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On-U Sound - ele-king

 いやー、嬉しいニュースですね。かなり久びさな気がします。〈On-U〉がそのときどきのレーベルのモードをコンパイルするショウケース・シリーズ、『Pay It All Back』の最新作が3月29日に発売されます。
 最初の『Vol. 1』のリリースは1984年で、その後1988年、1991年……と不定期に続けられてきた同シリーズですけれども、00年代以降は長らく休止状態にありました。今回のトラックリストを眺めてみると、ホレス・アンディリー・ペリーといった問答無用の巨匠から、まもなくファーストがリイシューされるマーク・ステュワートに、思想家のマーク・フィッシャーが『わが人生の幽霊たち』(こちらもまもなく刊行)で論じたリトル・アックスなど、〈On-U〉を代表する面々はもちろんのこと、ルーツ・マヌーヴァやコールドカットやLSK、さらに日本からはリクル・マイにせんねんもんだいも参加するなど、00年代以降の〈On-U〉を切りとった内容になっているようです。これはたかまりますね。詳細は下記をば。

Pay It All Back

〈On-U Sound〉より、《Pay It All Back》の最新作のリリースが3月29日に決定! リー・スクラッチ・ペリーやルーツ・マヌーヴァらの新録音源や未発表曲を含む全18曲入り! 日本からはリクル・マイ、にせんねんもんだいが参加!

ポストパンク、ダンス・ミュージックなど様々なスタイルの中でダブを体現するエイドリアン・シャーウッドが率いるUKの〈On-U Sound〉より、1984年に初めてリリースされた《Pay It All Back》シリーズの待望の最新作、『Pay It All Back Volume 7』のリリースがついに実現! リリースに先立ってトレイラーと先行解禁曲“Sherwood & Pinch (feat. Daddy Freddy & Dubiterian) - One Law For The Rich”が公開された。

Pay It All Back Volume 7 Trailer
https://youtu.be/Ro8QcLi5azg

Sherwood & Pinch (feat. Daddy Freddy & Dubiterian) - One Law For The Rich
iTunes: https://apple.co/2W5AA6l
Apple: https://apple.co/2R36YD1
Spotify: https://spoti.fi/2DmeqW0

今回の作品にはルーツ・マヌーヴァ、リー・スクラッチ・ペリー、コールドカット、ゲイリー・ルーカス(from キャプテン・ビーフハート)、マーク・スチュワート、ホレス・アンディといった錚々たるアーティスト達の新録音源、過去音源の別ヴァージョン、そして未発表曲などを収録した、まさにファン垂涎モノの内容となっている。また、日本からはリクル・マイ、にせんねんもんだいが参加している。

LPとCDには〈On-Sound〉のバックカタログが全て乗った28ページのブックレットが付属し、デジタル配信のない、フィジカル限定の音源も収録されている。また、アルバム・ジャケットにはクラフト紙が使用された、スペシャルな仕様となっている。

〈On-U Sound〉からのスペシャル・リリース『Pay It All Back Volume 7』は3月29日にLP、CD、デジタルでリリース。iTunes Storeでアルバムを予約すると、公開中の“Sherwood & Pinch (feat. Daddy Freddy & Dubiterian) - One Law For The Rich”がいち早くダウンロードできる。

label: On-U Sound / Beat Records
artist: VARIOUS ARTISTS
title: Pay It All Back Volume 7
cat no.: BRONU143
release date: 2019/03/29 FRI ON SALE

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10072

TRACKLISTING
01. Roots Manuva & Doug Wimbish - Spit Bits
02. Sherwood & Pinch (ft. Daddy Freddy & Dubiterian) - One Law For The Rich
03. Horace Andy - Mr Bassie (Play Rub A Dub)
04. Neyssatou & Likkle Mai - War
05. Lee “Scratch” Perry - African Starship
06. Denise Sherwood - Ghost Heart
07. Higher Authorities - Neptune Version*
08. Sherwood & Pinch ft. LSK - Fake Days
09. Congo Natty - UK All Stars In Dub
10. Mark Stewart - Favour
11. LSK and Adrian Sherwood - The Way Of The World
12. Gary Lucas with Arkell & Hargreaves - Toby’s Place
13. Nisennenmondai - A’ - Live in Dub (Edit)
14. African Head Charge - Flim
15. Los Gaiteros de San Jacinto - Fuego de Cumbia / Dub de Sangre Pura (Dub Mix)
16. Little Axe - Deep River (The Payback Mix)
17. Ghetto Priest ft. Junior Delgado & 2 Bad Card - Slave State
18. Coldcut ft. Roots Manuva - Beat Your Chest

ともしび - ele-king

 シャーロット・ランプリングは笑わない。少なくともそのイメージは強い。かつて桃井かおりは自分の演技に限界を感じてイッセー尾形の元に弟子入りした際、演技することが苦しいと感じるようになった理由は「桃井かおりが桃井かおりしか演じていないから」とかなんとか言われたそうで(いまなら木村拓哉とかほとんどの役者がそうだけど)、シャーロット・ランプリングも演じる役柄に幅がなく、同じイメージを厚塗りしていくことに息苦しさを覚えたりはしないのかと心配になってしまう。「シャーロット・ランプリングは笑わない」と最初に僕が思ったのは1974年のことだった。どっちを先に観たかは忘れてしまったけれど『未来惑星ザルドス』と『愛の嵐』を立て続けに観て、表情筋がピクリとも動かない彼女の表情がそのまま海馬の奥深くに焼き付いてしまったのである。当時、色気というものを覚え始めた僕はジャクリーン・ビセットがひいきで、胸の開いたドレスを吸い込まれるように凝視していたはずなのに、45年後のいまもインパクトを保っているのはシャーロット・ランプリングの方であった(偶然にもランプリングもビセットもデビュー作は『ナック』)。『マックス、モン・アムール』ではチンパンジーと愛し合い、『エンゼル・ハート』ではあっという間に殺されてしまう占い師、最近では『メランコリア』で結婚式の雰囲気を台無しにするシーンも忘れがたい。ショービズで無表情といえば元祖はマリアンヌ・フェイスフルで、日本だとウインクなのかもしれないけれど、老齢というものが加わってきたランプリングにはそれらを寄せ付けない迫力があり、やはり説得力が違う。クイーン・オブ・ポーカーフェイスが、そして最新主演作となる『ともしび』で、またしても表情からは何ひとつ読み取らせない老女役を演じた。

 「脚本の段階、しかもオーランド・ティラドと一緒に書いた最初の一言目の段階から、シャーロット・ランプリングのことを想定していました」と監督のアンドレア・パラオロはプロダクション・ノートに記している。オープニングはちょっとびっくりするようなシーンなので、監督の言葉が本当だとしたら、ランプリング演じるアンナを常識とはかけ離れた人物という先入観に投げ込み、観客とは一気に距離を作り出したかに見える。しかも、夫は何らかの罪を犯して自ら刑務所に足を向け、何が起きているのか掴みきれないままに話は進行していくのに(以下、ある種のネタバレ)その後はひたすらミニマルな日常だけが流れていく。だんだんとアンナの行動パターンがわかってくるので、時間の経過とともに特別なことは何もなく、むしろ日常的な惰性や疲れに引きずり込まれていくだけというか。一度だけ孫に会いに行こうとして息子らしき人物に拒絶され、トイレにこもって号泣するシーンがあり、そこだけは物語性を帯びるものの、それも含めて「伏線」や「回収」とは無縁の断片化された日常の継続。新しい日が始まると、喜びはもちろん、今日も生きなければならないのかという嘆きもなく、ただ淡々と日課をこなすだけである。近年の傑作とされる『まぼろし』では夫が波にさらわれて死んでしまったことを受け入れられず、夫が生きているかのように振る舞うマリーを演じ、4年前の『さざなみ』では結婚45周年を迎えたものの、夫婦関係がゆっくりと崩壊していくことを止められないケイトを演じ、これらに『ともしび』のアンナを加えることで、いわば物理的に、あるいは心理的に「夫と離れていく妻の日常を描いたミニマル3部作」が並びそろったかのようである。どれもが女性の自立からはほど遠く、夫への依存度が高かったことが不幸を招き、3作とも自分を見失う設定になっていることは興味深い。「笑わない」というイメージから連想する「強さ」やリーダー的存在とは正反対の役どころであり、それこそランプリングは女性たちに最悪のケースを見せることで逆に何かを伝えようとしているとしか思えない。

 アンナの視界は狭い。彼女以外の視点から語られる場面はないので、何が起きているのか観客にはわからないままの要素も多い。このように「神の視点」を排除した語り口やカメラワークは近年とくに増えている。最近ではイ・チャンドン『バーニング』やリューベン・オストルンド『ザ・スクエア』にもそれは部分的に応用されていたし、『ともしび』では他の人の感情や存在感もほとんど消し去られていた。これは一見、主観的な表現のようでありながら実際にはヴァーチュアル・リアリティを模倣しているのだと思われる。あらゆるものをあらゆる角度から見渡せるといいながら、自分の視点からしか見ることができない視野の狭さがヴァーチュアル・リアリティには常に付きまとう。他の人の視点を交えることができない時に、映画というものはどのように見えるのか。こうした客観性や間主観性の排除がトレンドとなり、いわば古臭い物語でもヴァーチュアル・リアリティのような体験として蘇らせることがフォーマット化されつつあるのである。それこそスマホやSNS時代の要請なのだろう。フィリップ・K・ディックの世界と言い換えてもいい。そして、そうした方法論を最初から徹底的に突き詰めていたのがハンガリーのネメシュ・ラースロー監督であった。彼のブレイクスルー作となった『サウルの息子』(16)はホロコーストに収容されたユダヤ人の眼に映る光景だけですべてが構成され、主人公はいわば一度も客体視されず、観客が主人公となってホロコーストを「目撃」し、あるいは「体験」するという作品であった。自分の背後や周囲で起きていることが完全には把握できないことが無性に恐怖感を煽り、70年以上前のホロコーストをリアルなものへと変えていく。

 ネメシュ・ラースローの新作が公開されると知り、偶然にもハンガリーでデモが起きた当日に試写室に押しかけた。ブタベストで起きたデモは残業時間を年間250時間から400時間に引き上げるという法案が議会を通過したことに対して抗議の声が上がったもので、当地では「奴隷法」と呼ばれているものである。デモは昨年末に5日以上続き、催涙弾が飛び交う悲惨な事態となったようである(日本ではちなみに先の働き方改革法案で残業時間は年間700時間と定められた)。冷戦崩壊後のハンガリーはソヴィエト時代を嫌うあまり王政復古を望む声の高かった国である。そのことが直接的に現在の右派政権につながったかどうかは軽々に判断できないものの、ラースローが『サンセット』で描くのはそうした王政の最後、いわゆるハプスブルク家支配の末期である。ユリ・ヤカブ演じるレイター・イリスが帽子店で働こうと面接試験を受けに来るところから物語は始まる。イリスはその外見をカメラで捉えられ、客体視はされているものの、しばらく見ていると『サウルの息子』よりも少しカメラの位置が後退しただけで彼女の眼に映るものがそのままスクリーンに映し出されているものとイコールだということはすぐにわかる。ほんとにちょっとカメラの位置が後ろにズレただけなのである。イリスが働こうとする帽子店はとても高級で、どうやら王室御用達であることもわかってくる。イリスは経営者と交渉するが、その過程で彼女の家族に関する大きな秘密を明かされる。イリスは経済的に困っていただけでなく、アイデンティティ・クライシスにも陥り、いわば何もできない女性の象徴となっていく。そして、歴史が大きく動き始めたにもかかわらず、自分がどうすればいいのかはまったくわからない。当時のオーストリア=ハンガリー二重帝国がその直後にフランツ・フェルディナンドが狙撃され(サラエボ事件)、第1次世界大戦が始まることは観客にはわかっているかもしれないけれど、イリス(=ヴァーチュアル・リアリティ)が体験させてくれるものはその中で迷子になっていく市民たちであり、とっさにどれだけのことが個人に判断できるかということに尽きている。このところハンガリー映画が面白くてしょうがないということは『ジュピターズ・ムーン』のレビューでも書いたけれど、ラースロー作品にはハンガリー映画をヨーロッパ文化の中心に近づけようとする強い意志も感じられる。

 『ともしび』のアンナも『サンセット』のイリスもどちらも名もない女性である。彼女たちの内面ではなく、その視点だけを通して、この世界を見るというのが両作に共通の構造となっている。時代の転換という大仕掛けを用意した『サンセット』とは違って『ともしび』には格差社会や人種問題といったマイノリティの理屈さえ入り込む余地はなく、アンナの目に映るものは実にありふれた光景ばかりである。にもかかわらず、そのラスト・シーンで僕は心臓が止まるかと思うようなショックを受けた。映画が終わるとともにいきなりヴァーチュアル・リアリティのヘッドギアを外されたように感じたのである。

映画『ともしび』予告編

interview with Gang Gang Dance - ele-king

 いまから振り返って、ゼロ年代に盛況を見せたブルックリン・シーンはブッシュ政権に代表されるような強くて横暴なアメリカに対する意識的/無意識的な違和感や抵抗感を放つ磁場として機能していたのではないだろうか。古きアメリカをサウンドや音響の更新でモダンに語り直そうとしたアメリカーナ勢が注目されるいっぽうで、ブルックリンのエクスペリメンタル・ポップ・アクトたちは「非アメリカ」を音にたっぷり注ぎこむというある種わかりやすくアーバンなやり方で旧来的な「アメリカ」に抗したと言える。だとすると、トライバルなリズムと異国の旋律や和声を生かしながら、それをミックスしグツグツと煮詰めてポップにしたギャング・ギャング・ダンスは、ブルックリン・シーンにおける「非アメリカ」を象徴する存在だった。ブルックリンの街の風景がそうであるように、「アメリカ以外」が当たり前に混ざっていることこそが現代の「アメリカ」なのだと。いまでこそ多様性という価値観でマルチ・カルチュラル性を標榜することは浸透したが、当時の内向きな情勢にあって、外の世界を積極的に見ようとした彼らの功績はいま振り返っても大きい。
 10年代に入るとブルックリン・シーンは次第に拡散し、ニューヨークの地価と物価は上がり続けた。金のないアーティストたちはブルックリンを離れ、そして、ギャング・ギャング・ダンスも11年の充実作『アイ・コンタクト』から沈黙した。それぞれソロや別名義の活動を続けつつ、中心メンバーのブライアン・デグロウは山に住居を移して瞑想をしていたという。ニューエイジを聴きながら……。

 ブルックリンという地域性はなくなったものの、当時そこで活躍したインディ・ロック・アクトが近年再び活躍を見せはじめているのは、アメリカの社会情勢の混乱と無関係だとは思わない。他国の音楽をその境界がわからなくなるまでリズムや和声に溶けこませたグリズリー・ベア。あるいは、(現在はブルックリンを離れているという)ダーティ・プロジェクターズの前向きな気持ちが詰まった新作『ランプ・リット・プローズ』も、現在を覆い尽くす恐怖や不安に対抗するものだったという。ブライアン・デグロウはニューヨークの街に戻り、そして、ギャング・ギャング・ダンスは2018年に7年ぶりの作品をついにリリースした。
 そのアルバム、『カズアシタ』はGGDらしいトライバルなリズムとエキゾチックな旋律を持ついっぽうで、ニューエイジ色を非常に強めたものとなっている。近年の都市部でのマインドフルネスの流行を一瞬連想するが、サウンドはもっと深いところで、アルバムを通して瞑想的な平安を希求する。リジー・ボウガツォスの湿り気のある歌が陶酔的な響きを持つ“J-Tree”や“Lotus”、“Young Boy”などには現行のオルタナティヴなR&Bとシンクロするようなポップさがあるが、それも全体の一部として溶けこませるようにサウンドの統一感が演出されている。いくつかのアンビエント・トラックを通して内的世界に潜りこみ、『カズアシタ』は“Slave on The Sorrow”の壮大なサウンドスケープに包まれて何やらエクスタティックに終わりを迎える。
 怒りと怒りがぶつかり合う時代にこそ、GGDはスピリチュアルな探求を選んだ。越境する音が混ざり合うことで得られるピースフルな精神。来る日も来る日も報じられ続ける狂ったニュースに我を失いそうになったら、テレビを消して、インターネットの画面を閉じて、『カズアシタ』の音の揺らぎに身を任せるといいだろう。

※ 以下のインタヴューは、昨年のアルバム発売時におこなわれたものです。

アーティストとか、あんまり金のないひとたちにとっては住みにくいところになったし、すごく金に動かされてる。居住空間が高くなったしね。生活が維持できなくなったんだ。これってニューヨークだけの話じゃなくて、あらゆる場所で起きてることだけど(笑)。

前作『アイ・コンタクト』から本作の間、ブライアンさんがソロを出すなどメンバーそれぞれで活動をされていましたが、あらためてギャング・ギャング・ダンスのアイデンティティについて考えることはありましたか? だとすると、それはどのようなものですか?

ブライアン・デグロウ(Brian Degraw、以下BD):ふむ。僕らは自分たちのサウンドがどんなものか、ある程度意識してると思う。僕らが集まると何をするのか、どういうことが可能なのか。つまり、僕ららしさはつねにあるものなんだ。でも、僕らがそれに頼ってるとは言えない。音楽を作るとき、そういう思考プロセスに頼っているとは思わないからね。より自然なもので、逆にそこに頼らないようにしてるんじゃないかな。たとえば、今回のアルバムはこれまでに比べて前もって考えた部分が大きかったんだけど、とくにこういうサウンドはキープしようとか、そういうのはまったくなかった。たしかに僕ららしいサウンドというのはあるんだろうけど、意図的なものじゃない。だからこそ、それが何か説明できないしね。ギャング・ギャング・ダンスのサウンドの定義なんて絶対できないよ(笑)。

ギャング・ギャング・ダンスとして7年ぶりのアルバムを制作するにあたって、はじめに設定したゴールのようなものはありましたか?

BD:これはきっとほかのどのレコードより、青写真的なものがあったレコードだろうな。普段はそういうものはまったくなしに、そのままスタジオに入って音を鳴らして、何が起こるか見てみようって感じだから。でも今回はそうしなかった。あらかじめどういうレコードにしたいか、よりクリアなアイデアを持っておきたかったんだ。もうちょっと空間があって拡張的なもの、ある意味、よりシンプルなレコードにしたかった。簡単な言い方になっちゃうけど、カオス的なサウンドというよりは、シンプルなレコードだね。そう……落ち着いた、平静なサウンドというか。

本作はリズムよりもサウンド・テクスチャーやメロディに重点があったということですが、逆に言うと、ギャング・ギャング・ダンスにとってリズムのボキャブラリーはすでに身についたという自信の表れでしょうか?

BD:BD:うん、だと思う。あと、いまの音楽のほとんどがリズムをベースにしてる、っていうのとも関係してる。ラジオで流れるようなポピュラー・ミュージックでさえ、多くがリズム中心、ビート・オリエンテッドの曲だったりするよね? ビートを起点にしたエレクトロニック・ミュージックとか。で、僕らには、そのときの流行りがなんであれ、その正反対に行こうとする傾向がある。だから、それも前もって決めたことにかなり関係してると思う。

“( infirma terrae )”や“( birth canal )”のようにインタールード的なアンビエント・トラックが入っている狙いは何でしょうか?

BD:このレコードは、全体をひとつの曲として聴くように作られてるんだ。だから、そういうトラックもレコードのほかの曲と同じくらい重要で。でも、いまの音楽やレーベルのあり方というか、音楽をどう提示するか、っていうところで、レーベルには「レコードとして出すなら、曲を分けてほしい」って言われてね。そうやって見ると、分けるのも可能ではあったし、いくつか独立した曲として出せるものもあった。ただ、君が挙げたようなアンビエントなトラックもあるし、僕にとってはそういう部分こそ、このレコードでいちばんエキサイティングなところなんだ。いつ聴いても僕自身興奮する。まあ、ある意味では曲と曲を繋ぐような役割とも言えるんだけど、僕としてはいちばん聴いてて楽しいんだよね。

アルバム全体で流れがあるいっぽうで、“J-TREE”、“Lotus”、“Young Boy”辺りは独立したポップ・ソングとして完結した強度があるトラックだと思います。ギャング・ギャング・ダンスならいくらでも長尺のジャム・ナンバーが作れると思うのですが、完結したポップ・ソングを作るというのは本作にとって重要でしたか?

BD:僕らはああいう曲、よりポップな曲を作るのも好きなんだ。2005年からはそういうこともやってきたと思う。その頃からはじめたんだけど、それ以前はまったくそういう曲を作ろうとしたこともなかった。純粋に即興で、サウンド・ベースの音楽をやってたから。曲を構築したり、作曲しようとしたりはしてなかったんだ。だから2005年くらいから徐々にはじまって、あるレコードのある部分ではかっちりとした曲を作ろうとしたり、でもほかの部分ではそんなアイデアは捨てて、そうならなくても構わない、って感じだったんじゃないかな。うん、僕らはずっと、いわゆる「ポップ・ソング」を作ることに興味はあった。それがいまのところ、どこまで達成できてるかはわからないけど、ずっとトライはすると思うよ。

そうしたことと関係しているかもしれませんが、“Lotus”や“Young Boy”からはこれまでよりR&Bの要素が聞きとれます。近年のR&Bから刺激を受けるようなことはありましたか?

BD:僕らはこれまでもずっとR&Bに影響されてきた。きっと……90年代あたりからかな。実際、僕ら全員に大きな影響を与えてきたんだ。多くの場合、ある音楽からの影響はメンバーの誰かにはあっても、ほかのメンバーにはなかったりするんだけど、R&Bとヒップホップは僕ら全員が影響としてシェアしてる。ずっと僕らの音楽に影響を与えてきたひとをひとり挙げるとしたら、ティンバランドかな。いっしょに音楽をはじめて以来ずっと彼について話してきたし、リファレンスになってる。ティンバランドと、J・ディラもそう。僕らの話題にずっとあがってきた、ふたりのプロデューサーだね。アリーヤの話もよくするよ。

いっぽうで、“Snake Dub”は本作でももっともエクスペリメンタルなトラックのひとつですが、とくにエディットの緻密さと大胆さに驚かされます。本作のトラックのエディットにおいてもっとも重要なポイントはどういったものでしたか?

BD:“Snake Dub”はかなり最後のほうでできたトラックで。実際、レコード全体の順番、流れを作ってるときだった。その時点で、ほかにもいくつか、レコードに入れるかどうか迷ってるトラックがあったんだ。で、結局、より曲らしい曲を2、3、削ることにした。僕からすると、その時点でレコードとしてのバランスが、ちょっと「曲」、ソングに偏りすぎてたから。もっとルースな抽象性が足りなかった。どんなレコードを作るにせよ、やっぱりそういう部分は欲しいんだよね。だから、レコードの曲順を作ってるとき、最後の段階であのトラックをまとめたんだ。それまでにやってたいろんなインプロヴィゼーションを繋いで、コンピュータでエディットした。それもやっぱり、レコード全体のバランスを考えてやったんだよ。だからエディットの重要性というより、全部をひとつのものとして考えることが第一だった。

よりフィジカルで、ほとんど血管のなかに入って、身体のなかを循環するような感じ。僕にとっては時折、ドローンやアンビエント・ミュージックは僕の体のなかに存在するような気がするんだ。

現在は山のなかで暮らしているということですが、山の暮らしからもっとも学んだことは何でしょう?

BD:いまはまたニューヨーク・シティに戻ってきてるんだ。どうかな、ほんとにいろんなことを学んだから。ひとつだけ挙げるのは難しいよ。僕はたくさんのことを学んだんだ(笑)。そのほとんどは……うまく言えないけど、いまの僕が生活に対してどうアプローチするようになったかに関わってる。いろんな点で前とは違うんだ。山で暮らすことで、自分の優先順位について考える余地ができたから。僕自身や自分のアートにおいて、何にフォーカスしたいのか。生き方そのものについても考え直したしね。振り返ると、そういうことを僕は一度も考えてこなかったんだよ。長く街中で暮らして、とにかく前に進むことばっかり考えて、立ち止まることがなかった。「何が自分を幸せにするのか」さえ考えてなかったんだ(笑)。ちゃんと自分のこともケアしなかったし、健康にも気をつけてなかったし。だから、音楽やアート以外のこと、それまでネグレクトしてたことを考えられる機会になった。料理やサステイナブルな家、サステイナブルな生活みたいな、ほかの興味にもゆっくり時間をかけられたし、ガーデニングにもかなり夢中になった。だから、いまの僕には音楽やアートの領域以外にも、大事なことがたくさんできたんだ。

いっぽうで、ニューヨークの街はどうでしょう? 前作『アイ・コンタクト』の頃からとくに変わったと感じられることはありますか?

BD:実際、また街に戻って適応するのがかなり大変だったんだよね。最初は時間がかかった。いまはだいじょうぶだけど。前といちばん違うのは、いまは自分のアート・スタジオがあること。長い間住んでたのに、ずっとアート・スタジオを持ってなかったんだ。でもいまはアート・スタジオも音楽スタジオも持ってる。そういう空間があると、僕はずっとクリアにものが考えられる。でも最初に都市を離れて田舎に住もうと決めたときは、そういう場所がなかったんだ。だから、心の平安を見つけるのが難しかった。いまは自分がそこに行って、ちょっとしたものを作れるような空間があれば、街でももっといい生活が送れるんだ、っていうのを発見してるところ。以前はそういう場所がなかったからね。前の僕は小さなアパートメントで暮らして、落ち着かなくなって外に出たら、街中はもっとクレイジーだったりした。でもいまはスタジオ用の部屋があって、そこで落ち着いて考えたり、何か作ったりできる。実際、静かだしね。

通訳:街のほうも変わりましたか?

BD:うん。前とは違うタイプのひとたちが住んでる。ニューヨークはアーティストとか、あんまり金のないひとたちにとっては住みにくいところになったし、すごく金に動かされてる。居住空間が高くなったしね。もちろん、よくなったところもある。ある意味クリーンになったし……まあ、僕はときどき、30年前のクリーンじゃないニューヨークが懐かしくなるけど。でもやっぱり、一番変わったのは物価やコストだろうな。それでアーティストが押し出されて、僕を含め大勢が北部や田舎のほうに引っ越していった。生活が維持できなくなったんだ。とはいえ、これってニューヨークだけの話じゃなくて、あらゆる場所で起きてることだけど(笑)。

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いまってものすごくクレイジーな時代だから、みんなネガティヴになりがちだし、すぐ「もう希望なんてない」って考えてしまうだろう? でも僕は、希望はあると思うんだ。

最近は瞑想に使われるアンビエントやニューエイジ、インド音楽などをよく聴いていたということですが、これらの音楽のどのようなところが面白く感じられたのでしょうか?

BD:まあ、僕としては瞑想するために聴いてたんだ。で、うまく言えないけど、僕にとっては音楽というより非音楽的なものになったっていうか、感覚に訴えるフリーケンシー、周波数になったんだよね。よりフィジカルで、ほとんど血管のなかに入って、身体のなかを循環するような感じ。僕がそれほどアンビエントじゃない音楽、たとえばポップ・ミュージック寄りの音楽を聴くときには、必ずしもそういうふうには消化しない。全然受け入れ方が違うんだよ。そういうタイプの音楽は、自分の外側にあるように思い描く。僕にとっては時折、ドローンやアンビエント・ミュージックは僕の体のなかに存在するような気がするんだ。

『カズアシタ』にはスピリチュアリティが入っていると言えますか?(通訳註:スピリチュアリズムは英語で心霊主義の意味になるので、こう訊きました)

BD:僕としては、聴くひとがそう解釈するなら嬉しいけどね(笑)。僕にとってはスピリチュアルなレコードだから。僕が聴く音楽のマジョリティは、ニューエイジ音楽と分類されるような音楽だったりもする。だから、そういうふうに聴いてもらえるのはポジティヴだと思う。スピリチュアルな効果があるといいよね。それは、さっき言った「自分の体のなかにある音楽」ってことでもあるし。あと、このレコードのナラティヴがそうなんだ。僕にはほかのレコードよりスピリチュアルっていうか……いや、違うな。いまのは言うべきじゃなかった。どのレコードも僕にとってはスピリチュアルなんだけど、今回はナラティヴがよりスピリチュアルな領域に入っていく。ほかのレコードよりね。とくにエンディングがそうなってると思う。

印象的なジャケットのアートワークについて教えてください。SF映画のヴィジュアルを連想させますが、これは本作とどのように関わっているのでしょうか?

BD:あの写真は友人のデヴィッド・シェリーのイメージなんだ。彼は素晴らしい風景写真家で、あれはアメリカの北西部、オレゴンの沿岸で撮った写真なんだよ。うん、僕があのイメージを好きなのは、SFというよりは、世界の終わりであり、世界のはじまりでもあるようなところ。あのイメージには二重性がある気がするんだ。世界の終わり、もしくは始まりであって、同時にその両方でもあるような。その意味で奇妙なフィーリングがある写真なんだよね、僕にとっては。うまく説明できないんだけど……自分でもそのどっちかがわからない。そこが好きなんだ。

サウンド的にもSF映画のスコアを連想させる部分があると感じましたが、『カズアシタ』にSF映画やSF小説からの影響はありますか?

BD:サイエンス・フィクションではないけど、このレコードを映画のスコアとしては考えてたよ。作ってるときには、僕自身ずっと「映画」として話してたんだ(笑)。僕には映画として見えるレコードだから。聴いてると、映画のなかにいるのが想像できる。実際、いまもこのレコードに合わせた長編映画のプロジェクトを手がけてるところなんだ。そういう意味でも、これはとても映画的なレコードだね。

『カズアシタ』というアルバム・タイトルは(元メンバーの)タカ・イマムラの子どもの名前にちなんでいるそうですが、曲単位では“Kazuashita”や“Young Boy”に子どもが登場します。子どもの存在はこのアルバムのテーマに関係していますか?

BD:それも、この映画のナラティヴに関係してる。いくつか理由はあると思うけど、ひとつは僕らの年齢だよね。僕らの友人がみんな親になった。子どもを持つようになったんだ(笑)。だから周りに子どもたちがいて、それがレコードに影響を与えてる。周りで次々赤ん坊が生まれて……僕ら自身には子どもがいないんだけど、ここ数年で周りの友人に子どもが生まれたんだよ。で、周りにいる小さい子たちのことを考えるようになった。レコードのナラティヴに関して言うと、曲の“Kazuashita”はタカの子どもがこの世界に生まれたことであり、最終的にはいまのクレイジーで混乱した世界を指し示してる。彼がはじめてその世界を旅してるんだ。だからこそあの曲は“Kazuashita”っていうタイトルだし、“birth canal”っていう曲は彼が生まれる直前、母親の胎内から産道(birth canal)を通ってるところを描いてる。カズアシタが外界に出てこようとしてるんだ。で、“Young Boy”はまた別の話で。あれはリズが書いた曲。ここ数年アメリカで、若者たちに沈黙が向けられてることについて彼女が書いたんだ。

みんなに落ち着いてほしかったんだよ(笑)。攻撃に対して、さらなる攻撃で返したくなかった。むしろ静かな感覚を作り出すことで、カオスに対抗したかったんだよね。聴くひとを助けるっていうか、激しさを鎮めて、混乱を少なくしたくて。

ラストの“Slave on The Sorrow”は非常にスケール感の大きなナンバーで、歌詞も希望を暗示するものになっていると思います。この曲を最後に置いたのはなぜでしょうか?

BD:それはやっぱり、希望があるからだよね。僕はこのレコードをネガティヴな感じで終わらせたくなかった。また別のレイヤーが次に開かれていくような感じにしたかったんだ。世界の次のフェイズにね。だから希望があるし、ポジティヴだし。というのも、いまってものすごくクレイジーな時代だから、みんなネガティヴになりがちだし、すぐ「もう希望なんてない」って考えてしまうだろう? でも僕は、希望はあると思うんだ。僕はこのレコードで、いま起こっていることのあらゆるネガティヴな側面に目を向けたかった。でも最後に希望のある形で締めくくるのは、僕らにとってすごく重要だったんだ。「このフェイズを乗り越えるんだ」って感じられるようにね。この政治的な混乱やドナルド・トランプを乗り越えて、最後には光が見えてくる──っていうフィーリングにしたかった。新しい考え方や、新しい空気が開けてくるんだよ。

ギャング・ギャング・ダンスの音楽はつねに、さまざまな地域の音楽性を越境し、ミックスするものでした。『カズアシタ』にも、そうした多様な音楽性が前提として共存しています。いっぽうで現在、トランプ政権に代表するように、世界が内向きになっている傾向がありますが、そんななか、越境的な音楽はそのような(内向きの)ムードに対抗する力を持てると考えますか?

BD:持てればいいよね。そうあってほしい。これまで僕が話してきたいろんなひとたち、インタヴュアーやこのレコードについて書いてくれたライターのひとたちに関して言えば、そういう効果があったみたいだし。僕にはそう感じられる。それに、そこは僕らのゴールのひとつでもあったんだ。ある意味、落ち着いた感覚を作りだすことがね。このレコード全体がひとつの曲、ひとつのピースである理由もそこにある。アイデアとしては「我慢強くあること」っていうのかな。途中で気を逸らすことなく、最後まで見通すこと。少なくとも、そういうふうに聴いてほしいんだ。何かほかのことをしながら、次々早送りにしたりするんじゃなくて、ちょっとくつろげる場所を見つけて、最初から最後まで聴いてほしい。映画を観るようにね。映画観るときって、みんな途中で別のこと始めたり、バックグラウンドで映画を流したりすることってあんまりないだろう? だから、このレコードもみんなリラックスして聴いて、自分の中に取り込んで、ちょっとした旅に出るような気持ちになってほしい。そう、このあいだ別のインタヴューでも話したんだけど……ちょっと似たような質問が出て。そのときに言ったんだけど、いまみたいな政治的、社会的な状況下だと、音楽もそれと同じリアクションになってしまうことが多いよね。「これだけ社会が怒りに溢れてるんだから、こっちも怒りのある音楽、攻撃的な音楽を作るべきだ」みたいな。でも、僕はそうしたくなかった。そういうとき僕が聴きたかったのは、それとは正反対の音楽だったんだ。みんなに落ち着いてほしかったんだよ(笑)。攻撃に対して、さらなる攻撃で返したくなかった。むしろ静かな感覚を作り出すことで、カオスに対抗したかったんだよね。聴くひとを助けるっていうか、激しさを鎮めて、混乱を少なくしたくて。そういうふうにこのレコードが作用するといいなと思う。

通訳:毎日の生活でもそうですよね。私もニュースを見てものすごく怒ったりするんですけど、それがどんどんエスカレートするような感覚があります。

BD:そう、怒りって伝染するんだよ。怒ったひとたちはそのエナジーを君に投げつけて、怒りやすい環境を作りだす。それは、まさに君を怒らせるためだったりもするんだ。だからこそ、それを思い出して、まったく逆の方向に進まなきゃいけない。他人の攻撃に対抗するタイプの攻撃、アグレッションでは何も成し遂げられないからね。

STUMM433 - ele-king

 こ、これはすごい。昨年より続いている〈MUTE〉のレーベル設立40周年企画、ついにそのメインとなるプロジェクト「STUMM433」が発表されることとなった。ジョン・ケイジの“4分33秒”を〈MUTE〉ゆかりの50組以上のアーティストがそれぞれの解釈で演奏するという内容なのだけれど(ケイジが何をやった人なのかについては、まもなく刊行される松村正人『前衛音楽入門』を参照のこと)、とにかく参加面子がすごいったらない。詳細は下記よりご確認いただきたいが、ア・サートゥン・レイシオ、キャバレー・ヴォルテール、ノイバウテン、去年ともに佳作を発表したクリス・カーターイルミン・シュミット、まもなく 1st がリイシューされるマーク・ステュワート、さらにはデペッシュ・モードやニュー・オーダーまで! 昨年レインコーツのアナ・ダ・シルヴァとの共作を送り出した Phew も参加しています。同プロジェクトの第一弾として現在、ライバッハのムーヴィーが公開中。それらの映像作品を集めたボックス・セットは5月にリリース予定です。

〈MUTE〉レーベル設立40周年企画のメイン・プロジェクト発表!
ジョン・ケージの歴史的作品「4分33秒」を、独自解釈で演奏した映像作品を集めたボックス・セットを今年5月に発売!
ニュー・オーダー、デペッシュ・モードなど、50組以上のレーベル関連アーティストが参加!
第一弾としてライバッハによる映像作品を公開!

「僕らがどこにいようとも、聞こえてくるのはほとんどがノイズなんだ」 ──ジョン・ケージ

〈MUTE〉は、レーベル設立40周年企画「MUTE 4.0 (1978 > TOMORROW) シリーズ」のメイン・プロジェクト「STUMM433」を発表した。
50組以上のレーベル関連アーティストによる新たな作品を集めたボックス・セット「STUMM433」を今年5月に発売することとなった。

レーベル創始者ダニエル・ミラーのプロジェクトでありレーベル第一弾アーティストのザ・ノーマルから、ニュー・オーダー、デペッシュ・モード、そして最新アーティスト K Á R Y Y N (カーリーン)に至るまで、まさに過去・現在・未来の50組以上のアーティストがこのプロジェクトに作品を提供する。また、ポスト・パンク時代の歴史的作品を今月25日に再発するマーク・スチュワートや、〈MUTE〉からアルバム『Our Likeness』(1992年)を発売したPhewも参加する。

内容は、全てのアーティストがそれぞれひとつの楽曲を独自の解釈を持って披露するというもの。その1曲とはジョン・ケージの歴史的な1曲、「4分33秒」である。「4分33秒」はあらゆる現代音楽の中でも最も重要な作品のひとつとされている。発表されたのは1952年で、この曲はあらゆる楽器、もしくはあらゆる楽器構成で披露することができる作品である。というのもこの曲の譜面は、一人の奏者、もしくは奏者たちが演奏時間内(4分33秒)に一切自分の楽器を演奏しないことを記している。初披露されたときはもとより、いまでも挑戦的で前代未聞とされるこの作品は、静寂、サウンド、作曲、そして聞くという一般概念を完璧なまでに変えてしまったのだ。

ダニエル・ミラー(レーベル創始者)はこのプロジェクトに関して次のように語っている。「ジョン・ケージの“4分33秒”は自分の音楽人生の中で長い間、重要で刺激を受けた楽曲としてずっと存在していたんだ。〈MUTE〉のアーティストたちがこの曲を独自の解釈でそれぞれやったらどうなんだろう? というアイデアは、実はサイモン・フィッシャー・ターナーと話してるときに浮かんだんだよ。私は即座に、これを〈MUTE〉のレーベル40周年を記念する《MUTE 4.0 (1978 > TOMORROW) 》シリーズでやったら完璧じゃないか、と思ったんだよ」。

このプロジェクトの第一弾としてライバッハが作品を披露した。ザグレブにある HDLU's バット・ギャラリー・スペースでおこなわれたインスタレーション「Chess Game For For」開催中に撮影・録音され、クロアチアのパフォーマンス・アーティストのヴラスタ・デリマーとスロヴェニア製の特製空宙ターンテーブルをフィーチャーした作品だ。

ライバッハ「4分33秒」映像リンク
https://youtu.be/mM90X-9m_Zc

この作品から発生する純利益は英国耳鳴協会とミュージック・マインド・マターへ寄付される。この団体が選ばれた理由として、インスパイラル・カーペッツの創設メンバーでもあるクレイグ・ギルが、自身の耳鳴りの影響による心身の不安から不慮の死を遂げたことが挙げられている。このボックス・セットは2019年5月にリリース予定、詳細はここ数ヶ月後にアップデートされていく。

「STUMM433」参加アーティスト一覧

A Certain Ratio, A.C. Marias, ADULT., The Afghan Whigs, Alexander Balanescu, Barry Adamson, Ben Frost, Bruce Gilbert, Cabaret Voltaire, Carter Tutti Void, Chris Carter, Chris Liebing, Cold Specks, Daniel Blumberg, Depeche Mode, Duet Emmo, Echoboy, Einstürzende Neubauten, Erasure, Fad Gadget (tribute), Goldfrapp, He Said, Irmin Schmidt, Josh T. Pearson, K Á R Y Y N, Komputer, Laibach, Land Observations, Lee Ranaldo, Liars, Looper, Lost Under Heaven, Maps, Mark Stewart, Michael Gira, Mick Harvey, Miranda Sex Garden, Moby, Modey Lemon, Mountaineers, New Order, Nitzer Ebb, NON, Nonpareils, The Normal, onDeadWaves, Phew, Pink Grease, Pole, Polly Scattergood, Renegade Soundwave, Richard Hawley, ShadowParty, Silicon Teens, Simon Fisher Turner, The Warlocks, Wire, Yann Tiersen

MUTE 4.0 (1978 > TOMORROW) シリーズ
https://trafficjpn.com/news/mute40/

MUTE関連情報
1) マーク・スチュワート(ex. ザ・ポップ・グループ)の歴史的デビュー作が、 新たに発掘された10曲の未発表曲を加えた決定版として1/25に再発!
https://trafficjpn.com/news/ms/

長袖Tシャツ付き限定盤も予約受付開始!
https://bit.ly/2TKcCLO

2) ウィンター・セール開催中! 〈MUTE〉作品(ニュー・オーダー、CAN、スワンズ、キャバレー・ヴォルテール、アルカ等)のウィンター・セール開催中!
国内盤CD:1,500円、輸入盤LP:1,300円、輸入盤CD:1,000円など(税別)。お見逃しなく!
https://bit.ly/2TKcCLO

mute.com


BOOMBOX&TAPES - ele-king

 時代の速度は速い。20年前は可能性のかたまりみたいに賞揚されてきたデジタル・メディア、いまみなさんが見ているインターネットも、いまではフェイクだ宣伝だバイトニュース(アクセス数稼ぎの扇情的な見出し)だ、とか、眼精疲労にもなるし精神的にも中毒性が高いなどなど、むしろバッドな側面のほうが露呈している始末。そんななかでアナログに脚光が当たるのも無理もないというか。カセットテープ愛好家のための同人誌が刊行されました。同人誌といっても、『BOOMBOX&TAPES』(へのへのもへじPRESS刊)。はA4判型/40ページフルカラーのゴージャスな作り。カセット・テープおよびカセットデッキの紹介があり素敵な写真があり、愛好家たちのインタヴュー記事があります。文字も詰まっているし、ヴィジュアルも豊富で、読ませて見せますよ! 限定500部で、すでにけっこう売れているそうなので、うかうかしていると売り切れてしまうかも。
 ele-kingがカセットに着目したのはちょうどいまから10年ほどまえのUSのインディ・シーンがきっかでした。〈Not Not Fun〉のようなレーベルががしがしカセット作品を出してたし、で、しばらくするとヴェイパーウェイヴが出てきてカセット作品&フリー配信というリリース形態を確立しましたよね。まだまだカセットが衝撃だった時代だけど、いまじゃすっかり普及したというか、アナログ盤ほどじゃないにせよ、少なくともVHSビデオカセットや2HDフロッピーよりは(笑)、ほぼ選択肢のひとつとして定着している感はある。じつはあの当時、カセット作品を聴くためにTAEACのカセットデッキを中古で買ったんですけど、数年まえに壊れてしまったしまったんですよね。買い換えようと思っているうちに、中古のカセットデッキも値上がってしまったみたいで、ぼくはもう1台小さいのを持っているからいいんですけど、カセットの良さってやっぱ音質ですよね。あの音質は、ギガバイトの世界にはないので、音好きのひとはカセット聴いて下さい。新しい世界が広がりますよ~。

へのへのもへじ同人誌
猟奇偏愛同人誌(FUNZINE ABOUT SUPER STRANGE LOVE)
創刊号:BOOMBOX&TAPES
価格 : ¥1,500YEN+TAX(500部限定)


【Featuring】松崎 順一(Design Underground代表)/MAMMOTH(日本シンセサイザーノイズHOPグループ)/Geoff Johnson(ラジカセDr.)/五十嵐 慎太郎(MASTERED HISSNOISE代表)/角田 太郎(waltzオーナー)/赤石 悠(toosmell records代表)/糸矢 禅(LIBRARY RECORDS代表)/草野 象(ON SUNDAYSマネージャー)
【2018年11月12日発売/500部限定/日英バイリンガル原稿】
【体裁】A4オールカラー44ページ(オフセット印刷、無線綴じ)

西暦2018年XXX日本。
マーケティングビジネス、ファストファッション、コンビニ、巨大モールが疫病のように蔓延。かっての拘りのある個性ある店や、その良し悪しを教えてくれたちょっと怖い憧れの店員さんは絶滅し、当たり障りの無いお決まりの接客の顔なしのような店員が大量増殖。その結果、我々の審美眼、美意識、パッションは失われ、優秀な人材は海外に流出する始末...。
その一方で。
入手困難、高額、かさばる、不便、手間がかる無用の長物に価値を見出し、その魅力に憑かれてしまった偏愛家と呼ばれる方々がいる。
我々へのへのもへじPRESSは、
憂いを持って、
現状の日本に対するアンチテーゼとして、
御意見無用!の偏愛家たちのパッションとアティチュード、その物の価値体系を記録する同人誌を創刊する事にした。
記念すべき創刊号はカセットテープとラジカセの偏愛について。
カセットデッキにお気に入りのミックステープを突っ込んで、のんびりとご覧下さい。
その心意気はスペインの諺よろしく
「優雅な生活が最高の復讐である」
でどうぞ夜露死苦。

2018 A.D. XXX JAPAN.
Manual marketing business, fast fashion, convenience stores and giant shopping malls plague the landscape.
Shops with originality have all disappeared with knowledgeable enthusiastic sales staff. They are all replaced by faceless robots who just repeat their routine work.
With them, sense of beauty and passion for good taste are all lost. Gone are the talents who can tell what is good and beautiful.
On the other hand…we know there are ‘’maniacs’’ who cannot help seeing charm and beauty in useless, hard to find, rare and pricey, bulky and inconvenient stuff.
We are launching a fanzine titled HENOHENOMOHEJI-PRESS for those maniacs who don’t give a damn to the mainstream rubbish culture. It is an antithesis to the dominant depressing cultural landscape. Our zine is aimed to record the passion, attitudes and values of the fringe maniacs, just like you.
Our first issue features quirky love for cassette tapes and boom box. Play your favorite compilation tape on your boom box to get the max out of the zine!
As they say in Spain, our motto is ‘’an elegant life is the best revenge’’.
Enjoy your elegant life.


■現在の全国販売協力店 14店舗
@museumshop_onsundays (東京/外苑前)
@hmvrecordshop_shibuya (東京/渋谷)
@giftlabgarage (東京/清澄白河)
@toosmellrecords (東京/吉祥寺)
@eadrecord (東京/高円寺)
@newport054 (静岡)
@theapartmentstore.jp(名古屋)
@storeinfactory (名古屋)
@liverary_extra (名古屋)
@c7cgalleryandshop (名古屋)
@library_records (富山)
@eyejackdesignstudio (広島)
@ongakushokudo_ondo (広島)
@shimacoya (香川県直島)

彼女は頭が悪いから - ele-king


 2016年に起きた東大生強制わいせつ事件に想を得た「小説」。昨夏に刊行され、年末に東大で著者を含めた大規模な討論会が開かれている。昨年は財務官僚のセクハラ辞任やBBCで「Japan's Secret Shame 」が放送されるなどエリートと性暴力が強く関連づけられた年といえ、気になっていたのでようやく正月に読んだ。事件の骨格はほとんどそのまま使われているので最初はノンフィクションにした方がよかったのではないかと思ったけれど、著者によれば個人の話に収斂させることで見失うものがあると考え、実際に存在した人物とは異なる人物造形を行なった上で、あくまでフィクションの力に訴えたという。リアリズムとは遠い距離にいたはずのトルーマン・カポーティが作風を変えた『冷血』に取り組み、以後、執筆活動から離れてしまった轍は踏まないということだろう。小説の前半は被害者の女子大生(美咲)と加害者のひとり(つばさ)を高校時代から交互に描くという青春小説のような趣き。この部分におけるある種の入れ込みようが人によっては長すぎると感じただろうし、ディテールを積み上げただけのことはあったと思った人もいただろう。僕はもう少し短くてもよかったかなと思いつつ、後半はまったく雰囲気が変わってしまうので、連続性を見失うような感覚に襲われ、何が起きるかはわかっているはずだったのに、それでも「暴力」はいきなりやってきたという展開に感じられた。後半は気持ち悪くなって読み続けられなかったという読者がいたのもわかるし、最後まで読むことのできた読者は、そのような人たちと比べて多少とも「暴力慣れ」しているともいえる。そのことは自覚した方がいい。また、前半でとくに気になったのは美咲が気にしている「重たい女」という表現で、「別れたらもう会わない女と思われたくない」という意味で使われていたと思うものの、「重たい女」という言葉が美咲を性暴力の被害者に導くマイティワードになっているのではないかと感じられたこと。「重たい女」という言葉が悪いのか、仮にこの言葉でいいとしても、恋愛という局面において「重たい女」ではなぜいけないのかということがもうひとつ僕にはよくわからなかった。もしくは「別れても友だちでいたい」というのは美咲の欲望であり、そのことを肯定するための理屈としてはやはり弱かったのではないかと。「重たい女」の反対は「軽い女」で、とはいえ美咲が「軽い女」に見られたかったということもないだろうから彼女の心理描写としてはどうしてもモヤモヤしたものが残ってしまった。

 海外のウェブサイトなどで自分たちのセックスを実況放送しているカップルがいたりする(日本にもいるだろう)。お金目的の人もいるだろうから、動機や目的などは様々だろうけれど、そこで展開されているセックスはあまり煽情的ではなかったりする。旧東ドイツの性事情を回顧したドキュメンタリー『コミュニストはセックスがお上手?』(06)も同じくだったけれど、いわゆるアダルトヴィデオと比較すると、セックスという行為をどのように進めたいかという時に、ウェブカムでの実況中継や東ドイツの夫婦はお互いがやりたいことの接点を探っているという印象があり、セックス自体がコミュニケーションになっていると感じられる。これに対してポルノだったりアダルトヴィデオだったりは男がリードしていようが、女が主導権を握っていようが、多かれ少なかれ相手をモノ扱いしている傾向があり、どんなにソフトな内容のものでも、そうした作品はやはり「暴力性」が興奮を導き出しているところがある。「暴力性」もまたコミュニケーションのヴァリエーションだと言われればそれまでだけれど、『彼女は頭が悪いから』で描かれている強制わいせつのシーンはまさに「モノ扱い」を際立たせ、人間が人間をモノとして扱える冷酷さを冷静に描写していくところが良くも悪くもポイントではあった。喩えは悪いかもしれないけれど、戦場に転がっている死体にさらに弾を撃ち込んでいるような触感を味わわされるというか。誤解を恐れずにいうとそれこそレイプでもしてくれた方がまだわかりやすかったといえるほど東大生たちの行動はありえない方向へと進み、先導役をおかしいと思えばいいのか、集団心理を呪えばいいのか、どのピースを外せばここまでのことにはならなかったのかと考えることさえ無駄な気がしてくる。強制わいせつのシーンは現実に起きた事件をほぼ踏襲したものだそうで、小説自体がセカンド・レイプだという意見もあるし、だったら、この文章もそうだし、興味を持つ人はもうそれだけで似たような部類ということになる。著者が書きあがった小説を被害者に見せて発表してもいいかどうかを確認したかどうかまではわからないけれど、著者が主張するようにフィクションだから伝えられることがあるとしたら、彼らの「冷酷さ」を現実とは異なる強制わいせつの方法で追体験させる手もあっただろうとは思うし、この部分をフィクションにしなかったことはちょっと引っかかるところではあった。そしてそれを言ったら「東大」という名称だってボカせばよかったのかもしれないけれど、でも、そこは譲れなかったのだろう。冷酷になれる根拠がエリート意識にあり、とくにエリートでもない男たちが起こした性犯罪とは違う種類の事件だと強調することに意味があったのだろうから。

 本書を読んでいて思い出したのが日本では2016年に公開されたロネ・シェルフィグ監督『ライオット・クラブ』である。これは「ポッシュ」という舞台劇を映画化したものだそうで、イギリスのエリートたちが所属する実在の秘密クラブをモデルに、彼らが開く晩餐会ではどれだけ女性を辱めれば気がすむのかという余興や店の破壊が慣習的に行われ、時の首相であったキャメロンがこの会のメンバーであることから、その失脚を狙って製作されたものだという。映画はしかし、ヒットせず、キャメロンもブレクシットを決めてさっさと首相の職を退いてしまう(この映画についてはブレディみかこさんも連載で触れていたので、詳しくはこちらを→https://www.ele-king.net/columns/regulars/anarchism_in_the_uk/004442/)。複数の男性がひとりの女性をレイプしたり、あるいは単に言葉でからかったりといった事件やそれに基づく作品は無数にある。世界で初めてのセクハラ裁判を扱った『スタンドアップ』(05)や国連がボスニアの売春組織と裏で繋がっていたことを暴き、アメリカでは上映されることがなかった『トゥルース 闇の告発』(11)が最近だとすぐに思い浮かぶけれど、こういった作品と『彼女は頭が悪いから』や『ライオット・クラブ』を隔てるのは、エリートたちは自分のしていることがどういうことかはわかっているはず(というか、わざとやっているわけ)だから、教育がない人たちの同様な行為とは違って、階級社会の力学や支配者意識が作品の随所から漏れ出ていることだろう。暴力の主体が個人ではなく、組織暴力の延長のようなものだと考えたくなる傾向というか。とはいえ、移民や外国人が女性をレイプしたという報道があったとして、その時に外国人全体がまるで潜在的なレイプ犯のようなニュアンスで語られることもあるだろうから、すべての外国人が犯罪予備軍のはずがないように、すべてのエリートが組織暴力の可能性と結びついているということはなく、となるとやはりこうした問題は個人を単位で考えるべきであり、著者が「個人の話に収斂させることで見失うものがある」と考えたことは間違いだったのではないかという気もしてくる。しかし、強制わいせつの場面から章を改めずに、事件を知った人たちがネットで引き起こす反応へ話が進むと、様相は少し変わり始める。強制わいせつの場面までは冷静に書かれていた文章も、その直後から急に怒りが吹き出してきたかのように僕には感じられた。邪推かもしれないけれど、著者がこの小説を書こうと思った動機は事件そのものではなく、この事件に対して巻き起こったネットの反応に対するものではなかったかとさえ思ったり。

 僕の家から15分ほど歩いたところに東大はある。いろいろと便利なので、学食を利用したり、三四郎池でボーッとしたり、バカ田大学の授業を聞きに行ったりもした(東大って、いろんなことやってますよね)。そして、いつも異様だと感じるのは赤門の前である。ここを通る時には誰かが撮影をしていないということがない。在校生なのか、観光客なのか、落ちた人なのか、単なる通行者なのかはわからないけれど、とにかく撮影者が途切れることがなく、撮影の邪魔になっては悪いと思うので歩きづらいことこの上ない。季節が悪ければ通り抜けるのにも時間がかかってしまう。考えてみると東大生強制わいせつ事件は東大の外で起きたことだし、『彼女は頭が悪いから』も東大の外で書かれた小説である。そして、ネットで巻き起こった被害者への過剰な攻撃や「東大生狙いだったんじゃないの?」という類いの書き込みはそれこそ東大の外から湧き上がってきた視点であり、東大というものがどのようにみられているかを増幅させた結果だろうと思える。実際には個人が犯した犯罪ではないのかという思いが、被害者に対する中傷との組み合わせによって、むしろ東大と名指ししなければすまないファクターへと押し上げられ、個人の問題では終わらせようがなくなった感がある。要は『彼女は頭が悪いから』はネット時代であることと切り離しては成り立たない小説であり、事件が起きるまでの情報量の多さに対してネットで飛び交う意見のプアーさをこれでもかと印象付け、実体としての東大とは異なった東大がネットの中には聳え立っていることを描き出したといえる(東大で行った討論会がもうひとつピント外れだったというリポートが多いのは、当事者がいたのは「外」だったからだろう)。読者はすでに美咲とつばさがああなってこうなってそうなってどうなったかを飽きるほど説明されているので、ネットの書き込みが振りかざす見解の浅さにはどうしたってうなずきようがない。また、犯人を擁護している人たちはミソジニーがほとんどで、美咲が東大生たちを司法に訴えたことについて腹を立て、様々な意見を述べているようだけれども、そのどれもが女性を部屋に呼ぶ男は全員が性暴力を振るう存在だという前提でしか意見は述べられていない。それでは女性を部屋に呼ぶことのできた男には女性を襲う権利があるみたいだし、彼らにとっては女性だけが行動を制限される社会が当たり前になっているのである。女性が自動車を運転し、映画館にも入ってもいいことになったりと、あのサウジアラビアでさえ変わろうとしている時代に。

 この小説からすっぽり抜け落ちている要素がある。東大の女子学生たちである。東大生強制わいせつ事件は「東大生」が他の女子大生をターゲットにしたものであって、東大の女子学生を襲う話ではない。東大に女子学生は2割しかいないらしい(小説の中では1割とあるけれど、2割が正しいらしい)。その数値が指し示すものは女性たちが知力で劣るとか、入試で男子の得点が水増しされているからではなく、女性には東大を出ることに魅力がないからである。場合によっては結婚する時に東大出であることを隠すこともあるらしい。男子は東大を出れば、その能力に見合ったポストを手に入れるべく進むべき道が整っているのに対し、女性には権力に近づく手段が限りなく狭められているので東大に入るメリットが男よりも希薄なんだそうである。なるほど政治家にも高級官僚にも女性はあきらかに少ないし、数少ないロールモデルが片山さつきでは夢もしぼんでしまうだろう。東大に女子学生が少なく、権力を目指すことに限界があることと、美咲が犯人たちを訴え、いわば女性の権利を訴えたことは相似形である。男の部屋で酒を飲んでも何もされないという権利を女性に認めろという主張は、女も医局長になって白い巨塔の回診をやりたいとか、日産の役員になりたいとか、土俵に上がりたいとか、『新潮45』の編集長になりたいとか、なんらかの決定権を寄こせということの第一歩みたいなものでしかない。それほど女性たちが権力と結びつくことは恐れられ、この社会を動かす決定権を握らせるなという意志が明確に働いているようなものである。東大生たちを擁護して「これ、女の陰謀じゃねーの?」と書き込んだ例に即していえば、東大出の男性たちが日本という社会の多くを動かし、無意識(?)に女性たちの権利を拡大させまいとしているんじゃねーの? と返してみたくなるし、東大に女子学生が少ないこととある種のネット民が美咲の行動に攻撃を仕掛けてくることは同じパワーの発露にほかならない。だから、この話は「東大」でなければならなかったのである。

Mira Calix - ele-king

 ミラ・カリックス――紙エレ23号でも少しだけ触れたけれど、彼女はとてもおもしろいアーティストだ。90年代半ばにエレクトロニカの文脈から浮上してきた彼女は、2000年に『One On One』という良作を残し、その後ゼロ年代には現代音楽をおもなレパートリーとするロンドン・シンフォニエッタや、昨年アルバムをリリースしたオリヴァー・コーツ、そしてなんと虫たち(文字どおり虫です)と共演。以降も映画や演劇のスコア、インスタレイションなどをつうじて精力的に活動を続けてきた。
 そんな彼女が久しぶりにフィジカル作品を発表する。〈Warp〉からのリリースは2008年の『The Elephant In The Room』以来じつに10年ぶりだが、公開された新曲“rightclick”は予想以上に低音が効いていて、初期ともゼロ年代とも異なる趣を携えている。これは早くほかの曲も聴きたいですね。ミラ・カリックスの新作EP「utopia」は1月25日、10インチ・ヴァイナルとデジタルにて発売。

mira calix

〈WARP〉初期より活躍する才女、ミラ・カリックスが〈WARP〉からは10年ぶりとなるEPのリリースが決定! 新曲“rightclick”のMVが解禁!

レディオヘッドのサポートアクトへの抜擢やボーズ・オブ・カナダのリミックスなどで話題を呼び、初期より〈WARP〉の屋台骨的な活躍をしてきたミラ・カリックス。〈WARP〉からは10年ぶりとなるEP、「utopia」が1月25日に発売されることが決定し、同時にEPに収録される楽曲“rightclick”のMVが公開された。

mira calix - rightclick
https://www.youtube.com/watch?v=w1mZWs1Neis

このEP制作のように、自分にタイム・リミットや厳しいルール、幅の狭い音の種類を与えること、ライター、プロデューサー、ミュージシャンとして完全に自主的に取り組むことはとても新鮮だった。それはある意味で自分のルーツ、〈WARP〉から初めて10インチのヴァイナルをリリースした時に戻ってくるような感じだけれど、全く新しいもののような遊び心があるようにも感じたわ。 - Mira Calix

彼女の最近のプロジェクトは、野心的な合唱音楽作品やパフォーマンス・アーティスト、独特なスピーカー拡散システムなどを取り入れたサウンド・インスタレーションといった活動が中心になっており、10年ぶりとなる〈WARP〉からのリリースに関しては自身が「全く新しいもののような遊び心があるようにも感じた」と語るように、フレッシュさを感じさせる内容となっている。

待望の10年ぶりとなるEPは1月25日にアナログとデジタル配信でのリリースを予定しており、iTunes Store でアルバムを予約すると公開中の“rightclick”がいち早くダウンロードできる。

label: Warp Records
artist: mira calix
title: utopia
release date: 2019/01/25 FRI ON SALE

[tracklist]
1. rightclick
2. just go along
3. upper ups
4. bite me

more info:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10043

vol.109:NYのたこ焼きパーティ - ele-king

 明けましておめでとうございます。NYはお正月もほとんどなく、私は1/1から普通に働いていましたが、ようやくホリディムードも終わり、平常に戻ってきました。
 私は、ブシュウィックのミードバー(ハニーズ)で、毎月たこ焼きイベントを開催しています。バンドやDJ、ダンサーなどのゲストを招待し、ドリンクやフードを提供し、ミードを飲みながら、たこ焼きを焼いています。場所が場所なのでバンドやアーティストが多く、元ラプチャー、アヴァルナ、ピルなどのメンバーもよく来ます。
 ツアーから戻ってきたばかりだったり、レコーディングの最中だったり、仕事の合間だったり、みんな忙しくしていますが、息抜きは必要。とくにこの辺りは音楽会場も多いし(エルスホエアなど)、サクッと一杯にちょうど良いみたいです。NYはたくさんのバーがあり過ぎますが、働いている人や誰とハングアウトするかによって行く場所が変わります。
 さて、ハニーズでは今回は、Data securityというユニットが登場。音と映像がシンクロするライヴを生でするという試み。あまりの機材の多さに卒倒しそうになりました。スーツケースふたつ分ぐらいの機材だったので。金曜の大会場でダフト・パンクを見ているような、ダンスフロアになりました(火曜日でしたが)。で、そこにNha Mihnというベトナムレストランを経営していた、Fredが来ていました。
https://www.insideelsewhere.com/new-blog-1/nha-minh-healthy-vietnamese-bowls-brooklyn




たこ焼きイベント(ハニーズチューズデー)!

 彼は、ベッドフォードでレストランを経営した後、しばらくケータリングをし、そしてNha Mihnをオープン。彼のNY1美味しいベトナム料理とアートショー、音楽ショー、フリーマーケットなど楽しいイベントをどんどん開催。その間にも彼は別の店でポップアップをしたり、イベントに出店したり、いろんな場所に出没。彼に出演をお願いするとすぐに「良いよ」と返事をもらい、話が決まりました。


Japanese new year bowl
(チキンとごぼうの肉巻き、サツマイモご飯、なます、野菜のゼリー寄せ、レンコン煮)

 NYではたくさんの場所が閉鎖し、たくさんの場所がオープンしています。失敗は当たり前、これがダメなら次はこれと直ぐに立ち直り、模索し、良いものだけが淘汰されていきます。あの会場と彼が手を組んで、こうなるのか、なるほどなど、フットワークが軽い人と話をすると、こんな人がブルックリンを作ってるんだなと感じます。最近ブルックリンでは、ファンドレイザーショーも盛んで、ミュージックショーをしたり、絵を描いたり、タロット占いをしたり、ジュエリーを売ったり、スタンダップ・コメディをしたり、自分ができるなにかで、参加し貢献しています。
 音楽だけのショーは少なくなり、マルチなショーが増えている、と思いますが、いろんなものが合わさって、たくさんのオーディエンスにも届くのが現在的なのでしょう。


Data security


DJ SIM Card

ALTZ - ele-king

 大阪のコズミック大将ALTZによるバンド・プロジェクト、ALTZ. Pがいよいよアルバムをリリースする。ヌケの良いシンセベースによる艶めかしいファンクからはじまる『La Toue』と題されたそれは、大阪独特のいかがわしいサイケデリアがまばたきしたとたん崇高に見え、しかし目をこすった途端バカバカしく見えてしまうという、腐食性と精神性をかねそなえたキッチュなリアリズムと幻想を展開する。素晴らしい女性コーラス隊はときにソウルフルで、鬼才Pulseman、元NEWEST MODELのドラムスMau&ベースのシェイク吉村の叩き出す中東ディスコ・ビートに酔いながら、リスナーはいつの間にか昇天するでしょう。
 日本の土着性をどう切り捨て/取り入れるかという点では、食品まつりやGroundなんかとも共通する志向があり、幻想的な冒険は、クラブ・カルチャーには興味ないリスナーをも踊らせるでしょう。ぜひぜひ、チェックしてください。ピース。


ALTZ. P
La Toue

ALTZMUSICA
https://www.altzmusica.com/

Binkbeats - ele-king

 これは興味深い。まずはこのエイフェックス“Windowlicker”のカヴァー動画を視聴してみてほしい。あの楽曲を人力で、しかもたったひとりで再構築してしまうこの人物、ビンクビーツ(Binkbeats)というオランダのプロデューサーである。他にもフライング・ロータスラパラックスアモン・トビンなどのエレクトロニック・ミュージックをがしがしひとりでカヴァーしているからすごい。アンダーグラウンドの最尖端に敏感なDJクラッシュの最新作『Cosmic Yard』にもフィーチャーされていたので、それで気になっていた方も少なくないだろう。そんなアナタに朗報です。ちょうど本日1月9日、彼がこれまで発表してきた2枚の12インチを独自にまとめたCDがリリースされます。昨年ソニックマニアで来日した〈Brainfeeder〉のジェイムスズーも参加しているとのことで、おもしろい音楽を探している方は要チェックですぞ。

BINKBEATS

〈Brainfeeder〉総帥 Flying Lotus、Thom Yorke (Radiohead) 率いる Atoms For Peace、そして Aphex Twin や、さらには J. Dilla まで数々のアンセムを人力且つたった一人で再現したライヴ映像で世界中に衝撃を与えたオランダのビート・サイエンティスト BINKBEATS ついに日本デビュー!

LAビート・シーンを牽引する〈Brainfeeder〉総帥 Flying Lotus “Getting There”、Thom Yorke (Radiohead) 率いる Atoms For Peace “Default”、そして Aphex Twin “Windowlicker”といった数々のアンセムやさらには J. Dilla の“Mixtape”を人力且つたった一人で再現したライヴ映像で世界に衝撃を与えたオランダのマルチ・インストゥルメンタリスト BINKBEATS。ROCK、POSTROCK、ELECTRONICA、HIPHOP、JAZZ など幅広い音楽要素を融合し多種多様な楽器/機材を駆使しながら構築する先鋭的なビートや美しくもエモーショナルなメロディ、それらを独創的なサウンド・スタイルで展開した本作は各500枚限定でプレスされた連作EP「Private Matter Previously Unavailable」 PART1 と PART2 の全曲を収録したオリジナル楽曲としては初のCD化!

既に YOUTUBE で公開されているライヴ映像が100万再生を超えているM1 “Little Nerves”は Daedelus や Jameszoo の作品にも参加しLAビート・シーンの重要レーベル〈Alpha Pup〉からも自身の名義でリリースしている注目の若手鍵盤奏者 Niels Broos をフィーチャー、そしてM3 “In Dust / In Us”には〈Brainfeeder〉から発表された 1st『Fool』が高い評価を受けた Jameszoo もプロデュースに加わるなど次世代の注目アーティストが多数参加! 現在ワールドワイドにツアーを行っており、また DJ KRUSH の最新アルバム『Cosmic yard』(2018年3月)にも参加するなど日本国内でも徐々に活動の幅を広げるなど、その唯一無二なパフォーマンスで世界各地に衝撃を与えている今後の活躍が期待されているアーティストである。

タイトル:Private Matter Previously Unavailable / プライヴェート・マター・プリヴィアスリィ・アンアヴェイラブル
アーティスト:BINKBEATS / ビンクビーツ
発売日:2019.1.9
定価:¥2,400+税
PCD-24796 / 4995879-24796-9
日本語解説:原雅明
p-vine.jp/music/pcd-24796

Additional Synths On All Tracks By Niels Broos
Additional Production On In Dust / In Us By Jameszoo
Additional Vocals On Heartbreaks From The Black Of The Abyss By Luwten, The Humming / The Ghost By Maxime Barlag

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