Home > Interviews > interview with Jitwam - 彼はムーディーマンに見出されたプロデューサー
インドの長い歴史のなかで、例えばアラビア数秘術を取り入れてそこから新しいものを生み出したり、日本文化を取り入れてきた歴史だってあるんだ。それが僕の音楽に対するヴィジョンに繋がっていると思う。
■ジャンルの話が出たけど、自分の音楽のスタイルをどう表現している? 『COLORS』のインタヴューでもいろんなジャンルをフュージョンさせていくって言ってたけど……。
J:僕自身、インド人として過去のインドの偉大な作曲家たちを見ていると、つねに世界中で出てくるサウンドを融合してそれをミックスしてきたような気がするんだ。R・D・バーマン(インドで最も影響力のある作曲家のひとり)はディスコ、サイケデリック・ロックを地元の伝統音楽と融合させてきたから、僕も同じ軌道を辿っていると感じるし、偉大なインドの作曲家たちの遺産を引き継ごうとしているよ。自分の音楽がカルチャーのメルティング・ポットになればいいよね。インドの長い歴史のなかで、例えばアラビア数秘術を取り入れてそこから新しいものを生み出したり、日本文化を取り入れてきた歴史だってあるんだ。それが僕の音楽に対するヴィジョンに繋がっていると思う。それから、僕はロンドン、ニューヨーク、メルボルンだったりと、多くの異なる文化の場所に住んで、いろんな人びとに出会ってきた。だから、自分が恵まれてきたすべての経験から、何か新しいものを生み出すことが自分の責任だと感じているよ。
■インタヴューのなかに「ANGER/怒り」っていうキーワードにも触れていたけど、その意味は?
J:まず、昨今の世の中を見てみると貧富の差が本当に大きくなっているよね。富裕層はさらに裕福になって、貧困層はさらに貧しくなるように設定されているのがよくわかる。「人類が地球上で生き残れるか?」って疑問について、人びとのヴィジョンが似合わないくらい現代社会はおかしなことになっていて、いわゆる「ヒューマニティー3.0」みたいな違った物の考え方が必要だと思う。なぜならいま、僕たちが進んでいる道はそれではないから。だから僕みたいな茶色い肌の人間が世界的な音楽シーンで活動しているだけで、別の物語を見せることができる。アーティストが皆、必ずしも同じストーリーを語ることはできないからね。
■つまり自分の感情に潜むメッセージを音楽に込めているってこと?
J:間違いなく、ほとんどの楽曲がそうだね。楽曲の全てが僕の人生を反映しているし、自分自身を楽曲に注ぎ込んでなかったら音楽にとっても失礼に値すると思う。いつも110%のチカラで音楽に取り組んでいるし、自分の音楽が誰かと似ているとも感じているよ。もちろん、誰かの影響を受けてるとか、あのアーティストに似ているねと言うことだってできるけど、この音は僕だけのものさ。そしてそれを本当に誇りに思ってる。
■では実際どのようにして音楽を作ったり、書いたりしているの? もちろん誰かとジャムやコラボレーションすることも多いよね?
J:もちろん、コラボレーションは大好きだ。基本的に自分で頻繁にビートを作ったりしてるけど、最近出したアルバムのときはスタジオにこもっていろんなミュージシャンとセッションしたり、曲を書いたりしたね。特にこのアルバム『Third』では、より自分の個性を前面に出したかったから、自分のビートやトラック、歌詞をバンドに落とし込んで、よりユニットとして音楽を掘り下げることが重要なプロセスだった。だから新譜には生演奏がたくさん盛り込まれていて、もちろんこれからもこのスタイルを続けていきたいと思ってる。エレクトロニックとライヴ・ミュージックの間を探求すること、それが前のアルバムからより進歩した部分かな。もちろんいままでの楽曲にも生音はたくさんあったけど、このアルバムではミュージシャンとより入念に取り組んだって感覚も強いよ。
僕みたいな茶色い肌の人間が世界的な音楽シーンで活動しているだけで、別の物語を見せることができる。
■将来誰かとコラボレーションしたい人はいる?
J:そうだね……沢山いるけれど、アシャ・プトゥリなんかは夢のひとりだ。彼女は欧米でも活躍したインドを代表する名シンガーで、インド人にとってもアイコン的な存在なんだ。いまではみんなも知っている「ボリウッド(インド映画)」のサウンドを国外に広めたキーパーソンでもあるし、あとはガンズ・アンド・ローゼズのスラッシュなんかも憧れの存在。でも有名、無名なんてことは関係ないし、現に今回のアルバムでもたくさんのミュージシャンとコラボレーションできたんだ。とにかく、自分だけのクリエイションに納めずに、共演するアーティストと自然な形で音楽を育んでいけたら最高だよね。
■日本のアーティストで気になる人は?
J:少し前に小袋成彬のリミックスをやったばっかりだし、また近いうちに彼の住んでいるロンドンに行く機会があるからまたセッションできたらいいね。それと、BIGYUKI、椎名林檎の楽曲も聴いてるよ。日本は本当に素晴らしいアーティストがたくさんいると思う。
■自身のプロダクションと並行してレーベル〈The Jazz Diaries〉もやっているよね。
J:元々、レーベルは自分のレコードを出すためにはじめたもの。僕らの音楽は本当にインディペンデントな業界だから、買ってくれたレコードのお金がどこに流れていくかを可視化するのが重要だと思った。だからレーベルは自分自身のためにあるし、実際に他に手がけたリリースも僕が世界を旅して実際に出会ったアーティストだけなんだ。音楽のおかげでたくさんの仲間ができたり、お金を稼いだり、行ったことのない場所を旅できている。結局、僕の人生の大半は音楽で、レーベルもそのなかの一部ってことさ。特に、南アジアのアーティストを集めたコンピレーション『Chalo』(2020)は、まだスポットライトの当たっていないアーティストやミュージシャンの仲間たちにとってとてもいいキッカケになったと思う。ダンス・ミュージック・シーンは欧米のアーティストが中心だけど、まだまだ知られていない素晴らしいアーティストが世界中にいて……。そう! まさに日本だって、世界のトップDJに引けを取らないくらい素晴らしいDJがたくさんいるよね。とにかく、そういう長い間光が当たらなかったアーティストをフィーチャーできたのは最高の機会だ。これからも続けていきたいな。
■そういうところも踏まえて、音楽にできる最良のことって何だと思う?
J:そうだね、まず自分にとって音楽は人生だし、人生が音楽だ。一生のサウンドトラックみたいに、仲間との出会いや子どもの頃からのいろいろな思い出が音楽になっていくんだ。音楽のチカラは本当に強い。日本に来て、僕は日本語も話せないし、日本人も英語を話せない人もいたけれど、僕の音楽を聴いてシェアしてくれる人がいる。それはただのドラムビートや楽器から鳴る音を超えて、音楽で繋がる人間関係なんだと思う。だから皆、「音楽は世界共通言語」なんて言うし、そこに文化や、年齢、人種は関係ない。それが自分たちやそれぞれのカルチャーを表現することも忘れてはいけないよ。
■それじゃあ最後に、「一ヶ月音楽禁止!」って状況になったら何をすると思う?
J:あまり考えたこともなかったけど、何かクリエイティヴなことだったり、アイデアを溜めたりもするかもしれない。でももし音楽をやっていなかったら何かビジネスをしてるかもしれないね。結局、僕に取って音楽は自身の頭のアイデアを形にすることの延長線上にあって、生きるために何かをはじめていると思う。それに、音楽もビジネスの一部だし、ミュージシャンでいることは起業家と同じこと。それはいまも昔も変わらないことで、素晴らしいミュージシャンやアーティストでも、それを持続可能にして継続させるためのビジネスの洞察力がなくて失敗している人も大勢いたと思う。だからこそ、過去の成功や失敗を多くのミュージシャンや起業家から学んで自分の活動に取り入れているのかもね。
取材:Midori Aoyama(2023年7月06日)
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