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RIP

R.I.P. Bunny Wailer

R.I.P. Bunny Wailer

追悼:バニー・ウェイラー

鈴木孝弥 Mar 03,2021 UP

 ついにこの日が来てしまったか。2週間前にUロイの訃報を聞いたショックも冷めやらぬうちに、レゲエ史上最高のグループであるボブ・マーリー、ピーター・トッシュとのオリジナル・ウェイラーズ最後の生存者、“ジャー・B”、バニー・ウェイラー(ネヴィル・リヴィングストンOM)が浮世を去った。つまりただの訃報ではない。ひとつの歴史の終焉の知らせである。
 73歳はいかにも早いし、Uロイより5歳も若い。しかし多くのファンは、そうしたことが起きはしまいかと心配していたと思う。2年前に軽い脳卒中を起こし、昨年の夏に再度の卒中に見舞われていた。その直前の5月末、彼が長年連れ添ってきた妻が失踪したニュースが報じられ、世界中のファンが心を痛めていた。その妻は、ウェイラーズのアイランドからのセカンド・アルバム『Burnin'』の「Hallelujah Time」や「Pass It On」に作曲者としてクレジットされているジーン・ワットである。家族は懸賞金を出し、報道やSNSでも情報が拡散されるうちに夫ジャー・Bの憔悴も伝えられるようになり、その矢先の入院だった。結局、シスター・ジーンとの再会を果たすことなく、そのキングストンのアンドゥルー・メモリアル病院にてこの3月2日を迎えた。
 最初期の名義はWailing Wailersだったし、彼らはWail 'N Soul 'Mというレーベルも持った。バニー・ウェイラーは、その“嘆き悲しむ(wail)”人民の代弁者たるグループの宿命を名前に引き取り、その偉業を最後まで守り、体現し続けた人物である。そして最後の最後まで、その名の通り嘆き悲しんだ人生だったことになるだろう。

 スタジオ・ワンでのスカ期の作品『The Wailing Wailers』、また『Soul Rebels』に代表されるリー・ペリーとの名作群、アイランドからの『Catch a Fire』と『Burnin'』までのウェイラーズ期は、レゲエうんぬん以前に、全ポピュラー音楽ファンにとっての必須科目と言える。しかし、ソロ第1作、1976年の『Blackheart Man』はといえば、それもまた誰も疑う者のないルーツ・ロック・レゲエの金字塔であり、おそらくマーリーも含めたアイランド・レーベルの全レゲエ作品の中でも最高傑作と言えそうな逸品だ。その次作『Protest』は、個人的にレゲエに開眼した一作だった。レゲエのレの字も知らない時分に聴いて、雷に打たれたようなショックを受けた。そのあともウェイラーは、ルーツ・マスターでありながら、ファンクもダンスホールもラップも取り入れるオープンな音楽性で魅せてくれた。
 その反面、マーリーやトッシュのようなメディア好きのする派手な露出もキャッチーな言動もなく、目立たないところで黙々と作品を作っていた、というのが80年代までの彼に対する一般的なパブリック・イメージだろう。一説によると、ソロ・デビューから6年は本国ジャマイカでもステイジに立たず、飛行機嫌いということもあってか10年間はアメリカ公演の記録も残っていないらしい。しかし一度ステイジに立てば3時間に及ぶマラソン・ライヴを敢行し、とにかくそのショウは物凄いらしいという噂が世を駆け巡るも、ヨーロッパの地さえ初めて踏んだのが1990年、そして日本でその勇姿を拝むにはさらにもう少し待たなくてはならなかった。
 1992年だったか、93年だったかだけが今、定かではない。実現した来日公演は、東京有明コロシアムで3夜連続という、ちょっと今では考えられない規模の大イヴェントであった。前座にスライ&ロビー・ショウケイス(アネット・ブリセット、ハーフ・パイント、マイケル・ローズ)を据え、そのあとでウェイラーはスピリチュアル・ルーツ・セットとダンス・セットの2部構成で計2時間半歌いまくり、そのパフォーマンスの厚みと凄みを目の当たりにして畏怖の念に打たれつつ、食い入るように聴いた。あの3日間の屋外公演は過去に体験したレゲエ・ショウの中で最も印象深いもののひとつだ。後年パリで見たライヴ・ハウス公演は本当に3時間あったが、うち結構な時間がありがたいお説教であった。それも忘れ難い思い出だ。

 ここ最近では、アディダスのTシャツ事件が心に残っている。エイドリアン・ブートが撮影した上半身裸でサッカーに興じている70年代のウェイラーの有名な写真がある(『GQ』の〈The Last Wailer〉という記事で使われているこれだ)。アディダス社はこの半裸姿に自社のTシャツを着せたグラフイック加工を施し、それをプリントしたTシャツを製造、世界中で販売したのである。ぼくが1枚のTシャツに5千円を払ったのは人生でただの1度きりだ。しかし、のちの報道で驚かされる。そのTシャツのことをウェイラー本人が知らされていなかったのだ。彼が抗議すると、アディダス社はたった3,000USDでことを収めようとし、オリジナル・ウェイラーズ、かつ3度のグラミー受賞者に対するその不誠実な謝罪の態度に激怒したウェイラーは2013年、同社を相手どって1億USDの損害賠償訴訟を起こした。こちらも気の毒でそのTシャツを着る気がしなくなったので実害を被ったことになるが、それよりあの大企業の商品の企画から製品化までに関わった人たちが、誰もバニー・ウェイラーを知らなかったことにショックを受けた。あの大企業がグラミー受賞者の写真を本人に無断で使うわけがない。
 彼にとって自分のプライドが傷つけられたことは、ウェイラーズのレガシーに対する侮辱でもあった。加えて、知らないうちに自分が巨大多国籍企業の金儲けのタネにされていたのだ、それも“名も無いラスタ”と思われて。ジャー・Bは、気がつけば自分が「バビロンとは何か?」という問いに対する相当な模範解答の渦中にいたのである。

 それとは全く規模が違うが、ぼくにも、彼の気位の高さを個人的に実感した思い出がある。ユニバーサルからアイランド・レーベルの音源を使ったコンピレイションCDの制作を依頼された際、その1曲目に『Protest』収録の“Get Up Stand Up”を持ってこようと考えた。マーリーとトッシュの共作曲をウェイラーが歌う、オリジナル・ウェイラーズ、ひいてはアイランドのレゲエ・ラインを象徴する1曲としてだ。そして同曲を起点にしてアーティスト十数組の曲をセレクトしたが、他の全員が使用を許諾してくれたのに、バニー・ウェイラーただひとりが許可してくれなかったのである。コンピレイションなんぞに入れてくれるな、ということらしかった。お陰でアイディアをいちから練り直すことになったのだったが、彼の人となりを身近に感じられた気がして妙に嬉しかった。

 そんな風に自分の人生と作品に関してのみならず、彼がラスタファリアンとしても持っていた揺るぎないプライドは、アディダスの件と同じ2013年、レゲエ・ファン以外にも例のスヌープ・ライオンの一件で知られるところとなった。スヌープ・ドッグが改名、ルーツ&カルチャーに接近し、レゲエ・アルバムを出したときの話である。自分がボブ・マーリーの生まれ変わりだと主張し、マーリーの家族が歓迎してくれたことでその転身を正当化した。その宗旨替えについてのドキュメンタリー映画『スヌープ・ドッグ/ロード・トゥ・ライオン』まで観た上でウェイラーは、スヌープがマーリーの名を汚し、ラスタファリアンの“シンボル”の数々を商売のために不正に利用しており、その言葉にも態度にもラスタを名乗る資格など全く認められないと喝破したのであった。マーリーの家族が歓迎したというが、その家族の誰よりも前にマーリーとトレンチタウンの一つ屋根の下で暮らす家族だったのは彼なのである。その言葉のインパクトがどれだけ重たいものだったかは、スヌープ・ドッグのその後が物語っている。

 これでオリジナル・ウェイラーズはみな鬼籍に入った。いい音楽をたくさん残してくれたことに心から感謝したい(と思える人は、実はそんなに多くない)。そしてシスター・ジーンのことが心配である。認知症を患っていたらしい。ジャー・Bもバビロンにいつまでも心が残ってしまう。

鈴木孝弥

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