「!K7」と一致するもの

Rilla (Almadella) - ele-king

現京都在住です。
DJ予定
2013/1/19(FRI)GADOGADO@某所(大阪)
2/1(FRI)@fab-space(姫路)
2/3(SUN)BLACK HALL番外編@BLACK BOXxx(京都)
2/10(SUN)@bar txalaparta(徳島)
https://www.almadella.jp/
https://rillamadella.blogspot.com/
https://www.twitter.com/rilla_

2012年ベスト(順不同)


1
Dino Sabatini - Shaman's Paths - Prologue

2
Alex Coulton - Bounce - Dnuos Ytivil

3
Shackleton - Music For The Quiet Hour/The Drawbar Organ Eps - Woe To The Septic Heart!

4
Keihin - This Heat - Almadella

5
Shapednoise - Features Vol.2 - Repitch

6
Deadbeat - Eight - Blkrtz

7
Phrasis Veteris ? Humble Ep - All Inn Black

8
Shifted - Crossed Paths - Mote Evolver

9
Pushim - The Great Songs - KRE

10
Marter - Finding & Searching - Jazzy Sport

 明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします。

 2013年最初は、去年の11月にアクシデント(ハリケーン・サンディで家から出れず、自力で歩いて行った。往復4時間!)で、初めて行った、ファースト・サタデイズをレポートする。
ファースト・サタデイズは、その名前の通り毎月最初の土曜日にブルックリン・ミュージアムで行われるイベントで、スポンサーはターゲット。入場料からアトラクションすべてがフリー。
https://www.brooklynmuseum.org/visit/first_saturdays.php


ブルックリン・ミュージアム外観

 前回は、そこでブルックリン・バンドのSavoir Adore(サヴォア・アドア)を観たり、展示作品やシアター上映も体験でき、一日いても飽きず、もういちど行きたくなるイヴェントである。

 今回のメイン・バンドはDas Racist (ダス・レイシスト)のheemsのソロ。その他、東ヨーロッパのジプシー・ミュージック、ダンス・パフォーマンス・アート、ヒップホップ・ワークショップ、アートの新しい見せ方、「ウォール街を占領せよ」についてのトークなど、盛りだくさん。
筆者の目当ては、Prince Rama(プリンス・ラマ)とLez zeppelin(レッズ・ツェッペリン)。


本イヴェントのフライヤー

 プリンス・ラマは美人姉妹によるサイケデリック・アートなブルックリン・バンド(https://princerama.tumblr.com/)。レッズ・ツェッペリンは、レッド・ツェッペリンの女の子カヴァー・バンド(https://www.lezzeppelin.com/)。
残念ながらプリンス・ラマは逃してしまったのだが、レッズ・ツェッペリンのパフォーマンスに圧倒され、すべてがぶっ飛んでしまった。実際のレッド・ツェッペリンを観たことがないのでとやかく言えないのだが、理解できたのは、ツェッペリンの音楽を男女の壁を超えて最もパワフルに、情熱的に表現したのが、彼女たちであるということだ。


終演後のレッズ・ツェッペリン

 この現代において、パンタロンである。ソバージュである。ヘソ見せである。フラワー・チルドレンである。王道を行く音楽は、観客(+子供たち)にとどまらず、ミュージアム中の人たちをトリコにし、至るところでダンスに狂喜している集団が見えた。終わった後の取り巻きの多さもさすが(警備員も総出)。小さな女の子3人が、「あなたたちみたいなロック・バンドになりたいです!」とみんなで挨拶に行っていたのが微笑ましかった。これぞ、正しいロック・バンドの姿。


4Fからの眺め

 ミュージアムのなかを散策すると、4Fまで、展示物やペインティング、家一軒のミニチュアなど、目の保養、発見で有意義な時間を過ごせ、4Fからは吹き抜けの3Fが見え、ダンス・パフォーマンスを観ることもできるので、ミュージアム鑑賞だけでも十分楽しい。人が多すぎるのと、ドリンクが高い(缶のハイネケンが$6!)のが難点だが、フリーだし、月1回の娯楽として大いに利用させていただきたい。こんなイヴェントを開催してくれるブルックリン・ミュージアムとターゲットに感謝。


展示されたスケートボード

 さて、2013年。スポンサーの助けを借りて娯楽を提供しながら、DIYの本拠地はよい方向に動いている。
サイレント・バーン(https://m.facebook.com/silentbarn)が再オープンし、マーケット・ホテル(https://markethotel.org/)もそれに追いつく勢い、さらにブルックリンのブッキング王、トッド・Pも新しい会場をブシュウィックにオープン予定。2013年もいろんなDIY音楽情報他、ランダムにお届けできるように走り回る予定ですので、サポートよろしくお願いします。

Brood Ma - ele-king

 断固としてモダンでなければならない――アルチュール・ランボー


 タワーレコードミューンでもかけたけれど、正月はブッディ&リーフジェイムスズーがヘヴィロテになるかと思いきや、年末に仕入れたカセット2本がストンとツボにw。とくにブルードゥ・マーの無機質でトゲトゲしい感触はジャム・シティよりもさらに気分で、他人に引っ掻き回されやすい自分の心が冷たいステンレス製のダブによって容赦なく切り裂かれ、人間嫌いが爆発している夜には欠かすことのできない必需品となってしまったw。複数の金属音にさまざまなイフェクトが施され、ダブステップのフォームを偽装したような曲のつくりは、カラフルというよりは銀食器を撒き散らしたような同系色の美しさに彩られ、J・G・バラード『結晶世界』のクライマックスを強烈にイメージさせる(→https://soundcloud.com/broodma)。坂本龍一がジャム・シティやアンディ・ストットに反応して『B2ユニット』をリ-モデルさせたら、もしかしてこうなるだろうか?

 ジェイムズ・B・ストリンガーという人物は音楽以外にもいろいろなことをやっているらしい(詳しいことはわからなかった)。サウンドクラウドにもアルバム以外の音源は3曲しか上がってないし、何度聴いてもダブステップがフォームを崩したものなのか、その逆なのかもよくわからない。ただひたすらシャープでとくに後半は無機質な混沌が波打ち、音に呑み込まれるだけ。重量感が伴いそうなのでインダストリアルという言葉は使わず、「ステンレス製のダブ」という形容をしてみたけれど、おそらくこれはインダストリアル・リヴァイヴァルの一翼をなすものには違いない。アンディ・ストットやエコープレックスとも大きな意味では共振するところがあり、なによりも美意識には深く通底するものがある。80年代にもR&B化するシンセ-ポップの裏側で鳴っていたのが、やはりボディ・ミュージックやニュー・ビートだったので相互作用でも働くのだろうか。人間味はとにかく切って落とされている。

 対照的にノーUFOズはぼんやりとした景色にだらだらと迷わせてくれる。スペクトラム・シュプールズでアナログ化された『ソフト・コースト』よりも着実にスキル・アップし、ダブに新たな地平を与えようと格闘しているといったところ。サン・アロウが音の配置にこだわるジオメトリック・ダブだとすれば、コンラッド・ヤンダフは深海潜航艇のように低音に意識を集中させる。なんというか、強制的に落ち着かされる(かなり直球のドラッグ・ムーヴィーだったルパート・サンダース監督『スノーホワイト』に使われていれば、けっこうはまったかも)。

 3~4年前、ドローンの衰退と共にカリフォルニアから出てくる音が次から次へとバリアリック・モードになっていくなーと感じていたら(ジェイムズ・プロトキンがそれを肯定していたのは驚いたけれど――エレキング復刊1号)、そのうちにその流れがチルウェイヴなどというものに××してしまい、アホかといって鼻毛を伸ばしていたら橋元UFOに噛みつかれ(ノート広げ攻撃が出たもんなー)、かといってウルフ・アイズやピート・スワンスンによるにわかテクノ・モードにもどこか馴染めず、じっと手を見ていたら、いつの間にかサバーバン・スピリット・ガイドやブルードゥ・マーといったトゲトゲしい音に囲まれるようになっていた。アンディ・ストットがいい例だけど、おそらく精神的なものはポスト・クラシカルに任せたこともあって、リヴァイヴァル・インダストリアル・ミュージックはテクスチャーをいじくり回す音響的なモードであることを初めから限界とするはずである。あるいは、そのように願いたいというか。


PS

 ブッディ&リーフのブッディはシーパンクにゆかりのプロデューサーで(エレキング8号P144)、スパンク・ロックにも曲を提供していたリーフのミックス・テープ『ダーク・ヨーク』は以下からダウンロード可(https://www.thefader.com/2012/04/18/stream-le1fs-dark-york-mixtape/)。詳しくは同エレキングP97。

Christopher Owens × Sintaro Sakamoto - ele-king

 親愛なる読者のみなさま、明けましておめでとうございます! 本年もよろしくお願い申し上げます。さて、以下の対談は、昨年12月上旬の、雨も降る肌寒い夜にやったものですが、2013年はふたりの素晴らしい新作ではじまります。どうぞ、お楽しみください。


クリストファー・オウエンス - リサンドレ
よしもとアール・アンド・シー

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坂本慎太郎 - まともがわからない
zelone records

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 クリストファー・オウエンスがツイッターで呟いた、「坂本慎太郎に会いたい!」という一文を読んで、興奮した。もしこのふたりの対談が実現したら......という思っていた矢先だった。
 人生とは本当に面白い。編集長から、「再来週クリストファー・オウエンスが来日するんだけど、菊地君はガールズのこと超大好きだったよね。こないだのSXSWでもガールズ見たっていったよね? 取材やらない?」と電話がかかってきた。ガールズを解散後の最初のアルバム『リサンドレ』(1月9日発売予定)のプロモーションのための来日だという。ちょうど、坂本慎太郎も新しいシングル「まともがわからない」(1月11日発売予定)のリリースを控えている! 
 そして、この企画はトントン拍子で実現へと進んだ.....んだけれど......取材当日、まさかの「クリストファー・オウエンスが飛行機に乗り遅れました」という連絡......まじっすかーーーー(笑)!
 しかし、この企画に関わったみんながふたりの対談を望み、日程を調整してくれたおかげで中止は逃れた。
 2012年の寒い雨の夜、取材場所に到着するとクリストファーは部屋で待っていた。取材する我々ひとりひとりに丁寧に挨拶&「ごめんなさい」を言いながら、そして、時間通りに坂本慎太郎が入ってくると、彼の笑顔は最高潮に達するのであった......。

山積みになったレコードのいちばん奥底に坂本慎太郎さんのレコードがあって、それを聴いたらすぐに好きになったよ! 実際、他のレコードは全然気に入らなかったから全部アメーバに売っちゃったんだ(笑)。唯一キープしたのが坂本さんの『幻とのつきあい方』だったってわけ。

ではさっそくですが、はじめさせていただきますね。

クリストファー・オウェンス:あの、最初の日から変更になってしまって本当にごめんなさい......。

坂本慎太郎:ああ、全然大丈夫です。

そもそも今回は、クリストファーさんが坂本さんに会いたいということで実現した対談なのですが、まず、クリストファーさんはどういったきっかけで坂本さんを知ったのですか?

クリストファー:えっと......、ガールズはアメリカでは〈マタドール・レコード〉からリリースしてたんだけど、ガールズを脱退してソロになったときに、僕は1年契約を結びたかったんだよね。でも〈マタドール・レコード〉はそれが嫌だって言ってきたから、〈ファット・ポッサム〉へ移籍したんだ。っで、〈ファット・ポッサム〉はアザー・ミュージックのレーベルもやっていて、僕がソロ・アルバムを作るときに、彼らがリリースしているレコードを僕の家に一箱ドンと全部送りつけてくれて、その山積みになったレコードのいちばん奥底に坂本さんのレコードがあって、それを聴いたらすぐに好きになったよ! 実際、他のレコードは全然気に入らなかったから全部アメーバに売っちゃったんだ(笑)。でも唯一キープしたのが坂本さんの『幻とのつきあい方』だったってわけ。

坂本:センキュー・ベリー・マッチ。

ちなみに、坂本さんはクリストファーさんのことをご存知でしたか?

坂本:いや全然知らなくて(笑)、いまの海外の新譜とかをチェックすることがあんまりないので、ガールズも全然知らなくて、今回この対談の話をいただいて、過去の作品を送ってもらって、それではじめて

おっ! ではガールズなどの作品も聴いていただいたということですか?

坂本:はい、聴いてきました。

どうでした!?

坂本:ああ、良かったですよ(笑)。

では、クリストファーさんは、具体的に坂本さんの音楽のどういったところにグッと惹かれましたか?

クリストファー:僕、いまのインディってあんまり好きじゃないんだ。いわゆるシューゲイズ・リヴァイヴァルとか、エレクトロニック・ポップの流行とかね。もともと昔ながらのクラシックなロックンロールとか、ポップ・ミュージックが好きなんだけど、『幻とのつきあい方』を聴いたときに、テイストっていうか、趣味が最高によくて、本当にパーフェクトなアルバムだと思ったよ! アレンジがものすごく好きだし、演奏もよくて、品のあるアルバムだと思ったね! おかしいのは、歌詞が全然分からないのにこんなに惹かれて、歌詞がなくても成立する、ジャズを聴くような感覚で聴きまくったんだ。とにかく、このアルバムのプロダクションが大好きで、ハーモニカのソロなんかはいままで聴いたなかでも最高のものだったし、コンゴとか、サックスとか、フルートとかも最高! あと、バック・ヴォーカルもすごい好きで、実際そのことについていろいろ聞こうと思ってたくさんメモをとってきたんだけど......(恥ずかしそうにメモをバッグから取り出す)。

はははははは。今日はいくつか質問を考えてきてもらったということですね(笑)。

クリストファー:うん(笑)。

"詞"というものが少なからずインパクトを与える坂本さんの音楽を、海外のミュージシャンがこう評価しているのに対してどう思いますか?

坂本:えっと、自分は20年くらいバンドをやってきて、それを解散したあとこのアルバムを作ったんですけど、ひとりで部屋にこもって、いちばんそのときに作りたかった曲を作って、自分では気に入ったものが出来たんですけど。うーん、まあ外国ではウケないと思ってたんで

(笑)

坂本:普通の音楽っていうか、地味だし、すごいこだわってるのが微妙な部分なんですけど、そういうのが伝わるのかなっていうのがあったので、そういう言葉が分からない外国の人が気に入ってくれてるっていうのはすごい嬉しかったです。

おふたりの新しい音源を聴かせていただいたのですが、それぞれ聴き比べてみると、かなり似た部分があるような気がしました。

野田:うん、ソング・ライティングというか、中心にあるのが歌っていうところがまず似てるかなっていう。

クリストファー:偶然ながら、はじめてサックスとかフルートを使ったアルバムだったから、坂本さんのアルバムを聴いたときは「ワォー!!!」って感じだったよ(笑)! でも同時に全然違ったアルバムだとも思うね。だって坂本さんの音楽はすっごいファンキーだけど、僕は全然ファンキーじゃないからね(笑)。

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自分は外国のレコードを主に聴いて育ったので、音楽聴くときは歌詞が何語でも気にしないんですけど、一応こだわってやっているんですが、音として聴こえて面白い日本語っていう側面でも作ってるので、意味がわからなくても楽しめるとは思うんですが、うーん、まあ、歌詞読んでもいいと思います(笑)。


クリストファー・オウエンス - リサンドレ
よしもとアール・アンド・シー

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坂本慎太郎 - まともがわからない
zelone records

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(笑)。ではさっそくですが、せっかく質問を考えてきてもらったということで(笑)。

クリストファー:オーケー(笑)。もういくつか答えてもらっちゃったんだけど、まずは、今日は本当にありがとうございます! じゃあ、えっと、最初の質問は(メモをめくる)............。僕は詞っていうのものが大好きだから、歌詞は僕にとってすごく大きなものなんだけど、たとえば、僕セルジュ・ゲンズブールが大好きでよく聴くんだけど、歌詞自体フランス語で何を言ってるのかわからないから、単純に音楽性に惹かれてるんだよね。んで、坂本さんの場合は、歌詞ってものがどのくらい重要で、僕は果たして、英語に翻訳したものをちゃんと読むべきなのか、それとも読まないでもいいのかっていう。

坂本:そうですね、えーと、自分は外国のレコードを主に聴いて育ったので、音楽聴くときは歌詞が何語でも気にしないんですけど、自分でやるときはなんでもいいっていうわけじゃなくて、一応こだわってやっているんですが、音として聴こえて面白い日本語っていう側面でも作ってるので、意味がわからなくても楽しめるとは思うんですが、うーん、まあ、歌詞読んでもいいと思います(笑)。

(笑)

クリストファー:オーケー(笑)、トライしてみるよ!

坂本:すごく日本語をロック・サウンドとかにのせるっていうのが難しいって長いあいだ言われてて、けっこうダサイ感じになっちゃったり、失敗してる例がいっぱいあるんですけど、そこをなるべく上手くやろうっていうふうにやってきた感じで。まあ、自分はなんかアジアのロックとかそういうわけ分かんないロックを聴いて楽しむ感じがあるんですけど、自分のレコードもそういう感じでいいです。

(笑)

クリストファー:もうすでに日本語のロックンロールとしてサウンドを楽しんでるけど、もちろん歌詞の意味もわかったらいいなって思ってね。そういうチャンスがあれば誰か訳してくれないかなーって思ってるよ。あと、女の子のバック・ヴォーカルもすごく気に入ったんだけど、クレジットを見たら三人の名前が書いてあって、そこにはそのうちのひとりがそのなかのリーダーだって書いてあったんだけど、実際のアレンジとしては坂本さんが全部バック・ヴォーカルを決めて、彼女たちに頼んだのか、それともある程度オープンな状態で彼女たちにやってもらって、彼女たちがアレンジをやった部分があるのか、それと、そのリーダーってクレジットされてる女性が誰なのか知りたいんだけど。

坂本:えっと、リーダーはなくて、リーダー............えっと

クリストファー:アレンジみたいなところに名前がひとりクレジットされてたと思うんだけど、彼女が友だちなのか、どういう人なのか気になって......えっと、たぶん、ジュンコ・ノギさん?

坂本:えっと、3人は同じ曲では歌ってなくて、曲によってひとりが何個も歌って、重ねて。えっと...(資料を見ながら)、1曲目と8曲目はそのノギさんがアレンジも考えて歌ったんですけど、その他の曲は僕が考えたラインを他の人に歌ってもらいました。

クリストファー:ノギさんは友だち? 他にどんな活動をしてるの?

坂本:ママギタァっていうバンドをやってて、今日持ってくればよかったんですけど、2月にアルバムを出して、僕のレーベルからリリースしました。僕がベースを弾いて、出しました。

クリストファー:アー! オーケー! 聴いてみる!!

坂本:持ってくればよかったですよ。

クリストファー:ハーモニカの人も友だち?

坂本:ハーモニカの人は、はじめて会った人なんですけど、初山博という年配のベテランのジャズの人で、ビブラフォンとクロマチックハーモニカなんかの名手と言われている人を紹介してもらって。

クリストファー:僕も今回ちょっと年上のジャズ・ミュージシャンの人を紹介してもらって一緒にやったから、似たような経緯だね。

坂本:そうですか。

クリストファー:えーっと、よし、オーケー、じゃあビッグ・クエスチョン。「スゴイ・クエスチョン!」(とっても緊張しながら)。

おお(笑)?

クリストファー:坂本さんは、他の人のアルバムをプロデュースしたことってありますか? 

坂本:うーん、まだやったことないですねー。

クリストファー:でも興味を持たれることはありますか? えっと、つまり、その............、僕のレコードのプロデュースをやってくれることってないかな?

坂本:うーん、ちょっと、いや、そうですね、あのー(苦笑)。

一同:(笑)

坂本:いや興味はあるんですけど、あんまり軽く言っちゃうとすごいあれなんで(笑)

クリストファー:オフコース! ここで「イエス」って言ってもらうつもりはないから大丈夫だよ。自分のアイデアとして思いついて、可能かどうか聞いてみたかったんだ。

坂本さんは、salyu x salyuなどで詞を提供されていたりするので、坂本さんがクリストファーさんに日本語の曲を提供して、それをクリストファーさんが実際に日本語で歌ったら面白いかもですね(笑)。

一同:(笑)

クリストファー:オーケー(しっかりsalyu x salyuをメモ用紙に書く)、じゃあ次の質問ね。僕はこの何年かのあいだ、ずっと日本でツアーをやりたいと思っているんだ。東京と大阪だけじゃなくてね、日本の小さな町なども廻りたいと思ってる。でもなかなかそれが実現しなくて......。アメリカとかヨーロッパなんかは10代のバンドがそうやってインディペンデントなツアーをずっと廻ったりして、それを観た更に若いキッズたちがバンドを作ったりしてるんだけど、日本はどうなのかな? あと、実際に僕がそれをやることの意味とかっていうのも気になるんだけど...

坂本:いいと思いますよ。日本のバンドも皆やってますね。車で運転して、小さい町に行くっていうのは皆やってるし、まあ、すごく狭いので、アメリカ・ツアーよりも全然楽だと思いますよ。

僕がはじめてガールズを聴いたときって、僕はまだ18歳とかで、もちろん僕も英語の歌詞が全部わかるわけではなかったんですけど、フィーリングだったり、どこかで同じ気持ちを共有できた気がして、すごく助けられました。なので、それは是非実現してもらいたいですね!

クリストファー:イェー! ティーンエイジャー! じゃあ、これが最後の質問ね。クラシック・ジャズは好きですか? モダンじゃないジャズ・ミュージック。

坂本:全然詳しくないですね。嫌いとかではないんですけど、いままで聴いてきてないので、よくわからないかなー。

クリストファー:何枚か僕が好きなレコードを送ったら聴いてくれる? 最近なぜかジャズをすごい聴きはじめてね。いきなり一つ大きな世界が開けたみたいにインスピレーションを受けてるんだ。もしかしたら興味を持ってくれるかなって思って聞いてみたんだけど。

坂本:たとえばどういうの?

クリストファー:コルトレーンとか、チャーリー・パーカーとか、マイルス・デイヴィスとか、チェット・ベイカーみたいな本当にスタンダードなやつ。細かいのは僕も全然知らないんだけど、最近聴きはじめて本当に気に入ってるんだ。

坂本:その辺の有名なところは、一応昔聴いたんですけど、他のジャンルを買うのに忙しくて、ジャズはまだ追求してないので、他が終わったら聴いてみます。

(笑)

坂本:でもチェット・ベイカー・シングスはヴォーカル・アルバムとして、昔から本当に好きです。

クリストファー:クール! 僕もだよ。えっと、これで一応終わりなんだけど、とにかく、素敵なアルバムと、今日という機会を作ってくれて本当にありがとう!

坂本:ありがとうございます。

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最初にアルバムをもらって聴いてて、さっき名前が出たから言うわけではないんですけど、コンセプトにしろ、ゲンズブールの『メロディ・ネルソンの物語』に近い印象を持ったんですけど、その辺を意識してたりするんですか?


クリストファー・オウエンス - リサンドレ
よしもとアール・アンド・シー

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坂本慎太郎 - まともがわからない
zelone records

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ではせっかくなので、逆に坂本さんがクリストファーさんに聞きたいことってありますか?

坂本:最初にアルバムをもらって聴いてて、さっき名前が出たから言うわけではないんですけど、コンセプトにしろ、ゲンズブールの『メロディ・ネルソンの物語』に近い印象を持ったんですけど、その辺を意識してたりするんですか?

クリストファー:ゲンズブールは昔から僕のアイドルで、すごい影響を受けてるんだけど、あまりにも偉大でクールな人だから僕と比較は出来ないよ(笑)。『メロディ・ネルソンの物語』は映画のサウンド・トラックっていう側面がかなり大きいよね。そこは僕のアルバムと違うところだけど、あのレコードも、ひとりの女性のキャラクターっていうのが中心にあって、それに基づいたレコードだから似てる部分もあると思うし、もっと大きな意味での影響はいままでものすごく受けてきたはずだよ。

坂本:あと、出身はサンフランシスコですか?

クリストファー:うん。

坂本:サンフランシスコは行ったことがないんですけど、知り合いのミュージシャンの話では凄い面白い場所で、世界で一番狂ったところだって聞いてるんですけど、いまのサンフランシスコの音楽のシーンっていうか、自分が所属しているシーンみたいなものがあるのか、もしくは孤立してひとりでやってるのかっていうのが気になったんですが。

クリストファー:音楽シーン自体はあるよ。ヘヴィーなガレージ・ロックとかサイケデリック・ロックとかね。皆友だちだし、僕は彼らの音楽が大好きなんだけど、音楽性としては、僕は孤立していて、彼らと違った音楽をやっているっていう感覚は少なからずあるかな。

坂本:なんかそういう実験的な、アヴァンギャルドなシーンとか、パンクのシーンがあるのかなって思ったんですけど、歌をメインでやられているので、ライヴとか普段どういうところで、どういう感じでやってるのかなと思ったんですよね。

クリストファー:ガールズのときはもうちょっとロックンロールなショーをやっていたんだけど、今回のアルバムに関してはこれまでのライヴとはまったく違うような感じだね。カーテンがあって、座席があって、画が飾られているような、古くて小さい劇場で、アルバムを最初から最後まで演奏するような感じ。

サンフランシスコでは、日本の音楽がどれくらい浸透していて、実際にどれくらい聴かれているんですか? 

クリストファー:サンフランシスコ自体はとっても大きな日本人街があるし、そこで音楽を売っているお店もあるから、アクセスしようと思えば出来るんだけど、僕も最近は新しい音楽を追いかけたり、どんどん掘り起こしていったりしなくなったから、日本の音楽は全然知らないんだよね。たぶん、坂本さんのレコードも、送られてこなかったら聴いていなかったかもしれないし、なかなかそういう機会はないかもね。

じゃあ、坂本さんがクリストファーさんに「この日本のアーティストは絶対聴くべきだ!」っていうをここで教えるのはどうですか?

クリストファー:イェー!!! やろう!!!

(笑)

クリストファー:実は今回の来日でいくつか変わったレコードを買ったんだけど、えっと、ぴんからトリオとか(笑)。

一同:おお(笑)!!

クリストファー:あと坂本九とかね。テレビでたまたまやってたから買ったんだけど(笑)。

坂本:どういうのが好きなんですか? というか、どういうのが聴きたいの?

クリストファー:うーん、僕のレコードに近いっていうか、日本の伝統的なフォークみたいな、歌ものの影響を感じられるロックとかポップとか。あとは女性のバック・コーラスがいいやつと、ゆらゆら帝国に似ているものも聴きたいな。

坂本:そのママギタァを持ってくればよかったんですけど(笑)。

一同:(笑)

坂本:最近自分が買ったのだと、八代亜紀がジャズ歌ってるやつ。あれは日本の古い歌も入ってるし、いま売ってるので、いいかもしれないですけど。

クリストファー:クール!

坂本:なんでしたっけ? あ、『夜のアルバム』だ。さっき古いジャズって言ってたから、日本の歌謡曲みたいな感じでぱっと浮かんだんですけど。うーん、でもいっぱいあるなぁ。じゃあ、なんか今度まとめて送ります。

クリストファーさんは、コーネリアスをご存知ですか?

クリストファー:まだちゃんと聴いてことはないんだよね。名前は聞いたことあるんだけど。今回たくさん取材を受けたんだけど、どこかの雑誌で見た気がする。

先ほど言っていた、salyu × salyuは、コーネリアスの小山田圭吾さんという方がアルバムをプロデュースされていて、そこに坂本さんが詞を提供されてるんですよ。

クリストファー:サウンズ・グッド!!!! ありがとう、聴いてみるよ。

では、あと少しで今年も終わってしまいますが、お互い、今年1年を振り返っていかがでしたか?

クリストファー:ふーーーーー。

(笑)

クリストファー:とってもクレイジーだったよ。ガールズを脱退したのが大きくて、僕にとっても辛い決断ではあったんだけど、でもそうしなきゃいけなかったんだ。すごくパーソナルなこともいくつか起こったし、はじめてソロ・アルバムも作った。本当に目まぐるしい1年だったね。

坂本さんはいかがですか?

坂本:僕はなんにもない、抑揚のない1年でしたね。

一同:(笑)

来年は、何か動き出したりはしないんですか?

坂本:動かないですね。まあ音楽はずっと家で作ると思うんですけど。淡々と作業する感じで。

次のアルバムも自分のタイミングで出す感じですか?

坂本:そうですね。凄いことは何も計画したりはしてないですね。

クリストファーさんは?

クリストファー:まず、またここに戻って来ること。あと、本当に日本をツアーするっていうのは大きな目標だね。このアルバムをリリースしたら、アメリカとヨーロッパでツアーをやる予定なんだけど、日本に関しては東京が出来るかなっていう状況で......。本当はさっきも言ったように、いろんなところでライヴをやりたいんだけど、何かそのためのアイデアとかってないかな?

坂本:僕はライヴやってないのであれですけど、精力的にライヴやってるいいバンドと友だちになって、車に乗せてもらって、ギター持って、やればいいと思います。

一同:(笑)

でもそれはメディアが頑張らなくていけない部分でもあると思うので、僕も頑張ります!

坂本:ちなみに『リサンドレ』の日本盤出るんですか?

〈よしもとアール・アンド・シー〉さんから出ます。

坂本:じゃあレーベルの人がブッキングしてくれますよ。

クリストファー:やらせます!!

本当に今日のこの対談が、お互いの何かのきっかけになればといいなーと、素直にそう思います。僕は坂本さんのライヴにも期待していますので。

坂本:ああ、そうですか。

クリストファー:とにかく僕はこのアルバム(『幻とのつきあい方』)の大ファンだから、いつか「僕と一緒にやりませんか?」って本当に連絡するかもしれないけど、そのときはよろしくお願いします!

坂本:あ、はい(笑)。

最後に何か言いたいことありますか?

クリストファー:えっと、坂本さんと一緒に写真撮っていいかな(笑)?

一同:(笑)


 坂本慎太郎の独特な間合い、滅多に表情を変えない、独特な佇まいと、初恋の人に会うようなクリストファー・オウエンスのあからさまにウキウキしている感じとの対照的なふたりが面白かった。あらためて、良い音楽は国境を越えることを知った。
 最後に、クリストファー・オウエンスの傑作『リサンドレ』についても触れておこう。インタヴュー中の彼の表情にも、自由を手に入れた嬉しさと自信が垣間見れたが、『リサンドレ』は、本当にトレンドなど無視して作った、ただの、素晴らしいポップ・アルバムだ。「さあまたはじめよう、前に進まなくちゃ」と、"ヒア・ウィ・ゴー・アゲイン"からはじまる『リサンドレ』は、対談中でも触れているように、女の子との出会いと別れが描かれている。セルジュ・ゲンズブールの『メロディ・ネルソンの物語』のようなフィクションが語る真実がある。

 個人的に2012年は本当にいろんなことがあった。大学を正式に辞めて、イヴェントやって、糞みたいなバイトで貯めたお金でアメリカ行って、上半期は本当に活動的だった。下半期は何もやらなかった。僕も前に進まなくちゃ。そう思っているあなたも、ぜひ『リサンドレ』を手にとって聴いて欲しい。彼は、2013年はあなたの街のライヴハウスにもやって来るかもしれないし。

 撮影が終わってもふたりは名残惜しむように話している......。「今度は新宿のゴールデン街で飲みながら話しましょう」と坂本慎太郎。クリストファーも目をキラキラさせながら「いいね」と言う。「それか、思い出横町とか」、「うんうん」とクリストファー......。編集長にあとで聞いたら、この手の対談で、ちゃんと質問までメモってくるような人はわりと珍しいとのこと。お互いのリスペクトがわかる、良い雰囲気の良い対談だった。

 そんわけで、2013年も音楽を聴きまくりましょう!

interview with Darkstar - ele-king

E王
Darkstar - News From Nowhere
Warp/ビート

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 公園のベンチに座るのが好きだ。色や匂いが違う。ただそれだけのことだが、ダークスターの『ニュース・フロム・ノーウェア』はその感覚を押しひろげているように感じる。その点で言えば、ビーチ・ハウスの『ティーン・ドリーム』を思わせる。USインディ音楽のドリーム・ポップがUKの湿った土壌で醸成されたというか、いずれにせよ、この音楽にはもうUKガラージやダブステップの記憶はほとんどない。

 ダークスターは、2009年末、〈ハイパーダブ〉からの12インチ・シングル「エイディーズ・ガール・イズ・ア・コンピュータ」によって大々的な注目を集めている。当時はふたり組だったが、その後3人組となった。後から加入したジェイムス・バッテリーはヴォーカリストだ。彼が入る前の「エイディーズ・ガール・イズ~」や「ニード・ユー」は、初音ミクよろしくコンピュータのソフトウェアが歌っている。
 2009年といえば、ダブステップが多様化を極めようとしていた時期だ。ブリアルの影響下でマウント・キンビーやジェームズ・ブレイクが登場、あるいはラマダンマンやSBTRKT、ジョイ・オービソンらが頭角を現していたが、ダークスターのエイデン・ウォーリーとジェイムス・ヤングは他の誰とも違ったアプローチを見せた。それは、ちょっとクラフトーク風の、ロボティックなシンセ・ポップだった。そして、3人組となって録音、2010年の秋にリリースされたデビュー・アルバム『ノース』では、明らかに、がつんと、バッテリーの甘い歌声を活かした楽曲を披露した。それはイングランド北部の喪失感をえぐり出すような、暗く寒い音楽だった。
 しかし、『ノース』は素晴らしいアルバムでもあった。90年代の〈モワックス〉からDJシャドウが、あるいはアイルランドからデヴィッド・ホームズが出てきたときのようなイメージと重なる。憂鬱が今世紀のクラブ・サウンドのなかで見事に音像化されている。いわば灰色の魅力だ。
 対して2年ぶりのセカンド・アルバム──〈ワープ〉移籍後の最初のアルバムとなる『ニュース・フロム・ノーウェア』は、前作以上に、多彩なテクスチャーを見せている。アルト・ジェイの電子版とでも形容できそうな、聴き応え充分のアルバムだ。たとえばこの曲とか。



最初にたまたま作った音楽がダブステップだったっていうのはあるけど......でもいつももうちょっとメロディのある歌ものを作っていたんだ。

そもそもダークスターという名前はどこから来たんですか? 

ジェイムス・ヤング:ダークスターという名前は......なんだろう、ダークな感じっていうだけなんだけど......。最初は『ダークスター』っていうレコードから名前をとったんだ。それで『ダークスター・ヒューマノイド』っていうのにしようと思ってたんだけど、変な名前だなーと思って短くしたんだよ。

オリジナル・メンバーのふたり(エイデン・ウォーリーとジェイムス・ヤング)はどうして出会ったのでしょうか?

エイデン・ウォーリー:もともと僕とジェイムス(Buttery)は友だちだったり、みんなバンドをやってたり、そして全員同じロンドンの大学に通う仲間だった。僕とジェイムス(Young)は当時同じ寮に住んでたりもした。それでジェイムス・ヤングと一緒にダークスターをはじめて、その後ジェイムス・バッテリーも誘って一緒にやりはじめたんだ。ロンドンの東にあるハックニーを拠点に音楽を制作しはじめて、それでいくつか曲ができはじめたって感じで、自然にはじまったっていう感じだね。

ダークスターにはいろんな音楽からの影響を感じますが、音楽をやりはじめたきっかけは、やはりダブステップだったんでしょうか? それとも、別の契機があって作っていたところに、たまたまダブステップが流行っていたから乗ったんでしょうか?

ジェイムス・ヤング:まぁ最初にたまたま作った音楽がダブステップだったっていうのはあるけど......でもいつももうちょっとメロディのある歌ものを作っていたんだ。

ジェイムス・バッテリー:僕たちはいろんな音楽を聴くんだ。もちろんエレクトロニック・ミュージックはたくさん聴くけど、バンドの音楽も聴くし。僕たちはいろいろなものを聴くから"コレ"っていうものにカテゴライズできないと思うよ。もちろんダブステップからはじまってその上にいろいろな音楽の要素が乗ってる感じだね。

〈2010 Records〉は自分たちの自主レーベルだったんですよね? 初期のシングルはダブステップのスタイルでしたが、2007年当時は誰からの影響が強かったのでしょうか?

エイデン・ウォーリー:そうだよ、自分たちを表現するためにもいいかなと思ってさ。さっきも話したけど、最初はダブステップからはじまったけど、僕たちはいろいろなジャンルの音楽を聴くし、とくにカテゴライズしてないと思うよ。

それが2008年に〈ハイパーダブ〉から出した「Need You」あたりから変わっていきますよね。そして2009年の「Aidy's Girl Is A Computer」でいっきに変化を遂げる。実は僕は「 Aidy's Girl Is A Computer」が最初だったんですけど、聴いて一発で好きになりました。ダークスターを語るうえで逃せない重要なシングルだと思いますが、当時、ここで音楽性がいっきに拡張して、ダブステップとは別の方向性を見せた理由は何にあったのでしょうか?

エイデン・ウォーリー:たぶんここ最近の作品は「Aidy's Girl Is A Computer」の手法と同じように作っているからそういう印象を受けるのかもしれないね。とにかくそのとき考えたのは、最高に面白いものを作るってことだったしね。曲を作るときに気をつけたのはバランスだ。エレクトロニック・ミュージックのなかでヴォーカルとダンス・ミュージックの要素を上手くバランスを取って取り入れることが重要だと思うんだ。だからある意味僕たちにとってはチャレンジすることがまだたくさんある。

そしてジェイムス・バッテリーが加入して『ノース』が生まれました。歌が必要なだけならシンガーをゲストで入れれば済む話ですが、敢えてヴォーカリストをメンバーとして入れた背景には何があったのでしょうか? 言葉を必要としたということなのでしょうか?

エイデン・ウォーリー:もっと「歌」を書きたいと思ったからっていうのはあるかな。「歌」があったほうがもっといろいろなチャレンジできるしね。

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イースト・ロンドンのフラットで作ってたんだけど、けっこう荒んだエリアでね......。街ではいつもいろんなことが勃発してて、だからなんとなくそのときのことが反映されていて、エモーショナルで悲しい感じが出ているよね。

『ノース』が生まれた背景にはあなたのどんな思いがあったのか教えてください。そもそもあのとき、何故『ノース』という題名に決めて、インダストリアルな写真をデザインしたのでしょう? 

ジェイムス・バッテリー:基本的にイースト・ロンドンのフラットで曲を作っていたんだけど、8~9カ月くらい制作に時間を費やしたんだけど......いろんな曲を試したし、とくに変わったことをしたわけではなく、通常通りの曲作りをしていたね。正直そのとき自分たちに出来るベストなアルバムを作ろうっていう、ただそれだけだった。
 アルバム・タイトルについては、最後の最後まで決まらなくて、どうすればいいのか迷ってたんだけど、すごくアグレッシヴな"North"っていう曲があって、なんとなくアルバム全体を表しているような気もしたし、僕たち全員北部(ノース)の出身だから、それも意味を成してていいかなって思ったんだ。アートワークについては〈モー・ワックス〉の初期っぽい感じにした。

『ノース』のメランコリーや喪失感はあなた個人の抱えている問題でしょうか? それとも社会の反映なんですか?

エイデン・ウォーリー:イースト・ロンドンのフラットで作ってたんだけど、けっこう荒んだエリアでね......。街ではいつもいろんなことが勃発してて、だからなんとなくそのときのことが反映されていて、エモーショナルで悲しい感じが出ているよね。

ジェイムス・バッテリー:なんかこうやって前のアルバムを振り返るとそのとき気づかなかった点に気づいて、それはそれで面白いよね。そう思うと、最初に作ったアルバムって本当に小さな箱のなかで作業しているような、本当に狭い世界で出来あがったものだなって思うよ。でも僕たちはこの環境にしてはとても恵まれていると思うし、成功しているほうだと思うよ。

『ニュース・フロム・ノーウェア』は『ノース』よりも緻密に、手間暇をかけて作られていますね。音響の処理や録音も素晴らしかったです。まずはこのアルバムの制作に時間のかかった理由から伺います。それは技術的な問題からなのでしょうか、あるいは作品の方向性を決めるうえで慎重な議論を要したからでしょうか?

エイデン・ウォーリー:6~8ヶ月くらい?

ジェイムス・ヤング:まぁ、たくさん時間をかけて作った分、いろんなヴァージョンの曲も出来あがってるから、けっこうな曲数になってると思うね。

ジェイムス・バッテリー:でもマスターテープを作る作業から入れたら11か月くらいかかってない? それに僕が入院してたせいで作業が思うように進まなくて......。

どうしたんですか?

ジェイムス・バッテリー:この家の塀から落ちて背中を打ったんだよ。まだ重いものは持てないけどだいぶ治ってきているから、いまは大丈夫なんだけどね。でも、いいのか悪いのか、おかげで制作期間が延びたことで落ちついて、いろんなことができたのはあった。一回作ったものに対してひと呼吸おいて考えることができるというか。
 まぁ、とくに僕はしばらく寝たきりだったから、個人的には時間がたくさんあった。で、いろいろ考えられたんだけどね(笑)。いまはまたこうやって歩けるようにもなったし、元気になってから3~4曲出来あがったしね。

『ニュース・フロム・ノーウェア』はフィクションですか? 

ジェイムス・バッテリー:つねに「真実」は隠されていると思うけど......でも基本的にはフィクションだね。

エイデン・ウォーリー:リチャード・フロンビーとのレコーディングのあとで、どういうタイトルにすべきかっていう話になったんだ。そのときにアルバムにフィットする言葉じゃないかっていうことで、これにした。

アレンジを凝りつつ、アンビエント・テイストも深めていますよね。1曲目の"Light Body Clock Starter"もそうですが、続く"Timeaway"もそうだし。ビートが際立ってくるのは3曲目の"Armonica"からだし。

エイデン・ウォーリー:アンビエント? それはちょっと違うような気がするなぁ。自分たちとしては、もっとエネルギッシュだと思うし、アンビエントの要素はないように思うんだけどな。前のアルバムよりずっとエネルギッシュだし、ライヴではそれがより顕著に出るしね。

ジェイムス・バッテリー:アンビエントというより、オプティミスティックということだと思う。アルバム全体がいろんな音楽のコレクション的な感じになってるからね。なんていうの? スナップショットの集まりみたいな感じだと思うよ。

たとえば"Armonica"には『ノース』にはなかった気さくさがありますよね。この曲は何について歌っているのでしょうか?

ジェイムス・バッテリー:これはアルバムの最後のほうでレコーディングされた曲なんだ。この曲はとても変な作り方をしたんだよ。僕はクイーンズ・オブ・ザ・ストーンエイジを聴いていて、この曲をアコースティックギターで作った。そしてそれをそのままレコーディングに使って、曲を仕上げていった感じ。だから他の曲ともちょっと毛色が違うかも。いつもなんとなく成行きに身を任せて曲を仕上げていくと、それがいい方向に転がることが多いしね。

"A Day's Pay For A Day's Work"もとても魅力的なメロディの曲で、ダークスターなりのポップ・ソング的なところもある曲だと思います。これは何についての曲なのでしょうか?

エイデン・ウォーリー:今回のアルバムでは、制作とレコーディングのために田舎の一軒家を借りて、そこでライティングをはじめたんだけど、その曲は、家に引っ越す前からライティングをスタートしていた唯一の曲なんだよ。クラシックでありながらも、前進したメロディ・スタイルを持った曲。アルバムのためのデモはたくさんあったんだけど、そのなかでも、レコーディングの間中ずっと完成せずにつねに考えていたのがこの曲なんだ。曲のなかのある部分がいつまでたってもしっくりこなくてね......最後の2、3週間でやっと新しいコーラスを書いて仕上げた。作りはじめたときに感じた曲の可能性に、最後の最後で達成することができた。可能性があることは最初からわかってたんだけど、それをずっと形に出来ずにいたんだ。
 これはオールドファションなポップ・ソングだよね。最初にそれを感じたから、それに従ったほうが良いと思ってね。最後にコーラスができたときは本当にハッピーだったよ。

曲自体の内容はどういったものなのでしょう?

エイデン・ウォーリー:曲の内容は......幸というか......うーん、何ていったらいいかな。クールになることにとらわれていないこととか、自分は自分っていう内容だよ。ありのままの自分にハッピーで、いまの自分でいることでリラックスできてるってこと。気取ったり無理しなくても自分自身でいながら、そのなかに何か良い部分があればそれでいいって感じの内容だね。

とてもUKらしい音楽だと思ったんですが、たとえばシド・バレットや66~7年のジョン・レノンのようなサイケデリック・ロックのシンガー・ソングライターへの共感はありますか? またそうした要素を今回のアルバムで取り入れたいと思いましたか?

エイデン・ウォーリー:そういう音楽って、すごく影響力のある音楽だと思う。3人ともビートルズを聴くし、ピンク・フロイドも聴くし......ジョン・レノンもシドも、ヴォーカル&ピアノ、ボーカル&ギターっていう音楽がすごく上手いよね。彼らの曲を聴けば、感情がうまく表現されてるから、そういったものを思い出すんだ。彼らはふたりとも素晴らしいソングライターだし、評価してるし、たくさん聴いてもいる。だから、それが音楽に反映されてることはあるかもしれないね。共感があるから。

ジェイムス・バッテリー:そもそも僕たちの楽曲制作のアプローチの仕方が彼らに近いと思うんだよね。彼らの音楽に影響を受けたというよりも、何か面白くて新しいものを作るっていう点において共通しているところはあるかもしれないね。もしビートルズやピンク・フロイドからまったく影響を受けずに生きられるのなら、岩の下とか洞窟とか人が生活する環境から遠く離れて隔離された場所にいないと無理だと思うんだ。とくに僕たちイギリス人にとっては生活やカルチャーのなかに組み込まれているものだからね。

今回のアルバムのなかにそういう要素は含まれていると思いますか?

エイデン・ウォーリー:どうだろうね。意識的には何もしてないから。でもないとも言えないよ。僕たちがこのアルバムでやったのは、ただナイスなアイディアを出しあって、そこから全員一致で好きなものを集めて、そのアイディアに境界線は引かなかったってことだけ。もし誰かが本当にナイスでスローなクラシックなポップ・ソングのアイディアを持ってきたとしたら、みんなでその曲に何度も取り組んで、自分たちのサウンドを構築していく。僕たちは、何に対してもノーとは言わないんだ。それが良いアイディアで良いサウンドだったらプレイする。もしそのアイディアとサウンドが機能したら、それは大切なことだから、絶対に活かさないとね。

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3人ともビートルズを聴くし、ピンク・フロイドも聴くし......ジョン・レノンもシドも、ヴォーカル&ピアノ、ボーカル&ギターっていう音楽がすごく上手いよね。

"Young Heart's"の悲しみはどこから来るのでしょうか? 

エイデン・ウォーリー:"Young Heart's"は、他人をリファレンスにした曲のひとつなんだ。自分じゃなくて、誰か他の人やその人のシチュエーションとかを題材にした。考えてみれば、アルバムのなかではそういうのってこの曲だけなんじゃないかな。ジェイムス・ヤングがほとんどの曲を書いたんだ。で、全員でその歌詞にいろいろとアイディアを加えていった。でもメインで書いたのはジェイムスだよ。
 アルバムに収録された曲をいまよく考えてみると、『ノース』でやったことに近い曲のような気がする。この曲は、他人のシチュエーションに関して語っている、他人のストーリーなんだ。悲しみは、たぶんそのストーリーから来てるんじゃないかな。ある女の子が恋人から捨てられるんだ。その恋人は彼女よりちょっと年上で、尊敬していた人。でも、彼女はおいてきぼりにされるんだ。こういうのってけっこう多くの人に起こることだよね。ノース・イングランドでもよくあるんだ。年上の魅力的な男と付き合ったけど最終的には最低な奴で、それを後悔する、みたいなことがね。
 すごく悲しいフィーリングだと思う。それに、ジェイムスの歌い方がすごく感情的なんだ。クールな曲だよ。彼のファルセットの声がすごくソフトでデリケートなんだ。これは最初の時点で「レコードに入るな」って確信した曲。アルバムの残りの曲は、もっと楽観的なフィーリングをもってるんだけど、これは違うんだ。

ジェイムス・バッテリー:僕にとって歌うことは「演じる」ことと同じなんだ。歌うときはとにかく深く自分の体験などを思い出してそのことに没頭するようにして、感情をうまく出せるように努めているよ。それにヨークシャーの風景は切なくてメランコリックな感触がにじみ出ていて、とくに秋は傾向が強くて人びとの仕事に影響を与えていると思うよ。実はこの曲のモチーフはテレビ・ドラマで『This is England』(2009年には日本でも公開されたスキンヘッズの映画のテレビ・ドラマ版。監督はストーン・ローゼズのドキュメンタリーを撮っている)っていうのがあってそこから来ているんだけど......そのドラマの父娘の関係性を描いているのがこの歌の歌詞だよ。ヨークシャー(英国北部の地域)のスラスウェイトはハワースからそんな遠いし、ブロンテ姉妹(ヴィクトリア時代を代表する小説家姉妹)が住んでいた場所だしね。湖に何かいるのかもね......。

"Amplified Ease"なんかとてもユニークな曲ですが、言葉の意味よりも音を重視しているということでもあるのでしょうか?



ジェイムス・ヤング:特別そういうわけではないよ。サウンドって人の気を引く最初のものだと思うから、僕たちは曲にいい雰囲気を盛り込めるように細心の注意を払っているんだ。できるだけ音にも歌詞にも出来るだけ意味を込めるようにしているんだ。ヴォーカルに関してはいつもこういう録り方をしているから、僕たちにとってはとくに目新しいものでないよ。歌詞はいつももっとチャレンジングなものだよね。歌詞は音より主観的になりやすい傾向にあるから難しいよね。歌詞に関しては曲と同じくらいの時間を費やしたからどちらも同じくらい重視しているよ。

エイデン・ウォーリー:トラックによるかも。ヴォーカルのサウンドと他の音が影響し合って良い音が生まれるっていうのは、すごく意味のあることなんだ。もちろん、ときには歌詞は何かを意味してなければいけないし、僕たち全員がその歌詞の内容にたいしてしっくりこないといけない。でもときに、その曲にとっては歌詞がそこまで大切じゃないこともあるんだ。君が言ったトラックは、まさにそういうトラックなんだけど、そのふたつの曲は、音楽で機能してるんだ。歌詞が良いっていうのももちろん大切だけど、控えめでもいいんだよ。つねにハイエンドである必要はないと思うしね。音楽そのものが曲のフィーリングを作って表現していることもあるし。僕たちは、ヴォーカルを音として、つまり楽器として使うことがあるっていうことさ。

ちなみに"Bed Muisc-North View"という曲名の「North View」という言葉にはどんな意味があるのですか?

ジェイムス・ヤング:「North View」というのは僕たちが西ヨークシャーでレコーディングのときに住んでいた家に関係あるんだけど......この家の名前が「North View」だった。

エイデン・ウォーリー:そう、アルバム制作のために借りて住んでた家の名前が、偶然にも「North View」だったんだよ。北を見渡せる家だったんだ。住むまでそんな名前だなんて知らなかったからビックリだったよ。で、ジェイムス・バタリーがレコーディング中にその家で背中を怪我したんだ(笑)。壁からおちて、背中を折ったんだよ。マジな話(笑)。あと2週間でレコーディングが終わるってときで、その夜にちょうどプロデューサーのリチャードと、もうちょっと(レコーディングに)時間が必要だなっていう話をしてたところだったんだ。
 その話をしたあと〈ワープ〉の人たちと何杯か飲みにいって、それからジェイムスが機材をもって家に帰ったら、それが重かったか取ろうとしたかで壁からおちて怪我しちゃってさ......もっと時間が必要って話してる矢先にそんなことが起きて、10週間もプラスで必要になったんだ(笑)。
 もちろんそれは不幸な出来事だったんだけど、彼は今完全に元気。まあ、背は少し低くなったけどね(笑)。それ以外は大丈夫だし、しかもその出来事が、3つのトラックを置き換える新たなチャンスをもたらしたんだ。アルバムに入るはずだったけど、自分たちがしっくりきてなかった3曲をね。"Bed Muisc"は、ジェイムスがその怪我をしてるときにベッドで書いた曲なんだ(笑)。バック・ブレース(背中を固定するもの)をつけながらね(笑)。次のアルバム制作のときも何が起こるかわからない。全員が転んだりしてね(笑)。

アンディ・ストットやレイムのようなインダストリアル・ダブな感覚には共感がありますか? 

ジェイムス・ヤング:とくにないかな。僕はどっちも好きだけどね。

エイデン・ウォーリー:共感で言えば、アンディ・スコットに対してはたぶんあるかも。彼の音楽は好きだし、すごく面白い音楽だと思うから。あの質感が好きなんだ。彼の曲もたくさん聴くけど、でも......ブリアルのほうが僕にとってはビッグ・アーティストだよ。『ノース』の前に12インチなんかを書いてた頃は、彼の音のパレットの素晴らしさに圧倒されていたよ。でも、そういうのを敢えて自分の音楽に取入れようとしてたわけじゃないけどね。

ダーク・アンビエントな感覚に対して興味はありますか?

エイデン・ウォーリー:ないね。そういうのはそこまで聴かないから。いくつかは聴くけど、ライティングで影響を受けるまでじゃない。エイフェックス・ツインみたいなアンビエントの一部はすごく良いと思うけど。彼のダークでアンビエントな作品のいくつかは素晴らしいと思う。だから聴きはするけど、意識的にそれをどうこうするっていうのはないね。自分たちの音楽には、もっと前向きなフィーリングが流れてるから。

フランク・オーシャン、ハウ・トゥ・ドレス・ウェル、エジプシャン・ヒップホップのなかではどれがいちばん好きですか?

エイデン・ウォーリー:フランク・オーシャンのファースト・アルバム。理由は、そのアルバムがとにかく素晴らしいから。すごく新鮮だし、良いヴァイブを持ってる。エナジーもすごいし、生まれたままのサウンドだよね。プロダクションがそうなんだ。でも同時に洗練されてもいて、ヴォーカルとメロディも最高。他の二つは......正直ハウ・トゥ・ドレス・ウェルはそんなにファンじゃない。ときどき頭に音楽が流れるときはあるけどね。
 エジプシャン・ヒップホップはあまり聴いたことがないんだ。でも、今回のレコードのプロデューサーのリチャード・フォームビーが彼らと仕事している。リチャードからいつも彼らがクールで良いミュージシャンだって聴いてるよ。だから、これから聴いてみたいと思ってるんだよね。

それでは、ジェイク・バッグはいまのUKの若者の代弁者ですか?

エイデン・ウォーリー:正直ファンじゃないんだ(笑)。彼がそういう存在なのかはわからない。彼に対して他の人たちにはない魅力やビッグさは感じないなあ......わからない、コメントできないよ。あまり興味がなくて......(笑)。彼が新鮮だとは思わないだけ。彼がやってることは前に誰かがやってきていることだからさ。オリジナルじゃないから。

では、〈ワープ〉のアーティストでいちばん好きなのは誰ですか?

ジェイムス・ヤング:エイフェックス・ツインの影響を受けているのようなやつらがいちばん好きさ(笑)。

エイデン・ウォーリー:うーん......いちばんか......難しいな......誰だろう。マーク・ベルだな。彼の音楽は面白いし、良い人だし、アグレッシヴでインダストリアルなサウンドだと思うから。彼が参加したビョークの作品は本当に素晴らしいと思う。

Raime - ele-king

 そもそも自分とはまったく違う人間(生き物)が相手なのだから、それなりの奇跡と思いがなければ恋愛などは成立しない、と僕は宇宙論的に、いわばサン・ラー的に、いわば足穂的に、いわばセックス・ピストルズ的に考えているので、無闇に恋愛を繰り返す音楽や年中発情しているような音楽に、自分が発情期だったときでさえ積極的な共感はなかった。もちろんごくたまに例外的に好きなものもある、が、基本はその路線だ。初期のサム・クックが素晴らしいのは間違いない......けれど、自分はやっぱり彼のライヴ盤、さもなければラヴソングを歌わないPファンクのほうが好きなのだ。そう易々とロマンを歌われたら、それはロマンではなくなる。
 快速東京に"ラヴソング"という曲がある。「テレビを付ければラヴソング」という言葉ではじまるその曲は、世のなかどうしてこんなにラヴソングに溢れているのか不思議でなんないぜーと毒づいている、というよりも素朴な疑問をぶつけているだけの曲である。僕は彼らとは25歳以上離れているけれど、その気持ちを共有できる。

 ブリアルの"アーチェンジェル"、ジェームズ・ブレイクの"CMYK"、ともにR&Bをサンプリングしている。"アーチェンジェル"が使っているソースは、ばっかみたいに甘々なラヴソングR&Bだ。俗的というよりも商売っ気で作られたような曲である。周知のようにブリアルは、そうしたばっかみたいなラヴソングR&Bを幽霊のような声に変換するのが得意だ。ラヴソングとは、恋愛しなきゃいけないというオブセッションに駆られた都会の空虚さの象徴だと言わんばかりに。

 ブリアルがロマンティックなように、レイムも救いようがないほどロマンティックだ。これはロンドンの、インダストリアル調のミニマル・ダブの最新版で、ベーシック・チャンネルがゴシックに変換されたような音響を展開している。シャックルトンのようなサイケデリックなトライバル・パーカッションとは別モノだ。アンディ・ストットと似ているが、彼よりもさらに地下室めいている。ここにきてダブは、蝋燭の灯りをたよりに階段をさらにもう一段下りた感じがするのだ。70年代の少女漫画の星が10個ぐらい輝いていた瞳も、いまはこのカビ臭い湿った残響とともにあるのかもしれない......(というのは、はんぶん冗談だが)。

 しかしまあ、〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉はイメージ作りが巧妙で、この音楽が意味するところは、ダンス・ミュージックを無邪気に、大勢で楽しむという価値観ではなく、世間から白い目で見られている連中がこっそり集まって、夢想するということだ。どっちが良い悪いという話ではない。ただ、それがいま起きていることのひとつという話で、まさかミニマル・ダブが、シアター・オブ・ヘイトやヴァージン・プルーンズの方にハンドルを切るとは思ってもいなかったよ。なんて陰鬱な、と同時に、なんて夢見がちな音楽だろう。絶妙なエロティシズムを醸し出しているアートワークも素晴らしい。

お正月の5タイトル! - ele-king

 お正月は何を聴きますか? 元旦からお仕事のかたも、例年にまして長い休暇を取られているかたも、おせちとテレビに飽きたらちょっとご参照ください! ライター陣を中心にお正月に聴く5タイトルを挙げてもらいました。ele-kingのお正月はこんなふうです。
 読者のみなさん、今年もありがとうございました。2013年もどうぞよろしくお願いいたします!

木津毅
1. Bon Iver / For Emma, Forever Ago / Jagjaguwar
2. My Morning Jacket / At Dawn / Darla
3. The National / Boxer / Beggars Banquet
4. Iron & Wine / The Shepherd's Dog / Sub Pop
5. The Tallest Man on Earth / The Wild Hunt / Dead Oceans

僕は半分ほどがアラサー女子の成分でできている人間なので、クリスマスに限定のケーキ(今年は〈ピエール・エルメ・パリ〉のフロコン・アンフィニマン・ヴァニーユ)を買い、ワインを飲み、浴びるようにクリスマス・ソングを聴いて年末には燃えつきるので、正月はみなさまと同じくだらけることに決めております。さすがに年始からスプリングスティーンを聴いて、アメリカについて想いを馳せたりはしません。ということで、正月ぐらい、いい男たちのいい歌を聴いて、甘いひとときを過ごしたいです(これは寂寥感ではない)。冬のいい男は、木こり系ですね。

倉本諒
1.Ash Pool - Cremation is Irreversible
2.Law Of The Rope / Crown Of Bone ‎- Law Of The Rope / Crown Of Bone
3.Rev. Kriss Hades - The Wind of Orion
4.Peste Noire ‎- Les Démos
5.Burzum - Filosofem

正月など大嫌いだ。そもそもお節や懐石料理等の常温で食す料理が好きではないし、公共機関をなどの都市機能の能率は低下のためもろもろの事情が遅れつづけるし、 実家も都内にあるため帰省することも別段珍しいわけでもない。そもそも長い極貧生活の中で脂肪を失ったエクストリーム・モヤシ体型の僕にとっていまは一年で最もしんどい時期なのだ。 でも北欧の冬に比べればマシだよねーってことでブラックメタルだけのアンチ祝賀タイトルです。Burzumしかノルウェイじゃないけど。みんなこれを聴きながらコタツに入り、猫の頭頂にみかんなどを載せてニヤニヤしながらアラン・ムーアのフロム・ヘルでも読みましょう。

斎藤辰也(パブリック娘。)
1. John Lennon / Instant Karma(『Lennon Legend: The Very Best Of John Lennon』収録) / Capitol
2. レミオロメン / エーテル / ビクターエンタテインメント
3. ブランキー・ジェット・シティ / 幸せの鐘が鳴り響き僕はただ悲しいふりをする / EMIミュージックジャパン
4. Hot Chip / One Life Stand / Parlophone
5. Zomby / Nothing / 4AD

「ああ、やってやろう!」の気分で満ち溢れている1位。冬はさむいけどワクワクするし春も近いということを思い出させてくれる2位。冬の寒さは身体にきびしい、そして人間は人間に厳しいのだと思い知らされる3位。冬リリースだった思い出もあり、静と動の往来でときを過ごしたい4位。ふざけんな、僕はもうなにも信じない......という気持ちが呼び覚まされるような5位。

竹内正太郎
1.SHINGO☆西成 / スプラウト / リブラ
2.電気グルーヴ / ドラゴン / キューン
3.neco眠る / エンガワ・ボーイズ・ペンタトニック・パンク / デフラグメント
4.サニーデイ・サービス / ムゲン / ミディ
5. PR0P0SE / プロポーズ / マルチネ

編集から依頼のメールがあってからというもの、暇を見つけてはCDラックの前をウロウロしたり、iTunesのライブラリーをキョロキョロしているのだが、正月の気配がまったくしない。なんてこった。わたしは、こんなにも正月と無縁な音楽ばかりを聴いてきたのだ......。辞退しよう。そう思った。それ以前に、「そもそも正月と音楽ってなんか関係あんの?」という負け惜しみ的な疑問を抱いたところ、「でも、一見まったくの無関係な二者に補助線を引くのがライターというものじゃないですかあ」という橋元編集の神の声が降ってきたので、ええいと瞬発的に選んだのがこの5作品。①のあまりにもデカい愛と温かい音。②から④は気持ちのいいポップスを何も考えずに。⑤は単に最近のお気に入り。(あれ、正月あんまり関係ない......)。ひとつだけ言うなら、普段、自分が聴いている音楽と、お茶の間に受け入れられている(ということにされている)ポップス/歌謡曲との距離を嫌でも考えさせられるのが、この年末年始というシーズンの個人的なお約束だったような気がします。みなさま、よいお年を。来年もよろしくお願いします!

橋元優歩
1. Pantha du Prince / Black Noise / Rough Trade
2.M. Geddes Gengras / Title Test Leads / Holy Mountain
3. AKB48 / AKB48 in TOKYO DOME~1830mの夢~スペシャルBOX / AKS
4.吉松隆 / NHK大河ドラマ《平清盛》オリジナル・サウンドトラック 其の二 /日本コロムビア
5.Inc. / 3EP / 4AD

1と5は、帰省の新幹線で。越後湯沢からは特急になるんですが、裏日本の雪原とPanthaの相性は半端ないです。Inc.も薄墨色のR&Bというか、余白がきわだつ音使いやビート感覚が、新幹線の静かなスピードをさらに加速し、窓外を叙情的なエンドロール風に変換してくれるはず......。ベストウィッシュ。よい旅を。

2は大掃除用。経験的に4つ打ちは掃除に向かないです。そしてアンビエントだと床拭きのときなんとなくへこむ。サン・アローとコンゴスのあれのもうひとりの重要人物、ゲングラスさんソロのこのタイトル・トラックは、そのあいだをすばらしく埋めてくれます。3拍めに鍵がある。

3はガチで正月休みにと思い。4は最終回の余韻をまだひきずっているため。現時点で4は未購入ですが、ボカロver.とうわさの"遊びをせんとや"は本作収録。しかし "タルカス"・ブームこなかったですね! クラウトロックがヤングに絶大な影響力を及ぼしているのに対し、ブリティッシュというかシンフォニック系はまったくスルーされている印象です。作中ではとてもキマっています。

本年もありがとうございました。

Photodisco
1.Def Leppard / Animal / Mercury
2.THE WiLDHEARTS / Just In Lust / Eastwest
3.FIREHOUSE / Here For You / Sony
4.Dizzy Mizz Lizzy / Find My Way / EMI
5.SKID ROW / Monkey Business / Atlantic

正月、実家に帰省し、何か音楽を聴こうかなと思うと、いつも聴く音楽は、東京に送っているため、実家のCDラックを見ると、ジャンルで言うところのHR/HMが多く、正月は、HR/HMで年を迎えることが定番となっております。
正月は年の初め、学生時代、初めて影響を受けたHR/HM。
"初心忘るべからず"的なトラックを選びました。

ほうのきかずなり(禁断の多数決)
1.岡本太郎 / 芸術と人生 / NHKサービスセンター
2.The Flaming Lips / Race For The Prize / Warner
3.Lou Reed / Walk on the Wild Side / RCA
4.Prefab Sprout / The Best of Prefab Sprout : A life of Surprises / Sony
5.友部正人 / はじめぼくはひとりだった / 友部正人オフィス

新年を迎えるにあたって気持ちを引き締めるため、まずは岡本太郎の声と言葉を聞くようにしています。太郎の言う「芸術は爆発だ!」という言葉がとにかく大好きで、リップスの『レイス・フォー・ザ・プライズ』はまさに大爆発サウンド。「安全な道と険しい道で迷った場合は険しい道を選べ」と、太郎の言葉にもあるように、ルー・リードの「ワイルドサイドを歩け」を聴いて新年から気を引き締めます。

NaBaBa
1.Dishonored (Bethesda Softwork発売 Arkane Studios開発 / 対応機種Xbox360・PS3・PC)
2.Hotline Miami (Devolver Digital発売 Dennaton Games開発 / 対応機種PC)
3.Far Cry 3 (Ubisoft発売・開発 / 対応機種Xbox360・PS3・PC)
4.Hawken (Meteor Entertainment発売 Adhesive Games開発 / 対応機種PC)
5.Thirty Flights of Loving (Blendo Games発売・開発)

気がつくともう年の瀬ですが、ゲーマー的にはこの年末年始が色々な意味で年間最大の狙い時。Steam等のデジタル販売サイトでは破格の大規模セールが行われるので絶好の買い時ですし、社会人にとっては腰を据えてゲームに打ち込める、数少ない機会でもあります。

そんなわけで最近発売された作品の中から、とくにじっくり遊びたいものを中心に5つほど取り上げさせていただきました。

『Dishonored』は以前連載でも取り上げさせていただいた『Deus Ex』をルーツとした作品。多層構造のマップを自分なりに攻略できる戦略性の高さに、様々な特殊能力を駆使した今時の即興性が組み合わさったゲーム・デザインが特徴で、永らく途絶えていた一人称ステルスゲームを見事現代に復活させました。Viktor Antonovが手がけたアートワークも素晴らしく、個人的に今年のGame of the Yearは本作に決まりです。
https://www.youtube.com/watch?v=-XbQgdSlsd0

『Hotline Miami』は連載の方でも取り上げたのでいまさら言うことはありませんが、それでもなおお薦めしたい一押しタイトルです。シンプルな内容ながらゲームデザイン、ストーリー、ヴィジュアル、音楽と全ての要素が調和していて、ひとつとして無駄がない。ゲームとして卓越していると共に、表現作品としても非常に質が高いと思っています。続編の開発も発表され今後も楽しみな作品ですね。
https://www.youtube.com/watch?v=6OJ51PG0swE

『Far Cry 3』は名作『Far Cry』と迷作『Far Cry 2』に続くシリーズ3作目のゲリラ戦FPS。ジャングルを舞台に賢い敵AIを相手にゲリラ戦を挑んでいくコアのコンセプトはそのままに、前作のわざとなのかと思うくらいの要素の無さを改善し、いろいろな遊びを詰め込み順当な進化を果たしています。南国の島が舞台で一見すると明るい雰囲気ですが、その実『地獄の黙示録』を下敷きにしているのであろう、全能感の暴走をテーマにしたストーリーにも注目です。
https://www.youtube.com/watch?v=CFll8IVLMVw

『Hawken』はMechを操縦して戦うのが特徴のオンラインFPS。まず何よりもインディーズ離れしたアートワークのレベルの高さが注目点で、マシーネンクリーガーを彷彿させるMechがガシャンガシャン言いながら戦う、ある意味そのロマンが全てと言ってもいい作品。基本プレイは無料なのもお薦めしやすい点ですね。現在オープンベータテスト中で、ゲームバランスは正直まだ詰め切れていない印象ですが、ここから完成度が上がりもっと化ける事を期待しています。
https://www.youtube.com/watch?v=Is9nujmgPBo

『Thirty Flights of Loving』はたった15分で終わる、じっくりとは全く正反対のゲーム。主観視点でのストーリー・テリングのみに特化しており、その意味でゲームと呼ぶべきかどうかも疑わしいですが、表現されているものは既存のゲームに対する明確なアンチテーゼです。過度な演出やいっさいの説明を廃し、行間を読ます内容なのがユニーク。この手の作品のマスターピースにまでは至っていませんが、ひとつの試みとしては興味深い。同梱される前作『Gravity Bone』と併せてお薦めの作品です。
https://www.youtube.com/watch?v=5y1P2BUCeuc

これらのなかの一部は、今後連載の方でも詳細なレヴューをしていきたいと思っていますのでお楽しみに。それでは来年もよろしくお願い致します。

野田努
1.Le Super Biton National De Segou / アンソロジー / Kindred Sprits/カレンティート
2.パブリック娘。 / 初恋とはなんぞや / 自主
3.ジェイク・バグ / ライトニング・ボルト / ユニバーサル
4.Sex Pistols / Never Mind The Bollocks / Virgin
5.Echo And The Bunnymen / Crocodiles / Korova

 20代~30代は、毎年、年末年始はクラブ・イヴェントをハシゴしたものだが、子供が生まれてからは、そういう生活から足をあらったので(子供を女房や親に預けて遊びにいける身分ではないため)、40代以降はもっぱら実家でテレビを見ながら親兄弟たちと会話しているという極めて平凡な時間を過ごしている。
 大晦日は実家の掃除を手伝って、年越しソバを食べて、年が変わったら近所の寺で除夜の鐘の叩いて、お参り。それから寝て、起きて、雑煮を食べて、清水エスパルスが天皇杯の決勝戦に残っていたなら最高だったのだが......しかし、どこのチームであろうと、元旦の1時からはサッカーを見ている。

 それから女房の実家に挨拶に行って、安倍川で凧を上げたり、地元の友だちに会ったりとか、年末年始はなんだかんだで忙しいので、音楽を聴いている時間はない。まあ、強いて思案するなら、コスモポリタンたる小生は、年末年始はなるべくワールドな感じで迎えたいといったところか。シュペール・ビトン・ナシオナル・ド・グゼーはここ数年ヨーロッパに再発掘されたマリのバンドで、新年を迎えるにはほどよい陽気さ、清々しさがある。まだ一度しか聴いてないし、実家でしっかり聴き直したい。
 それから何を聴こうかな......。考えてみれば、実家には自分のレコードもない。芸能人が出ているような番組を見ることもない。たまには音楽を聴かない生活も新鮮だ。他には、山を登ったりとか。読書したりとか......。

 もし自分がいま独身か未婚で、東京に住んでいる人間だったらクラブに行って4つ打ちを浴びていたんだろう。元旦の明け方にそのまま明治神宮まで行っていた頃が、遠い昔のことにように思える。

 他に......正月に聴きたい音楽を考えてみる。まずはゆとり世代の最終兵器、パブリック娘。の「初恋とはなんぞや」だ。そして、シングル曲というものの魅力、シングル主義の面白さをあらためて証明したジェイク・バグの「ライトニング・ボルト」。そして、自分を見つめ直すという意味でセックス・ピストルズの『ネヴァー・マインド・ザ・ボロックス』も聴いてみたい。もう1枚は、訳あってこのところ聴きまくっているエコー&ザ・バニーメン。その理由は来年明かしましょう。
 それではみなさん良いお年を。

松村正人
1.倉地久美夫 / 太陽のお正月 / きなこたけ
2.高橋アキ、クロノス・クァルテット / ピアノと弦楽四重奏曲(モートン・フェルドマン) / Nonesuch
3.前野健太 / オレらは肉の歩く朝 / felicity
4.The KLF / Chill Out / KLF COMMUNICATION
5.Kraftwerk / Autobahn / Vertigo

 私は十二歳の元旦に車に轢かれ、ラッキーにもほんの半歩の差で死ななかった。それがどうも心的外傷になったようで、外にいると死ぬ気がするから正月は出歩かない。カウントダウンにも初詣にも行かない。せめて神社に行ければ、モータリゼーションがこの世から消えてなくなりますようにと祈れるのに。ただ私はじっとしているだけだが、そんなとき部屋に流す音楽は揺らぎがすくないほうがいいのだけれども、どこかに歪みを求めてしまうのは反復強迫なんスかね。

三田格(関東連合
1.シー・シー・シー(クラークス)
2.ヨー・ヨー・ヨー・ヨー(スパンク・ロック)
3.ウー・ウー(イシット・ムジーク)
4.ガ・ガ・ガ・ガ(RCサクセション)
5.ツ・ツ・ツ(カビヤ)

おおお。

内田学 a.k.a. Why Sheep?
1. ベートーベン / 交響曲第9番『合唱』 フルトヴェングラー&バイロイト(1951 バイエルン放送音源) / EMIミュージック・ジャパン
2. U2 / Where the Streets Have No Name(約束の地) / Universal International
3. Ashra(Manuel Gottsching )/ Sunrain / EMI Europe Generic
4. 佐野元春/ヤング・ブラッズ/エピックレコードジャパン
5. モーツアルト/クラリネット協奏曲(演)ベニー・グッドマン、ミュンシュ&ボストン響、ボストン・シンフォニー四重奏団 /Sony Classical Originals

クリスマスで燃え尽きてしまうので、とくに正月を意識して音楽を聴くことはないんだけど、第九で年またぎは儀式化してますね。ちなみに23時9分10秒あたりから第一楽章をスタートすると、年越しした瞬間に第四楽章の「歓喜の歌」の冒頭のコントラバスが静かに聴こえはじめますのでぜひお試しを! 最後のモーツアルトのしかもベニー・グッドマンのクラリネット協奏曲は毎年正月に父がかけてたから。なぜか理由は知らないが......。あ、そういえば僕は元旦生まれなんでした。

2012 Top 20 Japanese Hip Hop Albums - ele-king

 2012年の日本のヒップホップ/ラップのベスト・アルバム20を作ってみました。2012年を振り返りつつ、楽しんでもらえれば幸いです!!

20. Big Ben - my music - 桃源郷レコーズ

 スティルイチミヤのラッパー/トラックメイカー、ビッグ・ベンのソロ・デビュー作。いま発売中の紙版『エレキング Vol.8』の連載コーナーでも紹介させてもらったのだが、まずは"いったりきたりBLUES"を聴いて欲しい。『my music』はベックの「ルーザー」(「I'm a loser baby so why don't you kill me?」)と同じ方向を向いている妥協を許さないルーザーの音楽であり、ラップとディスコとフォークとソウル・ミュージックを、チープな音でしか表現できない領域で鳴らしているのが抜群にユニークで面白い。

Big Ben"いったりきたりBLUES"

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19. LBとOTOWA - Internet Love - Popgroup

 いまさら言う話でもないが、日本のヒップホップもフリー・ダウンロードとミックステープの時代である。ラッパーのLBとトラックメイカーのOTOWAが2011年3月にインターネット上で発表した『FRESH BOX(β)』は2ケ月の間に1万回以上のDL数を記録した。その後、彼らは〈ポップグループ〉と契約を交わし、フィジカル・アルバムをドロップした。「FREE DLのせいで売れないとか知ったこっちゃない/これ新しい勝ち方/むしろ君らは勉強した方がいいんじゃん?」(『KOJUN』 収録の「Buzzlin` 2」)と、既存のシーンを挑発しながら、彼らはここまできた。ナードであり、ハードコアでもあるLBのキャラクターというのもまさに"いま"を感じさせる。

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18. Goku Green - High School - Black Swan

 弱冠16歳のラッパーのデビュー作に誰もが驚いたことだろう。そして、ヒップホップという音楽文化が10代の若者の人生を変えるという、当たり前といえば、当たり前の事実をリアルに実感した。money、joint 、bitchが並ぶリリックスを聴けばなおさらそう思う。そうだ、トコナ・XがさんぴんCAMPに出たのは18歳の頃だったか。リル・諭吉とジャック・ポットの空間の広いゆったりとしたトラックも絶妙で、ゴク・グリーンのスウィートな声とスムースなフロウがここしかないというところに滑り込むのを耳が追っている間に最後まで聴き通してしまう。

Goku Green"Dream Life"

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17. Zen La Rock - La Pharaoh Magic - All Nude Inc.

 先日、代官山の〈ユニット〉でゼン・ラ・ロックのライヴを観たが、すごい人気だった! いま東京近辺のクラブを夜な夜な盛り上げる最高のお祭り男、パーティー・ロッカーといえば、彼でしょう。つい最近は、「Ice Ice Baby」という、500円のワンコイン・シングルを発表している。ご機嫌なブギー・ファンクだ。このセカンド・アルバムでは、ブギー・ファンク、ディスコ、そしてニュー・ジャック・スウィングでノリノリである。まあ、難しいことは忘れて、バカになろう!

Zen La Rock"Get It On"

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16. Young Hastle - Can't Knock The Hastle - Steal The Cash Records

 ヤング・ハッスルみたいなユーモラスで、ダンディーな、二枚目と三枚目を同時に演じることのできるラッパーというのが、実は日本にはあまりいなかったように思う。"Spell My Name Right"の自己アピールも面白いし、日焼けについてラップする曲も笑える。ベースとビートはシンプルかつプリミティヴで、カラダを震わせるように低音がブーッンと鳴っている。そして、キメるところで歯切れ良くキメるフロウがいい。もちろん、このセカンド・アルバムも素晴らしいのだけれど、ミュージック・ヴィデオを観ると彼のキャラクターがさらによくわかる。2年前のものだけど、やっぱりここでは"V-Neck T"を。最高!

DJ Ken Watanabe"Hang Over ft.Young Hastle, Y's, 十影, Raw-T"

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15. MICHO - The Album - self-released

 フィメール・R&Bシンガー/ラッパー、ミチョのミックステープの形式を採った初のフル・アルバム。凶暴なダブステップ・チューン「Luvstep(The Ride)」を聴いたとき、僕は、日本のヤンキー・カルチャーとリアーナの出会いだとおののいた。さらに言ってしまえば......、ミチョに、初期の相川七瀬に通じるパンク・スピリットを感じる。エレクトロ・ハウスやレゲエ、ヒップホップ/R&Bからプリンセス・プリンセスを彷彿させるガールズ・ロックまでが収められている。ちなみに彼女が最初に発表したミックステープのタイトルは『恨み節』だった。凄まじい気合いにぶっ飛ばされる。

Download

14. D.O - The City Of Dogg - Vybe Music

 田我流の『B級映画のように2』とはまた別の角度から3.11以降の日本社会に大胆に切り込むラップ・ミュージック。D.Oは、「間違ってるとか正しいとか/どうでもいいハナシにしか聞こえない」("Dogg Run Town")とギャングスタの立場から常識的な善悪の基準を突き放すものの、"Bad News"という曲では、「デタラメを言うマスコミ メディア/御用学者 政治家は犯罪者」と、いち市民の立場からこの国の正義を問う。"Bad News"は、震災/原発事故以降の迷走する日本でしか生まれ得ない悪党の正義の詩である。ちなみに、13曲中8曲をプロデュースするのは、2012年に初のアルバム『Number.8』)を完成させ、その活躍が脚光を浴びているプロダクション・チーム、B.C.D.M(JASHWON 、G.O.K、T-KC、LOSTFACE、DJ NOBU a.k.a. BOMBRUSH)のJASHWON。

D.O"悪党の詩"

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13. Evisbeats - ひとつになるとき - Amida Studio / ウルトラ・ヴァイブ

 心地良いひと時を与えてくれるチルアウト・ミュージックだ。タイトルの"ひとつ"とは、世界に広く開かれた"ひとつ"に違いない。アジアに、アフリカに、ラテン・アメリカに。元韻踏合組合のメンバーで、ラッパー/トラックメイカーのエビスビーツは、4年ぶりのセカンドで、すべてを優しく包み込むような解放的な音を鳴らしている。彼にしかできないやり方でワールド・ミュージックにアプローチしている。鴨田潤、田我流、チヨリ、伊瀬峯之、前田和彦、DOZANらが参加。エビスビーツが自主でリリースしているミックスCDやビート集も素晴らしいのでぜひ。

Evisbeats"いい時間"

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12. BRON-K - 松風 - Yukichi Records

 これだから油断できない。年末に、SD・ジャンクスタのラッパー、ブロン・Kのセカンド・アルバムを聴けて本当に良かった。こういう言い方が正しいかはわからないが、クレバの『心臓』とシーダの『Heaven』に並ぶ、ロマンチックで、メロウなラップ・ミュージックだ。ブロン・Kはネイト・ドッグを彷彿させるラップとヴォーカルを駆使して、日常の些細な出来事、愛について物語をつむいでいく。泥臭く、生々しい話題も、そのように聴かせない。オートチューンがまたいい。うっとりする。長い付き合いになりそうなアルバムだ。

BRON-K"Matakazi O.G."

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11. Soakubeats - Never Pay 4 Music - 粗悪興業

 新宿のディスク・ユニオンでは売り切れていた。タワー・レコードでは売っていないと言われた。中野のディスク・ユニオンでやっと手に入れた。これは、トラックメイカー、粗悪ビーツの自主制作によるファースト・アルバムである。「人生、怒り、ユニークが凝縮された一枚」とアナウンスされているが、怒りとともにどの曲にも恐怖を感じるほどの迫力がある。 "ラップごっこはこれでおしまい"のECDの「犯罪者!」という含みのある叫び方には複数の意味が込められているように思う。シミラボのOMSBとマリア、チェリー・ブラウンは敵意をむき出しにしている。"粗悪興業モノポリー"のマイク・リレーは、僕をまったく知らない世界に引きずり込む。ちょっと前にワカ・フロッカ・フレイムのミックステープ・シリーズ『Salute Me Or Shoot Me』を聴いたときは、自分とは縁のないハードな世界のハードな音楽だと思っていた。このアルバムを聴いたあとでは、音、態度、言葉、それらがリアリティを持って響いてくる。そういう気持ちにさせるショッキングな一枚だ。

粗悪興業公式サイト

10. AKLO - The Package - One Year War Music / レキシントン

 「カッコ良さこそがこの社会における反社会的/"rebel"なんです」。ヒップホップ専門サイト『アメブレイク』のインタヴューでアクロはそう語った。アクロが言えば、こんな言葉も様になる。2012年に、同じく〈One Year War Music〉からデビュー・アルバム『In My Shoes』を発表したSALUとともに、ひさびさにまぶしい輝きを放つ、カリスマ性を持ったトレンド・セッターの登場である。日本人とメキシコ人のハーフのバイリンガル・ラッパーは初のフィジカル・アルバムで、最高にスワッグなフロウで最新のビートの上をハイスピードで駆け抜ける。では、"カッコ良さ"とは何か? 最先端のUSラップを模倣することか? その答えの一つがここにある。

AKLO"Red Pill"

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9. ECD - Don't Worry Be Daddy - Pヴァイン

 このアルバムのメッセージの側面については竹内正太郎くんのレヴューに譲ろう。"にぶい奴らのことなんか知らない"で「感度しかない」とリフレインしているように、ECDは最新のヒップホップの導入と音の実験に突き進んでいる。そして、このアヴァン・ポップな傑作が生まれた。イリシット・ツボイ(このチャートで何度この名前を書いただろう)が、サンプリングを大幅に加えたのも大きかったのだろう。USサウスがあり、ミドルスクールがあり、エレクトロがあり、ビッグ・バンド・ジャズがあり、"Sight Seeing"に至ってはクラウド・ラップとビートルズの"レヴォリューション9"の出会いである。

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8. Kohh - Yellow T△pe - Gunsmith Productions

 Kohh & Mony Horse"We Good"のMVを観て、ショックを受けて聴いたのがKohhのミックステープ『Yellow T△pe』だった。「人生なんて遊び」("I Don`t Know")、「オレは人生をナメてる」("Certified")とラップする、東京都北区出身の22歳のラッパーのふてぶてしい態度は、ちょっといままで見たことのないものだった。しかし、ラップを聴けば、Kohhが音楽に真剣に向き合っているアーティストであることがわかる。シミラボの"Uncommon"のビートジャックのセンスも面白い。また、"Family"では複雑な家庭環境を切々とラップしている。"Young Forever"でラップしているのは、彼の弟でまだ12歳のLil Kohhだ。彼らの才能を、スワッグの一言で片付けてしまうのはあまりにももったいない。

Boot Street Online Shop

7. Punpee - Movie On The Sunday Anthology - 板橋録音クラブ

 いやー、これは楽しい! パンピーの新曲12曲とリミックス3曲が収録された、映画をモチーフにしたミックスCDだ。パンピーのポップ・センスが堪能できる。"Play My Music"や"Popstar"では、珍しくポップな音楽産業へのスウィート・リトル・ディスをかましている。そこはパンピーだから洒落が効いている。もうこれはアルバムと言ってもいいのではないか。ただ、このミックスCDはディスク・ユニオンでの数量限定発売で、すでに売り切れているようだ。ポップ・シーンを揺るがす、パンピーのオリジナル・ソロ・アルバムが早く聴きたい!

diskunion

6. ERA - Jewels - rev3.11( https://dopetm.com/

 本サイトのレヴューでも書いたことだけれど、この作品はこの国のクラウド・ラップ/トリルウェイヴの独自の展開である。ドリーミーで、気だるく、病みつきになる気持ち良さがある。イリシット・ツボイがプロデュースした7分近い"Get A"が象徴的だ。"Planet Life"をプロデュースするのは、リル・Bにもトラックを提供しているリック・フレイムだ。エラの、ニヒリズムとデカダンス、現実逃避と未来への淡い期待がトロリと溶けたラップとの相性もばっちりだ。インターネットでの配信後、デラックス版としてCDもリリースされている。

ERA feat. Lady KeiKei"Planet Life"

amazon

5. 田我流 - B級映画のように2 - Mary Joy Recordings

 「ゾッキーヤンキー土方に派遣/893屋ジャンキーニートに力士/娼婦にキャバ嬢ギャルにギャル男 /拳をあげろ」。ECDを招いて、田我流が原発問題や風営法の問題に真正面から切り込んだ"STRAIGHT OUTTA 138"のこのフックはキラーだ。これぞ、まさにローカルからのファンキーな反撃! そしてなによりも、この混迷の時代に、政治、社会、個人、音楽、バカ騒ぎ、愛、すべてに同じ姿勢と言葉で体当たりしているところに、このセカンド・アルバムの説得力がある。ヤング・Gのプロデュースも冴えている。まさに2012年のラップ・ミュージック!

田我流 "Resurrection"

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4. キエるマキュウ - Hakoniwa - 第三ノ忍者 / Pヴァイン

 キエるマキュウは今作で、ソウルやファンクの定番曲を惜しげもなく引っ張り出して、サンプリング・アートとしてのヒップホップがいまも未来を切り拓けることを体現している。そして大の大人が、徹底してナンセンスとフェティシズムとダンディズムに突っ走った様が最高にカッコ良かった。「アバランチ2」のライヴも素晴らしかった! ここでもイリシット・ツボイのミキシングがうなりを上げ、CQとマキ・ザ・マジックはゴーストフェイス・キラーとレイクウォンの極悪コンビのようにダーティにライムする!

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3. MC 漢 & DJ 琥珀 - Murdaration - 鎖GROUP

 ゼロ年代を代表する新宿のハードコア・ラップ・グループ、MSCのリーダー、漢の健在ぶりを示す事実上のセカンド・アルバムであり、この国の都市の暗部を炙り出す強烈な一発。漢のラップは、ナズやケンドリック・ラマーがそうであるように、ドラッグや暴力やカネや裏切りが渦巻くストリート・ライフを自慢気にひけらかすことなく、クールにドキュメントする。鋭い洞察力とブラック・ユーモアのセンス、巧みなストーリー・テリングがある。つまり、漢のラップはむちゃくちゃ面白い! 漢はいまだ最強の路上の語り部だ。長く現場を離れていたベスの復帰作『Bes Ill Lounge:The Mix』とともに、いまの東京のひとつのムードを象徴している。それにしても、このMVはヤバイ......。

漢"I'm a ¥ Plant"

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2. QN - New Country - Summit

 QNは、この通算三枚目を作る際に、トーキング・ヘッズのコンサート・フィルム『ストップ・メイキング・センス』から大きなインスピレーション受けたと筆者の取材で語った。そして、ギター、ドラム、シンセ、ベース、ラッパーといったバンド編成を意識しながら作り上げたという。ひねくれたサンプリング・センスや古くて新しい音の質感に、RZAのソロ作『バース・オブ・ア・プリンス』に近い奇妙なファンクネスがある。そう、この古くて新しいファンクの感覚に未来を感じる。そして、今作に"新しい国"と名づけたQNは作品を作るたびに進化していく。

QN "Cheez Doggs feat. JUMA"

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1. OMSB - Mr."All Bad"Jordan - Summit

 凶暴なビート・プロダクションも楽曲の構成の独創的なアイディアも音響も変幻自在のラップのフロウも、どれを取っても斬新で面白い。こりゃアヴァンギャルドだ! そう言いたくなる。トラックや構成の面で、カニエ・ウェストの『マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー』とエル・Pの『Cancer for Cure』の影響を受けたというが、いずれにせよOMSBはこの国で誰も到達できなかった領域に突入した。そして、またここでもミックスを担当したイリシット・ツボイ(2012年の裏の主役!)の手腕が光っている。シミラボのラッパー/トラックメイカーの素晴らしいソロ・デビュー作。

OMSB"Hulk"

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 さてさて、以上です。楽しめましたでしょうか?? もちろん、泣く泣くチャートから外したものがたくさんあります。いろいろエクスキューズを入れたいところですが......言い訳がましくなるのでやめましょう! 「あのアルバムが入ってねえじゃねえか! コラッ!」という厳しい批判・異論・反論もあるでしょう。おてやわらかにお願いします!

 すでにいくつか、来年はじめの注目のリリース情報が入ってきています。楽しみです。最後に、宣伝になってしまって恐縮ですが、ここ10年弱の日本のヒップホップ/ラップをドキュメントした拙著『しくじるなよ、ルーディ』も1月18日に出ます。2000年から2012年のディスク・レヴュー60選などもつきます。どーぞ、よろしくお願いします!

 では、みなさま良いお年を!!!!

Neon Indian - ele-king

 食事と服装はダウンロードできない。データの時代だというのに......まったく不便なものだ。食べ物も洋服もあくまでフィジカルなものだから、実際に自分の身体を通してはじめてどういうものかがわかる。
 筆者にはスタイル文化がわからぬ。ということで、着飾ることがどういった「正しさ」を持つのか、そしてネオン・インディアンがどういう人物なのかを確かめるべく気軽にイヴェントへ赴いた。週末のクラブ、チルウェイヴのDJでオールナイト――なかなか悪くない。翌日は投票日だが事前投票は済んでいる。

 深夜0時過ぎに会場のル・バロン・ド・パリ(南青山)に入ると、まずその内装に目を見開いた。豪華絢爛といっては大げさだろうか、内装はとても綺麗なクラブだ。会場に関していい評判を聞いたことはなかったのだが、こういうのもまったくわるくないなと思った。が、驚かされたのは、そう大きくない会場内をまっすぐに歩き、フロアにたどり着いたときのことだった。あれ、ここが踊る場所だよな? ――中学校の教室内でCDの音をちょっと大きめにかけたかなという程度の音量だった。リスニング・テストにはちょうどよかったかもしれない。
 DJブースを見れば、林檎のマークのうしろにDJの真剣な表情がうかがえる。周囲ではおめかしした若者が元気よく踊っている。たのしく踊れているのなら、それだけでこのパーティ、わるくないのではないか。ということにして、筆者は考えるのをやめようとした。
 酒を飲もうと暗いなかメニューに目を凝らすと、すべて1000円以上であることに気づいた......。

 会場内をもういちど見渡す。満員ではないが楽しくふらつけるほどに人は入っている。多くは20代前半から上のひとたちだろうか。〈Supreme〉のキャップがいくつか目につく。みんながとびきり目立ってオシャレというわけではなかったが、服装は(ちゃんと)意識してパーティにやってきたという趣があった。
 UKファンキーっぽい音楽にすこしノって飽きてしまった直後、知人に見つけてもらい、しばし会話をすると、人と話してすごすにはほどよい空間演出であることに気づいた。彼は「スタイル文化だよ」とは言いつつも、音楽とファッションのひとたちが手をとりあってアーティストが来れるならよいことだよと語ってくれた。正直、音響さえもっとしっかりしてさえあれば、まったくもってそのとおりだなと思えただろう。
 しばらくすると筆者と同い年(平成元年生まれ)の友人たちが5人以上でわらわらとやってきた。みんなで座れるスペースの一角に落ち着き、互いの近況なんかを話し合い聞きあい、会話を楽しむ。これがとても快適であった。いや、さすがにお酒をじゃんじゃん飲むことはできなかったが、それでも友人たちと楽しく会話で時間をすごすのにはちょうどよいスペースだった。

 友人のひとりが「まだかよー」と待ちくたびれはじめた深夜2時頃だったろうか、客がDJブース前にふらふらと集まりだす。ようやくネオン・インディアンがDJを開始する。はじめはテクノっぽいディスコを流している。なるほど、チルウェイヴの源流は80年代ディスコ的なサウンドにあるのかと痛感させられた。しかしチルではないゆえ、それがネオン・インディアンのDJである必然性はまだ見いだせなかった。
 ディスコ・サウンドが延々と続いた。チルは自ら、ということでブースから離れ椅子にもたれて友人と話していると、突如、いびつなシーケンスのシンセ・サウンドが聴こえた――ファクトリー・フロアの"トゥー・ディフィレント・ウェイズ"。心臓が掴まれたかのごとくDJブースに戻ってしまった。ハッピーな曲でもなく音響は充実していないため、フロアの人たちの踊りが止んでしまったが、おしゃれな場所においてダークで尖った曲を流すネオン・インディアン。わるくない。続いてミックスされるのがポール・マッカートニーの"テンポラリー・セクレタリー"。シーケンスの連想で繋いだのだろう。安易でなんとも微笑ましい。続いて何かテクノ・ポップ的なものを1曲挟み、ベタベタにYMOの"ビハインド・ザ・マスク"がはじまったとき、確信した。ネオン・インディアンはいいやつだと。
 友人たちはYMOに合せて「オー!オオオオー!オーオーオー!オオオオー!」と合唱し始める始末。音楽の音量が小さいためそのハーモニーはフロアでもかなり目立ち、筆者の周りが異様にガンガン踊り(はしゃぎ)はじめた。このベタベタな流れなら、次はもうニュー・オーダー(もちろんネオン・インディアンもフェイバリットの"ビザール・ラヴ・トライアングル")でもプレイするんじゃないかと思われた。実際にはもっとソリッドなテクノに戻ったのだが、やがて"ポリッシュ・ガール"(だったと思う...)などネオン・インディアン自身の曲を2曲ほどプレイした。彼の8bitサウンドはダンスフロアをチルというよりもドリーミーによどみなく流れ、オーディエンスは笑顔のまま好き勝手にふるまった。大したことはない。ただの土曜の深夜のクラブによくある光景。まして音響はしょぼちいもんだ。酒は高すぎて買えやしない。しかしそれでも(だからこそ)、友人含め若い人たちが、おめかしをして、クラブで自由に身体を揺らしてときをすごしているのは、大したことなく平和でうつくしい光景に見えた。特別な祭りではなく、ただの一夜の場面であること。そして、そこに友人たちといっしょにいること。ちょっとおめかしをしてナイト・クラビングすることの「なんでもなさ」を筆者は肯定したい。翌朝、布団に飛び込んで倒れるまでがナイト・クラビング。

 ネオン・インディアンに満足した友人たちとともに、これまた別の友人による不定期のDJパーティに参加するため三軒茶屋へタクシーを割り勘して向かった。会場に着き、ようやくデカい低音を浴びることができた束の間、筆者は具合が悪くなり寝込んでしまった。朝になり、パーティも終わり、友人たちはいまから渋谷へまだ飲みに行くという。まったく元気な連中だ。すばらしい。と思いながらも、筆者ひとりで凍えながら帰宅し、病床に臥した。病院に行くため外に出て、異様に晴れて暖かいことに気づく。流行の最先端=胃腸炎だった。再び自室で寝込み、現在時刻を忘れながらリビングに向かうと、テレビ画面、安倍晋三が神妙な顔をして話している。「自民」の文字の横では200以上の数字が表示されている。「たしかに僕は事前投票に行ったのだよな......」と頭のなかで反芻しながら再び布団に倒れた。

ZSといっしょに! 新ガジェットも! - ele-king

 いっぷう変わったイヴェントをご紹介しよう。といっても、イヴェントの概要をまだ完全に咀嚼できたわけではない。さすがZS。どうやら単純に彼らのライヴというわけでもなさそうだ。ちょっと、いっしょに理解していきませんか。

 ※ZSは、2000年代半ばにおいてブルックリンが象徴していた実験的な気風やその勢いを支えたバンドのひとつ。ギャング・ギャング・ダンスやダーティ・プロジェクターズ、アニマル・コレクティヴらと時期を同じくしつつも、フリージャズ的な即興ノイズ・バンドとして随一にして異色の存在感を放ちつづけている。

 まず、ライヴではなく「コラボ・ライヴ・インスタレーション」と銘打たれている。期間中の3日間、公募で選ばれた40人ほどのリミキサーたちが     、彼らのボックスセット・アルバム『ZS』のトラックを即興リミックス。会場では定期的にZSによるライヴ演奏も繰り返され、その他ミュージシャンによってエフェクトをかけられたり音を加えられたりする。そして、そうしたおびただしい音が映像と混じりながら会場に流れる。期間中それはずっととどまることなく、われわれが足を踏み入れる空間には幾多のコラボレーション音源や映像がうつりかわってゆく......「芸術的な音の融合が活発に流動するネットワーク・ルーム」というコンセプトは、どうやらそういうことであるらしい。ちなみに、音のコラボにはToBe(トゥビー)という即興でのリミックスを実現するプラットフォームが利用され、映像の展開にはVid-Voxソフトウェアを使用してライブ・リミックス音源とシンクするビデオ・プロジェクションが用いられるとのこと。

 さらに、PlayButton(プレイボタン)というピンバッジ・プレーヤーの存在も見逃せない。音源を収録できるピンバッジ型のプレーヤーで、どういうものかは一見にしかずであるが(https://playbutton.com/)、これに当日のコラボ音源が収録され、参加者は持って帰って家でも聴くことができると。なんと新手のガジェットまで楽しむことができるようだ。別途料金がかかるようだが興味深い。即興の概念や幅を汎時間的に広げる、ZSらしい実験だと言えるだろう。

サイトには非常に詳しく説明がなされている。
https://transculturepartysystem.com/PARTY/Zs/zs_remixers.html

ガチにも聴けるし、デートくらいのノリで参加しても楽しそうだ。


※以下、VACANT担当氏より補足情報をいただきました! Q&A方式でどうぞ! (追記1/7)

Q:ライヴというよりはライヴ形式のインスタレーションという感じですか?

A:今回のイベントは2部構成になっていて、前半はリミックス・インスタレーション、後半はセッション即興ライブになります。

Q:東京のアーティストだととくに注目の方はいらっしゃいますか?

A:全員です!今回はこういった形で東京のミュージシャンの方々との共演を楽しみにしております。

Q:ZSは日本以外でもこうした演奏をしているのですか?

A:今回の『SCORE』は日本で初披露となります。2月にNYのEcstatic Music FestivalにDJ Ruptureと出演するのですが、その際に1日限定のポップアップでNYでも開催する予定です。

Q:同様のライヴCDが他にも販売されていますか?

A:今回のVACANTでのセッションはその場限り(当日分)のドキュメント音源をPlaybuttonで持ち帰ることができるので、ぜひチェックしてみて下さい。

会期:2013年1月11日(金)~13日(日)
会場:VACANT 2F

open time:
12:00-17:00 (インスタレーション) /
開場17:30 開演18:00 (ライブ)
entrance fee:
¥200(インスタレーション) /
チケット制料金未定 (ライブ)
act(live):
1/11(fri) Shinji from DMBQ
1/12(sat) Dustin Wong
1/13(sun) TBC
act(remixer):
MARUOSA / Katsuya Yanagawa(CAUCUS) / DJ SOCCERBOY / Maekawa Kazuto (ELECTRIC EEL SHOCK) / GAGAKIRISE / DJ MEMAI / Akihiko Ando (KURUUCREW) / PYP / Shirai Takeshi (PRIMITCHIBU) / Tetsuya Hayakawa+Takashi Masubuchi (BUDDY GIRL & MECHANIC) / Sayaka Botanic + Tommi Tokyo (group A) / Tetsunori Towaraya (UP2) / ORINOTAWASHI / Haruhito Shimura / Miyoshi Daisuke / Dustin Wong / and more TBC
venue:VACANT 2F
address:東京都渋谷区神宮前3-20-13
tel:03-6459-2962
planning:Zs / VACANT / Parte / Trans-Culture Party System
support:PlayButton
url:www.n0idea.com

<Zs Japan Tour 2012>
・1/8(tue) 大阪CONPASS w/Vampillia
・1/9(wed) 大阪CONPASS w/Vampillia
・1/10(thu) 東京UNIT w/EP-4 unit with千住宗臣
・1/12(sat) 名古屋 K.D ハポン w/HIGGINGS, Diamond Terrifier, Greg Fox
・1/16(wed) 名古屋 CLUB MAGO w/HIGGINGS, Diamond Terrifier, Greg Fox



<プロフィール>
Zs (ジーズ)
ブルックリンを拠点に活動するアヴァン・ノイズ・バンド。現存する唯一のオリジナルメンバー、サックス奏者・作曲家のSam Hilmer (サム・ヒルマー) によって2002年に結成され、ノー・ウェーブ、フリージャズ、ノイズ、ポスト・ミニマル、電子音楽、即興演奏に至るあらゆるジャンルを横断した、まったく新しい実験音楽の在り方を確立。今年9月「SCORE: The Complete Sextet Works 2002-2007」リリースを期に、ドラマー:Greg Fox (グレッグ・フォックス - 元Liturgy / Dan Deacon / 現Guardian Alien) と、ギタリスト:Patrick Higgins (パトリック・ヒギンズ - 元Animal) がSam Hilmer以外の旧メンバーと入れ替わり加入。ダブのグルーブと独創的なエレクトロニクスをバンドの新機軸とした、より直感的かつ肉体的なライブ・パフォーマンスをして“ニューヨークで最も鮮烈なアヴァン・バンド”と評される。主な過去のリリースに:SCORE: The Complete Sextet Works 2002-2007 (2012, Northern Spy), New Slaves Part II:Essence Implosion! (2011,Social Registry), New Slaves (2010,Social Registry/Power Shovel Audio), Music of Modern White (2009,Social Registry), Arms (2007, Planaria),

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