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Sisso

ElectronicSingeli

Sisso

Singeli Ya Maajabu

Nyege Nyege Tapes

三田格 May 16,2024 UP

 ロシアのウクライナ侵攻を一貫して支持しているチェチェン共和国は先月、子どもたちの未来のために音楽のテンポに制限を加え、BPM80以下もしくは116以上の音楽を取締りの対象にすると発表した。イスラム教というのは突拍子もなくて何を制限するのか予想もつかないけれど、どうしてまたそんなことを思いついちゃうのかなあ。ロック=西洋とか、ゲイに厳しい風土なのでディスコやハウスを規制したいというのはわかるとして、BPM80以下というのはダブとかスクリュードにも政府が脅威を感じたということなのか。だとしたらそれはそれでスゴい気もするし、BPM80~116というとほとんどのヒップホップはOKなので、チェチェンの未来はヒップホップ一色になっていくのかなとか。いずれにしろこれでチェチェンの子どもたちは〝フィガロの結婚〟や〝ナイトクルージング〟は聞けないことになり(クイーン〝We Will Rock You〟はぎりセーフ)、ましてやタンザニアのシンゲリである。2010年代後半にインド洋に面したダルエスサラーム州キノンドーニで火がつき、タンザニア全土で人気となったシンゲリはBPM170なら遅いほうで、ウィキペディアによると200から300がアヴェレージだとされている。300だと半分でとっても116以下にはならないし、そもそも「半分でとってます」と言っても警察には通じないだろうし……それ以前に警察官たちはBPMを理解できるのか? 逮捕する時はストップウォッチで測りながら?

 ウガンダの〈Nyege Nyege Tapes〉がタンザニアのシンゲリをまとめて紹介した『Sounds Of Sisso』が早くも7年前。シンゲリは当初からBPMの早さが話題で、伝統的なンゴマや外国の影響を受けたタアラブと呼ばれる祭りの音楽から派生し、ジュークやフットワークとも同時代性を感じさせる音楽へと発展する(伝統的な祭りとの結びつきが強いせいか、同じくウィキによると男は高速ラップで女はコーラスとジェンダーが分かれる傾向があるらしい)。『Sounds Of Sisso』はそれなりの話題を呼んだものの、同作がつくられたスタジオの所有主であり、中心人物の1人と目されるシッソことモハメド・ハムザ・アリーが翌19年にリリースしたソロ・アルバム『Mateso』は一本調子であまりいい出来とは言えず、シンゲリにフラップコアと呼ばれるフレンチ・ブレイクコアを掛け合わせたジェイ・ミッタの方が(14歳のMCを起用していたこともあって)僕の仲間うちでは面白がられていた。シッソとジェイ・ミッタは同じ年、さらにベルリンからエラースミス、グラスゴーからザ・モダーン・インスティチュート(=ゴールデン・ティーチャー)を迎え入れて共作アルバムをリリースし、翌20年にライアン・トレイナーが同地で受けた刺激を『File Under UK Metaplasm』にまとめたり、『Sounds Of Sisso』の続編で〈Pamoja Records〉の音源を集めた『Sounds of Pamoja』やDJトラヴェラといった若手の台頭が相次ぐものの、折からのパンデミックに出鼻をくじかれたか、同じクラブ系ミニマルでもベースに重きを置いた南アのゴムに較べるとそれほど大きく裾野を広げた印象はない。強いていえばタンザニア内でさらにBPMを早め、ハードコア化していくことになる。

 そして『Mateso』から5年。シッソは大きな成長を遂げていた。音楽性がまずは格段に豊かとなり、曲の構成だけでなく一本調子だったアルバム全体の構成も複雑になって、質素どころか実にゴージャスな『Singeli Ya Maajabu』の完成である。シンゲリといえば高速ラップだけれど、前作同様ここでもMCは入れず、躁状態のパーカッシヴ・サウンドをメインとしたインストゥルメンタル・アルバムに仕上げられている。オープニングはオルガンを連打し、テリー・ライリーがタコ踊りを踊っているような高速トロピカルの〝Kivinje〟。続く〝Kazi Ipo〟もパッセージの早いパーカッションに対して様々なスピードで挟まれるSEが幾重にもレイヤーされ、リズム以外に追いかける要素が多いことがとても楽しいBPM186。部分的には〝ウイリアムテル序曲〟などを思わせるため、DFCクラシックのレックス名義〝Guglielmo Tell〟なんか思い出したりして(つーか、これでもBPM155なのね)。前作の『Mateso』でもシャンガーンを思い出す場面は何回かあったけれど、〝Chuma〟はまさにマルカム・マクラーレンなどが遠くに聞こえ、アルバム全体にその感触は広がっている。〝Uhondo〟は比較的過去のハードコアに回帰したようなモノリズム調で、涼しい鉦の音から始まる〝Kiboko〟は一転してコノノ Nº1などのヘヴィな早回しヴァージョン。そう、00年代初頭にアフリカのオルタナティヴ・サウンドと呼ばれたコノノNº1やスタッフ・ベンダ・ビリリに比べてシンゲリはおそろしいほどヘヴィで、ベースは入ってないのにボトムの重量感がまったく違うところは明確に時代の差といえる。どこか食品まつりに通じる〝Timua〟からインタールードとして奇妙な女性コーラスをメインにした〝Mangwale〟が挿入されるあたり、リズムで押せ押せだった前作からは考えられない構成の妙で(笑)、ポリリズムを強調した〝Rusha〟はリズムがまさにごった煮で気がつくとリズムの迷子になりかける(こういう曲は5年か10年後にもう一度聴くのが楽しみです)。TGにシンゲリをやらせたらこうなるかなと思う〝Jimwage〟から水の音をループさせたり、エレクトロアコースティックを無理やりダンスフロアに引っ張り出したような〝Mizuka〟。メリハリを効かせた〝Jimwage〟に対してミニマルに徹した〝Njopeka〟はヤン富田を高速ブレイクビーツ化したようなもので、このあたりがアルバムのクライマックスをなしている。DJトラヴェラのレイヴ趣味にアンサーを返した〝Shida〟はとにかくウネウネとシンセがくねり、冒頭の〝Kivinje〟や〝Kazi Ipo〟に戻った〝Zakwao〟と、最後まで高速で突っ走る〝Ganzi〟で「見たことのない景色」は幕を閉じていく。シンゲリがどうというより、シッソがスゴいですよ、これは。僕はレコード・レビューの文章に「進化」というワードを使ったことがないけれど、これは確実に「深化」だといいたい。とはいえ、いまはBPM80以下の音楽が聴きたいかも……

三田格