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Pete Swanson

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Pete Swanson

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橋元優歩   Aug 22,2013 UP
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 踊った。というか跳ねた。ベッドルーム・ポップに繚乱と彩られたこの6~7年に象徴されるように、メディテーショナルでドリーミーでサイケデリックなムードにとっぷりと浸かってきたインディ・シーンはいま、その長い長い眠りを、壁を蹴破られるようにして覚まされつつある。まるで『進撃の巨人』だ。ベッドルーム(=壁の中)の安寧は、破られた穴から流入するおびただしいノイズ(=巨人)によって乱れ、緊迫し、覚醒させられるだろう。巨人たちの名は、もちろん「インダストリアル」である。

 昨年末の『ele-king vol.8』に収録された座談会内ですでに指摘されていたこの兆候は、つづく『ele-king vol.9』において特集となり、約半年をかけて誰の目にも著きものとなった。筆者がいまもレコ屋の店員だったならば、売りたい新譜のポップにはたとえ間違っていたとしても「インダストリアル」の文字を滑り込ませただろう。定義も曖昧で振れ幅の大きいこのマジック・ワードは、だからこそ広い射程を持った新しい価値観としてリニューアルされ、ベッドルーム・ポップの思わぬ細部へと浸透している。サファイア・スロウズや禁断の多数決のほうのきらが昨年の年間ベストのなかにアンディ・ストットを挙げたりするのはその顕著な例だろうし、当のアンディ・ストット自身も両者の境界点に結像する存在である。

 いろんな側面があるが、ズシン、ガシャンという、倉本諒言うところの「鉄槌感」は、その重要な要素のひとつだ。自意識の延長ともいえるベッドルーム空間を、容赦なく壊してくれるノイズやビート、あるいはミニマリズムを、われわれはおそれつつも、いつしか欲するようになっていた......"パンク・オーソリティ"は、この間隙に途方もない力で入り込んできて、気持ちよいほど血を沸かせ、身体を叫ばせる。興奮した意識にはベッドルームはいかにも手狭だが、狭い壁のなかで、頭のなかはむしろ澄み渡っていくような気がする。

 と書くと、情感や内面性を排した身体的な音楽だと思われるかもしれないが、そういうわけでもないところがピート・スワンソンの素晴らしいところであるし、筆者とてべつに「外の世界に出よ」などと言いたいのではない。基本、出たくない。"パンク・オーソリティ"では、鉄槌感がそのままメロディのように機能して、あるエモーションを立ち上げていくのだ。
 各トラックが層状に重なっているのではなくて、一枚に溶けているようなノイズ・コラージュ。どの部分も、たとえばポップスのように安定した構造を持っていたり、それに沿って聴く体験を支えてくれない。どの音もチリチリ、ビリビリと震え、ふいに発火しそうな細かい電流をた走らせている。ただ、低音が裏拍を強調しながらリズムのパターンを形成しはじめると、曲(あえてトラックとは書かない)の相は一気に色合いを変え、鉄槌感とともに、感情を揺さぶり、そこに訴えかけてくる力が生まれる。それでダンスを知らないこの体も飛び跳ねることになったのだ。

 繰り返しになるが、ピート・スワンソンにおいてズシン、ガシャンはメロディであり、エモーションである。"パンク・オーソリティ"は、彼が2000年代初期から続けてきたイエロー・スワンズの、パッショネートなギター・ドローン、凝縮されたノイズ、心を打つ旋律性、そういったものの延長にあるのだろう。ビートが意識的に取り出されたのは、ほんの最近のこと――『マン・ウィズ・ポテンシャル』(2011)で、テクノ的なバックグランドを初めて大々的に解放したというスワンソンだが、そこにいたる約10年には、膨大なノイズ・ロックのアーカイヴがあったわけだ。筆者はそのほんの数箇所しか摘んでいないけれども、『パンク・オーソリティ』を親しく感じるのは、そのイエロー・スワンズの名の下に錬成された内面性やエモーションのためなのだろう。やわくも脆くもなるものを、彼はつよく美しく音によって鍛えることを知っている。『進撃~』で言えば彼は「奇行種」なのであり、人間なのだ。

 今年もっとも繰り返し聴いた作品だ。かけるたびに部屋のなかで躍り、部屋のなかで部屋を破り、身体に流れる血の温度を感じている。眠気はなくなった。国内盤には5曲ものボーナス・トラックが収録されている。すごい、どうしよう。でもやっぱり"パンク・オーソリティ"がいちばん素晴らしい。

橋元優歩