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interview with Satomimagae

interview with Satomimagae

しじまのギター、ひそやかな歌

──サトミマガエ、インタヴュー

野田 努    Apr 30,2021 UP

Satomimagae
Hanazono

RVNG Intl. / PLANCHA

FolkAmbient

 サトミマガエの新作『花園』を聴いていると、まだマンションが乱立する前の、昔の古い世田谷の迷路のような小道に迷い込んで、偶然いままで知らなかった小さな空き地に出たときに感じた嬉しさのようなものを感じる。そこにはやはり小さな草花が風に吹かれているのだ。
 サトミマガエをぼくに教えたのは畠山地平だった。彼のレーベル〈White Paddy Mountain〉からリリースされた『Koko』があり、『Kemri』があった。畠山のイベントに出演した彼女のライヴにも行った。高円寺のとあるお店の地下スペースで、10人にも満たない人たちを前に、彼女はアルバムで聴いた印象の通りの静的な佇まいをもって、抑揚のない独自の歌い方と魅力的なギターを披露した。おそらくその週末の東京のいたるところで演奏されたどの音楽よりも、そこは静かだったはずだ。

 彼女の新作『花園』が〈RVNG Intl.〉を通してインターナショナル・リリースされるのは、楽しみというほかない。アンビエント・フィーリングを持った彼女の作品は、ひとつのサウンドとしての面白さが充分にある。物静かで音数は少ないが、細かいアレンジが行き届いており、ギターと歌以外の小さな音がほかにもこの小さな世界に共鳴している。そこから見える景色は、モノクロームではない。アルバムのアートワークのようにカラフルでもある。
 今回は初めての取材なので、ものすごく基本的なところから質問している。日本から登場したこの異色のアーティストにひとりでも多く興味を持ってもらえたら幸いだ。

いろんな感情を中和するものを作りたいなと思って。刺激のある音楽の間に挟んで聞くような休憩の音楽、でもそういう音楽が大事なときもあるなと思ったんですよね。

■生まれと育ちはどちらなのでしょうか。

サトミマガエ:茨城県です。

■ギターに興味をもたれたきっかけは?

サトミマガエ:中学生くらいのときにあった選択音楽という授業でギターを選びました。家にギターがあったので弾けたら面白いかな程度でやってみたということです。少し弾いてみたら楽しくなりすぐにのめり込みました。最初は学校で発表するという名目でやっていたので、当時流行っていたJポップなんかをやって。

■お父さんがアメリカで買ってきたブルースのレコードが好きだったという話を聞きましたが。

サトミマガエ:家族で2年間アメリカに住んでいたんです。アメリカでも父親が友だちに紹介してもらった古いブルースを聴いていたし、それを日本に帰ってきてからも車とかでかけたりして。当時は好きというわけではなかったけれどよく耳にはしていましたね。

■自分で能動的に音楽を聴いたり、あるいは演奏をするようなきっかけであったりとか、そういうのは別にありましたか?

サトミマガエ:小学生の高学年くらいからクラブ活動でトランペットを吹きはじめたんですよね。演奏より合奏がそのときは楽しいと思っていて、中学生でも吹奏楽部に入ってトランペットをやっていましたね。

■トランペット吹くのって小学生には難易度が高くないですか?

サトミマガエ:そうですね。

■じゃあいまでもけっこう吹ける?

サトミマガエ:いまはあんまり吹けないですけど(笑)過去の曲で何回か吹いています。それで中学生の終わりころにコンクールの練習で、先生がいないときに指揮台に立って各楽器に指示をだしながら曲をまとめていく役割を任されたことがあってそれぞれの楽器をコントロールしてひとつの曲にするという、そういう合奏の楽しさをそこで感じました。

■じゃあポピュラー・ミュージックといったものにはあまり縁がなかったですか?

サトミマガエ:聴いてはいたけど夢中になるような感じではなかったですね。

■でもどこかで夢中になったことが……

サトミマガエ:高校にはいったときに友だちがいわゆる洋楽を教えてくれて、そこからですね。そのとき友だちが教えてくれたのはニルヴァーナとレッド・ホット・チリ・ペッパーズでした。

■そこからどのように発展していったのですか?

サトミマガエ:バンドでベースを弾いてと頼まれベースを聴くようになったんですよね。それでずっとレッド・ホット・チリ・ペッパーズを聴いて練習していました(笑)。あとはレディオヘッドとか、ナンバーガールとかみんな聴いていたものを聴いて。そのあと大学に進んでベースをバンドで弾きたいと思って軽音部に入りました。理系の工学部のほうにあった軽音部だったので、電気とか機材に詳しい人が多くて音楽機材のことをたくさん学びました。

■分子生物学を専攻していたと。

サトミマガエ:そうです。そこでもうすこしマニアックな音楽、いわゆるもっとデジタルな音楽に出会って。さらにそのあと美術系に進んでいた姉のお手伝いで現代アートと関わる機会があって、そうするとまたまた知らなかった音楽に出会って、現代音楽や実験音楽のフィールドも知りはじめて。けっこう衝撃で本とかも読んだりしました。出会った音楽はぜんぶ歴史を調べながらというか、「すごいなぁ」と夢中になりながらいろいろ聴いてきましたね、古いフォークとかも一時期聴いてみたり。

■とくに好きだったのは?

サトミマガエ:とくに大好きというのはいなかったですね。エイフェックス・ツインやフアナ・モリーナとか、いまも新しいリリースをフォローしているアーティストは何人もいるんですけど。軽音部にいたときに、電子音楽に興味が湧いて古いものからエレクトロニカ、テクノをたくさん聴きました。友だちにクラブ行ったりDAWやってる人も少しいて、クラークを敬愛してる人がいたり、電子音楽はその頃からずっと憧れの音楽という感じで今も好きです。
その後、さきほどお話ししたように現代アートと触れる機会があり、より実験的な音楽に興味を持って 『音の海』(デイヴィッドトゥープ著)という本を読んだんですけど、それが当時自分にとって知らない世界が開けたようで衝撃でしたね。
その後学生が終わった後に出会った中東やアフリカ、インドの音楽もそれと同様の衝撃がありました。知らない音楽はたくさんあるのに見えてないだけなんだな、と。

■いま創作活動をやっているなかで大きかったと思えるようなアーティストであったり作品であったりはありますか?

サトミマガエ:(すこし考えて)いろいろあって難しいな(笑)。

■サトミさんの場合はスタイルがあるというか、ひとりでギターの弾き語りというのがベースにありますよね。なぜそういうスタイルになったのでしょうか。

サトミマガエ:ギターは自分が唯一コントロールできている楽器という気がします。いまだに発見があるから、まだできそうなことがあるなと。ピアノとかも試したけどやっぱりうまくいかなくて、私はけっきょくギターで作曲することしかできないのかなって。ギターマニアとかコレクターというわけではないですけど。

■例えば好きなギタリストがいたりとかは?

サトミマガエ:ニック・ドレイクを聴いたときは、いままで聞いたことがない感じがしました。耳コピでちょっと練習しましたね。ほかに、ホセ・ゴンザレスも最初に聴いたときに普通のフォークとは違う響きやリズムがあってハマりました。ときどき、いわゆるデルタ・ブルースというか、ライトニン・ホプキンスじゃないけど古いブルース・ギターの弾き語りを動画で見たりすると、あらためてかっこいいスタイルだなと感じます。

■ブルースのどんなところがサトミさんに引っかかりましたか?

サトミマガエ:足りない感じがしないところですかね。足したくなる感じがなくてギターと声だけで完結している、声と一緒にギターがほぼ歌ってますよね。あとリズムも好きですね。

■いわゆる弾き語りで歌いはじめたときの歌の部分、というのはどういうふうにご自身のなかで発展していったのですか? もともと歌っていたんですか?

サトミマガエ:中学生くらいから歌ってはいましたけど、綺麗な声じゃないし地声に自信もなかったのでぜんぶ裏声、みたいな。とにかく自分の声の嫌な部分をごまかして歌う方法を探っていました。シンガーとしてはぜんぜん自信はなかったんですけど、とにかく自分の声で成り立つ音楽を作ろうという感じでした。

■人前で歌いはじめたのはいつごろですか?

サトミマガエ:ちょうど20歳くらいですね。

■場所は東京でした?

サトミマガエ:東京です。

■大学で東京に来られた?

サトミマガエ:はい。

■そのときはもちろんひとりで?

サトミマガエ:バンドに1回はいっていたのでそこでヴォーカルをやっていたこともあります。そのあと自分の音楽をやりたくなったから自分でもやっていたけどソロではやってなかったですね、人にはいってもらったりしてやっていました。

■バンドで歌っていたということは、つまりサトミさんのバンドがあったんですね。

サトミマガエ:そこのヴォーカルが抜けちゃったからはいって、みたいな感じでしたね。

■なるほど、じゃあ別にサトミさんが作ったバンドというよりも……

サトミマガエ:ぜんぜん違います(笑)。あとはベースを弾いていたので基本的にずっとバンドでやっていましたね。ほとんど軽音部でやっていたからコピーバンドだったんですけど。

■20歳くらいからライヴハウスにでて歌おうと思った理由はなんですか?

サトミマガエ:やっぱりどこかでずっと音楽を作っていきたいと思っていたので……、人に知ってもらおうとなったら、ライヴをしなきゃならないのかなと感じて。

■月に1回くらいとか?

サトミマガエ:いや、もっとやっていたと思います。

■けっこう積極的にやられていたんですね。畠山地平くんがたまたまライヴで聴いて、彼のレーベル〈White Paddy Mountain〉からださないか声をかけたという話を彼から聞いたのですけど、ああいう畠山くんみたいなアンビエントやドローンであったりとかはサトミさん自身はどうでした? 

サトミマガエ:アンビエント・ミュージックにはよく触れていたし興味はあったんですけど、そんなに自分の普段聴く音楽として聴いてはいませんでしたね。畠山さんのレーベルからお誘いをうけて見てみたら、全体の美学がかっこいいレーベルだなと思って、リリースがぜんぶアンビエントやドローン・ミュージックだけではなくて、いくつかポップなユニットとかもあったりして。レーベルを探してみたこともあったんですけど、ぜんぜん自分に合うレーベルがわからないし、まずそんなにレーベルを知らなくて。畠山さんに誘っていただいて調べてみたらすごくしっくりきたというのは憶えていますね。

■ちなみに畠山くんからグルーパーというアーティストの作品を聴かされたりしませんでしたか(笑)。

サトミマガエ:聴かされてはなかったですけど、そういうふうに形容されているのはよくみて、自分は予想外でした。後からアルバムを1枚持っているのを思い出して、あぁなるほど、と思って。

野田努(2021年4月30日)

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