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interview with DJ Nigga Fox

interview with DJ Nigga Fox

グッド・ヴァイブレイション

──DJニガ・フォックス、インタヴュー

取材・文:小林拓音    通訳:山口詩織  撮影:岩沢蘭   Mar 31,2018 UP

 衝撃だった。
 アフロ・パーカッション、奇っ怪な声に素っ頓狂な弦のサンプル、ポリリズミックな音の配置、それらによってもたらされる絶妙なもたつき感――2013年に〈Príncipe〉からリリースされたDJ Nigga Foxの「O Meu Estilo」は、昂揚的なDJ Marfoxともまた異なるサウンドを響かせていて、リスボンのゲットー・シーンの奥深さを際立たせる鮮烈な1枚だった。キマイラを思わせるその音遣いは、アシッド要素の増した2015年のセカンドEP「Noite E Dia」にも引き継がれ、魅力的な才能ひしめく〈Príncipe〉のなかでも彼は頭ひとつ抜きん出た存在になっていく。同年には〈Warp〉の「Cargaa 1」に参加、翌2016年には〈Halcyon Veil〉の「Conspiración Progresso」に名を連ねるなど、国外からのリリースにも積極的になる一方、自らのホームたる〈Príncipe〉初のCD作品『Mambos Levis D’Outro Mundo』にもしっかりとトラックを提供。2017年にはがらりと方向性を変えた「15 Barras」を発表し、アフリカンな部分以外はわけのわからなかった彼の音楽の背景にテクノが横たわっていることも明らかとなった。

 そのNigga Foxが来日するという話が飛び込んできたのが昨年末。このチャンスを逃すわけにはいかないと鼻息を荒くしながら取材を申し込み、幸運にも1月26日、WWWβでの公演直前にインタヴューする機会に恵まれた。当日のDJはこれ以上ないくらいに強烈なセットで、曲の繋ぎ方なんかふつうに考えたら無茶苦茶なのだけど、それが破綻をきたすことはいっさいなく唯一無二の舞踊空間が出現させられており、まだ11ヶ月も残っているというのに今年のベスト・アクトだと確信してしまうほどの一夜だった。たぶん本人としてはとくに奇抜なことをやっている意識はないのだろう。記憶に誤りがなければマイケル・ジャクソンやリアーナが差し挟まれる瞬間もあって、彼がUSのメジャーなサウンドに触れていることもわかった。


DJ Nigga Fox
Crânio

Warp

TechnoAfricanVibe

Amazon Tower HMV iTunes

 そして、去る3月2日。なんとふたたび〈Warp〉から、今度はNigga Fox単独名義で新たなEP「Crânio」がリリースされた(以下のインタヴューで語られている「サプライズ」とはどうやらこのことだったようである)。この新作がまた素晴らしい出来で、かつてない洗練の域に達しているというか、“Poder Do Vento”にせよ“KRK”にせよ、彼特有のもたつき感は維持しつつよりテクノに寄ったサウンドが展開されており、「15 Barras」での実験を経て彼が次なるフェイズへと突入したことを教えてくれる。2018年の重要な1枚となることは間違いないだろう。いやもう正直、ここしばらく彼の紡ぎ出すヴァイブレイションに昂奮しっぱなしである。とうぶんNigga Foxのことばかり考えることになりそうだ。


郊外で育った自分たちにはプロデューサーも完璧なスタジオも、音楽活動をするためのサポートもなかった。

東京へ来てみていかがですか?

DJ Nigga Fox(以下、NF):とにかく東京は人が多いね。東京は、リスボンやポルトガルのどの街とも完全に違う都市だよ。大きな通りや、イルミネイションの美しい街だ。いろんな店が隣り合わせにいろいろ並んでいるのもおもしろい。うん、東京は好きだね。

東京はいまオリンピックへ向けてどんどん再開発が進んでいます。リスボンでは都市計画によってゲットーが隔離されているそうですが、じっさいはどのような情況なのでしょう?

NF:ええと……自分はいま東京にいるわけだけど、この街に関して詳しくはないんだ。テレビやネットの情報で知った東京のイメージが強い。再開発については知らなかったよ。大きなスタジアムや施設を建設するためなんだよね? 観光のためには良いことだと思うけど……。いまリスボンでは、ポッシュなコンドミニアムを建設するために、郊外の団地を破壊している。ちょっと悪いことだと思う。そこの以前からの住人や、すべてのポルトガル人がそういう大きな家やコンドミニアムを手にできるわけではないからね。平等じゃないよね。

あなたの音楽は、そういう場所だからこそ生まれたものだと思いますか?

NF:強く影響を受けていると思うね。街の人たちと違って、郊外で育った自分たちにはプロデューサーも完璧なスタジオも、音楽活動をするためのサポートもなかった。最低限のコンディションで音楽を作ってきたことや、自分たちの前向きな努力を、街の人たちも徐々に理解し始めてきていると思う。自分たちの音楽にはものすごい活力が込められているよ。

音楽を始めることになったきっかけはなんですか? 幼い頃から音楽に触れていたのでしょうか?

NF:17歳の時、家にあった兄のPCで音楽制作ソフトのFL Studioに触れたのがきっかけだね。兄は3歳年上で、DJ Jio P名義で音楽活動をしていて、それについていくような形で楽曲制作を始めた。クドゥーロ(Kuduro)っぽいものを作ってみたりね。そのあと、DJをしている友人たちからいろいろ教えてもらったりして。テクノやハウス・ミュージックが好きで、徐々にそういう音楽も取り入れていった。

〈Príncipe〉の面々は英米のダンス・ミュージックの影響をほとんど受けていない、という記事を読んだことがあるのですが、じっさいのところどうなのでしょう?

NF:ええと……〈Príncipe〉の他のメンバーに関しては何とも言えないから、自分のケースについて話すよ。昔はたしかにクドゥーロやアフロハウスを中心に聴いてた。その頃からテクノは聴いてたけどね。ポルトガル国外でも活動するようになってから、ハウスやドラムンベースとかにも興味を持って、それらの影響も自分のスタイルに取り入れていった。でも、それ以外の欧米の音楽からは、現時点ではあまり影響を受けていないんじゃないかと思うよ。

あなたの音楽はクドゥーロから影響を受けていると言われますが、それと異なっているのはどういう点だと思いますか?

NF:まず、クドゥーロはヴォーカルがあるよね、歌い手がいる。自分の音楽はインストゥルメンタル。そして、自分の音楽には、テクノのエッセンスをひとさじ加えてある。

Buraka som Sistemaについてはどう見ています?

NF:自分たちの作る音楽に注目が集まって世界中で紹介されるのは、彼らあってのこと。先駆者的存在だよ。彼らが活動していた頃は、曲を聴くのはもちろん、ライヴにも行ったよ。いまはメンバーそれぞれがべつべつに活動してるけど、中心人物のBranko(João Barbosa)のDJはいいよね。

〈Príncipe〉の面々のなかでもあなたはいちばん変わった、特異なトラックを作っていると個人的には思っているのですが、ご自身ではどう思いますか?

NF:〈Príncipe〉のアーティストそれぞれに、各々のスタイル、アイデンティティがある。たとえば、DJ Marfoxはもっとクドゥーロ100%って感じだし、他のアーティストも、よりアフロハウス風、ゲットー風とか、それぞれ個性がある。自分に関して言えば、よりテクノの影響が強いのが個性かな。〈Príncipe〉の他の面々はテクノを聴かないからね。テクノが好きなのは自分だけだ。そこが違いかな。

あなたや〈Príncipe〉の作品は複雑なリズムのものが多いですが、シンプルなビートを刻んではいけないというようなルールがあったりするのでしょうか?

NF:ノー、ノー、ノー(笑)。それぞれのアーティストが好きなことをする自由があるよ(笑)。自分はDJ Firmezaが大好きなんだけど、彼の音楽の独特のバランスを、自分の音楽にも取り入れることがある。互いに影響を与えあっているけれど、ルールはとくにない。メンバーそれぞれが、各々のイマジネイションから湧き出す音楽を作ってる。「複雑なリズムの音楽を作ってやろう」って意図はぜんぜんないね。たぶん、他の音楽に慣れた人が自分たちの音楽を聴くと、「何だこりゃ!?」って変なふうに感じる、ってだけなんじゃないかと思うね。

〈Príncipe〉所属のDJには名前に「fox」と付く方が多く、これはDJ Marfoxに敬意を表してのことだそうですが、あなたたちにとってMarfoxはどういう存在なのでしょう?

NF:これも自分のケースについて話すよ。2008年に、DJ Niggaって名前で活動を始めたんだけど、リスボンにはすでにべつのDJ Niggaがいることがわかったんだ。で、DJ Marfoxのことは知ってたし好きだったから、名前に「fox」を足すことにした。他のDJたちがなんで名前に「fox」って付けてるのかは知らないな。DJ Marfoxの影響かもしれないし、ただキツネが好きってだけかもしれない(笑)。自分は、DJ Marfoxのことをすごく尊敬してる。でも、〈Príncipe〉所属だから名前に「fox」って付けなければいけないってルールはないよ。〈Príncipe〉以前から名前に「fox」が付くDJはいたしね。ああ、他のDJの名前になぜ「fox」が付くのかは知らないけど、DJ Marfoxの名前になぜ「fox」が付くのかは知ってるよ。彼は『スターフォックス』っていうファミコンのゲームが大好きで、「fox」はそこから来たんだよ。

ちなみにキツネは好きですか?

NF:好きだよ(笑)。実物を見たことはないけど、かわいいよね(笑)。

あなたはアンゴラ出身だそうですが、〈Príncipe〉に集まっている面々はどういう出自の方が多いのでしょう?

NF:自分はアンゴラ生まれで、内戦を避けるため4歳のとき家族でポルトガルに移住して来たんだ。以来、アンゴラに戻ったことはないね。〈Príncipe〉のアーティストは、アンゴラ出身者、カーボ・ヴェルデ出身者、ポルトガル生まれ、DJ Marfoxはサントメ・プリンシペ出身だし、さまざまな国籍のアーティストが所属している。

リスボンではアフロ・ポルトギースは社会的にどのような立場に置かれているのですか? たとえば、いまアメリカでは人種差別が問題になっていますが、そういったことはポルトガルでもあるのでしょうか?

NF:昔はもっと複雑だったけど、いまは落ち着いてるね。以前は、アフリカ系の移民がピザ屋で働くのも大変だったというけれど。じっさい、ポルトガル人には少し閉鎖的なところがある。でもいまはふつうだよ、もっと落ち着いてる。いまは、皆が自分の可能性や才能を試すための扉が開かれていると思うね。

海に行って水平線を見ているのが好きだね。海が好きなんだ。音楽を作るためのエネルギーをもらえる気がする。

〈Warp〉の「Cargaa 1」(2015年)に参加することになった経緯を教えてください。

NF:自分が直接やりとりしたわけではないので詳しい経緯はわからないけれど、〈Warp〉のオウナーだったか誰かが自分のEPか何かを耳にして、〈Príncipe〉にコンタクトを取ってきたらしい。で、自分は2曲〈Warp〉に送って、それが使われたってわけ。おもしろかったよ。あの企画に参加できて楽しかった。

オファーが来る前、〈Warp〉の存在は知っていました?

NF:正直に言うと、知らなかった(笑)。そもそも、10年くらい前から楽曲制作はしていたけど、DJやプロデューサーとしての自分のキャリアを真剣に考え始めたのは、ポルトガル国外でもDJするようになった4年前なんだ。それ以前は、誰が有名だとか、どのレーベルがすごいとかの情報は気にしていなかったんだよね。

〈Halcyon Veil〉の「Conspiración Progresso」(2016年)に参加することになった経緯も教えてください。

NF:先方から来た話なのか、〈Príncipe〉側からのオファーなのか詳しくは知らないけれど、コンピレイション・アルバムに自分の楽曲を使いたいと言う話が出たので、OKと言ったんだ。自分たちの楽曲を広めてより多くの人に聴いてもらうチャンスだからね。

リスボン以外のレーベルから作品を出すことは、あなたにとってどのような意味を持ちますか?

NF:リスボン以外のレーベルから作品を出すことは、自分の音楽を自分の家の外に出すような感じだよ。国外でのリリースがきっかけで、自分たちの音楽は注目され始めたんだ。自分たちは立派なスタジオを持ってるわけじゃないし、限られたコンディションで音楽を作ってきた。自分の音楽が、自分のベッドルームから世界に飛び出て行ったことを、すごく誇りに思うよ。自分たちの音楽は、ポルトガル国内より、国外で注目されてきた。なんでかわからないけどね。でも最近ではそれも変わりつつあって、Sumol Summer Fest、Milhões de Festaみたいなポルトガル国内の大きな音楽フェスティヴァルや、Lux FrágilやMusicboxみたいなリスボンの大きなクラブでもパフォーマンスしている。

あなたや〈Príncipe〉の音楽はSoundCloudやBandcampなどネット上のプラットフォームを介して広まっていきました。アナログ盤もリリースされていますが、ご自身はふだんどのように音楽を聴いていますか?

NF:リスナーとしてもクリエイターとしても、完全にデジタルだね。自分の使いたいマテリアルはデジタル・フォーマットにしかないことが多いし、レコードを使ってDJしないしね。

インターネットは音楽にとって良いものだと思いますか?

NF:良いものだと思うね。レコードの再生機器を持ってない人も、インターネットを通じて音楽にアクセスすることができる。SoundCloud、YouTube、Spotifyにはいろいろおもしろいものが転がってる。うん、良いことだと思うよ。

ふだん曲を作るときは、アイデアがふっと湧いてくるのでしょうか? それともあらかじめみっちり構成を練って作るのですか?

NF:まず、ビートの断片が頭に浮かんでくる。自分のイマジネイションの世界からビートがやってくるんだ。でも、曲は1日では完成しないね。FL Studioで練ってみたり、インスピレイションが湧くまで1週間かかることもある。いろいろ混ぜてみて、次の日にはぜんぜん違う音楽になってることもある。こういう試行錯誤は、家でひとりでやるんだ。大勢に囲まれて「こうじゃない」「これはこうしたほうがいい」とかいろいろ言われながら作るのは好きじゃない。家で、ひとりで、静かに曲作りするのが好きだね。

では、これまで誰かと共作したことはない?

NF:あるよ。一度、〈Príncipe〉のほとんどのミュージシャンが曲の断片やアイデアを持ち寄って、1曲作ったことがある。DJ FirmezaやDJ Marfoxと曲作りをしたこともあるし。

トラックを作るときに、音楽以外の何かからインスパイアされることはありますか?

NF:海に行って水平線を見ているのが好きだね。海が好きなんだ。音楽を作るためのエネルギーをもらえる気がする。あとは、クラブに行って他のスタイルの音楽を聴くのも好きだね。クドゥーロ、テクノ、ポップ、トラップとかね。

「15 Barras」(2017年)は長尺の1トラックで、それまでとはがらりと作風が変わりました。インスタレイションのために作られたものだそうですが、この曲が生まれた経緯を教えてください。

NF:「15 Barras」はある種の実験だったんだ。「Nigga Foxの音楽とは完全に正反対のものを作ろう」という意図のもとに生まれた。15分のトラックで、完成までかなり試行錯誤したよ。何日もいろいろ考えて、あちこち切り貼りしたり、時間をかけてね。結果的に、良いフィードバックをもらったし、うまくいったと思ってる。あくまで単発の実験だけどね。「15 Barras」は朝4時にクラブで聴く類の音楽ではなくて、日中とか旅行中に聴く音楽、って感じだね。完全に違うトラックだよ。

今後アルバムを作る予定はありますか?

NF:もうすぐサプライズがあるよ(笑)。いまはまだ言えないんだけどね。2ヶ月後位にアナウンスできるんじゃないかな〔註:この取材は1月末におこなわれた〕。

あなたの音楽を一言で表すとしたら、何になりますか?

NF:VIBE。ヴァイブレイションだね。

取材・文:小林拓音(2018年3月31日)

Profile

小林拓音/Takune Kobayashi
1984年生まれ、東京在住。執筆と編集。寄稿した本に『IDM definitive 1958 – 2018』など。編集した本に『別冊ele-king 初音ミク10周年』など。

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