「IR」と一致するもの

interview with Julianna Barwick - ele-king

 イレジスティブル・フォース『It's Tomorrow Already』(98)以来、アンビエント・ミュージックには消極的だった〈ニンジャ・チューン〉が15年のリー・バノン『Pattern Of Excel』、19年のア・ウイングド・ヴィクトリー・フォー・ザ・サレン『The Undivided Five(19)に続いてジュリアナ・バーウィックの新作を獲得した。強引にカウントするとキング・マイダス・タッチとフェネスのコラボレイション『Edition 1』(15)もアンビエントといえるので、どちらかというと〈ニンジャ・チューン〉が構想するアンビエント・ミュージックは知的なラインナップといえる。バーウィックはなかでは理論家というより感覚肌の作家に属するものの、それでもニュー・エイジには迎合しない節度を見せるタイプ。何も考えていないように思える作家なのに、どうしてテンションの低い感覚的な作品になってしまわないのか。これははなかなか不思議なことだけれど、それこそ生まれつきの感性としかいえないのかもしれない。童謡をドローン化したようなアンビエント・ポップス。ジュリアナ・バーウィックの音楽を頭でっかちに定義すると矛盾だらけの表現になってしまう。それがいい。重苦しくないブルガリアン・ヴォイス。アカデミックではないメレディス・モンク。時代に掠ってるんだか掠ってないんだかよくわからないところもいい──それだけ約束事の外に出られた気になれるから。無邪気に子ども時代を回想した『The Magic Place』(11)や宗教的なムードを抽象化した『Will』(16)など、これまではある程度まとまったテーマを設定してきた彼女が可能性の範囲を広げようといろんな方向に手を伸ばした新作が『Healing Is A Miracle』である(アニオタ訳=自然と治っちゃうなんて不・思・議)。ときにプリンスが愛したエリザベス・フレイザーの声を思わせ、シガー・ロスとも波長が重なってきたLAのジュリアナ・バーウィックに話を訊いた。

新型コロナウィルスに加えて抗議デモや暴動もあるから、延期すべきかどうすべきかというのはレーベルとも話した。でも私は、少しでも人びとが平和を感じられるようなことに、自分が何かしらの形で貢献ができるのであれば、ぜひ貢献したいと思った。

前作に比べてヴァラエティ豊かというのか、いろんなことを試した作品になったのかなと。リラックスもしたいし、緊張感も欲しいし、次はディスコもやりかねないポテンシャルを感じます。やらないと思いますけど。

ジュリアナ・バーウィック(以下、JB):ははは、可能性は無限。たしかに、ある意味、折衷的だと思う。10年とか15年くらい前に自分がつくったものに遡ったような曲もあるし、よりエレクトロニック・サウンドで、ちょっと前作『Will』の曲を彷彿させるような曲もあるし、新たな発見もあって。あとやっぱりコラボレーションによっていつもの自分の作品より多様なサウンドが生まれたというのも当然あったと思う。

なかでは“Flowers”がもっとも意外でした。具体的にどんな花をイメージしているのでしょう? 日本ではサクラという花が人気で、サクラというネーミングはツボミが「裂ける」に由来します(注・諸説あります)。“Flowers”が描写しているのは、そのような花の生命力なのでしょうか?

JB:そういうわけじゃなかったけど、でもすごく興味深い視点。教えてくれてありがとう。サクラの花の名前がツボミが裂ける様子に由来するなんてとても美しいと思う。私が音楽をつくる時は、いきなりレコーディングし始めることが多くて、頭に思い浮かんだことをそのまま歌い出す。この曲のときもそうで、♪ラーララーララー、フラーワーズ〜みたいな感じで(笑)。「Flowers」って言葉が聞こえたから、それをキープしておいて。大体そういう感じでつくってて、半分英語、半分はただの音みたいなのを思いつくままに歌うというね。

桑田佳祐方式なんですね。その人にも『アベー・ロード』(https://www.youtube.com/watch?v=R0bYVE3c1oM)(https://www.youtube.com/watch?v=8aQmql5XeqA)という政治を批判したビートルズ・パロディがあるんですけど、ちょっと前にあなたが参加したフレーミング・リップスのビートルズ・トリビュート『With A Little Help From My Fwends』(14)は企画自体に賛否両論があったなか、あなたには何をもたらしましたか?

JB:あれは、私が自分でiPhoneで録ったボイスメモを彼らに送ったもの。スマホに“She’s Leaving Home”のあのパートを吹き込んで、それをウェインにメールで送って、それを彼が曲に入れたという。そんなことは自分ではそれまで一度もやったことがなかったし、以後も一度もやってない。あのアルバムに入ってる私の声は、iPhoneのボイスメモ。それってすごくない? 正真正銘のボイスメモ、テイクは1回、以上。めちゃくちゃ面白かった。

今回のアルバムは自己回復能力をテーマにしているそうですが、それは人間の意志とは無関係に働くものですよね? 「意志(Will)」をテーマにした前作のコンセプトとは正反対になったということ?

JB:その発想、素晴らしい、思わずメモしちゃった。人間の意志とは無関係に働く自己回復能力……ってめちゃくちゃかっこいいな。しかも確かに、最初にアルバムの名前をこれにしようと思ったのも、そういうことを考えてたからで、文字通り、私たちの体が自動的にやってくれる身体的な回復って、ある意味奇跡的だと思うし、マーベル映画に出てくるような超人的な能力なんだけど、実際、私たちの体ってそういうふうに機能してて。それってすごいことじゃない? それで『Healing Is A Miracle』というタイトルを思いついて、自分でも気に入って、これに決めようとなって。でも前作への応答みたいな意図はなかったけどね。前作を『Will』というタイトルにしたのは、かなりいろんな解釈ができる言葉だったから。意志もそうだし、人の名前でもあるし。でも前作との対比をちゃんと考えたらすごく興味深いかもしれない。それ、自分で思い付きたかった(笑)。

「意志(Will)」を神の意志と取ると、同じことかもしれませんけどね。新型コロナウイルスは免疫系を破壊することが知られています。それこそ「Healing」が不可になるので、あなたの作品に対する自然界からの挑戦ですね?

JB:かもしれない。いまは奇妙な時期だし、それに怖いよね。とくにアメリカではちょっと手に負えなくなってるし、こういう時期、公演ができる保証がどこにもないなかで、新作をリリースするというのはある意味興味深いことではあると思う。新型コロナウィルスに加えて抗議デモや暴動もあるから、延期すべきかどうすべきかというのはレーベルとも話した。でも私は、少しでも人びとが平和を感じられるようなことに、自分が何かしらの形で貢献ができるのであれば、ぜひ貢献したいと思った。アルバム発売を延期して売上の可能性を最大化するとかそういうことよりもね。いま世界に必要なものを考えたら、予定通りリリースする方がいいんじゃないかと思ったのよ。

そうですね。いい判断だったと思います。ビルボードの調べでは音楽の消費量は伸びて、好きなミュージシャンの新曲を聴きたいという人が最も多かったそうですから。ちなみに〈ニンジャ・チューン〉に移籍したのはなぜですか? このところ〈ニンジャ・チューン〉はアンビエント作家を増やしているので、以前ほど不自然ではありませんが、やはり最初は違和感を感じました。

JB:3年半ほど前にレーベルからEメールが届いて「あなたのやっていることがすごく好きです。一緒にやりませんか?」と書いてあって。それで何度か実際に会って、あらゆる面ですごくいい感じだったから、契約することにしたという訳。

メリー・ラティモアはあなたよりヘヴィなところがある作風だと思います。彼女と共同作業をすることで“Oh,Memory”には少し内省的なニュアンスが加わったのでしょうか、それともこういう曲だから彼女に参加を求めたのでしょうか?

JB:とにかく彼女の声が欲しかったというのがあった。メアリーのサウンドって瞬時に彼女だと認識できるものだと思ってて。それに彼女とは親友だしね。ツアーを一緒にやったりもしてるし、何度も共演してて。ちょっと前には私が彼女の曲をリミックスしたこともあったし。とにかく自分のアルバムに参加してもらいたいとずっと思ってたから、今回、ようやく夢が叶ったという。それと今回のコラボレーターはみんなLA在住の友だちで、それも少し理由としてあった。今作のコラボレーションは、私がいるLAのコミュニティを表したものでもあるの。

シガー・ロスとの付き合いを考えると自然なのかもしれませんが、前作の“Same”や、今回、ヨンシー(Jónsi)が参加した“In Light”はあまりにシガー・ロスに引きずられてませんか? シガー・ロスもこのところアンビエント・アルバムを連発しているので、波長が合っている感じはしますけど。

JB:“Same”は別の友だちとコラボした曲だけど、でも言ってる意味はわかる(笑)。ちなみにあの曲はトムという友だちが参加してるよ(注・シンセポップのMas Ysaのこと)。ヨンシーとの曲は、間違いなく彼がつくった部分が多くて、だからすごく「ヨンシー感」があるし、当然、彼っぽいサウンドになってる。それこそ私が求めていたものだし、彼とコラボするなんて夢だったわけで。メアリーが参加した“Oh,Memory”も同じように、すごくメアリーっぽくなってるしね。単純にヨンシーと作った曲はヨンシーっぽいってことだと思う。

ノサッジ・シングの役割だけがちょっとわかりませんでした。彼が“Nod”で果たしている役割は?

JB:まず私が彼にヴォーカルを入れたものを送って、それから彼のスタジオで作業して、ノサッジことジェイソンがベースやドラムを加えていったという感じだったんだけど、出来上がったサウンドが私にはすごくノサッジ・シングっぽいと思えた。ヨンシーやメアリーの時と同じようにね。

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だいたい即興で歌いはじめることが多いから、そのときに感じていることをそのまま歌ってるし、つまりそれは純粋な感情であって、声にはそのときの感情が反映されると思う。

音楽を作りはじめる以前に自分の声を録音して聞いたことがありますか? あるとしたら、そのときはどんな感じがしましたか?

JB:子どもの頃にカセットテープ・プレーヤーを持ってたから、当時から自分の声は録音してた。歌ったり、ラジオのDJの真似をして喋ったり……3、4歳の頃だったと思うから、どう感じたかは覚えてないけど、でも、いつもそんな感じで遊んでた。

声が持っている様々なポテンシャルのなかから優しさだけを増幅させている印象があります。それは意識的ですか?

JB:それはないかな。だいたい即興で歌いはじめることが多いから、そのときに感じていることをそのまま歌ってるし、つまりそれは純粋な感情であって、声にはそのときの感情が反映されると思う。たとえば誰かの声を聞いて、さっきまで泣いていたなってことがわかったり、興奮してたら声も興奮した感じになるでしょ? 歌ってるときも同じだと思う。

声をメインにして音楽をつくるミュージシャンはオノ・ヨーコやダイアマンダ・ギャラスなどたくさんいると思うのですが、僕の知っている限り、ほとんどが女性です。なぜだと思うか、考えを聞かせてください。

JB:うーん……考えたことなかったけど、でも言ってることはわかる。ヨーコの「アイイイイー」みたいなやつでしょ。きっと男性でもやってる人はいるんだろうけどね。確かに印象としては声を楽器のように使ってるのは女性の方が多い気がするけど、でも確信はないし、私が間違ってるかもしれないし、単純に知らないだけかもしれない。

男性では最近だとアン=ジェイムス・シャトンなどは声というより「言葉」に比重を置いているという印象が強いです。あなたの音楽は「言葉」から「声」を自由にしていると思いますか?

JB:それは間違いなくそうだと思う。やろうとする前に、音楽を作りはじめたときからすでにやっていたというか。シンガーソングライター的なものが自分にとっては自然ではなくて、サウンドをつくってるなかでたまに言葉が出てくることがある程度で……さっきの“Flowers”みたいな感じでね。だから歌詞を書くというよりも、サウンドと感情で曲ができ上がる。私の作品は基本的に全部そういうものかもしれない。もちろん例外はあるけど、ほとんどの場合は言葉がない。

男性があなたの『The Magic Place』を丸々1枚カヴァーしたら聴いてみたいですか?

JB:もちろん!

女性でもメデリン・マーキースティン・ジャーヴァンのように声だということがわからなくなるほど変形させてしまうスタイルは抵抗がありますか?

JB:何でも一度はトライしてみようと思ってるけどね。というか、よくペダルの設定をいじって遊んでるし。(実際に声を変えながら)こんな低くしたり、たかーくしたり。声を変えてハモったり。でもエフェクター以外でやることは考えたことがなかったなあ。ただ、私はかなり声域が広い方で、ものすごく高い声で歌うこともできるし、結構な低いところまで出せるから、そういうところで少し実験してはいる。

Vocaloidに興味はありますか?

JB:ペダル(※エフェクター)で十分。

ああ、佐々木渉さんには内緒にしておきます。世界で一番好きな声は誰の声ですか? 歌手でなくてもいいし。自分の声でもかまいません。

JB:ヨンシーかな。あと私の母の声もすごく好き。彼女の歌声はとても美しいの。

聞きたくない声はありますか? 

JB:怒りのラップ、怒りのメタル。“グォォォーッ”みたいなやつ。ああいうのは大嫌いで、ちょっと無理。

たとえばドナルド・トランプは言葉の内容が伝わらないとしたらハスキーで面白い声なのかなとも思うので、あくまで音として聞きたくない声ということですが。

JB:ああ、なるほどね……ゲーーーッ。

ははは。1日のうちで『Healing Is A Miracle』を聴く時間を指定しなければならないとしたら何時にしますか?

JB:自分のことを言うと、朝はまずコーヒーを入れてインターネットとEメールを開きながら音楽を聴いてるから、朝がいいかもしれない。でも夜に聴いてもいいと思う。

最後に〈リヴェンジ・インターナショナル〉からカセットでリリース予定の『Circumstance Synthesis』も同傾向の作品になるんでしょうか? それともまったく傾向の異なる作品ですか?

JB:まったく違う感じの作品で、というのもこれはマイクロソフトと共同でシスターシティ・ホテルのロビー用につくったものだから。マイクロソフトのAIを使って、カメラをホテルの屋上にセットして、レンズを空に向けてAIが空の変化を読み取って、その情報がプログラムに送られて、それをきっかけに私がつくったサウンドが流れるという。

へー。

JB:かなり複雑なんだけど、私は朝、昼、午後、夕方、夜と1日を5つの時間帯に区切ってそれぞれの時間帯のセットを作って、5つはどれも全然違うサウンドで、それを短くまとめたのがこの作品。自分がホテルのロビーにいるところを想像しながら、興味深くて美しくて、あまり静かすぎたり退屈にならないように、かと言ってホテルにチェックインするときにあまりにうるさい耳障りな音楽は聞きたくないし、でもやっぱりプロジェクト自体がとても興味深いものだったから、それにふさわしく興味深いものにしたいと思った。というのが作品の由来。

なるほど。「Music for Hotel Lobbies」という感じなんですね。わかりました。どうもありがとうございました。

INFORMATION

オフノオト
〈オンライン〉が増え、コロナ禍がその追い風となった今。人や物、電波などから距離を置いた〈オフ〉の環境で音を楽しむという価値を改めて考えるBeatinkの企画〈オフノオト〉がスタート。
写真家・津田直の写真や音楽ライター、識者による案内を交え、アンビエント、ニューエイジ、ポスト・クラシカル、ホーム・リスニング向けの新譜や旧譜をご紹介。
フリー冊子は全国のCD/レコード・ショップなどにて配布中。
原 摩利彦、agraph(牛尾憲輔)による選曲プレイリストも公開。
特設サイト:https://www.beatink.com/user_data/offnooto.php

Kenmochi Hidefumi - ele-king

 今年はまだ半分なのでこの先どうなるかはわからないけれど……とりあえず2010年代で音楽的に最もエキサイティングな年は2013年だった。ベース・ミュージックが急拡大した年であり、個人的にはFKAトゥイッグス、DJニガ・フォックス、スリーフォード・モッズとの出会いが決定的だった。2016年も充実した作品は多かったけれど、2013年は全体の動きにどこか関連性があり、うねりのようなものが楽しめた。これには理由があるだろう。ひとつはシカゴ発のジューク/フットワークが他のジャンルに浸透するだけの時間が経ったこと、そして、2012年にメジャーで斬新なダンス・ミュージックが3曲もメガ・ヒットとなり、アンダーグラウンドに妙な刺激を与えたから。アジーリア・バンクス“212”、サイ(Psy ) ‎“ Gangnam Style(カンナム・スタイル)”、バウアー“Harlem Shake”がそれぞれ痒いところを残してくれたために、反動や継承が入り乱れて独特なカオスに発展していったのではないかと。ロンドン・パンクの主要キャラクターはそのほとんどがベイ・シティ・ローラーズについて何かしら発言していたのと同じくで、「あんなものが!」とか「あのように……」と、どっちを向いていいのかわからない感情が渦巻き、破壊と創造が一気に加速したようなものである。2013年はまた、M.I.A.やスリーフォード・モッズ、ロードやチャンス・ザ・ラッパーなど政治的なメッセージや皮肉だったりが急に吹き出したような年だったことも強く印象に残っている。「#BlackLivesMatter」というハッシュタグが世界を駆け巡った年だったのだから、それは当たり前かもしれないけれど。

 水曜日のカンパネラが「桃太郎」で時代の寵児となったのが2014年。2年遅れではあるけれど、“212”や ‎“Gangnam Style”と同じく「桃太郎」はヒップ・ハウスであり、“Harlem Shake”のバカバカしさを踏襲している点で、この曲は「2013年」ではなく「2012年」と同じ性格を持ったヒット曲だと僕は考えている。少なくとも「メジャーで斬新なダンス・ミュージック」として受け入れられ、翌年にはKOHHが注目を集めるという流れになったことは間違いない。アジーリア・バンクスはご存知のように精神を病み、RZAのプロデュースが決定していたのにラッセル・クロウのホーム・パーティで騒ぎを起こしてご破算となり、サイが一発屋で終わりかけていることも周知の事実。あるいは“212”は新曲ではなく、レイジー・ジェイ“Float My Boat”(09)にラップをのせたもので、よほど儲かったのか、レイジー・ジェイの2人はその後はほとんど仕事をしていないという意欲のなさも際立っている。メジャーでヒットを飛ばすというのはかくも恐ろしいというか、「ネクスト」の壁は高い……高すぎるのである。なかでは“Harlem Shake”がEDMのプロトタイプとなり、現在もほとんどその枠組みは守られたままだという呪縛にかけられているバウアーが懸命にそこから遠ざかろうとしている姿は様々なことを考えさせる。彼の最新作『PLANET'S MAD』はなかなかいいし、レーベルが〈ラッキー・ミー〉というのはめっちゃ渋い。直前にはヒップ・ハウスの注目株、チャンネル・トレスと“Ready To Go”をリリースするという意欲も見せている。しかし、僕はメジャーにはメジャーの役割りがあり、アンダーグラウンドにはアンダーグラウンドの意義があると思っているので、メジャーで踏ん張れない人がマイナーに活路を見出すのは少し違うと思っている。覚悟の種類が違うだけであって、アンダーグラウンドはメジャーの予備軍ではないし、坂本龍一が『B-2 Unit』をリリースした時、メジャーで堂々と売られたことを覚えているということもある(大事なのは態度であって結果ではないと『ローロ」でベルルスコーニも孫に話していたではないか)。ケンモチ・ヒデフミに僕が求めてしまうのも、だから、そこである。彼が主宰する〈kujaku club〉はシャンユイ(Xiangyu)のようなアジアのポップ・モデルも出しているのだから、レーベル・マスターに対する期待はなおさらである。

 『たぶん沸く〜TOWN WORK〜』というタイトルは……スルーしよう。エゴイスティックなギャグをさらっとかますケンモチ・ヒデフミのことだから深い意味があるのかもしれないけれど……。オープニングはひょうきんなセンスとスカしたムードを密着させた“Bring Me Joy”。目の前にクラブの照明がパッと点灯した感じ。続いて音の変形を楽しむように“Lolipop”が陽気さと背中合わせの切なさを同時に呼び込み、ダンスフロアにいたら予期せぬ孤独感を突きつけられただろう。“Neptune”も同じく、騒がしさや忙しさがどこにもたどり着かず、水曜日のカンパネラと同じく無国籍サウンドでありながら、ここが日本であることを強く意識させる。『PM2.5』や『Folding Knives』をリリースしてきた上海のスウィムフル(Swimful)に似てるような気もするけれど、ケンモチには個人が感じている寂しさを突き抜けて周囲にそれが共有されていくといった浸透圧はない。むしろダンスフロアで孤立しているような感覚が増幅し、それどころか「触ってはいけない孤独」という感覚は“Bombay Sapphire”にもまったく衰えずに受け継がれ、陽キャと隠キャに引き裂かれたような二重性はどんどん深刻さを増していく。ベリアルがベースメント・ジャックスに作風を乗り換えたような錯覚にも陥り、ある種の病的な感受性がポップに昇華されているようで個人的にはこの曲がベスト。偶然なのか、スウィムフルにも“Sapphire”と題された曲があり、やはりアジアの孤独が強く滲み出した曲となっている(スイムフルの“Fishaerman’s Horizon”はどことなく“上を向いて歩こう”を思わせる)。続いてインタールード風の“TukTuk Yeah”(トゥクトゥクはタイの3輪タクシー?)と“Whistle”。そして、後半のハイライトとなる“Midnight Television”へ。アフロをモチーフとしたジューク/フットワークで、神経症的に反復されるヴォイス・ループがむしろゲットーから遠く離れたジューク/フットワークであることを印象づける。太平洋を越えてついに日本に着地したな、というか。

 水曜日のカンパネラから雑味、すなわちコムアイを取り除くと、こんなにもシャープな響きになるのかとは思うけれど、『たぶん沸く〜TOWN WORK〜』はケンモチ・ヒデフミの世界観が水カンのそれと拮抗するにはちょっとサイズが短すぎる(EPだからしょうがないけど)。エンディングはきちんとした歌詞が歌われていれば新たなポップ・フォーマットを確立できそうな“Masara Town”。“Bombay Sapphire”とはまた違った意味でメロウネスを表現した佳作である。ケンモチ・ヒデフミはなにか、どこかの扉の前に立っていることは確か。もしかするとケンモチの醸し出す孤独感は嫌われることを恐れていて、そのことと表裏の関係にあるのかもしれない。そこが食品まつりのような劇的な存在感とは異なっている理由ではないだろうか(食品まつりの『ODOODO』もよかったですね)。同じアジアでもジューク/フットワークをアブストラクに処理した上海の33EMYBWなどは、もっと強迫的なアプローチが印象に残り、同じように収録時間の短いアルバムでも確実に方向性とそのインパクトを印象づける。せっかく中国や東アジア全体に広がるベース・ミュージックとは異なった緻密さやソフィスティケーションを有しているのだから、ケンモチ・ヒデフミには狂ったようにそれを突きつめてほしい。もう一度言う。ケンモチ・ヒデフミはなにか、どこかの扉の前に立っていることは確か。もっと強く、その扉を押してくれ。

vol.128:迷惑な花火ブーム? - ele-king

 7月4日はアメリカの独立記念日。本来なら野外でBBQし、ビーチではライヴショー、元気いっぱいのパレード、ネイサンズのホットドッグの早食いコンテスト(104回目)、恒例メーシーズの花火を楽しむところだが、今年はショーはなし、早食いコンテストは未公開の場所でオーディエンスなし、メーシーズの花火は6日前の6月29日からはじまっていた。今年は大きな花火を一回にドカンと上げるのではなく、毎日夜9時から10時の間の5分間、場所を変え数日かけて上げるという、コロナ・パンデミックを意識して行われたものだった。グランドフィナーレの7月4日は、この美しい花火を見て(例えオンラインでも)、心が救われた人は多かったはず。

https://gothamist.com/arts-entertainment/macys-july-4th-fireworks-light-empire-state-building-illegal-fireworks-explode-citywide

 なのだが、私がいたブッシュウィックのルーフトップではメーシーズの花火がどれだったかわからないくらい、違法花火が上がりまくっていた。夜の8時頃から深夜3時過ぎまで、花火がずっと上がり続けるのだ。一度に50箇所ぐらいたくさんの場所で上がるので、どこを見たら良いのか。
 ニューヨークでは花火は違法なのだが、6月あたりから毎日のように花火が上がり続けている。ペットたちは怯えるし、人は夜、騒音で眠れないと苦情も絶えない。花火は好きだが、こんなに毎日見ているとありがたみも無くなってしまう。アパートの前のプレイグラウンドで花火を上げている人もいたし、隣のルーフから花火を上げている人もいたし、間違ってこっちに飛んでこないかとビクビクしていた。なぜこんなに花火がNYにあるのだろう。こんなに間隔もなく上げれるのは、かなりの量の花火を持っているということだが、今年はエンターテイメントもないのでその反動なのか。
 リッジウッドの住人は、彼女のアパートから外を見ていたとき、ひとりの男性が交差点で花火に火をつけ、そのまま車で走り去ったというし、知り合いは抗議活動のときにランダムな人から花火をあげると言われたらしい。この日すべての花火を使い尽くし、次の日から花火のないNYになればと切実に思う。

https://gothamist.com/news/nearly-two-dozen-arrested-nyc-illegal-fireworks-guns-alligator-carcasses

 NYでは7月6日から第3段階:レストラン、飲食サービス、ホテルがオープンする。レストランの中での飲食は延期されたが、引き続きアウトドアでの飲食は大丈夫ということで、レストランやバーの前はテーブルと椅子、パラソルなどが置かれ、歩行者天国状態になっている。マンハッタンはまだまだゴーストタウン状態だし、アメリカでの感染率は増えている。
 ショーもまだまだだが、レストランで食事ができるのが切実に嬉しいし、NYは再オープンに向けて着実に進んでいる。まだ、家にいる時間が長いが、花火でストレスを解消するのではなく、違うことに目を向けてほしいものである。この夏、ライヴストリーミングからアウトドアショーに移行できることを期待して。

【編注】トランプ大統領も、独立記念日の演説でど派手に花火の打ち上げを強行しました。

RILLA - ele-king

 リラ? 誰よそれ? リラとは関西に生息しているオモロイ男(DJ)です。長年、DJブースと動物園を往復していた彼がついにデビュー作「First Drop / Just A Second」を発表しました。ライヒとシャックルトンをミックスしたようなアプローチで、じつにピースな、アンビエント・タッチのミニマル・ダンス・ミュージックです。2つのリミックス・ヴァージョン(ジャングル・ミックス、ダンスホール・ミックス)もじつにクール。ちなみにレーベルを主宰するToreiは期待の若手DJでもあります。
 以下、編集部に送られてきたメールのコピペです。(アー写変えて欲しい)
  ↓

 東京を拠点に活動するDJ/プロデューサーToreiが主宰するレーベル〈Set Fire To Me〉の第2弾は、KEIHINと共にパーティーALMADELLAを主催してきたDJのRILLAが登場。
 長年のキャリアで培われたセンスと初期衝動を融合した“First Drop”、架空の民族の儀式とサウンドシステムの邂逅を表現した“Just A Second”に加え、ObjektやYaejiなど気鋭アーティストらよりサポートを受ける、英レーベル〈Scuffed〉からのリリースも好評なStones Taroによるジャングル・リミックス、新宿のレコードストアReggae Shop NATのレーベル・ラインより発表したDJミックス「Strange Addiction」も話題の、本レーベル主宰のToreiによるサイケデリックなダンスホール・リミックスを収録。
 ジャケットはレーベル第1弾に引き続き、東京拠点のアーティストDavid Yutoが手掛けている。

RILLA -『SFTM002』

1. First Drop
2. First Drop (Stones Taro's Jungle Remix)
3. Just A Second
4. Just A Second (Torei's Psy-Hall Remix)
Bandcamp
Soundcloud

RILLA(プロフィール)

嗚呼、人情とベースライン。福岡より上京した、あの屈強な霊長類(学名:ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ)を思わせる特徴的な風貌を持ったその男とダンス・ミュージックを出会わせたのは専門学校時代の友人という縁、DJをはじめたのも友人の「お前レコ ード持ってるならやってみろよ」という言葉、そして現在のDJの基礎、いわゆる“やられた音”としてその後のその男の趣向を決めたのは、そのDJ練習の音に嫌気 がさした、隣人の保母が差し出してくれたDJ KENSEI氏のミックステープであった。ここでも縁、いやそれは言い換えれば人情でもある。そこでヒップホップに衝撃を受け、そしてブレイクビーツ、エレクトロニカへと開眼していく。2002年、名門CISCOテクノ店への入店とともにバイヤーとして働くうちに、ジャングル、テクノ、ダブステップと、そのサウンドの趣味を広げた。いつしかその名前がRILLA と定着しはじめた頃、東高円寺の名店GRASSROOTSに出入りするうちにさらに耳が深く、広がることでいまのDJスタイルへと日々進化していく。それもこれも人との出会い人情であった。ヒップホップもレゲエもダブステップもテクノもハウスも、その男がかける音は基本的にベースラインのグルーヴがある(聴こえずとも)、そしてどこか遠くが温かい(聴こえずとも)。5年間務めたGRASSROOTSでのレギュ ラー・パーティ「GUERILLA」~「LOCUS」、KEIHINとのテクノとダブステップ、そして未知の体験を提 供する不定期開催の"ALMADELLA"を経て現在京都在住。今宵もどこかで、人情とベースラインでスピーカーと身体を揺らしている。嗚呼。(※家庭の都合でDJを休止していたが、現在復帰に向け準備中)
https://www.soundcloud.com/rilla-almadella
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Speaker Music - ele-king

三田格

 ニューヨークのアパレル・メーカー「HECHA / 做」が攻めまくっている。プロジェクト1は2018年の9月にウェブ上で行ったオール・デイ・ストリーミング。プロジェクト2は2019年のベルリン国際映画祭でジェシー・ジェフリー・ダン・ロヴィネリ(Jessie Jeffrey Dunn Rovinell)によるクィアー映画『ソー・プリティ』の上映。プロジェクト3は「黒いテクノを取り戻す(Make Techno Black Again)」(トランプのパロディです、念のため)というキャンペーン用キャップの発売。この時にテーマ曲をつくったのがスピーカー・ミュージックことディフォーレスト・ブラウン・ジュニア(以下、DBJ)という音楽ライター。プロジェクト4はオンライン・ショップの開設とポップ・アップ・イヴェントと続き、これらはすべて共感によってドライヴされるビジネス・モデル(Empathy-driven business model)を標榜するルス・アンジェリカ・フェルナンデスとティン・ディンという2人の女性が企画・推進している。プロジェクト7は「テクノは誰のもの?(Who Does Techno Belong to?)」と題された討論会の開催で、商品化され、商業化したテクノについてゲストを交えて語り合うなど、テクノに対するこだわりがハンパない。彼らの頭にあるのはとにかくデトロイト・テクノの継承と発展である。EDMのかけらもない。そして、Project10として〈プラネット・ミュー〉からリリースされたスピーカー・ミュージックのセカンド・アルバム『Black Nationalist Sonic Weaponry』はまさに「黒いテクノを取り戻」し、「HECHA / 做」の主張を具体化した素晴らしい内容となった。〈プラネット・ミュー〉も今年、最も重要なリリースになると大きな声を上げている。何も知らずに1曲目を聴いた僕も叫びそうになった。すごい。すごいよ!!マサルさん。セクシーコマンドー。いやいや。

 ベース・ミュージックとフリー・ジャズの出会い。そんな生易しい次元ではないかもしれない。1曲目にフィーチャーされているのは詩人のマイア・サナア(Maia Sanaa)で、付録としてついている45ページのブックレットは彼女の書いた理論や詩を集めたものらしい(これは未見)。DBJ自身もアミリ・バラカが提唱し、黒人音楽の歴史をまったく新しい視点で読み直したとされる批評家ツィツィ・エラ・ジャジ(Tsitsi Ella JajiI)が連帯のために提唱したステレオモダニズム理論をアルバム全体に応用したそうで、それはアメリカ産のブラック・ミュージックを読み解くためにセネガルとガーナと南アフリカの音楽を研究した成果らしい。どこがどうだかはもちろんよくわからない。わかるのは躓くように叩かれるスタッタリング・ドラムがとにかくカッコいいということと、3曲目の“Techno Is A Liberation Technology(テクノは解放のテクノロジー)”でジョン・ハッセルばりのトランペットが最初のピークをつくり出すこと。この緊張感には圧倒される。ドリルン・ベースなんて子どもの遊びだったじゃん……(いや、それはそれでいいんだけど)。続いて“Black Secret Technology Is A Traumatically Manufactured And Exported Good Necessitated By 300 Years Of Unaccounted For White Supremacist Savagery In The Founding Of The United State(野蛮な白人至上主義の上に築かれたアメリカのために300年も輸出が必要とされ、精神的な外傷を負わされてきた黒い秘密景気)”で同じく極端なスタッタリング・ドラムの背後で粒子の細かい電子音が縦横無尽に飛び回り、“A Genre Study Of Black Male Death And Dying(黒人男性の「死んだ」と「死んでいる」の調査)”ではドラムがトライバルな響きにガラッと変わり、延々と警察無線がサンプリングされる。複数のパーカッションが入り乱れる瞬間はまさしく何かが起きた感じ。

 不協和音を連打するピアノにリードされた“Of Our Spiritual Strivings(私たちの精神的努力)”はザ・ポップ・グループをベース・ミュージックに変換したかのようであり、メロウなサックスとノイズで構成された“Black Industrial Complex - Automation Repress Revolution In The Process Of Production, And Intercontinental Missiles Represent A Revolution In The Process Of Warfare(黒い複合産業 - オートメイションは生産方法を劇的に変えることを抑止し、大陸間弾道ミサイルは戦争を進化させていく)”でようやく一息つける(つけないかな)。“Super Predator(他人を犠牲にして利益を得る者)”で再び強烈なスタッタリング・ドラムが復活し、“American Marxists Have Tended To Fall Into The Trap Of Thinking Of The Negroes As Negroes, i.​e. In Race Terms, When In Fact The Negroes Have Been And Are Today The Most Oppressed And Submerged Sections Of The Workers​.​.​.(アメリカのマルクス主義者たちは黒人のことを人種的タームとして考える罠に陥りやすく、実際に黒人たちはかつても、そして、いまも抑圧され、労働者としてどっぷり社会の底に沈められている)”ではストイックなドラミングに不穏なシンセサイザーの波が押しては返すスリリングな展開。ラストはアルバム全体の余韻を先取りするようにジェフ・ミルズのコード進行を思わせるクールな“It Is The Negro Who Represents The Revolutionary Struggles For A Classless Society(階級なき社会のための革命の闘争を象徴するのはニグロである)”。物悲しいサックスの響きはマッド・マイクのそれとはあまりに対照的。デトロイト・テクノの優美なメロディやパワフルな面しか見えていないフォロワーは思いっきり反省すべきだろう。

 深南部からニューヨークに出てきたというDBJは、以前は本人名義で実験音楽に多くの時間を割いてきた。どちらかというと活動はアート寄りで、2017年にスザンヌ・フィオール・キュレイトリアル・フェローシップの奨励を得るとMoMAの別館など様々な場所で作品を発表し、ヒートシックなどの名義で〈パン〉からリリースがあるスティーヴ・ウォーウィックとの共作「E-M」などですぐにも知名度を上げていく。DJなどではヒップホップやテクノを扱うこともあったDBJは、しかし、自分で作曲するとなるとフィールド・レコーディングや延々とスピーチを続けているものがメインで、昨年末に〈プラネット・ミュー〉からリリースされたスピーカー・ミュージックとしてのデビュー作『Of Desire, Longing』もゴソゴソとしたドローンの変形サウンドが46分36秒にわたって持続するだけ。いわゆるダンス・ミュージックではまったくない(あ、安倍晋三の言い回しがうつった!)。『Black Nationalist Sonic Weaponry』の前哨戦となったのはケプラ(Kepla)とのコラボレイト・アルバム『The Wages Of Being Black Is Death』(19)で、控え目だけれど、パーカッション・サウンドが取り入れられ、『Black Nationalist Sonic Weaponry』の青写真がここには確実に描かれている。言葉とサウンドの比重が逆転し、「メイク・テクノ・ブラック・アゲイン」を自らが実行に移した感じだろう。“Sunken Place in Reverse...a Cancelled Future, a Horizon of a Pipe Dream(逆さに沈没した場所……キャンセルされた未来、空想の地平線)”から『Black Nationalist Sonic Weaponry』まではあと一歩である。“Sophisticated Genocide - American Industrialized Culture is Designed to Flush Out Non-performing/Non-conforming Black Male Bodies(洗練された大量虐殺 - アメリカの産業文化は役に立たない黒人男性の肉体を追い出すようにつくられている)”で組み合わされたリズムとドローンのコンビネイションもDBJが助走段階に入っていることを告げ知らせている。さらに『Black Nationalist Sonic Weaponry』と2日違いでリリースされたDBJ名義『Further Expressions Of Hi-Tech Soul』は1時間に及ぶスタッタリング・ドラムにマッド・マイクを思わせる雄大なシンセサイザーがやや重々しく被せられていくスタイルで、彼の作品にしては言葉がまったく使用されず、この試みもまたテクノを新たな次元に持ち上げたものといえる。タイトルはマッド・マイクを意識したものではなく、耐久と適応を強いられてきた黒人の歴史とその肉体を表すものだという。

 シリアからオマール・スレイマンが飛び出し、ウクライナからヴァクラが頭角を現したように、紛争が起きることを察知して優れた音楽がその予兆を奏でることはままあることだろう。アメリカでブラックライヴズマターが再び拡大する直前、僕はピンク・シイフ(Pink Siifu)によるパンク・ラップにいささか慄いていた。ここまでアナーキーなヒップホップ・サウンドはそうそうない。しかし、録音時期から考えて、それをも上回る音楽的な爆発を起こしていたのはDBJだった。19日に配信が開始されたということは、各曲のタイトルはブラックライヴズマターを受けて考えられたものに違いない。厳密にいうとブラックライヴズマター以後につくられた最初の作品とは言えないだろうけれど、そのような時間的な境界線上にあったことを考えれば、『Black Nationalist Sonic Weaponry』をブラックライヴズマター後に現れた最初の音楽作品として考えてかまわないのではないだろうか。〈プラネット・ミュー〉からのステートメントは「(『Black Nationalist Sonic Weaponry』は)野蛮な新自由主義を超克し、白人のテクノ・ユートピアが描き出す架空の経済成長に負うことがない未来へと歩み出す作品だ」と結ばれている。また、『Black Nationalist Sonic Weaponry』の収益はすべて「Black Emotional and Mental Health (BEAM) 」と「the Movement 4 Black Lives」に寄付される。

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野田努

デトロイト・テクノはアメリカのポップ・カルチャーから欠落し、反メディア的であるために、国のスキャン・システムから完全に抜け落ちてしまっている。(略)アメリカのメディア風景全体を補強しているエンパワーメントの論理からテクノは脱退する。それらすべての指令から逃れて可視化するために、あるいは人びとの声を聞くために、人びとの歴史を語るために。──コドウォ・エシュン『More Brilliant Than The Sun』(高橋勇人訳)

 娘がまだ幼稚園に通っていたとき、いっしょに近所を歩いていたら、自転車に乗った警官が2名ぼくたちの前を通り過ぎた。傍らにいた娘を見ると、思い切り敬礼している。「なにやってんだよ?」と訊くと「おまわりさんと仲良くなれれば、何かあったときに助けてくれるじゃん」と答えた。たしかにこの社会では最初、そう教えられるものである。おまわりさんはみんなを守ってくれると。
 その娘もいま11歳となって、アメリカで警官が黒人をとっちめている映像をいっしょに見ている。このリアルは、彼女が学校では教えられていないリアルだ。時間はかかるだろうが、これから彼女に“黒い物語”を話さなければならない。すなわち信じ込まされていた話が必ずも正しくはなかったということを。ブラックライヴズマターに若い白人が多いのは、彼ら・彼女らが子どもの頃に教えられたリアル(歴史、社会)が欺瞞的だったことに腹を立てているからだろう。

 「地球人を飼いならす平凡な視聴覚プログラムは、人びとの心を濁らせて人種間に壁を作る」とはかつての、30年前のデトロイトのURなるアーティストがレコードに印刷した言葉だが、時代が変わるときはいっきに変わるものだ。NYのスピーカー・ミュージック(ディフォレスト・ブラウン・ジュニア)なる黒人青年は、いま、山頂で空気で肺をめいっぱい膨らませるかのようにデトロイト・テクノとフリー・ジャズを我が身に吸い込み、そして更新しようとしている。ディフォレスト・ブラウン・ジュニア(DeForrest Brown Jr.)名義でリリースしたアルバム『Further Expressions Of Hi-Tech Soul(ハイテック・ソウルのさらなる表現)』のアートワークは、エシュンの『More Brilliant Than The Sun』を読んでいる彼自身の姿である。そして、“Hi-Tech Soul”とはデリック・メイの造語であり、そのコンセプトの重要性をDBJは1週間前に出たばかりのスピーカー・ミュージック名義のアルバムに併せて作ったブックレット(フリーでDLできる)のなかで解説している。
 ブックレットにおいては、URの『インターステラー・フュージティヴ』のアルバムのアートワークが紹介され、そしてドレクシアの『ザ・クエスト』のCD版に掲載された奴隷貿易という西欧社会の歴史(学校では教えられることのない)が再掲されている。それがこれからスピーカー・ミュージック(DBJ)を聴こうとする人たちへのひとつヒントだが、しかし、彼のサウンドには、21世紀のフットワークやベース・ミュージックを通過した斬新なリズム──ディスコとは切り離されたエレクトロニック・アフリカン・パーカッション──がある。リズムは彼の武器だが、さらにフリー・ジャズのエッセンスを融合させ、そう、URの“ファイナル・フロンティア”を30年分のアップデートに成功させている。それが、スピーカー・ミュージックのセカンド・アルバム『Black Nationalist Sonic Weaponry』の最後の曲、“It Is The Negro Who Represents The Revolutionary Struggles For A Classless Society (階級なき社会のための革命の闘争を象徴するのはニグロである)”だ。ちなみにニグロとは、黒人が主体的に自らを呼んだ言葉ではない、植民主義における白人が彼らをそう呼んだのであって、問題の根源は植民主義を生んでしまった思想なり文明なりにあると。
 スピーカー・ミュージックはサウンドの発展のさせ方もさることながら、コンセプトの研磨においても抜かりがない。今回の抗議運動は歴史的モニュメントの破壊にまでことが及んでいるが、ブラックライヴズターが反人種人差別にとどまらず、それ(=奴隷制度や植民主義)が黒人ではなく白人の歴史から来ていることを若い世代の白人が声を出していることに未来があるとは言えないだろうか。人びとの声は、DBJがブックレットの最初に引用したアミリ・バラカ(リロイ・ジョーンズ)の1967年の言葉「我々はポスト・アメリカの形態を欲する」とリンクしている。そして、連帯(solidarity)を呼びかけているこの音楽は、パブリック・エナミー〜UR以来の、確信的なポリティカル・ブラック・ミュージックと言えよう。(彼はいま『黒いカウンター・カルチャーの結集』なる著書を準備中だとか)

 ディフォレスト・ブラウン・ジュニアは、革命前史として、サン・ラ、アーチー・シェップ、アルバート・アイラー、ミルフォード・グレイヴス、ノア・ハワード、クリフォード・ソーントンといったアーティストたちの作品をリストアップしている。そう、ジャズなのである。これら60年代末〜70年代前半のフリー・ジャズと90年代のデトロイト・テクノとの溝を埋めようというのがDBJの企みであろう。
 また、インスピレーションのひとつに状況主義にも影響を与えたフランスの思想家アンリ・ルフェーヴルの名も挙げているが、大それた固有名詞が並んでいるからといって、身構える必要はない。テクノは、音を感じるところからはじまる。まずは何よりも、ここにはサウンドの強度がある。能書きをすっ飛ばして聴いても充分にカッコいい。アーチー・シェップのアルバムのように。ただひとつだけ言いたいのは、世のなかには「いま聴かなくていつ聴くのよ」という音楽があり、これはまさにいま聴く音楽だ、ということ。世界が“黒い物語”を必要としているまさにいまこのときに、である。

interview with Akira Rabelais - ele-king

 米シカゴ在中の異才アキラ・ラブレー(作曲家、ソフトウェア開発者)にはじめて会ったのは、2007年、デヴィッド・シルヴィアン欧州ツアーに参加した際立ち寄ったドイツ・ケルンでのこと。ツアー中盤、いまだ捉えどころのないデヴィッドから「紹介したいアーティストがいる」と言われ、その「アキラ」という名前の人と––詳細不明のまま––演奏会場に隣接したカフェで落ち合った。「この人とは酒が飲めそう!」と出会い頭に思い、開口一番ツアー中のこと日本でのことなど私事を捲し立ててしまった。アキラさんはその笑止千万な話しをひとしきり聞いてくれた後、ウィットで生き生きとした音楽やイメージを物腰穏やかに語ってくれた。私はその革新的なアイディアに興奮しつつ自分が恥ずかしくなった……。
 別れ際、彼は1枚のカードを手渡してくれた。ツアーバスに戻ってから、その魔術的な抽象画と古代文字が添えられたカードを眺め続けた。プラハに向かう深夜のハイウェイは闇に包まれていて、国境上空では怪鳥が鳴いている。私はその護符(カード)を大切に保管した。
 それから十数年近い歳月が過ぎて、私は偶然、大阪のNEWTONEレコードでアキラさんの再発盤レコードを入手した。その夢幻の響きはときを超えてまったく色褪せることなく、活き活きと私の前に立ち現れてきた。早速アキラさんに手紙を書いた。

 以来、機会ある都度にアキラさんとやり取りをしてきましたが興味が尽きないので、ele-king 野田さんに直談しインタヴューを行いました。ジョージ・フロイドさんが白人警官によって殺害された事件を期に起こった抗議活動が全米のみならず世界に広がりをみせる中、2回に分けて取材しました。以下その全文です。

これは本当に驚くべきアルバムです。一聴しただけでは制作プロセスがまったく推測できません。(渡邊琢磨)
作業プロセスは、トラックのヴァリエーションをいくつか作って、それを数日間、再生し続けて自分の潜在意識に浸透させ……それから調和的な修正を加えるというものだった。(アキラ・ラブレー)

音楽のみならず、開発されたソフトウェアも謎めいた魅力に満ちており、あなたの音楽的バックグランドを推し量ることは容易ではありません。

Akira Rabelais(以下、A):音楽の初仕事は、あるオペラ作品のためにパート譜を作成することだった。最初の給料で彼女にシルクのパジャマを買ったので、そのときのことはよく憶えているよ……音楽やアートとのつながりは、私がテキサス南部育ちということと関係がある。私は人里離れた競走馬の牧場で育った。ハイウェイの中途から挨拶するのに立ち寄るような場所だ。私は牧場で自然を声帯模写した。コヨーテ、鳥、馬と一緒に歌った。母はアーティストで、バッハ、サティやブラームスを弾いていた。私の最初の楽器は農場を取り囲んでいた有刺鉄線を射撃用の鉄の板に打ち付けることによって即興的に作り出したものです。

広漠とした大自然の記憶ですね。一方であなたは、ミュージック・テクノロジーやコーディングの卓越した技術をお持ちです。こうした技術や知識も音楽を始めた頃に習得していったのでしょうか?

A:いや、私がコンピュータを使いはじめるのはもっと後になってからだよ。大学生の頃、DMCS(註1)を使いはじめて、そのソフトを覚えることに夢中で何百時間もラボで過ごした。仲間の学生が私のやっていることに気づいて、電子音楽をやってみたらと勧めてくれた。それで、“Max”や“KYMA”(音楽やマルチメディア向けのビジュアルプログラミング言語)を使いはじめるようになったんだ。

それから、あなたは大変独創的なソフトウェア「Argeïphontes Lyre」を開発されました。このソフトに関してご説明いただけますか? またこのソフトはご自身の作曲ツールでもあるのでしょうか?

A:最初に開発した「Argeïphontes Lyre」(以下:AL)は、私のカルアーツ(カルフォルニア芸術大学の通称)の修了制作だった。「AL」は、トム・エルベ(註2)の下で学んだ結果生まれた。私が独自のオーディオ・フイルターの着想を得たのはアニメーションのクラスでのことだった。友人に、Blender(3DCG制作ソフトウェア)のアニメーション部分をプログラミングした人がいて、彼のアニメーションソフトはスイッチをオンにするとキャラクターが四方八方に飛び出てくるのだけど、そのソフトに触発されて「自分も同じことを音でやらなければ」と考えたんだ。そしてそれが結果として、“Eviscerator Reanimator”(「Argeïphontes Lyre」に包摂されているオーディオ・フィルターの一種)になった。いまの「AL」は、6ヴァージョン目です。それは、DSP・フィルター、ジェネレーター、オーデイオ、ヴィデオ、そしてテキスト合成の集合体のようなもので、私はそれをC言語、オブジェクティブC、C++で書いていて、再結合、変異、歪み、たたみ込み、対称性という概念を主体としている。最初のヴァージョンでは視覚情報の合成 ( 音声から映像への変換、映像の編集等々)を伴っていたが断念してしまった。直近ではカオス理論にハマっていて、どうやってそれを取り込もうか研究中。「AL」は私の庭のようなものです。私は庭仕事が好きで、雑草を抜いたり、収穫したり、新しいことを見つけたり、そのアイデアをまるで花のように育て……ときに、「AL」は道具として使える詩のようでもあります。ほとんどの私のアルバムで"AL”を使っています。「AL」は、僕のウェブサイトから無料でダウンロードできます。(註3)

あなたが大学時代にトム・エルベに師事していたとは驚きです。私も“SoundHack"のいくつかのプラグインを使ったことがあります。

A:彼は大学院時代の恩師です。彼がカルアート時代に唯一(研究室で)指導した生徒が私です。彼はいま、カルフォルニア大学のサンディエゴ校にいますよ。そして大学時代の師は、ビル・ディクソンでした。彼のことは君も知っているだろう。フリー・ジャズの演奏家で……

え! トランペッターのビル・ディクソンですか! セシル・テイラーとの共演盤を持っていますよ!

A:はい。私は彼の即興演奏のアンサンブルで、3年間演奏していました。話しは変わるけど、君のプロジェクト(註4)のために“緊縛美”というフィルターを書いたよ。オーディオストリームが縄や糸の束のように、ねじり合わさって結び目をつくるというイメージが“緊縛美”になったんだ。君に送ったオーディオ・ファイルの中で、そのフィルターを聴くことができると思う。

はい、たしかに。原音にあまり干渉しない有機的なフィルターですね。この“緊縛美”について、もう少し説明してもらえますか? これも「Argeïphontes Lyre」から派生したフィルターの一種なのでしょうか?

A:そうです。「AL」のなかで試せますよ。女性の身体の周りに結び締め付けられたような縄のようなサウンドチャンネルという、ただの思いつきなんだけどね。

あなたは開発したソフトウェアを無料でシェアされていますね。近年、音楽に限らず大手メーカーのソフトウェアやアプリケーションが軒並み月額制、サブスクリプション化されました。私的にはフリーソフトにはいまだ想像的で、なかには使い勝手すらも(有償ソフトよりも)良いものがあります。これはシステムの問題だけではないと思うのですが。

A:君の言いたいことはよくわかるよ……個人もしくは少人数で開発するフリーソフトにはたいがい、創造的なスピリットがある。お金や必要以上の意見は創造的な表現をブロックしがちだ。私はサブスクリプションのファンではない。だからPro Toolsを使うのをやめたんだ。

そうした変遷を経て、あなたはいまやクラシックとなった名盤 『Spelle-wauerynsherde』(Boomkat Editions : BKEDIT015-COL)を生み出します。
これは本当に驚くべきアルバムです。一聴しただけでは制作プロセスがまったく推測できません。この作品が作られた経緯、制作過程を教えていただけますか?

A:『Spellewauerynsherde』は三つの言葉なんだ。つまり、Spell(呪文)、Wavering(揺らぎ)、Shard(破片)という。私は大学でラッキー・モスコヴィッツという作曲家、指揮者に学んだ。彼は、60年代後半にバックパックひとつでアイスランド中を旅しながら、失われゆくアートフォームであった哀歌の独唱などをアンペックス製のリールテープに次々とドキュメントしていった。彼は帰国後そのテープをクローゼットに片付けたまま忘れてしまった。それを、30年後に私が発見したんだけどテープの状態はとても酷かった。私はそれを慎重に修繕してハードディスクに保存し、ラッキー自身や学校の図書館、そして私自身用にコピーを作った。彼は悲劇的な人だった。酒の問題を抱え、私が大学を卒業した2年後に夭逝してしまった。このアルバムを作りはじめたのは彼が亡くなってまもなくの頃だった。
 彼の収集した音を20分程度使って制作をし、1年後に作品は完成した。このアルバムをリリースしてくれるレーベルを数年、探して回ったけどなかなか見つからなかった。そんな折に突然、デヴィッド・シルヴィアンから彼がスタートする新レーベル〈Samadhisound〉から何かリリースしないかという手紙を受け取ったんだ。デヴィッドは、このアルバムを気に入ってくれて承諾してくれた。それからさらに18ヶ月かけて、ジャケットデザインを探し求めたが、ようやくLia Nalbantidouというフォトグラファーの写真を見つけ、アルバムは2014年にリリースされた。
このアルバムの技術的な点を説明しておくと、たいはんの楽曲は、“タイム・ドメイン・ミューテーション”および、“コンボリューション”(という技術で)構築されている。“ミューテーション”は、トム・エルベから学んだテクニックだ。私のコンボリューションは、トムの“SoundHack”に基づくものではあるけれど、タイム・ドメインの部品を追加した。このアルバムでは基になった音を再文脈化しているけれど、その音の本質にある有機性は保たれていると思う。その作業プロセスは、トラックのヴァリエーションをいくつか作って、それを数日間、再生し続けて自分の潜在意識に浸透させ……それから調和的な修正を加えるというものだった。

註1:DMCS(Deluxe Music Construction Set)は、86年に制作された初期の音楽制作ソフト。
https://en.wikipedia.org/wiki/Deluxe_Music_Construction_Set

註2:米国の電子音楽の重鎮でコンピューターミュージック会社”SoundHack”の代表。

註3:「Argeïphontes Lyre」は、下記リンクよりフリーダウンロード可。
https://www.akirarabelais.com/o/software/al.html

註4:アキラ・ラブレーと渡邊琢磨は“Soundtrack recomposed project”という企画でコラボレーションを行なっている。同作には(仏)のアーティト、 フェリシア・アトキンソンも参加している。7月下旬、渡邊主催レーベルより配信限定リリース予定。

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コロナウィルスによって世界が激変しました。あなたの生活や表現にどのような影響を及ぼしましたか?(渡辺琢磨)
願わくば、人びとが少し内省的になってもらえたらと。これからどのように生きたいか、どういう影響を世界に与えているのかを考えてもらえたらと思います。(アキラ・ラブレー)

ご友人の作曲家が収集したヒストリックな音とオープンリールが時代を越えてあなたの作品に生成変化したということでしょうか。あなたの作品はパーソナルでありつつ、出来事や他者との関わりから生まれた作品も多いような気がします。コラボレーションに関して考えをお聞かせください。とくにハロルド・バッドとの共作に関して個人的に興味があるのですが……

A:私にとってコラボレーションは常に難題です。自分のやり方がハードルを上げてしまうのです。去年リリースした『cxvi』(Boomkat Editions : BKEDIT018)ではコラボレーション作品に取り組みました。完成まで10年かかりましたが、結果には満足しています。ハロルド(バッド)は、素晴らしい人です。彼が自作の”Avalon Sutra”で作業をしていた時に、デヴィッド(シルヴィアン)が私たちを結びつけた。それで友達になりました。彼の場合一緒に作業するのはとても楽でしたよ。

そういえば、私もデヴィッドを介してあなたとドイツでお会いしましたね。話しは変わりますが、コロナウィルスによって世界が激変しました。あなたの生活や表現にどのような影響を及ぼしましたか? また、こういった厳しい状況をどう捉えていますか? よろしければ教えてください。

A:パンデミックが表現にどのように影響するか説明するのは難しいですね。私はというと、作業する時間が増えました。願わくば、人びとが少し内省的になってもらえたらと。これからどのように生きたいか、どういう影響を世界に与えているのかを考えてもらえたらと思います。

ありがとうございます。全米では、ジョージ・フロイドさんが白人警官によって殺害された事件を期に大規模なプロテストが起こっており、この抗議デモはいまや世界中に広がっています。あなたが住んでいるエリア(イリノイ州シカゴ)での状況を教えていただけますか。

A:私は、シカゴのダウンタウンから電車で北に一駅のところに住んでいるので、デモが自宅のあたりまで来ます。数千人のプロテストの参加者が通り過ぎていくのを見ました。私が目撃したデモはとても穏やかで、まるでパレードのようでした。残念なことに一部の地域はとても危険な状況で、ニュースでも見ましたが衝撃的でした。

ドナルド・トランプは事件発生当初は傍観し、後に差別や暴力を煽るような発言をまたしてもツイッターやメディアで繰り返しています。このことは世界的に報道されています。

A:彼や彼の支持者が合衆国に対して行なってきたことは悲しく、恥だと感じています。意図的に無視することや、悪意のある不寛容を賞揚し正当化することは容認できません。

日本ではアーティストやセレブリティーの政治発言は敬遠される傾向があります。これは米国の状況とは異なると思いますが、アーティストが政治に言及することについてどう思われますか。

A:思うに、私は誰からも学ぶことができる……キム・カーダシアン(※著名なモデル)から何か学べるだろうか? わかりません。アートとアーティストは同じではないということを憶えておくのは大事だと思う。ヒーローに実際会ってみるとたいてい、幻滅しますからね。

あなたは過去に何度か日本を訪れていますね?

A:日本は好きです。素晴らしい瞬間の記憶がたくさん残っています……舞踏の先生と一緒に踊ったり、新宿で道に迷ったり、新幹線でコーヒーとカツサンドを食べたりしたこと。福岡の小さなレストランで友人と“タクシードライバー”の酒を飲んだこと、日本の風呂、東京でカラスと歌ったこと、誰もいない山形のホテルのバーでマンハッタンを飲みながら雪が降ってくるのを眺めたこと、神社で節分のキャンディーをキャッチしたこと。こうした瞬間、というより、やはり人なんですよ。

その“タクシードライバー”のお酒のラベルは知人のアートディレクター、映画ライターの高橋ヨシキさんによるデザインですよ。

A:そうなのか!? ワオ、それは最高だね。


 アキラ・ラブレーと音のやり取りをしていると──ピアノや弦の音が変調するように──生活時間は“歪み"、日常も“変異"していく一方、均質化された思考や審美性、価値観等は解体されていく。蝋燭の炎のように小さくゆらゆらと持続/変化する音が、現実を明るみに出していくような行程は「内」から「外」を求めつづけた暗澹たる日々の羅針盤のように作用した。パンデミック後、最初のメールではお互いの国のこと、見えている景色のこと、国政等々についてやり取りし、美味しいお茶の淹れ方を(何の脈絡も無く)教えていただいた。ソフトウェアやコードは書く人つくる人次第で、詩にもなるし、社会問題を提起することもできる。(ele-king booksから出版されている『ガール・コード』も是非ご参照ください。)私もC言語の勉強を再開しましたが……早くも挫折寸前です……。アキラ・ラブレーとの音の往来は、7月下旬リリース予定の染谷将太監督『まだここにいる』recomposed project に収蔵されています。詳細は適時こちらから(https://www.ecto.info/

 

アキラ・ラブレー(Akira Rabelais)
テキサス南部で生まれ。作曲家、ソフトウエア設計者、著述家。ビル・ディクソンに作曲、および編曲を学び、カリフォルニア芸術大学では 電子音楽のリーダーであるモートン・スボトニックおよびトム・エルベに師事し修士を修める。幼少期、彼は農場を囲んでいた有刺鉄線を金属板に打ち付けることによって最初の楽器を作り出した。 その後、音や映像を巧みに歪めたりノイズ を加えるなどの操作ができる独自のソフトウェア「Argeïphontes Lyre」を開発。彼は自身のソフトウェアを書くことを詩を書くことになぞらえる。数あるフィルターは形骸化蘇生法、ダイナミックFM音源、時間領域 変異、そしてロブスターカドリールなど独特な言葉で綴られているように。

Akira Rabelais official https://www.akirarabelais.com/
bandcamp https://akirarabelais.bandcamp.com/

BES & ISSUGI - ele-king

 大きな話題を呼んだ『VIRIDIAN SHOOT』から早2年。復活した SCARS としての活動も順調な BES と、今年新作『GEMZ』をリリースしている ISSUGI、日本が誇るふたりのラッパーがふたたびタッグを組んでアルバムを送り出す。タイトルは『Purple Ability』で、多くのゲストたちが参加。発売は7月3日。さらに輝きを増した BES & ISSUGI の化学反応に注目だ。

SCARS / SWANKY SWIPE としての活動でも知られるラッパー、BES と最新作『GEMZ』のリリースも話題な MONJU / SICK TEAM のラッパー、ISSUGI によるジョイント・アルバム第2弾『Purple Ability』が〈DOGEAR RECORDS〉からリリース! SCARS から STICKY、MONJU から Mr.PUG、仙人掌が参加! 本日よりアルバムからの先行配信もスタート!

◆ SWANKY SWIPE / SCARS としての活動でも知られ、SCARS『THE ALBUM』(06年)、SWANKY SWIPE『Bunks Marmalade』(06年)、ファースト・ソロ・アルバム『REBUILD』(08年)といったクラシック作品をリリースして人気/評価を不動のものとし、近年ではソロだけでなく復活した SCARS としての活動も活発なラッパー、BES(ベス)。
◆ 東京から国内ヒップホップ・アーティストを中心に様々な音楽を06年から現在まで途切れなく発信するレーベル、〈DOGEAR RECORDS〉に所属し、MONJU / SICK TEAM のメンバーとして、そしてソロ・アーティストとして膨大な音源をリリースしており、バンド・サウンドを取り入れた最新作『GEMZ』のリリースも大きな話題となっているラッパー、ISSUGI(イスギ)。
◆ 旧知の間柄であり数々のコラボレーションをこれまでにリリースしてきた卓越したスキルを持つ両者がガッチリと手を組み、18年にリリースしたジョイント・アルバム『VIRIDIAN SHOOT』はその年の年間ベスト・アルバムにも選出されるなど各所で絶賛され15カ所に及ぶライヴツアーを敢行。早くもこのタッグでのジョイント・アルバム第2弾となる『Purple Ability』がリリース決定!
◆ 客演には SCARS から STICKY、MONJU から Mr.PUG、仙人掌が参加! そしてプロデューサー勢には前作に続き D.I.T.C. 関連の作品で知られ、ISSUGI ともこれまでに幾度もコラボしているNYのプロデューサー、GWOP SULLIVAN や DJ SCRATCH NICE、GRADIS NICE、16FLIPと『VIRIDIAN SHOOT』にも参加していた面々の他、フレディ・ギブスやカレンシーら数多くのアーティストとコラボしているベイエリアのプロデューサー、DJ FRESH、〈DOGEAR〉からの作品リリースでも知られる ENDRUN、BES と ISSUGI ともに初顔合わせとなる FITZ AMBRO$E が参加! BES & ISSUGI の化学反応は常に 200% HIP HOP。
◆ 6月19日よりアルバムのリリースに先駆けてM1 “ Welcome 2 PurpleSide” (prod by Gwop Sullivan)、M8 “Trap to Trap” ft 仙人掌, Mr.PUG (prod by DJ Scratch Nice)の2曲の先行配信が iTunes Store / Apple Music、Spotify などでスタート! また iTunes Store ではアルバムのプレオーダー受付も同時にスタート!

[アルバム情報]
アーティスト: BES & ISSUGI (ベス&イスギ)
タイトル: Purple Ability (パープル・アビリティ)
レーベル: P-VINE, Inc. / Dogear Records
品番: PCD-25291
発売日: 2020年7月3日(金)
税抜販売価格: 2,500円

[TRACKLIST]
01. Welcome 2 PurpleSide
 prod Gwop Sullivan
02. SoundBowy Bullet
 prod 16FLIP & DJ Scratch Nice
03. Callback
 prod DJ Fresh
04. Purple Breath
 prod Gwop Sullivan
05. 大丈夫?
 prod Fitz Ambro$e & DJ Scratch Nice
06. Interlude
 prod 16FLIP
07. Hits a stick
 prod DJ Scratch Nice
08. Trap to Trap ft 仙人掌, Mr.PUG
 prod DJ Scratch Nice
09. Belly
 prod Endrun
10. Stack the ...
 prod Gradis Nice
11. Skit
 prod Gradis Nice
12. Inner Trial ft Sticky
 prod DJ Scratch Nice
13. 明日への鍵
 prod Gradis Nice
14. Nice Dream
 prod 16FLIP
15. BoomBap pt2
 prod Gwop Sullivan

[Profile]
SWANKY SWIPE / SCARS としての活動でも知られ、SCARS『THE ALBUM』(06年)、SWANKY SWIPE『Bunks Marmalade』(06年)、ファースト・ソロ・アルバム『REBUILD』(08年)といったクラシック作品をリリースし、人気/評価を不動のものとしたラッパー、BES (ベス)。
〈DOGEAR RECORDS〉に所属し MONJU / SICK TEAM のメンバーであり、ラッパーとしては元よりビートメーカー名義 16FLIP としてもこれまでに膨大な音源をリリースしてきた ISSUGI (イスギ)。
今はなき池袋の伝説的クラブ、bed が生んだ卓越したスキルを持つ両者が手を組み2018年にリリースしたジョイント・アルバム『VIRIDIAN SHOOT』はクラシックと絶賛された。
早くもジョイント・アルバム第2弾となる『Purple Ability』がリリース。

Villaelvin - ele-king

 2000年代にはリアルなアフリカを舞台にした超大作がハリウッドでも次から次へとつくられ、小品にも忘れがたい作品が多かったものの、現在では『ブラックパンサー』のようにおとぎ話のようなアフリカに戻ってしまうか、そもそもアフリカを舞台にした作品自体が激減してしまった(90年代よりは多い。あるいはセネガルなど現地でつくられる作品にいいものが増えてきた)。アフリカに対する注目は音楽でも同じくで、ボブ・ゲルドフとミッジ・ユーロがライヴ・エイドから20周年となる2005年に世界8大都市で「ライヴ8」を同時開催し(日本ではビョークやドリームズ・カム・トゥルーが出演)、G8の首脳にアフリカへの支援を呼びかけたり、ベルギーの〈クラムド・ディスク〉がコンゴのコノノNo. 1をデビューさせてアフリカの音楽に目を向ける機会を増大させてもいる。これに続いてデイモン・アルバーンはアフリカ・エクスプレスを組織したり、コンゴの現地ミュージシャンたちと『DRC Music』を制作、ベルリンのタイヒマン兄弟も同じくケニヤなどに赴いて『BLNRB(ベルリンナイロビ)』や『Ten Cities』といったコラボレイト・アルバムを、マーク・エルネスタスはセネガルでジェリ・ジェリ『800% Ndagga』をそれぞれつくり上げている。こうした動きはしかし、第1次世界大戦前にイギリスとドイツが次々とアフリカ各地を植民地にしていったプロセスともどこか重なってみえる、個々の動きとは別に全体としては複雑な感慨を呼び起こす面もある(ディープ・ハウスのアット・ジャズが早くから南アフリカのクワイトにコミットしていったことも多面的な要素を持つことだろう)。アフリカの音楽産業は、規模でいえば1に南アフリカ、2にナイジェリアである(北アフリカとフランスの関係は煩雑になりすぎるので省略)。西アフリカを代表するナイジェリアではイギリスとアメリカの資本が暴れている一方、この数年で東アフリカを代表し始めたのがウガンダで、同地にもイギリスやドイツ、そして中国の資本が相次いで投入されている。イギリスのコンツアーズとサーヴォが現地のパーカッション・グループとつくり上げた『Kawuku Sound』、ゴリラズのジェシ・ハケットによる『Ennanga Vision』……等々。

 「先進国から来る人たちは演奏を録音して持って帰るだけ。出来上がったものを聞かせてもくれない」という不満は以前から少なからずあったらしい。アフリカと先進国の関係を変える契機が、そして、クラブ・ミュージックとともにやってくる。ウガンダのクラブ・ミュージックを牽引してきたのはDJ歴20年を超えるDJレイチェルと、2013年ごろから始動し始めた〈ニゲ・ニゲ・テープス(Nyege Nyege Tapes)〉である。東アフリカ初の女性DJとされるDJレイチェルはレコードも売っていないし、わずかなCDも高価で手の届かないものだったという90年代からDJやラップを始め、それは彼女が中流で、平均的な家族よりもリベラルな親だったから可能だったと本人は考えている(https://blog.native-instruments.com/globally-underground-dj-rachaels-journey/)。ウェデイング・プランナーとして働く彼女は結婚式で使うサウンドシステムをDJでも使いまわすことでなんとか生計を立てているようで、CDJが国全体でも3台しかないというウガンダではレンタルも簡単にはできないという。一般的にウガンダで音楽を楽しむにはスマホしかなく、それは『Music From Saharan Cellphones』(11)の頃も現在もあまり変わっていないらしい。ヒップホップからゴムまで横断的に扱うDJレイチェルの流儀に応えるかのようにして、そして、〈ニゲ・ニゲ〉がスタートする(詳細はあまりに膨大なので詳しくは→https://jp.residentadvisor.net/features/3127)。〈ニゲ・ニゲ〉の特徴を2つに絞るなら最新のエレクトロニック・ミュージックと伝統的な過去の音楽を等価に扱っていること、そして、ウガンダだけではなく、南に位置するケニアやタンザニア、あるいは西アフリカのマリやマダカスカル島東方に浮かぶレユニオンで活動するプロデューサーたちの音源もリリースしていることだろう(〈ニゲ・ニゲ〉のリリースで大きな注目を集めたタンザニアのシンゲリを紹介するコンピレーション『Sounds Of Sisso』については→https://www.ele-king.net/review/album/006179/)。〈ニゲ・ニゲ〉自体は音楽を生み出す母体として機能しているというよりDJ的な編集センスで存在感を示しているといえ、その頂点に位置しているのが現在はカンピレ(Kampire)である。DJレイチェルと同じくアクシデントでDJになったというカンピレは音楽に対する知識がなかったことが幸いしたと自身のユニークさを説明する。彼女がミックスすると、嫌いだった曲まで魅力的に聞こえてしまうので、僕もかなり舌を巻いた(ということは以前にも当サイトで書いた)。

 「ウガンダのアンダーグラウンドはどんどん大きくなっている。〈ニゲ・ニゲ〉は国際的に認知され、多くの西側メディアがウガンダを記事にしている」(DJレイチェル)


 そして、〈ニゲ・ニゲ〉が2018年にクラブ専門のサブ・レーベル、〈ハクナ・クララ(Hakuna Kulala)〉をスタートさせる(ようやく本題)。「安眠」というレーベル名とは裏腹にあまり聞いたことがない種類のベース・ミュージックをぶちかますケニヤのスリックバック(Slikback)やウガンダのエッコ・バズ(Ecko Bazz)などアルバムが楽しみなプロデューサーばかりが名を連ねるなか、〈ニゲ・ニゲ〉のハウス・エンジニアを務めるドン・ジラ(Don Zilla)と、ベルリンからやってきたエルヴィン・ブランディによるユニット、ヴィラエルヴィン(Villaelvin)のコラボレイト・アルバム『Headroof』がまずは群を抜いていた。バンクシーのように公共空間を使ったアート表現でも知られるというブランディはこれまで3人組のイエー・ユー(Yeah You)として4枚の実験的なアルバムをリリースした後、ソロでは本人名義の「Shelf Life(賞味期限)」などでアルカもどきの極悪インダストリアル路線をひた走り、とくにアヴリル・スプレーン(Avril Spleen)名義では混沌としたサウンドを背景にリディア・ランチばりの絶叫を聞かせてきた(それはそれで完成度の高い曲もある)。これがドン・ジラと組んだことでグルーヴを兼ね備えたインダストリアル・テクノへと変化。ドン・ジラ自身は昨年、やはり〈ハクナ・クララ〉から「From the Cave to the World」でデビューし、シンゲリを意識したようなトライバル・テクノや不穏なダーク・アンビエントを披露したばかり(コンゴ出身の彼は自分の音楽をコンゴリース・テクノと呼んでいる)。2人が起こしたアマルガメーションはアフリカとヨーロッパの音楽が混ざり合うという文脈でもすべてが良い方に転んだといえ、それぞれの音楽性が互いにないものを補完し合うという意味でも面白い結果を引き出している。インダストリアル・ノイズをクロスフェーダーで遊んでいるようなオープニングからシンゲリにはない重量感を備えた“Ghott Zillah”へ。タイトル曲の“Headroof”ではコロコロとリズムが変わる優雅なインダストリアル・アンビエントを構築し、これだけでも次作があるとすれば、それは〈パン〉からになるような気がしてしまう。ゴムをグリッチ化したような”Ettiquette Stomp”からアルヴァ・ノトとDJニッガ・フォックスが出会ったような“Zillelvina”へと続き、”Hakim Storm”ではチーノ・アモービを、ダンスホールを取り入れた“Kaloli”ではアップデートされたカンをもイメージさせる。全編にわたって知的でダイナミック。想像力とガッツにあふれたアルバムである。



〈ハクナ・クララ〉の最新リリースはアフリカ・エクスプレスにも参加していた南アのインフェイマス・ボーズによるメンジ(Menzi) 名義のカセット「Impazamo」で、これがなんとも不穏でダークなインダストリアル・ゴムに仕上がっていた。〈ニゲ・ニゲ〉がこれまで大々的にプッシュしてきたシンゲリとはだいぶ異なっった雰囲気であり、こうした方向性はしばらく維持されるに違いない(シンゲリを発展させたリリースももちろん〈ニゲ・ニゲ〉は続けている)。さらには、この夏、〈ニゲ・ニゲ〉の最初期からリリースを続けてきたナイヒロクシカ(Nihiloxica)のデビュー・アルバムが〈クラムド・ディスク〉から、という展開も。母体をなすのはドラムセット1人に7人のパーカッションが加わったウガンダの伝統的な打楽器グループ、ニロティカ・カルチャラル・アンサンブル(Nilotika Cultural Ensembl)で、この編成で彼らは昨年、〈メガ・ミュージック・マネージメント〉から『KIYIYIRIRA』というラヴリーなアルバムをリリースしたばかり。これにイギリスでアフロ・ハウスの佳作を連打してきた〈ブリップ・ディスク〉から“Limbo Yam”をリリースしていたスプーキー~Jとpq(もしかして〈エクスパンディング・レコーズ〉から『You'll Never Find Us Here』をリリースしていたpqか?)がプロデュースとシンセサイザーで加わり、ニロティカにニヒリズムの意味を加えたナイヒロクシカと名称を変形させたもの(pqは前述したエッコ・バズのプロデューサーも務めている)。イギリスの地下室とアフリカの伝統を結びつけたと自負するナイヒロクシカは2017年に〈ニゲ・ニゲ〉からカセットでデビューし、1年間ツアーを続けたことで伝統音楽「ブガンダン」に対する理解を深めたと確信し、そのままスタジオ・ライヴを収めたEP「Biiri」を昨年リリース、これをアルバム・サイズにスケール・アップさせたものが『Kaloli』となる。怒涛のドラミングは冒頭からアグレッシヴに響き渡り、まったくトーン・ダウンしない。次から次へとポリリズムが乱れ飛び、スリリングなドラミングをメインにした構成はさながら23スキドゥー『Seven Songs』の38年後ヴァージョンだろう。本人たちはこれを「ブガンダン・テクノ」と称し、「不吉なサウンド」であることを強調してやまない。エンディング近くに置かれた“Bwola”などはそれこそ『地獄の黙示録』でウィラード大尉が血だらけの顔を河から浮かび上がらせたシーンを思わせる。エンディングでは少し気分を変えるものの、全体に漲るパッションはとても暗く、情熱的である。

 世界中からヴォランティア・スタッフが集まり、4日間も続くという〈ニゲ・ニゲ・フェスティヴァル〉(CDJは2台!)はもちろん警察から狙われ、今後は新型コロナウイルスの影響も避けられないだろう。ウガンダはしかし、政府がしっかりとした広報機能を兼ね備えていないらしく、コロナ対策もオーヴァーグラウンドで人気のヒップホップやダンスホールが音楽に乗せて民衆にその知識を伝え、いまのところ死者はゼロだという。つーか、タンザニアでも6月7日に終息宣言が出たものの、「神の恩恵により新型コロナウイルスを克服できた」というマグフリ大統領の言葉を聞くとかえって不安に……。韓国とともにメガ・チャーチが猛威を振るうウガンダはLGBTに対してかなり厳しい視線を向けるらしく、前述したDJレイチェルもレズであることがわかった途端に友だちを何人か失ったそうで、〈ニゲ・ニゲ〉に集まる人たちのなかには、そこが「安全地帯だから」という理由も少なからずあるらしい。

 健全なオーヴァーグラウンドがあり、必要なアンダーグラウンドが機能している。ウガンダの音楽状況をイージーにまとめるとしたら、そんな感じになるだろうか。そして、それはなかなか容易に手に入るものではない。

 6/8から、NY市は第一段階のビジネスが再開した。第一段階とは建設業、製造業、卸売業、一部の小売店、農業、林業、水産業である。それと同時にレストラン、バーは外で飲むのは大丈夫と、たくさんの人がバーでテイクアウトのドリンクを買って、バーの前でたむろしている。が、レストランの外でのダイニングプランは第二段階(6月下旬を予定)で、まだである。が、レストラン側はその準備として外にテーブルを置きはじめ、それでたくさんの人たちがバーの前でたむろしはじめた。クオモ州知事は「これでまたコロナ感染者が増えたら、ロックダウンを考える」とご立腹である。段階的な再開計画に準拠していないビジネス、とくにバーやレストランについて州全体で25000件もの苦情があったと語り、規則に違反しているバーやレストランは、酒類免許を取り上げるということである。まだまだ慣れないことなので、手探りでやっている。
https://gothamist.com/food/photos-new-yorkers-are-trying-day-drink-away-pandemic
https://gothamist.com/news/coronavirus-updates-june-14-2020

 とはいっても、この暖かい陽気で外に出る人は止まらない。最近は、みんなマスクをしているだけで、パンデミック前とほとんど変わらなくなっている。10人以上の集まりも大丈夫になり、5月末から続いている抗議活動もまだ継続している。ソーシャルディスタンスはほとんどないし、NYでは禁止されている花火も毎日のように上がっているし(どこで調達しているのだろう)。ニューヨーカーは、そろそろ気が緩んできたらしい。

 パンデミックでNYを離れた知り合いも徐々に戻ってきている。ライヴ活動はまだできないが、スタジオでジャムったり、ルーフトップでアンプラグドでライヴをしたり、個人的な集まりで音を出しはじめている。ライヴストリームはもう恒例化しているが、インスタグラムだと必ず音が遅れるので、残念ながら、なかなか見ようという気がしない。向こうは、だいたい家でやっていて、こっちが家でパジャマ姿で見ていても、なんだか気分が上がらないし、やっぱり現場でのライヴ感が恋しい。
 と思ったら、9月のUKバンドのライヴのチケットを取ったという友だちがいて、9月にライヴが再開するのか? UKのバンドがNYに来られるのか? と訝しげだが、そろそろライヴ活動が戻ってくるか。

 そのライヴストリームだが、このパンデミックのなかで、きちんとマネタイズできている例もある。音楽会場のエルスホエアはルーフトップの季節になり、毎週金曜日7~10時、ルーフトップからのライヴストリームをはじめた。その名もサン・ストリームス(https://www.instagram.com/p/CBTy-YZgjxW/)。
 このイベントでは、その日のアーティストがもっとも関心を持っている組織に集めたお金を寄付する。抗議活動に行かないならここに寄付して、ということである。前回のイベントminecraftでは、$6500を集め、すべてをBlack lives matterに関する国家保釈基金に寄付をした(https://elsewither.club/)。
 会場やレーベルがオーガナイズしてくれると、たくさんのバンドが一気に見られるし、知らないバンドももれなく見られるので、見甲斐がある。バーガーレコーズたちが企画したメモリアルディのイベント(https://www.facebook.com/events/548428185822225/)は50弱バンド、DJが参加で、12時間のライブストリームをやっていた。

 NYのライブストリームのリスティングはここで見られる。https://www.ohmyrockness.com/features/15570-concert-livestreams

 まだ第一段階だが、NYは再開し、地下鉄も通常本数に戻り、普通に戻ってきている。第二、三、四と順調に再開してくれることを願う。

interview with Jessica Care Moore - ele-king

 以下は、デトロイトに住む詩人、ジェシカ・ケア・ムーアのインタヴューである。彼女は黒人女性文学者として多くの著作があり、また数々の文学賞も受賞しているが、そのなかにはNAACP(全米黒人地位向上協会)やDetroit Institute of Artsからの表彰もある。オハイオ大学の米文学教授が2005年に編んだ黒人女性文学のアンソロジー『Anthology of African American Women's Literature』にも、アリス・ウォーカー、トニ・モリソン、ニッキ・ジョヴァンニ、オクタビア・バトラーらの作品に混じって、彼女の詩も掲載されている。1971年生まれの彼女は、当時そのなかでもっとも若い。
 活動家でもある彼女がこの間忙しかったことは言うまでもない。しかし、いま起きていることを理解するためにも現地の黒人の声を聞きたかったし、それが女性ならなおさら良かった。また、ちょうど彼女は7月にリリースを控えているジェフ・ミルズの新しいプロジェクト、ザ・ベネフィシアリーズ(The Beneficiaries)のアルバム『The Crystal City Is Alive』に参加していることもあって繫がりやすい。エディ・フォークスもトラックを提供しているこの作品で、彼女はポエトリー・リーディングをしている。ちなみに彼女は、サイレント・ポエツの1997年の作品『For Nothing』にも1曲参加している。その曲“This Is Not An Instrumental”は受けがよく、4ヒーローとナイトメアズ・オン・ワックスのリミックス・ヴァージョンもある。
 通訳を引き受けてくれた魚住洋子さんはマイアミ、ジェシカはデトロイト、そしてぼくは東京と3都市を結んでの取材は、日本時間の午前10時、現地時間の午後21時にはじまった。彼女はじつに情熱的に、そして貴重な話をしてくれている。米文学、とりあえず黒人文学に興味がある読者は彼女の詩集もチェックしましょう。

私は若い人たちがストリートに出て行動を起こしていることを誇りに思っています。私自身もかつてなんどもそういった行動を起こしてきましたから。

デトロイトでのスピーチの様子をfecbookにアップされている動画で見ましたが、まず、アメリカ全土および日本や欧州でも熱くなっている抗議運動のなか、あなた個人はどんなことをしていたのでしょうか?

ジェシカ:私はアーティストとしてノンストップで活動しています。まずはCovid-19の影響で(最新作の)ツアーはすべてキャンセルになってしまい、方向転換してオーディエンスとオンラインで繋がる方法を模索せざるを得ませんでした。それが最初のパンデミックでした。そしてレイシズムのパンデミック……。
 これはアメリカでは新しいことではない。私は自分のキャリアを通して、レイシズムやセクシズムのテーマは取り上げ続けています。ジョージ・フロイドのような事件はアメリカでは常に起きているんです。今回、Covid-19を避けるために世界中の人が家にいて、あの影像を目の当たりにしたのです。ジョージ・フロイドだけではなくアマード・アーベリーやブリアナ・テイラーの映像を見ると、さらに不安を掻き立てられます。私は若い人たちがストリートに出て行動を起こしていることを誇りに思っています。私自身もかつてなんどもそういった行動を起こしてきましたから。
 私個人はいまそれとは違った行動をとっています。今日は若いエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーのOmari Jazzと有名な詩人Ursula Ruckerを私のインスタグラムのショウに招いて話し合います。自分が何をしているかだけでなく、25歳の若者が何をしているのかを知ることはエキサイティングです。これは彼らのムーヴメントだから。これは彼らの市民権運動であり、彼らにとっての1992年LA暴動なのです。
 ただ今回特別なのはCovid19による危機があり、すでに人道的危機に疲れ果てた人たち──ヘルスシステムの危機と人道的危機は関連していますから──怒りを爆発させたんでしょう。
 アーティストのなかにはツアーがなくなりお金も稼げない、この際家にこもってリラックスしようとおとなしくしている人たちもいます。私は全力を尽くそうとしています。いまアーティストの存在が必要だと感じるからです。今日、ジェフが“The Crystal City Is Alive”のMVをインスタにアップしたのを見て、興奮していろいろな人に転送しました。アートがいま私たちに与えてくれるもの──バランス、少しばかりの喜び、反抗の音楽──これらがいま私たちが必要としているものです。エレクトロニック・ミュージック、ポエトリー、ヴィジュアル・アート、ダンスなどあらゆるフォーマットのアートによって。いまこの状態に反応しているアーティスト、それはこのインタヴューも含めて、私たちをコネクトする役割を担っています。私は人びととコネクトし続けることを選択しました。私は疲れています。でもやらなくてはなりません。ずっと忙しくしています。

こういうときこそ、アーティストとして声を上げることは重要だと考えていますよね?

ジェシカ:私がアーティストとして声を上げているのは確かです。それが効果的だと思っていますし、ファーガソン事件(※2014年のミズーリ州ファーガソンにおいて18歳の黒人青年マイケル・ブラウンが白人警察官によって射殺された事件)が起きたときには、ファーガソンを訪れてラッパーのTalib Kweliとプロテストに参加しました。あのときはしばらくファーガソンに滞在して、自分がどのような役に立てるか模索しました。しかし今回はCovid-19の影響で、母親として息子の安全のため、ストリートに出てプロテストに参加することを控えています。私の母は75歳で、彼女の安全も考えなくてはなりません。普段だったらすぐにストリートに出ていくところですが、Covid-19で多くの知り合いを失いました。マイク・ハカビーのことは知っていると思いますが、私の友人でも親や兄弟を亡くした人もいます。だから今回はちょっと不安なのです。
 白人の友だちからも「いま自分たちにできることは何か」と訊かれます。いまの世代の白人が行動を起こしてくれることに期待しています。レイシズムはアメリカ黒人の問題ではなく、アメリカ白人の問題だからです。黒人は犠牲者ですが、問題を起こしたのは私たちではありません。状況を改善するためには黒人の力だけではどうにもできません。
 私は毎週日曜日に会社の役員など、ある意味コミュニティに精通していない人たちと話し合う機会を設けています。私の最新作(『We Want Our Bodies Back』)はサンドラ・ブランド、交通違反で警察に逮捕されて刑務所の中で自殺をした女性に関するもので、その詩をこういったミーティングで朗読し、メッセージが人びとの心に届くよう務めています。
 また“I Can’t Breathe”(※2014年にジェシカが書いた作品)という詩は今回大きなインパクトを与えています。この詩はエリック・ガーナーが殺されたときに作ったものですが、ジョージ・フロイドの最後の言葉でもあり、今回さまざまな機会で披露しています。この詩は母親の観点から語られていて、この国で黒人と息子を育てる気持ち、どのようにしたら安全に暮らして、彼らの目標を達成することができるのかを語っています。この詩に触れた人たちが気持ちをひとつにして、この国で起きていることを理解することに役立っています。私はこのようにして自分の声を聞いてもらっている。

13歳の息子がなぜビルに火をつけるのかと訊いてきました。どんな意味があるのかと。ビルに火をつけるのは暴力に対する反応だと答えました。彼らが暴力的なのではなく、暴力の犠牲になったのに誰も何もしてくれないことに対する反応だと。


いまや#BlackLivesMatterはアメリカの外側にも広がりつつありますが、この運動に関するあなたの評価を教えてください。

ジェシカ:#BlackLivesMatterは必要です。とはいえ、いまプロテストに参加しているのはBlackLivesMatterだけではなく、多くの白人もいます。BlackTransLivesMatter(黒人トランスジェンダー)、BlackWomanLivesMatterなど、他の団体や影響を受けた人たちが多く参加していることも忘れてはいけません。#BlackLivesMatterデトロイト支部から何か一緒にやらないかと連絡をもらったこともありますし、このムーヴメントは必要なものです。いま、人間性のためにすべての人間が必要です。沈黙は許されません。私の75歳の母はワシントンでトランプ大統領が教会の前で聖書を持った写真を撮るだけのために罪のない若者に向かって催涙ガスを発射したことに涙しました。聖書なんかきっと読んだこともないくせに。母は17歳でカナダから移住し、父と異人種間結婚をして、人種隔離やさまざまな苦労を経験してきました。キング牧師と一緒にマーチしたこともあります。すでに戦ってきたはずなのに2020年のいま、またこうして戦わなくてはならないことは年配の世代にもかなりのトラウマとなっています。
 Defund Police (警察の予算削減)運動がいま広がっていますが、私はこれに賛同します。すでにミネアポリス警察が予算削減を明言したのは革命的でエキサイティングなことです。私が学生だったとき、警察は学校の一部でした。警察が学校に常駐すべきではありません。プリズン・カルチャー(刑務所のような環境)がそこで生まれます。14~15歳の子供が警察に監視されている環境に慣れてしまうのはおかしい。これは黒人その他有色人種が多い学校に限られています。学生がもっと高いレベルの教育を受けられるようにすること、優れた才能ではなく労働力を生み出すことを目的とした現状の教育を改善すること、それが重要です。
 私の息子(※すでに詩人としてデビュー)はクリエイティヴな仕事に就くでしょう。でもそれは社会が望んでいることではありません。(アメリカ社会は黒人に)マクドナルドで働くのでよしとされているのです。教育レベルがあがれば犯罪は減ります。メンタル・ヘルスに予算を費やせば犯罪は減ります。なぜこの国はそういったことに注目しないのでしょうか。アメリカには資源も設備もあるのに、心がないのです。心を取り戻すことが今回のムーブメントの中心で、だから人々は自分の健康の危機も顧みずにプロテストしているのです。

抗議運動で、破壊や略奪の映像が日本でも流れましたが、警察といっしょ手を組んで行進しているような平和的なデモの映像も流れるようになりました。あなた自身は、平和的なデモを志向していることと思いますが、ああしたバイオレンスは、あなたにはどう写っていますか? 

ジェシカ:警察がバイオレントなのです。アメリカは残念ながらバイオレントなところです。13歳の息子がなぜビルに火をつけるのかと訊いてきました。どんな意味があるのかと。ビルに火をつけるのは暴力に対する反応だと答えました。彼らが暴力的なのではなく、暴力の犠牲になったのに誰も何もしてくれないことに対する反応だと。例えば私が火に包まれているのと、ビルが燃えているのを同時に見たら、どちらを助けるかと息子に尋ねました。命がある私と、物質でしかないビルと。ビルに対しての暴力は人間の命とは比べものにならない。トランプ大統領が写真を撮った教会も暴力の犠牲になりました。でも教会の人たちは保険もあるしビルは再築できると言いました。でも亡くなった人の命は戻ってこないんです。
 この国は貧富の差が激しく、バランスが欠けている。恵まれた人たちが「大人しく抑圧されていればいい」というのは簡単です。私自身は犯罪を犯したことはありません。でも警察官が自分の後ろにいると自動的に不安感を覚えます。何も悪いことはしていません。単なる詩人です。でも警察官が私の車を止めれば恐怖を感じます。そのような背景で育っていない人には理解できないでしょう。これは黒人全員が持っている不安感です。
 私が仕事で出張して、ときには海外に数週間いることもあります、息子が家に残っていることが心配で、むしろ自分とともに連れてきたいと思います。これは本能的に感じるもので、トラウマなのです。ジョージ・フロイドに起きたこと以上に暴力的なことはありません。黒人は何世紀にもわたって、その恐怖を背負ってきているのです。私たちは困憊しています。どこかの時点で、どんな手段を取ろうとも、この重荷から逃れたいと思っていて当然でしょう。それまでにいったい何人が殺されなくてはならないのでしょうか。ジョギングの最中に、武器も持っていないのに。なぜ、誰かの息子、娘が死ななくてはならないのか。何の意味もなく。
 私の世代は、いままでにも同じことが起きてきたことを知っています。でもいまはiPhoneがある。ビデオを撮ることができる。警察の改善は大昔に行われなくてはならなかったのです。権力を持ちすぎていて、軍隊のようになっている。デトロイトのウェイン州立大学の警察は軍装備を備えています。 何のために? 大学内をパトロールするのが仕事ではないのか? なぜ軍の装備が必要なのか? これがPolice Defundムーヴメントの骨子です。警察を無くそうというのではありません。地方警察が軍隊化する予算を無くして、学校教育の予算に回す。
 暴力とは何なのかを考えなくてはなりません。ブラック・パンサーはバイオレントではありませんでした。暴力に対する回答でした。人びとは暴力に対する答えを出そうとしているのです。


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あなたが、ここ10年で重要だと思うアートを教えて下さい。

ジェシカ:過去10年! たくさんあるからね。ジェフ(ミルズ)の他には……詩人はとても重要です。たぶんいちばん必要とされているけれど、いちばん儲からない(笑)。この数週間「アーティストに幸あれ」と言い続けています。いま私たちを生かしているのはアーティストの仕事だと思うから。10年間を振り返るのは大変だけど、最近思い起こしているのは……
 まずはジェイムズ・ボールドウィン。いまジェイムズ・ボールドウィンは非常に重要です。とくに若い世代が彼に注目していることは心が安らぎます。
 オードリー・ロード(Audrey Lorde):個人的に振りかえっている。とくに彼女は詩人の沈黙に関して書いているので。
 アリス・ウォーカー:偉大な本を残している。『Take The Air Out Of The Heart』は彼女の最新作で、先祖は自分たちを見守ってくれていて私たちは孤独ではないということを書いています。
 Ursula Rucker:フィラデルフィア出身の詩人で、The Rootsのアルバムに参加している。活動家でもあり、彼女の声はいまとても重要だと思う。
 Mahogany Brown:詩人
 Talib Kweli:ラッパー、彼の音楽はこの10年間つねに革新的。
 Yassine Bey (ex Mos Def):90年代にカッティングエッジだった。 かつて革命的でも消え失せてしまうアーティストが多いが彼はとってもコンスタント。
 Questlove:オンラインで彼がしていることが好き。

 それから、あらゆるDJは大切です。彼らは人びとを動かすことができる。インスタグラムのフィードでのパーティさえも、朝の3時まで踊って友人たちとコネクトできる。
 ほかにも……インディア・アリー(India Arie)、Black Woman Rocks(※ジェシカが組織する黒人女性によるロックのプロジェクト)で16年の間一緒に活動しているミュージシャンたち。Jackie Benson(ギター)、Kimberly Nicole(ヴォーカル)、Imani Uzuri(ヴォーカル)。Stephanie Christi’an (デトロイトのアーティスト)。Yazura……
 いま挙げた人たちは必ずしもメインストリームではありません。しかし、これらの女性の声は他のアーチストにはないメッセージを感じる。どのように歌うかもですが、どのような作品を手がけているかも大切です。偉大なアーティストは多くいますが、偉大なアーティストであり、偉大な人間であることも重要です。

 トム・モレロ(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン):偉大なミュージシャンであると同時に素晴らしい活動家。
 ブーツ・ライリー(Boots Riley/The Coup):映画『Sorry To Bother You(邦題:ホワイト・ボイス)』 の監督でもある。革新的な精神を持つ。

 私は、どんな逆境に立ったとしても革新的なスピリットを持った人が好きなんです。

 Tamar-Kali:アフロ・パンクのアーティスト

 私たちはみんなラディカル。ラジオプレイなんか考えてもいない。エレクトロニック・ミュージックだったらジェフ・ミルズ。反応など気にせずに、音楽を聴き手に届けることだけを考えている。こういうアーティストたちが私をインスパイアする。流れに逆らう人たちです。
 『The Crystal City Is Alive』は共感を買おうと思って作られた作品ではない。息子が「このアルバムは面白いね」と言ってくれました。音楽はいままでに聞いたことがない、面白いものでなくてはならないのです。
 最近の音楽にはあまり感動しません。よく昔の物をききます。マービン・ゲイからグラディス・ナイト。私はデトロイトで育ったんですから。テンプテーションズも聴くし、ダニー・ハザウェイやロベルタ・フラックは私のヘビーローテションです。私はオールド・スクールだからアナログで聴いていますよ。
 この10年は90年代に比べると私にとってはそれほど興奮するものではなかったけれど、私が関わっているBlack Woman Rocksのミュージシャンたちなどが私に活気をくれています。

いま映画の話も出ましたが、『プレシャス』はご覧になってますよね?

ジェシカ:(原作者の)サファイアは知ってますよ。ニューヨークに住んでいた頃の知り合いです。私にとっては詩人が映画化の契約を結んだということで大きな事件でした。詩人たちに希望を与えたと思います。映画は見るのが辛いものでしたけれど。


The Beneficiaries
The Crystal City Is Alive

Axis(※7月にリリース)


(ここら小林が用意した質問に移る)今回、ジェフ・ミルズやエディ・フォークスといっしょに「The Beneficiaries 」プロジェクトをはじめた経緯を教えて下さい。

ジェシカ:Spectacles (デトロイトにあるショップ)オーナーのZanaがジェフと共通の友人で、私はZanaは18歳くらいの頃から知っているのだけれど、彼女がジェフが誰かコラボレーションの相手を探していると。私がジェフのファンであることを彼女は知っていたし、でも私はマイク・バンクスとは親しかったのだけれどジェフとは〈Movementフェスティヴァル〉のバックステージでマイクから紹介されて瞬間会っただけでした。
 私はジェフ=The Wizardを聴いて育っています。エレクトリファイ・モジョとは詩の朗読で一緒だったりして知り合いになったのですが、ジェフとはまだ知り合ってなかったんです。ただ、私はジェフといつか一緒に仕事をしたいと思っていたので、実際に声をかけてもらったら、いろいろと考えてしまいました。まずはスカイプでミーティングをしたのですが、信じられない気持ちでした。ジェフに対して大きなリスペクトを持っていますが、それは私だけではなくて、まわりのミュージシャン、たぶんジェフが知らないような人たちも大きなリスペクトを抱いています。ヒップホップの世界はもちろん、Yassine Bey(モス・デフ)も「ジェフのこと知ってるの?」と興奮してました。
 最初のスカイプはお互いのことをよりよく知るのが目的で、ジェフが私の弟と同じマッケンジー高校に行っていたことや、子供の頃近所に住んでいたこと、人間性をわかり合って、そのあと質問はフューチャリズムや記憶というようなトピックに移っていきました。私はアルバムのために詩を書いたことがなかったし、会話の後インスパイアされていくつかを詩を作りました。
 でも最初のコラボレーションはNASAの企画(訳注:ロンドンのNTSラジオの番組をジェフが手がけNASAの協力をもらっていました)でしたよね。彼のラジオ番組のためにナレーションをして。素晴らしい体験でした。その後、レコーディングのコラボレーションをやろうということになったのです。
 正直、いままでのなかでいちばん面白い印象的なレコーディング体験でした。ほとんどの場合、コラボの相手は私にビートにのって詩を朗読することだけを要求します。それじゃあまり面白くない。私が自分でプロジェクトをやる場合にはミュージシャンと私がひとつのものを一緒に作り上げていく感じにします。ジェフとの共演では彼の耳を信じて、同じ言葉を繰り返したり、囁いたりと彼のディレクションに従いました。そして彼が私の詩を区切って使用したことも良かったと思っています。私はいつもオープンマインドです。
 コラボレーションは会話~エネルギー~理解というような段階を経ていきました 。私は7ページにもわたる詩を制作してジェフに送ったら「とても興味深い」というあっさりとした返事がきて、期待していた反応を違ったので、さらに7ページ違う内容の詩を作って……。でもそうやってジェフが私を後押ししてくれたことを感謝してます。彼は私の詩にインスパイアされて音楽を制作しなくてはならない。最初に送った詩は面白いけれど、音楽制作に至るほどではなかったということでしょう。結果、興味深い以上の内容の詩ができて、本当にエキサイティングなプロジェクトになったと思います。
 アルバムアートワークの色やそこからくるエネルギー、すべての曲に「The Crystal City Is Alive」のメッセージが込められていること。すべてが素晴らしいと思います。
 「The Crystal City」とは私にとってはデトロイト。マジカルな都市。すべての音楽がここから生まれる。ニューヨークではないけれど、デトロイトは特別なもの、大切なものがある。そして疑う余地なくブラックな都市。ソウルにあふれている。市は巨大な負債を抱えて、いま街の人たちはCovid-19で多くを失い、でも「The Crystal City Is Alive」が、「私たちは生きている」というメッセージを伝えて人びとに喜びを与えることができれば、それがいまみんなが求めていることでしょう。
 悲劇と痛みが蔓延するなかで、素晴らしい未来を見ることができなければ私たちは前進できません。13歳の息子に美しい住処を提供したいし、私たちが作った国を逃げ出すという選択肢はないはずです。どこか別の国、アフリカなどに移住しようという人もいます。でもここが私たちのホーム。私のなかには西アフリカとチェロキーインディアンの血が流れています。だから誰よりもここは私の土地だと言えるし、平和に暮らす権利があるはずです。
 このプロジェクトはまさしくいま、このタイミングで人びとが求めているものと言えると思います。私が期待するように人びとを感動させられれば嬉しい。
 エディーとの共演も良かったです。彼の作った曲は素晴らしい。エディーとジェフがそれぞれ違ったものを作り上げたのもいいですね。すべてのテクノ・プロデューサーが「声」に対して積極的なわけではありません。マイク・バンクスとこういう話をしたときも私の言葉の数が多すぎると言われました(笑)。今回ジェフがそのバランスをうまく見つけて、ときには言葉をいくつか、あるいは詩を3行だけ使うというような、同じ言葉を繰り返し使用したりなど絶妙なバランスになっていると思います。

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未来を考えることはいま現在起きていることを見つめることでもある。なぜならすべてはコネクトしているから。

(小林からの質問)本作には宇宙に関係する語がよく出てきます。あなたにとって「universe」とはどのような意味を持っていますか?

ジェシカ:「Future Is Now」ですよね。未来を考えることはいま現在起きていることを見つめることでもある。なぜならすべてはコネクトしているから。
 ユニバースは私にとってはつねに円形だと思っています。今回のアルバム・カヴァーもアートワークが円形にくりぬかれていて、永久を表している。人生はすべてサイクルからできているし、過去を見ることはとても大切で、過去を見ることで前進できるという考えはもともと私はとくに信じていたわけではないのですが、今回のプロジェクトで未来を考えることを余儀なくされました。
 ジェフから「なぜ“いま”のことを詩にしているのか」と訊かれ「“いま”が私を必要としているから」と答えたのですが、それで未来も私を必要としているに違いないと思うようになりました。私の作品は現在の題材にしていることがほとんどですが、私の後から来る人たちが、私がそういう人たちのことも考えて制作していたということ、私の黒いボディが存在していたことは理解してもらいたいと思います。
 自分の住んでいる地区から一歩も出たことがないという人がアメリカにはたくさんいます。私は旅が好きで、一箇所にとどまるということはありません。いまは年老いた母がいるのでデトロイトに戻ってきましたが、ニューヨーク、ジャマイカ、パリ、どこでも住むことができます。私はガーナやアイボリーコースト(コートジボワール)など西アフリカに関して多くの作品を書きました。でも実は一度も訪れたことはありません。 想像のなかではなんども訪れていて、すでに1997年に22歳で最初に出版された本のなかでもこれらアフリカの国に関して書いているのです。
 ユニバースとはそういうことだと思います。ひとつの共同体の中に存在する。でも音楽などは時間や空間を超えて存在することを可能にする。
 ジェフとは“記憶”に関して面白い会話をしました。ある日目覚めて、すべての記憶を失っていてゼロから再出発しなくてはならないのと、逆にすべての記憶を忘れることができないのとどちらがいいかと。私は記憶を保っていたい、自分が何者なのかを子供に伝えたい、自分が経験してきたことがいまの自分を作っているということを忘れずにいたいと思います。父のことも忘れたくないし。人生のなかの大切な人を忘れたくない。私は前世や先祖の存在なども信じています。人は肉体的に死んでも、エネルギーは残ると思っています。これが質問の答えになったかわからないけれど(笑)。

(小林からの質問)“The X” には「We are the future Afropologists finding Sanctuary in the meditation of sound waves」というフレーズが登場します。「afropologist」とは、アフリカ系の人びとの文化を掘り下げる人類学者、ということでしょうか? 

ジェシカ:「afropologist」は言葉の遊びです。「Anthropologist」と「Afrofuturism」を掛け合わせています。アフロフューチャリズムを考えつつ、過去を探すために発掘をする、というような意味です。

最後に、フェミニズムについての意見を訊かせてください。

ジェシカ:私は自分は「Womanist」だと名乗っています。これはアリス・ウォーカーが提唱した言葉です。ウーマニズムに関して語ったベル・フックス(Bell Hooks/活動家)は私のヒーローのひとりです。私はフェミニズムには非常に若い年齢、小学校高学年で本を通して出会っています。フェミニズムは女性とその権利を守る運動です。私は男性が多い家庭、父の前の結婚での兄弟が3人、実の兄弟が2人のなかで彼らに守られて育ちました。いまの世のなかではフェミニズムでは十分ではありません。ジョージ・フロイドはフェミニズムによって守られてはいないから。それが私にとっては問題です。
 ウーマニズムは家族も含めるので、私にはよりしっくりきます。私には兄弟も父も大切です。女性の権利向上のためのマーチは素晴らしいです。でもファーガソンのプロテストに行ったときに犠牲者の母親に出会って、子供を失った母親の悲しみを目の当たりにしたとき、そこにフェミニストの活動家はいませんでした。私にとってはウーマニズムの考えの方がフィットしています。私は家族の観点から語ります。コミュニティ全体が大切です。そこにはもちろん女性が含まれます。
 もちろん女性の声をサポートしていくし、アメリカだけではなく世界では女性が声をあげられない国もたくさんあります。私が南アフリカに行ったとき、私が大きな声で力強く発言しているのを小さな女の子が宇宙人でも見るような目で見ていました。一緒に行ったヒップホップの男性アーティストと同等に私が語り、女性を代表している。とても重要なことですが、フェミニズムという言葉はちょっとトリッキーです。

コミュニティのなかの個人みたいな感覚でしょうか?

ジェシカ:(フェミニズムは)男性を含まないから。グーグルなどで調べることもできると思うけれどウーマニズムはもっとコネクションを大切にします。アリス・ウォーカーはこう言いました。ウーマニズムはフェミニズムの紫色に比べてラベンダー色だと。ウーマニズムはジョージ・フロイドも話題として取り上げるでしょう。私にとって、黒人男性の命は非常に大切なことです。息子の母親として、息子が無事に生き延びていくことが重要です。もちろんフェミニズム賛成、女性賛成です。が、同時にファミリー賛成です。黒人女性として黒人男性とともに生きていくことはとても大切なことです。
 もちろん黒人女性は白人女性に比べて賃金が低いのは事実だし、まだまだ戦っていかなくてはなりません。ただウーマニズムの方が排他的ではないということです。

(6月10日、ZOOMにて取材)

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