ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第2回
  2. Beyoncé - Cowboy Carter | ビヨンセ
  3. Columns ♯5:いまブルース・スプリングスティーンを聴く
  4. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第1回  | 「エレクトリック・ピュアランドと水谷孝」そして「ダムハウス」について
  5. 壊れかけのテープレコーダーズ - 楽園から遠く離れて | HALF-BROKEN TAPERECORDS
  6. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  7. Brian Eno, Holger Czukay & J. Peter Schwalm ──ブライアン・イーノ、ホルガー・シューカイ、J・ペーター・シュヴァルムによるコラボ音源がCD化
  8. interview with Mount Kimbie ロック・バンドになったマウント・キンビーが踏み出す新たな一歩
  9. Bingo Fury - Bats Feet For A Widow | ビンゴ・フューリー
  10. tofubeats ──ハウスに振り切ったEP「NOBODY」がリリース
  11. 三田 格
  12. Beyoncé - Renaissance
  13. Jlin - Akoma | ジェイリン
  14. HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS - きみはぼくの めの「前」にいるのか すぐ「隣」にいるのか
  15. 『成功したオタク』 -
  16. まだ名前のない、日本のポスト・クラウド・ラップの現在地 -
  17. KRM & KMRU ──ザ・バグことケヴィン・リチャード・マーティンとカマルの共作が登場
  18. Beyoncé - Lemonade
  19. Politics なぜブラック・ライヴズ・マターを批判するのか?
  20. R.I.P. Damo Suzuki 追悼:ダモ鈴木

Home >  Reviews >  Album Reviews > Stine Janvin- Fake Synthetic Music

Stine Janvin

Experimental

Stine Janvin

Fake Synthetic Music

Pan

Bandcamp

三田格   Nov 05,2018 UP

 このところ「もっとも暮らしやすい国」とか「高齢者の住みやすい国」といったアンケートでは必ず1位になるノルウェイからジェニー・ヴァルに続いてキュートな実験音楽を。大所帯のジャズ・バンド、キッチン・オーケストラやフィールド・レコーディング主体のネイティヴ・インストゥルメンタルとして活動してきたスティーン・ジャンヴァン・モットランド(現ベルリン)がソロ3作目にして、ついに〈パン〉にリクルート。メデリン・マーキー『Scent』(12)と同じく、すべて声を加工しただけでつくられたサウンドは(もちろん、そうとは思えないけれど)、女性特有のソプラノを断片化し、ループさせたり、ブリープ化することで、タイトル通り「フェイク・ミュージック」として成立させている。ノルウェイではもはやヴェテランともいえるスパンクのマラ・S・K・ラジェが地鳴りのような吠え声に挑んだり、広い音域を駆使するのとは対照的にソプラノだけにフォーカスし、キラキラと光り輝くイメージを構築していく。ニューヨークのエントリーレイディオの解説によると、黎明期の電子音楽にインスパイアされ、レイヴを脱構築したものだということになるそうだけれど、この場合の「レイヴ」は「怒鳴る」とか「わめく」という元の意味を指しているのだろうか。ということはヒステリックに叫んだ声を「素材」にしたということで、それはそれで合点が行くほど「高い声」しか使われていない。ずっと聴いていると、ちょっと気が遠くなってきたり。

 メレディス・モンクやオノ・ヨーコなど声だけでパフォーマンスしてきた女性は多い(なぜ女性ばっかりなんだろう)。それが声だけでつくられているとはすぐにはわからないほど加工してしまうようになったのはごく最近のことで、ダイアマンダ・ギャラスもシーラ・シャンドラもここまでではなかった。ポップ・ミュージックなどでも盛んにオート・チューンなどが使われ、肉声というものに対する愛着が薄れていたりするのだろうか。スティーン・ジャンヴァンの場合、どれだけ声を変調していても、ライヴなどでは息切れや疲れなどが伝わってくることも多く、身体性というのはどこからでも漏れ出してくるものだななとは思ったりするけれど、1枚のアルバムとしてまとめられた『Fake Synthetic Music』にはそういった破綻はなく、見事なほど現在形の「人工性」がパッケージされている。彼女が「フェイク」と表現する方法論には、実際には肉声も混ぜられており、それらが不可分のコンポジションになっているところも上手いとしか言いようがない。合成音には倍音が含まれることはなく、それが合成音のいいところだったりするけれど、いわばシンセサイザー・ミュージックのように聞こえるにもかかわらず、倍音がどこで出てくるかわからないとういう意味では二重にフェイクなのである。

 そもそも女性の声は社会的に高くなってしまう傾向にあり、必要以上に人工的なのだという考え方もある。スティーン・ジャンヴァンはそれを誇張して変形させることによって女性が置かれている位置を戯画して見せているともいえる。かつてローリー・アンダーソンは自分の声を男性の声に変えてパフォーマンスしていた。日本青年館で観たライヴはいまだにインパクトが薄れていない。ローリー・アンダーソンとスティーン・ジャンヴァンがもしも裏表の価値観で結びついているとしたら、誰か、ふたりの共演を実現させてくれないだろうか。滝沢カレンのヒューマン・ビートボックスを加えて(ウソ)。

三田格