「R」と一致するもの

Satomimagae - ele-king

 彼女の紡ぐ静謐さは特別な空気に包まれている。東京のシンガー・ソングライター、サトミマガエの新作がおなじみの〈RVNG Intl.〉からリリースされる。2021年の『Hanazono』以来となるアルバムで、『Taba』と題されたそれは4月25日に発売、日本独自でCD盤も出るとのこと。プレスによれば、「個人と集団、構築的なものと宇宙的なもの、明瞭なものと感じられるものの間を鮮やかにつない」だ作品に仕上がっているようだ。現在、収録曲 “Many” のMVが公開中です。

Rainbow Disco Club 2025 - ele-king

 エレクトロニック・ミュージック/ダンス・ミュージックのリスナーから絶大な信頼を得ている〈Rainbow Disco Club〉、16周年を迎える今年は、4月18日(金)、19日(土)、20日(日)の3日間、いつもの静岡県東伊豆クロスカントリーコースで開催される。今年は、UKクラブ・ジャズの立役者ジャイルス・ピーターソン、シカゴ・ハウスのレジェンドのロン・トレント、〈ハイパーダブ〉のコード9新世代ディープ・ハウスを代表するChaos In The CBDほか、全18組の豪華メンツ。また、DJ Nobuがキュレートする「Red Bull Stage」の2日間の注目。
 以下、オーガナイザーの土谷正洋氏に訊いてみました。

あらためてRDCのコンセプトを話してください。

RDC:Beyond Space And Timeをコンセプトにしています

企画していくうえで、今回、とくに意識したことは何でしょうか?

RDC:15周年を終えて、会場は同じながらも出演者の部分は新しくもあり、かつRDCらしさを考えてブッキングしました。

今回、RDCとしてあらたな挑戦があったら教えてください。

RDC:こちらもブッキングについてですが、ずっと2日目のRDC StageのトリをDJ NobuのB2B企画を2016年から行ってきましたが、今年はDJ Nobu Curatesとして深夜のRed Bull Stageで行うところは新たな挑戦と言えると思います。

 とにかく、最高のロケーションと最高の音楽が最高のヴァイブを創出することでしょう。行かれる方はぜひ、地元の金目鯛を食べてください。

Rainbow Disco Club 2025
日時: 2025年4月18日(金)9:00開場∕12:00開演〜4月20日(日)19:00終演
会場: 東伊豆クロスカントリーコース特設ステージ(静岡県)

出演(AtoZ):
〈RDC STAGE〉
Antal
Chaos In The CBD
Dita & Gero
Eris Drew & Octo Octa
Gilles Peterson (5-hour set)
Kikiorix
Kuniyuki & Xiaolin (live)
Ouissam
Palms Trax
Ron Trent
Sisi
Sound Metaphors DJs

〈RED BULL STAGE〉
DJ Nobu b2b Batu
Fullhouse
Kode9、Logic1000、Verraco、Woody92

〈VISUAL〉
REALROCKDESIGN C.O.L.O
KOZEE
VJ MANAMI

〈LASER & LIGHTING〉
YAMACHANG

オフィシャルサイト:
http://www.rainbowdiscoclub.com

Shinichi Atobe - ele-king

 真夏の草原で聴いたらさぞかし気持ちの良さそうな、一筋の涼風のようなテクノ・アルバム。昨年末リリースされた跡部進一の通算6枚目のアルバムである。
 十数年のブランクを経ての怒濤の作品リリース──2001年にべーチャン後継レーベル〈Chain Reaction〉から「Ship-Scope」(後に〈DDS〉からも2015年に再発)でデビューの後、リリースもなく約15年近くその存在は謎とされてきた(ちなみに〈Chain Reaction〉からは釣哲生なる日本人アーティストのマトリック名義の作品もある)。その後、時は巡り、2010年前後のミニマル・ダブの復権ならびにインダストリアル~ダーク・アンビエントへの拡張に、一定の影響を及ぼしたマンチェスターの〈Modern Love〉を率いるダムダイク・ステアによってシーンへと呼び戻され、2014年にまさかの新作にしてファースト・アルバム『Butterfly Effect』を彼らが率いる〈DDS〉からリリースした。以降、同レーベルを拠点に、十数年の不在を取り戻すかのようにコンスタントに、アルバム単位で作品をリリースし続けている。
 ダンスというよりも、比較的アブストラクトな雰囲気のファースト・シングル「Ship-Scope」。その意匠を引き継いだ感覚の、淡い靄のかかったダブ・テクノ~ダウンテンポの『Butterfly Effect』での復活から、数枚のアルバムを経てその作品性は、リリースをするたびに徐々にテクノ~ハウスのグルーヴを強めていっている。中でも『Yes』(2020年)から『Love Of Plastic』(2022年)へと連なる作品の流れは、特有の繊細なダブ処理はそのままに、どこかアブストラクトで内省的なダブ・テクノから、より軽やかなサウンドで、外へ外へと、流麗なハウスのグルーヴでもって滑空してみせるかのような、そんな変化を見せている。ここ最近としては、2024年4月に極めて高いクオリティのテクノ・トラックを携えた12インチ「Ongaku 1」を同じく〈DDS〉からリリースしている。

 前作『Love Of Plastic』の2年後にリリースされた本作、やはり圧倒的なのはアルバム1枚の作品としての統一されたすばらしい完成度があり、そして音楽性としてはダブ・テクノのなかに、新たに小気味いいライトなサウンド・フィーリングを示した作品と言えるだろう。『Love Of Plastic』でものにしたアトモスフェリィックなディープ・ハウスのグルーヴを土台として援用しながらも、サウンド的にはよりテクノのシンプルな魅力──シンプルなリフとミニマルなリズムの効果的な構造から生み出される強固なグルーヴにフォーカスすることで体現したサウンドと言えるだろう。
 清涼感のあるシンセ・リフがエコーとともにハウス・グルーヴの上を駆け抜けていく“SA DUB 1”にはじまり、ダビーながら重すぎないミニマル・テクノ“SA DUB 2”~“SA DUB 3”、鮮やかな電子音の応酬から、後半に挿入される上下するベース・ラインがファンキーな“SA DUB 4”まで。アルバム前半部の楽曲構成もリスニング成分と、ダンス・グルーヴの心地よさが絶妙なる塩梅のバランス感覚でむしろ小憎らしいほどに心地よい。唯一のビートレスで、アルバム中盤のフック(LPならB面の1曲目)となる“SA DUB 5”は、サイケデリックなエコーで渦を巻く電子音とベースラインのやりとりがいつしかコズミックなアシッド・サウンドへと展開していく。硬質なダブ・テクノ“SA DUB 6”、クラックルノイズとまろやかなダブ処理が、まどろみのように展開する“SA DUB 7”。そしてラストは“SA DUB 8”、グッとBPMを落としたアルバムのラストを、ドラマチックに美しく描いて締める。クリアなサウンドと力強くグルーヴするリズム、そしてシンプルなリフで、「上げすぎない」高揚感のキープは目指したトラックたちは、これまでの作品に比べてもより1枚の作品としてのサウンド・フィーリングの統一感が増していと言えるだろう。ダブ処理はあくまでも、リフや展開、楽曲を引き立たせるための要素で、その感覚は、ザ・デトロイト・エスカレーター・カンパニーの諸作や、誤解を恐れずに言うならば、どこか初期レイ・ハラカミの、その作品のデレイ~エコー感を彷彿とさせる瞬間もある。ある種の麻酔的な音響処理というよりも、音色の一部といった方がそのエコーの存在はしっくりくる。
 ある種のステレオタイプのべーチャン・フォロアー的なミニマル・ダブ / ダブ・テクノではなく、新たなスタイルの軽やかなダブ・テクノの、そのアルバム作品としてひとつの新たな完成形と言える作品ではないだろうか。

Sonoko Inoue - ele-king

 昨年リリースされたアルバム『ほころび』が話題を呼び、第17回CDショップ大賞2025入賞を果たしたシンガー・ソングライターの井上園子。その最新ライヴ映像が公開されている。
 今月3日、青山の「月見ル君想フ」でおこなわれたパフォーマンスで、ギターに長尾豪大(ModernOld)、ベースに大澤逸人、ドラムにgnkosaiを迎えたバンド編成での演奏だ。弾き語りスタイルが印象的だったアルバムとはうってかわり、「ブルーグラスであれば何でも好き」と主張する彼女のまた新たな一面を垣間見させてくれる映像といえよう。
 3月から4月には大阪・京都・兵庫、愛媛、神奈川~東京での公演が控えているので、お近くの方はぜひ。3月19日には『ほころび』のLPもリリースされます。

すべての門は開かれている――カンの物語 - ele-king

クラウトロックの巨星、カン
そのすべてを描いた大著
ここに奇跡の完訳刊行が実現!

20世紀でもっとも重要な実験的グループであるCan。戦後ドイツという特殊な政治環境のなか、高度なクラシックの教育を受けたふたりのメンバーがドイツでは指折りのジャズ・ドラマーと出会い、そしてメンバーの教え子だった若いロック青年を誘って1968年にケルンで生まれたロック・バンド――その影響がポップの領域に浸透するのに20年を要したとはいえ、カンは、パンク、ポスト・パンク、アンビエント、エレクトロニカの直接的なインスピレーションの源だった。

関係者にできる限り取材し、同時に英国、ドイツ、フランスに残されたあらゆる資料を参照し、元『ワイヤー』の編集長が描いたカンの評伝。

カン誕生の背景にあった60年代ドイツのカウンター・カルチャー、元親ナチだった親の世代への強烈な反発心、テリー・ライリーやラ・モンテ・ヤング、ダルムシュタット夏季現代音楽講習会とジョン・ハッセルとの出会い、シュトックハウゼンの教えとその人柄、カン結成以前のクラシック音楽家時代のイルミン・シュミットの作品、カンを名乗る前から映画のサウンドトラックを含むカンの全作品の詳細な解説、カンの当時の経済状況、ダモ鈴木やマルコム・ムーニーらの歌詞の考察、ダモ鈴木の国外追放騒動時におけるシュトックハウゼンたちの協力、カンはドラッグをやっていたのか、そしてメンバーたちの死別、等々……これ以上ないであろう完璧な「カンの物語」がここにある。

そして本書の第二部には、カンを尊敬するミュージシャンやアーティスト、あるいは盟友たちが集結し、カンや芸術についてイルミン・シュミットとともに語る。登場するのは、盟友ヴィム・ヴェンダースをはじめ、プライマル・スクリームのボビー・ギレスピー、ポースティスヘッドのジェフ・バロウ、故マーク・E・スミス、カールステン・ニコライ、アレック・エンパイア、ピーター・サヴィル、ジョン・マルコヴィッチ等々。

2018年に刊行され、『ガーディアン』から「知的なバンドについての知的な本」と称賛された決定的な大著、待望の翻訳。未発表写真も多数掲載。

A5判/480頁

『すべての門は開かれている カンの物語』刊行のお知らせ

目次

第一部 すべての門は開かれている

1 人造機械が見た夢(序章)
2 騒乱宣言
3 愚痴は発明の母
4 よりよい機材を備えた城
5 ロックに向けての最後の一蹴
6 火の盗人たち
7 33rpmの真実
8 深みに嵌って
9 魔女級の驚き
10 調和する音
11 霧のなかの彷徨い人
12 永久運動
13 危なげな着地
14 もっと欲しい
15 人工ヘッド・ステレオ
16 カンは自らを喰らう
17 最後の儀式
18 遠くに未来が広がっている

註釈
参考文献一覧
謝辞

第二部 カン雑考

登場人物

Ⅰ 手をテーブルの上に
Ⅱ 私の手記より
Ⅲ 風景に張り巡らされた、神経の鎖
Ⅳ 映画音楽
Ⅴ リュベロン

索引

[プロフィール]
【著者】
●ロブ・ヤング
元『Wire』編集長。英国フォーク史を描いた『エレクトリック・エデン』をはじめ著者は多数あるが、最近は元ブラーのグラハム・コクソンの自伝にも寄稿している。
●イルミン・シュミット
カンのオリジナル・メンバーで、唯一の生存者。この本の二部にはイルミン・シュミットの日記、エッセイ、音楽論も収録されている。
【原書編者】
●マックス・ダックス+ロバート・デフコン
マックス・ダックスはジャーナリストで、アート・キュレイター。『Electronic Beats Magazine』と『Spex』の編集長も務めた。ロバート・デフコンは作家、アーティスト、そしてミュージシャン。2005年、両者でバンド、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンの口述歴史『No Beauty Without Danger』を出版している。共にベルリン在住。
『すべての門は開かれている カンの物語』の第二部「カン雑考」は、ダックスとデフコンによる編集で、イルミン・シュミットとダックスによるインタヴューなどが掲載されている。

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* 発売日以降にリンク先を追加予定。

Peter Rehberg - ele-king

 2021年に亡くなったピーター・レーバーグの「新譜」がリリースされた。正確には舞台のために作られた音響作品の音源化である。重要な点は、本作が『Liminal States』「ピタ」名義ではなく、「ピーター・レーバーグ」名義で出された点であろう。もちろん、名義の分け方にはさまざまな現実的な理由があるのかもしれない。しかし、聴き手の立場からすれば、これまで発表されてきた作品の文脈を改めて再確認できる機会となる。あえて乱暴に分類すれば、「ピタ」名義の音楽は本質的に「テクノ」に根ざしているように思える。どれほどテクノを解体しても、ピタの音楽はポスト・テクノ的なものとでも言うべき音である。一方で、「ピーター・レーバーグ」名義では、より実験的でノイジーな作品をリリースしてきたともいえる。同時に、それらは 彼自身のための作品というよりも、誰かとのコラボレーションによる作品であったという側面もある。例えば、レーバーグは舞台音楽の仕事を手がけており、人形師/振付師のジゼル・ヴィエンヌの舞台音楽をまとめたアルバム『Work For GV 2004-2008』を、ピーター・レーバーグ名義で2008年に〈Editions Mego〉から発表している。また、没後の2022年にリリースされた『at GRM』には、「le Centquatre-Paris」で開催されたGRMのためのふたつのコンサートの音源が収録されていた。この意味では、「ピーター・レーバーグ」名義の作品は、スティーヴン・オマリーとのユニット KTL に近いのかもしれない。実際、KTL も元々はジゼル・ヴィエンヌの舞台のために制作された音楽であり、このことからも、レーバーグにとって舞台音楽の制作が重要なライフワークであったことがわかる。そして、それゆえに「ノイズ」は彼にとって単なる表現手段ではなく、実験と進化の場だったのではないか。

 私は2022年に『at GRM』を聴いたとき、ピーター・レーバーグの「ノイズ」が、いまだ進化の過程にあったことを確信した。そこには、持続音の生成と変化による強烈な音響体験があったからだ。『at GRM』は2009年と2016年に制作された音響作品を収録しているため、比較的過去の作品であるにもかかわらず、彼の「音」がグリッチやテクノといった枠組みを超え、別次元へと深化していたことが伺える。そして、本作『Liminal States』もまた、同様のアプローチを持つアルバムである。レーバーグのノイズは進化の過程にあり続けたことを実感させる作品に仕上がっている。前述のように、本作の音は2018年に制作されたものであり、『at GRM』の2016年の音源と近い時期の作品であるため、質感に共通する部分もある。しかし、大きく異なる点もある。『Liminal States』は全45分1曲の長尺作品であり、聴き手をノイズ(音響)の生成と変化の渦へと巻き込んでいくような構成となっている。

 また、本作の音源は アイスランドの振付師マルグレット・サラ・グドヨンスドッティルの舞台のために制作されたものであり、不安定なノイズが折り重なり、変化し、より広大なサウンドスケープを展開している点に注目したい。特筆すべきは、そこに「アコースティックなドローン感覚」があることだ。従来のピーター・レーバーグの音楽は電子的な質感が強かったが、本作では、どこかラーガ・ドローンのような響きなのだ。音の調性感が希薄な持続音が幾層にも重なり合い、聴き手に未知の音空間を提示するかのような感覚を生み出している。この不安定な揺らぎの感覚こそ、本作でピーター・レーバーグが新たに見出した音なのではないか。それが実際の舞台において どのように役者の肉体と連動していたのかは未見のため想像するしかない。しかし、おそらくは、ある種の距離感をもって共存していたはずだ。2023年に〈Karlrecords〉からリリースされた、Zeitkratzer のラインホルト・フリードルとの共作(ピタ名義)『PITA / FRIEDL』には、2021年に録音されたピーター・レーバーグの最晩年の音源が収録されている。このトラックでも、激しいノイズと不安定な揺らぎが交錯しており、彼の「ノイズ」がさらに深化していこうとしていたことが感じ取れる。
 
 ともあれ『Liminal States』を聴き込むと、その音響が生成と変化を繰り返し、消尽の果てにある音の運動を捉えようとしているように思えた。不安定な持続が、時にダイナミックに鳴り響き、時に静かに収束していく。それは、まるで電子音が「自然」そのものを擬態するかのようなサウンドスケープとして聴こえた。電子音が環境音のように聴こえる瞬間がある、と言い換えてもよいかもしれない。ただし、本作において(そしておそらく、レーバーグの音楽全体において)、彼は環境音楽的な響きの詩学から距離を置いているようにも思える。彼にとって最も重要なのは、「音の運動」ではないか。これは、ピタ名義の初期グリッチ・サウンドから一貫する彼の音楽の本質的な特徴である。

 生成。変化。運動。この三つの交錯によって、ピーター・レーバーグ/ピタの音は構築されている。『Liminal States』は、彼が成し遂げようとしていたノイズの実験の(非常に残念なことではあるが)2018年時点での到達点を記録した、極めて重要なアルバムであり、音響作品である。この時期のレーバークの音は電子ドローンの境界線を越えようとしていた。00年代以降の電子音響のひとつの到達点として、これからも何度も繰り返し聴きたくなる作品である。

2月のジャズ - ele-king

Moses Yoofee Trio
MYT

Leiter / 森の響

 アメリカやイギリスに比べてシーンは大きくはないが、ドイツは昔からジャズが盛んな国である。そんなドイツのベルリンから登場したのがモーゼス・ユーフィー・トリオである。モーゼス・ユーフィー・ヴェスター(ピアノ)、ノア・ファーブリンガー(ドラムス)、ロマン・クローブ(ベース)からなるトリオで、2020年に結成して、2023年にミニ・アルバムの『Ocean』をリリース。モーゼスはアフロ・バンドのジェンバ・グルーヴの『Susuma』(2022年)に参加するなど、ジャズに限らないフィールドで活動してきた。ノアはインディ・ロック・バンドのフィベルに参加し、ヒップホップ寄りのミクスチャーなソロ・アルバムを出していて、ロマンはジャズ~ヒップホップ系トラックメイカーのS・フィデリティによるプロジェクトに参加するなど、3名とも伝統的なジャズと何か別の音楽的要素を融合する方向性を持つ。『Ocean』はそんな3人の持ち味が出た作品で、ジャズ、ヒップホップ、ロック、クラブ・サウンドなどが結びついた世界を見せた。3人というコンパクトでシンプルな編成ながら、極めて緊密で濃度の高い演奏を見せ、タイプとしてはロバート・グラスパー・トリオからゴーゴー・ペンギンバッドバッドノットグッドなどへと繋がるサウンドと言える。ノアのヒップホップを咀嚼しながらも極めて自由度の高いドラミングに見られるように、即興演奏の要素もとても強い。そして、アコースティックとエレクトリックの結びつきも強固で、人力ドラムンベースや人力ダブステップ調のナンバーもある。

 2024年にドイツ・ジャズ・プライズのライヴ・アクト・オブ・ザ・イヤーを獲得した彼らは、同年4月にシュトゥットガルト郊外の田園地帯にあるスタジオに入り、10日間かけてレコーディングをおこなった。そして完成したのが、彼らにとって初のフル・アルバムとなる『MYT』である。“Into You” はJ・ディラ的なズレ感のあるヒップホップ・ビートを軸に、メロウネスに富むピアノやスペイシーなSEがフィーチャーされる、MYTらしさを象徴するナンバー。“Ridgewalk” はブロークンビーツとドラムンベースを掛け合わせたようなビートを持ち、ベース・ギターがデジタルなフレーズを奏でるエレクトロ・ジャズ。クラブ・サウンドとも親密なMYTの側面を示している。“Green Light” はアフロビートを咀嚼したようなリズムで、女性MCをフィーチャーして南ロンドンのエズラ・コレクティヴあたりに通じるジャズとR&Bが融合した世界。“Bond”はリリカルなピアノ・ソロに始まり、人力ドラムンベースへと展開していく。南ロンドン勢で比較すればアシュリー・ヘンリーに近いタイプの美しい作品だ。“Push” もクラブ・サウンド寄りのジャズ・ファンクで、アコースティックな演奏ながらデジタルな質感を生み出す点はゴーゴー・ペンギンのアプローチに近い。一方、“Show Me How” はサンプリングも交えたサウンドで、彼らが標榜するアコースティックとエレクトロニックの融合を強力に推進している。


James Brandon Lewis
Apple Cores

Anti

 ニューヨークを拠点に活動するジェイムズ・ブランドン・ルイスは、カリフォルニア芸術大学でチャーリー・ヘイデンやワダダ・レオ・スミスに師事し、ハワード大学にも学んでファイン・アートの修士を獲得したというサックス奏者。2012年からニューヨークに移り住み、デイヴ・ダグラス、ジュシュア・レッドマン、アルアン・オルティス、チャド・テイラー、ブラッド・ジョーンズ、ハンク・ロバーツ、トニー・マラビー、マリリン・クリスペルらと共演してきた。ニューヨークにおいてはマーク・リボー、キップ・ハンラハン、アート・リンゼイらの流れを汲んだ位置にある人物と言え、フリー・ジャズからラテン、ファンク、ヒップホップ、ゴスペルなどのミクスチャー感覚を持つ。自身のトリオやカルテットはじめ、クリフス、オリエンテーション・オブ・ウィなど様々なバンドでも活動するが、2020年代に入ってからはチャド・テイラー、ウィリアム・パーカーらとレッド・リリー・クインテットを結成し、ブルースやゴスペル、ブラス・バンドなどの要素を打ち出した『Jesup Wagon』(2021年)やマヘリア・ジャクソンに捧げた『For Mahalia, With Love』(2023年)をリリースし、特に『Jesup Wagon』はジャズ・レジェンドのソニー・ロリンズからも高く評価されたことが知られる。2024年にはワシントンDCの伝説的パンク・バンドであるフガジのメンバーが結成したザ・メスセティックスと共演し、〈インパルス〉からアグレッシヴなジャズ・ロック・アルバムをリリースしたことも話題となった。

 そんなジェイムズ・ブランドン・ルイスの新作『Apple Cores』は、盟友のドラマーであるチャド・テイラーと、同じく共演経験のあるベーシストのジュシュ・ワーナーによるトリオ・セッション録音。オーネット・コールマンの “Broken Shadows” を除いてオリジナル曲が収められていて、“Five Spots To Caravan” はドン・チェリーとオーネットが1959年に演奏をおこなったニューヨークのライヴ・ハウスであるファイヴ・スポッツにちなんだもの。キャラバンもオーネットの故郷であるテキサスのキャラバン・オブ・ドリームス・パフォーミング・アーツ・センターにちなんでいる。“Remember Brooklyn & Moki” のモキとはドン・チェリーの妻で画家/アーティストであるモキのことで、チェリーに対するインスピレーションがさまざま感じられる。アルバム・タイトルは詩人のアミリ・バラカによるコラムから名づけられており、ジェイムズ・ブランドン・ルイスが影響を受けた先人たちへのオマージュが綴られた作品と言える。“Prince Eugene” はチャド・テイラーがジンバブエの民俗楽器であるムビラを演奏し、ジュシュ・ワーナーがレゲエ/ダブのベース・ラインを奏で、ジェイムズ・ブランドン・ルイスのテナー・サックスが悠久のグルーヴを生み出していく。


Glebe
Gaudí

Daggio

 グリーブはイギリスの新しいジャズ・ユニットで、リーズ音楽院でギタリストのキーラン・ギュンターとピアニストのクリス・ブランドが出会ったことからはじまった。卒業後に本格的に活動をはじめ、パット・メセニーから多大な影響を受けてデビュー・アルバムとなる『Gaudí』をリリースした。演奏はふたりのほかにサックス奏者のドム・プジー、ドラマーのフィリッポ・ガリ、ベーシストのジャック・タスティンが参加。さらに楽曲ごとにソプラノ・サックスとフルートのトム・スミス、ヴォーカリストのタラ・ミントン、クレア・ウィーラー、フランチェスカ・コンフォルティーニがゲスト参加する。アルバム・タイトルはスペインの建築家のガウディを指しているが、彼の故郷であるカタロニア地方の美しい景色を連想させるアルバムだ。

 アルバム全体としては、パット・メセニーとライル・メイズによるパット・メセニー・グループの初期作品を思わせるもので、特に10分を超す “Ruby” はタラ・ミントンのワードレス・ヴォーカルをフィーチャーして天上へと誘う、まるで聖歌のような作品。ミルトン・ナシメントに代表されるブラジルのミナス音楽が持つ教会音楽的な雰囲気もあり、パット・メセニーと交流の深いギタリストのトニーニョ・オルタを彷彿とさせる楽曲だ。“L’lseran” もミナス風の楽曲で、ソプラノ・サックスの澄んだ音色がミナスを代表するサックス奏者だったニヴァルド・オルネラスを想起させる。


Marshall Allen
New Dawn

Week-End

 昨年末にサン・ラー・アーケストラの新作『Lights On A Satellite』を紹介した際に触れたが、バンド・リーダーであるマーシャル・アレンの個人名で初のソロ・アルバムとなる『New Dawn』がリリースされた。メンバーはアーケストラのアレンジャーを務めるノエル・スコットほか、セシル・ブルックス、マイケル・レイなど、ほぼアーケストラのメンバーが務めており、アーケストラのスピン・オフ的な作品とも言える。それ以外ではオーネット・コールマンとの活動で知られ、1980年代にファンクやR&Bを取り入れたコスメティックというバンドで一世を風靡したベーシストのジャマラディーン・タクマと、時代時代によってパンク、ニューウェイヴ、ヒップホップ、ブリストル・サウンド、ジャズなど縦横無尽にコミットしてきたシンガーのネナ・チェリーがフィーチャーされている。ネナ・チェリーはドン・チェリーの娘ということで、マーシャル・アレンとは何らかの接点があったのだろう。

 そのネナ・チェリーが歌うタイトル曲の “New Dawn” は、ストリングスなどをフィーチャーしたムーディーなバラードで、この曲に代表されるように1950年代のムード音楽と古典的なスタイルのジャズの雰囲気をまとっている。“African Sunset” もスペイシーなSEを織り交ぜながらも、スタイルとしては1950年代のエキゾティック音楽やイージー・リスニング。アヴァンギャルドなイメージが先行するサン・ラー・アーケストラだが、実際のところ根底にはこうしたオールド・ジャズやムード音楽などがあったということを改めて示している。途中で即興的なサックス・ソロが登場する “Sonny’s Dance” はサン・ラーのことを指しているのだろうか。また、サン・ラーの代表曲である “Angels And Demons At Play” もやっているが、これがかなりダビーな解釈で興味深い。そうしたなかで、アフロ・キューバン的な風味に富む “Boma” が異彩を放つ。サン・ラーにはあまりないタイプの楽曲で、ギターとストリングスによって緊迫感のあるムードを盛り立てていく。

John Glacier - ele-king

 ヒップホップの歴史書として名高いジェフ・チャンの『ヒップホップ・ジェネレーション』、たしかに名著ではある。が、喧嘩が弱そうなラッパーを支持するぼくにとって、いまいち納得できないところもあったりする。たとえば、パブリック・エネミーとギャングスタ・ラップにあれだけ大量の文字を割いて、デ・ラ・ソウルの話などは「あれ? あった?」という程度の扱いなのだ。まあ、あの本はひとつの“ヴァージョン”に過ぎないと著者も最初に断っているのだけれど、しかしねぇ、まさか、PEとグレッグ・テイトとの緊張感あるやりとり、アイス・キューブと活動家アンジェラ・デイヴィスとの対話の前では、ホール&オーツが好きでフランス語講座や子供向け番組をサンプリングするようなオタクな音楽は詳述するに値しないということではないと思いたい。なにせあの時代、西海岸のハードコア系リスナーはああいうラップに冷淡だったからね。

  敵対するだけでは十分ではない。抵抗の先に生じる空白には、なお「自らを新たに創造すること」が必要とされている。抵抗は、私たちがもっとも容易に理解できる闘争だ。従属的な人物であっても激しい怒りや憤りの瞬間があり、それに対して反応し、行動を起こす。(略)しかし、(差別に抗する闘争における「対象」になるではなく、その闘争の)「主体となること」は、それとは異なる。その過程は自分自身の生活のなかで支配の構造がどのように機能しているかを理解することで明らかになってくるものなのだ。——ベル・フックス (*)

 権威によって内面化された価値観、それを相対化しなければ革命なんて無理だよと、高名な黒人女性フェミニストにして左派のなかでもとりわけ一筋縄ではいかないイデオローグは主張する。ビキニ姿の女性をはべらせるような映像がラップの世界で使われるようになったのは、スヌープだのドレだの西海岸のハードコアが登場してから数年のことで、あの当時はずいぶんと違和感を覚えたものだった。ことにあの時代、ぼくはUKのボム・ザ・ベースやベティ・ブー(2年前、50代にして現役復帰!)のような、Gファンクとは真逆の、ユーモアのセンスを忘れないヒップホップが好きだったので、なおのことである。いまでも、銃を持って一家を守るケンドリック・ラマーの勇ましいジャケットには引いてしまう自分がいる(わかっていると思うけれど、クリティカルになることはその対象を否定していることではない)。あの銃が水鉄砲だったら良かったのに……ジョン・グレイシャーというロンドンのラッパー兼トラックメイカーは、グライムやドリルのような悪名高いストリートの音楽を吸収し、しかしまったく別のものに作りかえてしまう。ちょっと大げさに喩えるなら、ストリートの生存競争を「リアル」ではなく「ドリーミー」に変換し、殴り合う前に眠らせてしまうと、そんな音楽である。
 
 とにかく彼女は面白い。その音楽は、マッシヴ・アタック以降の、ティルザディーン・ブラントインガ・コープランド、最初期のマウント・キンビーコビー・セイなどなど(あるいはもっとも良い時期のザ・xx)、言うなれば英国におけるラップ&エレクトロニック・ミュージックの最良の系譜に位置づけられるだろう。もっともジョン・グレイシャーのことは、耳の早いリスナーにとってはすでに知られた存在である。フランク・オーシャン絡みのVegynが主宰する〈PLZ Make It Ruins〉からデビュー、NYのサーフ・ギャングという注目のアンビエント・ラップ文脈でも評価されているグループとの共作もある。インスタグラムのプロフィールにおける本名は「No✨」、『ガーディアン』に「2万歳」といったことがある彼女は、ここにいよいよ〈Young〉から『Like A Ribbon』という驚異的な脱力系のアルバムをリリースしたのだった。
 この音楽の魅力は、嬉しいことにまずそのサウンドにある。ポップでありながら実験的で、ボーズ・オブ・カナダ風のぼんやりとした風景、もしくはフォークトロニカ時代のフォー・テットの詩情が、グリッチおよび最新のヒップホップ・ビートをもって膨らんでいく。
 FKAツィグスの新作に次いでここにもアースイーターが参加している。その曲 “Money Shows” は、雑にストロークする生ギター音が反復するなか、英国風ぶつぶつラップがノイズにまみれていく、とりわけ印象的な曲のひとつだ。もうひとりのゲスト、サンファが参加した“Ocean Steppin'”はもっともメロウで、もっともポップ、つまり、何度も繰り返し聴きたくなる曲だ。ほかにも良い曲がたくさんあるよ。OMDがヒップホップをやったような“Dancing In The Rain”、ティルザの系譜に位置するドリーミーな“Heaven's Sent”、アンビエント・ラップ曲の“Emotions”……、さすがにこの時代、「デイジー」であるはずがないし、アルバムは全体を通して「メランコリック」ではあるが、ほとんどすべての曲が甘美で、うっとりする。
 
 厳しい現実のなかで、その厳しさに支配されない音楽はときに有効だ。1970年代、デトロイト市内におけるギャングの抗争がもっとも激化したとき、伝説のラジオDJエレクトリファイン・モジョは、ニューウェイヴ・バンド、B52`sのじつにバカバカしい“ロック・ロブスター”という曲を頻繁に流すことでその暴力を抑制することに成功した。世界を変えるのは何も勇ましい文化であるとは限らない。ジョン・グレイシャーの『リボンのように』を聴こう。

(*) bell hooks, Yearning: Race, Gender, and Cultural Politics, Routledge, 2014

追伸:〈XL〉からリリースされるDJパイソンのシングル盤、素晴らしいね。パイソンにあんなポップセンスがあったとは……アルバムが楽しみ。

interview with Allysha Joy - ele-king

 オーストラリアのナーム(先住民アボリジニ名でメルボルンを指す)で、ハイエイタス・カイヨーテと並ぶ現在のソウル・ジャズ・コレクティヴのひとつに30/70がある。そのフロント・ウーマンとして知られるのが、アリーシャ・ジョイだ。ジャズとクラブ・サウンドのニュアンスを掛け合わせたハイレベルな生演奏に、アリーシャ独特のハスキーな歌声で情感を乗せ、“ソウル” として昇華したことで、30/70は瞬く間に豪州の現行ネオ・ソウル・バンドとして存在感を高めた。30/70 のリリースがロンドンのレーベル、〈Rhythm Section International〉だったことで、アリーシャは早くからUKシーンと結びつき、ナームの現行ソウル・ジャズ・シーンを紹介するコンピレーション『Sunny Side Up』(〈Brownswood Recordings〉/2019)でも、自身の曲の提供とともに地元アーティストを世界に紹介する重要な役割を果たした。さらに自らのサポートで、UKジャズ・バンド、ココロコのオーストラリア・ツアーを仕切り、ブライアン・ジャクソンの来豪ツアーではDJとして会場を沸かすなど、様々な才能を発揮しながら自国と世界のアーティストをつなげてきた。2023年には、UKジャズのイベント《Church of Sound》の日本版としておこなわれた《Temple of Sound》の一員としても来日している。

 アリーシャはヴォーカルだけでなく、柔らかなエレピで紡ぐ曲づくりと、詩的センスやメッセージ性にも定評があり、2018年にはソロ名義で、〈Gondwana Records〉から『Acadie : Raw』でデビュー。その後2022年にセルフ・プロデュースのセカンド・アルバム『Torn : Tonic』をリリースし、We Out Hereやモントルー・ジャズ・フェスティバル、ロンドンのジャズ・カフェなど、ヨーロッパとイギリス全土を回り、スナーキー・パピー、PJモートンら時代を象徴するアーティストとライヴ共演するなど、世界的に活動の場を広げている。

 2024年にリリースされた最新サード・アルバム『The Making of Silk』は、これまでの経験を振り返りながら、セルフケアを通じて人との関係性の新たな理解について描かれた作品だ。インスピレーション源となったのは、ベル・フックス、メアリー・オリヴァー、礒田湖龍斎、ハーフィズといった時代も国も越えた世界中の作家、芸術家。例を挙げると、収録の “Dropping Keys” は、イラン(ペルシア)を中心にイスラム世界の人々に愛される14世紀の詩人、ハーフィズの同名の詩から影響を受けたものだが、「Dropping Keys=鍵を落とす」は、気づきを与える、というエンパワーの本質をついた詩で、同曲には、社会が私たちを閉じ込めた檻から自分自身を解き放つ鍵を見つけたら、その鍵を次の人に渡そう、より多くの鍵を落としていこう、というメッセージが込められている。

 アリーシャとのインタヴューで、私が印象に残ったのは「safe」という言葉。本作のコンセプト──セルフケアと人との関係性──を紐解けるような言葉だった。そして来日公演の最初にアリーシャは、オーストラリア先住民の人びとに敬意を表し、共に音楽ができることは恵みであり、それをシェアできるこの場に感謝します、と伝えていた。それを聞いて、インタヴューの言葉がより一層深く心に響いた。

教会では、音楽をすることをコレクティヴとしての在り方だと捉えているんです。私はそのことをずっと信じて大切にしてきました。

『The Making of Silk』をはじめ、あなたの音楽は様々な芸術や文化からインスピレーションを受けていると思うのですが、作品づくりはどんなふうにスタートしていくのですか?

アリーシャ・ジョイ(Allysha Joy、以下AJ):作品づくりにはたいていはじまりがなくて。私は日々の活動のなかで、クリエイティヴなマインドを保とうと努めているからね。ある種の文学を読んだり、詩を書いたり、あるいは違う視点で世界を見たり。だから私の音楽の多くは、詩としてはじまったり、ただ演奏することからはじまったりします。今日は曲をつくろう、みたいな感じで音楽づくりに真剣に取り組むことはないんです。誰かと一緒に作曲するようなときでも、多くの場合はそのずっと前から持っているアイディアの種が自分のなかに浮かんでいたりする。それは自分の納得のいくやり方ですね。

最初のアイディアが生まれてから、次のプロセスとしてメンバーの選択や作品づくりはどう進めていますか?

AJ:自分の意図を理解してくれて、安心できる、そして私のアイディアを表現するだけでなく、彼らも同じように良いアイディアを持っていて、そのプロセスをナビゲートするのを手伝ってくれると人とだけ私は一緒に演奏しています。私たちがやることはすべて共同作業で、つねにお互いに学び合っている。私が書いた音楽であっても、ミュージシャン個人としても納得のいくように新たな解釈ができるようにしたいと私はいつも思っています。なぜなら私がミュージシャンを選んだ理由は、彼らが親友だからというだけでなく、インスピレーションを与えてくれて、アーティストとして素晴らしいと思うから。だからこそ彼らに演奏してほしいし、音楽でも自分自身を表現してほしい。

ところで、10代はどんな音楽を聞いていたんですか?

AJ:ジャズを聴いて育ちました。エラ・フィッツジェラルドやビリー・ホリデイなどのトラディショナルなジャズをたくさん聴いていた。そこから、ソウルクエリアンズの音楽──ディアンジェロ、エリカ・バドゥや、ジル・スコット、ギル・スコット・ヘロンブライアン・ジャクソンの音楽も学びました。あとジョージア・アン・マルドロウも、女性プロデューサーとしても素晴らしくて大好きになった。ミシェル・ンデゲオチェロはずっと大好きなアーティストのひとり。彼女の音楽をたくさん聴いて育ったし、いまも変わらず聴いています。

教会でも歌っていたんですよね。

AJ:そう。よく覚えていることがあってね、私がとても幼かった頃、教会で一緒に歌っていた女性がいたんです。彼女はとてもゴスペルっぽい声をしていてとても憧れていたシンガーだったんです。私は小さい頃から教会に通っていたから、言葉が話せるようになるとすぐに教会で歌うようになったんだけど、10歳のときにそのシンガーと一緒に歌うことができた。それが本当に嬉しくて思い出に残っているんです。子どもの頃って、有名人が誰とかよくわからなかったりするものだけど、自分にとってはその人が有名人だったんですよね。教会では、歌うには若すぎるとか、技量が足りないとかそんな制限は一切なくて、というか、そんな考え自体が存在しません。教会では、音楽をすることをコレクティヴとしての在り方だと捉えているんです。私はそのことをずっと信じて大切にしてきました。

なるほど。その経験が、あなたの音楽のアプローチに影響を与えている気がします。

AJ:そう、間違いなく! ちょうど昨日ライヴ前に「緊張する?」って聞かれたけど、全く緊張しません。それは、私の音楽やアートのアプローチがコレクティヴとしての癒しの表現に基づいているから。私にとっての音楽は、パフォーマンスというよりも表現であって、みんなと一緒に経験することなんです。私は教会で音楽が心の高揚や癒しの源になっていることを目の当たりにしてきたし、教会は安心してそれを感じられる場所だったんです。

たくさんのDJやダンス・ミュージック・シーンの人たちとつながりました。デトロイト・ハウス・シーンのスコット・グルーヴスや、マーセラス・ピットマン、シンガー・ソングライターのkeiyaA、マーク・ド・クライヴ=ロウも。

教会での経験から、デビューまでどんなステップを踏んでいったのですか?

AJ:教会や家で歌うだけでなくて、詩を書くようになりました。私の最初につくった作品は、自分の書いた詩を30/70のメンバーたちのところに持ち込んで発表したものでした。私には何の能力もなかったから、その後独学でピアノとプロダクションを学んだ。初めは自分で表現する手段がなかったから、詩を音楽にするためには誰かとコラボする必要があったし、30/70がその場をつくってくれたんです。

なるほど。30/70とともに歩んできたんですね。

AJ:私の音楽の旅は、30/70のドラマー、ジギー・ツァイトガイストとの出会いからはじまったようなもの。彼は私の恩師で、私のすべての作品で演奏していて、彼を通してたくさんの人と出会いました。今日(1月18日のブルーノートでの公演)のベースのマット・ヘイズ、キーボードのフィン・リーズの2人も30/70のメンバー。あとハイエイタス・カイヨーテのドラマー、ペリン・モスと一緒にアルバムをつくる機会もあったし、ハイエイタス・カイヨーテは、30/70のアルバムをつくるのにも協力していて、私たちのコミュニティの大きな部分を占めています。今夜はナームのトランペッター、オードリー・パウンも出演するし、私たちはいまもとても仲が良くてお互いにサポートし合っている。本当に素晴らしいことだよね。ナームは小さなシーンだけど、一種の大きなグループで、みんなお互いを知っていて本当に協力的です。

最初のソロのリリースのきっかけは?

AJ:〈Northside Records〉のクリス・ギルという人がいるんだけど。彼は私の初めての7インチ・レコードをリリースしてくれた。2曲入りのね。彼と初めて会ったのはいつだったか覚えていないけど、彼はナームでソウルやジャズを演っているアーティスト全員をサポートしてくれている。そしていろんな意味で「Uncle」という存在で本当に素晴らしい人。ずっとずっと私たちと一緒に音楽を愛している人なんです。

それがいまは、ワールドツアー真っ最中ですよね。

AJ:そう。去年初めてバンドと一緒にアメリカ・ツアーをしました。デトロイトに行って、ニューヨークに戻ってきたんだけど、新たな観点でアメリカに興味を持つようになりました。様々な課題がある環境のなかで、人びとがどうやって生き抜いているのか、どうやってクリエイティヴなことを続けているのか改めて考えるようになった。そんな環境のなかでアメリカは素晴らしい芸術をつくり続けている。私にとっては感動的なことです。

アメリカではどんな人とつながりましたか?

AJ:たくさんのDJやダンス・ミュージック・シーンの人たちとつながりました。デトロイト・ハウス・シーンのスコット・グルーヴスや、マーセラス・ピットマン、あと女性プロデューサーでシンガー・ソングライターのkeiyaA、マーク・ド・クライヴ=ロウもだね。

現在はネットを通してアーティストとつながることができますが、ソーシャル・メディアとはどんな付き合い方をしていますか?

AJ:大好きでもあり、嫌いでもある。世界の反対側にいる人ともつながることができるのは本当に素晴らしいことだけど、精神的に良くないことでもあるとも思う。つながるよりつながりが切れしまうこともあるし。自分にとってポジティヴな使い方を学び続けていくのが大事だよね。でも、私はこうして音楽を通じて旅ができている。それってとても幸運なことで、つねに自分に言い聞かせているんです。なかには自分のいる場所から離れられない人もいるし、旅をシェアすることだけでも意味があるかも。例えばこの東京がどんなところかを見ることで、誰かが喜びを感じるかもしれない。

いまの音楽シーンは、男性の体を前提につくられていて、自分の体は男性よりもっと休む時間が必要だったり、もっと精神的にも肉体的にも、安全を感じることが必要な場面がある。

あなたは全て自分自身のマネジメントで活動をしていますよね。そのハードなスケジュールをどうやってコントロールしていますか?

AJ:大事なコントロール方法は、私の場合、瞑想とヨガと自然療法。自分の体の神経系の部分を意識するように努力しています。でも正直に言うと体のことは本当に難しい。ツアーの肉体的なストレスで、生理周期の乱れに悩まされることがあって生理が止まることもあります。それはすごく体に悪いことで、でもそんな現実があることを伝えておきます。でもシーンのなかでこの話題を話すアーティストはほとんどいないし、ピルを使わずいつもの周期を考えながら、どうやってコントロールするか、こういう問題を誰も話していないんです。

そんな現実があるとは、ほとんど私たちは知ることがなかったです。

AJ:これは、女性やノンバイナリーの人たちについて考えて、同じ空間で活動するという心構えがまず前提にある話だけど、私がいちばん苦労しているのは、自分の体のケア。いまの音楽シーンは、男性の体を前提につくられていて、自分の体は男性よりもっと休む時間が必要だったり、もっと精神的にも肉体的にも、安全を感じることが必要な場面がある。自分のニーズを理解して、男性のニーズと違うことをちゃんと話す、そして会話を育むことを心がけています。私も学びながらやってきたことだけど、実際いま、女性やノンバイナリーの人たちもこのニーズの違いに気づきはじめている段階に来ていると思う。だからこそためらわず会話を育むこと。そういう会話をすることで、私自身も男性とは違うアートの形を提供できていることは確かなので。

前作の『Torn : Tonic』でも、全て女性のリミキサーを起用していましたよね。音楽シーン全体の、女性やノンバイナリーの人たちの活躍について、あなたはどんな考えを持っていますか。

AJ:何より話すことが助けになると思います。実際、女性やノンバイナリーの人びとがプロデュースする音楽は、全体の 10% にも満たないと私は知っていたから、私は全く遠慮することなく自分の音楽を突き進んでいます。私の場合、プロデュースをはじめたのは、音楽を通して自分自身を表現したいと思ったから。自分の音楽は男性のつくったものとは同じようには聞こえないだろうし、同じにしたいとも思わない。自分らしくない何かになろうとするのではなく、自分にとって本当に重要だと思えることをすることが、自分を自由に表現することになると思う。世界的にそんな人びとの声や表現がもっと増えることがとても重要だと思います。男性の靴を埋めようとして生きているわけではないのだから。うまく言葉で説明するのは難しいけどね。

次の予定について教えてください。

AJ:次に出すアルバムはほとんどレコーディングが終わっていて、いま最終の仕上げをしているところ。幸運なことに、5月にロンドンのアビー・ロード・スタジオでレコーディングができたんです。じつは『The Making of Silk』と似たようなテーマがたくさんあります。思いやりや愛、そして世界のなかで自分自身を理解するというテーマかな。


hikaru yamada and mcje - ele-king

 ジャンルの壁を溶解する奇才・山田光が率いるジャズ集団、ヒカル・ヤマダ&mcje(旧名ヒカル・ヤマダ&メタル・キャスティグ・アンサンブル )のライヴ盤『live』が〈Local Visions〉からリリースされた。
 これは「10人のジャズ・ミュージシャンがヘッドフォンから流れるビートに対してインプロヴィゼーションを同時に行う特殊アンサンブルで、実験的な手法それ自体が目的ではなく、和声を薄くし、奏者同士の反応を減らし、大人数アンサンブルにありがちな祝祭感を封じるのが狙いだ。基本的に譜面もアレンジも存在せず、合奏の悦びはありません」とのこと。
 また、「本作は2023年10月に神保町試聴室で行われたライヴ音源を元に構成されている。ジャズ・インプロの現場で山田と共演してきたメンバーに加え、太田裕美や吉川晃司のツアーメンバーとして活躍したエリック笠原(近年発掘された松原みきのテレビ収録動画でもサックスで参加)やR&Bコレクティブw.a.u所属の關街が参加。2曲のヴォーカル曲の他、ギル・エヴァンス・オーケストラのライヴ盤を全員で聴きながら演奏したトラックなどを含む12曲を収録」とうことです。

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