Home > Interviews > interview with 快速東京 - スカッとさわやかパンク・ロック
東京のリアルってハードコアだったんですよ。哲丸もやっぱそうだし。東京人はみんな聴いていたんだよな、ハードコア。
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■ずっと思っていたんですけど、快速東京のお客さんは本当に若いじゃない。若い人が多いよね。
一ノ瀬:オレらの世代は、せいぜいニルヴァーナとか。もうちょっとリアルタイム感があったんですよ。90年代の音楽だったりとか。でも、いまの子たちは、ネットのせいなのか、マジで時間がフラットなんですよ。2000年以前はぜんぶ一緒くたに考えているから。
哲丸:「昔の音楽」みたいな。音楽の時間軸がない。
一ノ瀬:アナログ・レコーディングもエフェクトのひとつぐらいにしか考えてないから、悪い音でも素直に聴けてしまっているんだよね。オレらよろ上になると、80年代以前は古くさくて聴けないみたい人もいるんだけど、(中尾)憲太郎さんとかそうだよ。うちのプロデューサーです。ナンバー・ガールのベースやっていた。「オレらのときは、ニルヴァーナより昔の音は古くさくて聴けなかったけどね」って言ってたよね。リアルタイム感があるんですよ。
哲丸:ロックにまだ時間軸があったときだよね。
一ノ瀬:いまではもう歴史になってるから。いまロックが生まれている実感がない。
■まあ、言い方変えれば、ブラック・サバスと競り合わなければならないわけだ。
一ノ瀬:そうそう。新しいものを目指すとロックから離れなければならないという、この矛盾を抱えながらやっている。最近メジャー・レーベルがやっているのは、みんな、裏打ちの速いリズムで、そこに日本人ぽいメロディが乗るっていう。それってでも、日本にしかないから、新しいんですよ、サビでハモっちゃたりして。
■ちょっとエモな感じ?
一ノ瀬:90年代のエモの影響は大きいですよ。でも、イギリスなんかは、アークティック・モンキーズみたいに、ちゃんとブルースの影響が残っているところが面白いなーと思いますね。
哲丸:日本にはロックがなかったからさ。
一ノ瀬:メロディがさ。
哲丸:歌謡曲みたいになっちゃうんですよ。
一ノ瀬:アメリカ人がロックやると、そうはならない。
哲丸:生活にロックがある感じがするんだよね。
一ノ瀬:生まれ育ったところのメロディが違うんだよね。
■みんな、同世代のなかでも浮いてたでしょ?
一ノ瀬:どこで?
■学校とかで。
一ノ瀬:多摩美時代には、テクノ好きばかりだったね。
■マジで?
一ノ瀬:ホント、そうすよ。オレの入ったときは、『トレインスポッティング』世代が多くて、みんな“ボーン・スリッピー”から入ったみたいな。
週末はアゲハに行くみたいな(笑)。そんなヤツばっかりで、オレなんかが「ギター弾いてるんだよね」って言うと、みんなピンと来ないっていうか。やっとテクノ・ブームが終わりつつあるよ。東京人からすると、東京のリアルってテクノじゃないんだよね。オレが高校のときは、みんなバンドだった。銀杏ボーイズも人気あったけど、東京のハードコア・バンドに詳しいヤツ、いっぱいいたもん。で、大学に入ったら、田舎もんがいっぱい来て、「東京はテクノだね」って。
■それ何年の話?
一ノ瀬:8年前ぐらい?
■『トレインスポッティング』って1996年の映画だよ、多摩美のその子らが時代錯誤だっただけでしょう。
一ノ瀬:そうそう、田舎もんなんですよ。
■“ボーン・スリッピー”なんてもうかなり昔だよ(※1995年)。テクノのDJ、いまさらそんなものかけないから。
一ノ瀬:だから音楽好きじゃないヤツらが、テクノとかって言いだして、アゲハ行ってって、そんな感じだったんですよ。
■それはダサ過ぎるよー。
一ノ瀬:ですよね。まあ、それはとにかく、東京のリアルってハードコアだったんですよ。哲丸もやっぱそうだし。東京人はみんな聴いていたんだよな、ハードコア。
■オレでさえSFPを聴いていたからね、2000年代の東京がハードコアだっていうのは理解できる。みんなはどんなハードコアを聴いていたの?
哲丸:僕はレス・ザン・TVですよ。僕は、どしゃーと社会的なことを歌うのは耳が痛いってなってしまうんですけど、レス・ザン・TVの面白さは、客がみんな爆笑しているんですよ。だからあの人たちがやっている音楽にはユーモアがある。だけど、「それがどんな音楽か」と訊かれれば、ハードコアとかパンクとしか答えようがない。その現象が、僕にはハードコアだと。
一ノ瀬:ポリティカルなヤツらって、ハードコアにいなかったよね。
哲丸:いなかった。
一ノ瀬:BREAKfASTの“VOTE!!”が出たときは、すごかった。革命を感じたね。そこを歌ってしまうんだ! って思った。
哲丸:あれはすごかった。面白かったもん。
■へー、ちょっと意外。でもさ、BREAKfAST聴いている子なんて、同世代で言ったらかなりの少数派でしょう。
一ノ瀬:そりゃそうですよ。
哲丸:みんな、くるりとかさ、ナンバー・ガールとか、アジカンとか。
一ノ瀬:ハイスタの残り香のあるようなのとか、そういうのはいたけど、オレがクラプトンのライヴに行くことを理解できる友だちはいなかったです。
哲丸:オレもひとりでレス・ザンのライヴに行っていたから。
一ノ瀬:そういえば、高校のときもメタリカ聴いてたヤツなんかいなかったなー。
■だから一ノ瀬君が高校生のときなんか、メタリカのピークは過ぎていたでしょ。
一ノ瀬:そうっすね。
哲丸:オレらの世代だと、まわりは、洋楽自体をもうあんま聴いてなかったもんな。
一ノ瀬:グリーンデイぐらいじゃない。オフ・スプリングとかね。
哲丸:ああ、そういうのはいたね。
一ノ瀬:そこを入口に深いほうに行くヤツはいたよ。
哲丸:オレのまわりにはいなかったな。
■いまの、ハードコアが背景にあるのは面白い話だと思ったんだけど、快速東京のライヴでもみんな笑ってるじゃん。
哲丸:やっぱそうじゃなきゃ、意味ないもん。
一ノ瀬:楽しむことがいちばん大切なのに……、楽しくないライヴ多いよね。
哲丸:ライヴを聴いて、次朝起きて曲を思い出して、そして思いを深めてとか、止めて欲しい。オレらのライヴが終わったら、それはそれまで。オレらの話なんかしなくていい。
一ノ瀬:そこは見に来た人が勝手に考えることだろ。
哲丸:ぜんぜんそうなんだけど、僕がやりたいのはそういうこと。
■余韻を残すようなことはしたくないだよね。
哲丸:その瞬間に「イエー!」で。
■ユーモアとか反抗心とか、いろんなもんが吐き出ているんだけど、スカッと終わる。
哲丸:娯楽だから。
一ノ瀬:エンターメインメントだから。
■ところが日本のロックって、なんかちょっとトラウマがないとっていう。
一ノ瀬:そうそう。
哲丸:あれなんでなの?
一ノ瀬:演歌だからね。不倫のカルチャーでしょ。
哲丸:やべー(笑)。
■なにそれ?
一ノ瀬:不倫の歌って多いじゃないですか。でもオレ、“孫”とか売れたときに晴れやかなものを感じて、演歌も進化してんなーと思ったことがある。
哲丸:氷川きよしもいいよな。♪やだねってら、やだね~。
一ノ瀬:あれ、ロックだよ。ジェロも良いよね。でも、“天城越え”とか言われると「ちょっとなー」って。
■“天城越え”、いい曲じゃん(笑)。
哲丸:良い曲なんだよ(笑)。でもなー。
一ノ瀬:「越えられてもなー」って(笑)。
■ハハハハ。
一ノ瀬:オレら、わりと真面目に音楽聴いてるんですよ。演歌だってちゃんと聴いてる。
■そうだよね、“天城越え”なんか君らの世代は知らないものね。
一ノ瀬:アイドル文化の歌詞には最近は違和感を感じね。「みんな元気を出しましょー」とか。なんか、気持ち悪いんだよね。アイドル・カルチャーこそ本来はエンターテインメントであるはずなのに。
哲丸:ありゃ-、また別モノだからな。
■銀杏ボーイズの峯田君が、アイドルよりもこっち(ロック)のほうが格好いいよってことは言いたいみたいな話をしてて。たしかに、オレも正月帰省して同世代のヤツらと会ったりして、同世代のいいオヤジがアイドルに夢中になっている様を見ると、ちょっとマズいかもって思っちゃうよね(笑)。
一ノ瀬:合法ロリっていうか、海外ではNGじゃないですか。レディ・ガガがあれを批判的にやってるってことを気づけてないこともすごくダサいし。アンチテーゼってことが理解できてないんじゃないのかなって思いますね。
哲丸:お国柄かな。
一ノ瀬:励ましソングもいいけど、実際に励ますとき、励ましの言葉じゃない表現もあるじゃないですか。「元気出せよ」じゃなくて、「ふざけんなよ、おまえ」っていうのも励ましだったりするわけですよ。そういうことが理解できなくなっちゃったんですよ。
哲丸:みんな疲れちゃってんだよ。
一ノ瀬:疲れかぁ?
哲丸:だって、満員電車に乗ると、隣のサラリーマンのイヤホンの音がもれてくるわけですよ。そうするとさ、西野カナとか、慰めている曲を聴いているわけですよ。「がんばって」とか。「大丈夫だよ」とか。「なんとかなるよ」とか。そういうのばっか聴いてる。みんな、余裕がないですよ。ロックは、余裕がないとできないと思っているから。
■心の余裕だよね。
哲丸:そう、心の余裕。
一ノ瀬:金銭的な余裕がまったくないのも問題ですけどね。
哲丸:余裕がないんだよ。
一ノ瀬:オレ、そこだけじゃないと思うけどな。そこもあるんだけど、やっぱアンチテーゼを理解できないってことも大きいと思うよ。たとえば会田誠の絵を見てさ、あれはただのロリ好きのおじさんって本気で思っちゃってるじゃない。
哲丸:思ってるね。
一ノ瀬:でも違うじゃん。あれはアンチテーゼじゃん。そこが理解できないのよ。その裏側に何があるのかってことを。
哲丸:だから、考える余裕がない。
一ノ瀬:ま、それもそうか。
哲丸:見たまんま理解しちゃってるから。
一ノ瀬:宮崎駿の作品でさえ批判があるのに、なんでアイドルにはそれがないのかって。
■別にその人の趣味だったらどうでも良いけど、2~3年前までロックについて書いていたような、偏差値高そうな連中まで本気で論じちゃったりとかね(笑)。
一ノ瀬:昔のちゃんとしたアイドルとはまた別モノだからね。海外にもアイドルいるけど、歌うまいし、曲も自分で書いたりしているし。でも、日本では、なんかおっさんに踊らされてるっていうか。小学生や中学生の女の子は憧れらるからなりたいと思うじゃないですか。
取材:野田努(2014年1月30日)