ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. SAULT - Nine (review)
  2. Primal Scream ——90年代初頭のまばゆさ、その青写真としてのプライマル・スクリーム『デモデリカ』 (news)
  3. Gucci Prince - HEROES (review)
  4. Columns 「ブリティッシュ・シー・パワー」というバンド名の意味の変化 (columns)
  5. SUPER DOMMUNE Presents「DJ IN THE MIRROR WORLD 3」 ──石野卓球が仮想のスクランブル交差点でDJ (news)
  6. Squid ——UKインディ・バンドのスクイッドが憎いリミックス・シングルを発表 (news)
  7. Grouper - Shade (review)
  8. Damon and Naomi ——USインディの宝、デイモン&ナオミが6年ぶりのアルバム(しかも対訳付きの国内発売) (news)
  9. BJ Nilsen - Irreal (review)
  10. interview with Parquet Courts (Andrew Savage) 都市の喧騒が聞こえる (interviews)
  11. Local World x Foodman ──延期されていた食品まつりのリリース・パーティが開催 (news)
  12. Interview with Phew 音が導く、まだ誰もみたことのない世界 (interviews)
  13. DEADKEBAB & PSYCHIC$ ——デッドケバブ&サイキックス、話題のラップ・ユニットが7インチをリリース (news)
  14. interview with Young Marble Giants たった1枚の静かな傑作 (interviews)
  15. Columns 進化するクァンティックの“ラテン” ──雑食的な魅力たっぷりの新作をめぐって (columns)
  16. Lucrecia Dalt & Aaron Dilloway - Lucy & Aaron (review)
  17. Primal Scream - 〈Screamadelica Live〉 (review)
  18. interview with Lucy Railton 〈モダーン・ラヴ〉からデビューした革新的チェリストの現在 (interviews)
  19. Little Simz - Sometimes I Might Be Introvert (review)
  20. Moritz Von Oswald Trio - Dissent (review)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Unknown Mortal Orchestra- Unknown Mortal Orchestra

Unknown Mortal Orchestra

Unknown Mortal Orchestra

Unknown Mortal Orchestra

Fat Possum Records

Amazon iTunes

橋元優歩   Jul 05,2011 UP
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 ジャケット写真の建築物はユーゴスラヴィアのものだそうで、コミュニストたちの記念碑だという説明がある。それは現在では荒廃してしまって、未来のために構想されたものでありながら過去の遺物と化している。ネットで軽く検索したくらいでは英語の資料さえなく、実在するのかどうかも説明なしには判然としない。空間からも時間からもロストされたような謎めいた佇まい。「僕はそれがこの音楽に合うと思った」......アンノウン・モータル・オーケストラを率いるルーバン・ニールソンは、あるインタヴューでそのように語っている。「僕たちはそれを旅人の撮った写真みたいなイメージで使ったんだ」
 そうであるならばこの旅は時間をめぐる旅、いや、時間を失うための旅であろう。

 このプロジェクトが『ピッチフォーク』などのメディアに取り上げられた当初は、バンドキャンプにあげられたその他多くの無名バンドと同じように、数少ない音源と情報しか明かされていなかった。ニールソン本人はインフォをあげる時間がなかったし、そもそもバンドでもなかったからその必要を感じなかったとも述べているが、周知のとおり、実際はニュージーランドのインディ名門〈フライング・ナン〉を代表するエクスペリメンタルなノイズ・ポップ・バンド、ミント・チックスの中心メンバーである。あるブロガーからは、「このミステリアスな存在感がおもしろいから、誰のバンドなのかもう少し秘密にしておいたほうがいい」などといった意見も寄せられたそうだ。それが功を奏した部分も大いに あっただろう、アンノウン・モータル・オーケストラ(以下、UMO)は、現在本デビュー・フル・アルバムを発表したばかりだが、日本でもひたひたと注目を集めている。

 ミント・チックスを脱けたいという気持ちを固めてから、ニールソンはまずイラストを描いたりと音楽以外のことへ向かったようだが、そのうちそわそわと録音をはじめるようになった。それにあたって彼が購入したのは、オープンリール式のテープ・レコーダーや古いディクタフォンだ。アリエル・ピンクからアクやえぐみをとったような、独特だがトレンドを突いたローファイ感。ものすごくヴィンテージなサウンドで、曲自体は60'Sサイケデリックやファンク・ロックが基調になっている。スライ・ストーンの静かな狂気を、アリエル・ピンクやネオン・インディアンのぐにゃぐにゃとしてスキゾフレニックなポップ感覚に溶かし込んだ、ある意味でウルトラ・ドリーミーな音である。「違う時代からきた何か」のような音楽を目指したというニールソンのヴィジョンは、このアルバムに余すところなく映し出されている。
 「違う時代」というだけで特定の時代を志向しない態度は、彼がノスタルジーではなく、この時代への違和感や、もしかすると歴史や時間性からの疎外感を抱いていることを想像させる。

 軽快にスウィングするスネアがTレックスを思わせる冒頭の"ファニー・フレンズ"。これだけでロック・ファンの心はしっかりとつかまれるだろう。ファンキーでグラム・ロックのあでやかさを持った"バイシクル"も同様だ。締まったリズムとレトロな音質、ウッズを彷彿とさせるチャイルディッシュでエキセントリックなファルセット・ヴォイス、2011年現在の録音と思えないが、かといって埋もれていた逸盤というにはなにか新しい手触りやフィーリングがある。こうしたレトロ趣味というよりは、もっと巧妙に企まれた偽古典的な方法論は、玄人リスナーのツボをかならずや突くだろう。個人的には"ハウ・キャン・ユー・ラヴ・ミー"のダンサブルでスウィートなサイケ・ファンクを繰り返し聴いている。もちろん粒ぞろいで、飽きのこないアルバムだ。

橋元優歩