ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Burial - Antidawn (review)
  2. interview with Boris スラッジ・メタルの異星、その現在を語る (interviews)
  3. Columns ジャズとアンビエントの境界で ──ロンドンの新星ナラ・シネフロ、即完したデビュー作が再プレス&CD化 (columns)
  4. Àbáse - Laroyê (review)
  5. Random Access N.Y. vol.132:NYではレコードのある生活が普通になっている (columns)
  6. Oval - Ovidono (review)
  7. Broadcast ──ブロードキャストのレア音源が一挙リイシュー&リリース (news)
  8. Livwutang ──〈C.E〉のカセットテープ・シリーズ、記念すべき30本目がリリース (news)
  9. Floating Points × Pharoah Sanders ──これはすごい! フローティング・ポインツとファラオ・サンダースの共作がリリース (news)
  10. Norhern Soul ──『ノーザン・ソウル』、この最高な映画を見たらスリムのデニムを履けなくなる (news)
  11. Burial - Tunes 2011-2019 (review)
  12. パフォーマンス:クリスチャン・マークレーを翻訳する - @東京都現代美術館 (review)
  13. Aya - Im Hole (review)
  14. Ehiorobo - Joltjacket (review)
  15. interview wuth Geoff Travis and Jeannette Lee 〈ラフ・トレード〉が語る、UKインディ・ロックの現在 (interviews)
  16. dj honda × ill-bosstino - KINGS CROSS (review)
  17. 年明けのダンス・ミュージック5枚 - (review)
  18. Cleo Sol - Mother (review)
  19. Hiroshi Yoshimura ──入手困難だった吉村弘の1986年作『Green』がリイシュー (news)
  20. interview with Gusokumuzu 勝ち組でも負け組でもない若者のリアル (interviews)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Teengirl Fantasy- Tracer

Teengirl Fantasy

Teengirl Fantasy

Tracer

R&S/ビート

Amazon iTunes

橋元優歩   Aug 29,2012 UP
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 チルウェイヴのバブルがはじけたあと、そのポスト・ヒプナゴジックの原野には、大きくふたつの方向へと分化する才能たちがあらわれた。アンビエントやドローンへと先鋭化していくものたちと、ダンス・ミュージックとしての純化をめざすものたちである。前者はチルウェイヴのメタフィジカルな延長であり、後者はフィジカルな延長だ。〈ヒッポス・イン・タンクス〉と〈100%シルク〉の相違に、そのひとつの例があざやかに浮かび上がっていると言えるだろう。
 ティーンガール・ファンタジーもセカンド・アルバムにおいては何らかの選択をしなければならなかった。ピッチフォークのインタヴュアーが、今作への質問においてテクノやハウスからの影響を指摘することからはじめたのは、彼らが再帰的にダンス・ミュージックを指向しはじめたことを端的に物語っている。

 2010年のデビュー作は、もっとあいまいでどっちつかずな作品だった。ローファイでドリーミーでダンス・オリエンティッドなシンセ・ポップ……トレンドをそつなくつなぎあわせる年若い頭脳が感じられたし、いち部のメディアからは高評価で迎えられたが、後続を生むような強靭なスタイルを持っていたわけではなく、どちらかと言えば自らが優秀な後続であったという印象だ。また、USではガールズタンラインズアンノウン・モータル・オーケストラなどを擁する〈トゥルー・パンサー〉からのリリースであったことは、彼らのよって立つ基盤がインディ・ロック寄りであったことを証している。すでにオベリン大学とはべつにアムステルダムへも留学し、テクノやハウスに深く触れて帰ってきていたにもかかわらず、そうした材を直接的に表出しなかったのは時代を読む才にたけていたからなのかもしれない。ともあれ、今作『トレイサー』においてそれは全面的に解放されることになった。リリース元は〈R&S〉、そういうことである。

 結果としてそれはとてもよく作用している。『トレイサー』こそ彼らの名刺となる名作だ。あのよくわからない『7AM』のジャケットに比し、つめたい薔薇のグラフィック・アートは今作のクリアで硬質なプロダクションにしっくりとかたちを与えている。けっしてメロウにならないドリーム感は、チルウェイヴの残り香を鱗粉のようにふりまきながら、ケレラのヴォーカルとともにR&Bへの軌跡も示す(やはり彼らもR&Bをつぎの射程に入れているのだ)。ケトルやボーズ・オブ・カナダの叙情をくぐり抜け、パンダ・ベアのヴォーカルをフィーチャーする“ピジャマ”では、4つ打ちを相対化しながらもアクロバティックにハウスを模索する。パンタ・デュ・プランスがパンダ・ベアを求めるのとは逆の回路で、しかし到達点としては同じ地平をみるような好トラックだ。ローレル・ヘイローに目をつけるのもうまい(というか必然だ)し、ピアノをシックにあしらう“エンド”もいい。よりベタな意味でのダンス・サイドである後半のトラック群を控え、前口上を述べるかのようである。このアルバムがいかなるものであるのか。自分たちはどこを通ってここへやってきたのか。「模倣には限界がある」と語る彼らが教育課程を修了し、いよいよ本当の進水式をむかえたと言えるこの『トレイサー』を祝福したい。卒業おめでとう。

橋元優歩