Home > Reviews > Album Reviews > Clap! Clap!- A Thousant Skies
1990年、デリック・メイが「ザ・ビギニング」というシングルを出したとき、まさかそれが本当に「はじまり」だったなんて誰も信じちゃいなかった。ぼくもそうだった。『ブラック・マシン・ミュージック』を書いているときもまったく予想できなかったな。ドラム・マシンが、いずれはその多くが、アフリカのリズムすなわちパーカッションをプログラムされるようになるとはね。
イタリア人ジャズ・ミュージシャン、クラップ!クラップ!は、ビートの蒐集家にしてアフリカン・パーカッション&アフリカ楽器の魅力ある音色の混合者、かつファンタジーの語り部である。彼は、ブリストルのレーベル〈ブラック・エイカー〉からの数枚のシングルにおいて、ベース+ジュークつまりハウスよりもテンポが速めの、電子音によるシャンガーン的アフリカン・パーカッションというコンビネーションの妙技を披露し、脚光を浴びた。
そして、2014年のファースト・アルバム『タイー・ベッバ』では、リズムにさらに自由度を与え、ゆるめの曲も交えながら全体をある種ファンタジーに変換した。それはネガティヴな小林の精神を照らす光となり、現実からの逃避を手助けし、深夜帰りの病んだ気持ちに優しく作用したのである。ゆえに『タイー・ベッバ』は、アナログ盤のみのリリースだったのに関わらず評判となり、高まるニーズに応えるべく日本ではCD化され、クラブ系では近年のベストセラーの1枚となった……どころの騒ぎではない。ポール・サイモンの2016年のソロ・アルバムにトラックを提供するまでに至った。(ポール・サイモンはその昔『グレイスランド』で南アフリカのレディスミス・ブラック・マンバーゾを起用したぐらいで、それを考えれば……という向きもあるが、にしてもこれは限定で発表されたような真性のアンダーグラウンド・ミュージックなわけで)
本作『ア・サウザント・スカイズ』はセカンドであり、大躍進後の最初のアルバムだ。前作同様、別の時間軸からの音楽であり、寒々しくも荒廃した世界の住人の心を温める音楽、夢への旅立ちを助ける音楽ではあるが、前作よりもぐっと洗練された作品となった。間口は広がり、ひと言で言えば聴きやすいアルバムだ。いくつか曲名を挙げるなら、“Hope”なる曲ではポップ・センスを、“Ode To The Pleiades”ではエレガントなダウンテンポを、“Lunar Ensemble”ではアフロ・ハウス・フュージョンとも呼べる展開を見せている。完成度は確実に上がっている。
CDには各曲に付けられた物語が記されている。宇宙の神話、ひとりの女性の夢とアフリカの往復──そのファンタジーは、希望がことごとく揉み消されるこの現実への抵抗の表れであろう。重力も忘れて、この音楽に身を委ねることで現実の惨さを忘れることは、音楽ファン冥利につきる。なお、2曲目にフィーチャーされているボンゲジウェ・マバンドラは、日本盤リリース&来日もある南アフリカのシンガー・ソングライター。ほかはよくわかりませんので、わかり次第追って報告したいと思います。
野田努