「PAN」と一致するもの

Pantha du Prince - ele-king

 鐘(ベル)をチューニングするためには、鐘自体を削るしかないそうだ。音響構造上、ベルの音はさまざまな波動が入り組んでいて、非常に困難な作業だという。鐘の歴史は紀元前2000年ごろまでさかのぼることができるようだが、そのころチューニングの概念があったかどうかはわからない。もちろん、なにか「いい音」にしたいという気持ちはあっただろうけれども、ドレミが登場するのはずっと後のこと。まったくの想像だが、鐘において当初重要だったのは、むしろあの強すぎるほどの倍音だったのではないかと思う。

 鐘の音に人の一生や運命のイメージを結びつけるのは自然なことだ。ラフマニノフには人生における四季を鐘のモチーフで描き出す名作があるし、「祇園精舎の鐘の声......」も人の世の理を説く一節である。キリスト教圏はことのほかそうであろうが、洋の東西を問わず、寺社には人々の生活を取り仕切ってきた歴史がある。しかしそれだけではない。カーンと鳴ってその後もわんわんと様態を変えて残りつづけるあの複雑な倍音の響きに、われわれはなにより人の生き死にやその象徴を見てしまうのではないだろうか。弦を巻いたり皮を張ったりするのとはわけが違う、音色の修正の困難さ、取り返しのつかなさ、ままならなさ。学校チャイムでもおなじみ、ビッグ・ベンの「キンコンカンコン」が、どこか調子はずれな音程をたどりつつも重くはかない響きを持っているのは、まさにそのためである。チューニングのままならなさそのものが、一生(ひとよ)の喩に似つかわしい。

 パンタ・デュ・プランスはベルの音をフェティッシュとして並ならぬ美学のもとに音響構築するプロデューサーである。独自の美意識をすべりこませたミニマル・ハウスは、リズムや展開や音のテクスチャーよりも、その「ベル」というコンセプトにこだわることで成立しているように思われる。本名義では2007年の『ディス・ブリス』からその傾向を深めた。"シュタイナー・イム・フリューク"などは、ベルが用いられていない部分でも、それが持つ共鳴運動や倍音を比喩的に再現するような反復表現が用いられている。彼のミニマリズムはベルそのもののミニマリズムによって加速する。ちらちらとガラスや雪片のように輝く音、そのひとつひとつに、調性音楽にそもそもなじまないような音痴さ――ままならなさ、多様さ――が宿っている。一音だけで音楽として無限に成立しているような音が、無限に連なっていく、そうした複雑すぎるシンプルさという逆説を前作では新古今の美学に比較したが、間違いではないように思う。

 本作はそのベル・フェティシズムを限界まで振り切る会心の一枚となった。ベルやマリンバなどの打楽器のパフォーマンスを行うノルウェーのアーティスト、ザ・ベル・ラボラトリーとのコラボレーション作である。ピッチフォークが公開しているトレーラーからは、ヴィブラフォンや大小のゴングにカリヨンやスティールパン、チューブラーベルなどありとあらゆるベルを用いたステージングが窺われる。この"スペクトラル・スプリット"はベース音が楽曲のシークエンスを描き、マリンバなどの鍵盤楽器は音程をふくめて秩序正しくそれぞれのフレーズをリフレインし、4/4のビートもピタリときまっているが、テーマを奏でるカリヨンにやはり途方もない存在感がある。やはり鐘のかたちをしたものに鐘のもっとも魅力的で度し難い響きが宿るという確信があるのだろう。
 楽曲の出来もさることながら、やはりこのコンセプトが思いつきのイロモノとはまったく異なる説得力を持っているところに敬服してしまう。美学的な音楽ではなく美学そのものなのだ。前者が陥りやすい単調さや脆さはここには感じられない。彼にはフィリップ・グラス"マッド・ラッシュ"のリミックス・ワークがあるが、今作はスティーヴ・ライヒやラ・モンテ・ヤングからの影響も一層強く感じさせるものになった。"パーティクル" "スペクトラル・スプリット"など長尺のトラックは力が入っているが、わたしは"クヮントゥム"などのただただベル三昧な小品にとくに心惹かれる。ビートもない。パンタ・デュ・プランスにビートを外す決意をさせた点には、彼のザ・ベル・ラボラトリーへ寄せる信頼もうかがわれるだろう。だが、いつものストイックなハウスを少し外した、彼なりのデレであるようにも思われる。ミラー・トゥ・ミラーのハッピーなアンビエントや、メデリン・マーキーのヴォコーダー・アートにも近いフィーリングを感じた。ひとつとして同じものは複製できないというベルの、あのままならない倍音を味わう感度は、もしかするとメデリンの感情豊かな音声合成を楽しむメカニズムと同じものなのかもしれない。

Eaux - ele-king

■で、オー(Eaux)は「水」を表すフランス語だよね。
ベン:そう。
 
■バンド名を見ても、みんな「オークス(Okes)って読むの?」ってなるんじゃない?
ベン:そう。
 
■で、きみが「いや、『オー』だよ」っていう。
ベン:そう。
 
■でも、みんなは、「おー、オー!」って。
ベン:そう、残念ながら。
 
■じゃあ、きみたちバンドが近くにいたとき、みんな「あー、おー!」ってしょっちゅう言ってることになるわけだよね?
ベン:あるラジオのひとは「イイイイユウウ」みたいなことを言ってた。
 
■「よー、デュードゥ」みたいな
ベン:そんな感じ。
 
■おー、ノー(NEAUX)!
ベン:母音だね。
ベン・クルック、『ヴァイス』内の『ノイジー』誌でのインタヴューで

 「it」という単語が象徴するように、英語とは主語ありきの文法で成り立っている――というように学校教育のどこかで教えられて(政見放送における安倍晋三の教育論にしたがえば「植えつけて」いただ。)いたので、イギリス人とメールのやりとりをしはじめたときに主語が省略されて返事が来たことにはすこし驚かされた(←そしてこの文の主語は?)。ただし主語が省略できるのはその文に主語が隠れていることがしっかり念頭にあるからで、主語という概念自体が危ういらしい日本語とは主語がないことの意味がおそらく違うのだろう。

 しかし主語だけで完結する文というのはありえない。「アイ」がどうしたのよと問うても、とくに発展もなく過ぎる7分間の表題曲"i"を聴いていると、虚しさのようなものがすこしばかり心にざわつく。ダークで、感情の欠片もあらわれない。ベースとリズムの骨格がただでさえ浮き彫りだというのに、ガリガリのエレキギターのように肉を削がれ、痩せ細った禁欲的な身体が冷たく暗闇のなかで浮かび上がる。というとすこしホラーめいてしまったかもしれないが、そういうわけではない。

 オーのメンバーはテクノやクラウトロックからの影響を語っているけども、どちらかといえばミニマルなハウスにより近い感触があるのが印象的だ。ジ・XXの『コエグジスト』において聴き取れるハウス・ミュージックの吸収とは似て非なるというか、親密な空間での愛(あるいは人肌)のムードが薫っていたジ・XXに対し、オーは胃の消化がよくなかったのだろうか、システマチックな四つ打ちのキックとハイハットがその骨っぽさを際立たせている。メンバー3人が狭い場所にこもって録音したらしく、この音楽も親密なシチュエーションではあるのだろうが、触れた手の冷たさとか弱さに思わず胸が痛んでしまう。しかし、きっとその肌に宿る精神は強さを持ち合わせているのだろう。"ニュー・ピークス"などを聴いていると、冷たいシンセサイザーの裏には歩みをとめようとしないポジティヴな意志が青く燃えているのを感じる。部屋が暗ければ心も暗いというわけではない。この音楽は、冷えきった冬の夜道に沈んでしまいそうなあなたを、しっかり歩かせるだろう。
 寒い。今日(1/14)は豪雪だ。たしかに寒い。寒いけども、着るコートやジャケットがあるうちは、意志さえ弱らなければ......。

 オーは、レーベル〈ザ・ソーシャル・レジストリー〉からリリースを重ねながらも2010年に活動を止めたシアン・アリス・グループ(以下「SAG」)のメンバーふたりとプラスひとりからなるトリオだ。2010年半ば以降の音沙汰がいっさいないなか、2011年の秋にSAGのトートバッグを筆者が注文したところ、それを受けてなのか、はたまたオーの始動タイミングと重なったからなのか、ツイッターやフェイスブックで「Sian Alice Group is no more」とひっそりと発表した
 どういう経緯でSAGが解散したのかは知らない。ベンは音楽趣味の相違だと語っているが、その相違がもたらすものは人間関係の変化でもあるだろう。大好きなバンドが解散してゆくさまを近くで見届けてしまった経験のある人間には痛切にわかるかもしれないが、バンドの解散の経緯など知るだけ悲しくなるものだったりする。それに、メンバーが新しく音楽をはじめているのであれば、それがなにより大事なことだ。音楽が続くのは演奏する人がいるから、そしてそれを聴く人間がいるがゆえである。

 SAGを演奏だけでなくプロデュース面でも支えていた設立メンバー=ルパート・クレヴォーがオーには参加していないことは、おそらく残されたメンバー=ベンとシアンのふたりに新たな歩み方を模索させたことだろう。SAGはほんとうに気高く美しかった。オーはまだまだラフなダーク(もしくはコールド)ウェイヴだが、たたずむ音楽だったSAGにはなかった推進力を感じられる。オーを、SAGに残されたメンバーの歩みのはじまりだと見るとすれば、これから彼らがどういう道をどう歩くのかを筆者はなるべく近くで見届けたいと思う。

参照

『ノー・デイズ・オフ・ブログ』 - 「オー」
https://nodaysoff.com/blog/?p=944

『ブウレッグス』 - 「オー - インタヴュー」
https://www.bowlegsmusic.com/features/interviews/euax-interview-27962

第5回:ヨイトマケとジェイク・バグ - ele-king

 16年ぶりに日本で新年を迎えた。
 で、大晦日は炬燵ばたで親父と飲みながら紅白歌合戦を見ていたのだが、これがなかなかエキゾチックで面白かった。自分の母国について、エキゾチック。というのも鼻持ちならん言い方だが、しかし、16年といえば、おぎゃあと生まれた女児が合法的に結婚できるようになる時間の長さだ。実際、わたしの感慨は、初めてテレビでユーロヴィジョン・ソング・コンテストを見たときにも似たものがあったのである。

 やたらと幼い若者がぞろぞろ多人数で出て来た前半部分は、初音ミクなどというキャラが出て来る土壌をヴィジュアルに理解できる機会になったし、オタク、マンガ、コスプレが大好きな英国のティーンなんか(ミドルクラスの子女に多い)が大喜びしそうなジャパニーズ・カルチャーの祭典になっていた。
 この世界が、現代の日本を象徴しているのだ。ならば、もはや見なかったふりをしてスルーすることはできない。向後、わたしは日本を訪れる英国人には、俄然、紅白を見ることをお勧めする。Different, Weird, Tacky, Bizarre。スモウ・レスラーは審査員席に座っているし、これほど外国人観光客が喜びそうなキッチュな番組は他にないだろう。

 「もう、子供番組のごとなっとろうが」
 北島三郎の登場を待って眠い目をこすっていた親父が言った。というか、これを見ていると、日本には子供と老人しかいないようである。
 キッズ番組から一気にナツメロ歌謡集に変わって行く番組を見ながら、ちびちび焼酎をなめていると、黒づくめの衣装で美輪明宏が出て来て、"ヨイトマケの唄"を歌いはじめた。
 「......これ、普通に流行歌としてヒットしたわけ?」
 「おお。お前が生まれたぐらいのときやった」
 「その頃、この人はゲイって、もうみんな知っとったと?」
 「おお。この人がその走りやもんね。日本で言うたら」
 「そういう人が、『ヨイトマケ』とかいう言葉を歌って、さらにそれがヒットしたって、ちょっと凄いね」
 「この人は長崎ん人やもんね。炭鉱町で働く人間のためにつくったったい、この歌ば」

 歌の途中で親父を質問攻めにしたのは、"ヨイトマケに出る"という表現が日常的に家庭で使われていた環境で育ったわたしが、土建屋の父親とふたりっきりであの唄を聴いている、というシチュエーションがけっこう感傷的にきつかったからだ。が、そういうのは抜きにしても、わたしは当該楽曲にハッとするような感銘を受けた。
 これは日本のワーキング・クラスの歌だ。と思ったからだ。

 翌日、ブライトンの連合いから電話がかかってきた。大晦日の夜は、例年のようにBBC2で「Jools' Annual Hootenanny」を見ていたという。日本に紅白があるなら、英国にはこの番組がある。
 「ジェイク・バグが『ライトニング・ボルト』を歌った。それが一番良かった」
 と連合いは言った。
 紅白を見ながら、日本にも46年前にはワーキング・クラスの歌があったのだということをわたしが確認していた頃、英国では、「下層階級のリアリティを歌う」という作業を久しぶりに行った少年が、やはり国民的な年越し番組に出て2012年を締め括っていたらしい。

 「日本もね、階級社会になってきたよ」
 という言葉を聞く度にわたしが思うのは、階級は昔からあった。ということだ。
 しかし、わたしは長いあいだ日本では無いことにされてきた階級の出身なので、こういう反論をすることを不毛だと思う癖というか、諦めてしまう癖がついている。
 例えば、わたしは「できれば高校には行かず、働いてくれ」と言われた家庭の子供だった。奨学金で学校には行けることになったが、通学用の定期券を買うために学校帰りにバイトしていて、それが学校側にバレたとき、「定期を自分で買わなければならない学生など、いまどきいるはずがない。嘘をつくな」と担任にどやされた。
 思えば、この「いまどきいるはずがない」は、わたしの子供時代のキーワードであった。
 「俺の存在を頭から否定してくれ」と言ったパンク歌手があの頃の日本にいたと思うが、そんなことをわざわざお願いしなくとも、下層階級の存在は頭から否定されていた。

 年頭からこんな自分を裸にするようなことを書かなくてもいいんじゃないかと思うが、しかし、わたしにとって英国のほうが住み心地が良いのは、ここには昔もいまも継続して消えない階級というものが人びとの意識のなかに存在し、下層の人間が自分の持ち場を見失うことなく、リアリスティックに下層の人間として生きているからだと思う。
 わたしが育った時代の日本は、リアリティをファンタジーで抑圧していたために、当の下層民が下層民としてのアイデンティティを持てなかった。そんなところからワーキング・クラスの歌が聞こえてくるはずがない。

 「わたしは生まれも育ちも現在も、生粋の労働者階級だ」ということを、わたしが大声で、やけくその誇りのようなものさえ持って言えるようになったのは、英国に来てからだ。
 "国民全員それなりにお金持ち"などという、人民ピラミッドの法則を完全無視したスローガンに踊らされた国民が一番アホだったのだが、あの、国民が共犯してリアリティを隠蔽した時代が、わが祖国の人びとの精神や文化から取り上げたものは大きい。

 が、そんな日本でも、いきなり下層の人びとの存在認定が降りたらしい。
 紅白の"ヨイトマケの唄"が話題になっているというのも、そんなことと関連しているんだろう。しかし、この国の下層の歴史には黒く塗りつぶされた期間があるので、再びワーキング・クラス文化が生まれ育つには時間がかかる。「母ちゃん見てくれ、この姿」の"ヨイトマケの唄"と、二本指を突き立てて親に愛想を尽かして出て行くジェイク・バグのあいだには、46年の隔たりがあるのだ。
 ジェニー・ロットンやケン・ローチやギャラガー兄弟やマイク・リーが、現実を直視することによって生まれる下層の声が、中野重治が「すべての風情を擯斥せよ もっぱら正直のところを 腹の足しになるところを 胸さきを突きあげてくるぎりぎりのところを歌え」と言ったところの表現が、わたしが育った時代の日本には生まれなかった。世代と共に少しずつ変容し、洗練され、進化して行くはずのワーキング・クラス文化が、わが祖国では育たなかったのである。

 そんなことを考えながら機内に座っていると、いつの間にかヒースローに着いていた。
 入国審査には長蛇の列。80年代に日本で人気のあった男性アイドルグループのメンバーとその妻子がデザイナーブランドに身を包み、アサイラム・シーカーみたいな切羽詰った感じのアフリカ系の人びとや、険しい顔つきの中東の家族にまみれて所在なさそうに並んでいた。
 「Do you miss Japan?」
 唐突に入国審査官に訊かれて、反射的に
 「No, not at all」
 と言うと、脇に立っていた6歳の息子が声を出して笑った。
 「Fair enough」と金髪の若い審査官の男性も笑う。
 「Well, my life is in this country now...」と妙に言い訳がましくなりながら、審査官に手を振り、パスポート・コントロールを後にすると、息子が言う。
 「そもそも、なんで母ちゃん、日本からこの国に来たの?」
 「貧乏人だったから」
 「いまも貧乏じゃん」
 「まあね、でも、そういうことじゃなくて。あんたがもう少し大きくなったら、説明する」

 そしてずっしりと重い荷物を受け取り、わたしは息子を従えて、ずかずかと大股で英国に帰ってきた。
 脇にさげた手荷物の中には、知り人にもらった祖国のカステラ。
 I couldn't ever bring myself to hate you as I'd like....
 懐かしい曲の一節が、到着ロビーのカフェから聞こえてきた。

interview with Dub Structure #9 - ele-king


Dub Structure #9
POETICS IN FAST-PULSING ISLAND

dive in! disc

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 エメラルズからマーク・マッガイアが脱退したそうだが、東京からは昨年の12月ダブ・ストラクチャー#9という4人組のバンドがアルバムを発表、年末はドイツ・リューベックからDJ/プロデューサーのラウル・Kを招いて盛大なパーティを繰り広げている。
 ダブ・ストラクチャー#9という名前のバンドが演奏するのは、いわゆるダブではない。彼らが打ち鳴らすのはモータリック・ビート、いつまでも動き続けるミニマルなグルーヴ、すなわちクラウトロックだ。そのアルバム『POETICS IN FAST-PULSING ISLAND』は、クラウトロックが普及したこの10年における日本からの回答とも呼べる作品だ。
 しかも......アルバムにはリミキサーとして、ラウル・Kのほか、日本のクラブ・シーンのベテランDJ、アルツとCMTも参加している(ふたりのリミックス・ヴァージョンは12インチ・シングルにもなってもいる)。
 結果、彼らのセカンドは、今日の日本ではもはや異端とも呼べるであろう、クラブとライヴハウスの溝を埋めるものともなった。ポーティスヘッドやファクトリーフロアのようなやり方は、果たしてこの国でも通じるのだろうか......昨年末、メンバーのひとりが成田までラウル・Kを迎えに行っているその日に取材した。

クラウトロックは大好きですね。とくにあの曲に関しては、「ノイ!」と呼んでいたくらいなので(笑)。

アルバムを聴いて、まあ、ぶっちゃけ、すげークラウトロックを感じたんですね。とくに1曲目、"NEW FUNCTION"なんか、ここまで見事なノイ!もそうないというか......。

一同:ハハハハ。

こんなバンドが日本にいたのかと思って。クラウス・ディンガー的なグルーヴというかね、日本ではかなり珍しいですよ。びっくりしました。やっぱお好きなんでしょう?

Canno(カンノ):大好きですね。とくにあの曲に関しては、「ノイ!」と呼んでいたくらいなので(笑)。

ハハハハ。

Minami(ミナミ):いや、ホント大好きで。

海外は多いけどね、クラウトロック系は。日本ではほとんどいないんですよ。

Okura(オークラ):たしかにそうかもしれない。

Minami:すっごく仲のいいバンドで、ノーウェアマンというのがいて。

ノーウェア(nowhere)?

Minami:いや、ノーウェア(nowear)、何も着ないっていう。彼らは面白くて、ミニマルな8ビートですけど、ハンマービートって感じじゃない。でも、クラウトロックは大好きですよ。

Canno:そうだね、ノーウェアマンぐらいかな。

ほかにも、"WHEN THE PARTY BEGIN"とか、"POETICS IN FAST-PULSING ISLAND"とか、クラスターの精神とでも言いましょうか......。

Minami:そのへんは好きっすね。

Canno:なんでも好きなんですけどね。ブリティッシュ・ビートみたいなものも、ジャズも、テクノも、いろいろ好きなんですけど、でも、ノイ!とかクラウトロックは自分たちにとって新しい発見でしたね。

Okura:衝撃だったよね。

Canno:これだ! みたいね。音楽って長いこと聴いていると、自分のなかでマンネリ化するものだと思うんですね。それで、新しい発見によって広がるっていうか。そのひとつだと思いましたね。

バンドはどんな風に結成されたの?

Okura:ミナミとカンノは小学校が同じで、一個違いの幼なじみで、小中高と同じ。

東京?

Okura:全員東京です。

Canno:僕らは世田谷、オークラとアライも小学校から一緒で、目黒ですね。

世田谷のどこなんですか?

Canno:僕が下馬で、ミナミが梅ヶ丘。

Minami:(梅ヶ丘は)奇っ怪な街ですね。古いサックスを売っているお店があったり、超小さいギターのお店があったり、変な街ですね。

Canno:高校が、リズム隊が、白金台と麻布十番だったんです。

けっこう、街っ子だね。ていうか、最新の東京っ子だね(笑)。

Canno:そうっすね。うちらは田んぼだったあたりの東京なんですけどね

バンドは?

Canno:僕とオオクラは高校の頃からやってて、けっこう真面目にやってて、ライヴハウスなんかにも出てね。21歳のときに解散するんですけど、解散する頃にミナミが入ってきて。で、この3人で新しいバンドをやることにしたんですよね。最初はベース無しで。で、アライが入ってきて、現在の形になりましたね。

ダブ・ストラクチャー#9というバンド名は?

Canno:言い出したのはミナミなんですけどね。

Minami:その当時、ダブということにすごく興味があって。格好いいな、と(笑)。

Canno:俺も、格好いいなと(笑)。

その名前を聞くと、どうしてもダブをイメージするじゃないですか。「ああ、新しいダブ・バンドなのかな」って。

Minami:ダブってジャンルというよりも手法で。

手法であり、ジャンルでもありますよね。

Minami:音を飛ばすっていう、僕としてはインダストリアルなイメージで付けたんですよね。

ダブはずっと好きだったんですか?

Minami:そんなに詳しくないんですけど、ずっと好きです。キング・タビーのような、ハッピーではなく......哀愁、キング・タビーにもハッピーなのはあるんですけど。

キング・タビーは基本、ダークですよね。

Minami:飛ばす方に耳がいってしまいますね。

Okura:結成当時は、まだクラブに行きはじめって感じでしたよね。20歳過ぎたぐらいで。

Canno:クラブ・ミュージックも、テクノ寄りのものを聴きはじめたり。

Minami:もとはロックですけどね。ツェッペリンとかね。

レッド・ツェッペリン?

Canno:ドアーズとかね。

へー。みんな20代半ば過ぎたぐらいでしょう? 古いのが好きなんだね。僕らの時代にはあり得なかった(笑)。レッド・ツェッペリンなんか......

Canno:だせーって(笑)。

王子様みたいだしって(笑)。でも、いまの若い人は古い音楽に詳しいね。

Minami:僕らもガンズとかは聴けなかったですよ。

Canno:ツェッペリンとかになると一周しちゃってたから、再評価ブームとかもあって。昔のものが整理された感じはありましたね。

Minami:小中学校でギターをはじめようとして、『ギターマガジン』とか見ると、ツェッペリンとかクラプトンとか。

いまでも?

Minami:いまでも。

それはすごい。俺の時代から変わってないんだね。

Canno:ジミー・ペイジとか何回表紙になってるんだっていうね。

Minami:ソニック・ユースといっしょに聴いていたもんね。

その感覚は僕の時代にはなかったな。とにかくロックだったんですね。みんなにとってロックは何だったんでしょう? なんでロックだったの?

Canno:少数派の価値を見いだせるっていうか。

Minami:それはあったね。

でも、みんなの時代にはヒップホップだってR&Bだってあるじゃん。

Canno:世代的にはそうですよね。中学生のときまわりはBボーイだったし。

ヒップホップは好きでしょ?

Minami:はい、ホントにハマったの最近ですけどね。

Canno:いや、でも、ホント、みんなロック少年だったから。夢がありましたけどね。ロックがすべてを変えるみたいな(笑)。

ハハハハ。いまでもロックは力があるの?

Minami:クラブ・ミュージックのなかにもそれはあるじゃないですか。サイケデリックな部分だったり、アシッディな部分だったり。共通するところはあると思いますよ。

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2年前に、「MONK!!!」というイヴェントをはじめたのが大きかったですね。そのときにヒカルさんとか、アルツさんとか、DJをお願いしていたんですけど、その前からDJを聴くようになっていて、それは僕らにとってクラウトロックと同じぐらいに大きかったですね。

ミナミさんはヴォーカリストですよね。

Minami:歌うことに関しては、まだ自分のなかで消化しきれてないですね。

好きなヴォーカリストは?

Minami:若い頃は、ボビー・ギレスピーとか。イアン・ブラウンとか。

すごい真っ当な......。ただし、みんなが高校時代だとしたら、全盛期はとっくに終わっている人たちでしょう。

Minami:そうっすね。

世代的に言えば、アークティック・モンキーズとかじゃない?

Minami:いや、その頃は、昔のものを掘りはじめてしまって。

Okura:ストロークスが高一ぐらいだよね。ホワイト・ストライプスとか。ホワイト・ストライプスなんか、もう大好きだった。

いまのバンドの青写真はどうやって出来上がっていったの?

Canno:2年前に、「MONK!!!」というイヴェントをはじめたのが大きかったですね。そのときにヒカルさんとか、アルツさんとか、DJをお願いしていたんですけど、その前からDJを聴くようになっていて、それは僕らにとってクラウトロックと同じぐらいに大きかったですね。で、どんどんテクノのパーティにも行くようになった。

クラブが大きかったんだ?

Canno:ダブ・ストラクチャーになる前は、ホントに漫画に出てくるようなコテコテのバンドマンの生活というか、けっこうライヴハウス時代があったんですよね。その頃にもライヴハウスのシステムってどうなんだろうってのがあったんですよね。みんな楽しめているのかなっていうか。

Minami:その前に、セオ・パリッシュとムーディーマンを友だちに貸してもらって、そのときに「あ!」っていうか。セオ・パリッシュを聴いたときに、超格好いいって。

Canno:ムーディーマンが来日した頃でね、もう、びっくりしちゃって。

Minami:あ、ロックスターじゃんって。

Canno:DJでは、ストーンズとかもかけていたし。

Minami:あのヌメッとした感じとか、すごいなって。

ドラマーとしては打ち込みの音楽との出会いはどうだったんですか? 

Okura:いや、もう、やっぱ最初は「冗談じゃないよ」って(笑)。でも、『ブラックマホガニー』を聴いているうちに、「格好いいじゃん!」って。

あれは生も入っているしね。

Okura:生も入っているし、サンプリングもあるし。

Canno:発想の自由さに影響されましたね。バンドって、やっぱマンネリ化してきてしまうから。でも、ムーディーマンやセオ・パリッシュは、音楽の発想がすごく自由なんですよね。

Minami:ブラック・ミュージックというものにも初めて直面したっていうかね。

Okura:ツェッペリンとかも根底にはブルースがあるんで、その共通するところっていうのがよく見えたっていうか。

「MONK!!!」は、最初から〈イレヴン〉?

Canno:最初はセコバーでやって、2回目が〈イレヴン〉でしたね。最初はセコバーにドラムもシステムも入れてやりましたね。

Minami:DJはヒカルさん、アルツさん、CMTさん、あとクロマニヨン。

ヒカルさん、アルツさん、CMTさんというのは、どういう経緯で?

Canno:客としてずっと好きだったので。CMTさんは群馬にDJハーヴィーが来たときに行ったらやってて、初めて聴いたんですけど、もうDJとは思えないっていうか、とにかくショックを受けましたね。友だちにトミオってDJがいるんですけど、そいつが詳しくて、そいつにいろんなパーティに連れてってもらいましたね。

20代前半の子にとってクラブって行きづらい場所だってよく言われるんだけど、入っても年上の連中ばっかりだし。

Minami:たしかに僕が高校生のとき、マッド・プロフェッサー聴きたいからクラブに行こうか迷ったことがあって、でも、そのときはなんか怖いから止めました(笑)。

Canno:うん、その感覚がわかるからこそ、同世代の連中に「MONK!!!」に来て欲しいんです。

Minami:DJの人たちって、ホントにいい人ばっかだし。

Canno:偏見があるんですよね。僕らぐらいの世代から。

偏見じゃないと思うよ。単純な話、20歳の子がクラブに入ってみて、30代以上の人たちがざーっといたら、ひたすら踊るか、やっぱ居場所ないじゃない(笑)?

Canno:みんな話してますもんね(笑)。俺も、いまでもそうなっちゃうときがあるけど、そうなったら、もう目をつぶって音楽に集中するっていうか(笑)。

ハハハハ!

Minami:いや、俺はもうずっとフロアにいるよ。

Canno:クラブを好きになったのも、音楽を聴きたいっていうのがあったんで......、でも、いま思うと、我ながらよく行ったなとは思いますね(笑)。

Minami:いや、もう、みんな社交性がないヤツらなんで。

社交性がないから、音に集中できたんだ(笑)。

一同:ハハハハ!

Canno:まわりでクラブ行ってるヤツってあんまいなかったよね。

Minami:ただ、20歳ぐらいのときに、友だちでDJのほうに進んだヤツがいて、それは大きかった。

Canno:そうっすね。トミオっすね。

トミオ君、重要だね。なんか、欧米はクラブ・カルチャーが良い意味で世代交代しているし、僕はクラブ・カルチャーの恩恵を受けている人間だけど、やっぱ、その主役は20代だと思うし、しかも20代前半だと思うんだよね。なぜか日本だけが圧倒的に30代以上の、ていうか、40代以上の文化になっているようで。

Minami:やっぱ年上の人たちのDJって、丁寧だし、繊細だし......。

やっぱ勝てないって?

Minami:年功序列っていうのはあるんですかね(笑)?

ディスコやハウスの世代にはあったけど、テクノ以降はなかったと思うよ。

Minami:若くて、すげー、格好いいDJもいるもんな-。

ただし、DJって、たとえばハウスやろうとしたら、知識と経験があるDJを超えるのって、よほど何かないと難しいとは思うよ。

Minami:レコードの量も違うし。

Canno:でも、うちらにも、若者でやろうという気概はあるんですよね。

Minami:うちらの「MONK!!!」も、遊びに来てくれた子たち年齢はけっこう若いと思いますよ。

それは良いね。

Canno:本当に、みんなからもそこが良いねって言ってもらえた。

ハハハハ。しかし、みんなから見て、クラブのどこが魅力だったんでしょう? さっきライヴハウスに限界を感じていたって言っていたけど。

Minami:いやもう、単純にノルマ制が。

ハハハハ。

Canno:それに、クラブって、やっぱ終電を吹っ飛ばして朝まで踊るっていうのがいいじゃないですか。

うわ、若い!

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迷いはなかったでね。能動的にやった感じですね。まさに、クラブとバンドの溝を埋めたいと思ってやったことだから。

(ここで、今回の「MONK!!!」のゲストDJとして招聘したラウル・Kの送迎に行っていたベースのアライが登場)

Arai:こんにちわ。

お疲れ様です。いや、もう、話はすっかり佳境に入ってしまってますが......。でも、いま行った「朝まで踊る」っていうのが嫌なんだっていう話も聞くけど。

Canno:それもあると思う(笑)。明日の朝のことを考えちゃうんだって。俺は良いと思うんですけどね。

Minami:あと居心地とかね。

Canno:そうだよね。オールナイトでやるなら、そこに長時間入れるような場を作る努力をしなくちゃね。

僕は仕事柄ライヴハウスに行くんですが、ライブハウスのつまらなさって、そのバンド目当ての人しかいないってことなんですよね。Aというバンドが出ると、Aの客しかいない。次に出るBの客は裏でタバコ吸ってたり。なんかね、同じ種類の人間しかいないっていうか、だいたいトライブが固定されちゃってるでしょう。でも、クラブはふだんまず会わないヤツと会うじゃない(笑)。女でも男でも。そこが良いよね。

Canno:そこが楽しいですよね。

Minami:中規模や小規模のDJバーだと、そういう、知らない人と話すような感じがありますよね。

みんなそこまでDJ好きなら、DJもやってる?

Canno:最近ちょっとずつ練習してて。

Minami:トミオと一緒に小さい場所でDJパーティもやったりしてますよ。

自分たちで12インチ・シングルを作るくらいだから、ターンテーブルを使う?

Canno:はい、俺はまだ練習中ですけど。

Minami:ライヴではPC使ってますが、DJは......。まあ、僕らの場合はバンドがメインで、たまにDJやってるぐらいだから。

今回の12インチではアルツさんみたいな大先輩がリミックスしているわけだけど、やっぱ声をかけるのに勇気がいる?

Minami:最初はもう......、いや、もうすごく勇気が入りましたね。

Canno:でも、話してみるとみんな優しいんですよ。それもまたクラブにハマった理由でしたね。最初はやっぱおそるおそる話しかけるんですが、いざ、実際に話したら、みんなすごく優しいんですよね。

Minami:「えーよー」みたいなね。

アルツさんとCMTさんっていうのは、バンドにとってホントに大きな存在なんだね。

Minami:とくにそうっすね。でも、ふたり、タイプは違いますよね。アルツさんにはワールドな感覚もあるし。

Canno:ジャンルにとらわれないDJが好きっすね。ヒカルさんも自分のジャンル持ってる感じだし。

今回のアルバムが2枚目になるわけだよね。ファーストは2010年に出しているけど、どんな感じだったんですか?

Minami:いまよりもポップですね。

クラブっぽいの?

Canno:いや、それをクラブと言ったらクラブの人に申し訳ないというか(笑)。

Minami:4つ打ちでしたね。

Okura:人力4つ打ちっていうかね。

タワーレコード渋谷店の国内クラブ・チャート1位だったわけでしょう?

Minami:いや、でも、まだ自分たちが目指している音を作れてなかったですね。

Okura:CDのなかに「MONK!!!」のディスカウントチケットを入れたんですよね。そうしたら、リリース・パティのときのそれを持って来てくれた子がけっこう多くて。


Dub Structure #9
POETICS IN FAST-PULSING ISLAND

dive in! disc

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なるほど。今回の『POETICS IN FAST-PULSING ISLAND』(※2012年12月発売)には、クラウトロックへのアプローチとクラブ・ミュージックへのアプローチと両方があるけど、それはバンドにとっての迷いって感じではない?

Minami:迷いはなかったでね。

Canno:能動的にやった感じですね。まさに、クラブとバンドの溝を埋めたいと思ってやったことだから。

ドイツにライヴに行ったんでしょ?

Minami:すげー楽しかったです。

Okura:ベルリンと、ケムニッツという田舎町とドレスデン。

Canno:ほぼベルリンだよね。

どういう経緯で?

Canno:最初にラウル・Kとか呼んだ頃から、もう、クラウトロックは大好きだったし、ドイツでライヴやりたいってずっと思ってって。それで......。ひょっとしたら「受けるんじゃないねー?」って(笑)。

Minami:「行ってみたくねー?」って。

Canno:日本でやってもそんなお客さんが入るわけじゃないし、まあ、可能性を探りに。あとは、もっといろんなレコード買えるんじゃないかと。今回のリリースにこじつけて、ブッキングを探して、行ってきたって感じですね。

Minami:無理矢理行ったんです。

ハハハハ。

Minami:まずは行くことが重要でした。

行って良かったことは?

Minami:自由があるってことですよね。

Canno:音に対しても寛容だし。

Minami:僕らはそこに住んでいるわけじゃないですからね、住んだらまた別でしょうけど。

まあ、ベルリンをデフォルトに思わないほうがいいけどね(笑)。ちなみに今回の『POETICS IN FAST-PULSING ISLAND』というタイトルの意味は?

Minami:やはり震災のことですよね。いろいろな意味で、その影響が出ているなって、アルバムが完成してから聴き直して思ったので。

ダブ・ストラクチャー#9としては、とくに今回のアルバムのどこを聴いて欲しいですか?

Canno:良い音楽を共有したいってことですかね。壁を崩したいっていうか。

Minami:わかりやすい話が求められていると思うんですけど、クラブでの経験って、そんなものとは違うじゃないですか。イメージというか、曖昧なイメージの積み重ねで、わかりやすくないじゃないですか。逆に言えば、そこを伝えたいっていうのはありますね。

ぜひがんばってください。ところで、アルバムには使用機材のクレジットが細かく記されているでしょう。ヴィンテージのアナログ機材から使用楽器まで。これは?

Canno:もう、そういうの大好きなんです。自分で(楽器屋を)やりたいくらいですね。

Minami:レコ屋と楽器屋が大好きなんです。

SEKITOVA - ele-king

Sekitova - Premature Moon And The Shooting Star
Zamstak

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 ele-kingの創刊は1995年1月、編集部を作ったのは1994年の秋、初めて友だちとクラブ・イヴェントを企画したのが1993年で、当時の僕はターゲットとする読者やオーディエンスの年齢層を訊かれたらはっきり「17歳」と答えていた。17歳に読んで、聴いて欲しい。企画書にもそう書いた。17歳、セックス・ピストルズの曲名にもあるし、大江健三郎の短編にも「セブンティーン」がある。
 セキトバは、昨年、17歳にしてデビュー・アルバム『PREMATURE MOON AND THE SHOOTING STAR』を発表したDJ/プロデューサーである。「1995年生まれの高校生トラックメイカー兼DJ」として騒がれてしまったようだが、彼のバイオを知らなくても、いや、知らないほうがむしろ『PREMATURE MOON~』を素直に楽しめるんじゃないかと思う。スムーズなグルーヴも心地よいが、繊細なメロディ、アトモスフェリックな音響の加減も魅力的で、デトロイトのジョン・ベルトラン風の優しいアンビエント・テイストもあれば、クルーダー&ドーフマイスター風のダウンテンポからスクリュー、お茶目な遊び心もある。その多彩な曲調、お洒落さ、そしてバランスの良さを考えると、ホントに17歳なのかと信じられない。が、彼は間違いなく、日本のクラブ文化の未来の明るい星のひとつなのだ。
 元旦生まれなので、数日前に18歳になったばかりのセキトバへのメール取材である。


何歳から、どのようなきっかけでハウス・ミュージックを作っているんですか?

SEKITOVA:はじめてDTMを触ったのが14歳の頃なんですけど、その頃はテクノやハウスよりもエレクトロをよりたくさん作っていました。理由は「ディストーションをかけるだけでなんかそれっぽい音が出たから」っていう安直なものなんですけれど。逆にテクノやハウスなんかは音をつくるのがとても難しかったので僕にはなかなかつくれませんでした......。当時はちょうどDigitalismやJunkie XL、Justiceなんかが情報として得やすかったのでそこからエレクトロやその周辺の影響を受けたということもありますね。
 年月を重ねるうちに技術があがってきて、自分のやりたいことが徐々に思い通りに出来るようになってきたので、じゃあ自分のやりたかったことをやってみようって意気込みで始めたのが現在のスタイルです。

子供の頃、ピアノなど、楽器を習っていたんですか?

SEKITOVA:4歳か5歳の頃から10歳の辺りまでまさにピアノを習っていましたが不真面目すぎてまったく上達しませんでした。当時は音楽よりサッカーに夢中で、ピアノ=女々しいと思っていたくらいですし。
 そこからは楽器を習ったりすることだとかは今日までまったくないですね。ただ学校でたまにあった民族音楽を聴く授業はとても好きでした。東南アジアやアフリカのダンサンブルなものがとくに好きで間違いなくいまの僕はそこから影響を受けている部分があります。

たくさんの音楽を聴いているようですが、ご両親からの影響ですか?

SEKITOVA:両親のほかに母方の祖父がジャズの好事家だったり、トラック制作をはじめた頃知り合った人たちにとてもライブラリがあったり周りからの影響はとても強いと思います。
 中学の頃には友だちの母親から立花ハジメやkyoto jazz massiveだとかのCDを貸してもらったりしてました。昔から音楽だけに限らずなにかと大人と接する機会が多かったわけです。
 またインターネットの発達で、年代や距離の障壁がより薄くなっていたことも大きな要因の一つですね。なにせいまはとても簡単にレアトラックにアクセスできる時代ですから。
 あ、もちろんテクノディフィニティヴも買いましたよ!

あ、ありがとうございます! 機材は何を使っているんですか?

SEKITOVA:けっこう驚かれるのですが、GaragebandというDAW(DTM)をつかっています。iMacに最初から入っているソフトウェアで、手軽に遊び始めてからずっとこれですね。最近ではほかの有料DAWも色々使ってみたりしたのですが中々慣れなくて・・・。
Garagebandをシーケンサーとして利用してそこに様々なプラグインやソフトシンセを導入する形でやっています。ハード機材が一切ないので2013年はまずMIDIキーボードを入手するところから始めたいです。

DTMはどうやって学びました?

SEKITOVA:「曲を作ってるうちに出来るようになっていく」というパターンがいちばん多いですね。どうしてもわからないときはインターネットの知恵を借りたりもしますが基本的に面倒くさがりなのでDTM上でだらだらしながら解決策を探す感じです。たまに○○が上手だなんて言われたりもするんですが僕自身技術なんてほとんど勉強したことがないので褒められても言われてる本人はよくわからなかったりします。

レコードとCDではどちらが好きですか?

SEKITOVA:どちらもいいところがあるので難しいですね......。というかあまり対立させるものでもないのでは、と思ったりもします(あるいはもう対立させて語ってもしょうがないのでは、という考え)。
 レコードはやっぱりかっこいいです。よく音質を語る際に「レコードの音には温かみが~~~」なんて言われますが、視覚的にもけっこう温度を持っていると思います。アナログDJの動作なんかはそれだけでヴィジュアライザ要素を果たしてしまうくらいにかっこいいです。
 CDは取り扱いの手軽さが良いですね。手軽ゆえにいろいろ工夫が出来たりして、それを考えるのも楽しいです。レコードショップのドッシリ感も好きなのですが、CDショップでたくさんのCDがズラッと無機質に並んでいるのもテクノ感があって素敵です。

少し前、20代前半の連中に取材したとき、テクノに興味持ってクラブに行っても「30過ぎたおっさんとおばさんしかいなかった」と言われたことがありました。欧米では若年層がメインですが、日本では違います。だから、もし自分がいま20歳前後だったら同じことを思ったかなーと思います。逆に言えばセキトバ君のような若い人がよくテクノを作っているなーと思ったんですが、この音楽のどこが魅力だったんですか? セキトバ君にとってのハウスやテクノの魅力をがんがんに語って下さい!

SEKITOVA:そもそもの話になっちゃうんですけど、僕はテクノをつくってるつもりなんです。DJをするときも作った曲にもどこかしら「ハウス」の文字が入ってしまう僕ですが、ハウスのなかにとてもテクノを感じる曲が好きだし、自分で作るときにも常に頭のなかにはテクノへの憧れと尊敬があります。だから、音的にはハウスかもしれないし、どちらかに言いきっちゃうならばハウスなんですけど、実際ハウスを作っているつもりっていうのはあまりないんです。
 僕が好きなテクノっていうのはその曲やアーティストの思想や哲学をついつい深読みしたくなってしまうようなもので、その思想や哲学を理性で考えさせてくれるのではなく、もっと直感的なところで感じさせてくれるものです。

自分と同世代の人たちにもハウスやテクノを聴いて欲しいと思いますか?

SEKITOVA:常々思っています。

セキトバ君の世代では、たぶん、洋楽を聴いている子すら少ないと思うのですが、音楽の趣味が合う人はいますか?

SEKITOVA:お察しの通り、同じ年代のDJやアーティストでもなかなか僕の好きなテクノ、ハウスについて一緒に同じ価値観から一晩明かせるような人はいないですね。当然学校にもまったくいないです。僕はポップスやほかのジャンルの音楽にあまり抵抗はないので、こちらから話を合わせることはできるし、話に困ったりすることってそんなにないんですけど、やっぱり自分のいちばん好きなところの話をもっと同世代としていきたいです。

自分と同世代や自分に近い世代の音楽って、どんなイメージを持っています?

SEKITOVA:これは難しい質問......。というのも音楽を聴くときにあまり年齢を気にして聴いたりはしない(文脈を踏まえて聴く時には勿論必要な情報にはなってきますけど)ので、イメージって言うイメージが特にないんですよね......。
 基本的に僕らの世代はもう時代やジャンル関係なくいろんな音楽を聴ける環境なので、いろんなルーツを持ってる人がいて面白いなぁとは思います。

DJはどういう場所でやっているんですか?

SEKITOVA:すごく真面目に答えるなら風営法をなぞりながら「そもそもクラブとはなにか」ってところから説明をしないといけないのですが、長くなるので、まず先に省略して答えるなら「DJセットがあって、それなりに音が出るところ」ですね。大阪や関西もそうですが、東京でプレイする機会もそれなりにあって、月に一回とかそのくらいのペースで東京に出てきています。現場でDJをやる前はよくustreamなどインターネットでもやっていました。

IDチェックがあるようなクラブに行けない年齢なわけですが、ハウスやテクノで踊るのも好きなんですよね? 

SEKITOVA:むしろそれがいちばん好きです。

ダブステップ以降のベース・ミュージックだは好きになれなかったんですか? 

SEKITOVA:詳しくはないですけど、けっこう聴いたりしますし、嫌いではないです。好きな曲もいっぱいありますよ。ただ長時間聴くのはやっぱり辛いですね。

とくに影響を受けたDJ /プロデューサーがいたら教えてください。

SEKITOVA:Dave DK、Kink、Tigerskin、Robag Wruhme、Christopher Rau、ADA、Henrik Schwarz
 ほかにもたくさんいるんですけど、いつも必ず頭に出てくるのは彼らです。

80年代や90年代に対する憧れはありますか?

SEKITOVA:これは説明が難しいんですけど、懐古主義的、再興的な意味での憧れは全然ないんです。あくまで自分の理想のサウンドを追求する過程で90年代や80年代の環境や音や世界観が必要になってくるって感じで。だから「80年代や90年代あるいはそれ以前に残されたもの」に憧れはあっても、時代そのものにはあまり憧れはないです。これから後世に憧れられるような時代を僕が作っていけたら素晴らしいですね。

IDMやエレクトロニカにいかなかったのは、やっぱりダンス・ミュージックが好きだからですか?

SEKITOVA:そんなことないですよ、って思ったけれど、やっぱりそうかも知れないですね。もちろんエレクトロニカもすきですが、それ以上にダンス・ミュージックが好きです。エレクトロニカのような技術をもってダンス・ミュージックのなかに分解再構築が出来ればまた理想のサウンドに一歩近づくので、そう言う意味ではこれからもどんどん制作手法としてIDMやエレクトロニカの研究は続けていきたいです。

テクノ以外でよく聴く音楽、これから追求してみたい音楽ってありますか?

SEKITOVA:もっと漠然に「趣味」として最近はヒップホップとか、そういう音楽に興味を持っています。仲の良い知り合いにbanvoxってエレクトロのアーティストがいるんですが、彼がとてもヒップホップに詳しくて、そこから情報をいつも得ています。もちろん音楽としても僕の好きなアーティストもBPMが遅くなっていく過程でヒップホップの要素を入れていったり、もともとヒップホップ上がりだったりなんて事もよくある話になってきたので、これからどんどん聴いていきたいです。

やっぱマルチネ・レコーズの存在は大きかったですか?

SEKITOVA:とても大きいですね。明確な目標のひとつとしても、自分のなかでのトピックとしても、計り知れない大きさがあります。マルチネのサウンドって手広いようで絞られていて、僕がそのなかにいるかどうかって言うと微妙な話なんですが、そのどれもがいろいろな方向に手を伸ばしていて、なおかつ一定以上のクオリティがあってとても影響をうけています。マルチネ主宰のtomadさんなんかはいつも次の一手が気になる存在だし、彼からも大きな影響を受けていますね。

自分の作った音楽を同級生に聴かせることはありますか? その場合、どんな反応がありますか?

SEKITOVA:限定して言えば、むしろはじめは僕の曲を聴いてくれるのなんて親しい男友だちのふたりだけでしたよ。それ以外はネットにあげてもまったくビューなんて伸びませんでしたし。その彼らがいまだに僕の曲を喜んで聴いてくれるのが「SEKITOVA」にとってもっとも嬉しいことのひとつです。彼らはいつも「すごい」と褒めてくれますが、まぁそれは身近な「僕」の事を知ってくれているからこその評価だと思っています。

 本題に戻って答えると、ほか不特定多数の同級生らに自分の音楽を聴かせることはこれまでまったくないですね。僕の名前は龍生って言うんですけど、SEKITOVAと龍生ってある意味では別人というか、なんというかそう言う感覚があって、普段龍生として接している人にSEKITOVAとしての一面を見せる事に違和感が結構あるんですよ。その逆の場合はそうでもないんですけどね。

曲名はどんな風に決めますか?

SEKITOVA:大体の場合は曲から連想するか、いいなと思った言葉をメモっておいてそこから想起して曲を作るか、です。どうしても出てこない時はツイッターとかで呼びかけてもらった答えからつけたりする場合もあります。
 どの場合も基本的に曲を作ってる時間と同じくらい曲名に時間がかかります。曲の世界観をイメージしてその世界の人やモノになりきってインスピレーションを沸かす事がよくあるんですが、たまに親とか姉に見つかって奇異の目でみられます。

アルバムのタイトル『PREMATURE MOON AND THE SHOOTING STAR』にはどんな意味がありますか?

SEKITOVA:もともと自然現象の名前にしようと思ってたのもありますが、僕のなかで「ノスタルジー」ってなんだろうって考えてたら、だんだん思考がそれちゃって、感傷に浸れるような世界ってなんだろうってことを考えるようになり、そのとき直感で出てきたのが思わず背筋が伸びるような、冬の朝の澄んだ青空に出る月だったんです。いわゆる昼の月というモノなんですけれども。それがビビッときてpremature moonとつけました。あとはさっきも書きましたけど名前が龍生なのでそこから音をとって英訳してshooting starとつけました。

アルバムの水墨画は何を表しているのでしょうか?

SEKITOVA:「空間」です。これは水墨画という手法に対してなんですけど。絵になったときに浮き上がってくる滲みであったり、基本的には白と黒の2色なんだけれども、濃淡によってとても表情豊かで眩しすぎるほどにその世界観を表してくれるところに、イーヴンキックのミニマルやダブ、そしてテクノの美学と通ずる所を感じて、という具合です。僕の好きな音楽の「空間」を絵画手法的に表すと、水墨画になるなぁと思ったんです。

DJ/トラックメイカーとしての将来の夢を教えてください。

SEKITOVA:良くも悪くも国内市場が大きくて、ガラパゴス化してしまっているが故の弊害がたくさんある音楽シーンに一石を投じられる存在になれればと思います。
 あと、DJとトラックメイクで生きていきたいです。もちろんセルアウト用の大衆主導のものじゃなくて、僕の好きな音楽だけを作り続けて。いろいろな考えがあるとは思いますが、大衆主導の音楽をつくったり、そういうDJしかしないのは、結局どこどこ勤めのサラリーマンと変わんないじゃんって気持ちがあって。もちろんそう言う人たちのことは本当にすごいと思いますし、サラリーマン自体のことも凄いと思っていますし、存在の必要性もわかっていますが、「僕が音楽で生きていくなら」、常にこちらから提示するアーティスティックな方向性でありたいです。
 そしていまの日本ではそういう生き方が尋常じゃなく難しいし、僕のやってるジャンルなら尚更も良い所なので、そう言う所のインフラ整備というか道も僕が作っていきたいなと思っています。
 ......という野望を達成するにはまだまだ実力も経験も足りなさすぎるので、そこをあげていく事が当面の目標です。

ありがとうございました! 最後に、オールタイムのトップ10 を教えてください。

1. Dave DK - Lights and Colours
2. Akufen - Fabric 17
3. Tigerskin - Torn Ep
4. Daft Punk - Alive 2007
5. Dr.Shingo - Nike+ Improve Your Endurance 2 / initiation
6. Chet Baker - Albert's House
7. MAYURI - REBOOT #002
8. Penguin Cafe Orchestra - Penguin Cafe Orchestra
9. Muse - H.A.A.R.P
10. Underwater - Episode 2

 厳選しすぎると10もいかず、ちょっと基準を緩めるとたちまち10どころか50、60となってしまって、この項目だけ1週間くらい悩んだのですが、やっぱりシンプルに思いついた順から答えていこうということで、こんな感じになりました。たぶんまだまだ経験が足りないのだと思います......。なのでトップ10というか、ここに書いてないものでも好きなのはたくさんあります。

 1はもう言わずもがな、僕が数少ない神と崇めているDave DKのアルバムです。彼はこのアルバム以外にもとても良い曲をたくさん作ってて、どれも本当に好きで、僕にとてつもない影響を与えています。

 2はAkufenによる名門FabricからのDJ MIX。
 Akufenといえば"Deck The House"がとても有名で、僕もそこから入ったんですが、こっちを聴いて本当に鳥肌が立ちました。もとより僕はクリック系の音数が少ないテクノやハウスが好きだったのはあるんですが、そこにグルーヴの概念を痛烈に刻み込んでくれたのは間違いなくこのアルバムです。

 4はおそらく中学2年生の頃、もっとも聴いたアルバムかもしれません。もともと僕が音楽なんて何も知らなかった頃に親が家でよくかけてたのが彼らの伝説的なアルバム、『Discovery』でした。そういう経緯もあってDaft Punkはどのアルバムもとても好きなんですが、その好きな曲たちがこの1枚に凝縮されてるのがたまらないです。ライヴ盤なので生のグルーヴがあるのが本当に良いです。もちろん出てる音はエレクトロニック・ミュージックに基づいた電子の音で、途中途中のアレンジも事前に仕込んだものとはわかってはいるのですが、それでもお客さんのあげる歓声の熱気や空気感から、最高に生のグルーヴが僕に伝わってくるんです。

 7は小学生の頃よく親がかけてました。その頃はうるさくて嫌いだったんですが、あるとき自分から指を伸ばして聴いてみたら、なにかが違って聴こえた感じがしました。ほんとに衝撃というか、いままで意識せずに聴いてきた音楽たちが、その瞬間にすべて脳内でつながった感覚をいまでもよく覚えています。このアルバムのバイオによるとMAYURIさんはセカンド・サマー・オブ・ラヴをリアルタイムで経験していたそうですが、僕にとってのサマー・オブ・ラヴは、間違いなくこのアルバムです。ちなみにこれに入ってるChester Beattyの"Love Jet"ネタのトラックはマジで超ヤバイです!

SEKITOVA
1995年、元旦生まれの高校生トラックメイカー兼DJ。14歳の頃よりDTM でのトラックメイク、16歳でDJとしてのキャリアをスタートさせる。2011 年にはインターネット・レーベル『Maltine Records』よりEP をリリース。その認知度をより深めた。初期には幅広いジャンルの制作を行っていたが次第にルーツであるミニマルテクノやテックハウスにアプローチを寄せるようになる。中でも昨年末にsoundcloudにて発表したアンビエンスなピアノハウストラック『Fluss』は大きな評価を得て、日本のみならずドイツなど本場のシーンからも沢山のアクセスを受けた。DJとしても歌舞伎町Re:animation、新宿でのETARNAL ROCK CITY Fes. への出演など大規模イベントへのブッキングも増えており、これからの活動に期待が寄せられる。

https://sekitova.biz
https://iflyer.tv/SEKITOVA
https://soundcloud.com/SEKITOVA
https://twitter.com/SEKITOVA
https://twitter.com/SEKITOVA_INFO

Dean Blunt - ele-king

 戦争中から戦後にかけて、センチメンタリズムは氾濫した。それは、いまだに続いている。しかし、わたしには、その種のセンチメンタリズムは、イデオロギーぬきの生粋のセンチメンタリストに特別にめぐまれているやさしさを、いささかも助長するようなシロモノではなかったような気がしてならない。
──花田清輝

 DLカードが入っていたのでアドレスを打ち込んでみたが、何の応答もない。彼ららしい虚偽なのかもしれない。だいたい世相が荒れてくると、人はわかりやすいもの、真実をさもわかった風に言うもの、あるいは勇ましい人、あるいは涙に支配された言葉になびきがちだ。未来はわれらのもの......この言葉は誰の言葉か、ロックンローラーでもラッパーでもない。ヒトラー率いるナチスが歌った歌に出てくるフレーズである。
 こんなご時世にロンドンのディーン・ブラントとインガ・コープランドという嘘の名前を懲りずに使用する、ハイプ・ウィリアムスというさらにまた嘘の名前で活動しているふたりの男女は、相も変わらず、反時代的なまでに、嘘しか言わない。希望のひと言ふた言でも言ってあげればなびく人は少なからずいるだろうに、しかし彼らはそんな嘘はつけないとばかりに嘘をつき続けている。

 DLカードが虚偽かどうかはともかく、『ザ・ナルシストII』は、ディーン・ブラントを名乗る男が、もともとは昨年冬に(『ブラック・イズ・ビューティフル』とほぼ同時期に)フリーで配信した30分強の曲で、金も取らずに自分の曲を配信するなんて、まあ、そんなことはナルシスティックな行為に他ならないと、間違っても、なるべく多くの不特定多数に聴いて欲しいからなどというつまらない名分を口にしない彼らしい発表のした方を選んだ曲(というかメドレー)だった。それから半年後になって、〈ヒッポス・イン・タンクス〉からヴァイナルのリリースとなったというだけの話だ。

 映画のダイアローグのコラージュにはじまり、ダーク・アンビエント~R&Bの切り貼りにパイプオルガン~ヴェイパーウェイヴ風のループ~ギター・ポップ~ノイズ、ダウンテンポ、R&B、アシッド・ハウス......ディーン・ブラントは一貫して、腰が引けた情けな~い声で歌っている......インガ・コープランドと名乗る女性が歌で参加する"ザ・ナルシスト"は、最後に彼女の「ナルシストでした~」という言葉と拍手で終わる......そのとたん、ライターで火を付けて煙を吸って、吐く、音楽がはじまる......。『ザ・ナルシストII』は、時期的にも音的にも『ブラック・イズ・ビューティフル』と双子のような作品だが、こちらのほうが芝居めいている。催眠的で、ドープで、ヒプナゴジックだが、彼らには喜劇的な要素があり、そこが強調されている。
 正月の暇をもてあましていたとき、エレキングからネットで散見できる言葉という言葉を読んで、この世界が勝ち気な人たちで溢れていることを知った。勝ち気と自己肯定の雨あられの世界にあって、怠惰と敗北感と自己嘲笑に満ちた『ザ・ナルシストII』は、微笑ましいどころか清々する思いだ。
 しかも、正月も明け、ゆとり世代の最終兵器と呼ばれるパブリック娘。が僕と同じようにこの作品を面白がっていたことを知って嬉しかった。音楽を鼓膜の振動や周波数ないしは字面のみで経験するのではなく、それらが脳を通して感知されるものとして捉えるなら、真っ青なジャケにイタリア語で「禁止」と描かれたこの作品の向こうに広がっているのは......苦境を生き抜けるなどという啓蒙すなわち大衆大衆と言いながら媚態を呈する誰かとは正反対の、たんなるふたりのふとどきものの恋愛の延長かもしれない。

Christopher Owens × Sintaro Sakamoto - ele-king

 親愛なる読者のみなさま、明けましておめでとうございます! 本年もよろしくお願い申し上げます。さて、以下の対談は、昨年12月上旬の、雨も降る肌寒い夜にやったものですが、2013年はふたりの素晴らしい新作ではじまります。どうぞ、お楽しみください。


クリストファー・オウエンス - リサンドレ
よしもとアール・アンド・シー

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坂本慎太郎 - まともがわからない
zelone records

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 クリストファー・オウエンスがツイッターで呟いた、「坂本慎太郎に会いたい!」という一文を読んで、興奮した。もしこのふたりの対談が実現したら......という思っていた矢先だった。
 人生とは本当に面白い。編集長から、「再来週クリストファー・オウエンスが来日するんだけど、菊地君はガールズのこと超大好きだったよね。こないだのSXSWでもガールズ見たっていったよね? 取材やらない?」と電話がかかってきた。ガールズを解散後の最初のアルバム『リサンドレ』(1月9日発売予定)のプロモーションのための来日だという。ちょうど、坂本慎太郎も新しいシングル「まともがわからない」(1月11日発売予定)のリリースを控えている! 
 そして、この企画はトントン拍子で実現へと進んだ.....んだけれど......取材当日、まさかの「クリストファー・オウエンスが飛行機に乗り遅れました」という連絡......まじっすかーーーー(笑)!
 しかし、この企画に関わったみんながふたりの対談を望み、日程を調整してくれたおかげで中止は逃れた。
 2012年の寒い雨の夜、取材場所に到着するとクリストファーは部屋で待っていた。取材する我々ひとりひとりに丁寧に挨拶&「ごめんなさい」を言いながら、そして、時間通りに坂本慎太郎が入ってくると、彼の笑顔は最高潮に達するのであった......。

山積みになったレコードのいちばん奥底に坂本慎太郎さんのレコードがあって、それを聴いたらすぐに好きになったよ! 実際、他のレコードは全然気に入らなかったから全部アメーバに売っちゃったんだ(笑)。唯一キープしたのが坂本さんの『幻とのつきあい方』だったってわけ。

ではさっそくですが、はじめさせていただきますね。

クリストファー・オウェンス:あの、最初の日から変更になってしまって本当にごめんなさい......。

坂本慎太郎:ああ、全然大丈夫です。

そもそも今回は、クリストファーさんが坂本さんに会いたいということで実現した対談なのですが、まず、クリストファーさんはどういったきっかけで坂本さんを知ったのですか?

クリストファー:えっと......、ガールズはアメリカでは〈マタドール・レコード〉からリリースしてたんだけど、ガールズを脱退してソロになったときに、僕は1年契約を結びたかったんだよね。でも〈マタドール・レコード〉はそれが嫌だって言ってきたから、〈ファット・ポッサム〉へ移籍したんだ。っで、〈ファット・ポッサム〉はアザー・ミュージックのレーベルもやっていて、僕がソロ・アルバムを作るときに、彼らがリリースしているレコードを僕の家に一箱ドンと全部送りつけてくれて、その山積みになったレコードのいちばん奥底に坂本さんのレコードがあって、それを聴いたらすぐに好きになったよ! 実際、他のレコードは全然気に入らなかったから全部アメーバに売っちゃったんだ(笑)。でも唯一キープしたのが坂本さんの『幻とのつきあい方』だったってわけ。

坂本:センキュー・ベリー・マッチ。

ちなみに、坂本さんはクリストファーさんのことをご存知でしたか?

坂本:いや全然知らなくて(笑)、いまの海外の新譜とかをチェックすることがあんまりないので、ガールズも全然知らなくて、今回この対談の話をいただいて、過去の作品を送ってもらって、それではじめて

おっ! ではガールズなどの作品も聴いていただいたということですか?

坂本:はい、聴いてきました。

どうでした!?

坂本:ああ、良かったですよ(笑)。

では、クリストファーさんは、具体的に坂本さんの音楽のどういったところにグッと惹かれましたか?

クリストファー:僕、いまのインディってあんまり好きじゃないんだ。いわゆるシューゲイズ・リヴァイヴァルとか、エレクトロニック・ポップの流行とかね。もともと昔ながらのクラシックなロックンロールとか、ポップ・ミュージックが好きなんだけど、『幻とのつきあい方』を聴いたときに、テイストっていうか、趣味が最高によくて、本当にパーフェクトなアルバムだと思ったよ! アレンジがものすごく好きだし、演奏もよくて、品のあるアルバムだと思ったね! おかしいのは、歌詞が全然分からないのにこんなに惹かれて、歌詞がなくても成立する、ジャズを聴くような感覚で聴きまくったんだ。とにかく、このアルバムのプロダクションが大好きで、ハーモニカのソロなんかはいままで聴いたなかでも最高のものだったし、コンゴとか、サックスとか、フルートとかも最高! あと、バック・ヴォーカルもすごい好きで、実際そのことについていろいろ聞こうと思ってたくさんメモをとってきたんだけど......(恥ずかしそうにメモをバッグから取り出す)。

はははははは。今日はいくつか質問を考えてきてもらったということですね(笑)。

クリストファー:うん(笑)。

"詞"というものが少なからずインパクトを与える坂本さんの音楽を、海外のミュージシャンがこう評価しているのに対してどう思いますか?

坂本:えっと、自分は20年くらいバンドをやってきて、それを解散したあとこのアルバムを作ったんですけど、ひとりで部屋にこもって、いちばんそのときに作りたかった曲を作って、自分では気に入ったものが出来たんですけど。うーん、まあ外国ではウケないと思ってたんで

(笑)

坂本:普通の音楽っていうか、地味だし、すごいこだわってるのが微妙な部分なんですけど、そういうのが伝わるのかなっていうのがあったので、そういう言葉が分からない外国の人が気に入ってくれてるっていうのはすごい嬉しかったです。

おふたりの新しい音源を聴かせていただいたのですが、それぞれ聴き比べてみると、かなり似た部分があるような気がしました。

野田:うん、ソング・ライティングというか、中心にあるのが歌っていうところがまず似てるかなっていう。

クリストファー:偶然ながら、はじめてサックスとかフルートを使ったアルバムだったから、坂本さんのアルバムを聴いたときは「ワォー!!!」って感じだったよ(笑)! でも同時に全然違ったアルバムだとも思うね。だって坂本さんの音楽はすっごいファンキーだけど、僕は全然ファンキーじゃないからね(笑)。

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自分は外国のレコードを主に聴いて育ったので、音楽聴くときは歌詞が何語でも気にしないんですけど、一応こだわってやっているんですが、音として聴こえて面白い日本語っていう側面でも作ってるので、意味がわからなくても楽しめるとは思うんですが、うーん、まあ、歌詞読んでもいいと思います(笑)。


クリストファー・オウエンス - リサンドレ
よしもとアール・アンド・シー

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坂本慎太郎 - まともがわからない
zelone records

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(笑)。ではさっそくですが、せっかく質問を考えてきてもらったということで(笑)。

クリストファー:オーケー(笑)。もういくつか答えてもらっちゃったんだけど、まずは、今日は本当にありがとうございます! じゃあ、えっと、最初の質問は(メモをめくる)............。僕は詞っていうのものが大好きだから、歌詞は僕にとってすごく大きなものなんだけど、たとえば、僕セルジュ・ゲンズブールが大好きでよく聴くんだけど、歌詞自体フランス語で何を言ってるのかわからないから、単純に音楽性に惹かれてるんだよね。んで、坂本さんの場合は、歌詞ってものがどのくらい重要で、僕は果たして、英語に翻訳したものをちゃんと読むべきなのか、それとも読まないでもいいのかっていう。

坂本:そうですね、えーと、自分は外国のレコードを主に聴いて育ったので、音楽聴くときは歌詞が何語でも気にしないんですけど、自分でやるときはなんでもいいっていうわけじゃなくて、一応こだわってやっているんですが、音として聴こえて面白い日本語っていう側面でも作ってるので、意味がわからなくても楽しめるとは思うんですが、うーん、まあ、歌詞読んでもいいと思います(笑)。

(笑)

クリストファー:オーケー(笑)、トライしてみるよ!

坂本:すごく日本語をロック・サウンドとかにのせるっていうのが難しいって長いあいだ言われてて、けっこうダサイ感じになっちゃったり、失敗してる例がいっぱいあるんですけど、そこをなるべく上手くやろうっていうふうにやってきた感じで。まあ、自分はなんかアジアのロックとかそういうわけ分かんないロックを聴いて楽しむ感じがあるんですけど、自分のレコードもそういう感じでいいです。

(笑)

クリストファー:もうすでに日本語のロックンロールとしてサウンドを楽しんでるけど、もちろん歌詞の意味もわかったらいいなって思ってね。そういうチャンスがあれば誰か訳してくれないかなーって思ってるよ。あと、女の子のバック・ヴォーカルもすごく気に入ったんだけど、クレジットを見たら三人の名前が書いてあって、そこにはそのうちのひとりがそのなかのリーダーだって書いてあったんだけど、実際のアレンジとしては坂本さんが全部バック・ヴォーカルを決めて、彼女たちに頼んだのか、それともある程度オープンな状態で彼女たちにやってもらって、彼女たちがアレンジをやった部分があるのか、それと、そのリーダーってクレジットされてる女性が誰なのか知りたいんだけど。

坂本:えっと、リーダーはなくて、リーダー............えっと

クリストファー:アレンジみたいなところに名前がひとりクレジットされてたと思うんだけど、彼女が友だちなのか、どういう人なのか気になって......えっと、たぶん、ジュンコ・ノギさん?

坂本:えっと、3人は同じ曲では歌ってなくて、曲によってひとりが何個も歌って、重ねて。えっと...(資料を見ながら)、1曲目と8曲目はそのノギさんがアレンジも考えて歌ったんですけど、その他の曲は僕が考えたラインを他の人に歌ってもらいました。

クリストファー:ノギさんは友だち? 他にどんな活動をしてるの?

坂本:ママギタァっていうバンドをやってて、今日持ってくればよかったんですけど、2月にアルバムを出して、僕のレーベルからリリースしました。僕がベースを弾いて、出しました。

クリストファー:アー! オーケー! 聴いてみる!!

坂本:持ってくればよかったですよ。

クリストファー:ハーモニカの人も友だち?

坂本:ハーモニカの人は、はじめて会った人なんですけど、初山博という年配のベテランのジャズの人で、ビブラフォンとクロマチックハーモニカなんかの名手と言われている人を紹介してもらって。

クリストファー:僕も今回ちょっと年上のジャズ・ミュージシャンの人を紹介してもらって一緒にやったから、似たような経緯だね。

坂本:そうですか。

クリストファー:えーっと、よし、オーケー、じゃあビッグ・クエスチョン。「スゴイ・クエスチョン!」(とっても緊張しながら)。

おお(笑)?

クリストファー:坂本さんは、他の人のアルバムをプロデュースしたことってありますか? 

坂本:うーん、まだやったことないですねー。

クリストファー:でも興味を持たれることはありますか? えっと、つまり、その............、僕のレコードのプロデュースをやってくれることってないかな?

坂本:うーん、ちょっと、いや、そうですね、あのー(苦笑)。

一同:(笑)

坂本:いや興味はあるんですけど、あんまり軽く言っちゃうとすごいあれなんで(笑)

クリストファー:オフコース! ここで「イエス」って言ってもらうつもりはないから大丈夫だよ。自分のアイデアとして思いついて、可能かどうか聞いてみたかったんだ。

坂本さんは、salyu x salyuなどで詞を提供されていたりするので、坂本さんがクリストファーさんに日本語の曲を提供して、それをクリストファーさんが実際に日本語で歌ったら面白いかもですね(笑)。

一同:(笑)

クリストファー:オーケー(しっかりsalyu x salyuをメモ用紙に書く)、じゃあ次の質問ね。僕はこの何年かのあいだ、ずっと日本でツアーをやりたいと思っているんだ。東京と大阪だけじゃなくてね、日本の小さな町なども廻りたいと思ってる。でもなかなかそれが実現しなくて......。アメリカとかヨーロッパなんかは10代のバンドがそうやってインディペンデントなツアーをずっと廻ったりして、それを観た更に若いキッズたちがバンドを作ったりしてるんだけど、日本はどうなのかな? あと、実際に僕がそれをやることの意味とかっていうのも気になるんだけど...

坂本:いいと思いますよ。日本のバンドも皆やってますね。車で運転して、小さい町に行くっていうのは皆やってるし、まあ、すごく狭いので、アメリカ・ツアーよりも全然楽だと思いますよ。

僕がはじめてガールズを聴いたときって、僕はまだ18歳とかで、もちろん僕も英語の歌詞が全部わかるわけではなかったんですけど、フィーリングだったり、どこかで同じ気持ちを共有できた気がして、すごく助けられました。なので、それは是非実現してもらいたいですね!

クリストファー:イェー! ティーンエイジャー! じゃあ、これが最後の質問ね。クラシック・ジャズは好きですか? モダンじゃないジャズ・ミュージック。

坂本:全然詳しくないですね。嫌いとかではないんですけど、いままで聴いてきてないので、よくわからないかなー。

クリストファー:何枚か僕が好きなレコードを送ったら聴いてくれる? 最近なぜかジャズをすごい聴きはじめてね。いきなり一つ大きな世界が開けたみたいにインスピレーションを受けてるんだ。もしかしたら興味を持ってくれるかなって思って聞いてみたんだけど。

坂本:たとえばどういうの?

クリストファー:コルトレーンとか、チャーリー・パーカーとか、マイルス・デイヴィスとか、チェット・ベイカーみたいな本当にスタンダードなやつ。細かいのは僕も全然知らないんだけど、最近聴きはじめて本当に気に入ってるんだ。

坂本:その辺の有名なところは、一応昔聴いたんですけど、他のジャンルを買うのに忙しくて、ジャズはまだ追求してないので、他が終わったら聴いてみます。

(笑)

坂本:でもチェット・ベイカー・シングスはヴォーカル・アルバムとして、昔から本当に好きです。

クリストファー:クール! 僕もだよ。えっと、これで一応終わりなんだけど、とにかく、素敵なアルバムと、今日という機会を作ってくれて本当にありがとう!

坂本:ありがとうございます。

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最初にアルバムをもらって聴いてて、さっき名前が出たから言うわけではないんですけど、コンセプトにしろ、ゲンズブールの『メロディ・ネルソンの物語』に近い印象を持ったんですけど、その辺を意識してたりするんですか?


クリストファー・オウエンス - リサンドレ
よしもとアール・アンド・シー

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坂本慎太郎 - まともがわからない
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ではせっかくなので、逆に坂本さんがクリストファーさんに聞きたいことってありますか?

坂本:最初にアルバムをもらって聴いてて、さっき名前が出たから言うわけではないんですけど、コンセプトにしろ、ゲンズブールの『メロディ・ネルソンの物語』に近い印象を持ったんですけど、その辺を意識してたりするんですか?

クリストファー:ゲンズブールは昔から僕のアイドルで、すごい影響を受けてるんだけど、あまりにも偉大でクールな人だから僕と比較は出来ないよ(笑)。『メロディ・ネルソンの物語』は映画のサウンド・トラックっていう側面がかなり大きいよね。そこは僕のアルバムと違うところだけど、あのレコードも、ひとりの女性のキャラクターっていうのが中心にあって、それに基づいたレコードだから似てる部分もあると思うし、もっと大きな意味での影響はいままでものすごく受けてきたはずだよ。

坂本:あと、出身はサンフランシスコですか?

クリストファー:うん。

坂本:サンフランシスコは行ったことがないんですけど、知り合いのミュージシャンの話では凄い面白い場所で、世界で一番狂ったところだって聞いてるんですけど、いまのサンフランシスコの音楽のシーンっていうか、自分が所属しているシーンみたいなものがあるのか、もしくは孤立してひとりでやってるのかっていうのが気になったんですが。

クリストファー:音楽シーン自体はあるよ。ヘヴィーなガレージ・ロックとかサイケデリック・ロックとかね。皆友だちだし、僕は彼らの音楽が大好きなんだけど、音楽性としては、僕は孤立していて、彼らと違った音楽をやっているっていう感覚は少なからずあるかな。

坂本:なんかそういう実験的な、アヴァンギャルドなシーンとか、パンクのシーンがあるのかなって思ったんですけど、歌をメインでやられているので、ライヴとか普段どういうところで、どういう感じでやってるのかなと思ったんですよね。

クリストファー:ガールズのときはもうちょっとロックンロールなショーをやっていたんだけど、今回のアルバムに関してはこれまでのライヴとはまったく違うような感じだね。カーテンがあって、座席があって、画が飾られているような、古くて小さい劇場で、アルバムを最初から最後まで演奏するような感じ。

サンフランシスコでは、日本の音楽がどれくらい浸透していて、実際にどれくらい聴かれているんですか? 

クリストファー:サンフランシスコ自体はとっても大きな日本人街があるし、そこで音楽を売っているお店もあるから、アクセスしようと思えば出来るんだけど、僕も最近は新しい音楽を追いかけたり、どんどん掘り起こしていったりしなくなったから、日本の音楽は全然知らないんだよね。たぶん、坂本さんのレコードも、送られてこなかったら聴いていなかったかもしれないし、なかなかそういう機会はないかもね。

じゃあ、坂本さんがクリストファーさんに「この日本のアーティストは絶対聴くべきだ!」っていうをここで教えるのはどうですか?

クリストファー:イェー!!! やろう!!!

(笑)

クリストファー:実は今回の来日でいくつか変わったレコードを買ったんだけど、えっと、ぴんからトリオとか(笑)。

一同:おお(笑)!!

クリストファー:あと坂本九とかね。テレビでたまたまやってたから買ったんだけど(笑)。

坂本:どういうのが好きなんですか? というか、どういうのが聴きたいの?

クリストファー:うーん、僕のレコードに近いっていうか、日本の伝統的なフォークみたいな、歌ものの影響を感じられるロックとかポップとか。あとは女性のバック・コーラスがいいやつと、ゆらゆら帝国に似ているものも聴きたいな。

坂本:そのママギタァを持ってくればよかったんですけど(笑)。

一同:(笑)

坂本:最近自分が買ったのだと、八代亜紀がジャズ歌ってるやつ。あれは日本の古い歌も入ってるし、いま売ってるので、いいかもしれないですけど。

クリストファー:クール!

坂本:なんでしたっけ? あ、『夜のアルバム』だ。さっき古いジャズって言ってたから、日本の歌謡曲みたいな感じでぱっと浮かんだんですけど。うーん、でもいっぱいあるなぁ。じゃあ、なんか今度まとめて送ります。

クリストファーさんは、コーネリアスをご存知ですか?

クリストファー:まだちゃんと聴いてことはないんだよね。名前は聞いたことあるんだけど。今回たくさん取材を受けたんだけど、どこかの雑誌で見た気がする。

先ほど言っていた、salyu × salyuは、コーネリアスの小山田圭吾さんという方がアルバムをプロデュースされていて、そこに坂本さんが詞を提供されてるんですよ。

クリストファー:サウンズ・グッド!!!! ありがとう、聴いてみるよ。

では、あと少しで今年も終わってしまいますが、お互い、今年1年を振り返っていかがでしたか?

クリストファー:ふーーーーー。

(笑)

クリストファー:とってもクレイジーだったよ。ガールズを脱退したのが大きくて、僕にとっても辛い決断ではあったんだけど、でもそうしなきゃいけなかったんだ。すごくパーソナルなこともいくつか起こったし、はじめてソロ・アルバムも作った。本当に目まぐるしい1年だったね。

坂本さんはいかがですか?

坂本:僕はなんにもない、抑揚のない1年でしたね。

一同:(笑)

来年は、何か動き出したりはしないんですか?

坂本:動かないですね。まあ音楽はずっと家で作ると思うんですけど。淡々と作業する感じで。

次のアルバムも自分のタイミングで出す感じですか?

坂本:そうですね。凄いことは何も計画したりはしてないですね。

クリストファーさんは?

クリストファー:まず、またここに戻って来ること。あと、本当に日本をツアーするっていうのは大きな目標だね。このアルバムをリリースしたら、アメリカとヨーロッパでツアーをやる予定なんだけど、日本に関しては東京が出来るかなっていう状況で......。本当はさっきも言ったように、いろんなところでライヴをやりたいんだけど、何かそのためのアイデアとかってないかな?

坂本:僕はライヴやってないのであれですけど、精力的にライヴやってるいいバンドと友だちになって、車に乗せてもらって、ギター持って、やればいいと思います。

一同:(笑)

でもそれはメディアが頑張らなくていけない部分でもあると思うので、僕も頑張ります!

坂本:ちなみに『リサンドレ』の日本盤出るんですか?

〈よしもとアール・アンド・シー〉さんから出ます。

坂本:じゃあレーベルの人がブッキングしてくれますよ。

クリストファー:やらせます!!

本当に今日のこの対談が、お互いの何かのきっかけになればといいなーと、素直にそう思います。僕は坂本さんのライヴにも期待していますので。

坂本:ああ、そうですか。

クリストファー:とにかく僕はこのアルバム(『幻とのつきあい方』)の大ファンだから、いつか「僕と一緒にやりませんか?」って本当に連絡するかもしれないけど、そのときはよろしくお願いします!

坂本:あ、はい(笑)。

最後に何か言いたいことありますか?

クリストファー:えっと、坂本さんと一緒に写真撮っていいかな(笑)?

一同:(笑)


 坂本慎太郎の独特な間合い、滅多に表情を変えない、独特な佇まいと、初恋の人に会うようなクリストファー・オウエンスのあからさまにウキウキしている感じとの対照的なふたりが面白かった。あらためて、良い音楽は国境を越えることを知った。
 最後に、クリストファー・オウエンスの傑作『リサンドレ』についても触れておこう。インタヴュー中の彼の表情にも、自由を手に入れた嬉しさと自信が垣間見れたが、『リサンドレ』は、本当にトレンドなど無視して作った、ただの、素晴らしいポップ・アルバムだ。「さあまたはじめよう、前に進まなくちゃ」と、"ヒア・ウィ・ゴー・アゲイン"からはじまる『リサンドレ』は、対談中でも触れているように、女の子との出会いと別れが描かれている。セルジュ・ゲンズブールの『メロディ・ネルソンの物語』のようなフィクションが語る真実がある。

 個人的に2012年は本当にいろんなことがあった。大学を正式に辞めて、イヴェントやって、糞みたいなバイトで貯めたお金でアメリカ行って、上半期は本当に活動的だった。下半期は何もやらなかった。僕も前に進まなくちゃ。そう思っているあなたも、ぜひ『リサンドレ』を手にとって聴いて欲しい。彼は、2013年はあなたの街のライヴハウスにもやって来るかもしれないし。

 撮影が終わってもふたりは名残惜しむように話している......。「今度は新宿のゴールデン街で飲みながら話しましょう」と坂本慎太郎。クリストファーも目をキラキラさせながら「いいね」と言う。「それか、思い出横町とか」、「うんうん」とクリストファー......。編集長にあとで聞いたら、この手の対談で、ちゃんと質問までメモってくるような人はわりと珍しいとのこと。お互いのリスペクトがわかる、良い雰囲気の良い対談だった。

 そんわけで、2013年も音楽を聴きまくりましょう!

interview with Darkstar - ele-king

E王
Darkstar - News From Nowhere
Warp/ビート

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 公園のベンチに座るのが好きだ。色や匂いが違う。ただそれだけのことだが、ダークスターの『ニュース・フロム・ノーウェア』はその感覚を押しひろげているように感じる。その点で言えば、ビーチ・ハウスの『ティーン・ドリーム』を思わせる。USインディ音楽のドリーム・ポップがUKの湿った土壌で醸成されたというか、いずれにせよ、この音楽にはもうUKガラージやダブステップの記憶はほとんどない。

 ダークスターは、2009年末、〈ハイパーダブ〉からの12インチ・シングル「エイディーズ・ガール・イズ・ア・コンピュータ」によって大々的な注目を集めている。当時はふたり組だったが、その後3人組となった。後から加入したジェイムス・バッテリーはヴォーカリストだ。彼が入る前の「エイディーズ・ガール・イズ~」や「ニード・ユー」は、初音ミクよろしくコンピュータのソフトウェアが歌っている。
 2009年といえば、ダブステップが多様化を極めようとしていた時期だ。ブリアルの影響下でマウント・キンビーやジェームズ・ブレイクが登場、あるいはラマダンマンやSBTRKT、ジョイ・オービソンらが頭角を現していたが、ダークスターのエイデン・ウォーリーとジェイムス・ヤングは他の誰とも違ったアプローチを見せた。それは、ちょっとクラフトーク風の、ロボティックなシンセ・ポップだった。そして、3人組となって録音、2010年の秋にリリースされたデビュー・アルバム『ノース』では、明らかに、がつんと、バッテリーの甘い歌声を活かした楽曲を披露した。それはイングランド北部の喪失感をえぐり出すような、暗く寒い音楽だった。
 しかし、『ノース』は素晴らしいアルバムでもあった。90年代の〈モワックス〉からDJシャドウが、あるいはアイルランドからデヴィッド・ホームズが出てきたときのようなイメージと重なる。憂鬱が今世紀のクラブ・サウンドのなかで見事に音像化されている。いわば灰色の魅力だ。
 対して2年ぶりのセカンド・アルバム──〈ワープ〉移籍後の最初のアルバムとなる『ニュース・フロム・ノーウェア』は、前作以上に、多彩なテクスチャーを見せている。アルト・ジェイの電子版とでも形容できそうな、聴き応え充分のアルバムだ。たとえばこの曲とか。



最初にたまたま作った音楽がダブステップだったっていうのはあるけど......でもいつももうちょっとメロディのある歌ものを作っていたんだ。

そもそもダークスターという名前はどこから来たんですか? 

ジェイムス・ヤング:ダークスターという名前は......なんだろう、ダークな感じっていうだけなんだけど......。最初は『ダークスター』っていうレコードから名前をとったんだ。それで『ダークスター・ヒューマノイド』っていうのにしようと思ってたんだけど、変な名前だなーと思って短くしたんだよ。

オリジナル・メンバーのふたり(エイデン・ウォーリーとジェイムス・ヤング)はどうして出会ったのでしょうか?

エイデン・ウォーリー:もともと僕とジェイムス(Buttery)は友だちだったり、みんなバンドをやってたり、そして全員同じロンドンの大学に通う仲間だった。僕とジェイムス(Young)は当時同じ寮に住んでたりもした。それでジェイムス・ヤングと一緒にダークスターをはじめて、その後ジェイムス・バッテリーも誘って一緒にやりはじめたんだ。ロンドンの東にあるハックニーを拠点に音楽を制作しはじめて、それでいくつか曲ができはじめたって感じで、自然にはじまったっていう感じだね。

ダークスターにはいろんな音楽からの影響を感じますが、音楽をやりはじめたきっかけは、やはりダブステップだったんでしょうか? それとも、別の契機があって作っていたところに、たまたまダブステップが流行っていたから乗ったんでしょうか?

ジェイムス・ヤング:まぁ最初にたまたま作った音楽がダブステップだったっていうのはあるけど......でもいつももうちょっとメロディのある歌ものを作っていたんだ。

ジェイムス・バッテリー:僕たちはいろんな音楽を聴くんだ。もちろんエレクトロニック・ミュージックはたくさん聴くけど、バンドの音楽も聴くし。僕たちはいろいろなものを聴くから"コレ"っていうものにカテゴライズできないと思うよ。もちろんダブステップからはじまってその上にいろいろな音楽の要素が乗ってる感じだね。

〈2010 Records〉は自分たちの自主レーベルだったんですよね? 初期のシングルはダブステップのスタイルでしたが、2007年当時は誰からの影響が強かったのでしょうか?

エイデン・ウォーリー:そうだよ、自分たちを表現するためにもいいかなと思ってさ。さっきも話したけど、最初はダブステップからはじまったけど、僕たちはいろいろなジャンルの音楽を聴くし、とくにカテゴライズしてないと思うよ。

それが2008年に〈ハイパーダブ〉から出した「Need You」あたりから変わっていきますよね。そして2009年の「Aidy's Girl Is A Computer」でいっきに変化を遂げる。実は僕は「 Aidy's Girl Is A Computer」が最初だったんですけど、聴いて一発で好きになりました。ダークスターを語るうえで逃せない重要なシングルだと思いますが、当時、ここで音楽性がいっきに拡張して、ダブステップとは別の方向性を見せた理由は何にあったのでしょうか?

エイデン・ウォーリー:たぶんここ最近の作品は「Aidy's Girl Is A Computer」の手法と同じように作っているからそういう印象を受けるのかもしれないね。とにかくそのとき考えたのは、最高に面白いものを作るってことだったしね。曲を作るときに気をつけたのはバランスだ。エレクトロニック・ミュージックのなかでヴォーカルとダンス・ミュージックの要素を上手くバランスを取って取り入れることが重要だと思うんだ。だからある意味僕たちにとってはチャレンジすることがまだたくさんある。

そしてジェイムス・バッテリーが加入して『ノース』が生まれました。歌が必要なだけならシンガーをゲストで入れれば済む話ですが、敢えてヴォーカリストをメンバーとして入れた背景には何があったのでしょうか? 言葉を必要としたということなのでしょうか?

エイデン・ウォーリー:もっと「歌」を書きたいと思ったからっていうのはあるかな。「歌」があったほうがもっといろいろなチャレンジできるしね。

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イースト・ロンドンのフラットで作ってたんだけど、けっこう荒んだエリアでね......。街ではいつもいろんなことが勃発してて、だからなんとなくそのときのことが反映されていて、エモーショナルで悲しい感じが出ているよね。

『ノース』が生まれた背景にはあなたのどんな思いがあったのか教えてください。そもそもあのとき、何故『ノース』という題名に決めて、インダストリアルな写真をデザインしたのでしょう? 

ジェイムス・バッテリー:基本的にイースト・ロンドンのフラットで曲を作っていたんだけど、8~9カ月くらい制作に時間を費やしたんだけど......いろんな曲を試したし、とくに変わったことをしたわけではなく、通常通りの曲作りをしていたね。正直そのとき自分たちに出来るベストなアルバムを作ろうっていう、ただそれだけだった。
 アルバム・タイトルについては、最後の最後まで決まらなくて、どうすればいいのか迷ってたんだけど、すごくアグレッシヴな"North"っていう曲があって、なんとなくアルバム全体を表しているような気もしたし、僕たち全員北部(ノース)の出身だから、それも意味を成してていいかなって思ったんだ。アートワークについては〈モー・ワックス〉の初期っぽい感じにした。

『ノース』のメランコリーや喪失感はあなた個人の抱えている問題でしょうか? それとも社会の反映なんですか?

エイデン・ウォーリー:イースト・ロンドンのフラットで作ってたんだけど、けっこう荒んだエリアでね......。街ではいつもいろんなことが勃発してて、だからなんとなくそのときのことが反映されていて、エモーショナルで悲しい感じが出ているよね。

ジェイムス・バッテリー:なんかこうやって前のアルバムを振り返るとそのとき気づかなかった点に気づいて、それはそれで面白いよね。そう思うと、最初に作ったアルバムって本当に小さな箱のなかで作業しているような、本当に狭い世界で出来あがったものだなって思うよ。でも僕たちはこの環境にしてはとても恵まれていると思うし、成功しているほうだと思うよ。

『ニュース・フロム・ノーウェア』は『ノース』よりも緻密に、手間暇をかけて作られていますね。音響の処理や録音も素晴らしかったです。まずはこのアルバムの制作に時間のかかった理由から伺います。それは技術的な問題からなのでしょうか、あるいは作品の方向性を決めるうえで慎重な議論を要したからでしょうか?

エイデン・ウォーリー:6~8ヶ月くらい?

ジェイムス・ヤング:まぁ、たくさん時間をかけて作った分、いろんなヴァージョンの曲も出来あがってるから、けっこうな曲数になってると思うね。

ジェイムス・バッテリー:でもマスターテープを作る作業から入れたら11か月くらいかかってない? それに僕が入院してたせいで作業が思うように進まなくて......。

どうしたんですか?

ジェイムス・バッテリー:この家の塀から落ちて背中を打ったんだよ。まだ重いものは持てないけどだいぶ治ってきているから、いまは大丈夫なんだけどね。でも、いいのか悪いのか、おかげで制作期間が延びたことで落ちついて、いろんなことができたのはあった。一回作ったものに対してひと呼吸おいて考えることができるというか。
 まぁ、とくに僕はしばらく寝たきりだったから、個人的には時間がたくさんあった。で、いろいろ考えられたんだけどね(笑)。いまはまたこうやって歩けるようにもなったし、元気になってから3~4曲出来あがったしね。

『ニュース・フロム・ノーウェア』はフィクションですか? 

ジェイムス・バッテリー:つねに「真実」は隠されていると思うけど......でも基本的にはフィクションだね。

エイデン・ウォーリー:リチャード・フロンビーとのレコーディングのあとで、どういうタイトルにすべきかっていう話になったんだ。そのときにアルバムにフィットする言葉じゃないかっていうことで、これにした。

アレンジを凝りつつ、アンビエント・テイストも深めていますよね。1曲目の"Light Body Clock Starter"もそうですが、続く"Timeaway"もそうだし。ビートが際立ってくるのは3曲目の"Armonica"からだし。

エイデン・ウォーリー:アンビエント? それはちょっと違うような気がするなぁ。自分たちとしては、もっとエネルギッシュだと思うし、アンビエントの要素はないように思うんだけどな。前のアルバムよりずっとエネルギッシュだし、ライヴではそれがより顕著に出るしね。

ジェイムス・バッテリー:アンビエントというより、オプティミスティックということだと思う。アルバム全体がいろんな音楽のコレクション的な感じになってるからね。なんていうの? スナップショットの集まりみたいな感じだと思うよ。

たとえば"Armonica"には『ノース』にはなかった気さくさがありますよね。この曲は何について歌っているのでしょうか?

ジェイムス・バッテリー:これはアルバムの最後のほうでレコーディングされた曲なんだ。この曲はとても変な作り方をしたんだよ。僕はクイーンズ・オブ・ザ・ストーンエイジを聴いていて、この曲をアコースティックギターで作った。そしてそれをそのままレコーディングに使って、曲を仕上げていった感じ。だから他の曲ともちょっと毛色が違うかも。いつもなんとなく成行きに身を任せて曲を仕上げていくと、それがいい方向に転がることが多いしね。

"A Day's Pay For A Day's Work"もとても魅力的なメロディの曲で、ダークスターなりのポップ・ソング的なところもある曲だと思います。これは何についての曲なのでしょうか?

エイデン・ウォーリー:今回のアルバムでは、制作とレコーディングのために田舎の一軒家を借りて、そこでライティングをはじめたんだけど、その曲は、家に引っ越す前からライティングをスタートしていた唯一の曲なんだよ。クラシックでありながらも、前進したメロディ・スタイルを持った曲。アルバムのためのデモはたくさんあったんだけど、そのなかでも、レコーディングの間中ずっと完成せずにつねに考えていたのがこの曲なんだ。曲のなかのある部分がいつまでたってもしっくりこなくてね......最後の2、3週間でやっと新しいコーラスを書いて仕上げた。作りはじめたときに感じた曲の可能性に、最後の最後で達成することができた。可能性があることは最初からわかってたんだけど、それをずっと形に出来ずにいたんだ。
 これはオールドファションなポップ・ソングだよね。最初にそれを感じたから、それに従ったほうが良いと思ってね。最後にコーラスができたときは本当にハッピーだったよ。

曲自体の内容はどういったものなのでしょう?

エイデン・ウォーリー:曲の内容は......幸というか......うーん、何ていったらいいかな。クールになることにとらわれていないこととか、自分は自分っていう内容だよ。ありのままの自分にハッピーで、いまの自分でいることでリラックスできてるってこと。気取ったり無理しなくても自分自身でいながら、そのなかに何か良い部分があればそれでいいって感じの内容だね。

とてもUKらしい音楽だと思ったんですが、たとえばシド・バレットや66~7年のジョン・レノンのようなサイケデリック・ロックのシンガー・ソングライターへの共感はありますか? またそうした要素を今回のアルバムで取り入れたいと思いましたか?

エイデン・ウォーリー:そういう音楽って、すごく影響力のある音楽だと思う。3人ともビートルズを聴くし、ピンク・フロイドも聴くし......ジョン・レノンもシドも、ヴォーカル&ピアノ、ボーカル&ギターっていう音楽がすごく上手いよね。彼らの曲を聴けば、感情がうまく表現されてるから、そういったものを思い出すんだ。彼らはふたりとも素晴らしいソングライターだし、評価してるし、たくさん聴いてもいる。だから、それが音楽に反映されてることはあるかもしれないね。共感があるから。

ジェイムス・バッテリー:そもそも僕たちの楽曲制作のアプローチの仕方が彼らに近いと思うんだよね。彼らの音楽に影響を受けたというよりも、何か面白くて新しいものを作るっていう点において共通しているところはあるかもしれないね。もしビートルズやピンク・フロイドからまったく影響を受けずに生きられるのなら、岩の下とか洞窟とか人が生活する環境から遠く離れて隔離された場所にいないと無理だと思うんだ。とくに僕たちイギリス人にとっては生活やカルチャーのなかに組み込まれているものだからね。

今回のアルバムのなかにそういう要素は含まれていると思いますか?

エイデン・ウォーリー:どうだろうね。意識的には何もしてないから。でもないとも言えないよ。僕たちがこのアルバムでやったのは、ただナイスなアイディアを出しあって、そこから全員一致で好きなものを集めて、そのアイディアに境界線は引かなかったってことだけ。もし誰かが本当にナイスでスローなクラシックなポップ・ソングのアイディアを持ってきたとしたら、みんなでその曲に何度も取り組んで、自分たちのサウンドを構築していく。僕たちは、何に対してもノーとは言わないんだ。それが良いアイディアで良いサウンドだったらプレイする。もしそのアイディアとサウンドが機能したら、それは大切なことだから、絶対に活かさないとね。

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3人ともビートルズを聴くし、ピンク・フロイドも聴くし......ジョン・レノンもシドも、ヴォーカル&ピアノ、ボーカル&ギターっていう音楽がすごく上手いよね。

"Young Heart's"の悲しみはどこから来るのでしょうか? 

エイデン・ウォーリー:"Young Heart's"は、他人をリファレンスにした曲のひとつなんだ。自分じゃなくて、誰か他の人やその人のシチュエーションとかを題材にした。考えてみれば、アルバムのなかではそういうのってこの曲だけなんじゃないかな。ジェイムス・ヤングがほとんどの曲を書いたんだ。で、全員でその歌詞にいろいろとアイディアを加えていった。でもメインで書いたのはジェイムスだよ。
 アルバムに収録された曲をいまよく考えてみると、『ノース』でやったことに近い曲のような気がする。この曲は、他人のシチュエーションに関して語っている、他人のストーリーなんだ。悲しみは、たぶんそのストーリーから来てるんじゃないかな。ある女の子が恋人から捨てられるんだ。その恋人は彼女よりちょっと年上で、尊敬していた人。でも、彼女はおいてきぼりにされるんだ。こういうのってけっこう多くの人に起こることだよね。ノース・イングランドでもよくあるんだ。年上の魅力的な男と付き合ったけど最終的には最低な奴で、それを後悔する、みたいなことがね。
 すごく悲しいフィーリングだと思う。それに、ジェイムスの歌い方がすごく感情的なんだ。クールな曲だよ。彼のファルセットの声がすごくソフトでデリケートなんだ。これは最初の時点で「レコードに入るな」って確信した曲。アルバムの残りの曲は、もっと楽観的なフィーリングをもってるんだけど、これは違うんだ。

ジェイムス・バッテリー:僕にとって歌うことは「演じる」ことと同じなんだ。歌うときはとにかく深く自分の体験などを思い出してそのことに没頭するようにして、感情をうまく出せるように努めているよ。それにヨークシャーの風景は切なくてメランコリックな感触がにじみ出ていて、とくに秋は傾向が強くて人びとの仕事に影響を与えていると思うよ。実はこの曲のモチーフはテレビ・ドラマで『This is England』(2009年には日本でも公開されたスキンヘッズの映画のテレビ・ドラマ版。監督はストーン・ローゼズのドキュメンタリーを撮っている)っていうのがあってそこから来ているんだけど......そのドラマの父娘の関係性を描いているのがこの歌の歌詞だよ。ヨークシャー(英国北部の地域)のスラスウェイトはハワースからそんな遠いし、ブロンテ姉妹(ヴィクトリア時代を代表する小説家姉妹)が住んでいた場所だしね。湖に何かいるのかもね......。

"Amplified Ease"なんかとてもユニークな曲ですが、言葉の意味よりも音を重視しているということでもあるのでしょうか?



ジェイムス・ヤング:特別そういうわけではないよ。サウンドって人の気を引く最初のものだと思うから、僕たちは曲にいい雰囲気を盛り込めるように細心の注意を払っているんだ。できるだけ音にも歌詞にも出来るだけ意味を込めるようにしているんだ。ヴォーカルに関してはいつもこういう録り方をしているから、僕たちにとってはとくに目新しいものでないよ。歌詞はいつももっとチャレンジングなものだよね。歌詞は音より主観的になりやすい傾向にあるから難しいよね。歌詞に関しては曲と同じくらいの時間を費やしたからどちらも同じくらい重視しているよ。

エイデン・ウォーリー:トラックによるかも。ヴォーカルのサウンドと他の音が影響し合って良い音が生まれるっていうのは、すごく意味のあることなんだ。もちろん、ときには歌詞は何かを意味してなければいけないし、僕たち全員がその歌詞の内容にたいしてしっくりこないといけない。でもときに、その曲にとっては歌詞がそこまで大切じゃないこともあるんだ。君が言ったトラックは、まさにそういうトラックなんだけど、そのふたつの曲は、音楽で機能してるんだ。歌詞が良いっていうのももちろん大切だけど、控えめでもいいんだよ。つねにハイエンドである必要はないと思うしね。音楽そのものが曲のフィーリングを作って表現していることもあるし。僕たちは、ヴォーカルを音として、つまり楽器として使うことがあるっていうことさ。

ちなみに"Bed Muisc-North View"という曲名の「North View」という言葉にはどんな意味があるのですか?

ジェイムス・ヤング:「North View」というのは僕たちが西ヨークシャーでレコーディングのときに住んでいた家に関係あるんだけど......この家の名前が「North View」だった。

エイデン・ウォーリー:そう、アルバム制作のために借りて住んでた家の名前が、偶然にも「North View」だったんだよ。北を見渡せる家だったんだ。住むまでそんな名前だなんて知らなかったからビックリだったよ。で、ジェイムス・バタリーがレコーディング中にその家で背中を怪我したんだ(笑)。壁からおちて、背中を折ったんだよ。マジな話(笑)。あと2週間でレコーディングが終わるってときで、その夜にちょうどプロデューサーのリチャードと、もうちょっと(レコーディングに)時間が必要だなっていう話をしてたところだったんだ。
 その話をしたあと〈ワープ〉の人たちと何杯か飲みにいって、それからジェイムスが機材をもって家に帰ったら、それが重かったか取ろうとしたかで壁からおちて怪我しちゃってさ......もっと時間が必要って話してる矢先にそんなことが起きて、10週間もプラスで必要になったんだ(笑)。
 もちろんそれは不幸な出来事だったんだけど、彼は今完全に元気。まあ、背は少し低くなったけどね(笑)。それ以外は大丈夫だし、しかもその出来事が、3つのトラックを置き換える新たなチャンスをもたらしたんだ。アルバムに入るはずだったけど、自分たちがしっくりきてなかった3曲をね。"Bed Muisc"は、ジェイムスがその怪我をしてるときにベッドで書いた曲なんだ(笑)。バック・ブレース(背中を固定するもの)をつけながらね(笑)。次のアルバム制作のときも何が起こるかわからない。全員が転んだりしてね(笑)。

アンディ・ストットやレイムのようなインダストリアル・ダブな感覚には共感がありますか? 

ジェイムス・ヤング:とくにないかな。僕はどっちも好きだけどね。

エイデン・ウォーリー:共感で言えば、アンディ・スコットに対してはたぶんあるかも。彼の音楽は好きだし、すごく面白い音楽だと思うから。あの質感が好きなんだ。彼の曲もたくさん聴くけど、でも......ブリアルのほうが僕にとってはビッグ・アーティストだよ。『ノース』の前に12インチなんかを書いてた頃は、彼の音のパレットの素晴らしさに圧倒されていたよ。でも、そういうのを敢えて自分の音楽に取入れようとしてたわけじゃないけどね。

ダーク・アンビエントな感覚に対して興味はありますか?

エイデン・ウォーリー:ないね。そういうのはそこまで聴かないから。いくつかは聴くけど、ライティングで影響を受けるまでじゃない。エイフェックス・ツインみたいなアンビエントの一部はすごく良いと思うけど。彼のダークでアンビエントな作品のいくつかは素晴らしいと思う。だから聴きはするけど、意識的にそれをどうこうするっていうのはないね。自分たちの音楽には、もっと前向きなフィーリングが流れてるから。

フランク・オーシャン、ハウ・トゥ・ドレス・ウェル、エジプシャン・ヒップホップのなかではどれがいちばん好きですか?

エイデン・ウォーリー:フランク・オーシャンのファースト・アルバム。理由は、そのアルバムがとにかく素晴らしいから。すごく新鮮だし、良いヴァイブを持ってる。エナジーもすごいし、生まれたままのサウンドだよね。プロダクションがそうなんだ。でも同時に洗練されてもいて、ヴォーカルとメロディも最高。他の二つは......正直ハウ・トゥ・ドレス・ウェルはそんなにファンじゃない。ときどき頭に音楽が流れるときはあるけどね。
 エジプシャン・ヒップホップはあまり聴いたことがないんだ。でも、今回のレコードのプロデューサーのリチャード・フォームビーが彼らと仕事している。リチャードからいつも彼らがクールで良いミュージシャンだって聴いてるよ。だから、これから聴いてみたいと思ってるんだよね。

それでは、ジェイク・バッグはいまのUKの若者の代弁者ですか?

エイデン・ウォーリー:正直ファンじゃないんだ(笑)。彼がそういう存在なのかはわからない。彼に対して他の人たちにはない魅力やビッグさは感じないなあ......わからない、コメントできないよ。あまり興味がなくて......(笑)。彼が新鮮だとは思わないだけ。彼がやってることは前に誰かがやってきていることだからさ。オリジナルじゃないから。

では、〈ワープ〉のアーティストでいちばん好きなのは誰ですか?

ジェイムス・ヤング:エイフェックス・ツインの影響を受けているのようなやつらがいちばん好きさ(笑)。

エイデン・ウォーリー:うーん......いちばんか......難しいな......誰だろう。マーク・ベルだな。彼の音楽は面白いし、良い人だし、アグレッシヴでインダストリアルなサウンドだと思うから。彼が参加したビョークの作品は本当に素晴らしいと思う。

お正月の5タイトル! - ele-king

 お正月は何を聴きますか? 元旦からお仕事のかたも、例年にまして長い休暇を取られているかたも、おせちとテレビに飽きたらちょっとご参照ください! ライター陣を中心にお正月に聴く5タイトルを挙げてもらいました。ele-kingのお正月はこんなふうです。
 読者のみなさん、今年もありがとうございました。2013年もどうぞよろしくお願いいたします!

木津毅
1. Bon Iver / For Emma, Forever Ago / Jagjaguwar
2. My Morning Jacket / At Dawn / Darla
3. The National / Boxer / Beggars Banquet
4. Iron & Wine / The Shepherd's Dog / Sub Pop
5. The Tallest Man on Earth / The Wild Hunt / Dead Oceans

僕は半分ほどがアラサー女子の成分でできている人間なので、クリスマスに限定のケーキ(今年は〈ピエール・エルメ・パリ〉のフロコン・アンフィニマン・ヴァニーユ)を買い、ワインを飲み、浴びるようにクリスマス・ソングを聴いて年末には燃えつきるので、正月はみなさまと同じくだらけることに決めております。さすがに年始からスプリングスティーンを聴いて、アメリカについて想いを馳せたりはしません。ということで、正月ぐらい、いい男たちのいい歌を聴いて、甘いひとときを過ごしたいです(これは寂寥感ではない)。冬のいい男は、木こり系ですね。

倉本諒
1.Ash Pool - Cremation is Irreversible
2.Law Of The Rope / Crown Of Bone ‎- Law Of The Rope / Crown Of Bone
3.Rev. Kriss Hades - The Wind of Orion
4.Peste Noire ‎- Les Démos
5.Burzum - Filosofem

正月など大嫌いだ。そもそもお節や懐石料理等の常温で食す料理が好きではないし、公共機関をなどの都市機能の能率は低下のためもろもろの事情が遅れつづけるし、 実家も都内にあるため帰省することも別段珍しいわけでもない。そもそも長い極貧生活の中で脂肪を失ったエクストリーム・モヤシ体型の僕にとっていまは一年で最もしんどい時期なのだ。 でも北欧の冬に比べればマシだよねーってことでブラックメタルだけのアンチ祝賀タイトルです。Burzumしかノルウェイじゃないけど。みんなこれを聴きながらコタツに入り、猫の頭頂にみかんなどを載せてニヤニヤしながらアラン・ムーアのフロム・ヘルでも読みましょう。

斎藤辰也(パブリック娘。)
1. John Lennon / Instant Karma(『Lennon Legend: The Very Best Of John Lennon』収録) / Capitol
2. レミオロメン / エーテル / ビクターエンタテインメント
3. ブランキー・ジェット・シティ / 幸せの鐘が鳴り響き僕はただ悲しいふりをする / EMIミュージックジャパン
4. Hot Chip / One Life Stand / Parlophone
5. Zomby / Nothing / 4AD

「ああ、やってやろう!」の気分で満ち溢れている1位。冬はさむいけどワクワクするし春も近いということを思い出させてくれる2位。冬の寒さは身体にきびしい、そして人間は人間に厳しいのだと思い知らされる3位。冬リリースだった思い出もあり、静と動の往来でときを過ごしたい4位。ふざけんな、僕はもうなにも信じない......という気持ちが呼び覚まされるような5位。

竹内正太郎
1.SHINGO☆西成 / スプラウト / リブラ
2.電気グルーヴ / ドラゴン / キューン
3.neco眠る / エンガワ・ボーイズ・ペンタトニック・パンク / デフラグメント
4.サニーデイ・サービス / ムゲン / ミディ
5. PR0P0SE / プロポーズ / マルチネ

編集から依頼のメールがあってからというもの、暇を見つけてはCDラックの前をウロウロしたり、iTunesのライブラリーをキョロキョロしているのだが、正月の気配がまったくしない。なんてこった。わたしは、こんなにも正月と無縁な音楽ばかりを聴いてきたのだ......。辞退しよう。そう思った。それ以前に、「そもそも正月と音楽ってなんか関係あんの?」という負け惜しみ的な疑問を抱いたところ、「でも、一見まったくの無関係な二者に補助線を引くのがライターというものじゃないですかあ」という橋元編集の神の声が降ってきたので、ええいと瞬発的に選んだのがこの5作品。①のあまりにもデカい愛と温かい音。②から④は気持ちのいいポップスを何も考えずに。⑤は単に最近のお気に入り。(あれ、正月あんまり関係ない......)。ひとつだけ言うなら、普段、自分が聴いている音楽と、お茶の間に受け入れられている(ということにされている)ポップス/歌謡曲との距離を嫌でも考えさせられるのが、この年末年始というシーズンの個人的なお約束だったような気がします。みなさま、よいお年を。来年もよろしくお願いします!

橋元優歩
1. Pantha du Prince / Black Noise / Rough Trade
2.M. Geddes Gengras / Title Test Leads / Holy Mountain
3. AKB48 / AKB48 in TOKYO DOME~1830mの夢~スペシャルBOX / AKS
4.吉松隆 / NHK大河ドラマ《平清盛》オリジナル・サウンドトラック 其の二 /日本コロムビア
5.Inc. / 3EP / 4AD

1と5は、帰省の新幹線で。越後湯沢からは特急になるんですが、裏日本の雪原とPanthaの相性は半端ないです。Inc.も薄墨色のR&Bというか、余白がきわだつ音使いやビート感覚が、新幹線の静かなスピードをさらに加速し、窓外を叙情的なエンドロール風に変換してくれるはず......。ベストウィッシュ。よい旅を。

2は大掃除用。経験的に4つ打ちは掃除に向かないです。そしてアンビエントだと床拭きのときなんとなくへこむ。サン・アローとコンゴスのあれのもうひとりの重要人物、ゲングラスさんソロのこのタイトル・トラックは、そのあいだをすばらしく埋めてくれます。3拍めに鍵がある。

3はガチで正月休みにと思い。4は最終回の余韻をまだひきずっているため。現時点で4は未購入ですが、ボカロver.とうわさの"遊びをせんとや"は本作収録。しかし "タルカス"・ブームこなかったですね! クラウトロックがヤングに絶大な影響力を及ぼしているのに対し、ブリティッシュというかシンフォニック系はまったくスルーされている印象です。作中ではとてもキマっています。

本年もありがとうございました。

Photodisco
1.Def Leppard / Animal / Mercury
2.THE WiLDHEARTS / Just In Lust / Eastwest
3.FIREHOUSE / Here For You / Sony
4.Dizzy Mizz Lizzy / Find My Way / EMI
5.SKID ROW / Monkey Business / Atlantic

正月、実家に帰省し、何か音楽を聴こうかなと思うと、いつも聴く音楽は、東京に送っているため、実家のCDラックを見ると、ジャンルで言うところのHR/HMが多く、正月は、HR/HMで年を迎えることが定番となっております。
正月は年の初め、学生時代、初めて影響を受けたHR/HM。
"初心忘るべからず"的なトラックを選びました。

ほうのきかずなり(禁断の多数決)
1.岡本太郎 / 芸術と人生 / NHKサービスセンター
2.The Flaming Lips / Race For The Prize / Warner
3.Lou Reed / Walk on the Wild Side / RCA
4.Prefab Sprout / The Best of Prefab Sprout : A life of Surprises / Sony
5.友部正人 / はじめぼくはひとりだった / 友部正人オフィス

新年を迎えるにあたって気持ちを引き締めるため、まずは岡本太郎の声と言葉を聞くようにしています。太郎の言う「芸術は爆発だ!」という言葉がとにかく大好きで、リップスの『レイス・フォー・ザ・プライズ』はまさに大爆発サウンド。「安全な道と険しい道で迷った場合は険しい道を選べ」と、太郎の言葉にもあるように、ルー・リードの「ワイルドサイドを歩け」を聴いて新年から気を引き締めます。

NaBaBa
1.Dishonored (Bethesda Softwork発売 Arkane Studios開発 / 対応機種Xbox360・PS3・PC)
2.Hotline Miami (Devolver Digital発売 Dennaton Games開発 / 対応機種PC)
3.Far Cry 3 (Ubisoft発売・開発 / 対応機種Xbox360・PS3・PC)
4.Hawken (Meteor Entertainment発売 Adhesive Games開発 / 対応機種PC)
5.Thirty Flights of Loving (Blendo Games発売・開発)

気がつくともう年の瀬ですが、ゲーマー的にはこの年末年始が色々な意味で年間最大の狙い時。Steam等のデジタル販売サイトでは破格の大規模セールが行われるので絶好の買い時ですし、社会人にとっては腰を据えてゲームに打ち込める、数少ない機会でもあります。

そんなわけで最近発売された作品の中から、とくにじっくり遊びたいものを中心に5つほど取り上げさせていただきました。

『Dishonored』は以前連載でも取り上げさせていただいた『Deus Ex』をルーツとした作品。多層構造のマップを自分なりに攻略できる戦略性の高さに、様々な特殊能力を駆使した今時の即興性が組み合わさったゲーム・デザインが特徴で、永らく途絶えていた一人称ステルスゲームを見事現代に復活させました。Viktor Antonovが手がけたアートワークも素晴らしく、個人的に今年のGame of the Yearは本作に決まりです。
https://www.youtube.com/watch?v=-XbQgdSlsd0

『Hotline Miami』は連載の方でも取り上げたのでいまさら言うことはありませんが、それでもなおお薦めしたい一押しタイトルです。シンプルな内容ながらゲームデザイン、ストーリー、ヴィジュアル、音楽と全ての要素が調和していて、ひとつとして無駄がない。ゲームとして卓越していると共に、表現作品としても非常に質が高いと思っています。続編の開発も発表され今後も楽しみな作品ですね。
https://www.youtube.com/watch?v=6OJ51PG0swE

『Far Cry 3』は名作『Far Cry』と迷作『Far Cry 2』に続くシリーズ3作目のゲリラ戦FPS。ジャングルを舞台に賢い敵AIを相手にゲリラ戦を挑んでいくコアのコンセプトはそのままに、前作のわざとなのかと思うくらいの要素の無さを改善し、いろいろな遊びを詰め込み順当な進化を果たしています。南国の島が舞台で一見すると明るい雰囲気ですが、その実『地獄の黙示録』を下敷きにしているのであろう、全能感の暴走をテーマにしたストーリーにも注目です。
https://www.youtube.com/watch?v=CFll8IVLMVw

『Hawken』はMechを操縦して戦うのが特徴のオンラインFPS。まず何よりもインディーズ離れしたアートワークのレベルの高さが注目点で、マシーネンクリーガーを彷彿させるMechがガシャンガシャン言いながら戦う、ある意味そのロマンが全てと言ってもいい作品。基本プレイは無料なのもお薦めしやすい点ですね。現在オープンベータテスト中で、ゲームバランスは正直まだ詰め切れていない印象ですが、ここから完成度が上がりもっと化ける事を期待しています。
https://www.youtube.com/watch?v=Is9nujmgPBo

『Thirty Flights of Loving』はたった15分で終わる、じっくりとは全く正反対のゲーム。主観視点でのストーリー・テリングのみに特化しており、その意味でゲームと呼ぶべきかどうかも疑わしいですが、表現されているものは既存のゲームに対する明確なアンチテーゼです。過度な演出やいっさいの説明を廃し、行間を読ます内容なのがユニーク。この手の作品のマスターピースにまでは至っていませんが、ひとつの試みとしては興味深い。同梱される前作『Gravity Bone』と併せてお薦めの作品です。
https://www.youtube.com/watch?v=5y1P2BUCeuc

これらのなかの一部は、今後連載の方でも詳細なレヴューをしていきたいと思っていますのでお楽しみに。それでは来年もよろしくお願い致します。

野田努
1.Le Super Biton National De Segou / アンソロジー / Kindred Sprits/カレンティート
2.パブリック娘。 / 初恋とはなんぞや / 自主
3.ジェイク・バグ / ライトニング・ボルト / ユニバーサル
4.Sex Pistols / Never Mind The Bollocks / Virgin
5.Echo And The Bunnymen / Crocodiles / Korova

 20代~30代は、毎年、年末年始はクラブ・イヴェントをハシゴしたものだが、子供が生まれてからは、そういう生活から足をあらったので(子供を女房や親に預けて遊びにいける身分ではないため)、40代以降はもっぱら実家でテレビを見ながら親兄弟たちと会話しているという極めて平凡な時間を過ごしている。
 大晦日は実家の掃除を手伝って、年越しソバを食べて、年が変わったら近所の寺で除夜の鐘の叩いて、お参り。それから寝て、起きて、雑煮を食べて、清水エスパルスが天皇杯の決勝戦に残っていたなら最高だったのだが......しかし、どこのチームであろうと、元旦の1時からはサッカーを見ている。

 それから女房の実家に挨拶に行って、安倍川で凧を上げたり、地元の友だちに会ったりとか、年末年始はなんだかんだで忙しいので、音楽を聴いている時間はない。まあ、強いて思案するなら、コスモポリタンたる小生は、年末年始はなるべくワールドな感じで迎えたいといったところか。シュペール・ビトン・ナシオナル・ド・グゼーはここ数年ヨーロッパに再発掘されたマリのバンドで、新年を迎えるにはほどよい陽気さ、清々しさがある。まだ一度しか聴いてないし、実家でしっかり聴き直したい。
 それから何を聴こうかな......。考えてみれば、実家には自分のレコードもない。芸能人が出ているような番組を見ることもない。たまには音楽を聴かない生活も新鮮だ。他には、山を登ったりとか。読書したりとか......。

 もし自分がいま独身か未婚で、東京に住んでいる人間だったらクラブに行って4つ打ちを浴びていたんだろう。元旦の明け方にそのまま明治神宮まで行っていた頃が、遠い昔のことにように思える。

 他に......正月に聴きたい音楽を考えてみる。まずはゆとり世代の最終兵器、パブリック娘。の「初恋とはなんぞや」だ。そして、シングル曲というものの魅力、シングル主義の面白さをあらためて証明したジェイク・バグの「ライトニング・ボルト」。そして、自分を見つめ直すという意味でセックス・ピストルズの『ネヴァー・マインド・ザ・ボロックス』も聴いてみたい。もう1枚は、訳あってこのところ聴きまくっているエコー&ザ・バニーメン。その理由は来年明かしましょう。
 それではみなさん良いお年を。

松村正人
1.倉地久美夫 / 太陽のお正月 / きなこたけ
2.高橋アキ、クロノス・クァルテット / ピアノと弦楽四重奏曲(モートン・フェルドマン) / Nonesuch
3.前野健太 / オレらは肉の歩く朝 / felicity
4.The KLF / Chill Out / KLF COMMUNICATION
5.Kraftwerk / Autobahn / Vertigo

 私は十二歳の元旦に車に轢かれ、ラッキーにもほんの半歩の差で死ななかった。それがどうも心的外傷になったようで、外にいると死ぬ気がするから正月は出歩かない。カウントダウンにも初詣にも行かない。せめて神社に行ければ、モータリゼーションがこの世から消えてなくなりますようにと祈れるのに。ただ私はじっとしているだけだが、そんなとき部屋に流す音楽は揺らぎがすくないほうがいいのだけれども、どこかに歪みを求めてしまうのは反復強迫なんスかね。

三田格(関東連合
1.シー・シー・シー(クラークス)
2.ヨー・ヨー・ヨー・ヨー(スパンク・ロック)
3.ウー・ウー(イシット・ムジーク)
4.ガ・ガ・ガ・ガ(RCサクセション)
5.ツ・ツ・ツ(カビヤ)

おおお。

内田学 a.k.a. Why Sheep?
1. ベートーベン / 交響曲第9番『合唱』 フルトヴェングラー&バイロイト(1951 バイエルン放送音源) / EMIミュージック・ジャパン
2. U2 / Where the Streets Have No Name(約束の地) / Universal International
3. Ashra(Manuel Gottsching )/ Sunrain / EMI Europe Generic
4. 佐野元春/ヤング・ブラッズ/エピックレコードジャパン
5. モーツアルト/クラリネット協奏曲(演)ベニー・グッドマン、ミュンシュ&ボストン響、ボストン・シンフォニー四重奏団 /Sony Classical Originals

クリスマスで燃え尽きてしまうので、とくに正月を意識して音楽を聴くことはないんだけど、第九で年またぎは儀式化してますね。ちなみに23時9分10秒あたりから第一楽章をスタートすると、年越しした瞬間に第四楽章の「歓喜の歌」の冒頭のコントラバスが静かに聴こえはじめますのでぜひお試しを! 最後のモーツアルトのしかもベニー・グッドマンのクラリネット協奏曲は毎年正月に父がかけてたから。なぜか理由は知らないが......。あ、そういえば僕は元旦生まれなんでした。

2012 Top 20 Japanese Hip Hop Albums - ele-king

 2012年の日本のヒップホップ/ラップのベスト・アルバム20を作ってみました。2012年を振り返りつつ、楽しんでもらえれば幸いです!!

20. Big Ben - my music - 桃源郷レコーズ

 スティルイチミヤのラッパー/トラックメイカー、ビッグ・ベンのソロ・デビュー作。いま発売中の紙版『エレキング Vol.8』の連載コーナーでも紹介させてもらったのだが、まずは"いったりきたりBLUES"を聴いて欲しい。『my music』はベックの「ルーザー」(「I'm a loser baby so why don't you kill me?」)と同じ方向を向いている妥協を許さないルーザーの音楽であり、ラップとディスコとフォークとソウル・ミュージックを、チープな音でしか表現できない領域で鳴らしているのが抜群にユニークで面白い。

Big Ben"いったりきたりBLUES"

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19. LBとOTOWA - Internet Love - Popgroup

 いまさら言う話でもないが、日本のヒップホップもフリー・ダウンロードとミックステープの時代である。ラッパーのLBとトラックメイカーのOTOWAが2011年3月にインターネット上で発表した『FRESH BOX(β)』は2ケ月の間に1万回以上のDL数を記録した。その後、彼らは〈ポップグループ〉と契約を交わし、フィジカル・アルバムをドロップした。「FREE DLのせいで売れないとか知ったこっちゃない/これ新しい勝ち方/むしろ君らは勉強した方がいいんじゃん?」(『KOJUN』 収録の「Buzzlin` 2」)と、既存のシーンを挑発しながら、彼らはここまできた。ナードであり、ハードコアでもあるLBのキャラクターというのもまさに"いま"を感じさせる。

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18. Goku Green - High School - Black Swan

 弱冠16歳のラッパーのデビュー作に誰もが驚いたことだろう。そして、ヒップホップという音楽文化が10代の若者の人生を変えるという、当たり前といえば、当たり前の事実をリアルに実感した。money、joint 、bitchが並ぶリリックスを聴けばなおさらそう思う。そうだ、トコナ・XがさんぴんCAMPに出たのは18歳の頃だったか。リル・諭吉とジャック・ポットの空間の広いゆったりとしたトラックも絶妙で、ゴク・グリーンのスウィートな声とスムースなフロウがここしかないというところに滑り込むのを耳が追っている間に最後まで聴き通してしまう。

Goku Green"Dream Life"

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17. Zen La Rock - La Pharaoh Magic - All Nude Inc.

 先日、代官山の〈ユニット〉でゼン・ラ・ロックのライヴを観たが、すごい人気だった! いま東京近辺のクラブを夜な夜な盛り上げる最高のお祭り男、パーティー・ロッカーといえば、彼でしょう。つい最近は、「Ice Ice Baby」という、500円のワンコイン・シングルを発表している。ご機嫌なブギー・ファンクだ。このセカンド・アルバムでは、ブギー・ファンク、ディスコ、そしてニュー・ジャック・スウィングでノリノリである。まあ、難しいことは忘れて、バカになろう!

Zen La Rock"Get It On"

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16. Young Hastle - Can't Knock The Hastle - Steal The Cash Records

 ヤング・ハッスルみたいなユーモラスで、ダンディーな、二枚目と三枚目を同時に演じることのできるラッパーというのが、実は日本にはあまりいなかったように思う。"Spell My Name Right"の自己アピールも面白いし、日焼けについてラップする曲も笑える。ベースとビートはシンプルかつプリミティヴで、カラダを震わせるように低音がブーッンと鳴っている。そして、キメるところで歯切れ良くキメるフロウがいい。もちろん、このセカンド・アルバムも素晴らしいのだけれど、ミュージック・ヴィデオを観ると彼のキャラクターがさらによくわかる。2年前のものだけど、やっぱりここでは"V-Neck T"を。最高!

DJ Ken Watanabe"Hang Over ft.Young Hastle, Y's, 十影, Raw-T"

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15. MICHO - The Album - self-released

 フィメール・R&Bシンガー/ラッパー、ミチョのミックステープの形式を採った初のフル・アルバム。凶暴なダブステップ・チューン「Luvstep(The Ride)」を聴いたとき、僕は、日本のヤンキー・カルチャーとリアーナの出会いだとおののいた。さらに言ってしまえば......、ミチョに、初期の相川七瀬に通じるパンク・スピリットを感じる。エレクトロ・ハウスやレゲエ、ヒップホップ/R&Bからプリンセス・プリンセスを彷彿させるガールズ・ロックまでが収められている。ちなみに彼女が最初に発表したミックステープのタイトルは『恨み節』だった。凄まじい気合いにぶっ飛ばされる。

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14. D.O - The City Of Dogg - Vybe Music

 田我流の『B級映画のように2』とはまた別の角度から3.11以降の日本社会に大胆に切り込むラップ・ミュージック。D.Oは、「間違ってるとか正しいとか/どうでもいいハナシにしか聞こえない」("Dogg Run Town")とギャングスタの立場から常識的な善悪の基準を突き放すものの、"Bad News"という曲では、「デタラメを言うマスコミ メディア/御用学者 政治家は犯罪者」と、いち市民の立場からこの国の正義を問う。"Bad News"は、震災/原発事故以降の迷走する日本でしか生まれ得ない悪党の正義の詩である。ちなみに、13曲中8曲をプロデュースするのは、2012年に初のアルバム『Number.8』)を完成させ、その活躍が脚光を浴びているプロダクション・チーム、B.C.D.M(JASHWON 、G.O.K、T-KC、LOSTFACE、DJ NOBU a.k.a. BOMBRUSH)のJASHWON。

D.O"悪党の詩"

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13. Evisbeats - ひとつになるとき - Amida Studio / ウルトラ・ヴァイブ

 心地良いひと時を与えてくれるチルアウト・ミュージックだ。タイトルの"ひとつ"とは、世界に広く開かれた"ひとつ"に違いない。アジアに、アフリカに、ラテン・アメリカに。元韻踏合組合のメンバーで、ラッパー/トラックメイカーのエビスビーツは、4年ぶりのセカンドで、すべてを優しく包み込むような解放的な音を鳴らしている。彼にしかできないやり方でワールド・ミュージックにアプローチしている。鴨田潤、田我流、チヨリ、伊瀬峯之、前田和彦、DOZANらが参加。エビスビーツが自主でリリースしているミックスCDやビート集も素晴らしいのでぜひ。

Evisbeats"いい時間"

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12. BRON-K - 松風 - Yukichi Records

 これだから油断できない。年末に、SD・ジャンクスタのラッパー、ブロン・Kのセカンド・アルバムを聴けて本当に良かった。こういう言い方が正しいかはわからないが、クレバの『心臓』とシーダの『Heaven』に並ぶ、ロマンチックで、メロウなラップ・ミュージックだ。ブロン・Kはネイト・ドッグを彷彿させるラップとヴォーカルを駆使して、日常の些細な出来事、愛について物語をつむいでいく。泥臭く、生々しい話題も、そのように聴かせない。オートチューンがまたいい。うっとりする。長い付き合いになりそうなアルバムだ。

BRON-K"Matakazi O.G."

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11. Soakubeats - Never Pay 4 Music - 粗悪興業

 新宿のディスク・ユニオンでは売り切れていた。タワー・レコードでは売っていないと言われた。中野のディスク・ユニオンでやっと手に入れた。これは、トラックメイカー、粗悪ビーツの自主制作によるファースト・アルバムである。「人生、怒り、ユニークが凝縮された一枚」とアナウンスされているが、怒りとともにどの曲にも恐怖を感じるほどの迫力がある。 "ラップごっこはこれでおしまい"のECDの「犯罪者!」という含みのある叫び方には複数の意味が込められているように思う。シミラボのOMSBとマリア、チェリー・ブラウンは敵意をむき出しにしている。"粗悪興業モノポリー"のマイク・リレーは、僕をまったく知らない世界に引きずり込む。ちょっと前にワカ・フロッカ・フレイムのミックステープ・シリーズ『Salute Me Or Shoot Me』を聴いたときは、自分とは縁のないハードな世界のハードな音楽だと思っていた。このアルバムを聴いたあとでは、音、態度、言葉、それらがリアリティを持って響いてくる。そういう気持ちにさせるショッキングな一枚だ。

粗悪興業公式サイト

10. AKLO - The Package - One Year War Music / レキシントン

 「カッコ良さこそがこの社会における反社会的/"rebel"なんです」。ヒップホップ専門サイト『アメブレイク』のインタヴューでアクロはそう語った。アクロが言えば、こんな言葉も様になる。2012年に、同じく〈One Year War Music〉からデビュー・アルバム『In My Shoes』を発表したSALUとともに、ひさびさにまぶしい輝きを放つ、カリスマ性を持ったトレンド・セッターの登場である。日本人とメキシコ人のハーフのバイリンガル・ラッパーは初のフィジカル・アルバムで、最高にスワッグなフロウで最新のビートの上をハイスピードで駆け抜ける。では、"カッコ良さ"とは何か? 最先端のUSラップを模倣することか? その答えの一つがここにある。

AKLO"Red Pill"

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9. ECD - Don't Worry Be Daddy - Pヴァイン

 このアルバムのメッセージの側面については竹内正太郎くんのレヴューに譲ろう。"にぶい奴らのことなんか知らない"で「感度しかない」とリフレインしているように、ECDは最新のヒップホップの導入と音の実験に突き進んでいる。そして、このアヴァン・ポップな傑作が生まれた。イリシット・ツボイ(このチャートで何度この名前を書いただろう)が、サンプリングを大幅に加えたのも大きかったのだろう。USサウスがあり、ミドルスクールがあり、エレクトロがあり、ビッグ・バンド・ジャズがあり、"Sight Seeing"に至ってはクラウド・ラップとビートルズの"レヴォリューション9"の出会いである。

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8. Kohh - Yellow T△pe - Gunsmith Productions

 Kohh & Mony Horse"We Good"のMVを観て、ショックを受けて聴いたのがKohhのミックステープ『Yellow T△pe』だった。「人生なんて遊び」("I Don`t Know")、「オレは人生をナメてる」("Certified")とラップする、東京都北区出身の22歳のラッパーのふてぶてしい態度は、ちょっといままで見たことのないものだった。しかし、ラップを聴けば、Kohhが音楽に真剣に向き合っているアーティストであることがわかる。シミラボの"Uncommon"のビートジャックのセンスも面白い。また、"Family"では複雑な家庭環境を切々とラップしている。"Young Forever"でラップしているのは、彼の弟でまだ12歳のLil Kohhだ。彼らの才能を、スワッグの一言で片付けてしまうのはあまりにももったいない。

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7. Punpee - Movie On The Sunday Anthology - 板橋録音クラブ

 いやー、これは楽しい! パンピーの新曲12曲とリミックス3曲が収録された、映画をモチーフにしたミックスCDだ。パンピーのポップ・センスが堪能できる。"Play My Music"や"Popstar"では、珍しくポップな音楽産業へのスウィート・リトル・ディスをかましている。そこはパンピーだから洒落が効いている。もうこれはアルバムと言ってもいいのではないか。ただ、このミックスCDはディスク・ユニオンでの数量限定発売で、すでに売り切れているようだ。ポップ・シーンを揺るがす、パンピーのオリジナル・ソロ・アルバムが早く聴きたい!

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6. ERA - Jewels - rev3.11( https://dopetm.com/

 本サイトのレヴューでも書いたことだけれど、この作品はこの国のクラウド・ラップ/トリルウェイヴの独自の展開である。ドリーミーで、気だるく、病みつきになる気持ち良さがある。イリシット・ツボイがプロデュースした7分近い"Get A"が象徴的だ。"Planet Life"をプロデュースするのは、リル・Bにもトラックを提供しているリック・フレイムだ。エラの、ニヒリズムとデカダンス、現実逃避と未来への淡い期待がトロリと溶けたラップとの相性もばっちりだ。インターネットでの配信後、デラックス版としてCDもリリースされている。

ERA feat. Lady KeiKei"Planet Life"

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5. 田我流 - B級映画のように2 - Mary Joy Recordings

 「ゾッキーヤンキー土方に派遣/893屋ジャンキーニートに力士/娼婦にキャバ嬢ギャルにギャル男 /拳をあげろ」。ECDを招いて、田我流が原発問題や風営法の問題に真正面から切り込んだ"STRAIGHT OUTTA 138"のこのフックはキラーだ。これぞ、まさにローカルからのファンキーな反撃! そしてなによりも、この混迷の時代に、政治、社会、個人、音楽、バカ騒ぎ、愛、すべてに同じ姿勢と言葉で体当たりしているところに、このセカンド・アルバムの説得力がある。ヤング・Gのプロデュースも冴えている。まさに2012年のラップ・ミュージック!

田我流 "Resurrection"

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4. キエるマキュウ - Hakoniwa - 第三ノ忍者 / Pヴァイン

 キエるマキュウは今作で、ソウルやファンクの定番曲を惜しげもなく引っ張り出して、サンプリング・アートとしてのヒップホップがいまも未来を切り拓けることを体現している。そして大の大人が、徹底してナンセンスとフェティシズムとダンディズムに突っ走った様が最高にカッコ良かった。「アバランチ2」のライヴも素晴らしかった! ここでもイリシット・ツボイのミキシングがうなりを上げ、CQとマキ・ザ・マジックはゴーストフェイス・キラーとレイクウォンの極悪コンビのようにダーティにライムする!

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3. MC 漢 & DJ 琥珀 - Murdaration - 鎖GROUP

 ゼロ年代を代表する新宿のハードコア・ラップ・グループ、MSCのリーダー、漢の健在ぶりを示す事実上のセカンド・アルバムであり、この国の都市の暗部を炙り出す強烈な一発。漢のラップは、ナズやケンドリック・ラマーがそうであるように、ドラッグや暴力やカネや裏切りが渦巻くストリート・ライフを自慢気にひけらかすことなく、クールにドキュメントする。鋭い洞察力とブラック・ユーモアのセンス、巧みなストーリー・テリングがある。つまり、漢のラップはむちゃくちゃ面白い! 漢はいまだ最強の路上の語り部だ。長く現場を離れていたベスの復帰作『Bes Ill Lounge:The Mix』とともに、いまの東京のひとつのムードを象徴している。それにしても、このMVはヤバイ......。

漢"I'm a ¥ Plant"

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2. QN - New Country - Summit

 QNは、この通算三枚目を作る際に、トーキング・ヘッズのコンサート・フィルム『ストップ・メイキング・センス』から大きなインスピレーション受けたと筆者の取材で語った。そして、ギター、ドラム、シンセ、ベース、ラッパーといったバンド編成を意識しながら作り上げたという。ひねくれたサンプリング・センスや古くて新しい音の質感に、RZAのソロ作『バース・オブ・ア・プリンス』に近い奇妙なファンクネスがある。そう、この古くて新しいファンクの感覚に未来を感じる。そして、今作に"新しい国"と名づけたQNは作品を作るたびに進化していく。

QN "Cheez Doggs feat. JUMA"

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1. OMSB - Mr."All Bad"Jordan - Summit

 凶暴なビート・プロダクションも楽曲の構成の独創的なアイディアも音響も変幻自在のラップのフロウも、どれを取っても斬新で面白い。こりゃアヴァンギャルドだ! そう言いたくなる。トラックや構成の面で、カニエ・ウェストの『マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー』とエル・Pの『Cancer for Cure』の影響を受けたというが、いずれにせよOMSBはこの国で誰も到達できなかった領域に突入した。そして、またここでもミックスを担当したイリシット・ツボイ(2012年の裏の主役!)の手腕が光っている。シミラボのラッパー/トラックメイカーの素晴らしいソロ・デビュー作。

OMSB"Hulk"

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 さてさて、以上です。楽しめましたでしょうか?? もちろん、泣く泣くチャートから外したものがたくさんあります。いろいろエクスキューズを入れたいところですが......言い訳がましくなるのでやめましょう! 「あのアルバムが入ってねえじゃねえか! コラッ!」という厳しい批判・異論・反論もあるでしょう。おてやわらかにお願いします!

 すでにいくつか、来年はじめの注目のリリース情報が入ってきています。楽しみです。最後に、宣伝になってしまって恐縮ですが、ここ10年弱の日本のヒップホップ/ラップをドキュメントした拙著『しくじるなよ、ルーディ』も1月18日に出ます。2000年から2012年のディスク・レヴュー60選などもつきます。どーぞ、よろしくお願いします!

 では、みなさま良いお年を!!!!

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