Home > Interviews > interview with Kan Mikami - もうひとりの、“日本のパンク”のゴッドファーザー
わたしはね、人間のなかにある語彙っていうものはね、同じだと思ってるんですよ。大学の先生が多いっていうわけではなく、たとえばうちのじいちゃんなんて無学なひとだったですけれども、それでも何万という言葉を持ってるわけですよね。魚の動きから、風の流れ。それはわたしがわからないだけで。
■なるほど。だいぶ時間も経ってますが、まだ訊きたいことがありまして(笑)。90年代以降は吉沢元治さんや石塚俊明さんなどとのコラボレーション、とくに灰野敬二さんとのバサラ(Vajra)とか、いろんなインプロヴァイザーと共演されてますね。
三上:灰野からはいろいろと学びましたしね、もちろん吉沢さんからも。勉強って言っちゃあれだけれども、やっぱり自分のいないところでやってるひとたちっていうのからはね。だってえ灰野なんかは、(ライヴの最中、歌が)全然聴こえてないわけです、爆音すぎて。それでもね、一緒に歌って、演奏できる、何か伝わるっていうことが、さっきの話じゃないけれども、驚きというか、音楽っていうのはこういう力があるんだなと思ったり、「耳ってすげーな」と思ったりね。最近では、そのことをさらに教えてくれたのはね、古澤良治郎さんだよねー。まったくわたしが歌っている音楽と違う解釈で叩いて、わたしの歌を変えちゃうわけですからね。
■ドラミングで変えてしまう。
三上:変えてしまう。最初に驚いたのはね、高校の先生に呼ばれて高校生の前で歌ったことがあるのね。そしたらわたしの歌が彼らには難解っちゅうか、言葉が。それを古澤さんのドラムで翻訳してみせたんだから。だからね、そのときはね、「音ってなんだろう?」ですよね(笑)。
■なるほど、伝わってしまう。
三上:だからコラボレーションはそうですよ、わたしは。そういうのに限らずね、いまの若いひとたちとやるのもそうだし。「この子たちって何だろう」っていうね。テクニックや年齢は関係ないですよ。だって同じステージに立ってるってことはそこでタメですからね。どっちを聴いてるかっていうのは感じたりするし。これはもう、いつも驚きですよ。何気にやってることだけれども、スケベ心っていうか欲ですよね。物好きっていうと失礼だけども(笑)。やっぱり必ずもらうものがあるんですよね。まあわたしが与えたものもあるでしょうけれど。
■最後に、あともうひとつ訊きたかったことがありまして、三上さんにとって寺山修司さんからの影響とは、どういうものだったんでしょう?
三上:いちばん大きい影響ですか、それはやっぱり家を出たことですね。それは昔で言うなら出家ですよね。そこでカタギじゃなくなるわけですから。やくざものになるわけですからね。言うならば、素人じゃないわけですから。曲がりながらも家を捨てたっていうことは、自分の好きなように生きるってわけで。好きなようにって言うと格好いいですけど、まあ世間じゃなくなるってことですからね。家にいて世間じゃないっていう。だからわたしを取り出してくれたっていうか。頭剃ってくれたようなもんですわな。
■ははははは(笑)。なるほど。
三上:やっぱりね、大きいことをやっていけばいいと思うんですよね、若いひとたちが。プロとしてのシニカルってあるんだよね。素人とは違って。わたしが世界に行ってわかったのは、要するに「世界には二種類しかいない」ってことで、カタギかやくざか、プロかアマチアか、ふたつしかない。だから若いひとたちがいま置かれているなかに、情報だけじゃなくてある種のやる気、一歩踏み出す感じをい持ってほしい。我々のときはそういうものがありましたからね。「一歩前へ」とか「やっちゃえ」とかね。身体が動いちゃう感じっていうかですね。いまそういう文化がなくなってるよね。みんな同じで、そこがちょっと足りないところじゃないですか。
■一線を踏み越えられなくなってるってことですか?
三上:そういうことでしょうね。そしてまず一線を踏み越えるという感覚がまずないですよね。ただね、要するに権力そのものもいま(一線を踏み越えることが)できてないでしょ。意味わかりますか(笑)。権力そのものも同じ飽和状態なんですよ。だから、要するに反権力ってものもないんですよ、若いひとにとっては。同じなんですよ、情報社会のなかで。「あいつらは違う」って感覚ていうのがないんだよ。
要するにあれでしょ、昔は孤立・孤独っていうのは自分は選んだもんだからね、そこにこそ自由があったんですよ。進んで孤立したわけでしょ。俺なんかは先頭きって孤立してたし、俺は自由だったわけですよ、ある意味では。そういうセンスはいまないかもしれないですね。それは何て言うのかねえ、孤立が怖いっていうのとか、ひとりぼっちになるのが怖いっていうのと違うと思うんだよね。
要するにね、わたしはですよ、なんで若いひとたちに興味持ってるかっていうとね、やっぱり俺たちよりレヴェルが上だと絶えず思っているわけ。これはほめ言葉でも何でもなくね。後から生まれてきたやつはやばい、といつもわたしは思ってるわけね。というのはこの一瞬でわたしの人生が終わっても、そいつらはその先を経験してるわけじゃないですか。それはおそらくその先と繋がってるわけですよね。ていうことは、俺が見たことのない世界を見る能力が備わってるってことでしょ? それはすごいと思ってますね。
そうすると、いまのように喋っている孤立・孤独ってものに対する防衛、あるいは利用の仕方っていうのは、我々のときの孤独感や孤立感というものと比べることはできないと思うんです。別の能力で通じ合ってるんじゃないかなと思うな。たとえば若いひとたちが仲がいいって言っても、話聞いてるとそれともちょっと違うんだね。だから40年前の感覚とは違うあり方っていうんでしょうか、人間関係なんじゃないかなあ、きっと。うん。それはまさにその場の連中じゃないと確認できないことだと思います。
■でも三上さんの歌には、それこそさっきの17歳とお父さんの話じゃないですけれど、若いひとたちにも強くアプローチできるものがあると信じてますけどね。それでは、いま録音されてるアルバムについて、がんがんプロモーションしてください(笑)。
三上:ありがとう(笑)。わたしは韓国のキム・ドゥスとすごく友人になって。たまたま去年遊びで「ちょっと行ってみようかな」ってなって。韓国のフォーク・ソングの親分みたいなやつだけどね。やっぱりあの、行ったら行ったで、「どうせ来たんなら歌っていけよ」ってことになって(笑)。楽器持って行ってなかったんですけれども、ギターを用意してくれて。で打ち上げかなんかでみんなでガンガン飲んで、朝起きて、フラーっとしてたらね、さっきの津波じゃないけどインスピレーションが沸いてきてですね。古い古い農家からね、いかにも死にそうな真っ白い大きな犬が出てきたんですね。で、犬はその何十年前にも捨てられたガチョウの小屋を守ってるんですよ。ガチョウも逃げちゃったわけ。でもそのガチョウを守ってるんだよね。「これはちょっと、歌だよなあ」っていう(笑)。それが、今度も来ちゃったんですよね(笑)。そういう韓国でのこともあって......まだ全然固まってませんけどね。
■リリース予定とかは?
三上:まだないけど、秋頃になりますかねえ。
■じゃあ、目先のことで言うと、3月20日の62歳を迎える、生誕記念ライヴ(@西麻布「新世界」)ですね。
三上:そのための話だった(笑)!
私は黙って下を向いたままで
彼らの話を聞かないように
下を向く
"冬の午後"(2010)
三上寛 生誕記念 スペシャルワンマンLIVE
『まだ解らないのか!』
今回の生誕記念ライヴはサプライズとして、三上寛をリスペクトすべくDJ 2741も駆けつけて来てくれる!"ふなよい"っていうだけに、あのお方が? リキッドルーム以来の顔合わせ、万感胸に迫る!
●日時:
3月20 日(火・祝日)
開場18時30分 / 開演19時30分
●出演:
LIVE:三上寛 (Vocal & Guitar)
DJ:DJ 2741
●会場:西麻布「新世界」http://shinsekai9.jp/
●料金:
前売予約:¥2,700(ドリンク別) / 当日券: ¥3,000(ドリンク別)
※〔インフォ・チケット予約・お問い合わせ先〕
西麻布「新世界」
http://shinsekai9.jp/2012/03/20/mikami/
http://shinsekai9.jp/
TEL: 03-5772-6767 (15:00~19:00 )
東京都港区西麻布1-8-4 三保谷硝子 B1F
以下に紹介するのは、三上寛の膨大な作品のなかのほんのいち部である。これから聴いてみたいという人のガイドになれば幸いである。1990年代以降の大量リリースに関して筆者なりに言えば、『閂 』や『弥吉』も捨てがたいが、まずは『-1(minus 1)』と『門』、そしてバサラの『Live 』をとくにお薦めしたい。また、挙げてはいないが、手頃なベスト盤としては、『寛 Best Selection (1975~1976) 』(1992)がこのアウトサイダーの70年代の軌跡を知りたい方には便利である。
三上寛の世界
Nippon Columbia (1971)
デビュー・アルバムで、音楽的にはまだフォークからの影響を多分に引きずっている。「星を見ると悲しくなるから/小便だらけの湖にあなたと二人でとびこんで」「なんでもいいからぶち壊せ」、これをパンク・ソングと言わずして何と言おう。永山則夫歌った"ピストル魔の少年"も収録。
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怨歌集:ひらく夢などあるじゃなし
URC (1972)
もっとも有名な初期のアルバム。"ひびけ電気釜!!""あなたもスターになれる""夢は夜ひらく""パンティストッキングのような空""昭和の大飢饉予告編"など代表曲が収録されている。必聴盤。
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Bang!
URC (1974)
名盤として知られる1枚。山下洋輔や坂田明、古澤良治郎らによる躍動感溢れるジャズと三上寛の言葉のアクロバティックな出会い。友部正人も参加。ミュージック・コンクレートとフリー・ジャズによる圧倒的なタイトル曲の"Bang! "は必聴。 |
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負ける時もあるだろう Bellwood Records (1978)
バブル期へと突入、1980年代を控え、1960年代的な空気がいっそうされていく気配を見事に嗅ぎ取る。アルバムのいたるところには死が待っている。そしてクローザー・トラックの"負ける時もあるだろう"には素晴らしいクライマックスが待っている。 |
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三上寛,吉沢元治, 灰野敬二 / 平成元年Live! 上/下 P.S.F. Records (1990)
この20年の三上寛の活動において、吉沢元治と灰野敬二との共演は強烈な閃光である。"Bang! ""なんてひどい唄なんだ""きちがい""サマータイム"といった過去の曲は、新たな演奏とともに混沌の闇のなかに蘇る。 |
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古澤良治郎+三上寛 / デレキ ゆうげい出版 (2007)
1945年生まれのジャズ・ドラマーとのコラボレーション。歌と語りの境界線をゆらめくような三上寛の音楽、もしくはそのアンチ・ロマンのなかの自由をさらに拡張する。古澤良治郎のドラミングの、なんと軽快なことか。 |
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Vajra / Live P.S.F. Records (2008)
竜巻のようなノイズと言葉の、強力なライヴ盤。1995年『東日流』から1998年の『声聞 』まで4枚のアルバムを発表、そして2002年の『Mandalaキ・『やっと』』の次にリリースされた石塚俊明(頭脳警察として知られる)と灰野敬二とのバサラ名義の最新作。 |
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-1(minus 1) P.S.F. Records (2009)
曲名は"#501 "~"#506"、計6曲。間合いの効いたギター、言葉は音となってさらに反響する。誰も三上寛のように弾けないし、歌えない。「丘の上で滑った/滑ったそして転んだ/それを見ていた乞食に笑われた/村人が集まり/唄が始まり/喧嘩が始まる」......"#505"は涙を誘う名曲のひとつである。 |
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閂 [Sun] Chaotic Noise Recordings (2011)
2010年のアルバム『弥吉 』の収録曲、"ぞうきんをしぼる理由""古谷くんとふくろう""とんかつ日和"......などを中心に構成されたライヴ盤だが、これを聴くと三上寛がいまもなお前進を続けている歌手であるということがよくわかる。最後で歌われる"負ける時もあるだろう"は発表から30年を経てさらに凄みを増している。 |
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門[Mon] Chaotic Noise Recordings (2011)
現時点での最新オリジナル盤。"台風十五号 二千十一年九月二十日""KOSHI空港""ボーンボーン"など......すべての曲(ギターも歌も言葉も)が胸を貫くが、『負ける時もあるだろう』をアップデートさせたような、破滅の予感に満ちた"アンコ椿外伝"はとくに圧巻。高知の〈Chaotic Noise〉からのリリース。 |
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『三上寛 怨歌(フォーク)に生きる』 彩流社 (2000)
津軽の漁村~板前見習い~フォーク歌手という三上寛は、バイオグラフィーそのものが魅力的で、大ざっぱな自伝として本著をお薦めする。その半生はもちろんん、彼の音楽に関する思想に関しても詳しく記されている。 |
取材:野田 努(2012年3月09日)