Home > Interviews > interview with Warpaint (Theresa Wayman) - 過去と現在を混ぜ合わせるダンス・ポップ
Warpaint - Heads Up Rough Trade/ホステス |
結成12年という安定期に入っているはずなのに、このバンドは決して一定のトーンに安住する気配を見せない。言い換えれば、作品ごと本能的に焦点を絞り込むことができる、常に柔軟なバンドということもできるだろう。2010年のファースト『ザ・フール』はアンドリュー・ウェザオールがミックスを担当、2年前のセカンド『ウォーペイント』はプロデューサーがフラッドでナイジェル・ゴドリッチもミックスを手がけていた。だが、届いたばかりのサード『ヘッズ・アップ』にはそうした“UKの著名人”は関わっていない。かと言って、彼らが拠点とするLA人脈……最初のEP「Exquisite Corpse」のミックスを手がけたジョン・フルシアンテやジョシュ・クリングホファーの姿もここには直截的にはない。では、今作で彼女たちがどこを向いているのか、と言えば、ダンス・ミュージック。それも90年代スタイル(形式だけではなく音質なども含めて)のカジュアルなブラック・ミュージック・オリエンテッドな“踊れる音楽”だ。
それがたぶんにナイル・ロジャースが制作に関わったダフト・パンクの“Get Lucky”や、マイケル・ジャクソンの“Smooth Criminal”などをサンプリングしたケンドリック・ラマーの“King Kunta”あたりが中継点になっていることは明白で、そこから90年代――それはウォーペイントの4人がティーンエイジャーだった時代だが――へと舵を切った結果、頭で考えず、感覚でビートに抱かれることを望んだような作品につながったのではないかと想像できる。歌詞の簡略化……というよりシンプルなラヴ・ソングである“New Song”のようなリリックの曲を億面もなく提示してきていることからも、今の彼女たちが90年代スタイルのドレス・ダウンさせたダンス・ミュージックを体感的に求めていたことがわかるだろう。
しかしながら、ウォーペイントの4人が過去積み重ねてきたキャリアにそっぽを向いているのかと言えば全くそうではない。結果、彼女たちはLAを起点に、様々なエリア、世代、フィールドへとさらに大きなストライドで足をかけることになった。それは、リベラルであることを意味するものであり、決して足下が浮ついていることを意味しているのではない。ヴォーカル/ギターのテレサ・ウェイマンが語る新作にまつわる思惑と手応えは、こちらが想像していた以上に邪気がなく、そして開放的だった。それが、何よりの証拠である。
多分、これまで自分たちにはすごく遠かったポップ・ソングをわざと選んだんだと思う。自分たちにとって心地よい領域ではないことをあえて選ぶ事で、領域を広められるから。
■この1年ほどずっとメンバー個別の活動をしていたことから、次の作品では何か大きく変化が現れるだろうと想像していましたが、思っていた以上に躍動的な方向に舵を切った印象です。あなた自身もホット・チップのメンバーらと新ユニット=BOSSとしてシングル「I'm Down With That/Mr. Dan' I'm Dub With That」をリリースしたり、Baby Alpacaにジョインしたりと活動の幅が広がっています。このような個別のアクティヴィティが今回の新作にどのようなフィードバックをもたらしたと考えますか?
テレサ・ウェイマン(以下、TW):このアルバムの躍動感は、他のプロジェクトから直接的に影響されたものではなくて、前作のアルバムのツアーを終えて、みんなで次はもっとダンス・ミュージックっぽいアルバムを作ろうって決めてたからなの。自然とライヴでやりたい曲がダンス・ミュージックの要素が強い曲だった、と。その方がライヴで演奏する時に楽しいから。でももちろん他のプロジェクトの経験も刺激にはなったと思う。例えば、私がBOSSでリリースした曲は、プロデューサーのダン(Dan Carey)によるゲームみたいなものだったの。彼は、曲作りをする時に、条件を絞って曲作りをさせるんだけど、その狭められた条件の元に曲作りをするのは新しい経験だったし、すごく興味深かった。やれることもテーマもコンセプトも狭められることで、逆にその範囲でできることをより模索するっていう経験にもなった。それからウォーペイントのメンバーのジェン(ジェニー・リー・リンドバーグ)も、自分のソロ・アルバムに関してはあまり深く考えずにその時に感じた事を表現するようなアルバム作りをしていて、すごく衝動的だったみたい。そういう経験をそれぞれしたことで、また作品作りの新たなヒントにもなったし、いいレッスンになった気がする。あまり何かに固執しすぎないようにすることを教えてくれた気がするわ。
■では、最初、あなた自身はこうした個別のアクティヴィティとは別に、このウォーペイントの新作について、どのような作品を目指したいと考えていましたか? 当初思い描いていた予想図を聞かせてください。
TW:コンセプトを持っていたとしたら、もう少しアップビートな作品にするってことくらいかな。今まではずっとBPMを90台に留めていたのよね。98BPMとか。だからそのテンポをもう少しあげて、ダンス・ミュージック要素が強いアルバムにしたかったの。多分、最初に決めてたコンセプトはそれくらいだったかな。決め事とかルールとか基本的に決めないのよね。私たちはいつもその時の衝動に身を任せるっていう方が合ってるから、ルールを決めたりはしないの。それは歌詞に関しても言えることで、テーマとか歌詞のコンセプトも決め込んだりはしない。例えば「このアルバムは失恋アルバムにしましょう!」、「これはラヴ・ソングが詰まったアルバムにしよう!」、「政治的なことを強く主張しよう!」みたいな決まりとかは作らない(笑)。でも今回は「ダンス・アルバム」にすることはキーワードではあったわね。
■では、そうしたキーワードのもと、今作の楽曲がどのような環境で書かれたのかについて聞かせてください。今回のソングライティングはジャム・セッションではなく、個別の作業や、全員で合わせて一度持ち帰る……みたいなやりとりを経ての制作だったそうですね。なぜこうしたスタイルに替えてみたのですか?
TW:最初は個々に始めた感じだったの。当初、2015年を通して、作品をこまめにリリースすることにしようって話をしていたこともあって。1、2曲ずつ作って、その度にレコーディングして、そういう自由な流れに身を任せようって思ってて。結局そうはならなかったんだけど、そのつもりで制作を始めて、お互い自分の自宅のスタジオで制作を始めて、気付いたら2015年の終わりにはアルバムになるような曲数はできあがってた。だから最終的にはそれを仕上げるためにスタジオにみんなで入った。この経験を通して、今まで自分たちが持っていたもので出し切れてなかったものが強調された気がしたの。例えば、私とステラ(・モズガワ)が一緒に曲作りをする時、割とビートとかサンプルの要素が強いエレクトロニックな曲を作る事が多いの。でも全員でセッションで作る時はその要素はあまり出ないのよね。だからもともとお互いが持っていた要素だったとしても、制作の手法によってその要素が前に出なかったりするから、今回こうやって個々に制作を進めたことで、今まで目立たなかった個々の要素がいろんな形で前に出てきた気がする。みんながそれぞれ自分をより出せた気がするわ。
■その結果、機能性の高いダンス・ミュージック的側面を持ったものになったわけですね。では、こうしたスタイルへと向かった理由を教えてください。具体的な参考になったもの、出会い、インスピレーションなどいくつかのキーワード、リファレンスを教えてもらえれば。
TW:正直に言うと、自分たちの影響を伝えるのって実はすごく難しくて。なぜかというと、本当にいろんなことから影響を受け、いろんな影響を表現している気がするから。まして、4人もいるとなるとなおさら。それぞれが個々のアングルから物事を表現していると、あるひとつのアングルから影響を受けたっていうことがない分、影響の幅がすごく広くて。だから例えば、ケンドリック・ラマーやジャネット・ジャクソンっていう名前を出すと、直接的にそういう影響が現れていないかもしれないから、すごく極端に聞こえる気もする。例えば自分の影響を具体的に説明するとしたら、アジーリア・バンクスの“212”という曲にインスパイアされて、私も“So Good”でそのインスピレーションを試してみたりしたの。もちろんすごく違う曲だけど、“212”の曲の構成がすごく珍しくて、その構成と、あのダンス感に聴いた時にすごく動かされるだけに、そういうアプローチを試してみたかった。すごくポップでとっかかりやすいけど、オーソドックスではない曲を作ってみたかったってわけ。あと、“New Song”はダフト・パンクの“Get Lucky”に影響を受けたの。実は、私たちのマネージャーはミュージシャンでもあるんだけど、彼からの提案もあった。すごく分かりやすいポップ・ソングを研究して、なんでその曲がポップなのか、どこが突き刺さるのかを理解して、それを自分たちも取り入れてみようって。多分、これまで自分たちにはすごく遠かったポップ・ソングをわざと選んだんだと思う。自分たちにとって心地よい領域ではないことをあえて選ぶ事で、領域を広められるから。実際にステラはアルバム製作中によくジャネット・ジャクソンを聴いていたんだけど、その時にすごく感じたのが、90年代のああいうポップ・ソングは、プロダクションがガヤガヤしていなくて、今聴いてもすごく美しいってこと。だから改めてそういう音楽を聴いて、それに気づけたことは、すごく啓発的でもあった。
■確かに、ダンス・ミュージック・オリエンテッドな側面から見ても、あるいはオルタナティヴ・ロックなサウンド・プロダクションから見ても、全体的に90年代をひとつのキーワードにしている印象です。なぜ今、ウォーペイントが90年代なのでしょうか?
TW:私たちが影響されたものの多くがその時代のものなのは事実。人生の中でいちばん影響を受けた音楽はやっぱり90年代だと思う。その時私たちは10代、音楽をたくさん聴く中で、音楽が本当に大好きだって気づいた時代でもあるの。だから、いつもその時代の音楽には共感できるし、それは私だけじゃなくて、メンバー全員がそうだと思う。だから自分たちが90年代を狙って作った作品ではないけど、人が聴いた時にそう感じるのは、自分たち自身がその時代を生きて、自分たちの中に染みついているからだと思う。みんなアウトキャスト、ポーティスヘッド、ビョーク、トリッキー、マッシヴ・アタック、ザ・キュアーが大好き。ザ・キュアーに関しては80年代も入っているかもしれないけど……自分たちの青春時代なだけに、やっぱり刻み込まれている感じはするわね。
質問・文:岡村詩野(2016年11月01日)
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