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Home >  Interviews > interview with Kan Mikami - もうひとりの、“日本のパンク”のゴッドファーザー

interview with Kan Mikami

interview with Kan Mikami

もうひとりの、“日本のパンク”のゴッドファーザー

――三上寛、超ロング・インタヴュー

野田 努    撮影:小原泰広  thanks to Hitoshi Nanbu   Mar 09,2012 UP

田舎にはね、死があるんですよね。ひとの死があるんですよ。近代化っていうのは死から遠ざかることだって言ったひとがいますけれども、死人からつき離れていく状態ですよね。田舎イコール死人ですよ。父が死に、母が死に、兄弟が死に、っていうね。

ある種の虚無であったりとか、うまくいかなさ。たとえば寺山修司さんはね、ニヒリズムってことをよく言ってますけれども、そういうニヒリズムみたいなものっていうのは、三上さんのなかで意識されてるんですか?

三上:それはあります。いや、わたしはニヒリズムありますよ。スイスのジュネーヴにね、わたしはライヴでそこに寄るんですけれどもね。そこの連中がネットで配信するわけですよ。わたしの音楽はね、彼らにとってはね、究極のニヒリズムなんですよ。ジュネーヴとかね、いろんな人間見てるでしょ? いろんな人種がいて。でね、説明を見ますとね、「究極のニヒリズム」だって。

ああ、書かれるんですね。

三上:それは実際わたしの出発はそこなんですよね。それはね、本に書いたんじゃないかと思いますけどね、15歳のときに父親が死んだんですよね。そのときちょうどいまごろ、雪が降っていて。15歳ですよ。父親が死んだ、って聞いて、死んだんだなあって。病院の外行ったら雪が降ってて、何も変わってなかったんですよね、世界は。わたしにとって父親が死ぬってことは全部の崩壊ですよ、価値観から何から。死ぬと思ってなかったですから。それはね、まさに恐ろしいまでの虚無感ですよね。ニヒリズムですよね。
 ただわたしはニヒリストではないかもしれないけれど、わりとその虚無からはじまってますよ。わたしの音楽的な出発点はまずそこで、それはトラウマじゃないけどそういう風にまず感じてしまったから。それを超える思想にも哲学にも会ってますね。それを受け入れながらいきてますよ、いまはもちろんね。うん。
 だから「もっとも行動的なやつはもっともニヒリストだ」って言葉があるんだよね。これはまさにそのとおりだよね。何か欲があったらね、行動って限定されますよ。ニヒリストっていうのは行動が無限ですよね。変な話はじめからやる気ねえんだから。

ハハハハ!

三上:変なことになっちゃったけど(笑)。だからいつでもね、やる気ができると言おうか、さっきの話じゃないけど、「何か落ち込まないなあ」っていう。それは最初から落ち込んでるのかもしれない(笑)。
 だからニヒリズムってね、もうちょっと馬鹿らしいですよね、ある意味ではね。いまの子たちはね、あれですよね、答え探しですよね。世界中のあらゆる情報があるのに、自分ひとりのたったひとつの言葉を探せないで悪戦苦闘しているんだと思いますよ。要するにね、思い込めない世代ですよね。たとえば僕らは何もなかったから、答がなかったらてめえで勝手に答を作って思い込むんですよね。そういう処理の仕方ができたんですよね。ほとんど思い込みでオーケーだったわけですよね。ところがいまは情報でその思い込みが、自分の思い込みとまったく違うっていう裏がちゃんと出てきたりする。これも違う、あれも違う、だけど答は探しているからあるんでしょうね。疑問と答っていうのは、脳のなかでは同じらしいじゃないですか。ぽーんといっしょにはじまって真んなかで繋がるっていう。だから物凄く複雑で、さっきのデジタルの話みたいに、狼煙なんていちばん単純な伝達方法なんだけれども。だから選択する、チョイスするっていう新しい革命っていうか、頭のなかで。だから何でしょう、誤訳・誤読・思い込み、そういうもので伝達したほうがまだわかりやすいって気がしますけどねえ。でもそれが作れない。もっとも核になる言葉が作れないっていうか。だからインスピレーションがなくなるんですよね、情報があるから。考え込んじゃうんですよねえ。だからインスピレーションって非常にわがままなものでしょ? 

いまはみんな何が怖いかって言うと、貧乏が怖いんじゃないのかなって思うんですよね。

三上:わたしなんかはね、まあ極貧だったからね。貧乏って言ったらね、いまの若い世代について言うならばね、消費社会のなかで育ってるわけでしょ。ものを買わなきゃいけないっていう半分強迫観念っていうか。ものを買うっていうことで自分を作ってきたわけじゃないですか。わたしはね、むしろ「いつか反乱を起こせ」って言ってるんですよね。

ああ......UKの去年の暴動がまさにそうですよね。

三上:そうですそうです。みんなね、欲しくて買ってんじゃないんだよな。あれは自分の呼吸と同じように、ものを買うっていうことで自分の暮らしが成り立ってる。だから金が欲しいんでも、貧乏が怖いんでもないんだと思うんですよ。そういう風に改造されちゃってる。完全にダメにされてる。ロボコップじゃないけど(笑)。「買いなさい」っていう。

でもそれがいま行き着くところまでいって、消費社会の暴走した結果が、たとえばUKの暴動なわけですよね。

三上:そうだね。俺はだけど、人類は突然変異っていうのが出てくる可能性があるからね。まったく違う観念っていうか。それで人類がここまで来てるわけだけれども。だから期待しているって言うとちょっと何だけれども、やっぱり180度転回するような、ショックなことがあるかもしれない。
 まだ震災から1年も経ってないんであれだけど、これがじわじわと来れば。いま、「結婚なんてどうでもいいや」っていう若いひとたちが、結婚しはじめたりしてるじゃない。ああいうものを見ちゃうと、「何だろうなこれは?」と思いますよね。だから「ものを買うだけじゃない」「何か変だ」ってことをみんな目の当たりにしたでしょう。多少意識は変わるんじゃないかなと思うけどね、うん。
 だからあの、きっとこの意識の変化っていうのは確実に起こってるはずなんだけれども、まだ世のなかにそういう意識が変革するよっていうことがね、現れていないのはね、いままでのように「せーの」の意識革命じゃなくて、まったく違う個人的な革命が同時に起きてるっていうわけで。全世界的に。だからマスでは捉えられないと思ってる。マスメディアは。そういう意識が変革されているのに、大きく変わっていないっていうのは捉えられないですよ。だってひとりずつインタヴューしなけりゃいけないわけじゃん。そういう風になったら。実際はそれぐらい意識は変わってると思うんですよ。ひとりずつ変わってるから。だからますますマスっていうのは気づかなくなっていくというか。

そういう意味で、原発の話にもいかがわしさもあるんですよね。

三上:だからあれがなければ、マスメディアはものすごく非難されてましたよね。こういう津波とか災害みたいなものを、これだけ無視してきたある種の精神構造にいろいろ問題があるんじゃないかとか。ほんとはある種の哲学的な議論っていうのができるはずなのに、原発一個のことを言ってれば、ジャーナリストは仕事してるっていう気分になってるから。まったく進んでないですよ、逆に。
 つまり、人間の若い子たちの「ものを買う」っていうところから少しずつ目覚めて、世界同時に個々のなかでものすごく意識が変わってきているんじゃないかと。それをマスメディアを捉えることはできないだろうってことで話をしてたんだけども。結局そのひとりずつ聞かなきゃいけないわけじゃないですか、要するに「せーの」の革命じゃないでしょ。災害に対する意識って物凄く意識が違うわけですよ。見るひとによって。確実に若いひとたちのなかで結婚するであるとか、意識の変化が起こっているのは事実なんだけれども、それが大きいムーヴメントとして、世のなかに出てくることはないけれども、しかし、変わっているだろうという。でもマスメディアはそれを捉えきれないから、原発をとりあえず取り上げておくとテレビにはニュース流せるなと、いうことじゃないかという話をいましてたんですけど。でも確実に意識変わってますよ、確実に。

なるほど。

三上:ただね、さらにね面白いのがね、意外にこれでも変わらないっていうのが、この日本の極東の小島のね、いちばんすごいテクなんじゃないかっていうね(笑)。

テク(笑)?

三上:テクですよ、これは! 津波もあと5年したら忘れるだろうなみたいなね(笑)。

なんでしょう、ある種の無常観、これは三上さんの音楽のなかにあると思いますか?

三上:無常観はないですね。それはね、無常の反対の言葉何て言うか知らないけれどもね、無常って「常が無い」でしょう? わたしは常はあるっていう考え方なんですよ。いまここでこうしているじゃない。またいつかこうなるだろうな、永遠にこうだろうなっていう。わたしが死んでもまた生まれ変わってきて、またこうやってコーヒー飲んでるだろうな、とか。それは無常じゃないですよね、わたしの場合は。常常ですかね(笑)。

常常(笑)。それはどういうところからなんでしょうかね?

三上:どうだろう、仏教的なものかわからないですけれども。子どもの頃からわたしは何となくそういうことを考えるやつでしたね。子どものころはそこそこ普通だったけれども、まあ性格っていうのはあるからね、考え方だったりね。どうなんでしょう、どっちかって言うと楽天的なんですかね。性格で言うなら。

「落ち込まれたことがない」って言っていたように(笑)。

三上:究極の落ち込みを経験してるからね、それは恐ろしい世界でしたよ。

そこでやめなかったっていうのは? 

三上:そこでやめるひとはもちろんいるし、ほかのやり方に向かうひともいるけれども。どん底までいちど落ちないと......何て言うんでしょうかね、いちど負けなきゃね、相手の奥の手がわかんないんですよね。わたし自身にも敵がいますよね、自分の歌をやめさせようとする力。それは70年代にじゅうぶん感じてきましたからね。そのときにやっぱり若いながらも直観力で、ギリギリわざと負けるしかないって。何が俺の歌を潰そうとしてるのか、っていうのは身体で何となくわかってますよ、いまは。それはもう寸前に見たっていう瞬間はありますから。

生きるか死ぬかみたいな。

三上:そりゃそうですよ。負けた瞬間に相手の顔を見てるわけですから。奥の手を使ったみたいな。そういう部分はありますよね、命がけと言いますかね。

取材:野田 努(2012年3月09日)

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