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Interview

interview with Epsteinphoto by Kristi Sword

interview with Epstein

ブルックリンのなかのラテン・インディ・ヒップホップ

――ロベルト・カルロス・ラング(エプステイン)、インタヴュー

Mar 07,2011 UP

Epstein & El Conjunto
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Epstein
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 21世紀に入って、ブルックリンは、ヴァンパイア・ウィークエンド、ダーティ・プロジェクターズ、アニマル・コレクティヴ、チック・チック・チック、MGMT......といった、数多くの実験的なインディ・ロックのアーティストたちが活動の拠点とし、次々と良質の作品を発表したことで、現在も注目を集めているエリアのひとつとなっている。

 この記事の主役、マイアミやアトランタで活動をしていたエプスティンこと、ロベルト・カルロス・ラングもまた、ゼロ年代の後半、ブルックリンへと移り住んでいる。彼の音楽は、インディ・ヒップホップや時折エクスペリメンタルとカテゴライズされるが、2010年3月にリリースされた前作『ウェン・マン・イズ・フル・ヒー・フォースル・アスリープ』には、スクール・オブ・セヴン・ベルスやイェーセイヤーのサポートメンバーとしてドラムを担当しているジェイトラムが参加しており、実際は、ブルックリンのインディ・ロック・シーンともそれほど遠い関係ではない。
 また、あまり知られていないが、彼は、プレフューズ73の『エヴリシング・シー・タッチド・ターンド・アンペキシアン』(2009年)とサヴァス・アンド・サヴァラスの『ラ・ラマ』(2009年)の制作においてスコット・ヘレンと共同プロデュースをおこなっている。遡れば、彼は、スコットとラ・マノ・フリアが共同設立したマイアミのレーベル、〈ボタニカ・デル・ヒバロ〉からエプスティン名義のファースト・アルバム『プニャル』(2004年)をリリースしており、彼らはみな古くからの友人でもある。

 現在、彼は、現代美術家のデイヴィッド・エリスと作品制作のパートナーとしてともに行動し、彼のインスタレーションや作品の音楽制作者として関わっている。このデイヴィッド・エリスとコラボレーションした作品たちを日本で直に見ることができないのは残念だが、YouTube等にアップされたそれらの映像を見るだけでも、私たちは、彼らの作品の圧倒的なクオリティの高さとブルックリンの文化的な層の厚みを感じることができる。
 2011年1月25日、彼はエプスティン名義でのニューアルバム『シーレス・シー』を〈アズマティック・ キティ〉よりリリースした。いまっぽく、LPとダウンロードのみのリリースである。ブルックリンには流行りのインディ・ロック・アーティストだけではない、まだまだ、日本人が知らない才能がたくさん存在しているのだ。

僕は君たちを記憶することができる

――ロベルト・カルロス・ラングのヒストリー

文:アダム・デイヴィッド

アダム・デイヴィッド/Adam David
ニューヨーク、ブルックリン在住のライター。音楽やアートから政治・経済まで幅広いテーマを取り扱い、新聞、雑誌等に寄稿している。

 ロベルト・カルロス・ラングの人生へようこそ。彼はあなたと同じです。食べ、呼吸をし、おならもするし、友人のように会話することもできます。一緒に食事をすると楽しい人物です。ロベルトは1980年にフロリダの南部でエクアドル人の両親のもとに産まれました。彼はいま、ブルックリンのクラウン・ハイツの近くに住んでいる、ある意味ニューヨーカーです。ニューヨーカーとしてクリエイティヴの波に揉まれ、都市の空気に馴染み、宇宙の鼓動のような喧騒に耳を傾けています。彼はバスキアのようなニューヨーカーでありグランドマスター・フラッシュであり、ルー・リードであり、ランDMCのようでもあります。彼のルーツは別のところにあるのですが、ニューヨークとこの男は納得の行く組み合わせです。ライスとビーンズと同じぐらい、相性がいいです。

 さて、先天的な遺伝子と後天的な周囲の環境と、受けた影響のコンビネーションの良さに恵まれて育った、ロベルトの作り出す音楽は真摯でリアルであり、彼のルーツを物語ります。その音楽はあまりにもさりげなく迫ってくるので、ラジオから流れてくるような単純なリフと明快なメッセージとはまったく違い、まるで通り過ぎる車のステレオから漏れ聴こえてきた、どこか懐かしいのに、初めて聴く音楽のように、気づいたら消えてしまうような感覚があります。それなのに、まるで小さな熱帯魚のようにあなたの頭の中をくるくると泳ぎ回って、知らぬ間に記憶にこびりついてすっかり好きになってしまうのです。

 ロベルトはデイヴィッド・エリス、プレフューズ73、ROM、サヴァス・アンド・サヴァラスといったサウンドアーティストと音楽を創ってきました。ロベルトのラテン・サイケ・バンドのヘラド・ネグロ(黒いアイスクリームという意味)はジャムっぽいダンス的な名作『オー・オウ』(2009)をアズマティック・ キティ(国内盤はプランチャ)からリリースしており、ロベルトのビートやサンプルのプロジェクトであるエプスティンは、同じレーベルから新作も旧作も発表し続けています。

 ロベルトは働き者です。ほとんど毎日何かしらを創り出し、何か自然に、楽しげに、彼のなかから音が流れ出てくるかのように、リリースごとに質を上げていきます。

 エプスティンの音楽は温かく包み込むようなビートの陽だまりと、フィルターのかかったノイズチョップの旋律と、無駄をそぎ落としたアイディアと、ヒップホップの過去、現在、未来の幽霊やヒーローたちで形成されています。ときとしてワードやサンプルがファズや陽気なベースやメロディのあいだから顔を出したり、夏のひと時のようにけだるく流れていってしまうこともあります。ほとんどは楽しかった夏の日のように、終わりが無いような錯覚にも似た、空気が金色に輝き、聴く音はすべてがヒットに聴こえる、そんな昔の日々を呼び起こすような音です。さて、そろそろ、ロベルト・カルロス・ラングをご紹介します。

(2011年3月07日)

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