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Tocago

Tocago

2025年10月17日 @恵比寿KATA
2025年11月6日 @代田橋FEVER

野田努 Nov 07,2025 UP

 どこまで歩けば、自分の居場所にたどり着けるのだろうか。奪われた生活圏、シティ・ポップの空虚さ、裏路地にさえも安くはない古着屋やカフェが並んでいる。居場所を失った声が耳から離れない。それは、Tocagoというバンドの“家”という曲である。

 ここ数週間、Tocagoのことが頭から離れないでいる。運が良かったのだろう。ライヴを観るまで、ぼくはTocagoに関する情報をもたなかったから、なんの先入観もなく、無防備な状態で彼らの演奏と向き合うことができた。

 ボブ・スタンレーは、21世紀のポップ・ミュージックにとっても通用する二つのひな形を、ジュディ・ガーランドとビリー・ホリデイのなかに見ている。スタンレーによればこうだ。ガーランドは常に「この歌は私に何を与えてくれるのか?」を問いながら歌ったが、ホリデイはただ「自分はこの歌に何を与えられるのか?」を考えた。前者がどういう人たちのことかは読者のご想像にまかせるとして、Tocagoの沖ちづるは明らかに後者に分類される。でっかいエピフォンの生ギターを抱えながら歌う彼女の、まさにホリデー的な酩酊状態にも似た歌唱法には即興性がある。ゆえに、ライヴにおいてその生々しさがより強度を上げて発揮される。ぼくが初めて聴いたライヴの冒頭で演奏した“虫”という曲には殺気だったものがあり、と同時に、自分の魂を型にはまられてたまるかという確固たる気持ちの強さがより鮮明に出ていたけれど、やはり圧倒されたのは、なかば乱暴な、静的でありながら暴力性を秘めたその歌唱だった。

 こんなバンドがいたのか、というこの予期せぬ出会いに喜びを感じながらぼくは釘付けになった。Tocagoは、表向きにはビッグ・シーフに触発されたバンドと紹介されているが(じっさい、リキッドルームでのライヴの第二部では1曲目にカヴァーを演奏した)、彼らのポテンシャルを考えれば、そうしたレッテルが剥がれるのは時間の問題だろう。磯部兄弟のリズムには、レゲエが入っている点において、アメリカーナの表層的な模倣にはなりえない。また、森飛鳥のすばらしくブルージーなギターは、ホリデー的な沖の歌唱から感じられるアウトサイダーとしての威厳をみごとに支えていると言えるだろう。メンバーのふたりがアンビエント・プロジェクトに着手していることも、Tocagoの潜在能力を大いに膨らませている。

 残念ながらTocagoは、まだ自分たちのほんとうの実力を録音しきれていない。バンドは2023年に自主でEP「Wonder」を出し、昨年配信のみで「How Are You Feeling?」を発表、アナログ盤のみでそのカップリングが〈Pヴァイン〉から再来週リリースされることになっているが、ライヴでは未発表の曲も演奏している。KATAのライヴではビートレスで、スライドギターが滑らかに広がる曲(曲名は知らない)が印象的だった。その自己破壊的で即興性のある沖の歌唱は強烈で、誤解を恐れずに言えば、ブルースに浸った中島みゆきのように思えた。その曲に限らず、Tocagoの多くの曲は愛についての歌だが、それは愛について歌われるときの単純化された言説を突き放した愛の歌である。愛について語るときに切り捨てられる愛についての歌は、書かれているときよりも声に出したときに強いものとなる。
 もちろんバンドには軽快な曲がある。とくに“How Are You Feeling?”のような曲にはグルーヴがあるし、磯部兄弟のリズムには走っているときに感じる風がある。代田橋FEVERでのライヴはワンマンではなく、またフロアもまばらで、KATAのときとはだいぶ状況が違っていたが、バンドは緊張感を削ぐことなく、さいごまで全力で駆け抜けていった。風は冷たくなるだろう。それでもかまわない。すばらしいバンドと出会えたことを思えば。


Tocago / トーカゴ
How are you feeling? / ハウ・アー・ユー・フィーリング?

発売日:2025.11.19
定価:¥4,500(税抜¥4,091) / PLP-8275

野田努