Home > Interviews > interview with 快速東京 - スカッとさわやかパンク・ロック
オレらがバラードを作ることはないってことだけはわかっているんですけど。「やらない」ことははっきりしているんだけど、「やりたいこと」はわりとほんわかしていて。
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■リリースが予定よりも遅れたじゃない。それは何でだったの?
一ノ瀬:あれはね、googleのキャンペーン・ソングとかあったからだもんな。
哲丸:いろいろやってたから。
■キリンのCMもね。
一ノ瀬:ああいうのがあったり、いろいろあったから、レコーディングを遅らせてもいいかという話になったんです。
■哲丸君は昔から歌詞を書くのが早いと評判だけどさ。
哲丸:オレ、遅かった。今回は遅かった。
一ノ瀬:なんか、最後の最後まで、ごにょごにょやってたよな。
哲丸:書き方を変えたんですよ。みんなちょっと変えたように、オレもちょっと変えたいと思った。オレは楽器持ってないから、変えられるのは歌詞の書き方だけだって。
■歌い方も変わったよね。
哲丸:ホント?
一ノ瀬:メロディが出現しているんですよね。
■あと、歌い方がよりパンキッシュになった。
一ノ瀬:ほー。
哲丸:へー。
■それない?
一真:ジョニー・ロットン風味になった。
■ねえ?
一ノ瀬:それもねー、さも考えているようだけど、実は考えていないから。全然そんなことない。
哲丸:ハハハハ。
■でもオレは、今回のアルバムでアンガー(怒り)をより強く感じたんですよ。
一ノ瀬:そこはね、オレは哲丸も大人になったなと思ったところがあったんだけど、でも、ちょっと説教臭いんじゃない?
■えー、全然説教臭くないよ。むしろ、快速東京は、情緒とか、詩情とか、日本人が好きなウェットな感情をホントに取り入れないじゃない。
哲丸:入れないね。
■それを売りにしないというか、そこが素晴らしいと思うんだよ。
哲丸:娯楽だから。
一ノ瀬:その解釈はすごいね。たしかにそうかも! そういうものは全然オレらにはないですね。
■娯楽って言ってもね、ビジネスを考えれば、しんみりした音楽のほうが売れるわけだよ。
哲丸:そこを考えてないから。
■わかってて逆らっているのか、はなっからそれがないのか。
哲丸:はなっからないんだと思う。
■そうなんだ。
哲丸:音楽をやる理由がそこにない。
一ノ瀬:だけどね、意外とオジー・オズボーンやメタリカは詩情を出しているときもある。キッスにはないけどね。
■オジー・オズボーンはなんかわかる。
一ノ瀬:子供が生まれたときに優しい曲を書いているんですよ。けっこう、可愛いヤツなんですよ。
哲丸:生まれたらオレだって書くかもよ。
一ノ瀬:ブラック・サバスで最初あんなダークなアルバムを作ったのも、当時ゾンビ映画を作っていて、ただそれだけだっていうね。
■あの人たちは工場の町の労働者階級に生まれ育ったから、その環境に影響されたとも言ってるけどね。
哲丸:それはわかる。そこへいくとオレたちは、まあまあ幸せな家庭に育っているから、そんなヤツらが「生活が-」とか歌っても説得力ないじゃん。
■そうは言うけど、哲丸君の言葉には何か訴えるものがあると思うよ。今回も“ハラヘリ”とか“ダラダラ”とか“ムダ”とかさ、良い歌詞がいっぱいあって、さらに言葉の力も強まっていると思ったけど。
哲丸:お、“ハラヘリ”っていま言ったよ(笑)。
一ノ瀬:すげー、“ハラヘリ”に言及した(笑)。
■面白いよ、あれ。
哲丸:だよねー。ほらー、ハハハハ!
一ノ瀬:やっぱ虚無感みたいなもの(笑)?
■哲丸君がいちばん気に入っている歌詞はどれ?
哲丸:いや、別に、歌詞はぜんぶよく書けているでしょう。今回は、たくさん書いて、削って作っているの。このことは、原爆オナニーズのタイロウさんとの対談が関係しているんだけど、ま、それはいいとして、歌詞かぁ。
一ノ瀬:気に入ってる曲は何よ?
哲丸:オレは“ヤダ”とか好きだよ。
一ノ瀬:“ゴハン”がいいって言うのは?
哲丸:“ゴハン”は、曲における歌詞という意味では、いちばんハマったなと思ってる。僕のなかのパンクというぼんやりしたもののなかに、“ゴハン”という曲はばっちりハマった。書いて、「わー、パンクだ、これ」と思った。
■一ノ瀬君は?
哲丸:知らないだろ、歌詞なんて。
一ノ瀬:いや、こないだも久しぶりに聴いたけどさ。オレはやっぱ“メタルマン”がね。
哲丸:ハハハハ。
■“メタルマン”と“あくまくん”が好きなんだ。
一ノ瀬:ていうか、“メタルマン”はオレの曲で、オレが種を撒き、「お前ら触るなー」って育てているわけですけど。で、“メタルマン2”の歌詞を書いたとき、哲丸もやっとオレが言ってることがわかってきたなと思って。それは、歌詞の内容じゃなく、アクセントの置き方とか、そういうところで、他の曲は、オレが思っていたアクセントとは違っているところがいっぱいあるわけ。だけど、“メタルマン”は、アクセントが良い感じで入っている。
哲丸:一真はどれが好き?
一ノ瀬+哲丸:思い出して!
一真:……。
■ここに歌詞カードあるよ。
一真:……。
■もっとも哲丸らしいなと思うのはどれ?
一真:……。
■“ダラダラ”なんか哲丸節って感じじゃない?
一ノ瀬:これは説教臭さがないですよね。
哲丸:あれは時間がかかってない歌詞だね。
一ノ瀬:“アトム”なんかは哲丸にしては……。
哲丸:いや、あれはいろいろあんだよ。
■ポリティカルだしね。
哲丸:ハハハハ。
一ノ瀬:そういうことは出さないほうが、あんときは格好いいと思っていたんだけど……
一真:“ムダ”。
哲丸:“ムダ”。暗いよね、これ。
一ノ瀬:暗い。
哲丸:実はさ、これ、希望なんだけどね。
一ノ瀬:とにかく、哲丸の変化は感じてましたね。
哲丸:いいじゃん。
一ノ瀬:難しいことを言うようになったとは思いましたね。
一真:「じゃん」って言い方が哲丸らしいよね。
哲丸:ハハハハ!
一ノ瀬:腹立つよね。
■え、なんで(笑)?
一ノ瀬:うーん!
哲丸:ハハハハ!
一ノ瀬:まあ、歌詞はこいつの聖域だから、よほど迷っているときぐらいしか、オレらにも相談しないし、せいぜい「どっちが1番がいい」ぐらいだよね。
哲丸:そうそう。
■音楽的な主導権は一ノ瀬君なの?
一ノ瀬:いや、それは全員。
哲丸:「このあとどうしたら格好いいかな」とか、「キッスだったらこんなにドラムを細かくしないよ」とか。
一ノ瀬:意外とみんなで話しているんですよ。オレが主導権を握ったのは“メタルマン2”ぐらいで、あとはみんなで話し合ってやってますね。誰かが主導権握って、ひとりの頭で作れば、スタジオ代1/4で済みますよ。必ず、音を出して、確認するんですよ。オレがギターを弾いて、それをみんなで聴いて、そこからリズムを考えてって。時間がかかるんです。
哲丸:意外と建設的だよね。
一ノ瀬:全員が「いい」ってなると、「ヨシ!」ってね。
■しかし、今回は3作目だしさ、何か仕掛けてくるかなという期待もあったんだけどね。変化球とかさ。
哲丸:やらんね。
一ノ瀬:オレら、そんなにクレバーじゃなかったんでしょう。
■いや、賢さっていうか、バンドの信念みたいなものがあるのかな?
一ノ瀬:実は、信念もそんなないし……いや、オレらがバラードを作ることはないってことだけはわかっているんですけど。「やらない」ことははっきりしているんだけど、「やりたいこと」はわりとほんわかしていて。将司がおそいリズムを叩きたいと言ったのも意外だったし、あいつがキッスを聴き出したりとか。メタリカも遅い曲あるし。みんながステージに上がってやりたいことをやる、で、一真だけが一段上から見下ろしているっていうね。
哲丸:(一真が)いちばん冷静な判断をするからね。
■一真君もキッスやメタリカが好きなの?
一真:好きですけど……。
哲丸:ハハハハ。
■強制されたの?
一真:いやいや、そういうわけじゃないですけど。高校のときに聴いてたけど、最近は聴かないですね。
■だってさ、世代的にはおかしいでしょ。キッスはオレが小学校のときだったし、メタリカだって80年代からいるバンドだし。
一ノ瀬:メタリカやストーンズを好きなのって、僕らよりも下が多くて。
意外なんだけど。
取材:野田努(2014年1月30日)