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快速東京

快速東京

@代田橋FEVER

Nov 27, 2012

文:野田 努  
写真:小原泰広   Nov 29,2012 UP
E王

朝だ、灰色一色の朝がまたはじまるジェイク・バグ "ライトニング・ボルト"(2012)

僕はゾンビ 最低な気分
最低な世界に サヨナラできない
快速東京 "ゾンビ"(2012)

 ロックンロールは豪華紙ジャケット未発表曲入りのリマスター盤ではない。BOXセットやトリビュート盤ではない。楽器を上手に演奏して、当たり障りのない言葉を歌う音楽ではない。ロックンロールは人間じゃない。報道番組で「国防軍」という言葉が聞こえるようになってから数日後、世田谷の代田橋のライヴハウスでは、ロックンロールの散弾銃が発射されていた。僕は職業柄、ライヴの最中にメモを取ることが多いのだけれど、このときは、たったひと言「嘘つき」と書くのがせいいっぱいだった。快速東京というバンドに僕は完璧に撃ち抜かれた。そう、完璧に。

 快速東京の今年出したアルバム『ロックインジャパン』は、僕の今年のトップ10に入っている。きのこ帝国の『渦になる』とともに、2012年、もっとも夢を見ることのできる新世代のアルバムだ。『ロックインジャパン』の20分のなかに収録された16曲は、いわばRCサクセション+ブラック・サバス+バッド・ブレインズ+ラモーンズ(+初期のワイアー)、文字通りの「快速」な演奏に乗って、哲丸の激烈な言葉が飛び出す。「意味がなくたっていいよ/君がどうだっていいよ/明日がどうだっていいよ」「僕はゾンビ/最悪な気分/最低なアンタに/サヨナラできない」「なんか変だぜ/絶対になんか変だぜ」「ヒマだからお金を稼ごう/ヒマだからご飯をたべよう/ヒマだから息してる/ヒマだから戦争しよう」
 ブレイディみかこさんによれば、今年のUKにはパンク前夜を感じるそうだが、なるほど、快速東京を聴いているとその感覚をこの国でも理解できる。「ロックもパンクもめんどくさいぜ」と哲丸は歌う。「ロックンロールは人間じゃない/ロックンロールを説明するのもめんどくさいし」

 ミニマルでスピーディーで、グルーヴィーな演奏が間を開けることなく続く。フロアの最前列をだーっと女の子が陣取るのは、正しきロック・バンドの正しき風景である。哲丸(若い頃のイアン・ブラウンに似ている)は、ヤマツカ・アイと清志郎を足して二で割ったような、とんでもない動きをしながら、ジョン・ライドンのような形相で歌っている。哲丸とギターの一ノ瀬とのコンビネーションも素晴らしい。ベースとドラムは冷静さを失わずに、正確なリズムをキープする。最後の曲で、哲丸はフロアを走り、テーブルの上で歌った。熱狂する人たち、笑う人たち、そして冷ややかな視線を投げる人たちに客は分かれる。さくっとはじまって、さんざんわめいて、めいっぱい踊って、さくっと終わる。
 快速東京のライヴは『ロックインジャパン』の100倍良い。このバンドに課題があるとしたらそこだ。彼らのライヴ・パフォーマンスを録音物においても表現できたとき、時代は変わるだろう。
 めんどくさいし、この興奮状態のまま書いてしまおう。2011年の最大の発見がオウガ・ユー・アスホールだったとしたら、2012年は快速東京である......というのは嘘である。きのこ帝国もいる。噂のシャムキャッツのライヴもまだ見ていない。ceroも僕は良いと思った。ただ......もうひとつ思った。ジェイク・バグがUKに登場したようなことが、この国でも起きているのかもしれない。いい歳した連中が甘いR&Bのラヴ・ソングや誠実なシンガーソングライターに酔っているあいだ、子供たちは怒りを胸に、時代の荒野の向こう側からやって来たのである。

 追記:紙エレキングの次号では、快速東京のインタヴューが載ります。

文:野田 努