよりもコーラスだったけど、この曲はこのアルバムで唯一ちゃんと歌ってる。

北沢:そうだよね。これはそれこそ“まだうごく”と全体のムードがちょっと似てるというか、スローでメランコリックで。リトル・クリーチャーズの原曲も英語詞なんだけど、『Sensuous』にフランク・シナトラのカヴァー(“スリープ・ウォーム”)があるじゃない? あの感じとも共通してるムードが……。

小山田:小山田:うん。あるかもね。

北沢:“ナイト・ピープル”っていうことばだけでも何か感じるものはあるよね。ちょっと原詞の内容を把握してないんだけど、原曲のヴィデオを観たら、メンバーが夜勤の工員さんとか残業中の会社員に扮していて、頑張って仕事しながらも心は闇夜に漂ってる、みたいな感じ。小山田くんのカヴァーも、ヴォーカルの少し潤んだ感触や曲全体のムードからメランコリーが伝わってくる。これは小山田くんが選んだの?

小山田:そう。リトル・クリーチャーズのなかですごく好きな曲で、これがやりたいなって思ってた。

北沢:彼らは和光の後輩なんだね。

小山田:そうなんだけど、僕が高校3年生のときに中3だから、学校では会った記憶がないの。でも、僕が高校のときにやってたバンドを中学のときに観たって言ってた。

北沢:学内でやってたバンド?

小山田:そうそう。中学と高校とがつながっているから。音楽室とかでジーザス&メリーチェインのコピー・バンドとかやってた(笑)。

音楽室とかでジーザス&メリーチェインのコピー・バンドとかやってた(笑)。

北沢:何年くらいのことだろう?

小山田:84年にジーザスがデビューしてるから、85年かな。

北沢:“ネヴァー・アンダースタンド”とかやってた?

小山田:やってた(笑)。

北沢:やっぱり(笑)。“ユー・トリップ・ミー・アップ”は?

小山田:やってたやってた(笑)。

北沢:そこら辺だ(笑)。すごい初期。

小山田:ファースト・アルバムだもんね。

北沢:ドラムがボビー・ギレスピーの頃。すごいな。和光ってやっぱり変わってるな。そんなの高校でやってるひと、当時はそんなになかったんじゃない?

小山田:うーん、わかんないな。でも世の中はボウイとかレベッカだよね。

北沢:そうだよね。クリーチャーズが『イカ天』でグランプリを取ったときって、もうフリッパーズだっけ?

小山田:フリッパーズ・ギターがデビューする直前に、僕は交通事故にあって、病院に入院していたんですよ。3ヶ月くらい入院してて、病院のベッドでこっそりタバコ吸ってたら、病院のひとに怒られて、ベッドごと喫煙所に連れて行かれて、一日中タバコを吸いながらベッドで寝てる時期があってね(笑)。そこにちょうどブライアン・バートンルイスが入院してて。あいつ高校生だったんだけど、そこで初めて出会って、ブライアンとその喫煙所でずっとテレビを観てて、そこに映る優勝したリトル・クリーチャーズをはっきり覚えてるよ(笑)。

北沢:そのときは面識はなかった?

小山田:うん。面識はぜんぜんなかった。

北沢:和光っていうのも知らなかった?

小山田:それは噂で聞いて知ってて、すごくかっこいいなと思ってた。

北沢:だってまだ18とかでしょう?

小山田:だって僕が19だから、高校生で16歳とか17歳ですよ。

最初から大人っぽくて、完成されてたよね。

北沢:俺もテレビで観たよ。天才少年バンド現る、みたいな。しかも英語詞だった。

小山田:ね。最初から大人っぽくて、完成されてたよね。

北沢:“シングス・トゥ・ハイド”とか“ニード・ユー・ラヴ”って曲を覚えているな。モータウンっぽいR&Bにジャズのスパイスを効かせる、その捻り方がめちゃめちゃ渋くて、とてつもなくセンスいいなって思ってた。でも意外にフリッパーズ・ギターとリトル・クリーチャーズって競演とかないよね。

小山田:フリッパーズのときはなかったね。鈴木(正人)くんとか青柳(拓次)くんとか留学していたでしょう。だからあんまり活動してなかったもんね。

北沢:初めて接触があったのっていつぐらいなの?

小山田:コーネリアスになってから。

北沢:それはいつ頃なの?

小山田:90年代後半くらいかな。でも、べつにいっしょにやる機会とかはそんなになくて、ただコーネリアスで『Sensuous』のツアーのときに、一回いっしょに〈リキッドルーム〉でやったかな。クリーチャーズもそんなに活動していなかったり、僕も海外でライヴをやっていたりとかで、そんなに(機会が)なかった。

北沢:じゃあこのトリビュートが初とは言わないけど、ちゃんとコラボしたのは初みたいな?

小山田:ライヴをやったりとかはあったんだけどね。

北沢:そのライヴ観たような気もするな……。でも当然のように、不思議なくらい近い空気を感じるんだけどね。今作の中に小山田くん自身の歌ものを入れるってことになると、収まるべきところに収まったなって感じがするね。


■Penguin Cafe / Solaris(Cornelius Mix)

北沢:次のペンギン・カフェはどういう経緯で?

小山田:4年くらい前に、六本木であったペンギン・カフェのライヴのオープニングでsalyu × salyuといっしょにやって、そのときに仲良くなって、去年日本に来たときコラボレーションでアルバムを1枚作りたいって話になって。それが最初にあった。アルバムは難しいけど、コラボするのはいいよってことで、そのときにコーネリアスの『Point』に入っている“バード・ウォッチング・アット・インナー・フォレスト”をやってくれて。それでいっしょにコラボをすることになって、このリミックスと合わせてシングルみたいなものにして……去年出たのかな。

北沢:ペンギン・カフェ・オーケストラ名義の頃の初代リーダー(サイモン・ジェフズ)の息子さんがやってるんだっけ?

小山田:そうそう。

北沢:引き継いでやってるって感じなの? おもしろいね。

小山田:うん。メンバーも当時とはぜんぜんちがうひとで、おもしろいよね(笑)。そういうパターンってあんまりないから。でもまったく違和感がなくて完全に同じなんだよね。それがすごいと思う。こういうペンギン・カフェの顔のない音楽っていうか、アイコンがはっきりしないのは、ペンギンだから成立するんだろうなって。でも息子のアーサーもかなり音楽的には才能があるひとだよ。

北沢:同世代?

小山田:たぶんほぼ同世代だと思うんだ。メンバーも僕とだいたい同世代くらいのミュージシャンがやってるの。アーサーは音楽をやっていたんだけど、もともとミュージシャンじゃなくて、探検家みたいなことをやってたみたい。潜水艦に乗ったりね(笑)。それでお父さんが亡くなって、ペンギン・カフェをやることになったらしいんだけど。

もともとミュージシャンじゃなくて、探検家みたいなことをやってたみたい。潜水艦に乗ったりね(笑)。それでお父さんが亡くなって、ペンギン・カフェをやることになったらしいんだけど。

北沢:家業を引き継ぐみたいな。

小山田:そうそう(笑)。バックのひとたちもペンギン・カフェ以外にもいろいろやってるひとで、ゴリラズをやっているひととか。センスレス・シングスっていたの知ってる? ドラムがそこのひとだった。

北沢:90年代のイギリスのパンク・バンドだよね? あんまり聴いてなかったけど名前ははっきり覚えてる。

小山田:何人かそういうミュージシャンがいて。

北沢:ぜんぜんペンギン・カフェっぽくないじゃん(笑)。

小山田:イメージがちがうんだけど(笑)。でもイメージがちがうと言えば、オリジナルのペンギン・カフェのサイモン・ジェフズってシド・ヴィシャスの“マイ・ウェイ”のアレンジをやってたって知ってる(笑)?

北沢:知らなかった(笑)。初耳。

小山田:らしいんだよね。マルコム・マクラーレンと親しかったらしくて、アダム&ジ・アンツとかバウ・ワウ・ワウとかのアレンジをサイモン・ジェフズがやっていたらしい。僕も知らなかったんだけど、ペンギン・カフェをスケシンと観に行って、シンちゃんがそれを知ってて、教えてくれた。

北沢:このトラックはアンビエントなんだけど、けっこう高揚感があって、エモーショナルな構成で、最後に波の音が入ってくる。タイトルの“ソラリス”って、『惑星ソラリス』(理性を持つ“海”におおわれた謎の惑星との交信を描いた、ポーランドのSF作家スタニスラフ・レムの小説をソビエト連邦の名匠アンドレイ・タルコフスキー監督が72年に映画化)から?

小山田:うん。これはそうなんじゃないかな。もともと波は入っていなかったんだけど、『惑星ソラリス』のイメージで、最後に波にしてみたんだけど。

北沢:すごくいいと思う。タイトルのイメージにぴったりの世界になっていて。

原曲との距離の取り方っていうか、それがけっこう難しくて。

小山田:リミックスなんだけど、こういうインストゥルメンタルの曲って、リミックスするのがけっこう難しくて。歌みたいにはっきりとした歌の中心みたいなものってないじゃん? 楽器の組み合わせでできてるっていうか。だから原曲との距離の取り方っていうか、それがけっこう難しくて。

北沢:これは原曲のどこをつかんだの?

小山田:楽曲の持っている音色を外しちゃうとペンギン・カフェにならないから。僕がリミックスするときって歌ものの場合、歌以外のトラックを使わないんだけど、これに関してはけっこう残してあって。弦の感じとか、楽曲のコード進行とかもそんなにいじってなくて。歌ものだと、わりとコードとかもいじっちゃったりするんだけど、そうすると原曲とだいぶ変わってきちゃう。なんかリミックスというよりは別ヴァージョンみたいな感じで作った。

北沢:でもそれが絶妙な感じというか。小山田くんとペンギン・カフェの合体版になってる。

小山田:あと電子音とかをあんまり入れないようにしようとかっては考えたけどね。多少は入っているんだけど。

北沢:ペンギン・カフェっぽくないから?

小山田:そうそう。

北沢:ところで、今回のアルバムのジャケットいいね、ってさっき話してたんだよ。

小山田:本当? よかった。銀が透けるようにするのが大変だったんですよ。

北沢:そこがポイントだもんね。

小山田:そうなんです(笑)。ちゃんとキラキラしてくれないと。

北沢:そうじゃなきゃ星座感が出ないもんね。

小山田:背の厚さが厚すぎると浮いちゃって、中の銀が見えないからやり直して(笑)。

北沢:紙ジャケの風合いもすごくいいし、黒と銀っていう配色も絶妙にハマってるんじゃないですかね。


■Gotye / Eyes Wide Open(Cornelius Remix)

北沢:で、次の曲がゴティエ。ゴティエといえばグラミー賞のレコード・オブ・ザ・イヤーと最優秀ポップ・グループを受賞した、2012年度全世界でもっとも売れたという大ヒットシングル“サムバディ・ザット・アイ・ユース・トゥ・ノウ”。この“アイズ・ワイド・オープン”もシングル曲みたいだね。

小山田:そうみたいだね。たぶん、そのあとのシングル曲なんじゃないかな。

北沢:このリミックスのオファーは向こうからきたの? それとも日本のレコード会社から?

小山田:これは彼からだね。もともといまみたいに売れる前に、オーストラリアをいっしょにツアーしないかって話があった。そのとき僕はぜんぜん彼を知らなかったんだけど、すごくオーストラリアで人気があるって言ってて、オーストラリアをカップリングでけっこう細かくたくさん回りたいって感じのオファーだったんだよね。どうしようかって話しているうちに、曲がドカンと売れて、そのツアー自体が中止になっちゃったことがあったんだよ。世界ツアーで超忙しくなって。それからしばらくして、日本に来て、話してたら、コーネリアスが大好きでオーストラリアにいるとき、いつもツアーで来るたび観に行ってた、って言ってて。

北沢:オーストラリアでも何回かツアーしてるんだ?

小山田:2、3回やっているんだけど、全部観てるって言ってた。
北沢:これはけっこう今回のアルバムのなかでも目立ってるよ。原曲の歌詞を調べてみたら、かなりストレートなメッセージ・ソングなんだね。人類がこのままだと地球は滅びるぞ!っていう警告を発している。これは歌詞を読んでリミックスをしたとかではない?

小山田:作業するときは見たような気がするな。でも、そこまでちゃんと対訳とかを見ながら作ってはいなかったね。

北沢:「人間は地球の歴史という海原に、ほんの短い間、やっと浮かんでるだけなのに、一枚の細い板の上を怖がりもせず大きく目を開けているんだ、終末に向かって……」、つまり人間は自ら滅亡へと突き進んでいるのに、みんなそのことに気がつかないふりをしている、みたいな警告ソング。

イケメンなのに真ん中にいることに居心地が悪そうなところもいいよ。

小山田:ふーん(笑)。けっこう熱い男だね。でもなんかこのひと、山のなかに自分で小屋を建てて、そこをスタジオにして、ひとりで山ごもりみたいな感じでレコーディングしたりしてるとかって言ってて。そうやってストイックにDIYを実践してるひとみたいだよ。

北沢:ヒッピー思想が入っているかもしれないね。

小山田:もともとこのひとはドラマーなんだよね。ライヴを観に行ったらドラムを叩きながら歌ったりしてて、なんか自分が真ん中にいるのが居心地が悪そうな感じだった(笑)。

北沢:もとはフロントマンじゃないんだ。

小山田:イケメンなのに真ん中にいることに居心地が悪そうなところもいいよ。

北沢:いいやつだね(笑)。これ原曲も聴いたんだけど、裏打ちじゃなかった?

小山田:もともとって裏打ちだっけ?

北沢:なんかスカっぽかったような気もするんだけど……。

小山田:原曲が裏打ちだったかどうかははっきり覚えてないんだけど、元とだいぶ変わったような気がする。

北沢:原曲とは出だしからしてちがうものね。(→原曲は4つ打ち。コーネリアス・リミックスは裏打ちのスカのビートに差し替えている)

小山田:声がね、素で聴くとすごくスティングに似てるんだよね。

北沢:似てるよね。これポリスだわって思った。

小山田:スカっぽいところもポリスっぽいっていうか。彼の声を聴いているとポリスを思い出すんだよね。

声がね、素で聴くとすごくスティングに似てるんだよね。

北沢:あとオーストラリアっていうところに引っ張られてね、メン・アット・ワークを思い出す(笑)。あのヒット曲もスカっぽかったじゃん?

小山田:“フー・キャン・イット・ビー・ナウ”か。

北沢:“ダウン・アンダー”かな。あれはむしろレゲエっぽいか。ゴティエもそういう意味では典型的なオージー・ニュー・ウェイヴ感がある。

小山田:それはあるね(笑)。なんか田舎臭いっていうか(笑)。

北沢:素朴な感じがね。でも今回のコンピにこの曲が入っているのとないとでは大ちがいっていうか、ゴティエが入っているから、不思議なメジャー感も注入されていて。

小山田:とはいえゴティエって日本のひとたちはあんまり知らないよね。アップル・ストアに電話をかけると、いつも保留音があの曲なんだよね(笑)。

北沢:邦題が“失恋サムバディ”(笑)。女の子とのデュエット・ソングで。

小山田:キンブラって子とデュエットしてるんだけど、その子とちょっとコラボレーションする企画があったんだよ。

北沢:それはまだ実現してない?

小山田:形にはないってないんだけど。

北沢:この子も歌がうまいし、きれいだし、存在感があって印象的だったね。

小山田:ソロもすごくいいんだよ。

北沢:ニュー・ウェイヴなの?

小山田:ニュー・ウェイヴな感じもある。

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■Plastic Sex / The End


Cornelius
Constellations Of Music

ワーナーミュージック・ジャパン

PopsSoundtrack

Tower HMV Amazon

北沢:でもこういうニュー・ウェイヴっぽい曲をやると、小山田くんはすごくハマるね。次はプラスティックセックス。これって中西俊夫さんのユニットなんだね?

小山田:まぁ、中西さんのソロ的な感じなのかな。

北沢:小山田くんはメンバーなの?

小山田:ぜんぜんメンバーじゃないですけど、これだけやったのがけっこう古いんですよ。

北沢:2005年に結成だもんね。

小山田:それ以外はここ4、5年くらいのものなんだけど、これはけっこう前で。たぶん中西さんがロンドンから帰ってきてわりとすぐくらいの頃だったんじゃないかな。

北沢:まだ佐久間正英さんが健在だった頃だもんね。

小山田:そうだね。ただ、そのあとにプラスチックスを再結成したりするんだけど、それよりは前で。その頃、ちょっとプラスチックス的なことをやりたくて中西さんがやってたプロジェクトなんじゃないかな。まだニュー・ウェイヴがリヴァイヴァルする前くらいだと思う。

北沢:ファンキーなニュー・ウェイヴっていう感じだね。小山田くんは何をやったの?

小山田:僕はアレンジ、プロデュース的な感じです。

北沢:これはゴティエのあとに置くしかないっていうか、置き場が他にないっていうか(笑)。

小山田:まぁ、ニュー・ウェイヴという意味では元祖ニュー・ウェイヴだよね。

北沢:トーキング・ヘッズと同列に並んで遜色ないものね。こうしてあらためて聴くと、中西さんのヴォーカルってすごいよね。日本人離れしてるっていうか。

小山田:すごいですよね。男性でああいうヴォーカルって、ホントにいない。

すごいですよね。男性でああいうヴォーカルって、ホントにいない。

北沢:引きつった感じでハイテンション。立花ハジメさんのヴォーカルもちょっと他にないニュアンスがあるなって思うけど、中西さんは完全に外国人っぽいね。

小山田:ノリも外国人っぽいしね。

北沢:けっこう気は合うの?(→『プラスチックスの上昇と下降、そしてメロンの理力・中西俊夫自伝』によれば、プラスチックセックスはもともとは中西氏が小山田くんとなにか一緒にやりたいと思ってはじめた、〈メジャー・フォース〉の相方・工藤昌之氏のように自分と正反対のタイプだからすぐにうまくいった、と)

小山田:合うっていうか、似てるってことじゃないですけど、僕はすごく好きです。

北沢:プラスチックスは日本のバンドのなかでは当時から好きだったの?

小山田:当時はね、そんなに聴いてなかったです。でも、すごい好きです。本当に日本人離れしてますね。本当にカッコいいセンスのいいバンドだなと。〈ラフ・トレード〉からシングルを出してるし。本当に日本のシーンとかを飛び越えてあの時代にインディで向こうで活動してた感じは、YMOよりも自分たちに近かったというか、オルタナ寄りっていうか。

北沢:プラスチックスの海外展開は仕込みなしの自然な流れだからね。


■サカナクション / Music(Cornelius Remix)

で、次がサカナクション。普通のJポップのリスナーにとってはこれがメインって感じに聞こえるんだろうけど、しかもこの“ミュージック”ってサカナクションの代表曲だよね。これはどういう企画だったの?

小山田:これはシングルのカップリング的なことだったのかな。

北沢:「さよならエモーション/蓮の花」のカップリングだね。

小山田:うん。普通に頼まれて。

北沢:サカナクションは聴いてたの?

小山田:僕はそんなに熱心に聴いてたってことはないんだけど、子どもが小学校6年生くらいのときにけっこう好きで、なんか家で聴いたりしているのは知ってて。もちろん存在も知っていたけど、ちゃんとCDを聴いたことはなくて、Youtubeとかで聴いたことがあった。

北沢:4つ打ちのダンス・ロック。それを小山田くんがどう料理するのかなっていう興味だったんだけど、イントロからしてアコギを使った完璧なコーネリアス調に差し替えられていて、踊らせるよりも、歌詞をじっくり聴かせるアレンジかなと。

なんかわりとダンスっぽくなってるんだけど、根幹にあるものはフォーク的なものなのかなと思って、それをまったくの逆にしてみたいなって。

小山田:この曲はうちの子どもが好きで、よく部屋から流れてて。聴いたら僕もけっこう好きで。ただ、なんかわりとダンスっぽくなってるんだけど、根幹にあるものはフォーク的なものなのかなと思って、それをまったくの逆にしてみたいなって。たぶん家で弾き語りで作ったものをダンス調にアレンジしたのかなって感じに思えたので、そのまんまの形に戻してみようかなってイメージで。

北沢:こっちが原型じゃないの? っていう一種の批評だね。

小山田:批評というか、まぁアプローチの仕方として、逆の考え方というか。もともとのトラックは打ち込みとかシンセとか、わりとテクノ寄りのものなんだけど、楽曲自体のメロディとかコードの展開とかすごく多くて、あんまりダンスに向いてないよいうな気がしたっていうか。もうちょっとミニマルじゃないと、やっぱりダンスとかテクノみたいなものにあんまりならないかなって。
それで、僕がイメージした元の形に戻す、みたいなことがコンセプトになったかな。アレンジ的にも、上モノで鳴ってるようなシンセとかを全部アコースティックに変えて、ベースだけ生で入ってたんだけど、逆にそこをシンベにして。

北沢:それもあって、見事にコーネリアス印のリミックスになっているのかな。ラストに入っている鳥のさえずりは原曲には入っていないよね。

小山田:入ってないね。

北沢:歌詞に鳥が出てくるのを踏まえてるし、これが入ることによって、さっきのペンギン・カフェの海の音みたいなアンビエントの要素がそこかしこに散りばめられているのと相まって、アルバムとしてトータルに聴くときに、すごく自然に聞こえて、そこもすごくいいなって思った。これも後半のハイライトかなって感じだね。


■Cornelius / Tokyo Twilight

北沢:次がコーネリアスのもうひとつの新曲“トーキョー・トワイライト”。

小山田:ずっとアルバムを作ろうと思って、曲はずいぶんと作りつづけていて。だからストックがけっこうあるんだけど、このコンピレーション・アルバムを作るときに、足りない要素として、そこから持ってきました。

北沢:エレピと生ピの単音ではじまる、ちょっと水滴を思わせるアンビエント・トラックで、そこに壮麗な響きのシンセが被さってきて、音の要素は少ないんだけど……。ムード的にはザ・ドゥルッティ・コラムを思い出させるというか。ドゥルッティのインストの感じっていうのかな。すごくこの曲好きだけどね。

小山田:ドゥルッティ・コラムは僕も大好きです(笑)。

ずっとアルバムを作ろうと思って、曲はずいぶんと作りつづけていて。-

北沢:最後の一歩手前に置くのにピッタリ。こういう小曲がたくさんストックされている感じ?

小山田:いや。そんなにたくさんってわけでもないけどね。こういうリミックス集でもなんでもいいんだけど、一枚の作品にするときに、歌もの的な濃密なトラックがたくさん並ぶとけっこうお腹いっぱいになるんだよね(笑)。

北沢:とくに後半はけっこう濃いのが(笑)。

小山田:そう。だからやっぱりこういうものがたまに入るほうが、僕的にはしっくりくるんで。

北沢:中西さんとサカナクションのあとだもんね。

小山田:ちょっと濃いよね。


■salyu × salyu / May You Always

北沢:そして最後がsalyu × sakyuの“メイ・ユー・オールウェイズ”。これはザ・マグワイア・シスターズの59年の曲。

小山田:これもやっぱりライヴでカヴァーしてた曲なんですよ。これオリジナルはマグワイア・シスターズなんだけど、いろんなガールズ・コーラス・グループがやっていて、レノン・シスターズっていうひとたちのヴァージョンに比較的近い感じがする。まぁ、ああいう50年代の後半から60年代前半ってこういうガールズ・コーラス・グループってたくさんあって。
それでsalyu × salyuはもともとはひとりで多重録音をして作っていたんだけど、ライヴではそれを再現するためにSalyuの昔の合唱団の友だちとかをスカウトしてきて、salyu × salyuシスターズみたいなのは感じでやってたのね。そういうガール・グループの曲を1曲やりたいなと思っていて、それで僕が選曲したんですけど。

北沢:そうなんだ。すごくハマってる選曲だね。俺はマグワイア・シスターズのヴァージョンしか聴いてないけど、あの頃特有のゴージャスな楽団サウンドにのって、三姉妹がゆったりとハモるっていうノスタルジックなスタイルじゃない? 50sのこの時点ですでにノスタルジックっていう。
salyu × salyuのヴァージョンを聴いたら、テンポは原曲に近いんだけど、歌唱とかハーモニーの付け方も、なるべく似せようとしているような……普段の歌い方ともちがうような気がして、ずいぶん器用なことができるんだなと思った。

小山田:これは3人でコーラスをやっているんだけど。

まったくいじってない。これもほぼ一発録りなんです。オケも。

北沢:ぜんぜんいじってないの?

小山田:まったくいじってない。これもほぼ一発録りなんです。オケも。自分の作品とかリミックスにしても、スタジオ一発録りってことは僕はほぼやらないんだけど、salyu × salyuの2曲に関してはスタジオ一発録りみたいな。

北沢:それは、そうした方が向いてるんじゃないかっていう?

小山田:それもあるし、やっぱりライヴでずっとやってきた曲だったりするから、もう練れてるっていうのもあるかも。

北沢:『Sensuous』のエンディングにシナトラのカヴァーを置いたのと、役割的には……
小山田:うん、かなり近いですよね。

北沢:こんなふうに終わりたいっていうイメージが小山田くんのなかにあるのかな?

小山田:うーん。出口はね。こういう、いかにもというか、ハッピー・エンディングなのはわりと好きです。

最初の曲に入っているモーグとかもそうだけど、そういうものが作られた50年代や60年代って、世の中がこれからどんどんよくなるっていう、未来に対する明るい希望が本当にあったんだろうなって。で、そういう気持ちが人々の間にまだあって、そういう希望がリアルに音楽の形になっていると思うんだけど、なんかそういうものがすごく好きっていうか。

北沢:『Sensuous』のときのインタヴューで、とくに“スリープ・ウォーム”のエピソードが印象に残っていて。……お父さんのレコード棚を整理してたらシナトラのレコードが出てきて、しばらくハマって聴いていたんでしょう? そこでシナトラの人生について書かれた本を読んで、いろいろ複雑な生い立ちから彼の音楽は生まれてきたんだなと。そういうことがわかるような年齢に自分は達したんだな、っていう。
50年代のこうした音楽に惹かれるというのは、ここ数年の傾向なの?

小山田:そうですね。ここ数年というか。若い頃はぜんぜん聴いてなかったですね。

北沢:これはロックンロールじゃない音楽だものね。

小山田:たとえば最初の(大野さんの)曲に入っているモーグとかもそうだけど、そういうものが作られた50年代や60年代って、世の中がこれからどんどんよくなるっていう、未来に対する明るい希望が本当にあったんだろうなって。で、そういう気持ちが人々の間にまだあって、そういう希望がリアルに音楽の形になっていると思うんだけど、なんかそういうものがすごく好きっていうか。いまは絶対に生まれないというか、そういうものだと思うんですよ。

北沢:失われた未来感というかね。

小山田:まだ世の中に明るい希望があった時代の音楽っていうか。

北沢:同じような時代を背景にしても、ドナルド・フェイゲンが『ナイト・フライ』っていうファースト・ソロアルバムを80年代の初頭に出したときは、米ソの冷戦間のムードみたいなものも作品の背景にはあって、実際には50年代から60年代にかけて、世界中が緊迫している時代でもあったと思うけど、こういうシスターズものにしてもシナトラにしてもさ、そういう翳りがないよね。まだまだ楽天的だったんだろうね。

小山田:その時代に生きていないからわからないんだけど、僕はそういうものを感じるんですよ。

北沢:それに憧れる感じ? それとも、それを哀惜というか惜しむ感じ?

小山田:うーん。両方ですね。

北沢:最近の細野(晴臣)さんにもそれを感じるんだよね。

何が主流かもよくわからないですから。

小山田:細野さんとかが最近やっている音楽はそういう感じですよね。

北沢:その名も『Heavenly Music』っていうカヴァー・アルバムは本当に素敵だった。だから小山田くんも、細野さんと共通する心境なのかなと思ってさ。最近の細野さんは、ライヴでもカントリー&ウェスタンとかブギウギみたいなアメリカのポピュラー・ミュージックのオールディーズを熱心にカヴァーしているし、いまは遠く失われてしまった世界に強く惹かれているのかなって。

小山田:それはありますね。でも細野さんはその時代を生きていたひとだし。子どもの頃に身近に感じていたものを、知っているひとが後世に残さなきゃとか、そういうことがあると思うんだよね。
でも僕はもうちょっと距離がある感じがしますね。

北沢:小山田くんのベースになっているのはニュー・ウェイヴ以降の音楽だもんね。でも、距離があるにもかかわらず、いま、50年代のスタンダードなポップスに惹かれていく心境はどういうところからきたの? 現実があまりにも未来がない感じがする? ゴティエ的なメッセージが……(笑)。

小山田:そういうゴティエ的なメッセージはあんまり聞きたくないですね(笑)。

北沢:それはあまりにも現実がシビアだから? それとも小山田くんの性格的に?

小山田:うーん。まぁ、両方ですよね。それよりこういうものをたくさん聴いていたいですよね(笑)。

北沢:こういう音楽が似合う世の中だったらどんなにいいか……とは思うよね。

小山田:そう思いますね。ただ、世の中に足りてないな、というものだとは思うので。

北沢:たしかに小山田くんの音楽活動って、世の中にこれが足りないぞっていう空白を埋める歴史のような。

小山田:そうですかね……。

北沢:そういう気がするけど。だって世の中の主流みたいなことを一回もやったことがないじゃん。

小山田:わかんないっすね。どうなんですかね。何が主流かもよくわからないですから。

(まりん氏は)自分でクラフトワークの音が悪いやつとかをマスタリングし直したりね。

北沢:EDMが流行れば、すかさずそれっぽいトラックを作るような人たちが主流なんじゃない? そうだ、マスタリングをまりん氏(砂原良徳)が手がけていることについて訊いていなかった。前からマスタリングが得意なひとなんだよね?

小山田:もともとは趣味でマスタリングをやってたっていうようなひとなんだよね(笑)。自分でクラフトワークの音が悪いやつとかをマスタリングし直したりね。

北沢:こうやって正式に頼んだのは初めて?

小山田:『ファンタズマ』の再発のときに僕が頼んで。仕事としてやったマスタリングはそれが初めてだったらしくて、それ以降すごいマスタリングしてるよね(笑)。

北沢:それが彼のワークスのひとつになったんだ(笑)。

小山田:サカナクションとかも仕事として普通にやってるからね。

北沢:じゃあ、最初っからマスタリングは彼に頼もうっていうのがあったの?

小山田:うん。

北沢:やっぱり他のひととちがう?

小山田:うーん……、どうなんだろうね(笑)。

北沢:気軽に頼める感じ?

小山田:うん。信頼できる。

北沢:来年はニュー・アルバムの取材ができるかな。次のアルバムのテーマとか、けっこう見えてきた感じなの?

小山田:ぼんやりって感じですけどね。

北沢:その前哨戦としてこれを聴いている自分がいるんだけど。本当に楽しみにしてるので。

小山田:はい。ありがとうございます。

北沢:傑作を(笑)。

小山田:か、どうかはわからないですけど(笑)。

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