Home > Reviews > Album Reviews > Mo Kolours- Texture Like Sun
民族音楽をモチーフとするアーティストはクラブ・ミュージックの世界にも数多い。アフリカ音楽やラテン、ブラジリアンなどにかぎらず、たとえばレゲエやダブもその一種と捉えるなら、ダンス・ミュージックには民族音楽が多大な影響を与え、それが舞踏性を導き出しているとも言える。クラブ・ジャズと呼ばれるものも、実際にその多くは民族音楽と結びついていた。近年はクラブ・ミュージック界でも非西欧圏の音楽にスポットが当てられる機会が格段に増え、いままではほとんどワールド・ミュージックのマニアや好事家たちの間でしか知られていなかったレア盤が復刻されている。十数年前はアフロと言えばフェラ・クティ一辺倒だったが、いまはそのヴァラエティの豊かさに圧倒されるだろう。そうした状況下ではあらゆる角度から民族音楽の解釈を行うアーティストがおり、パッと思いつくだけでもオン・ラ、フォー・テット、ルチアーノ、マーラなど、いろいろなジャンルに跨っていることがわかる。そうした中でクラップ・クラップとモー・カラーズは、民族音楽とクラブ・サウンドの融合に成功した近年のアーティストの筆頭と言えるだろう。
モー・カラーズことジョセフ・ディーンマモードは、南ロンドン出身のシンガー/パーカッション奏者/ビートメイカーだ。イギリスの植民地だったアフリカのモーリシャス共和国出身の家系だが、モーリシャスは地理的にはインド洋上に位置し、アフリカ、アラブ、インド文化が結び付いた独特のカラーを持つ。モー・カラーズはそうした自身のルーツ・ミュージックと、ヒップホップをはじめとしたビート・ミュージック、ダブ、さらにビートダウンなどを融合し、2011年に『EP1:ドラム・トーキング』でデビュー。マッドリブやラスGからセオ・パリッシュまでを結び、そこにパーカッシヴで瞑想的なインド~アラブ・テイストを交えたような音楽性で、収録曲の“ビッディーズ”などが評判を呼んだ。その後2012年に“キープ・イット・アップ”などを含む『EP2:バナナ・ワイン』、2013年に『EP3:タスク・ダンス』、そして2014年にファースト・アルバムを発表している。これらはすべてポール・ホワイトやブリオンらが所属する〈ワン・ハンディッド・ミュージック〉からのリリースで、現在はレーベルを代表する筆頭アーティストとなった。ちなみに兄弟のレジナルド・オマス・マモード4世もサウンド・クリエイターとして活動しており、2014年に両者でスプリットEPを出したこともある。
そんなモー・カラーズの約1年ぶりのセカンド・アルバムが、本作『テクスチャー・ライク・サン』だ。今回も〈ワン・ハンディッド・ミュージック〉からで、いままでのEPやファースト・アルバムの路線を踏襲しており、音楽的にはさほど大きな変化は見られない。全部で19曲収録し、それぞれ10秒未満から長くても3分少々といった短い曲やインタールードを繋いだもので、一種のラジオ的な作りになっている点もファースト同様だ。このあたりはラスGの諸作やオン・ラの『シノワズリ』あたりを意識したコンセプトだが、ファーストよりさらにSEやスキットの分量が増えた印象がある。冒頭の“ポッツ・アンド・パンズ・セレモニアル・イントロ”では日本の雅楽のような音色も流れ、彼なりに世界のさまざまな民族音楽、ルーツ・ミュージックをこの1年でさらに深く、広く探求していることがうかがえる。“キープ・クール”に見られるレゲエ・フィーリングはますます快調で、“パス・イット・ラウンド”でのポエトリー・リーディングはまるでムタバルーカのよう。一方、「パラダイス」ではムーディーマン的なゲットー感覚が冴えている。“ハーヴェスト”ではアイズレー・ブラザーズをサンプリングし、ソウルやファンクに対する愛情が見え隠れする。モー・カラーズの音楽性ではソウルも大きな柱で、“ア・ソウルズ・ジャーニー”もその代表。口笛混じりの“ドント・ポイズン・オール・ザ・ウォーター”にも、アイズレーやビル・ウィザーズのようなソウルフルなフィーリングが流れる。アルバムの中間では“ファインド・アウト・ワット・ユー・ウォント”や“ブレス”などダウナーなフィーリングに覆われ、そこから一転してメロウでどこかノスタルジックな味わいの“オルファンズ・ラメント”へと変わる構成の妙。ちなみにこの曲はモンゴル民謡にインスパイアされ、ピースフルなムードとは裏腹に辛辣な嘆きのメッセージを持つ。こうした曲に見られるように、アルバム全体としては環境汚染などに対する批判が込められたものとなっている。
そして、表題曲は副題に「ゴールデン・ブラウン」とあるようにストラングラーズのカヴァー。ハープシコードを使ったこのワルツ曲は、ストラングラーズにとっても最大のヒットとなった1981年度作品だが、後にいろいろな人がカヴァーしており、個人的には1997年にオマーがやったヴァージョンが印象的だった。ストラングラーズ、オマーと英国を代表するアーティストによる、極めて英国らしいメランコリックな味わいのナンバーだが、それをミニマルでドープなビート・ミュージックへ大きく変換する一方、モー・カラーズ自身の歌を前面に打ち出した点は原曲に対するリスペクトの表れなのだろう。ストラングラーズに代表されるパンクの精神が、いまもモー・カラーズのようなイギリスの若いアーティストの中に存在している証でもある。
小川充