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アナログフィッシュ × ASIAN KUNG-FU GENERATION

アナログフィッシュ × ASIAN KUNG-FU GENERATION

@渋谷クラブクアトロ

2014.7.4

文:金子厚武  
photos:笹原清明   Jul 10,2014 UP

 7月4日に渋谷クラブクアトロにて、アナログフィッシュとASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカン)の2マン・ライブが行われた。昨年デビュー10周年を迎え、横浜スタジアムで2デイズを行ったアジカンが、この規模のハコで2マンを行うというのは、非常に珍しい。これは後藤正文のアナログフィッシュに対する「同世代で常に気になる数少ないバンド」という言葉が象徴しているように、お互いへのリスペクトがなければ決して実現しないことであり、両者のライブの節々から、その想いが感じられた。

 先行のアジカンは長い付き合いのアナログフィッシュとの対バンであることを意識してなのか、序盤から“サイレン”、“センスレス”、“Re:Re:”、“アンダースタンド”と、比較的初期の曲を連発。彼らとしては小さな規模のハコだったこともあってか、終始リラックスした印象で、盟友との再会を楽しんでいるようだった。途中で後藤は、「何で女性ソロ・アーティストのMCって〈お前ら―!〉とか、ヤンキー口調なんだろうね」と話していたが、いまの若手バンドの多くも「かかってこいやー!」とか「いけんのかー!」など、とにかくオーディエンスを煽ることがマナーのようになっている。これはフェス文化の弊害のような気もするが、アナログフィッシュはもちろん、アジカンもこういった煽りはほぼ皆無。しかし、彼らがただ曲を演奏すれば、自然と手が上がり、合唱が起こる。そう、やはりアジカンの曲は“みんなのうた”だ。後藤は6月にもソロで同じステージに立っていて、そのときはウィルコやスフィアン・スティーヴンスといった現在の趣向を反映したライヴを行っているが、アジカンに戻れば、自らの役割を全うしている。後に下岡晃が「アジカンで一番好きな曲。だって、あれは俺に向けて歌ってくれてるから。ってことは、君たちに向けて歌われてるってことでもある」と語った最新曲の“スタンダード”、素晴らしき“今を生きて”などを経て、ラストも初期の代表曲“君という花”でこの日のステージを締めくくった。

 後攻のアナログフィッシュは、1曲目に“抱きしめて”で、2曲目が“はなさない”。「ここぞ」というときのライヴで披露される、この2曲のコンボを冒頭に持ってきたということから、彼らのこの日のライヴに対する強い意気込みが伝わってくる。そして、ライヴアレンジではアウトロにサイケデリックなパートが加わる“抱きしめて”と、やはりかなりサイケデリックで、なおかつミニマル、それでいてメロディアスな“はなさない”という2曲から、僕はいつもブラーの“Beetlebum”を思い出す。ここでハッと気づいたのが、「今日ってオアシス対ブラーみたいだな」ってこと。とにかくオーディエンスがガンガン合唱する「みんなのうた」なアジカンと、実験的なプロダクションも取り入れながら、メランコリックなメロディの美しさが際立つアナログフィッシュ。もちろん、後藤はリアム・ギャラガーではないし、下岡もデーモン・アルバーンではないんだけど、両バンドの対比としては、かなりしっくり来る気がする。実際、両バンドともそれぞれのバンドからの影響を公言してるし。

 この日は2曲のみでリード・ヴォーカルをとった佐々木健太郎の“Good bye Girlfriend”に続いて、今度は下岡がラップをするムーディーな新曲“nightfever”で新境地を垣間見せると、2007年に下北沢シェルターで対バンをした際、ラーズの“There She Goes”をセッションしたという話から、同タイトルの新曲(正式には“There She Goes(la la la)”)へ。これが“君という花”と同じくらいのBPMの裏打ちの曲だったのが、世代感を象徴しているような印象を受けた。いまの若手バンドの四つ打ち、ホント速いもんな。そして、ここから再びライヴは熱を帯びて行き、“Fine”では佐々木がピート・タウンゼントばりのウィンドミル奏法を決め、“PHASE”と“Hybrid”では、下岡がデーモンばりの……とまで言わないものの、強いカリスマ性を発揮して、オーディエンスを魅了した。

 そして、この日一番印象に残ったのが、簡素なリズムトラックとアトモスフェリックな上ものによって、インディR&B風にアレンジされた“公平なWorld”。〈僕らが寝ている間に何が起きてるか知ってる? 地球の向こうに朝が来てる事知ってる?〉という歌い出しにはじまり、〈うまくやったヤツラ うまくやられた彼等 振り回されたのはダレだ?〉と問いかけ、最後に〈泣かないで ルールを守り続けなくちゃ〉と歌うこの曲は、2006年に発表された曲だが、地球の向こうで行われているワールドカップに熱狂する一方で、集団的自衛権の問題に揺れるいまの日本にあまりにもぴったりだ。震災以前に書かれていた“PHASE”の〈失う用意はある? それとも放っておく勇気はあるのかい?〉という一節はもちろん、下岡のリリシストとしての才能には改めて恐れ入る。

 アンコールに応えてステージに現れた下岡は「地震の後には戦争がやってくるって清志郎さんが言ってたけど、本当に来そうだ。でも、楽しもうぜ」と言って、最後の曲“TEXAS”のシーケンスを鳴らした。〈スペースシャトルが落ちた 煙を出して テキサスの原っぱのど真ん中 僕は夢を見ていた そこから木の生える〉と歌うこの曲は、つまりは可能性の歌だ。そして、〈月曜日の朝から 風変わりな少女が歌う その小さな願いから ささやかな兆しが芽吹いたんだ〉と歌うアジカンの“スタンダード”もまた、可能性の歌だと言っていいだろう。もちろん、可能性はあくまで可能性であり、それが成就するのかは誰にもわからない。しかし、アンコールが終わっても鳴りやまない拍手に包まれた会場内で、僕は確かに何かが芽生えたような感覚を感じていた。アナログフィッシュは現在新作のレコーディング中。テイストとしてはブラックミュージックの要素がやや強まりそうな気がするが、果たしてそこに下岡は、そして佐々木はどんな言葉を乗せるのだろう。とても楽しみだ。

文:金子厚武