「S」と一致するもの

interview with Acidclank (Yota Mori) - ele-king

 一心不乱にモジュラー・シンセを操作しながら身体を揺らすひとりの若者の姿──それが最初に観たAcidclankの動画だった。随所にグリッチやドリルンベースっぽい要素が挿入されるそのインプロヴィゼイションを耳にし、これはロレイン・ジェイムズやイグルーゴーストといった今日におけるエレクトロニック・ミュージックの牽引者たちと並べて語るべき新世代かもしれない──そんな話が編集部では浮上した。
 たしかに、間違ってはいない。けれどもAcidclankのバックグラウンドはその先入見を超えたところに存在していた。旧作を遡って聴いていくと、随所でギターが小さくはない役割を果たしている。そもそも音楽に目覚めたきっかけは、父親のギターを触ったことだったという。Acidclank自体、もともとはバンドだった。なるほど、シューゲイズやマッドチェスターの恍惚を頼りにエレクトロニック・ミュージックの深き森を分け入っていった結果、モジュラー・シンセと出会うことになった、と。

 2月にCDでリリースされ、3月5日にLPが発売される通算6枚目のアルバムは『In Dissolve』と題されている。溶解中。あるいは、溶解して。ブックレットにはAcidclankことYota Mori当人がつづった英文が記されている。「境界が曖昧になり、どこからどこまでが “自分” なのかわからなくなる/天井から滴が落ちる。それは雨なのか、それとも自分が溶けていく音なのか/確かめる術はない」
 コンセプトはずばり、トランスだ。むろんそれは音楽スタイルのことではなくて、ある種の体験、意識の変容を指している。面白いのは、そんなトランス状態に達するための道筋はけしてひとつではないということを、このアルバムが身をもって実践している点だろう。新作にはガムランもあればぶりぶりのアシッド・サウンドもあるし、ドラムンベースもジョニー・マー風ギターもダブステップも含まれている。個人的に唸らされたのは “Mantra” で、かそけきダブ・テクノをバックに親しみやすいアコースティック・ギターとスーパーカーからの影響が色濃くにじんだヴォーカルが浮遊していくさまには舌を巻かざるをえなかった。こんな組み合わせがありえたのか、と。
 屋号からしてサイケデリックなこのトラックメイカー/シンガー・ソングライターはいったいどんな音楽遍歴をたどってきたのか? きたる3月7日にはCIRCUS Tokyoでリリース・パーティを控えるYota Mori。その背景を探ってみようではないか。

世代ではないんですけど、SUPERCARはめちゃくちゃ聴いてましたね。

新作は「トランス」がコンセプトだそうですね。

MORI:「アシッドクランク」という名前のとおり、サイケデリックな音楽表現をやりたいという想いが最初からありました。これまでのアルバムでも「サイケデリック」や「トランス」的なものをテーマにしていて。ただ今回はそれをより前面に押し出して、よりコンセプチュアルにつくったという感じですね。

アシッドクランクはバンドだった時期もあるんですよね。

MORI:アシッドクランクをはじめたのが大学2年か3年のころで、当初はサウンドクラウドに曲を上げて反応を見るみたいなところからスタートしました。そうしたことをしばらくやっているうちに自分の曲をバンド・セットでもやってみたくなって、メンバーを集めたんです。いまでこそモジュラー・シンセサイザーを使っていますけど、そのときは僕を含めて4人編成のギター・ロック・バンドで、UKのロックやオルタナティヴ・ロックから影響を受けたサウンドでした。その後〈3P3B〉というレーベルに声をかけてもらってセカンド・アルバム『Addiction』を出すことになって。

それが何年ですか?

MORI:2018年ですね。このときはCDとLPだったんですが、全国流通盤としてアルバムをリリースしたのはそれが最初でした。それ以前はバンドキャンプで宅録のアルバムを出していて、なのでバンドとして初めて出したアルバムが『Addiction』ですね。その後あらためて宅録のソロ・プロジェクトに戻って、いまのアシッドクランクになります。

ソロ・プロジェクトに戻そうと思ったのはなぜです?

MORI:やっぱりバンドの枠組みのなかでは自分のやれることが制限されてきたなっていう思いがあって。それで一度解散しました。といってもメンバー間で衝突したというわけではなく。レーベルのリリースがバンド主体だったこともあって、バンド・サウンド的なものをもとめられていたんですね。でもそれ以外にもやりたいことがあった。なので、初心に立ち返って自由にやりたいということで、名前はそのままにソロ・プロジェクトに戻したんです。それが現在までつづいている感じですね。

なるほど、ではバンドとして出したのは『Addiction』だけなんですね。

MORI:そうです。その後〈Ano(t)raks〉というネット・レーベルからサード・アルバム『Apache Sound』を出したり、セルフ・リリースでフォース・アルバム『Vivid』をバンドキャンプ経由で出したりと、ソロに戻ってからはけっこう自由にやっていましたね。

最初に音楽に目覚めたのはいつごろですか?

MORI:本格的に音楽を聴きはじめたのは高校からです。といっても当時リアルタイムで流行していた音楽より、昔の音楽を聴き漁っていた感じで。家に置いてあった父親のアコースティック・ギターを触ったのがきっかけでした。最初は父親が好きなフォーク・ソングの弾き語りをしたり、エリック・クラプトンのMTVアンプラグドのライヴ映像を観たりしていて、フィンガーでブルースを弾いたりとか、アコギばっかり弾いてましたね。その延長でオアシスとかを聴きはじめて、という流れです。

やはりギターの存在は大きかったんでしょうか。サード以降のソロ作でもけっこうギターの存在感がありますよね。

MORI:原体験というか。やっぱり音楽をはじめたきっかけだったので。いまでも音源にはよく入れますね。

プログレッシヴ・ロックって、アルバム1枚をとおして聴く前提のフォーマットになってることが多いじゃないですか。だから今回のアルバムもそういうふうにつくったつもりです。

音楽を自分でやるようになって、同時代でピンときた作品やアーティストはいましたか?

MORI:あまりリアルタイムの音楽を聴くということをしていないんです。当時はオアシスから遡るというか……日本のバンドでいうと、その世代ではないんですけど、SUPERCARはめちゃくちゃ聴いてましたね。

やはりそうですよね。節々からSUPERCARの影響が感じられるなと思って、お尋ねしようと思っていました。聴きはじめたときはすでに解散していたと思うんですが、どんなふうに出会ったんでしょう?

MORI:高校生のとき、ぜんぜん友だちがいなくて(笑)。ずっと家で音楽を聴いてるか、ギター弾いてるかだったんです。その時点でもうユーチューブはあったので、それで聴きはじめましたね。

シューゲイズのバンドより先に、SUPERCARと出会って。

MORI:そうですね。SUPERCARが先ですね。シューゲイズだと、やっぱりマイ・ブラッディ・ヴァレンタインは好きですが、ティーンエイジ・フィルムスターというバンドがとくに好きで。そういうマッドチェスター的な要素が入ったバンドが好きですね。ライドとか。大きな音でフィードバック・ノイズを聴いていると、やっぱりちょっとトランシーな感覚になるというか、そういう部分はアシッドクランクでも表現したいと思っています。それでライヴでもかなりシューゲイズ寄りの曲をやってますね。

ロックだとほかにはどういうものが好きだったんでしょうか?

MORI:プログレをめちゃくちゃ聴いていましたね。大学生のころ、カケハシ・レコードっていうレコード屋でいっぱい買ってました。最初はピンク・フロイドやキング・クリムゾンから入って、ソフト・マシーンだったりジェントル・ジャイアントだったり、本当にいろいろ聴き漁りましたね。プログレッシヴ・ロックって、アルバム1枚をとおして聴く前提のフォーマットになってることが多いじゃないですか。だから今回のアルバムもそういうふうにつくったつもりです。前半はA面として聴いてほしいし、後半はB面として聴いてほしくて。けっこうプログレっぽいアルバムにしようとは今回考えましたね。

もともとは大阪で活動されていたんですよね。上京したのが2023年で。

MORI:はい。引っ越してきたタイミングがちょうどフジロックのレッドマーキーに出演したあとで。そのとき年齢的にも30手前だったということもあって、大阪でやってた仕事を辞めて、音楽だけでやってみようっていうモチベーションで東京に来ました。

上京前は大阪のなにかしらのシーンと接点があったんでしょうか?

MORI:大阪はけっこう洋楽志向っぽいインディというか、アシッドクランクに似た系統のバンドもわりといましたね。ただそっちはいわゆるオルタナな感じというか、アシッドクランクはダンス・ミュージックの要素もあるので、シーンに溶けこめていたかというと、あまりそうではなかったような気がします。

最初に観たアシッドクランクの動画がモジュラー・シンセのものだったので、完全にその先入見でとらえてしまっていたんですが、過去作を遡っていくと、けっこうギター・サウンドだなと新鮮な体験でした。

MORI:原体験がオアシスなので。

メロディがキャッチーなのにも、そうした原体験が影響しているんでしょうか。

MORI:そうですね。メロディは作曲の過程でも大事にしていて、どれほどアヴァンギャルドなトラックだろうともメロディはきれいにしようと心がけています。それは、エイフェックス・ツインの影響もありますね。彼も激しいドラムンベースにきれいなメロディを載せたり、すごくきれいなピアノの曲をつくったりしますよね。エイフェックス・ツインでいちばん好きなのは『Drukqs』なんですが、そうした影響は大きいと思います。

モジュラー・シンセに関心が向かったのはいつで、なぜそうなったのですか?

MORI:はじめたのはコロナ禍の最中でしたね。時間とお金に余裕ができて。ただ興味をもったのはそれ以前で、フォー・テットがDJセットの脇にモジュラーを置いているのを見たときでした。それで自分の制作のとき横に置いておきたいなと思って買ったんです。そこから集めはじめて現在に至る感じです。やっぱりダンス・ミュージックの表現をやっていくうえで、ギターだと表現できないこともあって。でもだからといってMacbookを置いてライヴするのもちがうなと感じていたので、いいツールに出会えたと思っています。それでライヴでも使うようになりましたね。

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エレクトロニックな音楽もシューゲイズも、ループするフレーズを大音量で聴いていると自分の感覚が溶けていく感じというか、そういうある種のトランス状態に誘われるという点ではおなじなのかなと。

過去作をたどると、『Vivid』から音響が変わって、エレクトロニックがメインになった感じなのかなと思ったのですが。

MORI:まさに『Vivid』からですね。積極的にアナログ・シンセをとりいれはじめて。ギター・ロックはもうけっこうやってきたので、いま関心が高いのはダンス・ミュージックですね。新作にもバンド・サウンドは入ってるんですけど、関心はダンスのほうが高いかな。

ダンス・ミュージックだとどういうものがお好きなんですか?

MORI:エイフェックス・ツインとかスクエアプッシャーとか〈Warp〉系がいちばん好きですね。ボーズ・オブ・カナダもめちゃくちゃ好きですし。あとは、フォークトロニカの音響も好きですね。エレクトロニックな音楽もシューゲイズも、ループするフレーズを大音量で聴いていると自分の感覚が溶けていく感じというか、そういうある種のトランス状態に誘われるという点ではおなじなのかなと。そういうところにじぶんは惹かれるんだろうなと思います。

新作の最後の曲は、途中からレコードのパチパチ音が入ってきて、ダブステップのビートになっていきます。これは、ベリアルですよね?

MORI:ですね(笑)。ベリアルと、あとマウント・キンビーからも影響を受けているんですが、そのあたりの耳にいい音響の感じは意識していますね。そういうところでリスナーに気持ちよくなってほしいという思いでつくりました。

音響はアルバムを出すごとに洗練されていっている印象を受けました。濁らせるというよりはきれいな方向に向かっているというか。

MORI:どちらも好きなんですけど、今回はハイファイな方向に振り切った感じですね。ごりごりのノイズはライヴで表現したいので、音源は音源できれいなほうに振り切ろうと思ってミックスもやりました。

新作は1曲1曲タイプがちがっていて、いろんなスタイルを1枚に詰めこんだ雑食的なアルバムになっています。

MORI:これまでもいろんなジャンルを入れてはきたんですが、今作はよりコンセプチュアルにまとめています。ひとつのおなじテーマでアルバムをつくったのは今回が初めてなんです。そういう点ではまとまりはできているかなと。

1曲目はガムランで。

MORI:ですね。ただあれは、サンプルも入ってはいるんですが、基本的にはモジュラー・シンセでつくった音なんです。物理モデリングっていう。モジュラーを使いだしてからアナログ・シンセでそういう音を出せるということを知って、いつかやってみたいと思っていたので、今回ようやくという感じです。

インドネシアの音楽を研究したというわけではなく。

MORI:そっち方面の音楽もけっこう好きではあります。じつは幼いころ、マレーシアに住んでいたんですよ。父親の仕事の関係で、幼稚園〜小学生のころ、4年くらい暮らしていました。そのとき東南アジアのいろんなところに連れていってもらったりもして、そういう音楽も知らず知らずのうちに聴いていたし、いまでも好きなので、今回自然にとりいれられたのかもしれないです。

新作は「トランス状態の追体験」がテーマですが、サイケデリックな音楽でいちばんやばいと思った音楽はなんでしたか?

MORI:マニュエル・ゲッチングの『Inventions For Electric Guitar』(1975)ですね。ずっとミュート・ギターが左右で鳴っていて、あれはすごかったです。

トランスへの欲望には、現実がいやだというような思いもあったりするんでしょうか?

MORI:とくにそういうわけではないんですけど、せっかくアルバムを聴いてもらえるんだったらやっぱり非日常的な体験をしてもらいたいなと。

新作でいちばん苦労した曲はどれでしたか?

MORI:曲単体というよりは、流れを考えるのがすごく大変でしたね。A面は全部BPM120で揃えてシームレスにつなげてるんですけど、LPを出すことが決まっていたので、最初からそういう構想はしていました。だから流れをどうしようか、シームレスに聴けるかどうかっていうところに最後まで悩みましたね。

最近のエレクトロニック系の音楽で気にいっているミュージシャンはいますか?

MORI:バーカー(Barker)ですかね。リズム・パートが鳴っていなくてミニマルなコードが鳴っているような。ロレンツォ・センニとか、あまりビートが入っていない、ウワモノだけでつくっているようなのが好きですね。

新作にはダブ・テクノも入っていますよね。

MORI:そこらへんもすごく好きですね。

“Mantra” はトラックはミニマル・ダブなのに、ギターも鳴っていて、メロディラインはSUPERCAR風で、おもしろい組みあわせだなと思いました。

MORI:そういえばあの曲はけっこう大変だったかもしれない。「どんな曲になるんやろ?」って、最後まであまりイメージが固まらずつくっていたおぼえがあります。後ろでぽこぽこなっているのはぜんぶリゾネーターのシンセなんですが、そこにギターを重ねてつくりましたね。

しかもそれにつづくのがドラムンベースで。ほんとうにタイプのちがう曲が1枚に詰めこまれていますよね。

MORI:ライヴのソロ・セットはけっこうそっち寄りなんですよ。3月7日のリリース・パーティではバンド・セットとソロ・セット、どちらも披露します。

サポートの中尾憲太郎さんとはどういう経緯で?

MORI:中尾さんは、モジュラー・シンセ友だちみたいな感じで。中尾さんもソロで4つ打ちのダンス・ミュージックをやっているんですけど、そういうイベントで知りあって、その流れでサポートもやってもらうことになりました。モジュラー・シンセって、自分のやりたいことが見えてないとどんどん深みにハマっていくんですけど、自分のソロ・セットはここ1年くらいでどういう音楽をやりたいのかっていうのが見えてきましたね。

最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

MORI:アルバムを一度通しで聴いてほしい、それだけに集中して聴いてみてほしい、というのはありますね。たとえば部屋を真っ暗にして、スピーカーに向かって通しで聴いてみてほしいというか。そういう思いはありますね。そのうえで、ぜひ一度ライヴにも来てほしいなと思っています。アシッドクランクで表現したいことって、ライヴを体験してもらって初めてわかってもらえるのかなとも思っていて。大きな音で、ウーファーの揺れとか含めてトランス体験ができるはずです。

[リリース情報]
Acidclank
ALBUM
『In Dissolve』
2025.02.05 [CD] / 03.05 [VINYL]
PCD-25459 / PLP-7534
定価:¥2,750(税抜¥2,500) / ¥4,500(税抜¥4,091)
Label:P-VINE
※linkfire:https://p-vine.lnk.to/32QIyc

Tracklist:
1. Enigma
2. Hide Your Navel
3. Hallucination
4. Radiance
5. Mantra
6. Remember Me
7. Out Of View
8. Grounding

[リリースイベント情報]
Acidclank 「In Dissolve」 Release Party
『acidplex (dissolution)』

日時:2025年3月7日(金)
OPEN / START:18:00 / 18:30
会場:東京・渋谷 CIRCUS Tokyo
LIVE:Acidclank
GUEST:Big Animal Theory
Ticket:
pia https://w.pia.jp/t/acidclank-t/

Acidclank:
@ACIDCLANK
@y0ta1993
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R.I.P. David Johansen - ele-king

 2月28日、元ニューヨーク・ドールズのデヴィッド・ヨハンセンが亡くなった。10年ほどまえにステージ4の癌と診断され、5年まえには脳腫瘍も患い、さらには昨年11月に自宅で転倒して背骨を骨折し、寝たきりとなっていた。介護費用を募るための基金を家族が設立したというニュースが流れたばかりのことだった。

 ヨハンセンは、1950年生まれ、ニューヨークのスタテン島出身。『プリーズ・キル・ミー』によればキャンプな作風で知られた前衛演劇集団シアター・オブ・リディキュラス界隈に出入りしていたが、「ヘテロセクシュアルすぎた」ために劇団には馴染めず、ヴァガボンド・ミッショナリーズというローカル・バンドでシンガーとして活動を開始した。ジョニー・サンダースを中心として結成されたバンド、アクトレスがニューヨーク・ドールズに名前を変更した後、ヨハンセンは加入している。もともとヴォーカルも兼ねていたジョニーがギターに専念したいということでフロントマンとして迎えられたのだった。ドールズの多くの曲にヨハンセンの名がクレジットされていることを見ても、彼の加入がドールズの音楽性に決定的な影響を与えたことがうかがえる。


ヨハンセンのペンによる代表曲“Looking for a Kiss”

 盟友シルヴェイン・シルヴェインの追悼文でも書いたことだが、ニューヨーク・ドールズの功績とはハード・ロックやプログレが全盛だった70年代のロックに50年代のロックンロールやガールグループの「三分間ソング」を取り戻したことであり、すなわちパンクなのだった。そんなパンクの勃興を尻目に77年にドールズは解散。そしてヨハンセンは80年代にはタキシードにリーゼント姿の「バスター・ポインデクスター」という変名でスイングジャズ、ジャンプ・ブルース、ラテンなどを洒脱に歌い、ソカ・ナンバー“Hot, Hot, Hot”のカヴァーをヒットさせる。ヨハンセンもドールズも知らずに聴いていたリスナーも多かったようだ。『三人のゴースト』など、ハリウッド映画に出演していたのもこの頃のこと。

 バスター以前にドールズのセカンド・アルバムでもソニー・ボーイ・ウィリアムソンのカヴァーをしていたように、ヨハンセンはルーツ音楽への探求心も持っていた。97年にハリー・スミス編纂のアンソロジー『Anthology of American Folk Music』が再発されたことを受け、「デイヴィッド・ヨハンセン&ザ・ハリー・スミスズ」というユニットを結成。ビル・フリーゼルとの仕事で知られるジャズ・ミュージシャンなどを迎えて2枚のアルバムを作っている。
 2004年にはモリッシーの呼びかけでドールズの再結成が実現。再結成後には3枚のスタジオ・アルバムを残しているがとくに最後の『ダンシング・バックワード・イン・ハイ・ヒールズ』(2011)はモータウンなどの影響を感じさせるリズム&ブルースをベースにリヴァーブの効いたドリーミーなコーラスワークがフィーチャーされ、50年代のロックンロールとルーツ音楽の探求が結びついたヨハンセンのひとつの集大成と言っていい。
 “Funky but Chic”は78年リリースの初ソロ・アルバムの劈頭を飾った曲だが、本作で再演されている。パンクの荒々しさ、グラムの華やかさ、ルーツ音楽の土臭さ、まさにヨハンセンその人を表すと同時に、かつてのニューヨークの猥雑なカルチャーを象徴するようなタイトルだ。

 2022年にはマーティン・スコセッシが監督したドキュメンタリー『Personality Crisis: One Night Only』が制作されテレビ放送された。スコセッシは当時のインタヴューで次のようにコメントしている。「デイヴィッド・ヨハンセンとは数十年来の付き合いで、映画『ミーン・ストリート』を制作していた頃に、ニューヨーク・ドールズを聴いて以来、彼の音楽はずっと私の試金石となっています 。当時も今も、デイヴィッドの音楽はニューヨークのエネルギーと興奮を捉えています。私は彼のパフォーマンスをこれまでに何度も観てきましたが、長年かけて彼の音楽的インスピレーションの深さを知ることができました。昨年(2019年)、カフェ・カーライルで行われた彼のライヴで、彼の人生と音楽的才能の驚くべき進化を間近で目にした後に、この映画を撮らなければならないと感じました。私にとってあのショーは、ライヴ音楽体験における真の意味でのエモーショナルな可能性を捉えたものでした」
https://www.udiscovermusic.jp/news/martin-scorcese-new-york-dolls-david-johanesen-documentary

 あいにくと日本ではソフト化も配信もされていない。アメリカではPrimeVideoで配信されているようなので、ぜひ日本でも見られるようにしてほしい。

 最後に個人的なことになるが、筆者はシルヴェインの来日時に『プリーズ・キル・ミー』にサインを書いてもらった(「これはいい本だ」と言ってくれた)。いつかその横にヨハンセンにもサインを入れてもらうのが夢だったが、それも叶わなくなってしまった。とても悲しい。

interview with DARKSIDE (Nicolás Jaar) - ele-king

 最初のEPから早14年。その後『Psychic』(2013)、『Spiral』(2021)と冒険を繰り広げ、サイド・プロジェクトと呼ぶのがはばかられるクオリティを見せつけてきたダークサイド。その最新作『Nothing』もまた大胆不敵な即興演奏とエディットが美しく実を結んでいる。
 2010年代以降におけるエレクトロニック・ミュージックの重要人物のひとり、近年はダンスにフォーカスしたアゲンスト・オール・ロジック名義での活躍も忘れがたいニコラス・ジャーと、ジャズ~即興演奏にルーツをもつデイヴ・ハリントン。ふたりがそれぞれソロではできないことを追求するアヴァンギャルド・バンドがダークサイドである、と言ってしまうと今日ではフェイク・ニュースになってしまう。彼らは新たなメンバー──かつてハリントンが属していたバンド、アームズのドラマーでもあるトラカエル・エスパルザ──を迎え、現在では3人組になっている。
 さまざまな音楽を貪欲に参照し独自に昇華していくそのあり方はいまでも変わらない。4年ぶりの新作はダークサイド流のダブが炸裂する “Slau” にはじまるが、ファンクのグルーヴが昂揚をもたらす “S.N.C.” にパンキッシュなダンス・チューンの “Graucha Max”、ラテンの風を呼びこむ “American References” などなど、アルバムはこれまで以上にヴァラエティに富んでいる。途中でがらりと風景を変える “Are You Tired” なんかは、彼らの編集術のひとつの到達点かもしれない。
 随所でノイズがふんだんに用いられているところにも注目すべきだろう。前作『Spiral』にパンデミックを先どりしたような曲が収められていたことを踏まえるなら、新作もまたこの激動の時代にたいするアンサーのような要素を含んでいるのではないか?
 奇しくも、今回の新作の情報はLA大火災のタイミングでアナウンスされることになったわけだが、メンバーのうち当地にいたハリントンとエスパルザはまさにその被害を受けてしまったそうだ。そんな大変な状況のなか、ロンドンにいたニコラス・ジャーが取材に応じてくれた。通訳の青木さんによれば、思慮深く、慎重にことばを選んでいたという。

自分がつねに目指しているのは、スロウでありながら推進力があり、動きのあるエレクトロニック・ミュージックをつくる方法を見つけることなんだ。

大火災で大変ななか取材をお受けくださり、ありがとうございます。1月末にようやく鎮火したそうですが、あなたたち自身にも被害は及びましたか? この1か月どのように過ごされていたのでしょう。

ニコラス・ジャー(Nicolás Jaar、以下NJ):質問をありがとう。バンド・メンバーのほかのふたり、トラカエル・エスパルザとデイヴ・ハリントンは当時ロスにいたから、避難せざるをえなかった。ふたりとも無事で、家に戻ることができた。自分はずっとロンドンにいたので、火災の直接的な影響はそれほど受けなかったよ。

ダークサイドは、メンバーそれぞれのソロ活動とはべつに気軽にとりくめるプロジェクトという位置づけだったと思いますが、それは今回も変わりませんか?

NJ:面白い質問だね(笑)。トラカエル・エスパルザが加入した2022年以降、ダークサイドはバンドの新たなフェーズに入りつつあり、バンドとしての活動がより活発になった。少なくとも年に1回はツアーをおこなうようになり、アルバム『Live at Spiral House』のようなジャムの形や、『Nothing』のようなスタジオ・アルバムという形をとおして、一緒に音楽をつくることが以前よりも多くなった。自分にとって『Nothing』は、これまでの音楽人生でもっともエキサイティングなプロジェクトのひとつ。今後がすごく楽しみだし、このアルバムが自分たちをどこに連れていくのか見てみたい。自分たちはこのプロジェクトが大好きで、お互い一緒に仕事をすることに喜びを感じている。トラカエル・エスパルザと仕事をするようになったことで、バンドは根本的に変わり、以前は表現できなかった新しいサウンドが表現できるようになった。

3人編成になった経緯を教えてください。

NJ:ロサンゼルスでトラカエルと毎日演奏するようになったのは、2022年の7月か6月頃だった。テナントを2、3か月間借りて、そこで毎日演奏して、ジャムをして、ドアを開けっ放しにして、ひとが出入りできるようにしていた。そうやってバンド活動を再開したんだ。それ以来、バンドは大きく変わったと思う。

3人になったことで音楽制作の方法に変化はありましたか? 3人一緒にスタジオに入ったのでしょうか?

NJ:そうだよ。3人で一緒に音楽をつくっているし、トラカエルが新たなアイディアやサウンド、そしてハーモニーやパーカッションのアイディアをいろいろと出してくれるから、スタジオの雰囲気も変わった。だからバンドとして大きく成長できたと思う。

役割分担のようなものはありましたか?

NJ:役割分担がはっきりしているとは言えないね。スタジオでは、ひとりひとりがちがう役割を担うことができるから。とはいえ、デイヴはマルチ・インストゥルメンタリストで、たくさんの楽器を演奏する。彼はオルガン、ピアノ、ギター、ベースを弾くし、コンガやパーカッションも演奏できる。トラカエルはおもにドラム・セットとパーカッションを演奏して、自分はおもにシンセサイザーや自分の声、そしてコンピュータ関連のエフェクトとシーケンスを扱っていた。でも、トラカエルがシーケンサーのアイディアを出してコンピュータを扱うこともあった。ときにはデイヴが……あるいはトラカエルが歌うこともある。トラカエルと自分が一緒に歌う曲もあるんだ。だから、すべてがとても流動的なんだ。

カンは若いころからずっと、自分のインスピレイションとしてDNAのように組み込まれている。20年以上前から。それに自分はずっとカンの大ファンだった。

ニュー・アルバム『Nothing』の1曲目はダークサイド流の独自のダブで驚きました。本作制作中にダブを聴きこむことはあったのでしょうか?

NJ:最近はダブをよく聴いているよ。音楽制作の過程では当然、多くのインスピレイションが無意識にあらわれてくる。自分がつねに目指しているのは、スロウでありながら推進力があり、動きのあるエレクトロニック・ミュージックをつくる方法を見つけることなんだ。最初の曲はその両方を兼ね備えていると思う。

あなたにとって最高のダブ・マスターはだれですか?

NJ:キング・タビーやスライ&ロビーなど、すべてをはじめた正真正銘のオリジネーターたち。究極のダブはいつの時代においてもジャマイカにあると思う。ダブはジャマイカに宿っている。ダブはジャマイカのものなんだ。もし自分たちやほかのだれかが、ダブからインスピレイションを受けているのであれば、それはジャマイカという島の驚くべき音の達人たちや天才たちからインスピレイションを受けているということなんだ。たとえばベーシック・チャンネルなど。そういうひとたちも自分にとってのインスピレイションではある。でも、おもなインスピレイションは「源」にあるんだ。そして、ダブの源とは、当然、キング・タビーやリー・ペリー、スライ&ロビーなど……ほかにもたくさんいる。

途中でがらりと雰囲気が変わる “Are You Tired? (Keep on Singing)” のように、新作はこれまで以上にコラージュの感覚が増しているように感じました。ダークサイドの音楽は数々の即興演奏と録音後の編集から成り立っていると想像しますが、やはり編集に費やす時間が大きいですか?

NJ:そうだね。質問制作者の意見に同意するよ。そういう成り立ちだ。ジャムをして、ジャムが終わったら編集をはじめる。でもジャムにかんしては、起きるべきことはすべてジャムで発生させるようにしているんだ。

即興演奏とテープ編集の先駆者であるケルンのバンド、カン(CAN)について思うところを教えてください。

NJ:自分が10代の頃、1999年にチリからニューヨークに来て、初めてカンのレコードを聴いたときのことをいまでも覚えている。ニューヨークで育った自分にとって、カンを聴くことは自分の音楽人生を大きく変えた体験だった。だからカンは若いころからずっと、自分のインスピレイションとしてDNAのように組み込まれている。20年以上前から。それに自分はずっとカンの大ファンだった。だから彼らを自分のなかから取り除くことは不可能だと思う。

他方で今回の新作は、“Graucha Max” や “Sin El Sol No Hay Nada” 中盤からの展開のように、前作よりも歪んだノイズが目立つ印象を受けました。これにはメンバーのどのような意識の変化が関係していますか?

NJ:自分はいつもノイズ・ミュージックをつくっているよ、とくにライヴで。自分の以前の作品を聴いてきたひとからするとノイズは予想外だから、驚かれることもある。でも、デイヴだって昔からノイズ・ミュージックに取り組んできたし、トラカエルもそうだから、自分たちにとっては驚きではない。でも、たしかにいままではアルバムであまりノイズを使ったことがなかった。今回、アルバムで初めてノイズを起用したけれど、ライヴでは──デイヴとライヴをやりはじめた初期のころから──ずっとノイズを使ってきたんだよ。

今回の新作でもっとも難産だった曲はどれでしょう? またなぜそうだったのでしょうか。

NJ:“Are You Tired? (Keep on Singing)” がもっとも難しい曲だった。なぜなら、この曲には非常にバラバラな部分があり、「よし、この曲はこうしよう」と、勇敢で大胆不敵な態度で臨み、それでメイクセンスするものだと自分たちで確信していなければならなかったから。この曲はいまとなってはお気に入りのひとつになったけれど、制作は冒険であり、ジェットコースターのようだった。

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われわれはいつだって「未来の残響」のなかで生きている。音楽はそうした「未来の残響」を「物質」に変える手段のひとつなんだ。

新作『Nothing』の「Nothing=なにもない」には、ハリントンさんが娘さんと一緒に試みた、「なにもしない」というマインドフルネスの体験もこめられているそうですが、他方で、気候変動にたいする無策や偽善的な政治も含まれているようですね。歴史的な大火災の直後にこの新作がリリースされることの意味について、なにか考えたりしましたか?

NJ:(しばらく、1分近く、考えている)大災害というものは、悲しいことに毎年起きている。自分たちが暮らす世界では、イスラエルによるパレスチナ人にたいする大量虐殺のような人災が起こっている一方で、自分たちの消極的な態度や、消費主義的な生活様式を変えることができないことが原因で、地球の気候が急速に変化し、自然災害が頻発するようになっている……。この地球上で危機のない瞬間はないと思う。いつだって、どこかで危機が起きている。スタジオでこの音楽をつくっていたとき、自分たちは世界の残酷な現実から目を背けず、現実を遮断しないようにしていた。できる限り現実を直視しようとしていたんだ。アルバムが発表されたのは、火災がロサンゼルスの大部分を破壊し、地域の広範囲が瓦礫と無に帰したのと同じ日だったと記憶している。自分たちはそのようなことが起こるとは予想もしていなかったし、それは明らかにたんなる偶然の一致ではある。だが、破壊という行為が24時間365日、自分たちの目の前で繰り広げられているという事実は、偶然ではなく、自分たちが自らとった行動、あるいは行動しなかったことの結果なんだ。

2018年に録音され2021年にリリースされた前作『Spiral』には、パンデミックの状況を歌っているかのような “Lawmaker” という曲が収められていました。今回のリリースのタイミングもそうですが、ダークサイドには予言者めいたところがあると感じたことはありませんか?

NJ:あなたの話を聞いて鳥肌が立ったよ。なぜなら大半のひとは、音楽が過去につくられたものであっても、不思議な形で現在を語っていることがあるという事実を見逃しているから。それは予言とかそういうことではないし、デイヴや自分がなにかをしたからでもない。われわれはいつだって「未来の残響(echoes of the future)」のなかで生きているという事実に起因しているんだ。そしてわれわれはつねに「未来の残響」と「過去の残響」とともに歩んでいる。そして、音楽はそうした「未来の残響」を「物質」に変える手段のひとつなんだ。

ふたつのパートに分かれている “Hell Suite” は、おどろおどろしい曲名とは裏腹に、むしろ天国のような雰囲気をもった落ちついた曲です。この曲ではどのようなことが歌われているのですか?

NJ:“Hell Suite (Part I)” について……。ときどき歌詞を忘れてしまうのでデータを確認する、ちょっと待ってて。“Hell Suite (Part I)” は、自分たちがいる場所が地獄であることから、服などを持って、遠い旅に出なければならないひとたちのことを歌っている。彼らは故郷から遠く離れすぎて、いまでは故郷がどんなところかわからなくなってしまったと言う。この曲はじつは7年ほど前に書かれたんだ。この曲のデモは7年ほど前に書かれたもので、当時自分は「やめるのはまだ遅くない(It's not too late to stop)」と歌った。今日、ライヴでこの曲を演奏するときは歌詞を変えていて、「どうやって彼らをやめさせるか?(How will we make them stop?)」と歌っているんだ。この世に地獄をつくりだした人びとに責任を負わせるという意味で。それは多くの場合、ナルシシストで強欲でエゴイスティックな政治家たちだ。“Hell Suite (Part II)” は、ある意味、最初の曲の続きであり、主人公と彼が話している相手が湖で出会うという内容。湖とは、「たったいま」つまり 「いましかない瞬間」。そしてそのふたりが出会うと、互いにあることに気づく──双方とも壊れてしまっているということに。だが、その壊れた姿こそが、二者を分断するのではなく、互いを理解する方法となるかもしれない。

あなたは積極的にガザの状況についてリポストしています。音楽にはつらい現実からわれわれを守ってくれるシェルターの役割がある一方で、逆に音楽は現実へ意識を向ける契機にもなりえます。現代のような大変な世界のなかで音楽活動をやっていくことについて、あなたはどのように考えていますか?

NJ:つねに矛盾を抱えている。そのことについては毎朝、自分と向き合って納得させなければならないものだと思っている。簡単な答えはないけれど、自分がいまでも音楽をつくっているのは、感情的、精神的な理由からであり、心が音楽を必要としているから。自分がこの世界で生き続けるためにはそうするしかないんだ。

最後の曲 “Sin El Sol No Hay Nada” は、太陽がなければなにもない(Without the Sun there is nothing)という意味のようですね。逆にいえば太陽は希望ともとれそうですが、あなたにとっての太陽とはなんでしょう?

NJ:この小さな惑星に生きる人間として、太陽を見上げ、太陽がなければ自分たちは存在しないということを理解できるという事実。これは非常に強力な感覚だと思う。自分たちは生命の源の片鱗を見ることができる。地球上の生命を可能にしているのは太陽からの近さだけでなく、太陽からの適度な距離でもあり、そのバランスには、深く謙虚な気持ちにさせられると同時に、なにか美しいものを感じる。

これまでアルバムを出すごとにライヴ音源もリリースしてきましたが、今回もその予定でしょうか? いつか日本でもあなたたちのライヴが見られる日を待ち望んでいます。

NJ:日本にはぜひ行きたいね。いいアイディアだと思う。『Nothing』のライヴ・アルバムをつくれたらいいなと思うんだけど、その現実からはとても遠い。なぜなら、ほとんどの曲をライヴでどう演奏したらいいのか、まだわかっていないんだよ!

Satomimagae - ele-king

 彼女の紡ぐ静謐さは特別な空気に包まれている。東京のシンガー・ソングライター、サトミマガエの新作がおなじみの〈RVNG Intl.〉からリリースされる。2021年の『Hanazono』以来となるアルバムで、『Taba』と題されたそれは4月25日に発売、日本独自でCD盤も出るとのこと。プレスによれば、「個人と集団、構築的なものと宇宙的なもの、明瞭なものと感じられるものの間を鮮やかにつない」だ作品に仕上がっているようだ。現在、収録曲 “Many” のMVが公開中です。

Rainbow Disco Club 2025 - ele-king

 エレクトロニック・ミュージック/ダンス・ミュージックのリスナーから絶大な信頼を得ている〈Rainbow Disco Club〉、16周年を迎える今年は、4月18日(金)、19日(土)、20日(日)の3日間、いつもの静岡県東伊豆クロスカントリーコースで開催される。今年は、UKクラブ・ジャズの立役者ジャイルス・ピーターソン、シカゴ・ハウスのレジェンドのロン・トレント、〈ハイパーダブ〉のコード9新世代ディープ・ハウスを代表するChaos In The CBDほか、全18組の豪華メンツ。また、DJ Nobuがキュレートする「Red Bull Stage」の2日間の注目。
 以下、オーガナイザーの土谷正洋氏に訊いてみました。

あらためてRDCのコンセプトを話してください。

RDC:Beyond Space And Timeをコンセプトにしています

企画していくうえで、今回、とくに意識したことは何でしょうか?

RDC:15周年を終えて、会場は同じながらも出演者の部分は新しくもあり、かつRDCらしさを考えてブッキングしました。

今回、RDCとしてあらたな挑戦があったら教えてください。

RDC:こちらもブッキングについてですが、ずっと2日目のRDC StageのトリをDJ NobuのB2B企画を2016年から行ってきましたが、今年はDJ Nobu Curatesとして深夜のRed Bull Stageで行うところは新たな挑戦と言えると思います。

 とにかく、最高のロケーションと最高の音楽が最高のヴァイブを創出することでしょう。行かれる方はぜひ、地元の金目鯛を食べてください。

Rainbow Disco Club 2025
日時: 2025年4月18日(金)9:00開場∕12:00開演〜4月20日(日)19:00終演
会場: 東伊豆クロスカントリーコース特設ステージ(静岡県)

出演(AtoZ):
〈RDC STAGE〉
Antal
Chaos In The CBD
Dita & Gero
Eris Drew & Octo Octa
Gilles Peterson (5-hour set)
Kikiorix
Kuniyuki & Xiaolin (live)
Ouissam
Palms Trax
Ron Trent
Sisi
Sound Metaphors DJs

〈RED BULL STAGE〉
DJ Nobu b2b Batu
Fullhouse
Kode9、Logic1000、Verraco、Woody92

〈VISUAL〉
REALROCKDESIGN C.O.L.O
KOZEE
VJ MANAMI

〈LASER & LIGHTING〉
YAMACHANG

オフィシャルサイト:
http://www.rainbowdiscoclub.com

Shinichi Atobe - ele-king

 真夏の草原で聴いたらさぞかし気持ちの良さそうな、一筋の涼風のようなテクノ・アルバム。昨年末リリースされた跡部進一の通算6枚目のアルバムである。
 十数年のブランクを経ての怒濤の作品リリース──2001年にべーチャン後継レーベル〈Chain Reaction〉から「Ship-Scope」(後に〈DDS〉からも2015年に再発)でデビューの後、リリースもなく約15年近くその存在は謎とされてきた(ちなみに〈Chain Reaction〉からは釣哲生なる日本人アーティストのマトリック名義の作品もある)。その後、時は巡り、2010年前後のミニマル・ダブの復権ならびにインダストリアル~ダーク・アンビエントへの拡張に、一定の影響を及ぼしたマンチェスターの〈Modern Love〉を率いるダムダイク・ステアによってシーンへと呼び戻され、2014年にまさかの新作にしてファースト・アルバム『Butterfly Effect』を彼らが率いる〈DDS〉からリリースした。以降、同レーベルを拠点に、十数年の不在を取り戻すかのようにコンスタントに、アルバム単位で作品をリリースし続けている。
 ダンスというよりも、比較的アブストラクトな雰囲気のファースト・シングル「Ship-Scope」。その意匠を引き継いだ感覚の、淡い靄のかかったダブ・テクノ~ダウンテンポの『Butterfly Effect』での復活から、数枚のアルバムを経てその作品性は、リリースをするたびに徐々にテクノ~ハウスのグルーヴを強めていっている。中でも『Yes』(2020年)から『Love Of Plastic』(2022年)へと連なる作品の流れは、特有の繊細なダブ処理はそのままに、どこかアブストラクトで内省的なダブ・テクノから、より軽やかなサウンドで、外へ外へと、流麗なハウスのグルーヴでもって滑空してみせるかのような、そんな変化を見せている。ここ最近としては、2024年4月に極めて高いクオリティのテクノ・トラックを携えた12インチ「Ongaku 1」を同じく〈DDS〉からリリースしている。

 前作『Love Of Plastic』の2年後にリリースされた本作、やはり圧倒的なのはアルバム1枚の作品としての統一されたすばらしい完成度があり、そして音楽性としてはダブ・テクノのなかに、新たに小気味いいライトなサウンド・フィーリングを示した作品と言えるだろう。『Love Of Plastic』でものにしたアトモスフェリィックなディープ・ハウスのグルーヴを土台として援用しながらも、サウンド的にはよりテクノのシンプルな魅力──シンプルなリフとミニマルなリズムの効果的な構造から生み出される強固なグルーヴにフォーカスすることで体現したサウンドと言えるだろう。
 清涼感のあるシンセ・リフがエコーとともにハウス・グルーヴの上を駆け抜けていく“SA DUB 1”にはじまり、ダビーながら重すぎないミニマル・テクノ“SA DUB 2”~“SA DUB 3”、鮮やかな電子音の応酬から、後半に挿入される上下するベース・ラインがファンキーな“SA DUB 4”まで。アルバム前半部の楽曲構成もリスニング成分と、ダンス・グルーヴの心地よさが絶妙なる塩梅のバランス感覚でむしろ小憎らしいほどに心地よい。唯一のビートレスで、アルバム中盤のフック(LPならB面の1曲目)となる“SA DUB 5”は、サイケデリックなエコーで渦を巻く電子音とベースラインのやりとりがいつしかコズミックなアシッド・サウンドへと展開していく。硬質なダブ・テクノ“SA DUB 6”、クラックルノイズとまろやかなダブ処理が、まどろみのように展開する“SA DUB 7”。そしてラストは“SA DUB 8”、グッとBPMを落としたアルバムのラストを、ドラマチックに美しく描いて締める。クリアなサウンドと力強くグルーヴするリズム、そしてシンプルなリフで、「上げすぎない」高揚感のキープは目指したトラックたちは、これまでの作品に比べてもより1枚の作品としてのサウンド・フィーリングの統一感が増していと言えるだろう。ダブ処理はあくまでも、リフや展開、楽曲を引き立たせるための要素で、その感覚は、ザ・デトロイト・エスカレーター・カンパニーの諸作や、誤解を恐れずに言うならば、どこか初期レイ・ハラカミの、その作品のデレイ~エコー感を彷彿とさせる瞬間もある。ある種の麻酔的な音響処理というよりも、音色の一部といった方がそのエコーの存在はしっくりくる。
 ある種のステレオタイプのべーチャン・フォロアー的なミニマル・ダブ / ダブ・テクノではなく、新たなスタイルの軽やかなダブ・テクノの、そのアルバム作品としてひとつの新たな完成形と言える作品ではないだろうか。

Sonoko Inoue - ele-king

 昨年リリースされたアルバム『ほころび』が話題を呼び、第17回CDショップ大賞2025入賞を果たしたシンガー・ソングライターの井上園子。その最新ライヴ映像が公開されている。
 今月3日、青山の「月見ル君想フ」でおこなわれたパフォーマンスで、ギターに長尾豪大(ModernOld)、ベースに大澤逸人、ドラムにgnkosaiを迎えたバンド編成での演奏だ。弾き語りスタイルが印象的だったアルバムとはうってかわり、「ブルーグラスであれば何でも好き」と主張する彼女のまた新たな一面を垣間見させてくれる映像といえよう。
 3月から4月には大阪・京都・兵庫、愛媛、神奈川~東京での公演が控えているので、お近くの方はぜひ。3月19日には『ほころび』のLPもリリースされます。

すべての門は開かれている――カンの物語 - ele-king

クラウトロックの巨星、カン
そのすべてを描いた大著
ここに奇跡の完訳刊行が実現!

20世紀でもっとも重要な実験的グループであるCan。戦後ドイツという特殊な政治環境のなか、高度なクラシックの教育を受けたふたりのメンバーがドイツでは指折りのジャズ・ドラマーと出会い、そしてメンバーの教え子だった若いロック青年を誘って1968年にケルンで生まれたロック・バンド――その影響がポップの領域に浸透するのに20年を要したとはいえ、カンは、パンク、ポスト・パンク、アンビエント、エレクトロニカの直接的なインスピレーションの源だった。

関係者にできる限り取材し、同時に英国、ドイツ、フランスに残されたあらゆる資料を参照し、元『ワイヤー』の編集長が描いたカンの評伝。

カン誕生の背景にあった60年代ドイツのカウンター・カルチャー、元親ナチだった親の世代への強烈な反発心、テリー・ライリーやラ・モンテ・ヤング、ダルムシュタット夏季現代音楽講習会とジョン・ハッセルとの出会い、シュトックハウゼンの教えとその人柄、カン結成以前のクラシック音楽家時代のイルミン・シュミットの作品、カンを名乗る前から映画のサウンドトラックを含むカンの全作品の詳細な解説、カンの当時の経済状況、ダモ鈴木やマルコム・ムーニーらの歌詞の考察、ダモ鈴木の国外追放騒動時におけるシュトックハウゼンたちの協力、カンはドラッグをやっていたのか、そしてメンバーたちの死別、等々……これ以上ないであろう完璧な「カンの物語」がここにある。

そして本書の第二部には、カンを尊敬するミュージシャンやアーティスト、あるいは盟友たちが集結し、カンや芸術についてイルミン・シュミットとともに語る。登場するのは、盟友ヴィム・ヴェンダースをはじめ、プライマル・スクリームのボビー・ギレスピー、ポースティスヘッドのジェフ・バロウ、故マーク・E・スミス、カールステン・ニコライ、アレック・エンパイア、ピーター・サヴィル、ジョン・マルコヴィッチ等々。

2018年に刊行され、『ガーディアン』から「知的なバンドについての知的な本」と称賛された決定的な大著、待望の翻訳。未発表写真も多数掲載。

A5判/480頁

『すべての門は開かれている カンの物語』刊行のお知らせ

目次

第一部 すべての門は開かれている

1 人造機械が見た夢(序章)
2 騒乱宣言
3 愚痴は発明の母
4 よりよい機材を備えた城
5 ロックに向けての最後の一蹴
6 火の盗人たち
7 33rpmの真実
8 深みに嵌って
9 魔女級の驚き
10 調和する音
11 霧のなかの彷徨い人
12 永久運動
13 危なげな着地
14 もっと欲しい
15 人工ヘッド・ステレオ
16 カンは自らを喰らう
17 最後の儀式
18 遠くに未来が広がっている

註釈
参考文献一覧
謝辞

第二部 カン雑考

登場人物

Ⅰ 手をテーブルの上に
Ⅱ 私の手記より
Ⅲ 風景に張り巡らされた、神経の鎖
Ⅳ 映画音楽
Ⅴ リュベロン

索引

[プロフィール]
【著者】
●ロブ・ヤング
元『Wire』編集長。英国フォーク史を描いた『エレクトリック・エデン』をはじめ著者は多数あるが、最近は元ブラーのグラハム・コクソンの自伝にも寄稿している。
●イルミン・シュミット
カンのオリジナル・メンバーで、唯一の生存者。この本の二部にはイルミン・シュミットの日記、エッセイ、音楽論も収録されている。
【原書編者】
●マックス・ダックス+ロバート・デフコン
マックス・ダックスはジャーナリストで、アート・キュレイター。『Electronic Beats Magazine』と『Spex』の編集長も務めた。ロバート・デフコンは作家、アーティスト、そしてミュージシャン。2005年、両者でバンド、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンの口述歴史『No Beauty Without Danger』を出版している。共にベルリン在住。
『すべての門は開かれている カンの物語』の第二部「カン雑考」は、ダックスとデフコンによる編集で、イルミン・シュミットとダックスによるインタヴューなどが掲載されている。

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Peter Rehberg - ele-king

 2021年に亡くなったピーター・レーバーグの「新譜」がリリースされた。正確には舞台のために作られた音響作品の音源化である。重要な点は、本作が『Liminal States』「ピタ」名義ではなく、「ピーター・レーバーグ」名義で出された点であろう。もちろん、名義の分け方にはさまざまな現実的な理由があるのかもしれない。しかし、聴き手の立場からすれば、これまで発表されてきた作品の文脈を改めて再確認できる機会となる。あえて乱暴に分類すれば、「ピタ」名義の音楽は本質的に「テクノ」に根ざしているように思える。どれほどテクノを解体しても、ピタの音楽はポスト・テクノ的なものとでも言うべき音である。一方で、「ピーター・レーバーグ」名義では、より実験的でノイジーな作品をリリースしてきたともいえる。同時に、それらは 彼自身のための作品というよりも、誰かとのコラボレーションによる作品であったという側面もある。例えば、レーバーグは舞台音楽の仕事を手がけており、人形師/振付師のジゼル・ヴィエンヌの舞台音楽をまとめたアルバム『Work For GV 2004-2008』を、ピーター・レーバーグ名義で2008年に〈Editions Mego〉から発表している。また、没後の2022年にリリースされた『at GRM』には、「le Centquatre-Paris」で開催されたGRMのためのふたつのコンサートの音源が収録されていた。この意味では、「ピーター・レーバーグ」名義の作品は、スティーヴン・オマリーとのユニット KTL に近いのかもしれない。実際、KTL も元々はジゼル・ヴィエンヌの舞台のために制作された音楽であり、このことからも、レーバーグにとって舞台音楽の制作が重要なライフワークであったことがわかる。そして、それゆえに「ノイズ」は彼にとって単なる表現手段ではなく、実験と進化の場だったのではないか。

 私は2022年に『at GRM』を聴いたとき、ピーター・レーバーグの「ノイズ」が、いまだ進化の過程にあったことを確信した。そこには、持続音の生成と変化による強烈な音響体験があったからだ。『at GRM』は2009年と2016年に制作された音響作品を収録しているため、比較的過去の作品であるにもかかわらず、彼の「音」がグリッチやテクノといった枠組みを超え、別次元へと深化していたことが伺える。そして、本作『Liminal States』もまた、同様のアプローチを持つアルバムである。レーバーグのノイズは進化の過程にあり続けたことを実感させる作品に仕上がっている。前述のように、本作の音は2018年に制作されたものであり、『at GRM』の2016年の音源と近い時期の作品であるため、質感に共通する部分もある。しかし、大きく異なる点もある。『Liminal States』は全45分1曲の長尺作品であり、聴き手をノイズ(音響)の生成と変化の渦へと巻き込んでいくような構成となっている。

 また、本作の音源は アイスランドの振付師マルグレット・サラ・グドヨンスドッティルの舞台のために制作されたものであり、不安定なノイズが折り重なり、変化し、より広大なサウンドスケープを展開している点に注目したい。特筆すべきは、そこに「アコースティックなドローン感覚」があることだ。従来のピーター・レーバーグの音楽は電子的な質感が強かったが、本作では、どこかラーガ・ドローンのような響きなのだ。音の調性感が希薄な持続音が幾層にも重なり合い、聴き手に未知の音空間を提示するかのような感覚を生み出している。この不安定な揺らぎの感覚こそ、本作でピーター・レーバーグが新たに見出した音なのではないか。それが実際の舞台において どのように役者の肉体と連動していたのかは未見のため想像するしかない。しかし、おそらくは、ある種の距離感をもって共存していたはずだ。2023年に〈Karlrecords〉からリリースされた、Zeitkratzer のラインホルト・フリードルとの共作(ピタ名義)『PITA / FRIEDL』には、2021年に録音されたピーター・レーバーグの最晩年の音源が収録されている。このトラックでも、激しいノイズと不安定な揺らぎが交錯しており、彼の「ノイズ」がさらに深化していこうとしていたことが感じ取れる。
 
 ともあれ『Liminal States』を聴き込むと、その音響が生成と変化を繰り返し、消尽の果てにある音の運動を捉えようとしているように思えた。不安定な持続が、時にダイナミックに鳴り響き、時に静かに収束していく。それは、まるで電子音が「自然」そのものを擬態するかのようなサウンドスケープとして聴こえた。電子音が環境音のように聴こえる瞬間がある、と言い換えてもよいかもしれない。ただし、本作において(そしておそらく、レーバーグの音楽全体において)、彼は環境音楽的な響きの詩学から距離を置いているようにも思える。彼にとって最も重要なのは、「音の運動」ではないか。これは、ピタ名義の初期グリッチ・サウンドから一貫する彼の音楽の本質的な特徴である。

 生成。変化。運動。この三つの交錯によって、ピーター・レーバーグ/ピタの音は構築されている。『Liminal States』は、彼が成し遂げようとしていたノイズの実験の(非常に残念なことではあるが)2018年時点での到達点を記録した、極めて重要なアルバムであり、音響作品である。この時期のレーバークの音は電子ドローンの境界線を越えようとしていた。00年代以降の電子音響のひとつの到達点として、これからも何度も繰り返し聴きたくなる作品である。

2月のジャズ - ele-king

Moses Yoofee Trio
MYT

Leiter / 森の響

 アメリカやイギリスに比べてシーンは大きくはないが、ドイツは昔からジャズが盛んな国である。そんなドイツのベルリンから登場したのがモーゼス・ユーフィー・トリオである。モーゼス・ユーフィー・ヴェスター(ピアノ)、ノア・ファーブリンガー(ドラムス)、ロマン・クローブ(ベース)からなるトリオで、2020年に結成して、2023年にミニ・アルバムの『Ocean』をリリース。モーゼスはアフロ・バンドのジェンバ・グルーヴの『Susuma』(2022年)に参加するなど、ジャズに限らないフィールドで活動してきた。ノアはインディ・ロック・バンドのフィベルに参加し、ヒップホップ寄りのミクスチャーなソロ・アルバムを出していて、ロマンはジャズ~ヒップホップ系トラックメイカーのS・フィデリティによるプロジェクトに参加するなど、3名とも伝統的なジャズと何か別の音楽的要素を融合する方向性を持つ。『Ocean』はそんな3人の持ち味が出た作品で、ジャズ、ヒップホップ、ロック、クラブ・サウンドなどが結びついた世界を見せた。3人というコンパクトでシンプルな編成ながら、極めて緊密で濃度の高い演奏を見せ、タイプとしてはロバート・グラスパー・トリオからゴーゴー・ペンギンバッドバッドノットグッドなどへと繋がるサウンドと言える。ノアのヒップホップを咀嚼しながらも極めて自由度の高いドラミングに見られるように、即興演奏の要素もとても強い。そして、アコースティックとエレクトリックの結びつきも強固で、人力ドラムンベースや人力ダブステップ調のナンバーもある。

 2024年にドイツ・ジャズ・プライズのライヴ・アクト・オブ・ザ・イヤーを獲得した彼らは、同年4月にシュトゥットガルト郊外の田園地帯にあるスタジオに入り、10日間かけてレコーディングをおこなった。そして完成したのが、彼らにとって初のフル・アルバムとなる『MYT』である。“Into You” はJ・ディラ的なズレ感のあるヒップホップ・ビートを軸に、メロウネスに富むピアノやスペイシーなSEがフィーチャーされる、MYTらしさを象徴するナンバー。“Ridgewalk” はブロークンビーツとドラムンベースを掛け合わせたようなビートを持ち、ベース・ギターがデジタルなフレーズを奏でるエレクトロ・ジャズ。クラブ・サウンドとも親密なMYTの側面を示している。“Green Light” はアフロビートを咀嚼したようなリズムで、女性MCをフィーチャーして南ロンドンのエズラ・コレクティヴあたりに通じるジャズとR&Bが融合した世界。“Bond”はリリカルなピアノ・ソロに始まり、人力ドラムンベースへと展開していく。南ロンドン勢で比較すればアシュリー・ヘンリーに近いタイプの美しい作品だ。“Push” もクラブ・サウンド寄りのジャズ・ファンクで、アコースティックな演奏ながらデジタルな質感を生み出す点はゴーゴー・ペンギンのアプローチに近い。一方、“Show Me How” はサンプリングも交えたサウンドで、彼らが標榜するアコースティックとエレクトロニックの融合を強力に推進している。


James Brandon Lewis
Apple Cores

Anti

 ニューヨークを拠点に活動するジェイムズ・ブランドン・ルイスは、カリフォルニア芸術大学でチャーリー・ヘイデンやワダダ・レオ・スミスに師事し、ハワード大学にも学んでファイン・アートの修士を獲得したというサックス奏者。2012年からニューヨークに移り住み、デイヴ・ダグラス、ジュシュア・レッドマン、アルアン・オルティス、チャド・テイラー、ブラッド・ジョーンズ、ハンク・ロバーツ、トニー・マラビー、マリリン・クリスペルらと共演してきた。ニューヨークにおいてはマーク・リボー、キップ・ハンラハン、アート・リンゼイらの流れを汲んだ位置にある人物と言え、フリー・ジャズからラテン、ファンク、ヒップホップ、ゴスペルなどのミクスチャー感覚を持つ。自身のトリオやカルテットはじめ、クリフス、オリエンテーション・オブ・ウィなど様々なバンドでも活動するが、2020年代に入ってからはチャド・テイラー、ウィリアム・パーカーらとレッド・リリー・クインテットを結成し、ブルースやゴスペル、ブラス・バンドなどの要素を打ち出した『Jesup Wagon』(2021年)やマヘリア・ジャクソンに捧げた『For Mahalia, With Love』(2023年)をリリースし、特に『Jesup Wagon』はジャズ・レジェンドのソニー・ロリンズからも高く評価されたことが知られる。2024年にはワシントンDCの伝説的パンク・バンドであるフガジのメンバーが結成したザ・メスセティックスと共演し、〈インパルス〉からアグレッシヴなジャズ・ロック・アルバムをリリースしたことも話題となった。

 そんなジェイムズ・ブランドン・ルイスの新作『Apple Cores』は、盟友のドラマーであるチャド・テイラーと、同じく共演経験のあるベーシストのジュシュ・ワーナーによるトリオ・セッション録音。オーネット・コールマンの “Broken Shadows” を除いてオリジナル曲が収められていて、“Five Spots To Caravan” はドン・チェリーとオーネットが1959年に演奏をおこなったニューヨークのライヴ・ハウスであるファイヴ・スポッツにちなんだもの。キャラバンもオーネットの故郷であるテキサスのキャラバン・オブ・ドリームス・パフォーミング・アーツ・センターにちなんでいる。“Remember Brooklyn & Moki” のモキとはドン・チェリーの妻で画家/アーティストであるモキのことで、チェリーに対するインスピレーションがさまざま感じられる。アルバム・タイトルは詩人のアミリ・バラカによるコラムから名づけられており、ジェイムズ・ブランドン・ルイスが影響を受けた先人たちへのオマージュが綴られた作品と言える。“Prince Eugene” はチャド・テイラーがジンバブエの民俗楽器であるムビラを演奏し、ジュシュ・ワーナーがレゲエ/ダブのベース・ラインを奏で、ジェイムズ・ブランドン・ルイスのテナー・サックスが悠久のグルーヴを生み出していく。


Glebe
Gaudí

Daggio

 グリーブはイギリスの新しいジャズ・ユニットで、リーズ音楽院でギタリストのキーラン・ギュンターとピアニストのクリス・ブランドが出会ったことからはじまった。卒業後に本格的に活動をはじめ、パット・メセニーから多大な影響を受けてデビュー・アルバムとなる『Gaudí』をリリースした。演奏はふたりのほかにサックス奏者のドム・プジー、ドラマーのフィリッポ・ガリ、ベーシストのジャック・タスティンが参加。さらに楽曲ごとにソプラノ・サックスとフルートのトム・スミス、ヴォーカリストのタラ・ミントン、クレア・ウィーラー、フランチェスカ・コンフォルティーニがゲスト参加する。アルバム・タイトルはスペインの建築家のガウディを指しているが、彼の故郷であるカタロニア地方の美しい景色を連想させるアルバムだ。

 アルバム全体としては、パット・メセニーとライル・メイズによるパット・メセニー・グループの初期作品を思わせるもので、特に10分を超す “Ruby” はタラ・ミントンのワードレス・ヴォーカルをフィーチャーして天上へと誘う、まるで聖歌のような作品。ミルトン・ナシメントに代表されるブラジルのミナス音楽が持つ教会音楽的な雰囲気もあり、パット・メセニーと交流の深いギタリストのトニーニョ・オルタを彷彿とさせる楽曲だ。“L’lseran” もミナス風の楽曲で、ソプラノ・サックスの澄んだ音色がミナスを代表するサックス奏者だったニヴァルド・オルネラスを想起させる。


Marshall Allen
New Dawn

Week-End

 昨年末にサン・ラー・アーケストラの新作『Lights On A Satellite』を紹介した際に触れたが、バンド・リーダーであるマーシャル・アレンの個人名で初のソロ・アルバムとなる『New Dawn』がリリースされた。メンバーはアーケストラのアレンジャーを務めるノエル・スコットほか、セシル・ブルックス、マイケル・レイなど、ほぼアーケストラのメンバーが務めており、アーケストラのスピン・オフ的な作品とも言える。それ以外ではオーネット・コールマンとの活動で知られ、1980年代にファンクやR&Bを取り入れたコスメティックというバンドで一世を風靡したベーシストのジャマラディーン・タクマと、時代時代によってパンク、ニューウェイヴ、ヒップホップ、ブリストル・サウンド、ジャズなど縦横無尽にコミットしてきたシンガーのネナ・チェリーがフィーチャーされている。ネナ・チェリーはドン・チェリーの娘ということで、マーシャル・アレンとは何らかの接点があったのだろう。

 そのネナ・チェリーが歌うタイトル曲の “New Dawn” は、ストリングスなどをフィーチャーしたムーディーなバラードで、この曲に代表されるように1950年代のムード音楽と古典的なスタイルのジャズの雰囲気をまとっている。“African Sunset” もスペイシーなSEを織り交ぜながらも、スタイルとしては1950年代のエキゾティック音楽やイージー・リスニング。アヴァンギャルドなイメージが先行するサン・ラー・アーケストラだが、実際のところ根底にはこうしたオールド・ジャズやムード音楽などがあったということを改めて示している。途中で即興的なサックス・ソロが登場する “Sonny’s Dance” はサン・ラーのことを指しているのだろうか。また、サン・ラーの代表曲である “Angels And Demons At Play” もやっているが、これがかなりダビーな解釈で興味深い。そうしたなかで、アフロ・キューバン的な風味に富む “Boma” が異彩を放つ。サン・ラーにはあまりないタイプの楽曲で、ギターとストリングスによって緊迫感のあるムードを盛り立てていく。

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