Home > Interviews > interview with Ital - ハウス、大いなるサイケデリック・フロンティア
彼女と「電子音を作りたいね」という気持ちになって、ミニマル・テクノをドラムマシン/キーボード/MIDIなしでどうやって作るかとか、必要最小限の音から組み立てていこうとしていたんだけど、それが楽しかったんだよね。
■「ザ・レイバー・オブ・ラヴ」というタイトルに込められた意味は何でしょう? ポルノ文化へのあなたの関心の高さを示すものなのでしょうか?
アイタル:それにはたぶん2面性、いや3面性があって。タイトルになっている「愛の奴隷」って意味は地位とかお金のためじゃなく愛のためにならすごく努力して何かをするってことっていうのはわかると思うんだけど、そういう意味で言うと、人生や音楽って大きな次元では「愛の奴隷」なんじゃないかな。自分や世界を理解するための旅とかそういう感じ、っていったら良いのかな。
でもいっぽうで「愛」って骨が折れるし、破滅的だったり、重かったりする面がある。ちょうど自分の精神を壊すほどの関係を切ったばかりなんだけど、その人へ向かっていた愛と、それを愛そうとしていた葛藤にぶち当たってしまった。
最後に、もちろん売春についての意味ももつよね。金銭と引き換えにもっとも親しげな筋書きが展開されるある意味「劇場」のようでいて、時に危険を伴う仕事であるし。
■セックス・ワーカーとして実験的なサウンドを手がけていたあなたがダンス・ミュージックにはどのような経緯でアプローチしたのですか?
アイタル:そういうプロセスじゃない気がするんだよね。インスピレーションにそって音を作っているだけだし。アイタルの音はあまりにもぶっ飛んでて踊れないとか、ブラック・アイズの音は実験的だったのに、アイタルは実験的な要素が薄いとかぼやく人もいたけど。すべての曲、すべてのレコード、すべてのライヴは旅みたいなものであって、自分はどっかに連れてってくれる音楽に身を任せるだけ。ときどきそれはポップになり、ときどきそれはノイジーであり。でもそれがリアルであり続ける限りどんなスタイルでも良いと思う。
■LAヴァンパイアズとの共作「ストリートワイズ」はどのようにおこなわれたんですか?
アイタル:アマンダは一緒にコラボレーションしたがってたんだ。彼女は使って欲しいと思うループを送ってくれて。それを使った曲を作って、彼女に送り返した。それから彼女がヴォーカルを乗せてって流れで。すぐにでき上がったよ。はい、でき上がりって感じで。
■『ハイヴ・マインド(Hive Mind)』の最初の"Doesn't Matter"ではレディ・ガガの"ボーン・ディス・ウェイ"を使ってましたね。曲の最後にはガガの声が壊れた機械のなかで消えていくようなユニークな展開で、コズミック・ディスコのパンク・ヴァージョンのように思いましたよ。
アイタル:そのとおりだと思う!
■スーサイドからの影響について話してください。
アイタル:そうだね、もちろんその辺のレコードは傑作だし、すごいよね。とくにスーサイドが放つあの特有の恐怖感とか切迫した雰囲気やセンスに何か反応してしまうっていうか。ひりっとする痛みと、どっか覚めながら尖った感じって、前はよくわからなかったんだけど、いまは本当に素晴らしくてリアルだと感じるようになった。
■また、"Israel"のミキシングを聴いていると、ケニー・ディクソン・ジュニアとセオ・パリッシュからの影響を感じるんですけど。
アイタル:実際彼らのことは大好きなんだけど、あのトラックを作るにあたってはセオ・パリッシュと中期のリカルド・ヴィラロボス(とくに「Acho EP」)がインスピレーションになった。とくにひとつひとつの音を正確に、ちょっと奇妙で、身体的な表現って感じにする方法を編み出すこととか。自分がここ6~7年ずっと囚われていることで、よりリアルな情景をどう体感させるか、熱帯をどう表現するかとかさ。"Israel"はまさにそれだね。
でも、はっきり言っておくと、オマーエスとかセオ・パリッシとかムーディーマンとか誰であっても、スタイルをコピーすることには100%興味が無い。デトロイト・テクノとハウスはこの世のなかで自分の好きな音楽だけど、どっちかというともっとその音楽と音楽で対話したいっていうか。何か鍵になるアイディアをきっかけにして、デトロイトからのセンスを感じる音を自分で作るっていう感じでさ。
取材:野田 努(2012年7月11日)