ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Lucrecia Dalt & Aaron Dilloway - Lucy & Aaron (review)
  2. Abstract Mindstate - Dreams Still Inspire (review)
  3. interview with Jeff Mills + Rafael Leafar 我らは駆け抜ける、ジャズとテクノの向こう側へ (interviews)
  4. Marisa Anderson / William Tyler - Lost Futures (review)
  5. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第6回 笑う流浪者、あるいはルッキズムに抗うための破壊 (columns)
  6. Cleo Sol - Mother (review)
  7. Columns 「実用向け音楽」の逆襲 ──ライブラリー・ミュージックの魅力を紐解く (columns)
  8. 地点×空間現代 ——ゴーリキーやドストエフスキー、ブレヒトや太宰の作品を連続上映 (news)
  9. Lucrecia Dalt - No Era Sólida (review)
  10. Wolf Eyes - I Am A Problem: Mind In Pieces (review)
  11. Tirzah - Colourgrade (review)
  12. Lawrence English - Observation Of Breath (review)
  13. P-VINE & PRKS9 Presents The Nexxxt ──ヒップホップの次世代を担う才能にフォーカスしたコンピがリリース (news)
  14. interview with BADBADNOTGOOD (Leland Whitty) 彼らが世界から愛される理由 (interviews)
  15. Columns Electronica Classics ──いま聴き返したいエレクトロニカ・クラシックス10枚 (columns)
  16. Little Simz - Sometimes I Might Be Introvert (review)
  17. Politics 消費税廃止は本当に可能なのか? (1) (columns)
  18. Saint Etienne - I've Been Trying To Tell You (review)
  19. Soccer96 - Dopamine (review)
  20. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第3回 映画『金子文子と朴烈』が描かなかったこと (columns)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Wen- EPHEM:ERA

Wen

GrimeWeightless

Wen

EPHEM:ERA

Big Dada Recordings

Amazon

三田格   Nov 19,2018 UP
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 ワイリーが起源だとされるウエイトレスはファティマ・アル・ケイディリシェベルなど応用編の方がどんどん突っ走っている印象が強いなか、さらにウエイトレスとニューエイジを結びつけたヤマネコ『Afterglow』やオルタナティヴ・ファンク風のスリム・ハッチンズ『C18230.5』など適用範囲がさらに裾野を広げ、原型がもはやどこかに埋もれてしまったなあと思っていたら、そうした流れに逆行するかのようにウエイトレス以外の何物でもないといえるアルバムをウェンことオーウェン・ダービーがつくってくれた(以前はもっとクワイトやダブステップに近いサウンドだった)。ファティマ・アル・ケイディリやスラック『Palm Tree Fire』からは4年が経過しているし、何をいまさらと言う人の方が多いだろうけれど、なんとなく中心が欠如したままシーンが動いているというのは気持ちが悪く感じられるもので、それこそデリック・メイが1992年あたりにデトロイト・テクノのアルバムを出してくれたような気分だといえば(ロートルなダンス・ミュージックのファンには)わかってもらえるだろうか。つまり、このアルバムが4~5年前にリリースされていれば、もっと大変なことになったかもしれないし、ボディ・ミュージックを意識したようなストリクト・フェイス『Rain Cuts』などの意図がもっとダイレクトに伝わったのではないかなどと考えてしまったのである。ウエイトレスが何をやりたい音楽なのかということを、そして『EPHEM:ERA』はあれこれと考えさせる。それはとんでもなくニュートラルなものに思えて仕方がなく、ファティマ・アル・ケイディリによるエキゾチシズムやシェベルによるアクセントの強いイタリア風味など、応用編と呼べるモード・チェンジが速やかに起きてしまった理由もそこらへんにあるような気がしてしまう。それともこれはアシッド・ハウスが大爆発した翌年にディープ・ハウスという揺り戻しが起きた時と同じ現象だったりするのだろうか。「レッツ・ゲット・スピリチュアル」という標語が掲げられたディープ・ハウス・リヴァイヴァルがとにかく猥雑さを遠ざけようとしたことと『EPHEM:ERA』が試みていることにもどこか共通の精神性は感じられる。悪くいえばそれは原理主義的であり、変化を認めないという姿勢にもつながってしまうかもしれない。いずれにしろウエイトレスが急速に変化を続けているジャンルであることはたしかで(〈ディフィレント・サークルズ〉を主宰するマムダンスは「ウエイトレスはジャンルではない。アティチュードだと発言していたけれど)、全体像を把握する上で『EPHEM:ERA』というアルバムがある種の拠り所になることは間違いない。

 思わせぶりなオープニングで『EPHEM:ERA』は始まる。そして、そのトーンは延々と続いていく。何かが始まりそうで何も始まらない。立ち止まるための音楽というのか、どっちにも踏み出せないという心情をすくい取っていくかのように曲は続く。うがっていえばいまだにブレクシット(これは反対派の表現、肯定派はブレグジット)の前で迷っているとでもいうような。“RAIN”はそうした躊躇を気象状況に投影したような曲に思えてくる。動けない。動かない。続く“BLIPS”あたりからそうした精神状態がだんだん恍惚としたものになり、停滞は美しいものに成り変わっていく。ここで“ VOID”が初期のアルカに特徴的なノイズを混入させ、美としての完成を思わせる。そこでようやく何かが動き始め、後半はウエイトレスとUKガラージが同根のサウンドだということを思い出させる展開に入っていく。それらを引っ張るのが、そして、“GRIT”である。「エフェメラ」とはフライヤーやチラシのように、役割を終えればすぐになくなってしまう小さな印刷物のことで、ポスターや手紙、パンフレットやマッチ箱などのことを言う。“GRIT”はさらにそれよりも儚いイメージを持つ「砂」のことで、『EPHEM:ERA』にはどこか「消えていくもの、失われていくもの」に対する愛着のようなものが表現されている。『EPHEM:ERA』のスペルをよく見ると、ERAの前がコロンで区切られており、「すぐになくなってしまう小さな印刷物の時代」という掛け言葉になっていることがわかる。それはまさにウエイトレス=無重力に舞うイメージであり、エフェメラに印刷されて次から次へと生み出される「情報」の多さやその運命を示唆しているのではないかという邪推も働いてしまう。膨大な量の情報が押し寄せ、誰もそのことを覚えていない時代。クロージングの美しさがまたとても際立っている。


三田格

RELATED

Wiley- Evolve Or Be Extinct Big Dada Recordings/ビート

Reviews Amazon iTunes