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Kedr Livanskiy

ElectroTechno

Kedr Livanskiy

Ariadna

2MR

Tower HMV Amazon iTunes

近藤真弥   Oct 16,2017 UP

 いま、ポップ・カルチャーを愛する者にとってロシアという国は、ゴーシャ・ラブチンスキーの国かもしれない。ゴーシャ・ラブチンスキーは、コム・デ・ギャルソンのサポートを受けていることから、日本での知名度も高いファッション・デザイナーだ。自身の名を掲げたブランド“ゴーシャ・ラブチンスキー”は世界中のポップ・カルチャーファンを虜にし、ドイツのカルチャー誌『032c』はラブチンスキーの特集を組むなど、いまやラブチンスキーは2010年代のポップ・カルチャーを象徴する存在と言っていい。また、ラブチンスキーはレイヴ・カルチャーの影響を多分に受けている。その影響は、バーバリーとのコラボ・アイテムも登場した2018年春夏コレクションにも表れており、ドレスダウンしたスポーティーなコーディネイトは古き良きレイヴ・カルチャーの匂いを漂わせる。

 そんなラブチンスキーの片腕といえるのが、モスクワを拠点に活動するDJ/プロデューサーのブッテクノことパヴェル・ミルヤコフだ。ラブチンスキーのショーの音楽を手がけ、先述の2018年春夏コレクションのアフターパーティーでもパフォーマンスを披露するなど、多大な寵愛を受けているミルヤコフはロシアのクラブ・シーンでもっとも注目を集めるアーティストのひとり。音楽好きからすると、レーベル〈Johns Kingdom〉の主宰と言ったほうがピンとくるだろうか。このようにラブチンスキー周辺は、ファッションのみならず音楽シーンの人材も集まっている。そして、こうしたそれぞれの界隈を越えた交流があるからこそ、現在のロシアに注目する多くのポップ・カルチャー好きがいるのだと思う。

 そうした流れに、ケダル・リヴァンスキことヤナ・ケドリーナもいる。2016年に来日公演を果たしたことも記憶に新しい彼女は、ミルヤコフの恋人でもある。彼女もモスクワを拠点に活動しているが、いち早くピックアップしたのはアメリカの〈2MR〉だった。〈Italians Do It Better〉の創設者であるマイク・シモネッティー、〈Captured Tracks〉を運営するマイク・スナイパーとアダム・ジェラードの3人によって設立されたこのレーベルは、ダストやセージ・キャズウェルといった、流行りとされる潮流から少し逸れた面白いエレクトロニック・ミュージックを扱っている。
 このようなレーベルにピックアップされたこともあり、彼女が〈2MR〉から発表した「Sgoraet = Burning Down」(2015)と「Солнце Января」(2016)は、早耳リスナーの間で必聴盤となった。とりわけ好評だったのは後者で、彼女にアメリカ横断ツアーというチャンスをもたらした。

 このような歩みを経て、彼女は待望のファースト・アルバム『Ariadna』を完成させた。ローランドのSH-101とJuno 106、さらにはコルグのMiniloguというハードウェア・シンセを駆使した生々しいサウンドが特徴の本作には、〈L.I.E.S.〉や〈Mister Saturday Night〉を旗頭とするロウ・ハウス以降の流れを見いだせる。こうした特徴はこれまで彼女がリリースしてきた作品でも見られたもので、それをより深化させたのが本作と言える。
 一方で興味深いのは、“Ariadna” “Your Name” “Love & Cigarettes”といった曲が80年代エレクトロのビートを前面に出していること。ここ最近、〈Klakson〉などのレーベルが2000年代から種を蒔きつづけたこともあり、80年代エレクトロ再評価の潮流が生まれているが、この潮流とも本作は共振できるサウンドだ。おまけに、マーティン・ニューウェルが朗読で参加している“ACDC”では、トランスを大々的にフィーチャーしている。ロレンツォ・セニやアイシャ・デヴィなど、トランスのサウンドを取りいれるアーティストが増えている昨今だが、そのなかに彼女も仲間入り、といったところか。
 さらに面白いのはサウンドスケープだ。冷ややかでドリーミーな質感を湛えたそれは、『Selected Ambient Works 85-92』期のエイフェックス・ツインを連想させる。ただ、本作のほうがよりダークな雰囲気を志向していること、くわえて歌モノとしても聴かせる側面があるのは大きな違いだ。

 本作は、いま盛りあがっているロシアのポップ・カルチャーを出自としながら、その他のさまざまな潮流を飲みこんだ鵺(ぬえ)みたいな作品である。それゆえ多角的解釈を可能とする多彩さが映え、幅広い層に聴かれる可能性を秘めている。ロシアのポップ・カルチャーはもちろんのこと、90年代のUKテクノ好きから近年のエレクトロニック・ミュージック好きまで、多くの人が本作を気にいるはずだ。

近藤真弥