ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with John Cale 新作、図書館、ヴェルヴェッツ、そしてポップとアヴァンギャルドの現在 | ジョン・ケイル、インタヴュー
  2. FUMIYA TANAKA & TAKKYU ISHINO ——リキッド20周年で、田中フミヤと石野卓球による「HISTORY OF TECHNO」決定
  3. Iglooghost ──“Z世代のAFX/スクエアプッシャー”、イグルーゴーストが新作を携えて来日
  4. A. G. Cook - Britpop | A. G. クック
  5. 『蛇の道』 -
  6. Natalie Beridze - Of Which One Knows | ナタリー・ベリツェ
  7. Iglooghost - Tidal Memory Exo | イグルーゴースト
  8. Beth Gibbons - Lives Outgrown | ベス・ギボンズ
  9. James Hoff - Shadows Lifted from Invisible Hands | ジェイムス・ホフ
  10. SOUL FIRE meets Chica/Undefined meets こだま和文 ──現在進行形のダブを味わえる濃厚なる一夜
  11. Brian Eno, Holger Czukay & J. Peter Schwalm - Sushi, Roti, Reibekuchen | イーノ、シューカイ&シュヴァルム
  12. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  13. しばてつ・山田光・荒井康太トリオ ──生々しいフリー・ジャズが響きわたるライヴ録音盤
  14. interview with John Cale 「このレコードにどれだけ怒りを込めることができたか。ただ、人に気づかれないようにね」 | ジョン・ケイル、インタヴュー
  15. ドライブアウェイ・ドールズ -
  16. Iglooghost ──「Z世代のAFX/スクエアプッシャー」、イグルーゴーストが新作を携えて来日
  17. interview with Tourist (William Phillips) 音楽はぼくにとって現実逃避の手段 | ツーリストが奏でる夢のようなポップ・エレクトロニカ
  18. Adrian Sherwood presents Dub Sessions 2024 いつまでも見れると思うな、御大ホレス・アンディと偉大なるクリエイション・レベル、エイドリアン・シャーウッドが集結するダブの最強ナイト
  19. R.I.P. Steve Albini 追悼:スティーヴ・アルビニ
  20. Kavain Wayne Space & XT - YESYESPEAKERSYES | RPブー

Home >  Reviews >  Album Reviews > Stine Janvin- Fake Synthetic Music

Stine Janvin

Experimental

Stine Janvin

Fake Synthetic Music

Pan

Bandcamp

三田格   Nov 05,2018 UP

 このところ「もっとも暮らしやすい国」とか「高齢者の住みやすい国」といったアンケートでは必ず1位になるノルウェイからジェニー・ヴァルに続いてキュートな実験音楽を。大所帯のジャズ・バンド、キッチン・オーケストラやフィールド・レコーディング主体のネイティヴ・インストゥルメンタルとして活動してきたスティーン・ジャンヴァン・モットランド(現ベルリン)がソロ3作目にして、ついに〈パン〉にリクルート。メデリン・マーキー『Scent』(12)と同じく、すべて声を加工しただけでつくられたサウンドは(もちろん、そうとは思えないけれど)、女性特有のソプラノを断片化し、ループさせたり、ブリープ化することで、タイトル通り「フェイク・ミュージック」として成立させている。ノルウェイではもはやヴェテランともいえるスパンクのマラ・S・K・ラジェが地鳴りのような吠え声に挑んだり、広い音域を駆使するのとは対照的にソプラノだけにフォーカスし、キラキラと光り輝くイメージを構築していく。ニューヨークのエントリーレイディオの解説によると、黎明期の電子音楽にインスパイアされ、レイヴを脱構築したものだということになるそうだけれど、この場合の「レイヴ」は「怒鳴る」とか「わめく」という元の意味を指しているのだろうか。ということはヒステリックに叫んだ声を「素材」にしたということで、それはそれで合点が行くほど「高い声」しか使われていない。ずっと聴いていると、ちょっと気が遠くなってきたり。

 メレディス・モンクやオノ・ヨーコなど声だけでパフォーマンスしてきた女性は多い(なぜ女性ばっかりなんだろう)。それが声だけでつくられているとはすぐにはわからないほど加工してしまうようになったのはごく最近のことで、ダイアマンダ・ギャラスもシーラ・シャンドラもここまでではなかった。ポップ・ミュージックなどでも盛んにオート・チューンなどが使われ、肉声というものに対する愛着が薄れていたりするのだろうか。スティーン・ジャンヴァンの場合、どれだけ声を変調していても、ライヴなどでは息切れや疲れなどが伝わってくることも多く、身体性というのはどこからでも漏れ出してくるものだななとは思ったりするけれど、1枚のアルバムとしてまとめられた『Fake Synthetic Music』にはそういった破綻はなく、見事なほど現在形の「人工性」がパッケージされている。彼女が「フェイク」と表現する方法論には、実際には肉声も混ぜられており、それらが不可分のコンポジションになっているところも上手いとしか言いようがない。合成音には倍音が含まれることはなく、それが合成音のいいところだったりするけれど、いわばシンセサイザー・ミュージックのように聞こえるにもかかわらず、倍音がどこで出てくるかわからないとういう意味では二重にフェイクなのである。

 そもそも女性の声は社会的に高くなってしまう傾向にあり、必要以上に人工的なのだという考え方もある。スティーン・ジャンヴァンはそれを誇張して変形させることによって女性が置かれている位置を戯画して見せているともいえる。かつてローリー・アンダーソンは自分の声を男性の声に変えてパフォーマンスしていた。日本青年館で観たライヴはいまだにインパクトが薄れていない。ローリー・アンダーソンとスティーン・ジャンヴァンがもしも裏表の価値観で結びついているとしたら、誰か、ふたりの共演を実現させてくれないだろうか。滝沢カレンのヒューマン・ビートボックスを加えて(ウソ)。

三田格