Home > Columns > このリミックス・アルバムの印象? 「自分対他」だね- ──砂原良徳、『First Album Remixes』全曲コメント
6.おしえて検索 feat. の子(神聖かまってちゃん)― PARKGOLF Remix
tofubeats First Album Remixes WARNER MUSIC JAPAN INC. |
砂原:の子くんの曲だね。パークゴルフ。いい名前だね。90年代っぽい。
■札幌在住の1990年生まれの方ですね。やはり、トーフビーツの仲間で、このリミックスは、ガバっぽいよね(笑)。
砂原:ちょっとニコニコ動画っぽい感じというか。ん、やっぱりいままで聴いてきたなかで、一番ネットっぽい(笑)。基本的にみんな音符が細かいんだよね。ダカダカ、チャキチャキ、ドコドコ。
■トーフビーツが電気グルーヴは教科書だって言ってたけど、電気っていっても時代によって音楽性は変化しているわけで、彼らは、『KARATEKA』とか、『DRAGON』より前の電気グルーヴの影響が強いような気がする。ちょっとレイヴっぽいノリとか。
砂原:電気にはそういう時期があったね。『VITAMIN』と『KARATEKA』の間くらいじゃない? 『FLASH PAPA MENTHOL』とかあのくらいの時代。あの頃は速くてけっこう細かかった。あと音も歪んでたし。しかし、そう考えてみると、この前も話したけど、人生っぽいところとかもあるのかも。あと、コードとかそういうのがダークじゃなくて、普通のメジャー・コードだったりするけど、人生とか電気もけっこうそういうのが多かったかも。
■さすが俺みたいな年老いた人間はこのなかに入っていけないけど、若い子がこういう音楽でアがる気持ちも、わからなくはないというか。想像できなくはないかな。
砂原:まぁね。できなくはないけど、何かが欠けているような気もするし(笑)。
■ハハハハ。
砂原:別に、かけていてもいいのかもしれないよ。そこはわからないんだけど、聴いた感じではベースの概念が薄いというか。土台が緩い感じっていうかね。それなりに長くやっているから、僕はこういうことを言っちゃうかもしれないけど、もうちょっと土台がガッシリした曲があってもいいかなって感じがしちゃうんだよね。いまは土台の上に乗り切らないものを乗せている感じがある(笑)。
■ハウスが出てきたときも、ディスコ・ファンからは「こんなのは素人が作ったディスコでしょ!」って言われたわけだからね。
砂原:そうだよね。いつの時代も新しいものが出てくると、みんな大体はそういうことを言うしね。僕もその前の音楽を聴いているから、過去のことがデータとして蓄積されていると、そういうことしか言えないんだよ。ただ、時間が経たないとわからないこともあるから、それをダメだとは言わない。僕らがハウスをやっていた時代も、そういう批判をするひとはいたわけだしね。そのひとたちも、その前の世代から批判されていたわけだし。
■新しいことが起きるときには、必ず賛否両論があるし、こうして更新されるものだろうから。
砂原:あと、声が高いのが多くない?
■多い。
砂原:おおいよね(笑)。いわゆる、その、帰ってきた酔っぱらい的なさ(笑)。高い声のすっごく細かい編集ね。
■トーフビーツはヴォーカリストの選び方にも特徴があるよね。
砂原:そうかもしれない。
■なんで森高千里とボニー・ピンクなんだろうって。トーフビーツにとっての90年代イメージの象徴としてこうなったのかな。
砂原:どちらも90年代に主に活動していたわけだから。
■でも、90年代リアル・タイム世代からすると、彼女たちが90年代を象徴するヴォーカリストなわけではないからね(笑)。
砂原:90年代を代表するヴォーカリストって誰?
■たくさんいるけど。それこそUA、ACOとか。
砂原:それを言ったら、CHARA ACO UA、この3人だよね。
マネージャー氏:宇多田ヒカルとかも入るんじゃない?
■宇多田ヒカルってなぜか90年代ってイメージしないよね。
砂原:それはまた90年代後半の方っていうか。
■そうだね、前半と後半では時代の印象はぜんぜん違うもんね。
7.衣替え feat. BONNIE PINK ― Tofubeats Remix
砂原:うん、情報がやっぱり細かいね。
■トーフビーツのリミックスは、彼の仲間とはちょっと違う感じがしたけどな。
砂原:うん。彼もそこの先頭に立っているという意識があって、「何か新しいことをやっていかなきゃ」っていうのがあるのかも。僕はそんな気がするけどね。だって彼はずっと変化しているでしょう?
■そうだね。「しらきや」の頃からものすごく変化している。
砂原:あと、年齢のことも関係あるでしょう。
■そこは大いにあるだろうね。
砂原:わからない。こっちが主流になる可能性もあるよ。僕はただの古い考えの人間になるのかも(笑)。
1.Don’t stop the music feat.高森千里 ― Yoshinori Sunahara Remix
■ここで、あらためてまりんのを聴かせてもらってもいいですか。比較してみよう。
砂原:僕のはだいぶ違うと思うよ。まず、他のものと比べると「間」がありすぎるよ。
■そうだよね。それが現代の特徴なのよ。要するに情報量の多さ。
砂原:でも社会の状況を音楽はなんだかんだ映し出していくからね。たとえば、戦前とか戦時中とかって、船でも飛行機でも大きければいいって時代があってさ。そうすると、テンポがゆったりして、うわーって曲が流行ったりするんだよね。今度、時間が忙しくなってくると、どんどんテンポが上がってきて、情報が多くなってくるとテクノみたいなものが出てきて、音が複雑に絡みあってきてさ。そうなってくると時代を映し出しているって意味では、僕のじゃないものの方が正しいかもしれないね。世の中ってこんなに情報は整理されてないもん。もっとめちゃくちゃだよ。
■たしかにね。
砂原:こんなもの(自分のリミックス)はテメェの理想でしかないっていう(笑)。現実逃避だよ、俺(笑)。
■ハハハハ。どっちが良いか悪いかじゃなく、やっぱり比べて聴くと、鳴りが全然違うね。
砂原:やっぱりスピーカーってこうなるんだけど、音が遅いほど耳に届くまでにやっぱり時間がかかるわけ。音が高くてその時間が短いほど、そのスピーカーの揺れが小さいから音が鳴り終わるまでの時間が短くて済むのね。
■うん。
砂原:だから僕の曲って、ある程度揺れるからテンポも遅くないといけないから、そういう計算がなされているんだよね。さっき言った通り、無い物ねだりの子守唄ですよ。
■トーフビーツはこれを望んでいたわけだし。
砂原:望んでいたのなら、それはそれでよかったんだけど、ただ僕は他のものとのギャップがすごいなと思って(笑)。
■たしかにね(笑)。もうひとりくらいヴェテランを入れればよかったのにね。
砂原:「ひとりだけスーツであとはスエット」っていうのが、これはこれで面白いのかもね(笑)。
■ただ、情報量の話で言うと、若いときって、大量の情報に対応できちゃうからさ。体がもう……
砂原:反能しちゃうんだと思う。
■まりんの場合は、クラフトワークやYMOからきているから、彼らの音楽は基本、引き算だもんね。
砂原:そうそう! クラフトワークはとくにね。ただ、いまの子たちがこういう状態だけど、10年経ったらどういうふうになるんだろうっていうのは興味があるね。
■うん。それはすごく興味があるね。
砂原:世代の特徴っていうのは明らかにあるから。何かが起きているし、何かが変化していくんだろうし、そういう楽しみや期待はあります。やっぱり、それでも時代は回っていくんだなって。不況と言われつつも、新陳代謝が起きているって思うし。
7.衣替え feat. BONNIE PINK ― John Gastro & Tofubeats 1960s Remix
■それでは最後にもう1曲。トーフビーツが友人と一緒に手がけたリミックスです。
砂原:こういうまっとうな曲が最後に入っているんだ。彼って実は器用なんだよね。この前の対談でも言ったけど、わりと曲らしい曲ができるんだなっていう。ひとりで冷静になってっていう。彼はシーンを背負っているんだよ。
■そうかもしれないね。
砂原:背負って自分が切り開いて、他の仲間も切り開いていくしかないし、自分が気づいたこともどんどんやって周りに見せて、自分にも周りにも刺激を与えていかなきゃいけない。自分だけじゃなくて、シーン全体のことを考えているし、こういう曲もやってみせたいしっていう意識があったんじゃないかな? この曲はわりとまとまっている方でしょう?
■そうだね。リズムのノリとかも悪くないしね。
砂原:全然悪くないよ。僕は森高さんが歌った曲のトラックのリミックスをやったから、データの中身を見たんだけど、意外とちゃんとしてるんだよね。とくにベースの打ち込みを見たときに、「これってけっこう難しいんだけどな」って思ったんだよね。
■なるほどね。
砂原:僕がやるときはそれをさらにエディットしたんだけどね。だから彼は器用ではあると思う。
■ただ単に衝動で力任せにやっているのではなくてね。
砂原:うん。そういうコントロールが自分でできていると思うよ。
■今回のリミックスで特に印象に残ったやつとかある?
砂原:印象に残ったものはとくにはないね。だけど、自分以外の全体の印象っていうのはあるかな。だから、「自分対他」っていう構図になっちゃったかなって印象。
■とくにミキシングに関しては、全部で8曲あるなかで、他の7曲のまりんととのギャップは著しいね。
砂原:彼らの世代の特徴というか、ネット・ジェネレーションの特徴がよく出ていると思った。「これすげえ面白いじゃん! 無人島に持っていきたい」って思えるものは正直に言ってなかったけど、これがどういうふうに変化していくのかって興味は自然に持ったね。
■なるほどね。
砂原:トーフくんだって最初はサンプルを切っていたノイズだったけどさ、どんどん変化してきているわけじゃない? だからどうなっていくのかなっていう。もっと僕が理解できないものになっていくかもしれないし、その逆なのかもしれなし、わからない。でも彼らもこの先どんどん経験値が増えていくわけだしさ。これからどうなっていくかもわからないわけで。
※また、ふたりの対談のカット部分は、3月末発売の紙エレキングvol.16に掲載予定です。