ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Pulp - More | パルプ
  2. サンキュー またおれでいられることに──スライ・ストーン自叙伝
  3. Ellen Arkbro - Nightclouds | エレン・アークブロ
  4. フォーク・ミュージック──ボブ・ディラン、七つの歌でたどるバイオグラフィー
  5. Derrick May ——デリック・メイが急遽来日
  6. Susumu Yokota ——横田進の没後10年を節目に、超豪華なボックスセットが発売
  7. Cosey Fanni Tutti - 2t2 | コージー・ファニ・トゥッティ
  8. Theo Parrish ──セオ・パリッシュ、9月に東京公演が決定
  9. interview with Rafael Toral いま、美しさを取り戻すとき | ラファエル・トラル、来日直前インタヴュー
  10. Adrian Sherwood ──エイドリアン・シャーウッド13年ぶりのアルバムがリリース、11月にはDUB SESSIONSの開催も決定、マッド・プロフェッサーとデニス・ボーヴェルが来日
  11. 〈BEAUTIFUL MACHINE RESURGENCE 2025〉 ——ノイズとレイヴ・カルチャーとの融合、韓国からHeejin Jangも参加の注目イベント
  12. Autechre ──オウテカの来日公演が決定、2026年2月に東京と大阪にて
  13. Terri Lyne Carrington And Christie Dashiell - We Insist 2025! | テリ・リン・キャリントン
  14. Little Simz - Lotus | リトル・シムズ
  15. VMO a.k.a Violent Magic Orchestra ──ブラック・メタル、ガバ、ノイズが融合する8年ぶりのアルバム、リリース・ライヴも決定
  16. R.I.P. Tadashi Yabe 追悼:矢部直
  17. Ethel Cain - Perverts | エセル・ケイン
  18. Hazel English - @新代田Fever
  19. MOODYMANN JAPAN TOUR 2025 ——ムーディーマン、久しぶりの来日ツアー、大阪公演はまだチケットあり
  20. R.I.P.:Sly Stone 追悼:スライ・ストーン

Home >  Reviews >  Album Reviews > Swindle- Trilogy In Funk

Swindle

FunkGrimeJazzLatin

Swindle

Trilogy In Funk

Butterz/Pヴァイン

Amazon

野田努   Feb 06,2017 UP

 2月末にはJリーグが開幕する。ele-king編集部に昔いた橋元優歩、辞めてからサッカーにハマってるんですよね。どんな啓示が彼女の運命を変えたのかは知らないけれど、とにかくあの女はあるときある時間から湘南ベルマーレのサポになった。そりゃあ、チョウ監督はリーグにおいて有能な監督のひとりだが、うーん、人生わからないものです。まあいい、Jリーグ・ファンがひとりでも増えるのはいいことだし、いまは開幕へのワクワク感でいっぱいのとき。清水エスパルスは、主力の怪我さえなければ、ネガティヴな予想を覆してそこそこやるんじゃないだろうか……などとぼくも勝手に妄想している(とくに白崎選手の華麗さがJ1で見れるのは嬉しい)。
 もちろん一般的な見解では、清水は下に見られているチームである。近年の成績を顧みれば低い評価も甘受するしかないのだけれど、それでも清水は熱心なサポーターが熱く応援する魅力あるチームであり、その魅力のひとつにはサンバのリズムがある。たとえば浦和レッズの応援はヨーロッパ的だが、清水のそれはブラジルの影響下にあり、サポーターにはサンバのリズムが染みついている。スウィンドルのアルバムはサンバのリズムからはじまる。

 清水エスパルスが行き詰まったように、ダブステップも行き詰まるのは、ハウスやテクノだって何回も行き詰まっているように当たり前のことであり、しかしその窮地をどのように脱してどのような方向性にいくのかを追っていくのは興味深い。スケプタやワイリーなど、グライムが加速的な勢いで再燃しているUKにおいて、ダブステップは過去のものと見なされているのかもしれないけれど、マーラやスウィンドルのように他文化に開かれていく方向性はいまも継続されているし、この方向性はいまも刺激的だ。マーラの昨年の『Mirrors』に関しては、ele-king界隈ではみごとに評価が割れたが、それは期待の裏返しでもあり、たとえばエキノックスのダンスホールをわがモノとしたデムダイク・ステアの新作に関しては、ほぼ満場一致で肯定である(レヴューがあがっていないだけ)。
 スウィンドルの明るさは、デムダイク・ステアの陰鬱さとは対極とも言える。スウィンドルは、2012年、〈Deep Medi Musik〉からの12インチ「Do The Jazz」で度肝を抜いた男である。高橋勇人がライナーで書いているように、コンクリートの壁を貫通してしまうようなベースとシンセのユニゾン、ラテン・パーカッションの組み合わせの妙は、この若者を一躍シーンの最前列に押し上げた。その1曲で、ダブステップとワールドをつなぐ回路をうながした彼は、2013年にアルバム『Long Live The Jazz』を発表、2015年には本人いわく「平和と愛と音楽の使者」として『Peace, Love & Music』をリリースしている。
 前作からおよそ1年を経てリリースされる『Trilogy In Funk』は、2016年から2017年のあいだに発表してきた3作の12インチをコンパイルしたもので、大きくはブラジル、ロンドン、そしてロサンジェルスでのセッションに分かれている。
 ロサンジェルス編は、USファンクへのアプローチという新境地を見せているが、ディスコ・テイストも加味され、温かいアナログな感覚も注入されている。社会学的見地でいえば、現代のUKのキッズは、戦後おそらく最大級のレベルでUSブラックばかりを聴いていて(だからザ・xxは、インタヴューにおいて海外に出てあらためてUKロックの伝統の偉大さに気がついたと語っている)、そのことはスウィンドルのロサンジェルス編の背景とも無縁ではないかと思われる。もちろんここにあるのはスウィンドルの自己解釈に基づくファンクだ。コピーではない。
 それでもやはりぼくは、ブラジル編と並んでロンドン編が気に入っている。ブラジル編の明るさと感傷には、ロサンジェルス編と同様に彼の成熟がうかがえるわけだが、緊張感のあるロンドン編すなわちグライム・サウンドのエネルギーは、大人びたそのふたつのセッションの真ん中にあり、特別な存在感を示している。そのなかの1曲には、DダブルEのような、本当にシーンの黎明期(90年代のジャングルの時代)からいるMCがいまもフィーチャーされている。
 ハイブリッドな路線か、我らが内部における質を高めるのか、あるいはUSを積極的に取り入れるのか。いくつかの選択肢があり、現状をそのまま出してしまった格好となったアルバムではあるが、スウィンドルは彼のおおらかさで整合性というオブセッションを払いのけている。

野田努