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Dirty Projectors

ExperimentalIndie Rock

Dirty Projectors

Lamp Lit Prose

Domino / ホステス

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小林拓音   Aug 07,2018 UP

 鳥が舞っている。幸福の象徴とみなされる、青い鳥。主人公は陽光に包まれながら街を練り歩き、ポール・マッカートニーを彷彿させる旋律を口ずさむ。あなたとわたし。わたしとあなた。ふたりはベンチに腰かける。甘く、鮮やかで、どこまでも朗らかな時間。背後では擬似的にダブが再現される。これは、青い鳥の立てる羽音だろうか。
 折り返し地点に配置されたこの“Blue Bird”だけではない。続く“Found It In U”にも鳥たちの歌声はこだましている。あるいは先行公開された“Break-Thru”のMVでは、大量の鳥たちが羽ばたいている。なんども顔を覗かせる鳥のモティーフ。それは自由の象徴でもある。

 通算8作目となるダーティ・プロジェクターズのアルバムは、こちらがつい「大丈夫?」と声をかけてしまいそうになるくらい意気揚々と、現世の春を謳歌している。この異様なまでにポジティヴなムードはもちろん、デイヴ・ロングストレスの「個人的な体験」にも由来しているのだろうけれど、本人曰く2016年以降の政治状況にたいするアンサーでもあるらしい(紙エレ最新号掲載のインタヴュー参照)。暗澹に暗澹を返してもつまらない。ゆえに、明朗をぶつけること。歓喜を歌うこと。たしかに、かつて鳥=バードの紡いだ物語は、「受け容れがたい」現実とストレートに相対することの暗示でもあった。だから本作で鳥たちが体現している「自由」は、それが良いものであるかどうかはさておき、「リベラル」をも含意しているに違いない。
 そのようなデイヴの陽性は本作に、かつてなく豪華な客人たちを招き入れてもいる。前作のエクスペリメンタリズムに大きな影響を及ぼしていたタイヨンダイ・ブラクストンは、しかし、引き続き本作にもモジュラー・シンセで参加しているものの、前回のように権勢をふるっているわけではない。それは他のゲストについても同様で、“Right Now”のシドにしろ“Zombie Conqueror”のエンプレス・オブにしろ、みずからの艶やかなヴォーカルを際立たせることよりも、合いの手やコーラスを機能させることに力を注いでいる。地味にクレジットされているビョークも含め、すべての参加者はデイヴ・ロングストレスの想像を具現するための駒である。

 青と赤の球体が対になったアートワークと大々的に復活したギター・プレイのためだろう、本作は「『Bitte Orca』への回帰」ないし「『Bitte Orca』の発展形」と評されることが多いようだ。あるいはアフリカンな響きをたたえる“Break-Thru”や“I Feel Energy”なんかは『Rise Above』を思い起こさせもする。本作に「回帰」的な側面があることは否定しがたい。
 とはいえ、けっして前作の存在がなかったことにされているわけではなくて、“Found It In U”や“What Is The Time”などには『Dirty Projectors』で試みられていた音響実験の残滓がまとわりついているし、“Break-Thru”におけるウーリッツァーの使用法なんかもそれとおなじ位相にあるものと捉えることができる。それに、R&Bの要素もある。前作での野心的な試みがなければ、本作が生み落とされることもなかっただろう。けれどもそれらの曲群のあいまには、フォークとハードロックが互いの領分を主張しあう“Zombie Conqueror”のような愉快な曲も紛れ込んでいて、ダーティ・プロジェクターズの実験主義がしっかり更新されていることを教えてくれる。
 つまりこのアルバムは、エクスペリメンタルな電子音楽とコンテンポラリーなR&Bを高度なレヴェルで折衷した『Dirty Projectors』(なぜあの力作がそれほど評価されなかったのか、いまだに納得がいかない)を経たうえで、あらためてインディ・ロックないしギター・ミュージックの方法論を見つめ直そうとするアルバムだと言うことができるだろう。ロビン・ペックノールドやロスタムの参加がそのことを担保している。デイヴの出自たるインディ・ロック、本人のことばを用いれば「自分もミュージシャンになりたいと思わされた」音楽、「自分が忠誠心を感じる」音楽、その豊かな土壌にいまいちど立ち返ってみること――ようするに、青い鳥ははるか遠方にではなく、身近なところに潜んでいたというわけだ。

 鳥たちは自由を象徴する。しかし自由なるものは必然的に、べつの新たな不自由を呼び寄せる。本作にかんしていえばそれは、前作で全面に打ち出されていたようなエレクトロニックな実験主義から距離をとる、という不自由である。その「不自由」を思うぞんぶん謳歌すること。それがいまのデイヴにとっての幸福なのだろう。じっさいこの『Lamp Lit Prose』の完成度の高さは、2018年下半期最初のハイライトといっていい。けれどもわたしたちは知っている。かの名高き青い鳥は、わたしたちがその存在に気がついた瞬間、どこかへと飛び去ってしまうということを。幸福は一所に長居しない。すなわち本作は、デイヴ自身がここからさらに遠くへと飛び立つためのアルバムでもあるのだ。

小林拓音