Home > Interviews > interview with Deft & JJ Mumbles - UKベース、前進する音楽の力(フォース)
ポスト・ダブステップ、ジューク、フットワーク、トラップ、フューチャー・ベース......と新たなスタイルが誕生し続けているダブステップ以降のクラブ・ミュージックにおいて、目下、従来のベース・ミュージック・ファン以外も巻き込んで、とりわけレフトフィールドなハウス/テクノのDJやリスナーからも一際注目を集める"UKベース"ムーブメント。それはUK発の例にもれずまたもや明確な定義が難しいハイブリッドなクラブ・ミュージックだが、"UKベース"の面白さはレゲエ由来の低音の太さやスモーキーなムードにとどまらず、むしろハウス、テクノ、エレクトロニカ、ヒップホップ、ダブ、UKソウルetc.の、様々なエッセンスを「ベース」というキーワードのもと自由に組み替えた音楽性の豊かさと、イーブン・キックのDJセットとも親和しやすい楽曲が多い点にあるのだと思う。
また、UKにおけるダブステップのハウス・シフト傾向とも相まって、既存の各ジャンルからは少しずつはみ出したような、味わい甲斐のあるダンス・ミュージックが"UKベース"の名の下に次々と生み出されている。その事実に、遊び心に満ちたDJやレコード・バイヤーたちがいち早く反応を示しているというわけだ。この現象はかつてUKファンキー、ブロークン・ビーツ等々で見られた、隙間の音楽を愉しむ数寄心の再燃だとも言えるが、一方で「ダブ」を合言葉にディスコもサイケもハード・ロックも料理した"ディスコ・ダブ"が、ダンスフロア/レコードショップの勢力図を塗り替えた時のようなダイナミズムもまた感じられる。そうするとこの春、どうしても連想するのがドメスティック・ミックスCD三部作"Crustal Movement"におけるムードマンの『SF』である。勿論『SF』が"UKベース"だとは軽はずみには言わないし、その『SF』こそ、それが一体何なのかを容易には定義できない音楽なのであるが......。
そんな折にロンドンから"UKベース"の寵児デフト(Deft)───かの「未来的すぎるセット」でDJシャドウもピックした新鋭アーティストと、彼を擁するレーベル〈WotNot Music〉を主宰するJJ・マンブルズ(JJ Mumbles)が来日した。彼らを招聘したのは〈ライフ・フォース〉。長期にわたるUKでの生活から90年代初頭に日本に帰国したミュージシャン、プロデューサーのMassa氏と、後に〈DOMMUNE〉、名古屋〈MAGO〉、静岡〈CLUB four〉、岡山〈YEBISU YA PRO〉などの音響設計で名を轟かすサウンド・デザイナーのAsada氏とでスタートし、いまではフェスの人気者ともなったニック・ザ・レコードを、20年前に日本へと紹介した老舗パーティである。
〈ライフ・フォース〉といえば、そのAsada氏によるサウンド・デザイン───原音忠実再生にしてパワフル、でありながらフロアで長く聴いても耳が疲れない、箱が震える音量なのに隣の人の声は聞こえる、といった画期的なクラブ・サウンド設計は〈DOMMUNE〉の前身〈Mixrooffice〉で広く知られることとなる───が大きな特長であり、長年に渡ってパーティを支えてきた心臓部である。
Asada氏自身も音響設計の視点から「最新のダンス・ミュージックにおける低音の構造がキックやパーカッション主体から『ベース』主体へとシフトしてきているのを感じていた」と話す。デフト、JJマンブルズ、"UKベース"、そうした新しい音楽的潮流は、Asada氏の音響実験精神をも刺激していたようだ。Asada氏は今回ふたりがプレイした渋谷〈seco〉ではウーファーを増量して低音を強調するだけではなく、ベースの輪郭と定位をいままで以上に感じられるような、新たな音響実験に取り組んでいた。それによりもたらされた極めて重く、しかもスピード感に優れたベースの鳴りは、ダンスフロアを未だ見ぬ角度で切り裂いていた。
それではデフトとJJ・マンブルズのインタヴューをお届けしよう。なぜ〈ライフ・フォース〉が新しく彼らをフィーチュアしたのか、といまだに首を傾げている向きも、その理由をさまざまに感じ取れると思う。取材は東日本有数の労働者街、東京・山谷でおこなわれた。
ロンドンのクラブ・シーンはお金中心で回っているというのが現状なんだよね。そんな状況もある中で、音楽自体が大切にされているパーティに関われているのは嬉しいことだよ。
■〈ライフ・フォース〉でプレイした感想はいかがでしたか?
デフト:すごく楽しかった! お客さんも楽しんでくれていたみたいだったし、ファンタスティックな経験だったよ。実はあの夜は、いつもとはちょっと違った感じでセットをはじめてみたんだ。というのは、日本に着いてから〈ライフ・フォース〉のクルーやその周りの人たちと一緒に音楽を聴いているときに、UKファンキーをすごく面白がってくれた人がいたんだ。だったら、パーティに来てくれたお客さんはどんな反応をするかな、と思ってUKファンキーからスタートしてみたら、実際うまく行って。その後テクノに移行してからの方がお客さんはもっと踊っていたかもしれないけど、全体的にとてもうまく行ったセットだったと思うよ。それと〈ライフ・フォース〉は映像・空間演出も素晴らしかったね。
■あの日、自分が会場で聞いた声によると、ふたりはやっぱり、ベースミュージックをずっと追いかけているリスナーやDJからの注目度がすごく高くて。そうしたお客さんと、〈ライフ・フォース〉のファンとが混じり合ってそういう反応になったのかもしれませんね。
JJ:比較的年齢層の高いお客さんが集まっていたのも印象的だったよ。ロンドンで僕らがDJしたりするパーティは20歳前後の若いお客さんが多いんだけど、渋谷SECOの〈ライフ・フォース〉にはいろんな年齢層のお客さんが集まっていたよね。しかもパーティに騒ぎに来てるというよりは、音楽に対して熱心なお客さんが多いと感じたよ。
■ふたりがプレイした〈ライフ・フォース〉というのはたしかにいろんな年齢層、いろんな音楽的嗜好のパーティ・ピープルから、非常に高い信頼を得ているパーティなんです。というのは、〈ライフ・フォース〉は約20年前にコマーシャルじゃないところでのレイヴをいち早く紹介したりだとか、また1990年代後半、テクノとニューヨークのハウスがメインストリームだった日本のダンスフロアに、サイケデリックなオルタナティヴ・ハウスを持ち込んだりだとか、要は常にリスナーが驚くような音楽体験を、高いクオリティで提示し続けてきたからなんです。で、その〈ライフ・フォース〉がいままた、新しい方向に舵を切ろうという段階で、そのメインアクトとしてあなたたちふたりを選んだという。そのことについて、何か思うところはありますか?
デフト:自分たちを選んでくれたことについては、もちろんすごく光栄に思っているよ。全く想像してなかったことだし、まだ全然ビッグネームではない自分たちを、新しいディレクションのメインDJとして選んでくれたことが本当に嬉しいんだ。最初に話したように、ロンドンのクラブ・シーンはお金中心で回っているというのが現状なんだよね。そんな状況もあるなかで、音楽自体が大切にされているパーティに関われているのは嬉しいことだよ。
■そもそも〈ライフ・フォース〉のクルーとはどういう出会いだったんですか?
JJ:実は昨年の夏に、ガールフレンドと一緒に日本に旅行に来てたんだ。DJとかじゃなくて、本当にただの旅行で。それで、ちょうど日本にいるときに〈ライフ・フォース〉のMassaからコンタクトがあったんだ。すぐにパーティがあるからDJしないかって(笑)。以前から彼が、サウンドクラウドで僕のミックス音源を聴いてくれていたみたいで。
Cossato(LifeForce):ちょうど去年秋の〈ライフ・フォース・アルフレスコ〉のDJを探していた頃に、候補に挙がっていたJJ Mumblesの活動をフェイスブックでチェックしたところ、「どうもこの人、いま日本にいるらしい」と(笑)。それでMassaさんがコンタクトを取って、で1ヵ月後にもう一度来日してもらって〈アルフレスコ〉でプレイしてもらったという。今度、6月14日と22日の〈ライフ・フォース〉に呼ぶアントン・ザップ(Anton Zap)と一緒にプレイする予定だったんですけどね。そのときはアントン・ザップはビザの都合で来られなかったですけど。
■その後、昨年12月に〈ライフ・フォース〉でJJがプレイしたときはベース・ミュージック主体、今回は四つ打ち主体と結構違うセットだった印象なんですけど、それは東京のクラウドや〈ライフ・フォース〉に合わせてきたところがあるんですか、それとも自身のなかでハウス・テクノ主体の音がホットだということなんですか。
JJ:実は12月は体調が悪くて、ジュークみたいな激しい曲をたくさんかけることで自分自身を鼓舞していたようなところがあって(笑)。今回はロシアのディープ・ハウスなんかを結構かけたんだけど、そのなかには〈ライフ・フォース〉のクルーから教えてもらった曲も多かったんだ。自分としてもその辺の音が好きだしね。自分の何となくの印象だけど、ジュークとかをかけたときよりも、今回の方が反応が良かったような気がしているよ。ツアーのアフターパーティ(インタヴューの3日後に渋谷kinobarで開催された)では、チルアウトしたUKビートをたくさんかけようと思っているんだ。
取材・文:メタル、 yasuda koichiro(WHY)(2013年6月03日)