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Gabriel Saloman

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Gabriel Saloman

Soldier's Requiem

Miasmah

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久保正樹   Jan 21,2014 UP
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 ピート・スワンソンの『パンク・オーソリティ』がその熱で赤く光る鋼鉄の花だとすれば、ガブリエル・サロマンの『ソルジャーズ・レクイエム』は黒く燃え落ちた末に白い粉をまとった灰色の彼岸花といったところだろうか。間違いなく2000年代を代表するフリー・ノイズ・デュオであり、2008年の解散までに数え切れないほどのカセット、ヴァイナル、CD-R作品をリリースし続けてきたイエロー・スワンズ。その元メンバーである2人が、2013年にエクスペリメンタル・ノイズを棲家としつつも、それぞれ好対照なソロ作品をリリースした事実はとても興味深いことである。外宇宙から享楽に向かうピート・スワンソンに対し、内宇宙から終末に向かうガブリエル・サロマンというか。なんというか。

「兵隊の葬送曲」と名づけられたタイトル。そしてアートワークはヴァイオリンを奏でる底気味悪い骸骨。なんともビザール嗜好をくすぐる、好きものにはたまらない恍惚を与えてくれるこの暗黒風情。筆者もCDショップの試聴機に並ぶこのパッケージを見て迷わず手に取り耳にした口であるが、冒頭から危うい響きを奏でるピアノ、そして不安定ながらもエレガントに折り重なるゴースト・ドローンに意識もろともすとんと他界に突き落とされてしまった。調べてみるとこの作品、バンクーバーにあるサイモン・フレイザー大学・現代芸術学科の学生たちによって演じられた、戦争を題材にしたライヴ・パフォーマンス『ウォー・レクイエム』のために作られた音楽とのこと。なんでも「ダンス、音楽、メディア、光、衣装のアイデアが絶頂に統一されたパフォーマンス」と評されていてその舞台の動向も気になるところだ。

 さてアルバムの内容だが、先の退廃的音響に続く“マーチング・バンド”では、ガブリエル・サロマンによるドラミングを聴くことができる。ドラムといっても快音とはほど遠くがらんどうのような響きがバタバタと連続する。そのスネアロールはタイトルどおりに「マーチング」と解釈するにはあまりにも七曲がりで、むしろデヴィッド・ジャックマン(オルガナム)がかつて鳴らした悪夢のマシンガン・ドローン・ノイズにも似た恐怖と憂鬱を与えてくれる。そして本作の肝となる“ブーツ・オン・ザ・グラウンド”。トレードマークともいえるギターがくぐもったフィールドレコーディングを通り抜け、(イエロー・スワンズ時代の過剰に加工されたものとは違い)はっきりとした輪郭をもってメロディーを紡いでは漆のような闇をうつらうつらと彷徨う。やはりガブリエル・サロマンのギターは格別だ。のっぴきならない虚無感のなか時折仄見えるリリシズムに、いままで世界のはずれでこの音楽に耳を澄ましていたはずが、じつはここが世界の中心であるかのような錯覚に陥る。そんな妙な安堵感を打ち消すように再び現れるあのマーチング。まるでよるべない死が転がり回るような不吉なスネアロール。さらにとどめはパワー・エレクトロニクスよろしく冷たい壁をなす悲愴美あふれるパワー・ギターだ。ああ……もう何もいらない。いや、もとい。この官能はくせになる。もっとほしい。もっとくれ。もっとだ。もっと堕落を!

 CDジャケットの内側にさり気なく記された「Fight War, Not Wars(戦争で戦うな、戦争と戦え)」の文字。もちろんイギリスのアナーコ・パンク・バンド、クラスのファースト・アルバム収録曲から引用されたメッセージである。そしてよくよく考えるとアルバム・タイトルの『ソルジャーズ・レクイエム』はシカゴ・パンクの異端児、ネイキッド・レーガンの曲名から採られたものに違いない。なるほど。タイトルにそのまんま「パンク」をもってきたピート・スワンソンに対し、それとなくパンク心を開示するガブリエル・サロマン。哀調を帯びた憂鬱質な男にしてじつに粋な男である。

久保正樹