「Dom」と一致するもの

Matthew Herbert Brexit Big Band - ele-king

 先日、ブルーノートで行われたマシュー・ハーバートのライヴに行ってきた。銃弾の音や豚の生活音、コンドームの擦れる音まで、様々な音をサンプリングして楽曲制作することで知られるハーバートだが、今回のテーマは、Mathew Herbert Brexit Bigbandという名前の通り、「ブレグジット」だ。
 “イギリス(Britain)”がEUを“抜ける(Exit)”から“ブレグジット(Brexit)”──EU残留か離脱かを問う国民投票を行うとキャメロン前首相が発表したその数日後、新聞の見出しにあったこの語を見た時は、ずいぶん適当な造語だなと思ったものだが、結局、この語の名指す出来事はイギリスを大きく揺るがすこととなる。国民投票の結果、離脱派が勝利し、ブレグジットは現実のものとなったからである。
 世界中がこの前代未聞の政治的出来事に注目した。ブレグジットに向け、イギリス政府は今も活動中である。そんな政治的出来事をいったいどうやって音楽に落とし込むというのか? 全く予想がつかない。
 初めてブルーノートにコンサートを聴きにいくということで、「ドレスコードはあるのだろうか」とか細かいことばかり気にしながら、一応襟のついたシャツを着て会場に向かう。

 ビッグバンド編成だったが、演劇の舞台を見ているようでもあった。プロットがしっかりあって、曲ごとに登場人物の顔が見える。
 たとえば3曲目。冒頭でメロディを担うサックスやトランペットの奏者が、イギリスのタブロイド紙『デイリー・メール』を破いた。それを破いた音とともにゆったりとスウィングが始まる。
 『デイリー・メール』とはイギリスで発行されている大衆向けの新聞で、エロ情報が必ず載っている(紙面をめくると割と早い段階で薄着のセクシー姉ちゃんが出てくる)。
 EU残留派支持にはミドルクラスの知識層や左派の学者が多く見られたが、彼らはその大半が『デイリー・メール』に書かれていることなど読むに値しないと考えていた(以前、政治討論のテレビ番組で、レフトアクティビストが、的外れな発言をするインタヴュアーに向かって「This is Daily Mail!」と言い放ったのをみたことがある)。
 今回離脱派に入れた人びと、つまり『デイリー・メール』を読んでいるような人びとのことなど気にとめる必要などない……そんなミドルクラスの雰囲気を表現しているかのような曲だった。実際、残留派の人びとは「ブレグジットなど起こるわけがない」と静観していた。彼らはEUに不満を抱く人びとの声に耳を傾けることはなかった。

 4曲目、勢いよくブラス隊がかき鳴らすマーチのリズムに乗って、ボーカルのRahelが「take a step(一歩前へ)」「yes!yes!」と歌う。まるで聞こえのいい言葉でアジテーションしていくポピュリストたちの喚声のようだ。『デイリー・メール』を破いた前の曲が、大衆の声に耳を傾けることなく高みの見物をしていた残留派知識層を象徴していたとすれば、この曲は、日々の生活に不満を抱く人びとに向けられたポピュリスト政党のメッセージをモチーフにしたかのような音楽だ。
 曲を聴きながらある人物を思い出した。離脱派のEU議会議員、UKIP(イギリス独立党)党首のナイジェル・ファラージだ。彼は、EUを出てシングルマーケットになるメリットと、EU向けに使っている予算を国内の福祉に回すことができるということをいい 、離脱支持層を集めた。しかし、国民投票で離脱派勝利の数日後、ファラージはEUに払っていた予算を国内に回す事はできないと述べた。EU議会でファラージは他の議員たちに「You lied(あなたは嘘をついた)」と非難され、EU議員を辞職している。歌詞に出てきた「naughty sounds, naughty sounds」とは彼が言った、人びとに都合のいいような、甘い嘘のことなのかもしれない。

 5曲目で、ハーバートは自分の首にサンプリング機械をあてる。音楽ではリズムの速度を示すBPM(Beat Per Minute)という言葉は、医学では心拍数という意味で使われる。マシューの脈がうつビートと同時に、曲が始まる。彼の心拍数と曲のリズムが交差し、時々ずれながら、ヴォーカルのRahelが歌い上げる

You need to be here
あなたはここにいる必要がある

 ここでいうhereはEUではないだろうか。儚げに歌い上げる声に、まだ投票権を持たず、EUからの離脱に反対するティーンエイジャーの姿を重ねてしまった。EUの特徴に「EU加盟国間では、人、物、サービス、および資本がそれぞれの国内と同様に、国境や障壁にさらされることなく、自由に移動することができます」というものがある。例えば、スーパーでスペイン産の生ハムや、フランス産のパンなど、国内で作ったものと同程度の価格で購入できる。あるいは、イギリス人が就労ビザなしでイタリアやベルギーで働くことができる。
 EU内ではどこにでも行くことができるのだ。将来、子どもたちが享受できたはずの、暮らしたい街や働きたい場所を自由に選ぶ権利は、EU離脱によって狭まれてしまう。ハーバートの心拍の音は、音楽のリズムと時々重なるものの、ずっとズレを伴っている。このズレは、EUに留まりたいと思う子どもたちが、その気持ちを政治的に表現する権利を持たないことのもどかしさを表現しているかのようだった。

 6曲目ではタイプライターを打つ音をサンプリングし、それがすぐにビートに変えられる。ハーバートはドナルド・トランプのお面をかぶる。なぜブレグジットでトランプのお面だったのか。UKIPのナイジェル・ファラージはトランピスト(トランプ支持者)だそうだが、ここでの直接的な関わり方はわからなかった。
 エントランスで「ドナルド・トランプへのメッセージを紙に書いて、それを紙ひこうきにして、ステージに向かって飛ばす準備をしてください」というメッセージと色折り紙をもらった。それをトランプ扮するハーバートに向けて投げる。その紙飛行機は、ほとんどがステージに届かず客席に舞うだけだが、演奏をしながらハーバートは時々それを拾っては投げ返す。ツイッターが現実世界に可視化されるとすればこんな風だろうかと、演奏を聴きながら会場で起こったパフォーマンスに驚いてしまう(ちょうどブルーノートでライヴが行われた日、本物のドナルド・トランプが来日していた日だった)。
 2人目のお面は誰だかわからなかったのだが、3人目のお面はロンドン元市長のボリス・ジョンソンだった。ブレグジットキャンペーンで、ボリス・ジョンソンは離脱派として活動した。離脱派が勝利し、キャメロンは首相を辞任。その後、ボリス・ジョンソンは外務大臣として内閣入りしている。

 終盤、ハーバートは会場にいるオーディエンス全員の声をサンプリングして演奏に使う。曲のなかでは「we want to be human」と歌われる。残留か、離脱か。この選択を迫られたイギリスの人びとは、それぞれが抱える個人の生活、そして自分たちの社会のために、自分がいいと思った選択をしただけだ。離脱派も残留派も“人間らしくありたい”という点では同じである。

 最後の曲になった。曲は“The Audience”。歌詞の一部を引いてみよう。

Though the ending is not here
We are separate we are one
The division has begun
You are my future I am your past
Even music will not last

So move with me
With me removed

You and us together 
Together in this room
You will not remember
This passing moment soon

終わりだがここにはない
僕らは別れていて、僕らはひとつだ
分断が始まっている
君は僕の将来で、僕は君の過去だ
音楽でさえ続かないだろう

だから僕と一緒に行こう
僕抜きで

君と僕らは共に
この部屋に一緒にいる
君はいずれ忘れてしまうだろう
すぐ過ぎ去ってしまうこの出来事を

 このコンサートの2日前、DOMMUNEのインタヴューでハーバートは、シニア世代と若者世代のブレグジットに対するイメージのギャップについて話をしていた。もしかしたらここで出てくる「you(君)」は、EUを出た後のイギリスで、若者たちよりも先にいなくなってしまうシニア世代ことかもしれない。この曲を作った当時、ハーバートはブレグジットのことなどまったく考えていなかったに違いないが。
 離脱派も残留派も、結局はイギリスという同じ部屋にいる。“The Audience”はブレグジットの文脈で聞くととても悲しい曲に聞こえる。
 ブレグジットはおそらく、イギリス史に残る出来事だろう。しかし、歴史という大きな文脈のなかで、その時代を生きる大衆の意見は大きな出来事の影に隠れてしまう。ニュースで流れてくる政治の出来事や事件は、日々の生活に忙殺され、少しずつ忘れられていく。
 DOMMUNEの対談で、BBCの音響技師だった父親について質問を受け、ハーバートは、「ニュースを1枚のレコードにする作業が印象的だった」と答えていた。ハーバートは、ブレグジットを1枚の楽譜(スコア)にした。彼の父親がニュースをレコードにプレスしていたように、彼の楽曲はブレグジットについて皆がそれぞれの立場で語っていたことを記録している。ブレグジットが後に史実として歴史の教科書に登場するときには忘れ去られてしまうであろう人びとの声を忘れないために。

Flava D - ele-king

 昨年1月にスウィンドルとともに来日し、UKハウス、ガラージ、グライムなどを変幻自在に操るDJスタイルでフロアを熱狂させたフレイヴァ・Dが待望の再来日を果たす。前回の来日後も『FabricLive88』や、今年に入ってからはロイヤル・TおよびDJ Qとのユニット、t q dのアルバム『ukg』など快進撃を続けているだけに、いまの彼女がどこを向いているのか確認する良い機会となるだろう。ベース寄りになるのかハウス寄りになるのか、それとも……。詳細は下記より。

"FLavaD" Japan Tour 2017

UKガラージ、グライム、UKベース・ミュージック・シーン
最重要、女性プロデューサー/DJに君臨するFlavaD、待望の再来日決定!

[ツアー日程]
●11.21 (火) @Dommune (東京)

●11.22 (水/祝前日) @OUTER (高知)
https://outerkochi.strikingly.com/
open 21:00 adv: 2000 yen (+1d) / door: 3000 yen (+1d)

●11.24 (金) @CIRCUS TOKYO (東京)
https://circus-tokyo.jp/
open 23:00 adv: 2500 yen door: 3000 yen
ticket: https://ptix.co/2w9gyKQ

●11.25 (土) @CIRCUS OSAKA (大阪)
https://circus-osaka.com/
open 22:00 open 23:00 adv: 2000 yen (+1d) / door: 2500 yen (+1d)
ticket : https://ptix.co/2fcJnPN

[プロフィール]
■Flava D (Butterz, UK)
UKガラージ、グライム、UKベース・ミュージック・シーンにおいて最重要、女性プロデューサー/DJに君臨するFlavaD。幼少からカシオのキーボードに戯れ、14歳からレコード店で働き、16歳から独学でプロデュースを開始。当時住んでいたボーンマスでは地元の海賊放送Fire FMやUKガラージの大御所、DJ EZの『Pure Garage CD』を愛聴、NasやPete Rockにも傾倒したという。2009年以降、彼女のトラックはWileyを始め、多くのグライムMCに使用され、数々のコンピに名を残す。12年にはグライムDJ、Sir Spyroの〈Pitch Controller〉から自身の名義で初の「Strawberry EP」を発表、13年からは自身のBandcampから精力的なリリースを開始する。やがてDJ EZがプレイした彼女の“Hold On”を聴いたElijahからコンタクトを受け、彼が主宰する〈Butterz〉と契約。「Hold On / Home」のリリースを皮切りにRoyal Tとのコラボ「On My Mind」、またRoyal T、DJ Qとのユニット、tqdによる「Day & Night」などのリリースで評価を高め、UKハウス、ガラージ、グライム、ベースラインなどを自在に行き交うプロダクションと独創的なDJプレイで一気にブレイク。16年の『FabricLive88』を経て17年5月にtqdのデビュー・アルバム『ukg』をリリース、その勢いはますます加速している。

https://flavad.com/
https://soundcloud.com/flava_d
www.facebook.com/FlavaDMusic/
www.twitter.com/flavad

Nightmares On Wax - ele-king

 月が変わり、いよいよ秋も深まってきた今日この頃……そうです、秋と言えばナイトメアズ・オン・ワックスです。はい、いま決めました(だってNOWってば、いつも秋に新作を出しているような印象があるから)。そんなNOWが年明けにニュー・アルバムをリリースします。って、その頃はもう冬じゃありませんか! ……はしゃいじゃってスミマセン。しかし前作から数えること、4年ぶり? 昨秋EP「Ground Floor」のリリースはありましたが、フル・アルバムは久しぶりですね。その新作のアナウンスとともに、新曲“Citizen Kane”が公開されています。

 おお。これはちょっとした新機軸かも? いぶし銀のビートにモーゼズによるヴォーカルとアラン・キングダムによるラップが絡み合って、なんとも当世風の味わいが醸し出されております。翻って9月に公開された“Back To Nature”の方は、じつにNOWらしいぬくもりのあるトラックに仕上がっていましたよね。

 いやあ、たまりません。NOW大好き。アルバムには上述のふたりの他にも、アンドリュー・アショングやジョーダン・ラカイ、セイディ・ウォーカー、おなじみのLSKなどが参加しているとのこと。待望の新作『Shape The Future』の発売日は2018年1月26日。首を長くして待ちましょう。

[11月22日追記]
 リード曲の“Citizen Kane”がなんと、シカゴ・ハウスのレジェンド、ロン・トレントによってリミックスされました。このトラックは12月1日発売の限定12インチに収録されるとのこと。こちらも楽しみです。

Nightmares on Wax
カニエ・ウェストのコラボレーターとしても知られる新鋭ラッパー
アラン・キングダム参加の新曲“Citizen Kane”を公開!
待望の最新アルバム『Shape The Future』のリリースを発表!

ソウル、ヒップホップ、ダブ、そして時代を越えたあらゆるクラブ・ミュージックを取り込んだトリッピーかつチルアウトなエレクトロニック・ミュージックで独自のキャリアと世界観を確立し、そのキャリアを通して多くのアーティストに多大な影響を与えてきたレジェンド、ナイトメアズ・オン・ワックスが、待望の最新アルバム『Shape The Future』のリリースを発表! 合わせて新曲“Citizen Kane feat. Mozez & Allan Kingdom”をミュージック・ヴィデオとともに公開した。

Nightmares on Wax - Citizen Kane ft. Mozez, Allan Kingdom
https://youtu.be/DQJG4hKkX0c

公開された楽曲は、ジャマイカに生まれ、ロンドンを拠点に活躍するSSW、モーゼズのほか、カニエ・ウェストやフルームのコラボレーターとして知られるラッパー、アラン・キングダムをフィーチャーしたラップ・ヴァージョンとなり、国内盤CDとデジタル・フォーマットにボーナストラックとして収録される(アルバム本編にはオリジナル・ヴァージョンを収録)。

コンテンポラリーなサウンドを積極的に取り入れた“Citizen Kane”のほかにも、すでに公開されミュージック・ヴィデオも話題となった“Back To Nature”といったナイトメアズ・オン・ワックスの代名詞とも言えるチルアウトでリラクシンな楽曲ももちろん満載。またセオ・パリッシュとの共作で注目を集め、ロイ・エアーズやビル・ウィザースを引き合いに高い評価を受けるSSW、アンドリュー・アショングや、ディスクロージャーやFKJの楽曲にもフィーチャーされた新世代ネオ・ソウルの注目株ジョーダン・ラカイ、長年のコラボレーター、LSK、女性ヴォーカリスト、セイディ・ウォーカーがヴォーカルで参加している。

Nightmares on Wax - Back To Nature
https://youtu.be/Vc-XzhnwpVc

ナイトメアズ・オン・ワックスの8作目となる最新作『Shape The Future』は、2018年1月26日(金)世界同時リリース! 国内盤CDには初CD化音源“World Inside feat. Andrew Ashong”と“Citizen Kane feat. Mozez & Allan Kingdom”がボーナストラックとして追加収録され、解説書が封入される。

label: Warp Records / Beat Records
artist: Nightmares On Wax
title: Shape The Future

cat no.: BRC-565
release date: 2018/01/26 FRI ON SALE
国内盤CD: ボーナストラック追加収録/解説書封入
定価: ¥2,200+税

【ご予約はこちら】
beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002196
amazon: https://amzn.asia/28WRot9
iTunes Store: https://apple.co/2lENLNA
Apple Music: https://apple.co/2xMub3n

商品詳細はこちら:
https://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Nightmares-on-Wax/BRC-565/

interview with Mount Kimbie - ele-king

 ケンドリック・ラマーは今年リリースした新作で、驚くべきことにU2をフィーチャーしている。さらに彼は来年、ジェイムス・ブレイクとともにヨーロッパを回るのだという。いまでも黒人たちの一部は心の底から白人たちを嫌っているという話も聞くが、どうやらケンドリックはそうではないらしい。彼の選択はたぶん、そういう対立を少しでも突き崩していこうという試みなのだろう。それがどこまで成功するのかはわからない。過度な期待はいつだって裏切られる。そう相場は決まっている。
 そんなケンドリックの果敢な試みに代表されるように、近年ブラックのサイドが積極的にホワイトのサイドへとアプローチしていく動きが目立っている。その起点となったのはおそらく去年のビヨンセのアルバムだろう。彼女はその力強く気高い作品で、ジャック・ホワイトやジェイムス・ブレイクといった白人のアーティストたちを積極的に起用した。その横断的なチャレンジは、エリオット・スミスやギャング・オブ・フォーをサンプリングしたフランク・オーシャンや、デイヴ・ロングストレスとの共作を試みたソランジュへと受け継がれることになる。そして今春、ついにジェイ・Zまでもが自身のアルバムにジェイムス・ブレイクを招待するに至った。そのトラックでブレイクとともにプロダクションを手掛けていたのが、マウント・キンビーの片割れ、ドミニク・メイカーである。つまり、引く手あまたのブレイクだけでなく、その盟友たるマウント・キンビーもまた、そのような越境ムーヴメントの一端をホワイトの側から支える存在になったということだ。
 そんな背景があったので、以下のインタヴューではドミニクにそういう昨今の傾向について尋ねているのだけれど、どうもうまく質問の意図が伝わらなかったようで、「近年はUSのメジャーとUKのアンダーグラウンドが結びついていっているよね」という話になってしまっている。こうして期待は裏切られるのである。


Mount Kimbie
Love What Survives

Warp / ビート

ElectronicKrautrockPost-Punk

Amazon Tower HMViTunes

 それはさておき、最初にマウント・キンビー4年ぶりのアルバムがリリースされると聞いたときは、それはもう胸が躍った。“We Go Home Together”や“Marilyn”といったトラックが公開される度に、勝手にイメージを膨らませては「今回はぐっとR&B~ソウルに寄った作品になるんじゃないか」「いや、彼ららしいダウンテンポなムードをより洗練させたものになるんじゃないか」などと予想を繰り返していた。そうして迎えた夏の終わり、いざ蓋を開けてみると――これがクラウトロックなのである。冒頭の“Four Years And One Day”からしてそうだ。完全にやられた。アルバム全体が、何やらパンキッシュなエナジーに満ち溢れている。いや、たしかにバンド・サウンドそれ自体は前作『Cold Spring Fault Less Youth』でも試みられていたけれど、それがここまで大胆に展開されるとは思いも寄らなかった。こうして期待は裏切られるのである。
 クラウトロックだけではない。マウント・キンビーの新作『Love What Survives』には、さまざまな音楽の断片がかき集められている。本作を聴き込めば聴き込むほど、それらの断片たちが要所要所で効果的な役割を果たしていることに気がつくだろう。そういえば本作をインスパイアした楽曲を集めたという彼らのプレイリストでは、ロックからアフリカ音楽まで多様な楽曲がセレクトされていたし、彼らがやっているNTSのラジオ番組には、ジェイムス・ブレイクやキング・クルールといったお馴染みの面子に加え、ウォーペイントケイトリン・アウレリア・スミスアクトレスからウム・サンガレ(!)まで、じつに興味深いアーティストたちがゲストとして招かれていた。つい先日も、アルバム収録曲の“You Look Certain (I'm Not So Sure)”をケリー・リー・オーウェンスがリミックスしたばかりである(彼女はマウント・キンビーの欧州ツアーのサポート・アクトにも抜擢されている)。そんな彼らのレンジの広さや音楽的探究心の断片を、クラウトロック~ポストパンクというムードのなかにさりげなく、だがこの上なく巧みに落とし込んでみせたのが、この『Love What Survives』というアルバムなのだ。

 10月9日、この取材の後に渋谷WWWXにておこなわれた彼らのライヴは、荒削りな部分が目立つ場面もあったものの、アルバム以上にエネルギッシュな熱を帯びており、まるで新人ロック・バンドのステージを観覧しているような気分になった(ファーストやセカンドの曲が新たに生まれ変わっている様もじつにスリリングだった)。いや、じっさい、4人編成という点において彼らは新人である。つまり……マウント・キンビーは今回のアルバムやパフォーマンスで、いわゆる「初期衝動」のようなものを演出しようとしているのではないか。そう考えると、なぜ彼らがこの新作に『Love What Survives』という意味深長なタイトルを与えたのか、その動機が浮かび上がってくる。「生き残るもの」とは要するに、かれらが最初に音楽を作り始めたときに抱いていた気持ちや勢い、刺戟のことだったのである。
 そんなわけで、「生き残るもの」というのはきっと政治的・社会的に虐げられている人びとを暗示しているのだろう、という小林の浅はかな先入観は見事に覆されることとなった。そして、ファースト・アルバム『Crooks & Lovers』のジャケに映っていたのはおそらくチャヴだろう、という編集部・野田の予想も外れてしまった。こうして期待は裏切られるのである。そんな素敵な裏切り者ふたりの言葉をお届けしよう。

 

よくわかっていないからこそ、そういう音楽のスペースのなかで、自分たちなりの解釈で何かをやってみるのもおもしろいんじゃないかと思ったんだ。 (カイ)

マウント・キンビーの音楽について、日本ではいまでも「ポスト・ダブステップ」という言葉が使われることがあるんですが、UKでもまだそう括られることはありますか?

カイ・カンポス(Kai Campos、以下カイ):いまその括りは死につつあるね(笑)。たしかに、僕らが初めてのアルバムを作った2010年当時、その言葉と一緒にその手の音楽がバーッと出てきて、ほんの短期間のうちにダブステップという音楽の概念がガラッと入れ替わった時期があったと思うんだけど、いまはだいぶ死に絶えてきているね。たぶんこのアルバムが出たあとには完全になくなるんじゃないかな(笑)。

これまでそう括られることにストレスは感じていましたか?

ドミニク・メイカー(Dominic Maker、以下ドム):いや、けっしてその呼び名に納得はしていなかったけど、とくに気にもしていなかったよ。とにかく自分たちの音楽がひとつの箱に収まりきらないようなものであってほしい、ジャンルの境界を跨いでいるようなものであってほしいという意識で音楽を作ってきたし、じっさいいろんなことをやっているから、それが「ポスト・ダブステップ」だろうがなんだろうが、ひとつの言葉で括ってしまうのは僕らの音楽にはふさわしくないんじゃないか、という思いはつねにあったね。

今回のアルバムからはクラウトロック~ジャーマン・ロックの影響を強く感じました。

カイ:たしかにいままでやっていたエレクトロニック系の音楽よりも、ちょっと前の時代のエレクトロニック・ミュージックに遡ったようなところはあるよね。クラウトロックやジャーマン系の音に聴こえるというのは僕らも認めるところだけれども、僕らはけっしてそのジャンルに詳しいというわけではないんだ。(クラウトロックを)ずっと聴いてきてよくわかっているからそれをいまやってみた、ということではないんだよ。逆に、よくわかっていないからこそ、そういう音楽のスペースのなかで、自分たちなりの解釈で何かをやってみるのもおもしろいんじゃないかと思ったんだ。「セミ・エレクトロニック・ミュージック」とでも言うのかな。過去を振り返って、リズムや楽器の編成といったところからアイデアを引っ張ってきて作ったのが今回のアルバムかな。

他方で本作からは80年代のポストパンク~ニューウェイヴの匂いも感じられます。そのあたりの音楽も参照されたのでしょうか?

カイ:その手の音楽はUKではかなり広く愛されていたから、僕らも自ずと踏んできてはいると思う。当時はブリティッシュ・ミュージックのなかでもおもしろい時代だったと思うし。ただ僕らの場合、たとえばスクリッティ・ポリッティとか、ああいったバンドは最近になって聴いているんだよね。あの頃の音楽が持っていた、とくにパンクのアティテュードに見られるようなポジティヴな要素を自分たちのアルバムの制作過程に持ち込んだというか、そういうことは今回あったような気がする。あと他にもこのアルバムには、自分たちの音のパレットが幅広くなればと思って、ソウルやディスコみたいなものも組み込んだつもりなんだ。だからいろんな音が聴こえてくると思う。でもけっして後ろばかり振り返っているわけではなくて、あくまで前に進もうとしている作品だと思っているよ。

昨年リリースされたパウウェルのアルバムはお聴きになりました?

ドム:聴いたと思う。バンドっぽいやつだよね? 僕は好きだったよ。聴いていて楽しかった。

エレクトロニック畑の人がパンキッシュなサウンドをやるという点で、今回のアルバムと繋がりがあるように思ったんですよね。

カイ:そりゃそうだろうね。だってこういう発想は僕らが思いついたものではないし、大きな流れのなかで、いろんな人が同時発生的にやってみたくなった時期なのかもしれないからね。


Photo by Masanori Naruse

じつを言うとキング・クルールとの曲の歌詞はいまだに意味がわかっていないんだ(笑)。まだ解読中だね(笑)。 (カイ)

今回のアルバムに影響を与えた楽曲のプレイリストが公開されていますが、そこではロバート・ワイアットやアーサー・ラッセル、スーサイドやソニック・ユース、ウィリアム・バシンスキからアフリカのバンドまで、かなり多様な楽曲がピックアップされていました。それらはおふたりが今回のアルバムを作っていく過程で発見していったものなのでしょうか?

ドム:あれはじつは、僕らはラジオ番組をやっていたんだけど、それ用のプレイリストという側面が大きいんだ。曲をかけるためにいろんなものをチェックして聴いていくなかで幅が広がっていったんだけど、その作業で見つけた曲もプレイリストに入っている。番組をやっていく過程でかなり大量の音楽を吸収して消化したんだ。それは今回のアルバムにも影響を与えていると思う。あと、番組に来てくれたゲストから教えてもらったものもあるね。僕らがリスペクトしている人が来てくれたんだけど、どんなふうに音楽を作っていくのか聞いていくなかでおもしろいものと出会ったりして、そういうこともすべてあのプレイリストには詰め込まれているんだよね。

カイ:そうやって考えるとおもしろいね。そういう流れがあってあのアルバムに至っている、ということがプレイリストからもわかるよね。

今回のアルバムには4組のゲストが招かれています。キング・クルールは前作にも参加していましたが、4曲目の“Marilyn”にフィーチャーされているミカチューはどのような経緯で参加することになったのでしょう?

カイ:ミカチューは、僕らふたりが音楽を作り始める前からファンだったんだ。知り合ったときに「いつか一緒にやろう」という話をしていたんだけど、それから2年くらい話が続いていて(笑)。今回いよいよ一緒にやる機会に恵まれたわけだけど、作ってみたらあっという間で、すごく相性がいいのかなと思える時間だったよ。だから、僕らにとってはようやく実現できたスペシャルなトラックなんだ。

その“Marilyn”はアルバムの他の曲と趣が異なっていますが、7曲目の“Poison”や、ジェイムス・ブレイクが参加している8曲目の“We Go Home Together”と11曲目の“How We Got By”の2曲も他の曲と雰囲気が異なっているように感じました。本作をこのような構成にしたのはなぜですか?

ドム:今回のアルバムは全体を通してすごくヴァラエティに富んでいると思う。いま挙げてくれた曲に限らず、個性的な曲ばかりが詰まっていると思うんだけど、それだけにアルバム全体の流れというか、全体で聴いたときの消化具合がうまくいくように、ということをすごく考えて曲順を決めたんだ。ミカチューとの曲もジェイムスとの曲もそうだけど、自分の頭のなかで曲順を組んでみたときに、“Marilyn”は突出しているという印象があって。(この曲は)アーサー・ラッセルの影響がすごく大きいと思うんだけど、とくにユニークな曲だからアルバム全体の流れのなかで活かしたいと考えたんだ。

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ジェイ・Zから「ジェイムス(・ブレイク)に歌ってほしい」というオファーがあったんだ。そのときちょうど僕がジェイムスが歌うことを想定して書いていた曲があって、それをやろうかってことになったから、僕も関わることになったんだよ。 (ドム)


Mount Kimbie
Love What Survives

Warp / ビート

ElectronicKrautrockPost-Punk

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春頃から少しずつアルバムの収録曲が公開されていきましたが、先行公開曲のセレクションに関しては何か意図があったのでしょうか? 公開された曲からぼんやりとアルバムのイメージを膨らませていたのですが、蓋を開けてみると想像していたのとはまったく違い、とてもパンキッシュで驚きました。

カイ:最初に何を公開するかみんなと話し合ったときに意見が一致したのは、ゲスト・ヴォーカルの入っている曲から公開するのが理に適っているんじゃないか、ってことだった。やっぱりヴォーカルが入っているというのはみんなに伝わりやすいだろうし、わかりやすいよね。それを聴いて「アルバムはどんな感じなんだろう」という期待感を煽る狙いで最初の2曲(“We Go Home Together”、“Marilyn”)を選んだんだ。でも、その2曲はみんなが消化するのにちょっと苦労する曲だったかもしれない。それをあらかじめ出しておいて、他の曲より先に聴いてもらうことによって、あとでアルバムを聴いたときに、その曲のあいだにあるどの曲もフィットしたものに聴こえるようになる、という枠組みを提示することができたかもしれないね。

ドム:ジェイムスの曲もミカの曲もそうだけど、僕らはしばらく鳴りを潜めていたから、タイトルのなかにそういう有名な人の名前(ビッグ・ネーム)が入っていることによって注目を集めることができるんじゃないか、という意図もあったね。

いまヴォーカル曲の話が出ましたが、今回のアルバムにはハードな生活を送っている人たちの登場する曲が多いように感じました。リリックに関して何かコンセプトやテーマのようなものはあったのでしょうか?

カイ:歌詞は、僕らと客演してくれたシンガーとで一緒になって作ったんだけど、基本的には彼らが伝えたいストーリーをそのまま語ってもらえればいいと思っていたんだ。だから僕らが影響を与えたというか、注文をつけたことがあるとすれば、「この曲にはこういうふうに(言葉を)乗せてほしい」という、歌い回しやフレージングに関することだね。「ここに乗せるためには音節はこうじゃないほうがいい」とか、そういう注文はしたけれど、歌詞の内容に関しては自由にやってもらったよ。だから、(それぞれの)曲のメッセージには一貫性がないんだ。でも、そういうふうにやってもらったほうが幅の広さという意味でいいレコードになるんじゃないかと思って。ただ、レコーディングの段階では僕らも完全には歌詞を咀嚼しきれていなくて、じつを言うとキング・クルールとの曲の歌詞はいまだに意味がわかっていないんだ(笑)。まだ解読中だね(笑)。でもライヴでやるときは、あくまでも僕らのものとして消化してやっているから、歌詞の内容もレコードよりももっとフォーカスした内容になっているんじゃないかな。

ドミニクさんはいまLAに住んでいるんですよね。

ドム:そうだね。

LAへ移住したのはなぜ?

ドム:ガールフレンドが向こうに住んでいたからだよ。(移住して)もう2年になるね。天気もいいし、楽しんでいるよ。

ということは、今回のアルバムの制作はカイさんとデータをやり取りする形で進めていったのでしょうか?

ドム:いや、行ったり来たりしながら作ったよ。(UKには)しょっちゅう行くから。ノルウェー航空とかの安い航空券を買ってね(笑)。

なるほど。ではおふたりはわりと頻繁に会われているんですね。

ドム:そうだね。メインのスタジオはロンドンにあるんだけど、レコーディングの終盤には感覚やリズムを取り戻したいと思ってライヴを始めたんだ。今度のバンド編成はわりかし新しいものだから、アルバムが出る前からライヴに打ち込みたくて、ロンドンでライヴ活動はしていたよ。そういう意味ではLAに住んでいるからどう、ということもないかな。

ドミニクさんはジェイムス・ブレイクと一緒に、今年出たジェイ・Zの新作『4:44』に参加しています(“MaNyfaCedGod”)。それはどういう経緯で実現したのですか?

ドム:そもそもはジェイ・Zから「ジェイムスに歌ってほしい」というオファーがあったんだ。そのときちょうど僕がジェイムスが歌うことを想定して書いていた曲があって、それをやろうかってことになったから、僕も関わることになったんだよ。結局2曲で参加する形になったけど、作り方が僕らの慣れているやり方とぜんぜん違っていて、でもそれだけ勉強になったね。いい経験だったよ。


Photo by Masanori Naruse

音楽を作るときの刺戟って僕らがファーストを作ったときと何も変わっていないんだよね。そういう気持ちや勢いが「Survive(生き残る)」ってことなんだ。 (カイ)

ジェイムス・ブレイクは昨年ビヨンセのアルバムに参加していました。また、昨年話題になったフランク・オーシャンのアルバムではエリオット・スミスやギャング・オブ・フォーなど、いわゆる白人の音楽がサンプリングされていて、今回のドミニクさんとジェイ・Zとのコラボもそうなのですが、最近ブラック・ミュージックのビッグなミュージシャンたちが積極的にホワイトの文化を取り入れていっている印象があります。10年前や20年前にはあまりなかったことだと思うのですが、そういう昨今の流れについてはどうお考えですか?

ドム:ドレイクもジャマイカのアクセントを真似して歌ってみたり、グライムが好きで聴いていたりするから、そういう流れはたしかにあるよね。

カイ:カイラの“Do You Mind”(2008年)というUKファンキーの曲があって、むかしUKでビミョーに、ちょっとだけヒットした曲なんだけど、ドレイクの“One Dance”(2016年)ではそれをバックトラックに使っているんだ。もとの曲自体はUKでは大して注目されなかったんだけど、それがいまになってUSの超メインストリームの曲のなかで鳴っているというのはすごくおもしろいことだと思ったよ。そういうのって、(もとの曲に)興味を持ったR&B系のプロデューサーなんかが引っ張ってくるんだろうけど、たとえばビヨンセとかもそうで、メインストリームの人なのにオープンにいろんなものに興味を持ってそれらを取り入れたりしていて、彼女がやればそれに続く人が出てくるし、UKのアンダーグラウンドとUSのメインストリームのあいだにあった大きな壁が、ここ5年、10年くらいのあいだに崩れていっているという実感はあるね。

今作のタイトル『Love What Survives』は「生き残るものを愛せ」ということで、とても意味深長なのですが、これにはどのような思いが込められているのでしょう?

カイ:今回に限らず、レコードを作っているときに考えすぎてしまうのはよくないと思っているから、いつも感覚でいいと思うものを作っていくんだけど、いざどういうタイトルにするか考える際には、「何がモティヴェイションとなって自分たちはこれを作ったのか」ということを振り返るんだ。今回ふたりでこのアルバムを作りながら話していたのは、とにかく(これまでと)違うことをやりたいということや、変化が訪れたらそれをどんどん受け入れて前に進んでいこうということだった。そういう音楽を作るときの刺戟って僕らがファーストを作ったときと何も変わっていないんだよね。そういう気持ちや勢いが「Survive(生き残る)」ってことなんだ。新しいことをやったり、刺戟を絶やさないことで生き残っていくというか、自分たちのまわりにあるものを受け入れて、ケアをしながら大事に音楽を作っていくというか。そういう気持ちを可能にするには好奇心が必要だったり、変化に対するオープンな気持ちが必要だったり、あとは違うアプローチを恐れないということが必要だったりして、(『Love What Survives』は)そうやって生き残ってきたものを大事にするというような作り方に対する考えなんだ。でもこれは僕の解釈であって、聴いた人がどう解釈しても構わないんだけどね。

ドム:同感だね。

今回のアルバムはアートワークもユニークですが、被写体の彼は何をしているんでしょう?

ドム:いい質問だね(笑)。

カイ:本当は実際にアートワークを制作してくれたデザイナーのフランク(・レボン)に聞いてもらうのがいいんだけどね(笑)。フランクは今回のヴィデオもほぼすべて手がけることになっているんだ。このジャケットは彼が撮影してくれたものをもとにデザインしたものなんだけど、僕らと彼とではアルバムに対する見方がちょっと違っていて、だからこそおもしろいんだと思う。レコードにあのジャケットが付いたことによって、作品として僕らふたりのアイデア以上の存在になったんじゃないかなと思っている。けっこうインパクトは大きいよね(笑)。見た目もそうだし、フィーリング的にも。僕らだけの作品じゃなくなった気がして好きなんだ。まあ詳しいことはフランクに聞いて(笑)。彼はキャラクターになって何かをやるのが好きなんだ。

このジャケットを見て、ファースト・アルバムのジャケットを思い出したんですが――

カイ:フランクはファーストのアートワークを手がけたタイロン(・レボン)の弟なんだ。

へえ!

カイ:ファーストから今回のアルバムまでのあいだに僕らのなかですごくいろんなことが変わったんだけど、そこ(アートワーク)で繋がっているというのはおもしろいよね。

ファースト・アルバム『Crooks & Lovers』の被写体の女性は、いわゆるチャヴなのでしょうか?

ドム:あの女の子? ぜんぜんわからないな(笑)。

カイ:デザイナーに聞かないとわからないし、たぶんデザイナー本人もわかってないよ(笑)。

いまはこうして来日されて、ツアーの真っ最中だと思いますが、それが一段落ついたら何かやってみたいことはありますか?

カイ:ここ4年はけっこうおとなしくしていたから(笑)、いまは動きたくて、このツアーができるのが嬉しいよ。もうオフはいいや(笑)。

ドム:僕はこのあとホリデイで、フィリピンに行くんだ。日本ではカイとツアー・メンバーみんなで一緒に京都に行く予定だよ。そうやってちょっと休んで、また動き出したいね。


僕たちのLOVEい曲10選〜AUTUM編~

知覚管理 Feat. DJ Python - ele-king

 ブルックリンのダンス・ミュージック・シーンの“いま”をつくる、DJ Pythonが初来日!
 『Deep Reggaeton』というスタイルを確立させ、あのAnthony Naplesが手がけるニュー・レーベル〈Incienso〉の第1弾として、自身初にして最高傑作のアルバムをリリース。もっとも旬なタイミングでの来日公演が決定!

 DJ Wey、Deejay Xanax、Luisなど、数々の活動名義を持つ彼は、同じくNY拠点のアーティスト、Ital主宰の〈Lovers Rock〉をはじめ、〈Bank Records〉、〈Exotic Dance Records〉〈1080p〉などの次世代重要レーベルから音源をリリース。NYのダンス・ミュージック・シーンにおいて、唯一無二の存在である。独自のベースライン、ドラム・マシン使いから織り成すブレイクビーツやレゲトンのリズムに、哀愁漂うアンビエンスなシンセサイザーの音色を重ねたオリジナルの楽曲。その新鮮で、絶妙なバランスの音楽に魅了される。

 そして、〈BIG LOVE〉 / 〈FISH〉からMichihiko Ishidomaru、電子音楽コレクティブ『IN HA』からMari Sakuraiが共演する第二次知覚管理、下北沢Moreで開催!

New Sounds of Tokyo - ele-king

 ラウドで、ダーーーークで、挑発的。鋭く尖った音は未来に突き刺さる。覚悟しとけよ。
 愛情の問題もある。黎明期のテクノがいまだ特別な美をほこるのも、その純粋さと関係なくはないだろう。このレポートのモチベーションのひとつもそこにある。
もうひとつ、ここ10年ほどの欧米のエレクトロニック・ミュージック……たとえばUK(インスト)グライム、ダーク・アンビエントやインダストリアル、まあなんでもいいのだが……こうした比較的新しい、若い世代が主導した、刺々しい海外の動向とリンクする音源を探したくなった。 
 2008年~2009年あたりに欧米の四方八方で発展した「新しい」流れも、気が付けば、行くところまで行っている。サウンドトラックがカンヌで賞を取ったOPN、ケンドリック・ラマーとツアー予定のジェイムス・ブレイク、世界各国のフェスを飛び回るザ・xx、アナログ盤化される昔のヴェイパーウェイヴ、歌モノをやるアルカやローレル・ヘイロー、ストーンズ・スロウから新作を出したウォッシュト・アウト……などなど……などなどに象徴されるように。はじまったと思っていたら、おー、もうこんなになっている。じゃ、日本は?
 今日もまたひどい日だった。新しい景色に飢えていた。ぼくは、いま東京でもっとも尖っている音楽を作っている、若い人間の話を無性に聞いてみたくなった。

■「覚悟しとけよ」──Double Clapperz


ShintaとUKDによるDouble Clapperz。

俺はすげーカッコいいことやってるつもりなんだけど、なかなか理解されなかったり、ブッキングされなかったり、ムカつくからタイトルはこれでいいやって。

 彼らは若い。速いし、突風だ。ダブル・クラッパーズ(略称:ダブクラ)は、すでに名前が知られている。どこまでかって? ロンドンにまで。
いまの彼らの音楽は、現代のもっともエネルギッシュな英国ブラック・ミュージック=グライムに、すさまじく強い影響を受けている。
さて、DJのSintaとトラックメイカーのUKDが出会ったのは2012年。「最初にクラブで会ったとき、ようやく音楽の話が合うヤツがいたと思ったんですよ」とUKD。「グライムの話もしたけど、それだけじゃなかったよね。トラップとか……」とSinta。
 UKDにとって最初の影響はDex Pistolsだった。Bボーイ風なUKDは柔らかい声で話す。「18歳のときにDexのミックスCDを聴いて、それでメジャー・レイザーを知って、ディプロ知って、レゲエやダンスホールを聴くようになった」
 続いて、C.E.のTシャツを着た長身のSinta。StormzyやNovelist、Skeptaについて日本でもっとも熱く語れるライターとしても活躍している米澤慎太朗が言う。「俺は日本語ラップ。高校時代は日本語ラップおたくみたいな感じで、そこからR&Bっぽいところとダンスっぽいところがあったんで2ステップ・ガラージが好きになって。そのあとにガラージ。まだグライムもガラージも明確な違いがなかったような時代でしたね」
「グライムのことも最初は、新しいダンスホールと思って聴いましたから」とUKD。「そこは大事っぽい話ですね」とすかさずSintaが言うとUKDが相づちを打つ。「グライムって、ダンスホール・レゲエの一種かなと」。ふたたび間髪おかずにSinta。「つまりグライムをグライムとしてガッツリ入っていったわけじゃないというか、流れというか。レゲエのMCとか、好きなポイントがあったんだよね」。「あったね。早口のパトワが好きだった」とUKD。「Riko Danとか、あとはPay As You GoとかあのへんのサウンドとMCが好きだよね。レゲエ、ジャマイカンのノリがずっと好きだよね。でもどう考えてもいろんな意味でスケプタはデカいんじゃない? ファッションと音楽を結びつけたのもスケプタだし、UKDはファッションも音楽も好きだし、そういうのもあるとは思うけど。最初のきっかけは音楽がカッコいいし、見た目もカッコいいしってところだよね」とSintaがまとめる。
 ふたりの音楽制作は、「WarDub」が契機になっている。

Shinta:ワーダブっていうオンラインでやっていたグライムのコンペというか、MCたちがバトルで相手を口撃するように、DJたちもDJ同士で相手を攻撃しあう企画があったんですよ。

UKD:曲を送りあうんですよね。Twitterで@マークをつけて送るんですけど」

Shinta:けっこう毎年やっているっすけど、すごかったのは2013年ですね。グライムがまたおもしろくなってきたというのもそのへんからで、そこでいま活躍しているアーティストがほぼ全員参加しているんですよね……まあ、曲を作ってSound Cloudに出しただけなんですけど。そんなことしてもまず話題にもならないんですけど、マーロ(Murlo)っていうプロデューサーがいて、ロンドンのリンスFMで番組をやっているんですけど、その人が〈Butterz〉のショウに(ダブル・クラッパーズの)曲を送ったんですよ。Twitterで「曲をくれ」っていう@マークが来たんで送ったら、それをリンスFMでかけてくれたんですよ。そこからSoundcloudにDMがガーッと来たりしましたね」

このリアクションが、「日本でもやるけどUKとかを通じて世界中のリスナーにも届けたいという活動スタイルの原点」となった。で、その曲こそが、後にダブル・クラッパーズの最初のEPになる「Say Your Prayers」のオリジナル。

UKD:「Say Your Prayers」とは「覚悟はいいか」っていう意味ですね。

シンタ:「覚悟しとけ」みたいな(笑)。「お前の祈っている奴に言っとけ」って意味。しかも当時はジャージー・クラブとかの影響もめっちゃあったよね。聴いてもらったらわかるっすけど、グライムだけじゃないんですよ。

 この話は、ゴス・トラッドがUKで受け入れられた話を彷彿させる。たまたま自分が好きなことをやったらダブステップのシーンで受けたように、ダブル・クラッパーズもダンスホールやジャジー・クラブ、ボルチモアを自分たちなりに咀嚼したらそれがグライムのシーンで受けたというわけだ。
 ゴス・トラッドがディストピアを表現していたとしたら、ダブル・クラッパーズはより直球にダンスフロアに突き刺さるサウンドを目指している。“Say Your Prayers”の新ヴァージョンを収録した2016年に自主で制作した12インチには、なかばブートのような作りで、そのB面にはUKのグライム集団、Ruff Sqwadの曲のリメイクが収録されているが、すでにSintaはロンドンのギグに呼ばれているし、スケプタとも共演している。今年初頭には、ディジー・ラスカル以来の天才と言われる若きMC、カニエ・ウエストもお気に入りのノヴェリストを日本に招聘している。

 しかしながら、グライムとはUKならではの、ローカル色がもっとも強いスタイルだ。ぼくが今回もっとも聴きたかったのは、彼らが〈東京のサウンド〉をどう思っているのかということだ。「俺はその答えを持っているけど」とSintaが言う。「それは……俺たちがこれから作るモノ」
 こうした彼らの強気な姿勢、若さゆえの良き暴走は10月にリリース予定のセカンド・シングル「Get Mad」に集約されている。印象的なメロディとハードなドラミングで、人を駆り立てるような迫力満点のこの曲は、ある程度名前が浸透してからのダブル・クラッパーズの最初のシングルになる。 

「UKDが最初に出してきた曲が“Get Mad”って名前なんですけど、だからそもそもなにかしらブチ切れているんですよね(笑)」とSintaがが曲名について説明する。「Madというのはふたつの意味があるというか、『この曲はMadだね』と言ったら『ヤバい!』という意味だけど、“Get Mad」”と言ったら『キレる』って意味もあるじゃないですか。しかし……なんでそんなタイトルつけたんだろうって思うけどね」
「僕はけっこう承認欲求とかが強くて」とUKDが答える。その場は笑いに包まれたが、彼は冷静に話しを続けた。「俺はすげーカッコいいことやってるつもりなんだけど、なかなか理解されなかったり、ブッキングされなかったり、全然注目されないというのが、(だんだん認められて)自信がついてくると『なんでだろう?』って。けっこう頑張ってるのになと思って、あの曲を作ったんですよ。ムカつくからタイトルはこれでいいやって」
「というかまずあのヴァイオリンのリフが出来ていて、その時点でこれは狂気だなと思って(笑)。BoylanっていうUKのプロデューサーを起用したんですけど、そのときヴァイオリンのリフが超マッドだから使おうってことになって……」

 彼らの音楽に直結する強い気持ちは、彼らが所属する世代、20代半ばという若さと結びついている。たしかに90年代の東京には、20代が安く借りられてパーティできる場所がまだあった。新しいことをやる実験の場と週末の夜の娯楽の場とのバランスが取りやすかった。
 もちろん500人以上の集客を義務づけられているような商業クラブがあることが必ずしも悪いことではない。が、そればかりというのはまずい。自分がいま20代だったら、自分がかつて20代のときだったように、毎週末をクラブで過ごしたいと思っただろうか。
「だからぼくらが変えていくしかない」とSintaが言う。彼らは去る8月の半ばに「Get Mad」のリリース・パーティを終わらせたばかりだ。「ぼくらのリリース・パーティに集まっている子ってそういう(クラブで盛り上がった世代の下の下の)世代だし、遠慮なく楽しめるし。お金を持っていないと楽しめないみたいなパーティばっかりになっているから、ぼくらのリリース・パーティはエントランス・フリーでやった。そうしたら平日の夜なのに40人ぐらい集まって、20枚ぐらいのTシャツが売れた(笑)」
 実際のリリースまでまだ3ヶ月もあるのに、リリース・パーティをやるには早するだろう(※この取材は8月末)。「いや、それがいいんですよ」と彼らは不敵な笑いを見せる。最後にぼくは彼らの当面の目標を訊いてみた。「とくにああいう風になりたいというのはないんですけど……」こう前置きしたうえでUKDが力強く答える。「ゴス・トラッドさんの次に続くのは俺らでありたいと思いますね」
ダブル・クラッパーズの時代が近づいていると思うのはぼくだけじゃないだろう。

※出演情報
10/27 (金) 23:00- @Circus Tokyo dBridge & Kabuki pres. New Form
https://circus-tokyo.jp/event/dbridge-kabuki-pres-new-forms-tokyo/
11/3 (金) 23:00- @恵比寿Batica
Newsstand 2nd Anniversary


ようやくリリースされた待望の2nd EP「GET MAD」。
取扱店はDisc Shop Zero,Dubstore 、Naminohana Records、Disk Union Jet Set。Bandcamp : https://doubleclapperz.bandcamp.com/

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■ダブの新解釈──Mars89 

新しい動きとして面白いと思うのは、食品まつりさん。DJでは、セーラーかんな子ちゃんがおもしろいですね。彼女のDJは、毎回そう来るかという驚きがあって。DJとしてすごくユニークですね。

 パッションの塊のようなダブル・クラッパーズに対し、飄々としているのがMars89。彼は台湾で買ったという台湾語がデザインされた鮮やかなオレンジ色のTシャツを着て自転車に乗って現れた。待ち合わせ場所は都内の図書館の入口。ぼくは彼の顔を(そして電話番号も)知らない。しかし、彼が現れた瞬間に彼だとわかった。
 下北のレコード店、ZEROのカウンターに「Lucid Dream EP 」は売っていた。このカセットテープがMars89にとって2作目らしい。
 ちなみにブリストルのレーベル〈Bokeh Versions〉は、最近は、EquiknoxxのTime CowとLow Jackによる「Glacial Dancehall 2」、70年代末から80年代にかけて活躍したUKのレゲエ・バンド、 Traditionによる『Captain Ganja And The Space Patrol』のリイシュー盤を出している。
 Mars89の音楽もドープな残響音が拡がるダブだ。ヤング・エコー的な折衷を感じる。
「影響を受けているというか、毎回新鮮なインスピレーションをもらうのはOn-U Soundsとかですね」、彼はオールドスクーラーの名前を挙る。「アフリカン・ヘッドチャージは大好きだし、(トレヴァー・ジャクソンが監修した)『Science Fiction Dancehall Classics』というコンピレーションも好きですね。レゲエは好きだけど、実験的なダブが好きなわけで、ブリストル・サウンドも好きですけど、そんなに意識しているわけじゃない」

 Mars89がDJをはじめたきっかけは、兵庫県にいたときの「最初に遊びにいったパーティでやってたDJがめちゃくちゃヘタクソで。これでステージ立ってるんだったら自分がやったほうがいい」と思ったからだった。18か19で、エレクトロのパーティだった。いざやってみると自分よりもうまいDJが多いことに気が付いて、それならまだ誰も知らないような音楽をかけようとUKのアンダーグラウンド・ミュージックに手を出すようになった。
 ただし、「クラブ・ミュージックにいく前は、クラウトロックやポストパンク、ノイズ/インダストリアル、民族音楽系のエスノサイケとか、そういうのを聴いていた」。こうした感覚が、2010年代の〈L.I.E.S〉やLivity Sound、あるいはアイク・ヤードなどとリンクしたのだろう。

 彼と話しているとじつにたくさんのアーティスト名やジャンル名が出てくる。わずか10分も話せば、彼がどうしようもないほど音楽にどっぷりつかった人間であることがわかる。しかし、「境界線はない」とMars89は言う。「雑食的なんですよ。和ものも聴きますよ。浅川マキも好きだし、グループ・サウンズとかも好きだったんで、ブルー・コメッツとか聴いてましたね。ドラムとかがすごくファンキーなのがよくて。テクノ・ポップ系というか、YMOの派生系のものも好きですね」
 ポップという言葉ほど彼の作品から遠く感じられるのは事実だが……

 「僕の作品は、DJとしても使いにくいし、リスニングとしても多くの人に向いているわけではないと思うんですけど」と彼も認める。「ただ、メディテーションになるかもしれないですね(笑)」
 Mars89が曲を作りはじめたのは2年前だった。「本当に軽いノリだったんですけど、知り合いが新宿のDuusraaでビート・バトルみたいなイベントをやっていて、優勝したらヴァイナルを100枚刷れたんですね。それに参加してみなよと言われて、ノリで参加してみて初めて曲を作りましたね」
 彼はその後自主でカセットテープ作品をリリースして、〈Diskotopia〉のパーティで知り合ったAquadab & MC Aに渡したカセットが〈Bokeh Versions〉の手に渡り、気に入られて、今回のリリースとなった。幻想的なアートワークは画家をやっている彼の弟によるもの。

 Mars89にとっての音楽は、すなわちレベル・ミュージックである。踊って自由になることが重要、それがメッセージになればいいと彼は言う。
 音楽以外では映画からの影響が大きい。「曲を作るときにストーリーを与えないと曲が作れなくて。それこそ映画のサントラとかああいう感じのイメージじゃないと作れないんですよね。そのときに夢なのか現実なのかわからないような世界とか、知らない街にいるような感じをイメージしていて。夢のなかでいま夢だとわかっている状態とかそういう世界をイメージしていましたね」

 彼にも訊いてみよう。東京のサウンドってあると思う?
 彼は答える。「いまはなくて、これからできてくるかなと思いますね」
 この答えは、ダブル・クラッパーズのShintaと同じ。Mars89はさらに具体名を挙げて説明する。「新しい動きとして面白いと思うのは、食品まつりさんですかね」
日本からシカゴのフットワークへの回答のように捉えられた食品まつりだが、圧倒的なオリジナリティでいまや国際舞台でもっとも評価されているプロデューサーのひとり。
 Mar89は続ける。「DJでは、セーラーかんな子ちゃんがおもしろいですね。彼女のDJは、毎回そう来るかという驚きがあって。DJとしてすごくユニークですね。ほかにDJでは、年上ですけど、100madoさんも好きです」
 若い世代に絞って言うと、他に彼は〈CONDOMINIMUM〉も面白いと言う。「なかでも名古屋の人なんですけど、CVNって人の音が好きですね。アジアだったらTzusing(ツーシン)っていう上海のテクノの人ももしかしたら歳が近いかもしれない。〈L.I.E.S〉からよく出している人で、すごくアジア的なサウンドをうまく使いながらカッコいい曲を作っていて。BPM90~130くらいまでいろんな曲を作っていてカッコいいですよ」

 かつてはほとんど客がいないForestlimitで、1 Drinkと数時間ぶっ通しのバック2バックをやった経験もあるMars89は、「DJをやるといつも最年少だった」というが、最近はようやくダブル・クラッパーズのような彼より年下が出てきた。「ずっと自分が一番下だったというのもありましたし、年は気にしなかったんですけど、最近は少し意識するようになりましたね」

  Mars89は現在、UKDやKNK WALKSらといっしょに渋谷のRubby Roomで定期的にパーティをやっている。
「トライバル・ミュージックとか民族音楽的なものを含んだダンス・ミュージックをやっているパーティがあったら面白いんじゃないかと思ってはじめましたね。ダンスホール系とか、アフロ系の音ですね。クンビアとか、南米のローカル・ダンス・ミュージック的なものを取り入れて、それをUKやUSのダンス・ミュージックと同列で扱うようなパーティがやりたかったんですよね。アフロのパーカッションを聴くと絶対だれでも踊りたくなるし。そのへんで飲んでいる人がフラッと入ってきたりすることも多いですよ」

  渋谷の道玄坂の脇道からダンスホールが聴こえたら、冒険心を出して入ってみよう。東京の未来が鳴っている。

※出演情報
毎月第一水曜日 Noods Radio ( https://www.noodsradio.com/ )
毎月第二木曜日 Radar Radio ( https://www.radarradio.com/ )

酎酎列車 vol.7 @galaxy銀河系
11.25(sat)17:00~23:00
door/2000(+1D)
LIL MOFO
Mars89
speedy lee genesis
荒井優作

セーラーかんな子
テクノウルフ+テンテンコ

ブリストルのレーベルから出た、Mars89「Lucid Dream EP」。

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■クソヤバいものをブチ聴かす──Modern Effect

後ろ向きなModern Effectのふたり。

言葉の入っている音楽をあんまり聴きたくないというのがいまは強くなってきている。

 今回のレポートで紹介するなかで、あらゆる集団からもっとも孤絶しているのが、目黒/世田谷の外れで日夜音に埋没しているModern EffectのBack Fire CaffeとDocumentary aka Smoke Fable。ドレクシアの“リヴィング・オン・ジ”がお似合いの、ふたりである。
 なにしろ彼らときたら16ヶ月間ただひたすら作り続け、アルバム16枚分の曲が貯まったものの、自分たちの音源をどう発表すればいいのかわかっていなかった。

「ただひたすら作ってましたね」とBack Fire Caffe。彼は声が大きい。その人柄は、表面上では、作品のダークさの真逆と言えそうだ。「歩いているときもiPhoneでフィールド・レコーディングして、それを家に帰ってからピッチを変えたりして曲にしちゃおうとか」
「それは1日のサイクルですよね」とDocumentaryが静かに付け足す。「仕事が終わって空いた時間はできるだけこっちに来てもらって。作る以外でも映画を見るでも美術館に行くでも」

 ふたたびBack Fire Caffeがしゃべり出す。「全部音を作るために生活しているという感覚になっていちゃったよね!」
  彼の声は、取材に使った喫茶店の全席に響き渡ったことだろう。「もうひとりルームシェアしているやつがいて、そいつと作っていて。自分も初めはiPadのアプリで作りはじめて、そこから突拍子もないものができたんですけど。それがとにかく攻撃的だったんで“アタック”っていうジャンルをつけたんですね。その“アタック”っていうジャンルでやろうよ、というところからはじまりましたね」
 こういうベッドルーム・テクノ話が、お茶の時間を楽しんでいるご婦人たちやカップルたちの耳に入ってしまうのが、公共的喫茶店の面白さだ。

 それはさておき、こう見えても、Modern Effectには閉塞的な傾向がある。SNSの類はいっさいやらないというModern Effectの音楽をぼくが聴けたのは、ある偶然からぼくの手元に届いた、ヤバいものでも入っているんじゃないかというそのパッケージにそそのかされたらであるが、聴いて最初に感じたのは、何もかもを拒絶している感覚だ。誰も信用しない、絶対に希望はない、清々しいまでのネガティヴィティ……見せかけの繋がりは要らないと。ふたりにはクラブやレイヴで遊んでいた過去を持っているが、それがつまらないと感じたからこそ彼らはそれらの場から離れ、そして孤絶した現在を選んだ。

 ここで彼らに影響を与えたと思わしき音楽/好きな音楽をいくつか列挙してみよう。D/P/I(彼らにとっての大きな影響)、OPN(ただし『Replica』以前、ぎりぎり許せるのは『R Plus Seven』まで)、ARCA(とくに『ミュータント』)、Emptyset(音源を送ったら返事をもらった)、デムダイク・ステア、ティム・ヘッカー、〈Triangle Recordings〉や〈Subtext Recordings〉から出ている音源……彼らは最近のベリアルも気に入っている。
 彼らが目指すのは「クソヤバいものをブチ聴かす」こと。Back Fire Caffeが静かに言う。「クソヤバいものをブチ聴かすというのと、無国籍なものを考えていきたいと思っていますね」

 それぞれ別の飲食店で働きながら生活費を得ているふたりだが、在日インド人の下でハードに働くDocumentaryは、その環境を楽しんでいる。日本のなかの日本らしくない場所が彼らには居心地がいいのだ。
 Documentaryが続ける。「言葉の入っている音楽をあんまり聴きたくないというのがいまは強くなってきている。言葉の意味が出てくると音を純粋に追えないというか。もともとは歌や言葉が入っているものが好きだったんですけどね」

  現在のModern Effectは、自分たちの音楽をどのように届けるのかを模索中だ。初期ヴェイパーウェイヴのように、彼らにはまだ、自分たちの作品を売る気がない。値段付けられずに悩んでいるのだ。たしかなのは、作り続けること。HDの容量の限界まで。
 こうした悶々とした現状を変えようと、最近彼らは自分たちのホームページを立ち上げた(https://www.moderneffect.net/)。ここで彼らの音源は聴けるし、bandcanpでも彼らの音源は無料で聴ける(https://moderneffect.bandcamp.com/)。これらの作品のいくつかはUSBにコピーされて、ビニールにパックされるわけだが、リスナーがそれを購入できる機会がこの先どのような形で実現されるのかは神のみぞ知るだ。
 これからどうなるのか予測のできないModern Effectだが、彼らは音楽を作る上でもっとも重要なことを知っている。好きだからやる。たとえダンスフロアから人が逃げだそうと、彼らにとって最高の音が鳴っていればいいのだ。

※今後の予定
1年で365作品アップ(予定だそうです)

彼らのUSB作品の数々。この怪しげなデザインに注目。

(※この取材は8月下旬にほぼおこなっています。筆者の怠惰さゆえに掲載が遅れたことを、協力してくれた3組のアーティストにお詫びします)
(※※もちろん、今回取り上げた3組以外にもいるでしょう。いまいちばん尖っている音を出している人〈DJ以外〉をご存じの方は、ぜひぜひ編集部にご一報をー)

shrine.jp × Daniel Miller - ele-king

 地域密着文化フェスティヴァル、(( ECHO KYOTO ))。6月にジェシー・カンダを迎えて開催された同イベントですが、2回目となる今回は、京都の電子音楽レーベル〈shrine.jp〉の20周年記念企画。しかもスペシャル・ゲストとして、なんと〈Mute〉の創始者であるダニエル・ミラーの参加も決定! これはなんとも気になる組み合わせです。12月3日はぜひとも京都METROまで足を運びましょう。なお、〈shrine.jp〉は20周年を記念した全国ツアーも開催するとのことで、詳細は下記をご覧ください。

[11月29日追記]
本日、(( ECHO KYOTO ))のタイムテーブルが発表されました。こちらからご確認ください。また、イベント直前の12月1日(金)には、ダニエル・ミラーがDOMMUNEに出演することも決定(20:00~21:00)。弊誌編集長の野田努も出演します。お見逃しなく!

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(( ECHO KYOTO )) にMUTE創始者ダニエル・ミラーの出演が決定!
shirine.jp 20周年記念 × ダニエル・ミラー(MUTE)
2017.12.3 (Sun) @METRO
特別先行早割チケット、本日23日より発売開始!

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(( ECHO KYOTO ))
shirine.jp 20周年記念 × ダニエル・ミラー(MUTE)

12月3日(日)に京都METROで行われる (( ECHO KYOTO )) に、〈MUTE〉レーベル創始者のダニエル・ミラーの追加出演が決定した。なおダニエル・ミラーは、TOKYO DANCE MUSIC EVENT(11月30日~12月2日)にてカンファレンスへの登壇とWOMBでのDJ(12月1日)を行うことが決定している。

電子音楽界のパイオニアにしてゴッドファーザーであり、過去40年の音楽世界史における最重要人物のひとりであるダニエル・ミラーと、糸魚健一主宰の京都を代表する電子音楽レーベル〈shirine.jp〉20周年を記念してレーベルゆかりのアーティストが出演! 京都と世界の電子音楽が会場のMETROから京都盆地にこだまして、脈々と続く京都の電子音楽史にまた新たなページが加わることでしょう!

また本日23日(月)より2週間限定で特別先行早割チケットを発売する。

今年6月に行われた第1回目の (( ECHO KYOTO )) は、ビョーク、Arcaなどのビジュアルを手がけるジェシー・カンダによる「クラブを寺院化する」というコンセプトのインスタレーションが行われ大きな成功を収めた。今回が2回目の開催となる。

■公演概要
(( ECHO KYOTO ))
shrine.jp 20周年記念 × ダニエル・ミラー
2017/12/3 (Sun) @METRO
Open/Start 18:00
ADV ¥3,800 / DOOR ¥4,300 (共にドリンク代別途)

LINEUP:
ダニエル・ミラー (Daniel Miller)
Acryl (dagshenma + Madegg)
Hideo Nakasako
HIRAMATSU TOSHIYUKI
kafuka
Ken'ichi Itoi
masahiko takeda
TOYOMU

*出演者プロフィール詳細 https://trafficjpn.com/news/ek

★2週間限定!特別先行早割チケットを発売!!
 ¥3,300 ドリンク代別途
[受付期間:10/23 12:00~11/6 09:59] ←枚数限定!
※『特別先行早割お申し込み方法』→タイトルを「12/3 ECHO KYOTO 早割希望」として頂いて、お名前と枚数を明記して 宛でメールして下さい。

・・・11/6 10:00より発売開始・・・
ローソン Lコード:54946
ぴあ Pコード:348-946
e+ https://eplus.jp/
※前売りメール予約:
上記早割チケット期間以降は、前売予約として、ticket@metro.ne.jpで、前売料金にてのご予約を受け付けています。前日までに、公演日、お名前と枚数を明記してメールして下さい。前売料金で入場頂けます。

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世界有数の文化都市 京都、その豊かな文化土壌において、真のアーティストによる比類なき地域密着文化フェスティヴァルを開催し、日本国内、そして世界へ発信する。
ECHO/ 廻向(えこう):参加アーティストと地域が作り出す卓越した表現がこだまし、広く人々に廻らし向けられる。
https://www.facebook.com/ECHOKYOTOECHO/
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「MUTEは偉大なレーベルのひとつだが、その偉業はポップと実験の両立のなかでなしえたもので、ことエレクトロニック・ミュージックの発展においてはもっとも重要な役割を果たしている。1978年に創設されたインディペンデント・レーベルが、いまだに刺激的で、いまだに冒険的で、そして相変わらずポップであるということは、偉業というよりも、もはや奇跡といったほうが適切かもしれないが、しかし、それこそがMUTEというレーベルなのだ」--- 野田努 (ele-king)
https://mute.com/
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shrine.jp (シュラインドットジェイピー)
shrine.jpは、京都在住の電子音楽家 糸魚健一によるエレクトロニック・エクスペリメンタル・レーベルである。1997年に音楽への可能性への探究心を表現する為に発足された。これまでデザインとプロダクトを利用したメディア実験ともとれるリリースを繰り返してきている。
また、ダンスミュージックに特化するサブレーベルMYTHがある。shrine.jpが社、形あるもの、すなわちコンテンツ(内容)を主体とし、MYTHは話=コンテクスト(文脈)あるいはコンジャクチャ(推測)を示す。
www.shrine.jp

shrine.jpは20周年を記念し全国ツアーを行う。
日程は以下の通り。

shrine.jp 20th Anniversary Tour
12/2 shrine.jp 20th Anniversary Exhibition& Reception Party
@FORUM KYOTO

12/3 shrine.jp 20th Anniversary Tour in Kyoto
meets (( ECHO KYOTO ))
@METRO

12/21 shrine.jp 20th Anniversary Tour in Fukuoka
meets MIND SCAPE
@Kieth Flack

12/24 shrine.jp 20th Anniversary Tour in Sendai
Emotional electronic music for X’mas
@CLUB SHAFT

12/30 shrine.jp 20th Anniversary Tour in Tokyo
Grand Tour Final!
@KAGURANE

Kedr Livanskiy - ele-king

 いま、ポップ・カルチャーを愛する者にとってロシアという国は、ゴーシャ・ラブチンスキーの国かもしれない。ゴーシャ・ラブチンスキーは、コム・デ・ギャルソンのサポートを受けていることから、日本での知名度も高いファッション・デザイナーだ。自身の名を掲げたブランド“ゴーシャ・ラブチンスキー”は世界中のポップ・カルチャーファンを虜にし、ドイツのカルチャー誌『032c』はラブチンスキーの特集を組むなど、いまやラブチンスキーは2010年代のポップ・カルチャーを象徴する存在と言っていい。また、ラブチンスキーはレイヴ・カルチャーの影響を多分に受けている。その影響は、バーバリーとのコラボ・アイテムも登場した2018年春夏コレクションにも表れており、ドレスダウンしたスポーティーなコーディネイトは古き良きレイヴ・カルチャーの匂いを漂わせる。

 そんなラブチンスキーの片腕といえるのが、モスクワを拠点に活動するDJ/プロデューサーのブッテクノことパヴェル・ミルヤコフだ。ラブチンスキーのショーの音楽を手がけ、先述の2018年春夏コレクションのアフターパーティーでもパフォーマンスを披露するなど、多大な寵愛を受けているミルヤコフはロシアのクラブ・シーンでもっとも注目を集めるアーティストのひとり。音楽好きからすると、レーベル〈Johns Kingdom〉の主宰と言ったほうがピンとくるだろうか。このようにラブチンスキー周辺は、ファッションのみならず音楽シーンの人材も集まっている。そして、こうしたそれぞれの界隈を越えた交流があるからこそ、現在のロシアに注目する多くのポップ・カルチャー好きがいるのだと思う。

 そうした流れに、ケダル・リヴァンスキことヤナ・ケドリーナもいる。2016年に来日公演を果たしたことも記憶に新しい彼女は、ミルヤコフの恋人でもある。彼女もモスクワを拠点に活動しているが、いち早くピックアップしたのはアメリカの〈2MR〉だった。〈Italians Do It Better〉の創設者であるマイク・シモネッティー、〈Captured Tracks〉を運営するマイク・スナイパーとアダム・ジェラードの3人によって設立されたこのレーベルは、ダストやセージ・キャズウェルといった、流行りとされる潮流から少し逸れた面白いエレクトロニック・ミュージックを扱っている。
 このようなレーベルにピックアップされたこともあり、彼女が〈2MR〉から発表した「Sgoraet = Burning Down」(2015)と「Солнце Января」(2016)は、早耳リスナーの間で必聴盤となった。とりわけ好評だったのは後者で、彼女にアメリカ横断ツアーというチャンスをもたらした。

 このような歩みを経て、彼女は待望のファースト・アルバム『Ariadna』を完成させた。ローランドのSH-101とJuno 106、さらにはコルグのMiniloguというハードウェア・シンセを駆使した生々しいサウンドが特徴の本作には、〈L.I.E.S.〉や〈Mister Saturday Night〉を旗頭とするロウ・ハウス以降の流れを見いだせる。こうした特徴はこれまで彼女がリリースしてきた作品でも見られたもので、それをより深化させたのが本作と言える。
 一方で興味深いのは、“Ariadna” “Your Name” “Love & Cigarettes”といった曲が80年代エレクトロのビートを前面に出していること。ここ最近、〈Klakson〉などのレーベルが2000年代から種を蒔きつづけたこともあり、80年代エレクトロ再評価の潮流が生まれているが、この潮流とも本作は共振できるサウンドだ。おまけに、マーティン・ニューウェルが朗読で参加している“ACDC”では、トランスを大々的にフィーチャーしている。ロレンツォ・セニやアイシャ・デヴィなど、トランスのサウンドを取りいれるアーティストが増えている昨今だが、そのなかに彼女も仲間入り、といったところか。
 さらに面白いのはサウンドスケープだ。冷ややかでドリーミーな質感を湛えたそれは、『Selected Ambient Works 85-92』期のエイフェックス・ツインを連想させる。ただ、本作のほうがよりダークな雰囲気を志向していること、くわえて歌モノとしても聴かせる側面があるのは大きな違いだ。

 本作は、いま盛りあがっているロシアのポップ・カルチャーを出自としながら、その他のさまざまな潮流を飲みこんだ鵺(ぬえ)みたいな作品である。それゆえ多角的解釈を可能とする多彩さが映え、幅広い層に聴かれる可能性を秘めている。ロシアのポップ・カルチャーはもちろんのこと、90年代のUKテクノ好きから近年のエレクトロニック・ミュージック好きまで、多くの人が本作を気にいるはずだ。

WaqWaq Kingdom - ele-king

 ワクワク・キングダム、すなわち「わくわく王国」というユニット名に、大阪の下町のシンボルである『Shinsekai(新世界)』というアルバム・タイトル。ヨーロッパからのリリースとなるどうにもいかがわしい作品なので、西洋人から見たサイバー・タウン大阪をイメージしたものかと思われるかもしれないが、やっているのはキング・マイダス・サウンドのヴォーカリストで、イラストレーターでもあるキキ・ヒトミと、DJスコッチ・エッグ名義でのゲームボーイを使ったハードコアなパフォーマンスが知られ、またベーシストとしてシーフィールやデヴィルマンといったバンドでも活動するイシハラ・シゲルという欧州在住の日本人に、イタリアのエクスペリメンタル系パーカッション奏者のアンドレア・ベルフィによるユニット。大阪出身のキキ・ヒトミは1990年代にロンドンへ移住し、東京出身のイシハラ・シゲルも2000年頃からベルリンを拠点に活動しているので、もともとの日本人の感覚に、ヨーロッパから見た日本のイメージが組み合わさっているとも言える。キキ・ヒトミは現在ドイツのライプツィヒ在住だそうで、その地元のレーベルである〈ジャータリ〉を根城に活動している。レーベル名が示すように、主にダブやレゲエ、デジタル・ダンスホール系の作品を出しているところだ。キキ・ヒトミはここから2016年に『Karma No Kusari(カルマの鎖)』というソロ・アルバムを出したが、デジタル・レゲエなどに混じって日本の演歌も歌い、ヨーロッパのメディアからは「演歌ダブ」という名で面白い作品と評価を受けた。ザ・バグことケヴィン・マーティンと詩人であるロジャー・ロビンソンが組んだキング・マイダス・サウンドでは、トリッキーとブリアルをかけあわせたようなドープで実験的なトリップホップ~ダブステップをやっているが、そこでも日本語の歌詞を取り入れている。常々、ホレス・アンディやケン・ブースなどのレゲエ・シンガーのこぶしの効かせ方は、日本の演歌歌手に近いものがあるなと思っていたそうで、そうした発想がレゲエのビートで演歌を歌う『カルマの鎖』へ繋がったようだ。収録曲の“ピンクの着物”は、藤圭子を意識したそうである。

 それから約1年ぶりとなる『新世界』は、演歌を含めた日本の歌と、ダブやアフロなどのワールド・ミュージック、ダブステップやデジタル・クンビアなどがさらにシェイクされている。サイモン・フォウラーによる魑魅魍魎としたジャケット・アートワークに、ポールによるマスタリングが加わり、『カルマの鎖』にあったポップな方向性が、サイケデリックで混沌とした世界へと導かれている。クラブ・サウンドやエレクトロニック・ミュージックの世界でワールド・ミュージックにアプローチした例としては、ここ数年ではクラップ!クラップ!モー・カラーズマーラなどがあり、それぞれ独自の手法やサウンドを持っているのだが、『新世界』は表面ではクラップ!クラップ!のようにカラフルな色使いを感じさせつつも、キング・マイダス・サウンドの頃から見られるドープでヘヴィなダブ・サウンドが中心にあり、実に骨太な作品だ。そうした中、途中で和風とも中華風とも東南アジア風とも言えない音色が差し込まれ、少しユーモラスなところを感じさせる点は、オンラの『シノワズリ』シリーズと共通の味わいである。“アイ・ウッド・ライク・トゥ・レット・ユー・ゴー”や“バード”の無国籍なエキゾティシズムは、アルゼンチンのデジタル・クンビア勢に通じるところもあり、それにニューウェイヴ的なアグレッシヴ感覚を混ぜている点も特徴だ。“オー・イッツ・グッド”はダブ色が濃いパンク・ファンクで、アンドレア・ベルフィのトライバルなラテン・パーカッションも生かされている。ESGとザ・ポップ・グループがジョイントし、それをリー・スクラッチ・ペリーがミックスしたような曲とでも言おうか。また、全てが土着的なワールド・ミュージック系というわけではなく、中にはSBTRKTのようなフューチャリスティックなベース・サウンドの“ブロウ・イット・アップ”もある。“ラヴ・ゲーム”はパーカッシヴなアフリカ系のナンバーで、プリミティヴな要素とそれに反するようなフューチャリスティックな要素がうまく融合している。“ステップ・イントゥ・ア・ワールド”はアルバム中でもっともヘヴィでドロドロとしたベース・サウンドだが、コーラスがブロンディの“ラプチャー”のメロディを引用するという遊び心もある。“ココ・セイズ”は「森羅万象」や「花鳥風月」といったフレーズが出てくる日本語の歌。神秘的なイメージの曲で、時代で言えば平安時代や奈良時代をイメージしているのだろうか。“ワクワク・ドリーム”はボカロ風のヴォーカルで、花魁とか舞子とか情緒的な光景が思い浮かぶ一方で、アニメ的なポップでキッチュな表情も見せる摩訶不思議な和の世界。和のメロディの取り入れ方は、YMOのそれに近いところも感じさせる。「演歌ダブ」とはまた異なるキキ・ヒトミのユニークな和の世界を見せてくれる。


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