ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Columns ♯5:いまブルース・スプリングスティーンを聴く
  2. 『成功したオタク』 -
  3. tofubeats ──ハウスに振り切ったEP「NOBODY」がリリース
  4. Bingo Fury - Bats Feet For A Widow | ビンゴ・フューリー
  5. Columns We are alive ――ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて
  6. Jlin - Akoma | ジェイリン
  7. Chip Wickham ──UKジャズ・シーンを支えるひとり、チップ・ウィッカムの日本独自企画盤が登場
  8. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  9. KRM & KMRU ──ザ・バグことケヴィン・リチャード・マーティンとカマルの共作が登場
  10. Bruce Springsteen - Letter To You
  11. interview with Mount Kimbie ロック・バンドになったマウント・キンビーが踏み出す新たな一歩
  12. Columns ♯3:ピッチフォーク買収騒ぎについて
  13. まだ名前のない、日本のポスト・クラウド・ラップの現在地 -
  14. Columns ♯4:いまになって『情報の歴史21』を読みながら
  15. interview with Chip Wickham いかにも英国的なモダン・ジャズの労作 | サックス/フルート奏者チップ・ウィッカム、インタヴュー
  16. 野田 努
  17. Columns ♯2:誰がために音楽は鳴る
  18. Mars89 ──自身のレーベル〈Nocturnal Technology〉を始動、最初のリリースはSeekersInternationalとのコラボ作
  19. Columns ♯1:レイヴ・カルチャーの思い出
  20. Ben Frost - Scope Neglect | ベン・フロスト

Home >  Reviews >  Album Reviews > Laibach- The Sound of Music

Laibach

Soundtrack

Laibach

The Sound of Music

Mute/トラフィック

Amazon

三田格 Dec 19,2018 UP

 80年台中盤、インダストリアル・バンドとしては少し出遅れた存在だったライバッハは、ユーゴスラヴィアで活動しているということがまずは関心を引いた。いまでこそ中国のボディミュージックでもスペインのトラップでもすぐにネットで聴くことができるけれど、80年代当初、ベルリンの壁が屈強に「東側」を覆い隠していた時期だったのでユーゴスラヴィアにロックやオルタナティヴな音楽活動があることも知られていなかった(実はいろいろあったことが最近の発掘対象となっている→https://www.youtube.com/watch?v=Y4B0vUIQXBY)。〈L.A.Y.L.A.H. Antirecords〉からリリースされたシングル「Boji / Sila / Brat Moj」を最初に聴いたんだったかなんだったか、ライバッハのサウンドはヘヴィで物々しく、ゴシックとしか形容のしようがないもので、戸川純がベルリン映画祭に招かれた際、「わざわざベルリン近郊から車を走らせ、ライバッハを大音量で流しながらブランデンブルグ門に向かった」と話してくれたのがなるほどと思える通り、異様なまでにドラマティックでゴージャスな音楽性を強調する音楽ユニットだった。そして、『Nova Akropola』(86)こそ〈チェリー・レッド〉からのリリースだったものの、以後は現在に至るまで〈ミュート〉から12枚のアルバム・リリースがあり、『ツァラトゥストラかく語りき』(17)に続く『The Sound of Music』のカヴァー集も〈ミュート〉からとなった。

 そう、1曲目から『サウンド・オブ・ミュージック』をきっちりとカヴァーしている。いきなりズッコけたというか、妙に聴き惚れてしまったというか。ヴォコーダーを使った“ド・レ・ミの歌”や荘厳な“エーデルワイス”など一応はデス声で歌われているものの、滑らかな高揚感があり、意外にもニューウェイヴの原点のようなサウンドに仕上がっている。80年代には古典なりクラシックをからかって遊ぶという意識で、こういったアレンジが百出したようにも思うけれど、結果的には原曲の魅力にとりつかれ“ハッピー・トーク”や“風のささやき”を好んで聴くようになった者としては往時の面白さがぶり返してしまったようで、ついつい何度も聴いてしまう。ライバッハにもビートルズ『レット・イット・ビー』(88)を丸々1枚カヴァーしたという過去があり、西側のクラシックに東側の統制された美意識を反映させるという意味では同じなのかもしれないけれど、“マリア”などは、しかし、それにしても透き通るようなコーラスワークにブレイクの取り方まで、まるでビーチボーイズのようで、似たようなことをやっていても突き抜け方が以前とは比べものにならない。

 実は今年、ライバッハが北朝鮮に公式に招待されてライヴをやった時のドキュメンタリー映画が公開されていたそうで、『サウンド・オブ・ミュージック』はそのサウンドトラックのようなアルバムなのである。北朝鮮の人たちは誰もが映画『サウンド・オブ・ミュージック』に親しんでいるということから、これらのカヴァーを披露することになったらしく、ドキュメンタリーは観ていないので正確なところはわからないけれど、やはり普段とは勝手が違ったようで、必要以上にヴァラエティ色を強調してつくられる予告編の体質を割り引いてみても、ちょっとした珍道中であったことは確からしい。北朝鮮の人たちも初めて公式に国内でライヴ演奏される「洋楽」がライバッハというのは目が点だったことだろう。ライバッハの面々も「なんで自分たちが選ばれたんだろう」と疑問に思いながらのパフォーマンスだったらしい……といったようなことを何も知らずに僕はこのアルバムを聴いていたので、余計にその落差に面白みが増してしまった。北朝鮮の人たちに「洋楽」を聴かせるという使命を背負ってしまったために、無意識に手加減した結果、ここまでわかりやすいサウンドになってしまったのかもしれない。一応、確認してみたけれど、前年の『ツァラトゥストラかく語りき』では彼らのスタイルはとくに緩められていたわけではないし、さすがに代わり映えしなすぎた(どうしてライバッハに興味を持ったのかというと、ドミューンでザ・KLFの番組をやった時にムードマンが「ライバッハ縛りの次はザ・KLF縛りのDJ?」と宇川くんにメールを送っていて、それをCCで読んでいたから)。

 僕はこういった結びつきこそグローバリゼイションのいいところだと思っている。それこそアメリカが「アメリカ・ファースト」を掲げるのはまだわかるとしても、安倍政権がアメリカ・ファーストを推進し、アメリカのカジノ業者や水道会社を国内に引き込み、兵器を爆買いし、辺野古を埋め立て、ファーウェイに部品を収めている京セラや村田製作所の株価が下がることもお構いないしに公的機関ではファーウェイを使わないと即決してしまうのはどうかと思うし、このところアメリカのチャート・ミュージックを持ち上げる音楽サイトが増えていて、その無邪気さにも違和感があってしょうがない。日本では以前からグローバリゼイション=アメリカニゼイションでしかないという声は少なからずあったものの、政治でも文化でもそれらがまたしても色濃くなっていくのはいやな感じだなあと。
 ライバッハは『サウンド・オブ・ミュージック』から9曲のカヴァーに加えて“アリラン”もカヴァーしている(思わず戸川純さんにも薦めてしまいました)。

[12/20編集部追記]Twitterにてご指摘いただいたように、ライバッハはいまはスロベニアのバンドです。ご指摘ありがとうございました。

三田格

RELATED