「S」と一致するもの

YHWH Nailgun - ele-king

 普通、通常、異常、一般、ヤハウェ・ネイルガンの2ndアルバムについて考えようとすると頭の中でそんな言葉が出てきてそれが耳の後ろに引っかかる。ヴォーカリストのザック・ボルゾーン、ドラムのサム・ピカード、シンセサイザーを操るジャック・トビアス、ギターのサグイヴ・ローゼンストックからなる4人によるNYのエクスペリメンタル・バンドのアクションは明らかに他のバンドとは異なっているのだ。いったいどれだけのバンドが〈4AD〉のような歴史あるレーベルに移籍した後に「よしそれではまず11分のアルバムをリリースしよう」という考えに至るのだろう? そんな状況に置かれた多くの人間はこれまでの実験性を維持したままある程度の聞きやすさをそこに加えてみようと思うものではないだろうか? たとえば荒々しい強烈なグルーヴを持った彼らのデビュー作『45Pounds』にもっとメロディアスなフックや浮遊感のあるシンセサイザーのフレーズを加えるといった具合に。
 しかしそんな道が選ばれることはなかった。彼らが求めたのは1stアルバムの、たとえば “Pain Fountain” の機関銃の咆哮が作り上げたようなノイズまみれの道を裸足で進むことだったのだ。

 確かに2026年のいま、短い音楽というのはある種のトレンドになっているのかもしれない。SNS的な目を引く派手な装飾を施された音楽は言うに及ばず、そこから離れた場所にあるレコード・ショップでヤハウェ・ネイルガンの隣に並べられていてもおかしくないグレート・エリア(インガ・コープランドのレーベル〈Relaxin Records〉に所属しているアーティストだ)の去年のアルバムは18分だったし、アルバムを出すごとに収録時間が短くなっていったブルックリンの実験的デュオ、ウォーター・フロム・ユア・アイズは最新作でついに30分を割り20分台に突入した。それは変化した時代が求めるものであり、アーティスト側が感じとるアルバムというフォーマットの中にある美しさのひとつの答えなのかもしれない。

しかしそんな状況においてもヤハウェ・ネイルガンのこのアルバムはいささか異なっている。イメージの余白を重ね短い曲の中に奥行きを生み出していたグレート・エリアのアルバムや音色のテクスチャーの断片をつなぎあわせて世界を作り上げていたウォーター・フロム・ユア・アイズのそれはある意味で外部接続の音楽であり、そこで鳴っている音以上の情報が重ねられ聞き手の中で混ぜられていた。つまりは断片をアクセスポイントにして頭の中の世界を広げる音楽だった。それに対してこのヤハウェ・ネイルガンの2ndアルバムの音楽はそうした類いのものではなく、いまこの瞬間に目の前で鳴り響いている音楽だという強烈な印象を与えてくるのだ。どこにも辿り着くことのない閉じられた興奮、あるいはそれはこの音楽がテクスチャー(頭の中の記憶)ではなくグルーヴ(身体的な衝動)によって繋がれているものだからなのかもしれない。

 それは意図を持って作られた録音物というよりもライヴに近い。ドラムやヴォーカル、ギター、シンセの音すら空間を叩く打楽器として機能する。1stアルバムのリヴァーブがかったヴォーカルから膜が剥がされザック・ボルゾーンのうめきはより生々しさを持って近くで響く。再生ボタンを押し “Ghost of Love” がフェードインしてくると、すでに始まっているライヴに遅れて加わったかのような感覚におちいる。地下への階段を降り冷たい金属の扉を開けると刺激的な音のうねりが目の前に現れる。曲のどの段階かはわからないがそれは1分35秒で終わり、次の曲が演奏され始める。ヤハウェ・ネイルガンのこの2ndアルバムはある種の身体性があるように感じられる。パッケージングされたアルバムという仮想空間の中で音の塊が飛び交い、グルーヴがそれを次の時間へと押し流す。全ての曲は1分かそれに満たない秒数に終わるが高速で駆け抜けるようなものではなく、不思議と全体を通して聞いて物足りなさも感じない(ただ気がついたら終わりを迎えているだけだ)。スローに落とされた1分13秒の “Innocent Sigh” のような曲では観客を縦揺れの思索の旅に向かわせ (「それはドラムなのかもしれない/私がそれを叩くのを信じて」というヴォーカルが旅路へと誘う)このアルバムを決して一本調子にはさせない。

 あまりに短く突然終わる、それらはしかし断片ではなく曲なのだ。ライヴで演奏されるようなはっきりとした区切りのある曲の集まりとして通常の意味においてのアルバム、だがそれはとてつもなく短い。なぜこんなにも短い時間で終わるのか? そう、ここにないのは反復なのだ。フレーズが繰り返されることはあっても展開として戻ってくることはない、それがこのアルバムを異質なものにしている。彼らは反復させないことで楽曲から物語性を奪い取っている。最初に提示された場所に帰ってくることを期待するリフレインやループ、あるいは伏線という慣れ親しんだ構造から離れたこの音楽はだから異様に感じられるのだろう。反復とは乱雑な意味を持たない現実を整理して理解しやすいものにするという手法なのだ。記憶を呼び覚ますこともなく前の展開を受けもしない、ただ現在だけが存在するという感覚。この一方向へのタイムラインは戻ってくることのない時間の不可逆性を意識させる(我々は現実が前触れなく突然終わるものだと知ってもいる)。物語を消し去ったヤハウェ・ネイルガンのこの音楽は生々しい身体感覚をともなった、繰り返されることのない現実として目の前に現れる。それはミームや定型文、最適化された形式がはびこる刺激が消えた日常を壊す衝撃としての意味を持つ。

 だがポップ・ミュージックとは物語ではなかったのか? 現実を反映した夢のような仕組みの? ヤハウェ・ネイルガンはインディ・ミュージックのフィールドの中で我々に問いを投げかける。「普通」と認識されるアルバムの時間は何分なのか? リアリティのあるフィクションと混沌としたドキュメンタリーのどちらがより真に迫っていると感じられるのか? 反復のない音楽だが、この11分間を何度も繰り返す我々の行動に意味が生まれ、そこに物語が発生しているのではないか? 等々。この11分間という時間は嗜好するには短すぎるが、しかし忘れえない強烈な刺激を与えるのには十分な時間だ。頭の中にある既存の認識を揺るがす「異様」、繰り返しではないこれは明らかに異なった刺激なのだ。


Introduction to P-VINE CLASSICS 50 - ele-king

2026年6月の2枚

ISSUGI
366247 (Deluxe Edition)

Pヴァイン / Dogear

Hip Hop

https://anywherestore.p-vine.jp/products/plp-8351

2022年にリリースされたISSUGIの9作目『366247』はアナログ盤が早々に完売。入手困難な状態が続いていたが、このたび配信のみで発表されていた “366247 Remix ft JJJ” を加えて再リリース! この機を逃すなかれ。

餓鬼レンジャー
リップ・サービス

Pヴァイン

Hip Hop

https://anywherestore.p-vine.jp/products/plp-8344

YOSHI、ポチョムキンを中心に熊本で結成されたヒップホップ・グループ、餓鬼レンジャー、彼らの1998年のデビュー作がなんと初のアナログ化。12インチで出ていた “リップ・サービス・モンスター” や “ジキル&ハイド” などを収録。

2026年5月の1枚

PRIMAL
Proletariat

MUJO / Pヴァイン

Hip Hop

https://anywherestore.p-vine.jp/products/plp-8332-3

2013年のセカンド・アルバム『Proletariat』の待望の初アナログ化。帯付き2枚組仕様/完全限定プレス。MSCの面々はもちろん、メシアTHEフライ、Satellite、RUMI、PONYらが参加、プロデューサーとしてMAKI THE MAGIC、The Anticipation Illicit Tsuboi、OMSB、DJ HIROnyc、DJ TAIKI、DJ BAKU、KOHAKUらが名を連ねる。

2026年4月の3枚

二階堂和美
にじみ

Pヴァイン

J-Pop

https://anywherestore.p-vine.jp/products/plp-8310-1

スタジオジブリ映画『かぐや姫の物語』主題歌 “いのちの記憶” を担当するきっかけとなったアルバムで、二階堂和美の代表作である『にじみ』(2011年)のLP盤が復活。最新作『潮汐』が出たばかりのこのタイミングだからこそ合わせて聴き直しておきたい。

在日ファンク
爆弾こわい

Pヴァイン

FunkSoul

https://anywherestore.p-vine.jp/products/plp-8316-7

SAKEROCKの元メンバー、浜野謙太を中心に結成された新時代のファンク・バンドによるセカンド・アルバム(2011年)が初のアナログ化。表題曲を筆頭に、“むくみ” や “城” など、ライヴで定番の曲の数々を収録した1枚。

在日ファンク
はじめての在日ファンク・アワー LIVE in SHIBUYA

Pヴァイン

FunkSoul

https://anywherestore.p-vine.jp/products/plp-8318-9

2013年1月、バンド史上最大の規模となった東京SHIBUYA-AXでのショウ「在日ファンク・アワー2013」を余すところなく収録したライヴ・アルバム、こちらも初のアナログ化。“京都” はライヴでおなじみの「京都アンドレスポンス」お参りヴァージョンで収録など、ライヴ盤だからこそ味わえる熱狂をぜひ。

2026年3月の3枚

Penny Goodwin
Portrait Of A Gemini

Pヴァイン

JazzSoul

https://anywherestore.p-vine.jp/products/plp-8313cb

ミルウォーキーのジャズ・シンガー、ペニー・グッドウィンの人気作。1973年から1974年にかけ録音、プライヴェート・レーベルからのリリースだったため2,000枚しかプレスされなかったという幻の1枚。ギル・スコット・ヘロン “Lady Day & John Coltrane” やマーヴィン・ゲイ “What’s Going On” のカヴァーは必聴。

Naked Artz
Penetration

Pヴァイン

Hip Hop

https://anywherestore.p-vine.jp/products/plp-8307

90年代半ば、『悪名』『続悪名』『Hey! Young World』といったコンピレーションへの参加やシングル/EPのリリースなどにより注目を集めたグループのデビュー・アルバム。メンバーはMili、K-ON、DJ TONK、DJ SAS。心地いいサンプリング・サウンドとMC陣による軽妙な掛け合いがみごとマッチ。RHYMESTERやRAPPAGARIYAなどゲストにも注目だ。

NRQ
Retronym

Pヴァイン

JazzAlternativeFolk

https://anywherestore.p-vine.jp/products/plp-8309

「ニュー・レジデンシャル・クォーターズ」とは新興住宅地のこと。吉田悠樹(二胡)、牧野琢磨(ギター)、服部将典(コントラバス)、中尾勘二(管楽器、ドラム)からバンドが2018年に発表した4作目。ブルーズ、カントリーからジャズ、ラテンまで文字どおりさまざまな音楽を吸収・消化、唯一無二の音楽を響かせる。パンデミック期に名をあげた “在宅ワルツ” も収録。

2026年2月の1枚

Positive Force
Positive Force feat. Denise Vallin

Pヴァイン

SoulAOR

https://anywherestore.p-vine.jp/products/plp-6955cw

ギタリストのスティーヴ・ラッセルを中心に結成された西海岸のバンド、ポジティヴ・フォース。彼らが1983年に残した自主制作盤にして唯一のアルバム、そのクオリティの高さからソウル/AORコレクターたちを魅了しつづけてきた入手困難な1枚が、カラー・ヴァイナルで蘇った。まずは冒頭 “You Told Me You Loved Me” を聴いてみて。

2026年1月の2枚

MS CRU
帝都崩壊

Pヴァイン

Hip Hop

https://p-vine.lnk.to/qAsYHEBB

MSC
MATADOR

Pヴァイン

Hip Hop

https://p-vine.lnk.to/XoBDhVKf

新宿を拠点に活動していたMSCは、KAN(漢 a.k.a. GAMI)、TA-BOO(TABOO1)、PRIMAL、O2、GO a.k.a. G-PRINCEから成るグループ。2000年から活動をはじめ、コンピ『homebrewer's vol.1』への参加などを経て徐々に注目を集めていき、2002年にMS CRU名義でファーストEP「帝都崩壊」を発表。勢いそのままに翌年、満を持してのファースト・アルバム『MATADOR』(2003)が放たれる。彼らのダークなサウンドと生々しいリリックは、「構造改革」に沸く当時の日本の裏、ストリートというもうひとつの風景を浮かび上がらせていた。

2025年12月の1枚

キング・ギドラ
空からの力:30周年記念エディション

Pヴァイン

Hip Hop

https://p-vine.lnk.to/ii7WKV

「P-VINE CLASSICS 50」第1弾として12月にリリースされたのが、2025年にリリース30周年を迎えたキング・ギドラ『空からの力』の特別エディションだ。Kダブシャイン、Zeebra、DJ OASISからなるトリオのこのデビュー・アルバムは、日本語の押韻(ライミング)の可能性を大きく広げた1枚。重量盤LPとカセットテープの2フォーマットがすでに発売中、配信もされているので、チェックしておきたい。

CAN - ele-king

 これまで6作がリリースされてきたカンのライヴ音源シリーズ。まだ貴重なブツが眠っていたようです。第7作、『ライヴ・イン・アルル 1975』が9月25日に発売。1975年の8月、フランスはアルルでレコーディングされた音源で、イルミン・シュミット、ヤキ・リーベツァイト、ミヒャエル・カローリ、ホルガー・シューカイの4人が揃っています。ここまで来たらもうコンプリートするしかないでしょう。

CAN、ライヴ・シリーズ第7弾『ライヴ・イン・アルル 1975』を9月25日発売。
キャリア最高峰のパフォーマンス。1975年、南仏の夏の夜、長年語り継がれてきた伝説のライヴが遂に公式リリース!
そのライヴからの第一弾「ARLES 75 Drei」が早くも配信開始!

メンバー自身も認めるキャリア最高峰のパフォーマンスが南仏の夏の夜の奇跡として繰り広げられた

前作から約2年ぶり、CANの公式ライヴ・アルバム・シリーズの最新作『ライヴ・イン・アルル 1975』のリリースが発表された 。来たる9月25日に世界同時発売される本作は、ファンによって当時録音されていたライヴ音源をベースにしており 、バンド創設メンバーであるイルミン・シュミットが今も愛おしく記憶しているパフォーマンスを記録したものとなる 。

1975年8月の蒸し暑い夏の夜、フランス・アルルにあるローマの円形劇場「テアトル・アンティーク(Théâtre Antique d'Arles)」でレコーディングされたこの公演について、シュミットは次のように回想している 。

「非常に美しい空気に包まれていたのを覚えているよ。南仏の夏の夜で、誰もが心地よく陶酔していて、その場の空気感は本当に特別だったんだ」

この素晴らしいレコーディングには、その夜のどこか霞がかったような、サイケデリックな浮遊感のある空気感がそのまま息づいているのだ 。

本作『ライヴ・イン・アルル 1975』は、イルミン・シュミット、ヤキ・リーベツァイト、ミヒャエル・カローリ、ホルガー・シューカイという、バンドの核となる4人のメンバーによるライヴ・パフォーマンスを収録 。ニコ(Nico)やケヴィン・エアーズ(Kevin Ayres)、そしてアッシュ・ラ・テンペル(Ash Ra Tempel)が競演したこの伝説的なコンサートの模様は 、音楽ジャーナリスト/作家のパスカル・ビュシー(Pascal Bussy)を含む2人のファンによるライナーノーツで回想として克明に綴られており 、当時のフランスの音楽雑誌の記事の翻訳もテキスト掲載される予定である 。

当ライヴ・シリーズは、レーベルの保管庫やファンの手元から発掘された貴重な音源を基に 、創設メンバーのイルミン・シュミットと長年のプロデューサー/エンジニアであるルネ・ティナーが監修し、貴重なアーカイブ音源を現代の技術と繊細な作業により最高のクオリティで見事に復元している。

■この発表に併せて先行リリースされた楽曲音源
「Arles 75 Drei」
Apple Music
Spotify
Youtube(ダイジェスト)

■Pre-Order
Apple Musicリンク : LIVE IN ARLES 1975
Amazonリンク:LIVE IN ARLES 1975 CD

CAN は1968年にケルンのアンダーグラウンド・シーンに初めて登場し、初期の素材はほとんど残されていないかわりに、ファン・ベースが拡大した1972年以降は、ヨーロッパ(特にドイツ、フランス、UK)で精力的にツアーを行い、伝説が広がるにつれ、多くのブートレッガーが集まってきたのだ。『CAN:ライヴ・シリーズ』は、それらの音源の中から最高のものを厳選し、イルミン・シュミットとルネ・ティナ―による監修で、21世紀の技術を駆使して、重要な歴史的記録を最高の品質でお届けするプロジェクトである。

本ライヴ・シリーズは、英誌Uncutのリイシュー・オブ・ザ・イヤーで1位、MOJOで2位を獲得したライヴ盤『ライヴ・イン・シュトゥットガルト 1975』(LIVE IN STUTTGART 1975)や、『ライヴ・イン・ブライトン 1975』(LIVE IN BRIGHTON 1975)、『ライヴ・イン・クックスハーフェン1976』(LIVE IN CUXHAVEN 1976)、そして2024年には、2月にリリースされて今も高い評価を得ているダモ・鈴木がヴォーカル参加の『ライヴ・イン・パリ1973』(LIVE IN PARIS 1973)、同年5月リリースの『ライヴ・イン・アストン 1977』(LIVE IN ASTON 1977)や11月リリースの『ライヴ・イン・キール 1977』(LIVE IN KEELE 1977)まで、計6作がこれまでに発売されている。

60年代後半に結成され、10年余りで解散したCANだが、催眠的なグルーヴとアヴァンギャルドな楽器の質感を前例のない大胆さで融合させたそのスタイルは、彼らを史上最も重要で革新的なバンドの一つへと押し上げた 。73年から77年にかけてヨーロッパ各地で録音されたこのライヴ・コレクションは、スタジオ盤とはまったく異なる彼らの側面を浮き彫りにしている。
このシリーズを通じて、馴染みのあるテーマやリフ、モチーフがジャム演奏のあちこちから飛び出し、波及していくのを耳にするかもしれない 。しかしそれらは、渦巻く群衆の中で知った顔を一瞬見かけるような、刹那的なフラッシュバックにすぎないことも多い。また別の箇所では、公式のスタジオアルバムの系譜(カタログ)には一切残されなかった完全未発表の音楽を聴くことができる。これらのレコーディングにおいて、CANはスタジオ作品よりもさらに極端な領域にまで踏み込んおり 、メロウでアンビエントな浮遊感のあるロックから、彼らが「ゴジラ」と呼んでいた、白色矮星が崩壊するかのような強烈な音響メルトダウンの瞬間まで、その振り幅は絶大である 。そして、彼らが分単位でリズムを変化させ、追いかけていくその瞬間でさえ、メンバー間で共有されていた並外れた音楽的テレパシーをはっきりと聴き取ることができるのだ。

オリジナル・アルバム概要

■商品概要
アーティスト:CAN (CAN)
タイトル:『ライヴ・イン・アルル 1975 (LIVE IN ARLES 1975)』

発売日:2026年9月25日(金) 世界同時発売
品番:TRCP-313/ JAN: 4571260595637
定価:2,500円(税抜)
紙ジャケット仕様
オリジナル・ライナーノーツ及びその日本語訳付
日本語解説付属予定

Tracklist
1 Arles 75 Eins
2 Arles 75 Zwei
3 Arles 75 Drei
4 Arles 75 Vier
5 Arles 75 Fünf
6 Arles 75 Sechs

■プロフィール
CANはドイツのケルンで結成、1969年にデビュー・アルバムを発売。20世紀のコンテンポラリーな音楽現象を全部一緒にしたらどうなるのか。現代音楽家の巨匠シュトックハウゼンの元で学んだイルミン・シュミットとホルガー・シューカイ、そしてジャズ・ドラマーのヤキ・リーベツァイト、ロック・ギタリストのミヒャエル・カローリの4人が中心となって創り出された革新的な作品の数々は、その後に起こったパンク、オルタナティヴ、エレクトロニックといったほぼ全ての音楽ムーヴメントに今なお大きな影響を与え続けている。ダモ鈴木は、ヴォーカリストとしてバンドの黄金期に大いに貢献した。2020年に全カタログの再発を行い大きな反響を呼んだ。2021年5月、ライヴ盤シリーズ第一弾『ライヴ・イン・シュトゥットガルト 1975』を発売。同年12月、シリーズ第二弾『ライヴ・イン・ブライトン 1975』を発売。2022年10月、シリーズ第三弾『ライヴ・イン・クックスハーフェン 1976』を発売。2024年2月、ダモ鈴木 逝去。同月、ダモ鈴木が在籍していた黄金期のライヴ盤『ライヴ・イン・パリ 1973』を、続いて『ライヴ・イン・アストン 1977』を5月、『ライヴ・イン・キール 1977』を11月に発売。そしてCANファンが待ちに待った伝説のライヴ、『ライヴ・イン・アルル 1975』を2026年9月に満を持して公式リリース。

www.mute.com
http://www.spoonrecords.com/
http://www.irminschmidt.com/
http://www.gormenghastopera.com

Vol.8:水無月 • ̟ ⊹. ˖ BIG LOVE___♥ - ele-king

 みなさまhello! hello! hey! hey!
 heykazmaでございますっっ☆.°
 みんないかがお過ごしでしょうか〜?
 最近は東京〜長野〜仙台でDJをしたり、友だちと会ってめっちゃ元気をもらいました。かけがえのない時間!

 よく当たる占いサイトを教えてもらって、診断結果がおもしろすぎてずっと爆笑してたり、プリクラ撮ったり、クラブに遊びに行ったり、ファミレスでひたすら話したり。
 そんなheyでございますが、6/26に開催した heykazma 1st EP "15" Release Party にご来場いただいた皆様、本当にありがとうございました☆.。.:*・


Photo by Sinpu Tokyo

 台風前日の大雨にもかかわらず、たくさんの方に足を運んでくださって本当にうれしかったです。
 北村蕗とのツーマンも、仙台・Förstaで開催した yuu.ten vol.1 以来。
 このふたりでいろんな場所を回りたいし、これからも楽しく活動していきたいなあと改めて思いました。
 大親友・北村蕗さん、まぢで BIG LOVE_____❤︎


Photo by Sinpu Tokyo

 そしてわたしは80分DJ。
 Noise〜Techno〜Jukeを行ったり来たりしながら、思いっきりかまさせていただきました
 この連載だけ特別にセットリストも載せます✫
 気になった曲があればぜひ聴いてみてね⋆⭒˚.⋆
________________________________________
heykazma 1st EP "15" Release Party at SPREAD Setlist
heykazma - Acid Noise
John Wiese - GGA (Bonus Track
Kayu Nakada + Water a.k.a Mariwo - Shine-NO-KOTO
Foodman - KOUGEKI ROBO
heykazma - Pre Pariiiiiiiiiiiiiiin
heykazma - Pariiiiiiiiiiiiiiin
Toxe - Defence
Worg - Lupercus (Original Mix)
Das SPEZIAL - Romantic Schizophremic
SOPHIE - Push Emission (Whore Moans)
Pangaea - Hex
Casement - Sophie Riddim VIP
Tentenko - Slim Slippers
Piezo - Ottovolante
Syz - Essence (Keplrr's Pulse Mix)
Sleep D - Mountain Ash
AN-i - Rubble
DAST - Parentesi
Yetsuby - Chromatic Dormammu
Ayesha - Mother Tongue
Angel Cat x CRRDR - NGL QT
moemiki - Jet Set feat. KΣITO
TRAXMAN - SLASH TIME
Lotic - Bulletproof
heykazma - Cat Power
heykazma - 15
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Photo by Sinpu Tokyo

 最後に15をフル歌唱しちゃいました。フロアに行ったり来たりで自由に暴れまくり♫

 そう、「15」のMV(Full ver.)がついに公開されました⋆⭒˚。⋆

 監督・編集はALi(anttkc)ちゃん、撮影は柴野太郎くん。
 DJ仲間でもあるふたりと一緒に映像作品を残せたことが本当にうれしいです⁺˚⋆。°☆

 一緒に踊ってくれた仲間のみんなにも心から感謝!
 たくさん観てもらえたらうれしい!
 高評価・コメント・シェアもぜひよろしくお願いします✦. ⊹ ˚ .

 そう、よく「インスピレーションはどこから生まれるんですか?」って聞かれることがあるのだけど、結局は “日常” としか言いようがないんですよね。
 友だちとの何気ない会話だったり、遊びに行った先で見かけた景色だったり、誰かが何気なく言った一言だったり。
 そういうものが少しずつ積み重なって、曲になったり、DJになったり、文章になったりしている。
 だからわたしの作品って、自分の感覚としては “日記” にいちばん近いのかもしれません。
 とはいえ最近はプライベートが充実しすぎて、逆にちょっと疲れちゃった☆.。.:*・
 人生って楽しいことが続いても、それはそれでエネルギーを使うんだなっておもいました。
 無理に前を向こうとすると、余計しんどくなることもあるから。
 焦らず、ゆる〜く進んでいこうと思いますっっ • ̟ ⊹. ˖


Photo by 飯田エリカ

 それではまたどこかでお会いしましょう! またねっ!

Moonga K. - ele-king

 これは大物になりそうな予感がひしひし。ソウル、ファンク、ディスコなど豊饒たるアメリカのブラック・ミュージックの遺産を継承し、さまよえる現代に新たなグルーヴを注入する期待の新星、その名もムーンガ・K。ザンビア生まれ、南アフリカ育ちのソングライター/プロデューサーだ。8月7日にリリースされるアルバム『ソウルウェイヴ 2153』(LPは9月23日発売)から本日、先行シングルとして “BIG EGO” の配信がスタート。なにはともあれまずは聴いてみて。

プリンス、サン・ラー、ディアンジェロ、ファンカデリック… 深淵なるブラック・ミュージックの歴史に名を連ねるであろう新たなる鬼才。累計1,000万ストリーミングを超え、Rolling Stone やAFROPUNKなど様々なメディアが注目する若き気鋭ムーンガ・K.。ファンク、ソウル、レゲエ、エレクトロ、ザムロック…様々なジャンルを血肉に新しいグルーヴを展開する最新アルバム『SOULWAVE 2153』をリリース!

ファンク、サイケデリア、ソウル、ポップ、レゲエ、ザムロック、エレクトロニカ、ディスコ、クラシックなど、さまざまな音楽ジャンルを取り入れた『SOULWAVE 2153』は、2153年から70年代へ向けて送信されたタイムトラベル型のファンク・ブロードキャストが、現代のアフリカで受信されるというストーリーを描いている。楽曲には文化、アイデンティティ、そして抵抗の記憶が暗号として込められており、アルバムが進行するにつれ、そのグルーヴは人々の中に眠る力を呼び覚まし、時間は徐々に歪み、過去と未来がリズムを通じて融合していく。最終的にファンクは「時間を超える手段」であり「生存の手段」として描かれる。

本プロジェクトの理念は、「もし未来が“喜び(joy)”を通して私たちを記憶していたとしたら?」という問いかけにある。ムーンガによる生々しくも繊細なソングライティングに加え、ライアン・マーシャルとマシュー・ガートンとの共同プロデュースによって、現代において贅沢とされがちな“喜び”をリスナーにもたらすことを目的としている。

スティーヴィー・ワンダー、ジャネール・モネイ、サン・ラー、ファンカデリックといったアーティストからの影響を背景に、アフロフューチャリズム的なビジュアルとともに展開される本作は、ムーンガの進化し続けるカタログの中でも特に未来志向の作品となっている。
累計1,000万ストリーミングを超え、AFROPUNK、Rolling Stone、Wonderland、GQ、Nataalなどから高い評価を受ける29歳のアーティストは、この作品を世界中でツアーし、ファンクを通じて希望のメッセージを届けることを目指している。今の時代にこそ必要な、ポジティヴなエネルギーに満ち溢れたグルーヴ・ミュージックだ。

また、6/26(金)には先行シングルとして「BIG EGO」が配信されることが決定。自信、自尊心、そして自己のエンパワーメントを力強く称賛する楽曲。
遊び心のある自慢やスケールの大きな自己表現の裏側には、困難を乗り越え、苦しみではなく癒やしを選び、自らの力を完全に受け入れた一人の人物の物語がある。
「BIG EGO」 は、特に若くブラックであり、かつ自分らしさを隠さず堂々と生きるという視点を通じて、自信そのものを一種のレジスタンス(抵抗)として肯定している。

【リリース詳細】
アーティスト:ムーンガ・K. / MOONGA K.
タイトル:ソウルウェイヴ 2153 / SOULWAVE 2153

CD
発売日:2026/08/07
品番:PCD-25547
定価:¥2,750(税抜¥2,500)
LP
発売日:2026/09/23
品番:PLP-8400
定価:¥4,950(税抜¥4,500)
レーベル:P-VINE
https://p-vine.lnk.to/2tyfJD

■Track List
1. TRANSMISSION 001
2. BIG EGO
3. FLY
4. SOMETHING NEW
5. STRUT
6. TIME TRAVELLIN' LOVER
7. SATISFIED
8. TRANSMISSION 002
9. HERE IT GOES
10.TO THE SUN
11.STAR SURFIN'
12.TRANSMISSION 003
13.LET'S GET LOUD!
14.BIRTHRIGHT
15.HOPE!
LP SIDE A:#1~#7 SIDE B:#8~#15

MOONGA K. /ムーンガ・K.
音楽活動のみならずジャンルの枠を超え、ソングライター/ヴォーカリスト/プロデューサー/アレンジャー/クリエイティブ・ディレクター/そしてアクティビストとしても活動。その作品は魂の内省的な脆さと文化的な抵抗精神を融合させている。シルキーなファルセットへと溶け込むような歌声から、生々しい感情を迸らせる力強い表現まで、その声はR&B、ソウル、ファンク、ポップ、カントリー、ヒップホップ、ジャズ、ロック、フォーク、レゲエ、ブルース、エレクトロニカを横断し、彼自身のアイデンティティのように流動的なサウンドスケープを描き出している。

1stEP『FREE』は、個人的な変容の中を進む内省的で生々しい声としてリスナーに提示された。しかし真の転機となったのはデビューアルバム『WILD SOLACE』であり、これはアフリカ音楽シーンにおける大胆な新しい存在感の確立となった。脆さと希望に満ちた瞑想的なジャンル横断作品として高い評価を受け、その後も『AN ODE TO GROWTH』『CANDID(South African Music Awardsノミネート作品)』『IV』『GARDEN』『OUTLAW』と作品を続々発表。それぞれが、クィアで黒人、そして第三文化的背景を持つアーティストとしての実体験に根ざし、愛、トラウマ、喪失、癒し、アイデンティティ、セクシュアリティ、メンタルヘルス、社会的正義といったテーマを繊細さと確信をもって記録する“変容の記録”となっている。

メジャーな音楽が均質性を求めがちな現代において、ムーンガ・K.は独自の道を切り拓く稀有な存在であり、妥協なく、強い意志と明確なビジョンを持って前進し続けている。

#16:ワールドカップ2026 - ele-king

 ワールドカップがはじまると、ふだん聴いていない音楽を聴きたくなるのは、やはり、フットボールというスポーツがつねに内包するラディカルな熱狂とそのロマンティシズム、芸の持つ魔力、そしてその祝祭の余韻におけるおそるべき強度ゆえだろう。リベラル層のなかには、フットボールをはじめとするスポーツ界は、反動的で、反革命的で、人種差別主義者や国家主義者が跋扈し、ことに近年は資本の腐敗にまみれ、スタジアム文化は商品化されまくり、往々にして権力者に利用されていると軽視している人たちがいる。それはまあ、ある部分ではまったくの事実だ。でも、ちょっと待ってくれ。これはほかのエンターテインメント産業(音楽やアートの世界)にだってじゅうぶんに遍在している傾向じゃないのか。

 開き直るわけではないけれど、フットボールがいまでも、試合結果、スタッツ、メディアの報道以上のものにもなりうることは、ワールドカップ期間中になると、ヨーロッパの人気クラブのユニフォームを着た子供たちが無心になってボールを追いかけている光景を見ているだけでも感じることができる。そうじゃなくても、つい、ユニフォームを着たくなる。そこには何かある。久しぶりに自分もボールを蹴りたくなる。ポジティヴな要素もたくさんあるのだ。
 フランツ・ファノンは、精神を病んだ患者のためにフットボール場を建設した。アントニオ・ネグリは自らウルトラス[*試合中にもっとも熱狂的に応援する集団]の一員となって、この集団的感情の高まりのなかに夢を見た。ケン・ローチ監督の傑作のひとつ『エリックを探して』では、マンチェスター・ユナイテッドの労働者階級のサポーターが、夢のなかでチームの英雄エリック・カントナと出会い、会話する。フランス人でありながらマンUの王様となったカントナという選手は、90年代なかばのある試合中、スタンドで差別用語を叫んでいた観客(のちにネオナチ党員と判明)に突撃したことがある。華麗なプレイで(ある意味もっとも地元愛が強い)ファンを熱狂させた彼だが、いまもパレスチナ支援を公言する、反ファシスズム/反人種差別者としても知られているのだ。
 まあ、長いフットボール史においては、この手のエピソード事欠かさない。でもこれって、たとえば、音楽史のなかにジョン・レノンやボブ・マーリーがいたことと同じ……かもしれないが、同じではない。なにせカントナの場合は、その極右に対して、試合中、あの見事な跳躍力を活かし、ほんとうにカンフーキックをくらわしてしまったのだから(そしてもちろん、警官に連れ出されていくのだった……)。
 スタジアムとは、すさまじい矛盾があちこちで大爆発する場だ。連帯と分断、熱狂と負傷、排外と抱擁が絶えず繰り返される。愛と憎しみと権威主義が激突する。支配的な文化があり、支配されない文化がある。スペイン代表はまだぜんぜん本調子ではない。それでも、彼らのフットボールは、イングランドやドイツのサッカーとは一線を画した、むしろこの時世においてはオルタナティヴとしての輝きを保持している。

 もちろん、前回王者アルゼンチン、名門復活を狙うブラジルは圧倒的な個の集団であり、チーム力として抜きんでている。とくに、汗をしっかりかく選手が出てきたアルゼンチンは──不安定感の象徴のようだった過去と違って──安定感があるように思える。マラドーナ、カニーヒャ、バティという超越的な個が活躍した黄金時代よりも、メッシを中心としたチームの結束力という点ではあきらかにいまのほうが上まわっている。
 それはそれとて、ぼくが今回着目していることのひとつは、ブラジル代表とイングランド代表から見える、フットボール界のパラダイム・シフトだ。フットボールの母国と、そして同じ競技でありながら、それをディアスポラの文脈に落とし込んでまったく別の美学/哲学を創出した南米のサッカー王国、それぞれの代表チームは、この20年で起きたフットボール界の容赦ない変化を、さらにより鮮明に顕現させているように思う。これは、音楽文化にもちょっとリンクしている話でもある。
 まずはブラジル。ヴィニシウスやラフィーニャといった反則級のタレントを擁する王国は、マンU所属のクーニャやカゼミーロ、アーセナルのガブリエウ、ニューカッスルのギマランイスほか、プレミア・リーグで活躍している選手が目に付く。しかし、こんなこと1990年代には、いや、21世紀初頭においても考えられなかったことだ。かつてセレソン(ブラジル代表)といえば、選手たちの所属チームは、セリアA(イタリア)かリーガ(スペイン)、もしくはサントスFCやフラメンゴをはじめとするブラジル国内チームだった。20年前でさえ、23人の登録選手のなかにプレミア所属の選手はゼロである。
 逆に言えば、英国のフットボールの試合において、複数のブラジル(ないしは南米/ラテン系)の選手たちが活躍するようなことは、21世紀の最初の時点までは想像できなかった。ロマーリオは英国においてはあくまでもエキゾティシズムだったし、かつてのイングランドのフットボールを手短に言えば、日本の体育で教えられるようなサッカーのプロ版で、身体能力と根性と献身性に基づいたチーム競技である。21世紀の10年ほど代表のキャプテンを務めたスティーヴン・ジェラード(元リヴァプール)を思い出せばいい。絶望的な状況からチームを救う勝負強さ、激しいタックルでピンチを未然に防ぎ、強靱なフィジカルと無尽蔵のスタミナで90分間ピッチを駆け回った名選手だ。
 ファーガソン(マンU)とヴェンゲル(アーセナル)が覇権を争っていた時代までまでは、「自分たちのフットボールを正々堂々とぶつけ合う」という、いまとなっては古き伝統がプレミアにはあった。が、それも2004年にチェルシーの監督に就任したポルトガル人、ジョゼ・モウリーニョの冷徹な勝利至上主義が一世を風靡し、その伝統を揺さぶったころから亀裂が見えはじめる(ジェラードらのイングランド魂は、このリアリズムと対峙することを余儀なくされた)。
 しかも、それからおよそ10年余後には、2016年にマンチェスター・シティの監督に就任したスペイン人、ペップ・グアルディオラが頭脳と個人技、もっと言えばポジションの再定義による斬新な戦術が英国に衝撃を与えた。そしてベップは、個人技と戦術眼に長けたラテン系の選手を積極的にチームに入ることで、彼のアジェンダを具現化していった。
 だが、マンCにおける静かな革命は、ベップ就任以前からはじまっている。2011年、イタリア人のロベルト・マンチーニ監督時代にアルゼンチンからセルヒオ・アグエロを獲得し、プレミア優勝を成し遂げているからだ。「イタリア人のボスのもと、アルゼンチン人が英雄になる」ことなど、サッチャー時代には、とてもじゃないけど、ありえなかった話である。こうした政治的敵対関係さえ越えたハイブリッド化、英国フットボール界のいわばマルチ・エスニック化の潮流のなかで、20世紀にはまったく縁のなかったブラジル人たちもプレミアで活躍するようになったのである。
 もっとも、これは決して美談ではない。プレミアは世界の富豪たちの投資の対象であり、その圧倒的な資金力をバックにしたことでスポーツ・ビジネスの怪物となった。その結果として、いまやグローバルな多国籍リーグと化したのだから。だいたい、今回の出場国の代表チームの選手で、いちばん多い所属リーグは圧倒的にプレミアなのだ。スタジアムはジェントリフィケートされチケット代は上昇、地元民はパブに集まるしかない。

 こうしたリーグの構造的な変化にともなって、いまのイングランド代表の半数以上がルーツを他国に持つ選手で構成されている。ナイジェリア系のサカ、コートジボワール系のグエイ、ガーナ系のメイヌー、コンサとか、ジャマイカ系のウォーカー、スターリング、ラッシュフォード、トニー……、実にマルチ・エスニックなチームになっていることにも注目したい。これもまた過去にはあり得なかった事態である(まあ、ベリンガムはケニアとアイルランドで、ケインやライスにしてもアイルランド系なのだが……)。
 つまり、ニュー・オーダーが応援歌を歌っていた時代(何年前の話だ!)の代表チームとは別物である。要するにカルチュアラルな意味では、今回のイングランド代表はこれまでのチームとはあきらかに異なっている。白人主体の伝統的な英国代表はもはやいないのだ。これこそが資本主義が実現させた多様性なのだろうが、それがどんなサッカーを見せてくれるのかは興味がある。いっぽうのブラジル代表は、この10年で、プレミア仕込みのスピーディーで強度の高いサッカーに対応できるチームになったように思う。

 ワールドカップがはじまってまだ1週間ちょい、すべての試合を観ているわけではないけれど、気になるチームはちょこちょこ観ている。モロッコは、前回に続いて今回もまた良いチームだ。それから、間違いなく、優勝候補のひとつは(ヨーロッパでは先駆けてマルチ・エスニック化した)フランス代表である。勝ち方を知っている名将ディディエ・デシャン、そして、まだ体力と身体バランスを高く保っているエムベパがいるし、ほかにもタレントが揃っている。しかも今回は、ロシア大会で活躍したあの偉大なフットボーラー、ンゴロ・カンテが(控えとはいえ)いるのだから、まあ、強いでしょう(ここ、個人的な好みが入っています)。
 ちなみにカンテのルーツはマリ、今大会でぼくがイチオシのスペイン代表の18歳、華麗なるヤマル君はモロッコ。そして、ニコはガーナ(ただし、ニコの兄はガーナ代表)。ペドリは移民系ではないけれど、彼の出身地、スペイン領カナリア諸島は、北アフリカのモロッコの目と鼻の先に位置している。しかもカナリア諸島は、ストリート・サッカーが盛んな土地柄、狭いスペースを美しくすり抜けるパスは路上で磨かれる。スペイン代表のフットボールには、今日の、フィジカルモンスターが勝敗を決する西ヨーロッパ発のそれとは異なる美学がまだある。ダンスを踊るようにボールを運ぶそのスタイルには、古風なラテン・サッカーの片鱗があり、身体能力と持久力と強度を重視する現代欧州型サッカーにはない魅力をはなっている。
 強国のなかで、代表が自国リーグ所属選手がベースになっているチームは、イングランド、ドイツ、そしてスペインくらいなものである(サウジとかカタールとか、バカみたいな経済力を持つチームそうもだが、資本力はないが予選敗退した伝統的なイタリアもそうだ)。逆に、代表チームに国内リーグ組が極めて少数の強豪国といえば、それこそいまではブラジルとアルゼンチン、フランス、そして日本や韓国……。
 スペイン代表には、リーガ中心とはいえ、イングランドやドイツのビッグクラブように、外国人のスター選手を集めるレアル・マドリードの選手はほとんどいない。バルセロナを筆頭に、レアル・ソシエダ、アスレティック・ビルバオ、ビジャレアルといった、育成(カンテラ)に定評のある地方の職人集団のようなクラブの生え抜き選手たちが中核を担っている。これだけグローバル資本主義経済が世界を翻弄し、むしろグローバリゼーションに多くが憧れているなかにあっても、いまもそれには与せずに昔ながらのフットボール文化のあり方を保持しているスペイン代表に思い入れたくなるのも無理はなかろう。ぼくが日本代表でとくに熱を入れて応援しているのは、リーガで活躍している久保建英選手であるのは言うまでもない。一刻も早くケガが治ってほしい。

 音楽に関しては、UK、アメリカ、ドイツ、北欧のものが好きだというのに、ワールドカップを観ていると、マルチ・エスニックなリスニング、とりわけラテンとアフロを強烈に欲してくる。そこで、昨年リリースされたココ・マリアが監修した編集盤『Club Coco:New Dimensions In Latin Music』を聴いてみたりした。彼女はメキシコ出身のDJで、また、ラテン系レコードのディガーとしても有名だ。ヨーロッパを拠点に活動しているのでポスト・ジャイルス・ピーターソン的な存在として評価されている。マリアがプレイするのは、レトロなラテンではない。現代のグローバルなインディ・ミュージックにおけるラテン、アフロ、カリビアン、ブラジリアンといったトロピカル音楽の最前線だ。すなわち『Club Coco』に収録されているのは、現在進行形の2020年代のラテン・サウンドである。FIFAが垂れ流しているコマーシャルなレゲトン、アフロ、トロピカル・ポップに対してのオルタナティヴと言えよう。しかし、それら楽曲すべてが古さを手放してもいないのだ。これはスペイン代表にも言えることである。
 紹介し忘れたけれど、昨年では、ヴァレンティーナとニディアによる『Estradas』のリミックス盤もマルチ・エスニックの面白さが堪能できる。ただしこちらは、品の良い選曲というのではく、いかにも21世紀的な雑食性コスモポリタニズムを象徴している。そして、その向こう側にあるスラム街には、ブラジルのファンク・カリオカや南アフリカのゴムやクワイとのような21世紀のグローバル・ストリート・ダンス・サウンドが広がっているというわけだ。

 バイレファンキ以降のブラジルのストリートは、アメリカのギャングスタ・ラップの影響を受けて、古きを省みず、どんどん変異する過激な形態に発展している。それはそれで、音楽面においては面白いのだが(道徳面においては、控え目に言って議論の余地があるとしても)、フットボールにおいてぼくが憧れたのは、かつてのブラジル代表だった。ある時期までのセレソンは、すべての選手がそうだったわけではないけれど、間違いなく超厳しい練習をしているはずなのに、その主力たちが、いざ試合になると楽しそうにプレイしていたのだ(日本では小野伸二がそのタイプだった)。あれはスポ根的なストイシズムとはまったく相容れないメンタリティであり、パフォーマンスだった。集団的規律よりも、個の想像力が優先されるのだ。
 今回のブラジル代表にもそれが受け継がれているのかどうかは、まだちゃんと観れてないし、いまのところわからない。勝つために、身体能力と規律、強度と速度、数学から生物学、あらゆる方策を導入するドイツ代表に歴史的惨敗をくらってから、外国人監督を招聘し、個人の独創性よりも、組織重視の欧州型モダン戦術に変更している。グローバル化し、経済力によって階層化されてしまった現在のフットボール界のなかで、ああいう非欧州的な土着性は、マラドーナのように図太く生き残って欲しいと思っているのだけれど……。
 日本代表に関しては、Jリーグ所属の選手がスタメンにいないので、どうも感情移入がうまくない(久保選手と鈴木唯人選手は別だ)。ただ、それでも応援してしまうのは、性というものだろうか。身体能力と強度では、欧州/南米相手に有利とはいえないであろう日本代表は、周知のようにその個人技と俊敏性、献身性と組織力をもって健闘している。
 オランダ代表はフットボール史上、ブラジルやアルゼンチン(あるいはイタリア)のように、もっとも語り継がれているチームのひとつで、1970年代には英国メディアから “時計じかけのオレンジ” と形容されたこともある。これが意味したのは、そのチームがクラシック音楽を爆音で聴いて暴行や略奪を繰り返す不良軍団に似ているということでない。当時としては実験的と言える、狂気的なまでの緻密さと、一糸乱れぬ完璧な組織的連動性とオランダのシンボルカラーであるオレンジとを掛けた言葉で、まさに『時計じかけのオレンジ』のごとく、フットボールの概念を根底から覆した彼らのスタイルに対する驚嘆と畏怖を込めた表現だった。そんな欧州サッカーの前衛だったチームに対して日本が一泡吹かしたことは、まあ、一介の音楽ライターが偉そうに言うことではないが、ほんとうにすごいことだ。あの試合は自分が日本人であることを抜いても、感動的だった。

 今回のワールドカップは、FIFAのトランプへの浅ましいすり寄りからして、いまひとつ乗り気になれなかった。しかし、いざはじまってみれば、そのスタジアムのなかでは、実にエキサイティングなナラティヴが生まれていることに逆らえない自分がいる。はっきり言って、バカ面白い。いろんな国のいろんな人たちの表情がこれだけ親密に感じられるのは、4年にいちどのこの特別なイベントだけだ。メッシやクロアチアのモドリッチのようなレジェンドのプレイを見れるのも、これが最後かもしれないし、いずれにしても4年にいちどの世界大会、目に焼き付けておかねばね!
 決勝戦のハーフタイムに、アメフトでお馴染みのハーフタイムショーがあるらしいが、ほんとうにアメリカはフットボールがわかっていない。そんなところに出演するマドンナは最低だ。どこまで世界をアメリカ化したら気が済むのだろう。2026年のワールドカップはカナダ・アメリカ・メキシコの三カ国共催でありながら、全104試合のうちカナダとメキシコはそれぞれ13試合ずつ。残りの約80試合のすべてがアメリカというのも気にくわない。開幕戦はメキシコの聖地(いや、フットボール界の聖地)アステカ・スタジアムだった点は良かったけれどね。

 ぼくがほんとうに憧れるのは、究極のローカル・ポリシーを持っているリーガのビルバオのようなクラブで、メキシコのグアダラハラとか、UKインディ・ロック・ファンには馴染みのある名前、ペリーのネグロ・イ・ブランコ(つまり、黒と白)とか、ああいう文化だ。ブンデスではシャルケとか、旧東ドイツのコットブスのようなクラブも面白いと思う。資本主義に飲み込まれたイングランドのフットボール界において、どのクラブにも根強いサポーター文化がいまも生きていることと思うが、地元の街のアイデンティティを背負ってがんばっているチームのひとつといえばニューカッスルだろうか。さもなければ、ウォルトン&ハーシャムFCだよ。さあ、シャム69を聴くぞ!

(この原稿は、日本とチェニジア戦の前日、6月20日の夜に書かれている)


【追記】
この場を借りて、篠田ミル氏のご冥福をお祈りいたします。これからの活躍をほんとうに楽しみにしていたひとりとして残念でならない。あまりに悲しい週のはじまりだったので、この原稿の掲載も遅らせてもらった。

※6月28日追記
 ある読者から、1978年からトッテナムに移籍したアルゼンチン人、オズワルド・アルディレスのことを忘れていないかという指摘があった。監督として、後にJリーグ、清水エスパルスに初のタイトルをもたらしたレジェンドのことを書き忘れるとは、失態だった。アルディレスは、まさにサッチャー時代、それも1982年、フォークランド紛争の真っ直中のイングランドでプレイしていた、当時としてはきわめて珍しいアルゼンチン人のひとりだ。そして、戦争が勃発した途端、スタジアムでは罵声を浴び、ジャーナリストからも責められ、アルゼンチンでは裏切り者となったアルディレスは、イングランドでも母国でもない、パリ・サンジェルマンに移籍するしかなかった

HASE-T - ele-king

 ダンスホールのヴェテラン、HASE-Tのプロデューサーとしての活動が25周年を迎える。これを機にアニヴァーサリー・アルバム『Twenty Five』がリリースされることになった。CDは8月5日、LPは10月7日発売。先行シングルとして、ナツ・サマーを招いた “プラスティック・ラブ” のカヴァーが配信中です。
 なおアルバムには、前作『Twenty』のヒット曲 “夕暮れサマー” の新ヴァージョン(feat. ARARE, スチャダラパー & PUSHIM)も収録される模様。トラックリストなどは下記より。

プロデューサー活動25周年を迎えたHASE-Tのアニバーサリーアルバム『Twenty Five』がリリース決定!先行曲としてナツ・サマーをゲストに迎えて竹内まりやの名曲をカバーした”プラスティック・ラブ”が本日より配信開始!

80年代後半から東京のクラブ・シーンに関わり、レゲエDeejayやトラック・メーカーとして自身のアーティスト活動はもちろんのこと、レゲエ・コンピレーションシリーズの監修、さらにはレゲエ以外のアーティストへの楽曲提供やRemixワークまでこなしてきたHASE-T。2022年にリリースした前作『Twenty』からシングルカットされた"夕暮れサマー" feat. スチャダラパー&PUSHIMのスマッシュ・ヒットも記憶に新しいその HASE-Tの、プロデューサー活動25周年を記念したアニバーサリーアルバムが『Twenty Five』がCD/LP/デジタルでリリース決定!
これまでのキャリアで培ったHASE-Tならではのダンスホールレゲエのサウンドと親交の深い豪華ゲストアーティストとのコラボレーションを通じた25周年に相応しいアルバムになり、Bose(スチャダラパー)やARARE、J-REXXX、ナツ・サマー、DOMINO-KAT、KAJA、津川ゆりあら多数のゲストが参加!
先行シングルとして「シティーポップ×ラバーズロックレゲエ」という新たなジャンルを確立させた人気シンガー、ナツ・サマーをゲストに迎えて世界中で愛されている竹内まりやの名曲をラテン=レゲトンのテイストでカバーした”プラスティック・ラブ”が配信開始!


[シングル情報]
アーティスト:HASE-T
タイトル:プラスティック・ラブ feat. Natsu Summer
レーベル:P-VINE, Inc.
仕様:デジタル・シングル
配信日:2026年6月24日(水)
*Stream/Download/Purchase:
https://p-vine.lnk.to/5GTtCr


[アルバム情報]
アーティスト:HASE-T
タイトル:Twenty Five
レーベル:P-VINE, Inc.
仕様:LP(帯付き仕様/完全限定プレス)| CD | デジタル
発売日:LP 2026年10月7日(水) | CD / デジタル 2026年8月5日(水)
品番:LP / PLP-8394 CD / PCD-25546
定価:LP / 4,950円(税抜4,500円) CD / 2,750円(税抜2,500円)
*Stream/Download/Purchase:
https://p-vine.lnk.to/YCW4jU
*P-VINE SHOPにて予約受付中!
LP : https://anywherestore.p-vine.jp/products/plp-8394
CD : https://anywherestore.p-vine.jp/products/pcd-25546

[トラックリスト]
1 MONDAY TO SUNDAY feat. Bose (スチャダラパー), J-REXXX & Natsu Summer
2 FOOTSTEPS
3 なんとかなるさ
4 プラスティック・ラブ feat. Natsu Summer
5 夕暮れサマー (2026 REMIX) feat. ARARE, スチャダラパー & PUSHIM
6 お金の事ばかり
7 DANCEHALL
8 FIGHT ALONE (REMIX) feat. KAJA
9 首都高速DANCEHALL感情線 (REMIX) feat. DOMINO KAT
10 夏の終わり feat. 津川ゆりあ
*LPはSIDE AがM1~5、SIDE BがM6~10になります

Cornelius - ele-king

 コーネリアスの新作『REFRACTIONS』の詳細が発表された。すでに配信中の“Aeons”のほか、アート・リンゼイ、そして小山田圭吾の大きな影響源のひとつであるモノクローム・セットのビドも参加していることが判明。また、盟友・坂本慎太郎も歌詞を提供している。これはじつに楽しみになってくる話だ。また、アルバムのジャケットと収録曲も公開されている。

 それから、ファンにとってはもうひとつの朗報がある。近年の国内外ツアーをまとめたドキュメンタリー映像「"DREAM IN DREAM TOUR DOCUMENT” 」、その続編が公開された。「Episode 1」は、2022年のフジロックフェスティバルから東南アジア、オーストラリア・ツアーをまとめた映像だったが、今回は2023年アルバム『Dream in Dream』リリース後の国内ツアー、アンビエント京都、2024年の中国ツアーまでのドキュメンタリー映像。Youtubeにて公開中です。(なお、同映像は全4回の配信を予定しているとのこと)

Cornelius "DREAM IN DREAM TOUR DOCUMENT” Episode 2
YoutubeURL : https://youtu.be/g3n9wEbqiXU


 また、ニュー・アルバム『REFRACTIONS』を携えた全国ツアーの開催も決定。本日18:00よりチケット三次先行受付がスタート。特典付きチケットの受付は終了となったが、通常チケット・学割チケットは引き続き受付中。

6月のジャズ - ele-king

 ラキーシャ・ベンジャミンはニューヨークのドミニカ系住民の町出身の女流アルト・サックス奏者で、当初はサルサやラテン音楽を演奏していたが、その後ニュー・スクールに進学してジャズをやるようになる。ゲイリー・バーツ、ビリー・ハーパー、レジー・ワークマン、バスター・ウィリアムズといったジャズ界の大御所に師事し、なかでもバーツを通じてチャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーン、ジャッキー・マクリーンなど歴史に名だたるジャズ・サックス奏者の演奏も学んだ。プロ・ミュージシャンになるとジャズはもちろん、R&B、ソウル、ファンク方面のアーティストとも共演し、ミッシー・エリオットやアリシア・キーズのツアーにも参加している。そうした多方面での活動の一方、2012年にファースト・アルバムの『Rotex』を発表する。これはR&Bやファンク寄りの内容で、2018年の『Rise Up』もジャズ・ファンクやファンク色の強いものだった。

Lakecia Benjamin
We Dream

Artwork

 彼女の真価が発揮されたのは2020年の『Pursuance: The Coltranes』。ジョン&アリス・コルトレーンの作品集で、師匠のゲイリー・バーツとレジー・ワークマンのほか、ロン・カーターという大ヴェテランから、ミシェル・ンデゲオチェロ、マーク・キャリー、ブランディ・ヤンガー、マーカス・ストリックランド、キーヨン・ハロルド、マーカス・ギルモアら現代ジャズの実力者たち、そしてディー・ディー・ブリッジウォーター、ジャズメイア・ホーン、ジョージア・アン・マルドロウらのヴォーカル陣と非常に豪華な布陣となった。ここでの演奏はコルトレーンの流儀に倣ったディープかつスピリチュアルなもので、UKのヌバイヤ・ガルシアに対抗する存在であることを印象付けるものだった。続いて2023年にテリ・リン・キャリントンとの共同プロデュースによる『Phoenix』を発表。パトリース・ラッシェン、ダイアン・リーヴスらが参加し、アンジェラ・デイヴィス、ソニア・サンチェス、ウェイン・ショーターらのスポークンワードやポエトリー・リーディングをフィーチャーしたこの作品において、ラキーシャの演奏は『Pursuance: The Coltranes』の路線を引き継ぐものだが、オリジナル曲によって作曲の才能も披露する。特に宇宙的な広がりを見せるスケール感のある楽曲は、カマシ・ワシントンのそれに匹敵するものだ。詩や歌、ヴォイスを交え、メッセージ性に富む作品のなかで、ラキーシャはサックスだけでなくヴォーカルやシンセ演奏もおこない、トータルでのサウンド・プロデュース力の高さも見せる。

 それから3年ぶりの新作『We Dream』がリリースされた。今回はヴェテランのテレンス・ブランチャードにはじまってクリス・ポッター、クリスチャン・スコット、日本人の上原ひろみや早間美紀らが参加しているが、そうしたなかで注目すべきはカッサ・オーヴァーオールが数曲にプロデューサーとして加わっていること。彼の手掛ける楽曲はビラルのヴォーカルや自身のラップなどもフィーチャーしており、これまでのラキーシャの作品にはなかった新しい風を吹き込んでいる。また、カッサとの共同作業に感化され、ラキーシャのサウンド・プロダクションもエレクトリックなアプローチが増しているようだ。その代表と言えるのがデジタル版のみの収録となる “Ascension”。コルトレーンのアルバムとは同名異曲だが、ここではブロークンビーツ的なリズム・プロダクションを見せ、自身のラップも披露している。カッサとの共同プロデュースでクリスチャン・スコットのトランペットをフィーチャーした “Mi Gente” は、スペイン語で私の仲間という意味。ラキーシャの民族的ルーツが表われた躍動的なアフロ・ラテン・ジャズで、彼女のサックスもエモーショナルな演奏を繰り広げる。テレンス・ブランチャードのトランペットをフィーチャーした “Beyond The Dawn” は重厚なモーダル・ジャズで、コルトレーンからゲイリー・バーツ、そしてラキーシャへと受け継がれたきたジャズ・サックス演奏の神髄を見せるものだ。


Moyses Dos Santos
Maria

Far Out Recordings

 モイセス・ドス・サントスはブラジルに生まれ、2000年代初頭にロンドンへ移住してきたベーシスト/作曲家。セッション・ミュージシャンとしてナイル・ロジャース、ジャネル・モネイ、エミリー・サンデー、グレゴリー・ポーター、オマーといったアーティストのツアーやレコーディング、楽曲制作に参加してきた。ブラジルの先達であるアジムス、アイアート・モレイラ、ラウル・ジ・スーザ、またブラジル音楽を取り入れた多くの楽曲を作ってきたジョージ・デュークなどに影響を受け、ジャコ・パストリアス、スタンリー・クラークなどエレクトリック・ベースの名手たちの演奏を学んできたモイセスのファースト・ソロ・アルバムが完成した。2022年にアジムスとツアーをした際、自分の祖父のように慕っていたドラマーのママォン(イヴァン・コンティ)から自身のルーツであるブラジル音楽に向き合いなさいと助言を受け、この『Maria』の制作はスタートした。ママォンは2023年に他界しているので、生前の恩師からかけられた最後の言葉だった。

 ミュージシャンとして腕を磨き始めた頃にブラジルの教会での演奏経験があるモイセスは、10代の頃にバトゥカーダ、マラカトゥ、バイアォン、サンバ、フレーヴォといったブラジルの多彩なリズムを演奏してきており、それらを融合して『Maria』は作られた。ゲストとしてシオ・クローカー、アルトゥール・ヴェロカイ、ロンドンの新進シンガーのリンダ・ドーンが参加しており、シオ・クローカーをフィーチャーした “Brazilian Spirit” は、深く美しいグルーヴに包まれたブラジリアン・フュージョン。シオ・クローカーのトランペットは往年のフレディ・ハバードのプレイに繋がるもので、全体に1970年代の〈CTI〉のクロスオーヴァー・ジャズのなかで、特にブラジリアン・フューッジョンに特化した作品を思い起こさせる感じだ。“Baiamba” はバトゥカーダ調のリズムを持つダンサブルなブラジリアン・ジャズで、影響からいうとアイアートが大きいだろう。“Encontrei Amor” も同様のサンバ調のナンバーだが、ディスコを融合したあたりはジョージ・デュークの作風に通じる。“Late Night” もジョージ・デュークやラウル・ジ・スーザあたりがやっていたブラジリアン・フュージョンとブギーが結びついたような作品。“Beira Mar” はレイド・バックした感じが心地よいメロウ・ブギー。マルコス・ヴァレやホブソン・ジョルジ&リンコン・オリヴェッチあたりからの影響が伺える作品だ。リンダ・ドーンをフィーチャーした “Saudade” は、アルトゥール・ヴェロカイが指揮するストリングスをバックにリンダ・ドーンがドリーミーに歌うブラジリアン・ソウル。“Maria” はモイセスの母親の名前を冠したナンバーで、美しいメロディやストリングスのアレンジなど、やはりヴェロカイにインスパイアされている。


Outer World Jazz Ensemble with Chip Wickham
The Kármán Line

ATA

 昨年は〈ゴンドワナ〉から『The Eternal World』をリリースしたチップ・ウィッカム。〈ゴンドワナ〉以外にもリーズのレーベルである〈ATA〉と親密な関係を結んでおり、同レーベルの看板バンドであるルイス・エクスプレスと共演した『Doo-Ha!』もリリースした。この度〈ATA〉からアウター・ワールド・ジャズ・アンサンブルという新しいグループが登場するが、そのアルバム『The Kármán Line』にもチップはゲスト・ミュージシャン的な立場で参加する。アウター・ワールド・ジャズ・アンサンブルのメンバーは明らかになっていないが、恐らく〈ATA〉に所属するミュージシャンたちの合同グループのようなもので、ルイス・エクスプレスはじめ、アブストラクト・オーケストラ、ソーサラーズ、ワーク・マネー・デスといったグループのメンバーが集まっているのだろう。なかでもルイス・エクスプレスのベーシストで、〈ATA〉の運営者でもあるニール・イネスがグループの中核を担っている。

 2年ほど前にチップとニールはツアーで東京を訪れた際、レコード屋巡りをしてユセフ・ラティーフ、デヴィッド・アクセルロッド、アリス・コルトレーンといったレジェンドたちの音楽についていろいろ語り合ったそうだ。その後リーズに戻り、そうしたインスピレーションを掘り下げる中でダンス・ジャズ的な方向から生まれたのが『Doo-Ha!』で、よりディープでスピリチュアルな方向から生まれたのが『The Kármán Line』である。“Kármán Cantata” は神秘的なムードに包まれたモーダル・ジャズで、チップ・ウィッカムのフルートはユセフ・ラティーフを連想させる。全体的な曲想や中間のピアノ・ソロなどはデヴィッド・アクセルロッドの『Song Of Innocence』(1968年)に通じるものがある。“Alto Vento” は6/8拍子のワルツ曲で、女性スキャットを交えてソウルフルなムードが漂う。アルバムのなかで比較的ダンサブルな作品と言える。“Earthly Elements” もダンス・ジャズ路線で、ルイス・エクスプレスの作品に近い。曲全体がファンキーなグルーヴに貫かれ、そのなかでブレスを交えたチップのフルートがアクセントとなっている。“Molecules” はゆったりとしたムードのスピリチュアル・ジャズで、ハープも交えた演奏はアリス・コルトレーンからの影響が伺える。〈ゴンドワナ〉にはマシュー・ハルソール率いるゴンドワナ・オーケストラがあるが、その〈ATA〉版と言えるのがアウター・ワールド・ジャズ・アンサンブルではないだろうか。


Moses Yoofee Trio
Chasing Light

Leiter

 昨年ファースト・アルバムの『MYT』をリリースし、新しいバンドがいろいろ登場するなかでも強烈な印象を放ったモーゼス・ユーフィー・トリオ。ドイツ出身のモーゼス・ユーフィー・ヴェスター(ピアノ)、ノア・ファーブリンガー(ドラムス)、ロマン・クローブ(ベース)から成るこのトリオは、ジャズにヒップホップやドラムンベースなどダンス・サウンドを融合し、ゴーゴー・ペンギンバッドバッドノットグッドなどに比する存在へ成長していくと期待を寄せられた。『MYT』自体は2024年に録音されたものだったが、2025年の9月にノイケルンのスタジオで新作のレコーディングがおこなわれ、それが『Chasing Light』となる。

 今回はシンガーを交えた作品も含め、よりダンサブルなサウンドに近づいている。マレーというヴォーカリストをフィーチャーした “Nothing To Loose” が代表で、ドラムンベースとダブステップの中間的な細かいビートを刻むドラムスを軸とした作品。ヴォーカリストの声質も含めてかつてのジェイムズ・ブレイクジョーダン・ラカイの作品に近いイメージだ。“Chasing Light” も人力ドラムンベース調の速いビートを持つ。力強いリズムの一方で弦楽四重奏による繊細でメロディアスな演奏もフィーチャーし、その対比も面白い。“Inner Circles” はヒップホップとアフロビートを融合したような風変わりなビートを持つ。ヴォコーダーかトーキング・モジュレーターのようなヴォイスも交え、ネオ・ソウルをフュージョン的に解釈した作品とも言える。“Kraut” はクラウトロックとジャズ・ファンクを結びつけたような作品で、即興演奏も持ち味とするモーゼス・ユーフィー・トリオらしさが表われた楽曲。比較的短い曲が多い『Chasing Light』のなかにあって、モーゼス・ユーフィーのエレピをはじめ、トリオのインタープレイがスリリングに展開していく。

Oyubi - ele-king

 〈TREKKIE TRAX〉イチオシのプロデューサー、Oyubiのデビュー・アルバム『White birch burns』が本日6月24日、リリースされている。
 2017年から東京を拠点に活動をはじめたOyubiは、フットワークを軸にしつつジャズからジャングルまで多様なバックグラウンドをもつプロデューサーで、これまで着々とシングルを発表、2025年は欧州ツアーをこなす一方で東/東南アジアの各地にも招かれたりと、活動の幅を広げている。
 初のフルレングスとなる今回のアルバムは、Oyubiが幼い頃に亡くなった父親との記憶、幼少期の風景を表現した、内省的な作品となっているようだ。なかなか聴きごたえのあるアルバム、これは要チェックです。

アーティスト:Oyubi(オユビ)
タイトル:White birch burns(ホワイト・バーチ・バーンズ)
レーベル:TREKKIE TRAX
発売日:2026年6月24日
フォーマット:CD / デジタル

■Tracklist

01. White noise peaks
02. Eye shaker
03. Kernelpanik!
04. Since I
05. Just arrive at Twiske
06. Otherworldly foe
07. Twisted funk
08. Gon be rich oneday
09. interlude 2
10. Oyubi & Fetus - Mood organ
11. Komade-ike
12. Lovin u

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