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アナログフィッシュ

アナログフィッシュ

荒野 / On the Wild Side

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木津 毅   Sep 14,2011 UP
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 震災後、もっとも重々しく感じられたのは多くのひとが――直接は被災しなかった人びとが口にした「何もできない」という無力感だったように思う。原発事故がきっかけとなって明らかになったのは、恐らくこれまでも気づくきっかけはあったこの社会のシステムの根深さであり、それに対する憤りはあっても、それと同じくらい、あるいはそれ以上に「もはやどうしようもない」という諦念もそこにあったことは否定できない。「何も変えることはできない」――何か手に負えないことが起こったときに必ず出現するシニシズムを予期していたかのように、アナログフィッシュは以前からあったという言葉をここで歌っている......「何かが変わるといいね」
 それは、当事者になりきれない者たち、無力感に足を取られそうになっている人びとのためのプロテスト・ソングとしてある。

 オープニングの"PHASE"の荒々しく手数が多めのビートや"荒野"の打ち込みとループを聴いていると、サウンドでも他のロック・バンドと違うことをやろうとしている挑戦を感じるが、それも言葉を聞かせるためのもののように思える。それだけパンチラインがあるということだが、"ロックンロール"で顕著な半音階が頻出するメロディや弱起の多さ、"No Way"の切れ間のないフレー ズなどは端的に言葉の数が多いことを示している。言いたいことが、伝えたい言葉が溢れ、それを取りこぼさないように勇壮なビートが鳴らされている。
 ソングライターの下岡晃はインタヴューでR.E.M.へのシンパシーを表明していたが、そのR.E.M.の歌詞に「誰かが落ちなければならない/どうして僕じゃない?」というものがあった。アナログフィッシュはその「どうして僕じゃない?」という感覚――非当事者としての怒りや悲しみ、違和感について果敢に表現しようとする日本では数少ないロック・バンドである。それは、いつしか身の回りのリアリティ、とりわけ恋愛の局面における「等身大」の悩みばかりを歌うようになったこの国のポップ・ミュージックに対する明確なオルタナティヴであろうとする。
 しかしながら、アナログフィッシュの社会に対する視線の表現の仕方は何も特別なものではない。例えば初期のスプリングスティーンがやったように労働者の物語に仮託することによって当事者になりきってしまうのともまた異なる、言ってしまえば日本の他の多くのミュージシャンと同じように「等身大」という土俵で勝負しようとしている。七尾旅人のシュールな巧みさとも異なる、そのナイーヴさがアナログフィッシュのプロテスト・ソングの危うさでもあり魅力でもある......ブライト・アイズのコナー・オバーストの社会の歌い方とどこか似ている。本作でも核となっている"戦争がおきた"は昔ながらのフォーク・ロックの手法を取って、極めて個人的な生活と遠い国で起きている戦争を重ねて描くことによって、それらが切り離されているものではないことを差し出してみせる。「朝目が覚めてテレビをつけて/チャンネルを変えたらニュースキャスターが/戦争がおきたって言っていた」

 そして、あくまで彼らは前を向いている。"Fine"などはその言葉の素朴さ故に彼らの問題意識の高さが隠れてもったいなく感じもするが、しかし同じ理由で"ロックンロール"の「スニーカー履いて街へ出よう!!」というフレーズ、あるいはタイトル・トラック"荒野"はかけがえのないロマンティシズムとして響いている。「行きたい場所は選択肢にはない/やりたいことはパンフレットにはない/誰も誰かの代わりにはなれないよ/そして荒野へ/その足で荒野へ」
 もしこの歌が、確実にひとりの若者の足を動かす契機となったならば......「荒野へ進め」という言葉はここではクリシェにならない。そこでは当事者/非当事者という線引きがぼやけ、様々な他者の感情と共振することができるだろう。原発事故も、ロンドンの暴動も、オスロのテロも、9.11から10年経っても深刻な問題を抱えたアメリカも......程度の違いはあれど、すべて関係のない世界で起きていることではない。アナログフィッシュの言葉と歌は、そのことをいまの日本で生きる若者に思い出させようとするその懸命さにおいて光っている。そして彼らは、アルバムの最後ではこんな風に歌っている――「New world is coming/The world is changing」

木津 毅