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Home >  Interviews > interview with Kan Mikami - もうひとりの、“日本のパンク”のゴッドファーザー

interview with Kan Mikami

interview with Kan Mikami

もうひとりの、“日本のパンク”のゴッドファーザー

――三上寛、超ロング・インタヴュー

野田 努    撮影:小原泰広  thanks to Hitoshi Nanbu   Mar 09,2012 UP

三上は学生運動を挑発してああいう時代の華だったいう、そういう捉え方もあるかもしれないけれども、「冗談じゃないよ」っていうね。それもあったんですよね、わたしのなかで。そんなことよりも、永山則夫、中卒でひとを殺した男のほうが俺は大事だっていうスタンスでしたからね。

では、震災がありまして、今度は福島の原発の事故がありましたよね。あれに関しては三上さんはどのように思われましたか?

三上:これはね、筋違いというかびっくりしたといいますかね。あれは地震だけだと、そこそこ災害ということでわかりやすかったと思うよね。ところが、いまは事故のほうが中心になっちゃってますよね。
 結局、何て言うんでしょう、津波が教えたと言いますか、日本の現実を。「お前たちはその上で暮らしてきたんだよ」ってことを。だから神の声ですよね、津波っていうのはある意味でね。死んだ方には申し訳ないけれども。人間の仕事っていうと非常に冷めた言い方かもしれないけれども、役目を果たして死んでいったんだと思いますよ、それは遺族の感覚ではもちろんないけれども。福島というものがあったおかげで、結局世界の問題になっちゃったんですよね。日本も、三陸も。日本の現実が世界にバレちゃった。日本人というのは覆い隠してここまで来たわけですよ。こんな小さい国がね、どこにも攻められずに。
 海というものがあるとはいえ、イギリス見ればわかりますけど、海なんてあんなもの国境だなんて生易しいもんじゃないと思いますね。日本人は、いかに大きく見せるかっていうことに関してスーパー・テクニックがあった。日本には天皇がいて、その天皇がいかに大きい力を持ってるかとか、日本人が隅々までそういう能力を持っていて。物語として世界に向かうときに、数倍大きく見せてるはずなんですよ。それで世界の一番や二番にもなるわな、って話ですよ。それがバレたんじゃないでしょうか、世界中に。

それで昨年、3.11以降は2枚連続で去年出されていますね、『』と『』。

三上:あれはね、自分のなかでは説明できない、ある種の勘と言いますかね、ガガガッと。音楽って、漁師に喩えたりしますとね、魚ってプランクトンを食べてるわけですよね。プランクトンって海のなかに平等にあるんですよ。ところが潮の流れであるところにぶつかって、そこだけに溜まっちゃうんですよね。それで魚が集まってくる。音楽もそうだと思うね。音がぶつかっちゃってるっていうかね。四国のあの場所(高知の)、井上(賀雄)くんたちがやってるあの場所に世界中の音が集まってきちゃってるな、っていう感覚があったんだと思う、わたしのなかで。

四国の井上さんというのは?

三上:(『閂』と『門』の)リリース元の、小さいショップとライヴハウス(CHAOTIC NOISE)を兼ねたところなんだけども。なんかこう、あくまでも感覚なんですけれどもね、「ここに音が集まってきてるな」っていう感覚があったんですよ、わたしのなかで。じゃあタモですくっちゃえっていうか(笑)、いま捕らなきゃていう。だからあそこでコンスタントにするかどうかはわからない。ほんとに漁師の感覚で、いけるときにゴンゴンっていくっていう。その上でまた今月レコーディングですからね。だからほとんど半年の間で。

では、そこで2枚続けて出したっていうのは、とくに3.11と関係があったわけではない?

三上:とくに関係ないですね。3.11からの1年というのは早い者勝ちでやったわけですけれども。もしかしたら、3.11の関係があるとすれば、四国もね、高知も丸亀もものすごく地震にいじめられたところですからね。城がすごく地震に対応するようになってるでしょ、まあ城っていうのは元々そういうものだけど。やっぱり大地震がいっぱいあったとこでしょ。そういうのもあるのかもしれないね。

去年の秋でしたか、新世界で三上さんがライヴやられたときに、観に行ってとても感動したんですね。3.11直後の日本っていうのは、最初は音楽なんて不謹慎だって声もあったり、あるいはひとびとが落ち着きを取り戻して音楽が聞こえてきた頃には、「がんばろう日本」みたいなね、口当たりのいい言葉でもってまとめられてたりとかね、そういうなかで、三上さんのライヴでは「この世界は終わる」とか、いわゆるマスメディアで流れてる言葉とは正反対の言葉を歌われていて、逆に勇気付けられたっていうのがあるんです。みんなが「悲しいよね」とか「頑張ってほしいよね」とかそんなことを言ってるなかで、「この世は終わる」と歌うことはすごく勇気があることだというか......。

三上:それはだからその、厳密に言うならばね、こうやって何年も経つとね、三上は学生運動を挑発してああいう時代の華だったいう、そういう捉え方もあるかもしれないけれども、実際70年代の頃もわたしは実はそうだったんですよ。要するに岡林たちとの学生運動にしてもそうですけど「冗談じゃないよ」っていうね。それもあったんですよね、わたしのなかで。そんなことよりも、永山則夫、中卒でひとを殺した男のほうが俺は大事だっていうスタンスでしたからね。そういう意味じゃ慣れてると言おうか(笑)、それが俺のやり方なんだろうなと思ってると思うんですよね。
 わたしはお茶の間のヒューマニズムというのは大嫌いでしてね。その「かわいそうだ」とか「がんばろう」とかいうのはいちばん無責任だと思うんですよね。世界中のヒューマニズムが戦争を起こしているって言ってもいいぐらいなわけでね、それは寺山さんがよく言ってましたよね。理性が戦争を起こすんだ、感情なんかじゃケンカは起こらない。ああいう世のなかのひとが同じ方向を見てるときってね、こう胸くそが悪いんですよね。

やはり意識されて歌ってたんですね。

三上:もちろんです。

......そっか、それは素晴らしいですね。

三上:そういうことをしていかないとね、気がついたら何も残ってないんですよ。やっぱりね、「冗談じゃねえよ」っていう。「ボランティアなんかやる暇あったら自分で仕事したらどうなんだ」っていうのがいまだに自分のスタンスですし。それとまったく同じように、三陸の漁師たちはね「俺たちといっしょに悲しもうとなんて思うなよ、てめえらはてめえらの仕事をすることが俺たちを元気にするんだから」って言ってて、ものすごくよくわかりますよ。
 要するにね、「かわいそうだな、がんばれよ」っていうひとはね、どこからも突っ込まれないわけじゃないですか。世界的なレヴェルで良いことになってるわけですから(笑)、人助けっていうのは。ところがね、「いちどでもそう言われたひとの身になって考えたことがありますか?」っていうね。「がんばれよ、大変だな」って言われることほどつらいことはないんですよ。自分が同情されるっていうね。それはプライドを拒否することでしょ、そのひとの。わたしはメディアがやってることは、ぜんぜん筋が違うと思いますよ。

あのヒューマニズムは、ほんと胸糞悪いですからね。

三上:迷惑してる。ひとを馬鹿にしてる感じがする。そりゃあ「ざまあみろ」と言う必要はないですよ。ところがね、形だけじゃ何にも進みません。何にも進んでないわけじゃないですか。つまりボランティアをやってるってことで少しずつ動いてるっていう社会的な風評があるだけで、ゴミひとつ取り除けてないわけでしょ。だからこの前総理官邸に三陸の小学生が5人ぐらい訪れて、ひとりがこう言ったそうですよ、「ほんとにやる気があるんですか?」、そういうことですよね。
 原発もそうですよ。わたしなんかも原発反対の運動もやってきましたけどね、それは何かおかしいんじゃないかって気がつくまでそれほど専門的な知識もないわけですし。いまごろになってね、雁首揃えたようにね、知識人たちやある種のひとたちが一生懸命署名してやりましょうっていうのはね、「じゃあいま働いてるやつはどうすんの?」とか、そういうことがまずないですよね。頭のなかに大きい流れっていうものがね。

ただ、いまこれを契機にして、三上さんの言葉を借りれば津波のおかげで、またいちど潰された市民運動がまた再生しようとしている機運も僕は感じているんです。

三上:それは絶対しないといけないですよ。こんなチャンス逃したらもうちょっとダメだと思うよ(笑)。

そういえば、永山則夫をテーマにした曲がファースト・アルバムに入っていますけど、三上さんは永山則夫のどこに共感するものがありましたか?

三上:まあ何て言うんでしょうかね、人を殺した男と同じ景色を見たっていうことでしょうな。

それはやはり津軽の。

三上:ええ、同じ環境にいたっていうね。

北の生まれっていう?

三上:ええ、もうすぐそばですし。彼の同級生とわたしが同級生だったり、そんなとこのやつか、っていうところじゃないですかね。だからね、市民運動でいまやらなきゃいけないことはね、「市民とは何か」なんだよ。
 日本のなかの市民意識っていうのはね、俺さっき言ったけれども百姓根性とかね、奴隷根性っていうもののね、それの反対ですよ。だからまだ市民になってないんですよね。市民っていう概念がまず日本にはないですよ。何となく、「いまやっとこう」なんだろうな、ってことになっているわけで。
 国民なんていうのは天皇しか使えないじゃないですか(笑)、大きい意味で言うならね。だから市民運度のトップに立った菅直人ってやつが何もできなかったわけですからね。考え直すべきですよね。政治にもプロがあっていいんじゃないかって。そして市民っていう概念は日本人の場合どうなんだっていうね。キリスト教の文化だったら神と自分ってことでわりと簡単に決められるでしょ。日本の場合は天皇と自分ってことで日本人の市民って概念を作っていくのか、「それもあんまりパッとしねえな」、とかね。いったいこれから日本人は市民とか個人とかいうものをね、どうやって確認しあうのか。もちろんわたしはうっすら感じてますよ、やっとできつつあるなっていうのはありますけれども、やっぱりそれは、そういう市民像っていうのがしっかりあって、「日本人にとって市民とは何か」って誰か作ってほしいぐらいだけれどもね(笑)、それではじめて運動になったり、改革になったりすると思うんですよ。まだ選挙民でしかないですから(笑)。

取材:野田 努(2012年3月09日)

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