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野田努   Dec 10,2014 UP
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 紙エレキングのvol.15の原稿のために片岡義男の『歌謡曲が聴こえる』を読んだら、戦後の流行歌には、どこから聴いても、とにかく日々を懸命に生きている人びとが自らの心情を重ねやすい叙情の断片があるというようなことが書かれていた。その叙情とは、苦労であり、夢であり、かなわぬ夢であり、当時の人びとの夢とは、都会であり田園であり恋であるという話を読んで、なるほどーと思いながら、他方では(今週末の衆院選挙を控えての、この盛り下がっている感じとは別の話)、もう正直なところ、苦労を受け入れるほどの元気もないよなーというのが、時代のモードのひとつとして音楽に反映されて久しいことを知っている自分がいる。気持ちが萎えたというよりも、来るべき時代に向けてエネルギーを蓄えているのだろう。その兆しのひとつが、スリーフォード・モッズかもしれないし。

 グルーパーの新作『ルインズ』がなぜ「E王」じゃないんだよ~、橋元~(泣)。『A | A』以来の、彼女の新機軸によるマスターピースでしょう。ピアノの弾き語りであり、リズ・ハリスの歌モノ・アルバムとも呼べる1枚、それは「美しい沈黙」とでも言いたくなる感動的な作品ですよ。
 グルーパーは、メインストリームのポップではないけれど、欧米や日本に根強いファンを持っている。『ルインズ』もあれよあれよと在庫切れになったそうだ。彼女にしては聴きやすいアルバムなので当然と言えるが、それにしても、眩しいアメリカの裏側に広がる、もうひとつのアメリカから聴こえる鬱々とした沈んだ歌声に、人はいかなる心情を重ねているのだろう。それは最低の生活と思われているものにおけるシェルターとして機能しているかもしれないし、オルタナティヴな人生論にリンクしているかもしれないし、あらたな突破口かもしれない。何せよ、彼女の歌にすり切れた心を落ち着かせる力があるのはたしかだ。『ルインズ』は、自分に元気がないときに聴くとものすごく入って来る。

 畠山地平のレーベルからリリースされたサトミマガエの『ココ』は、もっともグルーパーの領域に近い日本人女性シンガーの作品だと言える。ドローンをやっているわけではないし、そもそも声質が違うし、歌としての輪郭はリズ・ハリスよりはっきりしているので、もちろん別モノなんだけれど、サトミマガエにもグルーパーに象徴される「沈黙」(「廃墟」と言ってもいい)を感じる。
 とはいえ、彼女の声はリズ・ハリスのようなウィスパーではない。UAにも似たハスキーな声だ。歌い方は、一時期の七尾旅人にも似ているのかな。押しつけがましさはないけれど、力強さがあって、なかなか魅力的な歌声だ。さりげない歌メロもとても綺麗で、余韻があって、透明なギターのアルペジオがそれを引き立てている。そこへきて、畠山地平がミキシングを担当しているので、音響的なユニークさ、アンビエント的なセンスも注がれている。ただただ聴いているだけでも、とろけそうな音楽。憂鬱でありながら、心地よく感じられる音楽と言うか、それは、いたって静かな音楽であるがゆえに、このタフなご時世のなかで突破口を探しているように響いている。エネルギーを蓄えながら。グルーパーのファンは、注目して良いでしょう。

野田努